2015年7月23日木曜日

川崎健次長の重き罪 日経「会計問題、身構える市場」

「デスクがこんな記事を書いていて大丈夫なのか。証券部の記者は川崎健次長の指示を真面目に聞く気にならないんじゃないか」と思わずにはいられなかった。23日の日経朝刊マーケット総合1面に載った「スクランブル ~会計問題、身構える市場  『利益の質』で投資先選別 」という記事には驚くようなことが書いてある。それは記事の後半に出てくる。

オランダのユトレヒト  ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

アクルーアルは「不透明な会計処理や粉飾会計を見抜くためにも利用される」(UBS証券の大川智宏氏)。東芝の会計問題の波紋が広がる中でアクルーアルが高い企業(利益の質が低い企業)の株価は6月以降、マイナスで推移する。投資家がそうした銘柄を避けている結果が、株価に表れているわけだ。

その逆もしかりだ。アクルーアルが低い企業は現金収入の裏付けのある健全な利益を上げている企業。りそな銀行株式運用室の南聖治氏は「投資先のクオリティーを測る際には必ず参照する」と話す。こうした投資家の資金が集中し、「低アクルーアル企業」の株価が高いパフォーマンスを上げているのが今の市場だ。

問題は、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)と違って、このアクルーアルという指標には株価に関する情報が含まれていない点だ。今の株価が高いか安いかを全く判断できないため、質の高い銘柄がいつまでも上がり続け、逆の銘柄がずっと放置される事態を助長してしまう

きらりと光る割安銘柄を掘り起こし、いくら優良でも高すぎる銘柄は売却する――。そんな株式投資の基本原則が働きづらいマーケットを招いたとすれば、東芝問題の罪は重い


「アクルーアル」とは「会計上の利益とキャッシュフローの差額」で、これを取り上げたのは問題ない。しかし、アクルーアルが重視されると「今の株価が高いか安いかを全く判断できないため、質の高い銘柄がいつまでも上がり続け、逆の銘柄がずっと放置される事態を助長してしまう」というのは妄想の類だろう。

「アクルーアルが低い企業は際限なく買えるし、逆の場合はひたすら売りだ」と考える投資家はまずいない。しかし川崎次長は「株価水準を考慮せず、アクルーアルだけを見て判断する投資家が相場を動かしている」と判断しているようだ。ちょっと考えれば、そうではないと分かるのではないか。

記事には「『低アクルーアル企業』は株価がおおむね堅調に推移」というタイトルを付けた表が載っている。これを見る限り、アクルーアル比率が同じKDDIと日ガスの株価騰落率(4月3日以降)は10.5%と44.0%。大きく差が開いている。キヤノンに至っては騰落率マイナス9.4%で、アクルーアル比率で見劣りするテンプHD(プラス30.7%)に大負けしている。これだけ見てもアクルーアルだけで株価が動いていないのは明白だ。

株価に関する情報が含まれていない」指標が重視されると「株式投資の基本原則が働きづらいマーケット」になってしまうのならば、川崎次長も過去に記事で書いていた「ROE革命」は好ましくない動きだろう。ROEも算出に株価は必要ない。しかし、株式市場でROE重視の傾向が強まると、本当に「株式投資の基本原則が働きづらいマーケット」になるのか。

答えは言うまでもない。推測するに、東芝の不適切会計問題と関連付けた関係で「東芝問題の罪は重い」と結論付けたかったのだろう。そのため、後付けで理屈を考えてしまい、おかしな展開になってしまったのではないか。

とは言え、株式市場の取材経験は十分にあるのだから、川崎次長に弁解の余地はない。「デスクは現場の記者より経験や知識が豊富で、記事を書けばその高い完成度で記者たちをうならせてくれる。そんな現場の期待を壊してしまったとすれば、川崎健次長の罪は重い」--。今回の「スクランブル」を模して言えば、こんなところだろうか。

※記事の評価はD(問題あり)、川崎健次長の評価もDとする。

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