2015年7月25日土曜日

基礎力不足の日経 土居倫之記者「アジアラウンドアップ」

新聞を開いたらすぐに「戻し基調」という見出しが目に入った。「えっ、『戻し基調』? 『戻り基調』じゃなくて…」。改めて見直しても、やはり「戻し基調」だ。24日の日経夕刊マーケット・投資2面の「アジアラウンドアップ 上海  株価対策が奏功、戻し基調」という記事は、見出し以外にも基礎的な問題点が多い。以下が日経に送った問い合わせの内容だ。


【日経への問い合わせ】
オランダのユトレヒト大学博物館(黄色の看板の建物)
                  ※写真と本文は無関係です

見出しが「株価対策が奏功、戻し基調」となっていますが、相場に関して「戻し基調」とはまず言いません。「戻り基調」の誤りではありませんか。また、記事中の「成長率は7%増」という表現も不自然です。「成長率は7%」「GDPは7%増」などとすべきでしょう。


筆者の土居倫之記者、国際部の担当デスク、整理部の担当者と担当デスク、記事審査部の担当者と担当デスクへこの問い合わせを届けてくれるように要請しておいた。これまでのパターンに倣えば、日経から回答はないはずだ。それでも、記事作成に関わった人たちへ指摘が届けば、紙面の質向上に役立つのだが…。

では、記事の問題点を列挙していこう。


◎公安当局による「悪意のある空売り」?

【日経の記事】

23日のアジア株式相場は下落が目立ったが、中国では上海株式相場が6日連続で上昇した。中国政府の一連の株価対策が奏功し、個人投資家のパニック売りは収束している。政府系証券金融会社による株式買い入れなどが下支えし、上海株式相場はじわじわと値を戻している。

上海総合指数の23日終値は前日比2.43%高の4123だった。上海株総合指数は8日に終値で3507まで急落した。その後は公安当局による「悪意のある空売り」の取り締まり政府系証券金融会社の中国証券金融による株式買い入れにより、弱気ムードに傾いた投資家心理が改善に向かっている。


まず「悪意のある空売り」を公安当局がしているとも取れる書き方は避けたい。この場合、「『悪意のある空売り』に対する公安当局の取り締まり」と直せば問題は解消する。

政府系証券金融会社による株式買い入れなどが下支えし~」「政府系証券金融会社の中国証券金融による株式買い入れにより~」と繰り返しているのも無駄だ。「上海株式相場が6日連続で上昇した」と「上海株式相場はじわじわと値を戻している」も似たような内容の繰り返しになっている。

最初の段落で「上海株式相場はじわじわと値を戻している」と書いて、最後の段落で「上海総合指数がじわじわと値を戻す」と似た表現を用いているのも感心しない。もう少し工夫が欲しい。


◎「成長率は7%増」?

【日経の記事】

国家統計局が発表した2015年4~6月期の実質国内総生産(GDP)成長率は7.0%増と市場予想(6.9%)を上回った。この結果、中国株高の一因となっていた金融緩和期待は後退している。

「10.0%」だった成長率が「10.7%」になったのならば、「成長率は7%増」でもいいだろう。しかし、上記の場合は「成長率は7%」とすべきだ。マイナス成長でないと強調したいならば、「成長率はプラス7%」とする手もある。


◎いきなり「上海・深圳46社」?

【日経の記事】

金融緩和を含む一連の株価対策が一巡するなかで、上海株式市場では、企業業績に対する注目度が改めて高まっている。15年1~6月期決算は8月末までに開示が必要となる。23日までに15年1~6月期決算を発表した上海・深圳46社の純利益は前年同期比35%増だった。

いきなり「上海・深圳46社」では、さすがに分かりづらい。例えば「上海・深圳の両取引所に上場する企業のうち、23日までに15年1~6月期決算を発表した46社の~」としてあげると、中国株に詳しくない読者でも理解しやすくなる。「上海・深圳46社」という表記には「自分が分かっていることは読者も分かっているはずだ」との誤った前提を感じてしまう。


◎無駄が多い

【日経の記事】

ただ中国政府の株価対策で相場を無理に押し上げた結果、上海株は再び割高感が強まっている。上海・深圳の中国本土株と香港株の重複上場銘柄の株価を比較するハンセン中国AHプレミアム指数は、3日の取引時間中に122まで一時低下する場面があった。ところが上海株式相場の回復で、足元では140前後まで再び上昇している


「場面があった」を入れるならば「一時」はなくてもいい。他にも上記のくだりは無駄な表現が多い。改善例を示してみる。


【改善例】

ただ、政府の株価対策で相場を無理に押し上げた結果、上海株は再び割高感が強まっている。中国本土と香港に重複上場する銘柄の株価を比較するハンセン中国AHプレミアム指数は、3日に一時122まで低下した。ところが上海株式相場の回復で、足元では140前後まで戻している。


情報量はほとんど変化させずに、文字数を減らしているはずだ。どちらが簡潔で読みやすいか、比べてほしい。


◎「PKO」は必要?

【日経の記事】

また上海株式市場では、上海総合指数がじわじわと値を戻すにつれて、中国政府が一連の株価対策をいつ取りやめるかが議論されている。投資家は中国政府の株価維持政策(PKO=プライス・キーピング・オペレーション)の担い手である中国証券金融の動向に神経質になっている。


これも無駄が多い。特に「PKO」は必要ない。改善例を示してみる。


【改善例】

また、相場がじわじわと値を戻すにつれて、上海株式市場では一連の株価対策を止める時期に関心が集まってきた。投資家は中国政府の株価対策の担い手である中国証券金融の動向に神経質になっている。


改善例が絶対に優れているとは言わない。ただ、「簡潔に書こう」という意思が記事からは伝わってこないのが残念だ。今からでも遅くはない。執筆の際には簡潔な表現を心がけてほしい。


※記事の評価はD(問題あり)、上海支局の土居倫之記者の評価も暫定でDとする。土居記者には記事の書き方の基礎的な技術が身に付いていないと思える。これは記事を担当したデスクにも言えることだ。

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