2017年4月29日土曜日

日経「慶応大学は大阪弁で」に感じる門井慶喜氏の誤解

作家の門井慶喜氏がどういう人物か知らないが、28日の日本経済新聞夕刊ナビ面に載った「プロムナード~慶応大学は大阪弁で」という記事は、歴史的な事実に基づいて書いているのか不安になる内容だった。「ざっくり言うと、慶応大学は、大阪弁でつくられた大学なのだ」と門井氏は教えてくれるが、どうも怪しい。
田主丸大塚古墳(福岡県久留米市)
        ※写真と本文は無関係です

記事に疑念を抱いたのは冒頭部分からだ。

【日経の記事】

慶応大学はいまの日本でもっとも都会的な感じがする大学のひとつだが、その創立者・福沢諭吉は大阪弁だった。


◎大阪弁は「非都会的」?

上記の書き方からは「大阪弁≠都会的」との前提を感じる。しかし、大阪(少なくとも大阪市)は疑う余地のない大都会だ。門井氏は「都会=東京」とでも思っているのだろうか。

さて、問題の部分を見ていこう。

【日経の記事】

もともと大坂の生まれなのである。諭吉の父は豊前中津藩の下級藩士だが、鴻池、加島屋(かじまや)といったような豪商に藩が莫大な借金をしている、その事務のため、ながらく大坂の蔵屋敷に勤番していた。この父は、諭吉が3歳のときに病死した。

一家そろって中津へ帰ると、中津の人が、

「そうじゃちこ」

と言うところを、福沢家の人々は、

「そうでおます」

と言ったので話が通じなかったと諭吉自身、のちに『福翁自伝』で回想している。あるいは諭吉少年はいじめられたかもしれない。青年となり、ふたたび大坂へ出て緒方洪庵の適塾に入ったときのあの魚が水を得たような生活ぶりは、むろん向学心もあったにしろ、一種、帰郷のよろこびも大きかったのではないか。ざっくり言うと、慶応大学は、大阪弁でつくられた大学なのだ


◎「慶応大学は、大阪弁でつくられた」?

福沢諭吉が生涯のほとんどで大阪弁を話していた、あるいは慶應義塾を創立した時に大阪弁を話していたのなら「ざっくり言うと、慶応大学は、大阪弁でつくられた大学なのだ」との説明でよいだろう。だが、門井氏の説明ではよく分からない。「中津ではずっと大阪弁で通したのか」「適塾時代は大阪弁だったのか」「東京(江戸)でも大阪弁だったのか」といった疑問が残る。
九州大学伊都キャンパス(福岡市西区)
         ※写真と本文は無関係です

福澤研究センター 都倉武之が語る 福澤展のツボ~方言と福澤諭吉」という記事によると「福澤は再び大阪に出て適塾に学びます。この頃福澤がどんな言葉を遣っていたのかは、よくわかりません」となっている。江戸・東京での言葉については以下の記述がある。

福澤の後半生はもっぱら江戸・東京生活です。自然東京の言葉になじんだ福澤は、大工さんなどに親しみ、かなりきつい『べらんめえ』でしゃべることもあったと伝えられています。そのあげく、口癖は『途方もねえ』だったとか

この説明が事実ならば「ざっくり言うと、慶応大学は、大阪弁でつくられた大学なのだ」と言うには程遠い。とりあえず「慶応大学は、大阪弁でつくられた大学」だとは思わない方が無難だ。


※今回取り上げた記事「プロムナード~慶応大学は大阪弁で
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170428&ng=DGKKZO15862730Y7A420C1NZ1P00


※記事の評価はD(問題あり)。門井慶喜氏への評価も暫定でDとする。


※今回参考にした資料「福澤研究センター 都倉武之が語る 福澤展のツボ~方言と福澤諭吉
http://keio150.jp/fukuzawa2009/blog_t/2009/05/post-f58c.html

2017年4月28日金曜日

日経「Q&A~高齢者のがん、治療指針なぜ作成」にも残る疑問

27日の日本経済新聞朝刊1面の「高齢者のがん治療に指針 厚労省、抗がん剤に頼らぬ選択肢」という記事に続いて、28日の朝刊経済面でも「Q&A~高齢者のがん、治療指針なぜ作成 オプジーボ登場、国の財政に影響」との解説記事を掲載していた。詳細に報じようとする姿勢は評価できるが、この記事にも疑問は残る。
久留米大学医療センター(福岡県久留米市)

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

厚生労働省は高齢のがん患者を治療する際の指針(ガイドライン)の作成に乗り出す。治療データの大規模な調査により、抗がん剤を投与した場合の延命効果などを検証し指針に反映する。世代を限った治療方針を初めて検討する背景には何があるのか。

Q なぜ新たに指針を作成するのか。

A 国の財政に影響を与える抗がん剤が登場したことが一つのきっかけだ。2014年に承認された抗がん剤「オプジーボ」は年1兆7500億円必要との試算も出た。効く患者と効かない患者もいる中、医療現場で「どこまで高額の抗がん剤を使っていいのか」と悩む声も出ているからだ。

Q 対象を高齢者にした理由は。

A 若い世代に比べ高齢者は体力の衰えなどで亡くなってしまうこともあり、抗がん剤による延命効果は低くなるもし延命効果がなければ患者の生活の質(QOL)を上げるため苦痛を和らげる緩和ケアという選択肢もあるためだ。

Q どうやって調べるのか。

A 新たに高齢者を対象にした臨床試験で結果を得るには数年以上かかる。国立がん研究センターがこれまで治療した高齢者約1500人の蓄積データを分析したが、がん種別では対象人数が少なく延命効果を確認できなかった。そのため膨大なデータを遡り大規模調査に乗り出すことになった

Q 患者にはどんな影響があるのか。

A 延命効果がなければ高額の抗がん剤を保険適用で使えなくなる可能性がある。財政が限られる中、医療費の削減につながるメリットはあるが英国でも年齢による抗がん剤の使用制限を持ち出した際、患者などから大きな反発があった。今後、大規模調査の結果と厚労省が策定する指針は大きな議論を呼びそうだ。


◎話が変わっているような…

27日の1面の記事では「 厚生労働省は高齢のがん患者を治療するときの指針(ガイドライン)を新たに作成する。患者が少しでも希望する暮らしを送れるように、抗がん剤を過度に使わず、痛みや苦しみを和らげる治療を優先することを選択肢として示す方向だ」と書いていた。しかし、今回の「Q&A」では少し話が変わっている。
流川桜並木(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

今回は「国の財政に影響を与える抗がん剤が登場したことが一つのきっかけだ。2014年に承認された抗がん剤『オプジーボ』は年1兆7500億円必要との試算も出た」と書いている。1面の記事では「患者が少しでも希望する暮らしを送れるように」と厚生労働省が患者本位で考えているような印象を与えていた。実は「国の財政」への影響を抑える方策なのか。だとすると、1面の記事の報じ方に問題を感じる。


◎「オプジーボ」問題と分けて考えないと…

さらに言えば、「オプジーボ」などの免疫チェックポイント阻害薬と、それ以外の抗がん剤(ここでは「従来型抗がん剤」と呼ぶ)は分けて考えないと意味がない。理由は2つある。前提として、従来型抗がん剤は効果があるかどうか微妙だが、免疫チェックポイント阻害薬は効く人には効くとしよう。

従来型抗がん剤に延命効果が認められないとしても、免疫チェックポイント阻害薬は別だ。効く人には効くのだから、患者本位で考えれば緩和ケアを中心に据える必要はない。「あまりに高額なので、財政負担の面から一定以上の年齢の人には保険適用を認めない」という考え方は一理ある。しかし、従来型抗がん剤の効果の乏しさを根拠に免疫チェックポイント阻害薬の使用を制限するのは無理筋だ。

2番目の理由は、免疫チェックポイント阻害薬に関するデータが乏しいことだ。記事によると「抗がん剤を投与した場合の延命効果などを検証し指針に反映する」らしい。どうやって検証するかと言うと「新たに高齢者を対象にした臨床試験で結果を得るには数年以上かかる」との理由で、「膨大なデータを遡り大規模調査に乗り出す」という。つまり既存のデータを活用するわけだ。

しかし「オプジーボ」は「2014年に承認された」ばかりだ。保険適用となるがんの種類が増えていくのもこれからだ。なので、いくら過去の「膨大なデータ」を遡っても、延命効果に関する有用な情報は得にくい。仮に得られるとしても、わずかな種類のがんにとどまるはずだ。


◎既に「延命効果」は分かってる?

今回の解説記事でもう1つ気になった点がある。「若い世代に比べ高齢者は体力の衰えなどで亡くなってしまうこともあり、抗がん剤による延命効果は低くなる」という説明だ。この書き方だと、各年代で抗がん剤がどの程度の延命効果を持つのか分かっているよう印象を受ける。だとすると、改めて「大規模調査に乗り出す」必要はない。
矢部川沿いの桜(福岡県八女市)※写真と本文は無関係です

しかし、記事では「もし延命効果がなければ」と続けている。だとすると必ずしも「延命効果」は確認できていないことになる。

「60代以下には延命効果があり、70代以降では下がると確認できている。ただ、70代以降でも効果があるかどうかは確認できていない」ということであれば、記事の説明でも問題ない。だが、現実的にはちょっと考えにくい。

今回のガイドライン作成は結局、オプジーボ問題を受けた医療費抑制が目的なのだろう。その狙いをぼかそうとして「患者の生活の質(QOL)を上げるため苦痛を和らげる緩和ケアという選択肢」といった話を厚生労働省が持ち出しているのではないか。

だからと言って記者が厚労省と歩調を合わせる必要はない。オプジーボ問題(医療費の問題)を抗がん剤の延命効果の問題とごちゃ混ぜにせず、きちんと分けて議論が進むように記事を書いてほしい。


※今回取り上げた記事「Q&A高齢者のがん、治療指針なぜ作成 オプジーボ登場、国の財政に影響
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170428&ng=DGKKZO15852730X20C17A4EE8000


※記事の評価はC(平均的)。27日朝刊1面の「高齢者のがん治療に指針 厚労省、抗がん剤に頼らぬ選択肢」という記事に関しては以下の投稿を参照してほしい。

色々と疑問浮かぶ日経1面「高齢者のがん治療に指針」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_27.html

2017年4月27日木曜日

色々と疑問浮かぶ日経1面「高齢者のがん治療に指針」

27日の日本経済新聞朝刊1面に載った「高齢者のがん治療に指針 厚労省、抗がん剤に頼らぬ選択肢」という記事には色々と疑問を感じた。まず記事の最初の段落を見てみよう。
福岡大学病院(福岡市城南区)

【日経の記事】 

 厚生労働省は高齢のがん患者を治療するときの指針(ガイドライン)を新たに作成する。患者が少しでも希望する暮らしを送れるように、抗がん剤を過度に使わず、痛みや苦しみを和らげる治療を優先することを選択肢として示す方向だ。厚労省が世代を限った治療方針を検討するのは初めて。膨らむ医療費の配分を巡る議論にも影響を及ぼしそうだ。(関連記事を社会1面に)


◎これまでは「抗がん剤を過度に」使用?

記事によると、厚労省は「抗がん剤を過度に使わず、痛みや苦しみを和らげる治療を優先することを選択肢として示す方向」らしい。裏返せば、現状では「抗がん剤を過度に使う治療」しか選択肢がないことになる。だが、本当にそうなのか。医師も患者も「抗がん剤を過度に使わず、痛みや苦しみを和らげる治療を優先する」選択はできるはずだが…。これは書き方が上手くないのだろう。

記事の続きは以下のようになっている。

【日経の記事】

同省は今後6年間のがん対策を示す「第3期がん対策推進基本計画」を今夏にもまとめる。新指針の検討が柱の一つだ。

厚労省は指針を作るため、国立がん研究センターが27日に公表する調査結果を参考にする。同センターは70歳以上で進行がんの患者約1500人を調べ、抗がん剤を投与した患者としなかった患者で数年後の生存率を比べた。

調査の結果、一部のケースでは生存率に違いはないとの結果が出ている。ただ、信頼できるデータを得るには調査を広げる必要もある

抗がん剤の治療を続けるのか、生活の質(QOL)を優先した治療をするのかは難しい判断となる。これとは別に、厚労省は認知症を発症したがん患者の意思決定を支える仕組みも検討する。


◎信頼できない「調査結果」を参考にする?

厚労省は指針を作るため、国立がん研究センターが27日に公表する調査結果を参考にする」という。一方で「信頼できるデータを得るには調査を広げる必要もある」とも書いている。つまり、信頼できるデータが得られていない「調査結果を参考に」して、「指針を作る」わけだ。国民の命に関わる「指針」を作るのに、信頼できないデータに基づいて方針を決めてよいのか。記事はそこを問題にしていない。
今川(福岡県行橋市)※写真と本文は無関係です

社会面の関連記事では以下のように解説している。

【日経の記事】

国立がん研究センターによる抗がん剤の延命効果の研究は「統計的に意味のある結果を得ることができなかった」と結論づけたが、厚生労働省は高齢のがん患者の治療方針策定に向け動き出した。今後の高齢者のがん治療のあり方に一石を投じそうだ。(1面参照)

研究はがんが進行した高齢の患者の適正な治療を検証するため、経済産業省などが参加するAMED(日本医療研究開発機構)が依頼した。

同センターは2007~08年に同センター中央病院を受診した約7千人のうち、70歳以上の高齢患者約1500人の登録データを抽出。抗がん剤を投与した場合と、投与せず緩和治療に重点を置いたケースで比べた。

肺がんや胃がん、大腸がんなどに分けて調べ、「抗がん剤に延命効果がない」とみられる結果も一部で出たが、人数が少ないなど統計的な差があるとは言えない結果となった。同センターは大規模な調査や、情報を集める仕組みが必要とした。


◎色々と気になる点が…

1面と社会面の記事を併せて読むと、さらに疑問が浮かんでくる。列挙してみたい。

(1)やはりあった「抗がん剤に頼らぬ選択肢」

記事によると、国立がん研究センターの研究は「抗がん剤を投与した場合と、投与せず緩和治療に重点を置いたケースで比べた」ものだ。つまり「同センター中央病院を受診した」がん患者の中に「投与せず緩和治療に重点を置いたケース」が既にある。なのに厚労省が「痛みや苦しみを和らげる治療を優先することを選択肢として示す」必要はあるのか。必要だと言うのならば、その理由を解説してほしかった。


(2)「統計的な差があるとは言えない結果」ならば…

個人的には、免疫チェックポイント阻害薬など一部を除くと抗がん剤を使う意味はほとんどなく、害の方が多いと感じている。記事によると「『抗がん剤に延命効果がない』とみられる結果も一部で出たが、人数が少ないなど統計的な差があるとは言えない結果となった」という。つまり、抗がん剤の有効性も確認できなかったことになる。重篤な副作用が出るリスクと引き換えに、有効性が疑わしい抗がん剤での治療を受けているのが現状だと思うと怖い。


(3)「70歳未満」も同じことでは?

抗がん剤の延命効果が疑わしいから「痛みや苦しみを和らげる治療を優先することを選択肢として示す」場合、「70歳以上」に限定する意味があるのか。70歳未満ならば抗がん剤治療は高い効果が見込めるというならば分かる。だが、そうは書いていない。70歳以上に効果がないなら70歳未満でも似たような結果が出そうな気がするが…。


※今回取り上げた記事

高齢者のがん治療に指針 厚労省、抗がん剤に頼らぬ選択肢」(1面)
 http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170427&ng=DGKKZO15800570X20C17A4MM8000

がん治療のあり方に一石 厚労省、指針策定へ 高齢者の延命、検証必要」(社会面)
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170427&ng=DGKKZO15795700W7A420C1CR8000


※記事の評価はC(平均的)。

2017年4月26日水曜日

積み立て型NISAで業界側に立つ日経 川上穣記者

26日の日本経済新聞朝刊 金融経済面に載った「Behind the Curtain~積み立て型NISAの舞台裏 金融庁と業界にすきま風 『担い手不在』の恐れ」という記事では、筆者である川上穣記者の業界寄りの姿勢が気になった。金融業界への配慮を欠けば「担い手不在」に陥りかねないと川上記者は警鐘を鳴らすが、「担い手不在」にはなりそうもない。仮になるとしても、投資家にとって有害な「担い手」ならば「不在」の方が好ましい。
筑後川沿いの菜の花(福岡県うきは市)
   ※写真と本文は無関係です

記事の中身を見ていこう。

【日経の記事】

2018年1月から導入される積み立て型の少額投資非課税制度(NISA)。この裏側で金融庁と運用・証券業界の間にすきま風が吹いている。当局は「顧客を最優先すべし」として、手数料が特別低い投資信託だけを「適格」とする異例の対応に出た。これに対し業界側は一定の利潤が出なければビジネスにならないと反発を強めている。新制度はスタート前から「担い手不在」となるリスクを抱え込んだ

 「手数料獲得が優先され、顧客の資産を増やせないビジネスを続ける社会的価値はあるのか」。日本証券アナリスト協会が7日に都内で開いたセミナー。金融庁・森信親長官のわずか20分の基調講演が、足を運んだ業界関係者を凍り付かせた。

不満は金融庁が決めた積み立てNISAの対象投信の条件にあらわれている。販売時の手数料が無料、毎月分配型を除くといった内容で絞り込むと公募投信約5400本のうちわずか50弱(1%未満)しか合致しない。

大半は株価指数に連動した低コストのインデックス投信で、アナリストの丹念な企業分析を通じて市場平均を上回る運用成績を目指すアクティブ型は5本しかなかった。「アクティブ投資の死を宣告されたようなものだ」。ある外資運用大手の幹部はこう憤る。



◎「アクティブ投資の死を宣告されたようなもの」?

アクティブ投資の死を宣告されたようなものだ」というコメントがまず大げさだ。50弱の投信のうち「5本」はアクティブ型のようだし、販売手数料をなくしてアクティブ型をこれから増やす手もある。そもそも「積み立てNISA」だけがアクティブ投資の舞台ではない。素晴らしい投資商品ならば、「積み立てNISA」の対象でなくても買い手はいくらでもいるはずだ。

そんなことは川上記者も分かっているはずだ。なのに、この手のコメントを記事に入れてしまうところに業界の代弁者的な雰囲気を感じる。

続きを見ていく。

【日経の記事】

積み立てNISAは年40万円の投資額を上限に、運用で得られる配当や売却益を20年間非課税にする。若年層の資産形成を促すうえでカギとなる制度といえる。

国内証券大手の幹部は長期運用に低コスト投信が適していることは認めつつも、「ここまで厳しくすると誰も本気でやらなくなってしまう」と懸念を示す。



◎「長期運用に低コスト投信が適している」のならば…

長期運用に低コスト投信が適している」のならば、金融庁の方針通りで問題はないはずだ。上記のくだりからは「業界のやる気を出させるために、業界にとっておいしい(投資家にとっては問題の多い)商品も対象にするべきだ」との川上記者の気持ちが伝わってくる。その根拠は「担い手不在の恐れ」だろう。だが、そんな恐れがあるとも思えない。
城南高校(福岡市城南区)※写真と本文は無関係です

記事では以下のように書いている。

【日経の記事】

「積み立てNISAは黒字がほとんど出ない」。制度のスタート前から業界には早くも冷めたムードが漂う。販売時の手数料も取れないだけに利用者の開拓には「対面型の大手証券や地銀は動かず、低コスト体質のネット証券に『丸投げ』の形になってしまうのではないか」。楽天証券経済研究所の篠田尚子氏は制度の普及に懐疑的だ。

◎ネット証券任せでいいのでは…

記事では「低コスト体質のネット証券に『丸投げ』の形になってしまうのではないか」というコメントを紹介している。ネット証券任せでいいではないか。川上記者は「担い手不在」を心配しているようだが、ネット証券は「担い手」ではないのか。問題の多い「担い手」ならばいない方が好ましい。「対面型の大手証券や地銀」が販売手数料を得る道具として積み立てNISAを使わせる必要はない。

一応、川上記者も業界の問題点には触れている。記事の終盤も見ておこう。

【日経の記事】

もっとも、金融庁が指摘するように日本の投信が高コスト体質だったのは事実だ。新興国投資などはやりのテーマで投信を新規に設定しては、個人マネーを移し替える「短期志向」が幅を利かせてきた過去もある。

「投資家が選べる商品の幅を広げることが制度の発展に重要だ」。日本証券業協会の稲野和利会長は19日の定例会見で積み立てNISAについて言及した。投資初心者も経験を積むなかで投資への知識を深めていく。非課税期間の長さを考えるなら幅広い品ぞろえは欠かせないという考えだ。

日本の長年の課題である「貯蓄から投資」を実現するには、当局と運用業界が足並みをそろえる必要がある。両者がそっぽを向いたままでは積み立てNISAの普及はおぼつかない。



◎経験を積むと低コストから離れる?

投資初心者も経験を積むなかで投資への知識を深めていく」のは、その通りだろう。だが、その時に「販売時の手数料」を取る「毎月分配型」の投信などが選択肢として必要になるだろうか。「投資家が選べる商品の幅を広げることが制度の発展に重要だ」と業界関係者が主張するのは分かる。問題なのは、川上記者がその主張に寄り添っている点だ。

個人的には「貯蓄から投資」を推進する必要はないと思っているが、百歩譲って日本にとって必要なものだとしよう。だが「貯蓄から投資」とは、投資家の利益を犠牲にして金融業界を潤わせてまで実現すべきものなのか。「貯蓄から投資」を本気で実現したいのならば、業界ではなく投資家の利益を優先して制度設計すべきだ。

金融庁がせっかくその方向に進めようとしているのに、「業界にもおいしい汁を吸わせてあげなくちゃダメでしょ」と訴えるような記事を書いているのが残念だ。


※今回取り上げた記事「Behind the Curtain~積み立て型NISAの舞台裏 金融庁と業界にすきま風 『担い手不在』の恐れ
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170426&ng=DGKKZO15746890V20C17A4EE9000

※記事の評価はC(平均的)。川上穣記者への評価はD(問題あり)からCへ引き上げる。川上記者については以下の投稿も参照してほしい。

読む価値を感じない日経 川上穣記者の「スクランブル」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_8.html

2017年4月25日火曜日

木皮透庸記者は貿易赤字を誤解? 東洋経済「トヨタの焦燥」

週刊東洋経済4月29日・5月6日合併号の第1特集「トヨタの焦燥」は、全体として見れば完成度が高かった。ただ「『米国に工場をつくれ!』 予測不能のトランプリスク」という記事では、貿易赤字に関する説明が引っかかった。筆者の木皮透庸記者は貿易赤字(あるいは貿易収支)について誤解があるのかもしれない。
鎮西身延山 本佛寺の桜(福岡県うきは市)
           ※写真と本文は無関係です

【東洋経済の記事】

日系自動車メーカーは80年代に起きた日米貿易摩擦を受けて、積極的に現地生産を拡大してきた。この20年で現地生産量は2倍近くに拡大しており、16年に米国で販売された日本車の6割が現地生産だ。結果、米国の貿易赤字に占める日本の割合は、91年に65%だったものが、16年には10%を切るまでになった。だが、足元の米国の対日赤字の約8割は自動車関連。トランプ大統領もかねて「日米の自動車貿易は不公平」と主張してきた。


◎「足元の米国の対日赤字の約8割は自動車関連」?

足元の米国の対日赤字の約8割は自動車関連」という書き方は読者の誤解を招きやすい。素直に解釈すれば「自動車関連以外での赤字は約2割しかない」と思ってしまうはずだ。しかし、そうとは限らない。

話を簡単にするために、日米の貿易が自動車、電機、農産物の3項目だけだとしよう。「米国の対日赤字」は1000億ドルで、自動車関連の赤字が800億ドルだとする。この場合、「米国の対日赤字の約8割は自動車関連」と言ってよいだろうか。

例えば、自動車は800億ドルの赤字、電機も800億ドルの赤字、農産物が600億ドルの黒字だとする。この場合も対日赤字は合計で1000億ドルだが、「約8割は自動車関連」とすると妙な感じがするはずだ。「約8割は電機関連」とも「自動車・電機関連で160%」とも言えるからだ。
三池港(福岡県大牟田市)※写真と本文は無関係です

同じ理由で「米国の貿易赤字に占める日本の割合は、91年に65%だったものが、16年には10%を切るまでになった」との記述も不適切だ。「米国の貿易赤字に占める日本の割合」としてしまうと、日本が「65%」ならば、日本以外の国の赤字額が35%のような印象を与えてしまう。

米国全体の貿易赤字と比べた対日赤字の比率」などとすれば問題は減るが、誤解を与えるリスクはまだ大きい。この手の対比はなるべくしない方が望ましい。

ついでに、記事の書き方で木皮記者に1つ助言したい。

【東洋経済の記事】

トヨタはメキシコ政府に「決して逆戻りしない」と工場建設を確約している。米国での増産のために競争力や雇用維持の観点から死守してきた、日本での生産300万台の旗を降ろすことはありえない。かといって欧州やアジアの拠点で減産すれば、当該国からの反発は必至だ。

◎語順が…

上記の書き方だと「米国での増産のために」が「競争力や雇用維持の観点から死守してきた」にかかって見えてしまう。しかし、文脈から判断すると、そう言いたいのではないはずだ。改善例を示してみる。

【改善例】

競争力や雇用維持の観点から死守してきた日本での生産300万台の旗を、米国での増産のために降ろすことはありえない。

◇   ◇   ◇

これで「米国での増産のために」が何にかかっているのか明確になったはずだ。基本的には語順を変えただけだ。記事の書き手としてプロと呼べるレベルを目指すのならば、こうした細かい配慮もできるようになってほしい。


※特集全体の評価はB(優れている)。冨岡耕記者、宮本夏実記者の手掛けた記事には特段の注文はない。木皮透庸記者が担当した当該記事の評価はC(平均的)。木皮記者への評価は暫定Bから暫定Cへ引き下げる。

2017年4月24日月曜日

山本俊成氏を信じるな! 週刊ダイヤモンド「保険 地殻変動」

保険の分野で「この人の言うことは絶対に信じるな」と断言できる「専門家」を見つけた。ファイナンシャル・マネジメント代表の山本俊成氏だ。週刊ダイヤモンド4月29日号の特集「保険 地殻変動!」の中で「リスク回避型の人に向く外貨保険の考え方と使い方 」という記事を書いていて、その内容に問題が多すぎる。記事の中で山本氏は「外貨建て保険」のメリットを強調するが、それらには全く説得力がない。
文化池と桜(福岡県八女市)※写真と本文は無関係です

記事の一部を見てみよう。

【ダイヤモンドの記事】

個人が外貨投資を検討する場合、一般的な商品として、「銀行の外貨預金」「証券会社の外貨建てMMF」「外貨建て保険」「為替証拠金取引(FX)」が考えられる。無論、そこにはリスクもある。

真っ先に挙げられるのは為替リスク。購入したときよりも外貨の価値が下がれば当然、資産価値も下がる。また、円建ての預金のようなペイオフがないため、銀行が経営破綻した場合は資産が減ってしまう可能性もある。高額な為替手数料もデメリットに数えることができるだろう。

リスクと隣り合わせの外貨投資に、二の足を踏む人は少なくない。かといって、これからの円建て商品では、もはや大きな資産形成は不可能に近いことも確かだ。

リスクはほどほどに資産を大きく増やしたい」──。外貨建て保険はそんな人にこそ向いている。先に挙げた外貨投資商品の中で、実は外貨建て保険が最も投資リスクが小さい商品なのだ。その理由は次の4点にまとめられる



◎「ほどほどのリスク」で大きく増やせる?

『リスクはほどほどに資産を大きく増やしたい」』──。外貨建て保険はそんな人にこそ向いている」という説明がまず怪しい。基本的には「資産を大きく増やしたい」ならば、それに応じた「大きな」リスクを取る必要がある。「外貨建て保険」ならば、「リスクは低めでリターンを高くできる」と受け取れるような書き方をしている時点で、まず疑いの目を向けたくなる。

続きを読むと、疑惑は確信に変わる。

【ダイヤモンドの記事】

まず何といっても「保障付き」である点だ。たとえ外貨の運用状況が芳しくなかったとしても、生命保険としての保障が得られることを考えれば、為替差損のリスクを減じられることになる。



◎生命保険で「為替差損のリスクを減じられる」?

これは謎の論理だ。色々な意味でおかしい。為替差損が出た時に「生命保険としての保障」が損失を埋めてくれるわけではない。これは2つを切り離して考えれば分かる。外貨建て資産を持っている人が新たに生命保険へ加入するとしよう。この場合、「良かった。生命保険への加入で為替差損リスクを減らせた」と感じるだろうか。
熊野神社(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

仮に生命保険への加入で為替差損のリスクを減らせるのであれば、外貨投資は「外貨建て保険」である必要はない。「FX+生命保険」でもいいはずだ。「外貨建て保険」の生命保険部分は保険会社が我が身を削って契約者に提供してくれるわけではない。契約者から受け取る保険料が原資だ。投資部分とごっちゃになって分かりにくい「外貨建て保険」を選ぶ必要はない。

さらに記事の問題点を指摘していこう。

【ダイヤモンドの記事】

第二に、他の外貨商品と同じく「通貨分散」できること。実は、これこそが一番のメリットといえる。リスクを減じ、安全に資産運用をする有効な方法として「分散投資」があるが、外貨投資をすることにより資産の通貨分散が図れるからだ。資産を全額、日本円で保有していた場合、円の価値が下がってしまうと資産全体の価値が下がるが、外貨に分散することで通貨下落リスクを低減できる。

加えて、複数の通貨を持つことで、より有利な通貨を活用する選択肢を得ることができるため、円安の場合は外貨を、円高の場合は円を使うことで有利な資産活用が可能になるというわけだ。



◎他と比べた優位性は?~その1

2番目の理由では、FXなどに対する「外貨建て保険」の優位性を説明することを諦めてしまっている。「他の外貨商品と同じく『通貨分散』できること。実は、これこそが一番のメリットといえる」というだけでは、FXなどではなく「外貨建て保険」を選ぶ理由にならない。

実は外貨建て保険が最も投資リスクが小さい商品なのだ。その理由は次の4点にまとめられる」と書いたのだから、「4点」は「最も投資リスクが小さい商品」だと裏付けるものであるべきだ。しかし「2番目の理由」で挫折してしまった。

残りの2つも同様だ。

【ダイヤモンドの記事】

第三の理由は、時間分散で「ドルコスト平均法」が使える点だ。生命保険契約を月払い契約にすることで、保険料を毎月積み立てていくことにより時間分散を図れるドルコスト平均法を活用できる。この結果、毎月購入する外貨の為替レートを平準化でき、為替差損のリスクを下げられるのだ。

最後に、「銘柄分散」ができること。銘柄分散とは、マーケットの違う複数の投資対象に分散することで、特定のマーケットが悪化した場合でも、全ての資産価値が下がることを防ぐ分散投資の手法である。すでに外貨預金などの外貨投資をしている人も、生命保険の外貨建て商品の投資を組み込むことによって銘柄分散が図れ、資産価値が下がるリスクを減らすことが可能になる。


◎他と比べた優位性は?~その2

ドルコスト平均法」が使えて「銘柄分散」ができることも、「外貨建て保険」を「最も投資リスクが小さい商品」と位置付ける理由らしい。だが、FXなどでも「ドルコスト平均法」は使えるし、山本氏が言う「銘柄分散」もできる。他の外貨投資に対する優位性の根拠とはならない。

ちなみに「ドルコスト平均法」を用いても外貨投資のリスクは減らないと思うが、話が長くなるのでここでは論じない。

今回の特集では保険商品に関してランキングをいくつも載せており、「ランキング対象商品の選出者」には山本氏も入っている。投資に関するある程度の知識があれば、山本氏の書いた記事を読んで「この人はダメだ」と気付くはずだ。なのに特集では保険の専門家としてお墨付きを与えている。その点で特集の担当者(中村正毅記者、藤田章夫副編集長、宮原啓彰記者)の責任も重い。


※今回取り上げた特集「保険 地殻変動!」
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/20038

※当該記事の評価はE(大いに問題あり)。山本俊成氏への評価も暫定でEとする。

理解に迷う日経「AIと世界~ロボットと競えますか」

23日の日本経済新聞朝刊1面に載った「AIと世界~ロボットと競えますか 日本の仕事、5割代替 主要国トップ」という記事は、どう理解すべきかかなり迷った。記事では「人が携わる約2千種類の仕事(業務)のうち3割はロボットへの置き換えが可能なことが分かった」というが、これは現時点の技術で可能なのか、それとも将来の話なのか。将来だとすれば、どの程度の期間なのか。そうした点は全くの謎だ。
流川桜並木(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

まずは記事の最初の方を見てみよう。

【日経の記事】

人工知能(AI)の登場でロボットの存在感が世界で増している。日本経済新聞と英フィナンシャル・タイムズ(FT)が実施した共同の調査研究では、人が携わる約2千種類の仕事(業務)のうち3割はロボットへの置き換えが可能なことが分かった焦点を日本に絞ると主要国で最大となる5割強の業務を自動化できることも明らかになった。人とロボットが仕事を競い合う時代はすでに始まっている。

日経とFTは、読者が自分の職業を選択・入力するとロボットに仕事を奪われる確率をはじき出す分析ツールを共同開発し、22日に日経電子版で公開した。米マッキンゼー・アンド・カンパニーが820種の職業に含まれる計2069業務の自動化動向をまとめた膨大なデータを日経・FTが再集計し、ツールの開発と共同調査に活用した。

調査の結果、全業務の34%に当たる710の業務がロボットに置き換え可能と分かった。一部の眼科技師や食品加工、石こうの塗装工などの職業では、すべての業務が丸ごとロボットに置き換わる可能性があることも判明した。ただ、明日は我が身と過度に心配する必要はない。大半の職業はロボットでは代替できない複雑な業務が残るため、完全自動化できる職業は全体の5%未満にとどまる


◎「置き換え可能」はいつの話?

太宰府病院(福岡県太宰府市)※写真と本文は無関係です
まず「置き換えが可能」なのは「現時点の技術で」という前提で考えてみる。しかし、記事では「完全自動化できる職業は全体の5%未満にとどまる」とも書いている。現時点で5%近い職業を「完全自動化」できる技術があるとは考えにくい。

では「長期的に見れば置き換え可能」と理解すべきだろうか。だが、非常に長い期間で見ればあらゆる職業で「置き換えが可能」だ。将来の技術を前提にするならば、期間を設定する必要がある。


◎「ロボットに仕事を奪われる確率をはじき出す」?

記事では「日経とFTは、読者が自分の職業を選択・入力するとロボットに仕事を奪われる確率をはじき出す分析ツールを共同開発し、22日に日経電子版で公開した」と記している。だが、関連記事も含めて、今回の記事で紹介しているのは「ロボットが代替できる業務の割合」だ。例えば、カウンセラーは「10.5%」となっている。これは「ロボットに仕事を奪われる確率」ではないはずだ。カウンセラーの業務の1割しかロボットで代替できないのならば、カウンセラーが「ロボットに仕事を奪われる確率」はゼロに近いだろう。

日本に関する説明もどう理解すべきか迷った。

【日経の記事】

今ある業務が自動化される割合を国別に比較すると、日本はロボットの導入余地が主要国の中で最も大きいことが明らかになった。マッキンゼーの試算では自動化が可能な業務の割合は日本が55%で、米国の46%、欧州の47%を上回る。農業や製造業など人手に頼る職業の比重が大きい中国(51%)やインド(52%)をも上回る結果となった。

日本は金融・保険、官公庁の事務職や製造業で、他国よりもロボットに適した資料作成など単純業務の割合が高いという。米国などに比べ弁護士や官公庁事務職などで業務の自動化が遅れている面もある。米国の大手法律事務所では膨大な資料の山から証拠を見つけ出す作業にAIを使う動きが急速に広がっているが、日本はこれからだ。



◎分子と分母は何?

米マッキンゼー・アンド・カンパニーが820種の職業に含まれる計2069業務の自動化動向をまとめた膨大なデータを日経・FTが再集計し、ツールの開発と共同調査に活用した」結果として「自動化が可能な業務の割合は日本が55%」となったはずだ。
三池工業高校(福岡県大牟田市)※写真と本文は無関係です

この場合、分子と分母は何だろうか。全体では「2069業務」のうち「34%に当たる710の業務がロボットに置き換え可能」で、日本ではこの比率が55%だという。日本に関しても分子は710を超えないはずだ。ならば分母が小さくなるのか。分子が710だとすると日本の場合、分母は約1300になる。世界にある「2069業務」のうち日本に存在するのは「1300業務」だけなのか。あり得ないとは言わないが、ちょっと考えにくい。

それぞれの業務に就く人の数も考慮に入れた比率ならば「55%」でも違和感はない。だが、そう明示しているくだりはない。「他国よりもロボットに適した資料作成など単純業務の割合が高いという」との説明がヒントになる気もするが、これだけでは計算方法を断定できない。


◎「主要国」とは?

主要国」というぼんやりした括りで日本を「トップ」としているのも気になった。記事の書き方からすると中国やインドも「主要国」に入っているような感じもする。だが、「どの国の中でトップなのか」を断定できる材料が記事中にはない。そもそも、何カ国に関して数値があるのかも不明だ。これは困る。「欧州の47%」という書き方からすると、欧州で「国別」に数字を出しているかどうかも怪しい。

さらに言うと、数字が出てくる日米欧中印で最も低い米国でも46%とかなり高い。「34%に当たる710の業務がロボットに置き換え可能」なだけなのに、なぜ「主要国」はそろいもそろって10ポイント以上も数値が高くなるのか。疑問として残った。

結局、この記事は分からないことだらけだ。これだけ理解に迷う材料が多いと、有用な調査結果として受け止める気にはなれない。


※今回取り上げた記事「AIと世界~ロボットと競えますか 日本の仕事、5割代替 主要国トップ
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170423&ng=DGKKZO15581470R20C17A4MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。中西豊紀記者の評価はDを維持する。今回の記事にはFTの記者も参加しているが、日本語の記事に責任を負えるとは考えにくいので評価を見送る。

2017年4月22日土曜日

「読者騙し」が悪質な 日経「KDDI、通販本格展開」

日本経済新聞の記事で「本格」の文字を見つけたら要注意とは以前にも述べた。22日の朝刊企業2面に載った「KDDI、通販本格展開 出店企業に新システム」もその1つだが、悪質度では日経でも上位に来る。中身を見る限り、これから「本格展開」を始めるといった話ではない。
三池炭鉱宮原坑(福岡県大牟田市)
    ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

KDDI(au)はインターネット通販「Wowma!(ワウマ)」のサービスを本格展開する。出店企業が購買履歴や決済を管理しやすいよう新たなシステムの導入を始め、利用者が買い物がしやすいようワウマのアプリも配信する。KDDIは利用者と出店企業を増やし、2019年度にワウマの取引額を現状の3倍の1500億円に引き上げる

KDDIは16年12月にDeNAの運営するEC事業「DeNAショッピング」を買収し、同社と共同で運営していた「auショッピングモール」と統合。今年1月にワウマが誕生した。化粧品や日用品を購入できるが、競合と比べ商品数や出店企業が十分ではなかった。

KDDIは今年秋にも中小規模の企業でも出店しやすいよう、取引の管理にかかる手間を減らすシステムを導入する。

◇   ◇   ◇

インターネット通販『Wowma!(ワウマ)』のサービスを本格展開する」と判断すできる材料は見つけられただろうか。「ワウマ」は「現状」でも年間500億円規模の取引額がある。実験的にやっている事業でもない。「auショッピングモール」と統合したのも「今年1月」と過去の話だ。既に「本格展開」しているとしか思えない。

出店企業が購買履歴や決済を管理しやすいよう新たなシステムの導入を始め、利用者が買い物がしやすいようワウマのアプリも配信する」という計画はあるようだ。だからと言って「現状では『本格展開』に至っていない」と主張するのは無理がある。

今回の場合、ニュース記事としての柱は「システムの導入」のはずだ。だが、これを前面に押し出してもベタ記事にしかならないだろう。だから無理に「本格展開」と付けて3段の記事に仕立てたのではないか。

気持ちは理解できなくもないが、ここまでやると記者としての倫理観を疑われる。本来ならば企業報道部のデスクが記者を指導すべきだ。しかし、デスク自身も記者時代にこの手の書き方に慣れ過ぎていて問題を感じないのだろう。


※今回取り上げた記事「KDDI、通販本格展開 出店企業に新システム
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170422&ng=DGKKZO15629900R20C17A4TJ2000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。「本格」の使い方に問題がある日経の記事については、以下の投稿も参照してほしい。

「松屋フーズはラーメン店に本格参入」に見える日経の騙し
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_15.html

2017年4月21日金曜日

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点

ここでは、19日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~グローバル・ファーストへ」という記事の問題点をさらに指摘していく。
白壁通り(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

私は今も、リーマン危機では市場が貧困をもたらした面があると思っている。ウォール街は目先の株価や株価に連動する報酬を競い、低所得者に甘い審査で住宅ローンを貸した。債権は証券化して売却し、もっと貸した。こうして膨らんだ住宅バブルは崩壊し、ローンを返せない多くの人々が家を取り上げられて困窮した。



◎「ウォール街」が「住宅ローンを貸した」?

この書き方だと「ウォール街」が「低所得者に甘い審査で住宅ローンを貸した」と読み取れる。「ウォール街」と言われるとゴールドマン・サックスなどの投資銀行を思い浮かべてしまうが、投資銀行が住宅ローン事業を「直接」に手掛けていたとは思えない。審査して貸していたのは住宅ローン会社などではないのか。

ついでに言うと「目先の株価や株価に連動する報酬を競い」という部分は「株価や株価」となってしまうので読みにくい。「目先の株価や、株価に連動する報酬を競い」と読点を入れた方がいい。

次はインドの「ナラヤナ・ヘルス病院グループ」についてだ。筆者の梶原誠氏は同じ話を何度も取り上げる傾向があり、この病院もその1つだ。

【日経の記事】

市場が貧困を解消している構図は、バンガロールを本拠とする00年創業のナラヤナ・ヘルス病院グループが映し出す。

同社は保険の導入や、使い捨て手術着の採用など費用削減で料金を格安にし、貧しい患者に健康の機会をもたらした。昨年株を公開し、調達した資金を設備拡張に投じた。今や6000以上のベッドを擁するインド有数の病院だ。米国からの出資で成長を支えてきたJPモルガンも報われた。



◎格安の理由が謎

同社は保険の導入や、使い捨て手術着の採用など費用削減で料金を格安にし、貧しい患者に健康の機会をもたらした」と梶原氏は言うが、この説明は謎だ。
矢部川沿いの桜(福岡県八女市)※写真と本文は無関係です

まず「保険の導入」で「料金を格安」にできるのか。保険に入っていれば料金負担を保険金でカバーできるかもしれない。だが、病院のコストとは直接には関係しないので、料金が安くなるとは考えにくい。

使い捨て手術着の採用」で「費用削減」というのも納得できない。普通は「使い捨て」の方が高くつくはずだ。この問題は「インドで見た『早い、安い、うまい』医療が日本を救う」というPRESIDENT Onlineの記事にヒントがある。この記事によるとナラヤナは「コストを抑えるために、使い捨ての手術器具を再使用したり」しているらしい。「再利用」しているのならば、費用は抑えられる。梶原氏は「再利用」を省いて説明したのかもしれない。

さらに言えば、ナラヤナを「市場が貧困を解消している構図」として捉えるのもやや苦しい。「昨年株を公開し、調達した資金を設備拡張に投じた」ようだが、株式公開前から「料金を格安」にした医療を提供できていたはずだ。市場での資金調達もその一助となっているとしても、「市場が貧困を解消している構図」と言うほどではない。そう言いたいのならば、株式市場の力があって初めて低価格の医療を実現できた事例を持ってきてほしい。

そもそもナラヤナは「貧困を解消している」のか。貧困層が医療を受けられるようになるのは喜ばしいが、それで貧困層の収入が増えるわけではない。貧困層が医療を受けられるようになるのと、貧困が解消するのはまた別の話だ。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~グローバル・ファーストへ
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170419&ng=DGKKZO15469790Y7A410C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はDを維持する。今回の記事については以下の投稿も参照してほしい。

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html


※梶原誠氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

2017年4月20日木曜日

迷走止まらぬ週刊エコノミスト金山隆一編集長

週刊エコノミストの金山隆一編集長の迷走が止まらない。4月25日号の「From Editors」という編集後記では、糸井重里氏に関して「詳しくはインタビューを読んでほしい」と述べているものの、いくら探してもインタビュー記事は見当たらない。
本佛寺の桜(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

金山編集長が書いた「From Editors」の全文は以下の通り。

【エコノミストの記事】

「やってみなきゃ、わかんねえじゃねえか」というコントの一言に敏感に反応した人がいた。いまから30年近く前にテレビ朝日で放映していた「ザ・テレビ演芸」という番組で勝ち抜き演芸の審査を務めていたコピーライターのコメントだ。いまもなぜか鮮明に覚えている。その人が会社を興し、20年かけてついに株式上場させた。「ほぼ日」の糸井重里氏だ。彼のインタビューを読んで「この人は資本主義に挑戦している」と思った。企業の宿命は存続と成長だ。しかし糸井さんは、「総会を合宿する」とか「利益を出すために頭を回すことを一休みするのも武器になる」とか驚きの言葉を連発した。詳しくはインタビューを読んでほしい。なんとか全文も載せたい。

上場維持のためなら資本主義のルールを逸脱してもいいという東芝と対極の会社誕生である

◇   ◇   ◇

インタビュー記事は次号以降で掲載するのだろう。だが、上記の書き方では今号に載っているとしか考えられない。「今号に載ると勘違いしていた」とすれば、編集長として現場の状況を把握できているのか不安になる。次号以降の掲載と知っていたのに上記のような書き方をしたのであれば、書き手としてお粗末すぎる。

今回の「From Editors」は他にも問題が多い。列挙してみる。

◎結局、誰の「一言」?

『やってみなきゃ、わかんねえじゃねえか』というコントの一言に敏感に反応した人がいた。いまから30年近く前にテレビ朝日で放映していた『ザ・テレビ演芸』という番組で勝ち抜き演芸の審査を務めていたコピーライターのコメントだ」というくだりは、何回読んでも状況が理解できなかった。
耳納連山と桜(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

普通に読むと「やってみなきゃ、わかんねえじゃねえか」というのは「コントの一言」だと思える。それに「敏感に反応した人」が「コピーライター(糸井重里氏)」なのだろう。しかし、記事には「コピーライターのコメントだ」と出てくる。だとすると「やってみなきゃ、わかんねえじゃねえか」は「コピーライターのコメント」にも見える。

そう思い直して読み直しても、「『やってみなきゃ、わかんねえじゃねえか』というコントの一言」と書いてあるので「やってみなきゃ、わかんねえじゃねえか」はコントをやる側から出たと解釈するしかない。そして「コピーライター」はコントを「審査」する側だ。結局、どう解釈するのが正解なのか、推測さえ困難だった。


◎「資本主義に挑戦している」?

彼のインタビューを読んで『この人は資本主義に挑戦している』と思った」理由も謎だ。「総会を合宿する」とは「泊まり込みで株主総会をやる」との趣旨だろうか。ならば、資本主義への挑戦でも何でもない。むしろ、資本主義の考え方の尊重だ。「総会を合宿する」からと言って企業としての「存続と成長」を無視している訳でもない。

利益を出すために頭を回すことを一休みするのも武器になる」というコメントはまだ分かる。ただ、これも驚くほどの話ではない。「短期的に多少の利益を犠牲にしても、顧客満足度を高める方が長期的には企業の利益になる」といった考え方はよくある。

そもそも金山編集長自身が「上場維持のためなら資本主義のルールを逸脱してもいいという東芝と対極の会社誕生である」と書いている。この説明が正しいのならば、「ほぼ日」は「資本主義のルール」を忠実に守るはずだ。そんな会社の経営者を「資本主義に挑戦している」と評する気が知れない。


◎「ほぼ日」は最近「誕生」?

細かい指摘になるが、「上場維持のためなら資本主義のルールを逸脱してもいいという東芝と対極の会社誕生である」という結びの部分で、「ほぼ日」が最近になって「誕生」したかのような書き方をしているのも引っかかった。記事でも触れているように「ほぼ日」は「20年かけてついに株式上場させた」会社だ。だとすると「誕生」は20年前。なのに「会社誕生である」と紹介するのは苦しい。例えば「東芝と対極の上場企業の誕生である」と直せば問題は解消する。

注:「ほぼ日」のホームページによると「有限会社東京糸井重里事務所設立」が1979年12月で、「『ほぼ日刊イトイ新聞』 創刊」が1998年6月。
九州大学伊都キャンパス(福岡市西区)※写真と本文は無関係


◎「氏」と「さん」

さらに細かい指摘をもう1つ。「『ほぼ日』の糸井重里氏だ」と書いた後で「しかし糸井さんは」と表記している。最初に「」を使ったのならば、次も「糸井氏」にした方がよい。この辺りの配慮までできるのがプロの書き手だ。


※記事の評価はE(大いに問題あり)。金山隆一編集長への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。金山編集長については以下の投稿も参照してほしい。

FACTAに「声」を寄せた金山隆一エコノミスト編集長に期待
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_25.html

週刊エコノミスト金山隆一編集長への高評価が揺らぐ記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_12.html

週刊エコノミスト編集長が見過ごした財産ネットの怪しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_14.html

「無理のある回答」何とか捻り出した週刊エコノミストを評価
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_94.html

東芝は「総合重機」? 週刊エコノミスト金山隆一編集長に質問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_57.html

ついに堕ちた 週刊エコノミスト金山隆一編集長に贈る言葉
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_8.html

駐車違反を応援? 週刊エコノミスト金山隆一編集長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_29.html

2017年4月19日水曜日

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い

日本経済新聞の梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)は根本的な勘違いをしているのではないか。そう思わせる記事が19日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載っていた。「Deep Insight~グローバル・ファーストへ」という記事では、GDPに対する株式時価総額の比率が上昇しているインドに関して「市場がグローバルマネーを巻き込んで経済全体を底上げしてきた結果だ」と解説している。この見方は正しいのだろうか。
有明海沿岸道路(福岡県大牟田市)
       ※写真と本文は無関係です

記事の当該部分を見てみよう。

【日経の記事】

インドの代表的な株価指数、SENSEXは今月、2年ぶりに史上最高値を更新した。市場がグローバルマネーを巻き込んで経済全体を底上げしてきた結果だ

1988年の株式時価総額は、国内総生産(GDP)の8%にすぎなかった。それが昨年の71%まで上昇し、株式市場の存在感は高まった。外国への市場開放など改革を進めた結果だ。同国経済の原動力である起業家精神も、株式公開の舞台が育ったからこそだ。



◎「底上げ」できていないような…

市場がグローバルマネーを巻き込んで経済全体を底上げしてきた結果」として、「1988年の株式時価総額は、国内総生産(GDP)の8%にすぎなかった。それが昨年の71%まで上昇し、株式市場の存在感は高まった」と梶原氏は解説する。だが、これは奇妙だ。

普通に考えれば、「市場がグローバルマネーを巻き込んで経済全体を底上げ」してくれる存在ならば、株式時価総額の伸びと歩調を合わせてGDPが増えても良さそうなものだ。しかし、GDPの伸びは時価総額に大きく後れを取っている。

「GDPの伸びは低水準だが、それでも伸びたのは『市場がグローバルマネーを巻き込んで経済全体を底上げしてきた』からだ」との弁明はできる。だが、そう信じられる根拠は示していない。インドの場合は「株式市場が盛り上がっているのと比べると、経済全体は底上げされていない」と解釈する方が自然だ。

記事に付けたグラフでは「株式市場はインド経済をけん引した」とのタイトルを付けて、「インド株相場」と「時価総額のGDP比」を見せている。ここからは「時価総額のGDP比が上昇する=インド経済が伸びている」との印象を受ける。しかし、そういう関係は成り立たない。GDPの伸び率が株式時価総額の増加率を上回ると、この比率は低下する。だからと言って、インド経済が成長していないわけではない。

一般的に「時価総額のGDP比」は株式相場の過熱感を見る指標として使われる。なので「株式相場の上昇は経済成長のスピードを上回っており、割高感が出てきている」といった解説はできるかもしれない。だが、「株式市場はインド経済をけん引した」のかどうかを読み取るのは無理がある。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~グローバル・ファーストへ
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170419&ng=DGKKZO15469790Y7A410C1TCR000

※この記事については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html


※梶原誠氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

東洋経済の特集「東芝が消える日」山田雄一郎デスクに疑問

週刊東洋経済4月22日号の第1特集「東芝が消える日」は力作ではある。全体としての出来も悪くない。ただ、山田雄一郎デスクが書いた「旧村上系ファンドが筆頭株主に」という記事は引っかかる部分が多かった。
浅井の一本桜(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です

具体的に見ていこう。

【東洋経済の記事】

狙いはいったい何なのか。3月23日、旧村上ファンド出身者が運営する投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネージメント(以下、エフィッシモ)が、東芝株8.14%を保有する筆頭株主になったことが大量保有報告書で判明。そこからさらに買い増しし、3月末の保有比率は9.84%になっている。

エフィッシモは本誌の取材に対し、「東芝株への投資目的は純投資。中長期的な企業価値の向上に伴う値上がり益や配当を享受することを目的としている」と言う。だが、これを額面どおりに受け取るのは難しい。何しろ東芝は無配会社である。しかも債務超過転落で中長期的な見通しよりも短期的な財務立て直しに汲々(きゅう きゅう)としている

エフィッシモは、高坂卓志代表ら旧村上ファンドの幹部3人がシンガポールに設立した。わかっているだけでも日本株を3000億円分近く保有している(左表)。正確な投資額が不明な東芝、第一生命ホールディングスなどを加えると5000億円前後を日本株に投じている。旧村上ファンドと同様に株主提案をすることもある。

エフィッシモをよく知る投資ファンド関係者は言う。「東芝の債務超過転落は引当金が主体で、巨額のキャッシュアウトを伴うものではない。原発子会社を連結から外し、メモリ子会社を高値で売却した後の東芝はキャッシュリッチな好財務企業になるに違いない。その将来像に比して東芝の株価が割安だから東芝株を買っているのだろう」。


◎「純投資」と受け取れるような…

エフィッシモが東芝の筆頭株主となったのを受けて「東芝株への投資目的は純投資」というエフィッシモのコメントを紹介した後で「額面どおりに受け取るのは難しい」と山田デスクは述べている。
うきは市役所(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

だが、額面通りに受け取れるのではないか。エフィッシモは「中長期的な企業価値の向上に伴う値上がり益や配当を享受することを目的としている」という。これに対し山田デスクは「何しろ東芝は無配会社である。しかも債務超過転落で中長期的な見通しよりも短期的な財務立て直しに汲々としている」と指摘している。

ただ、「中長期的な企業価値の向上」が見込めるとの判断であれば、割安と思える時期に純投資目的で株を買うのは合理的だ。「値上がり益」は見込めるし、復配も期待できる。ずっと無配が続くとは限らないし、「短期的な財務立て直しに汲々としている」企業が「中長期的な企業価値の向上」を実現する可能性も十分にある。

もちろん本音を隠して「投資目的は純投資」と言っているのかもしれない。「額面どおりに受け取るのは難しい」と山田デスクが考えるのならば、どういう目的だと推測できるのかは示してほしかった。

しかし、「エフィッシモをよく知る投資ファンド関係者」のコメントでは「原発子会社を連結から外し、メモリ子会社を高値で売却した後の東芝はキャッシュリッチな好財務企業になるに違いない。その将来像に比して東芝の株価が割安だから東芝株を買っているのだろう」となっている。これでは「投資目的は純投資」というエフィッシモの言い分を額面通りに受け取りたくなってしまう。

そして記事は以下のように続く。

【東洋経済の記事】

東芝株に着目しているのは、エフィッシモだけではない。米キャピタル・リサーチや英ブラックロックといった名門ファンドもすでに東芝株を5%超保有している。

アナリストとして電機業界を30年以上見てきた東京理科大学大学院イノベーション研究科の若林秀樹教授のところには、「国内事業会社から東芝の今後についての問い合わせが多い」という。大量保有の報告義務のない5%未満の範囲では、「東芝株に投資している海外ファンドは、相当な数あるのではないか」(同)。残った事業がバラ売りされた場合に何らかの影響を与えられるよう、今から仕込む戦略とみられる。

とはいえ上場廃止になれば海外ファンドのもくろみは外れる。市場関係者からは「株価が元に戻ってもせいぜい2〜3倍になるだけだ。上場廃止で東芝株が紙くずになる危険性を考えれば割に合わない」という声もある。新たな筆頭株主は東芝に緊張感を与えられるだろうか。



◎「上場廃止で東芝株が紙くずになる」?

上場廃止で東芝株が紙くずになる危険性を考えれば割に合わない」というコメントが気になった。素直に読むと「上場廃止になれば東芝株は無価値になる」と解釈できる。だが、倒産するならともかく、上場廃止だけでは株式としての価値はなくならない。
八女学院中学・高校(福岡県八女市)※写真と本文は無関係です

上場廃止になれば株式売却はしにくくなるが、企業が存続していれば株式としての価値は残る。それに再上場の道もある。コメントとはいえ「上場廃止で東芝株が紙くずになる」という言い回しは不正確で誤解を招きやすい。

ついでに記事の書き方で1つ提案をしたい。


◎カッコ内の「同」について

大量保有の報告義務のない5%未満の範囲では、『東芝株に投資している海外ファンドは、相当な数あるのではないか』(同)」というくだりのような「」の使い方はお薦めしない。

記事で言う「」は「若林秀樹教授」のことだ。その場合、まず「(若林秀樹教授)」とカッコ内で「若林秀樹教授」を使い、その後に「(同)」とするならば分かる。だが、今回のような使い方では読者を迷わせやすい。使い方が間違っているとは言わないが、親切な書き方ではない。

さらに言えば、「(同)」ではなく「(同教授)」としてほしかった。そうすれば、読者が迷う可能性をぐっと小さくできる。細かい工夫だが、プロと呼べるレベルの書き手を目指すのならば、このぐらいの配慮はしてほしい。


※特集全体の評価はC(平均的)。当該記事の評価はD(問題あり)。山田雄一郎デスクへの評価は暫定B(優れている)から暫定Dへ引き下げる。

2017年4月18日火曜日

女性「クオータ制」は素晴らしい? 日経女性面記事への疑問

ライフネット生命保険会長の出口治明氏は人格者で立派な経営者でもあるのだろう。だが17日の日本経済新聞朝刊女性面に載った「ダイバーシティ進化論~『割り当て制』議論本気で 『お手本』輩出し続けるために」という記事は説得力がなかった。「世界一高齢化が進み、女性の登用が遅れている日本は、本来どこよりも厳しいクオータ制を導入し、ロールモデルをどんどんつくり出し女性の活躍を促さなくてはならない」という主張のどこに問題があるのか論じてみたい。
福岡県うきは市の白壁通り ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

歴史上の優れた女性リーダーの多くは、ロールモデルを持つ。中国史上唯一の女帝・武則天は、性別を問わない実力主義で馮大后など多くの女性が活躍した拓跋国家の風土の中に生まれた。ロシア帝国全盛期の女帝エカチェリーナ二世は、先に皇位に就いたピョートル大帝の娘・エリザヴェータに多くを学んだ。いつの時代も人が成長するには、ロールモデルが必要だ

翻って今の日本。管理職に占める女性の割合はまだ1割程度で、ロールモデルが少なすぎる。世界経済フォーラムが算出する男女平等ランキングでは144カ国中111位。世界にかなり後れをとっている。


◎「1割」では「ロールモデルが少なすぎる」?

武則天」や「エカチェリーナ二世」を単純に「歴史上の優れた女性リーダー」としてよいのか議論が分かれそうだし、「いつの時代も人が成長するには、ロールモデルが必要」かどうかも微妙だが、取りあえず受け入れてみる。ただ、「管理職に占める女性の割合はまだ1割程度で、ロールモデルが少なすぎる」というのは無理がある。
筑後川(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

成長するには、ロールモデルが必要」だとしても、それは身近にいなければダメなのか。例えば、メディアで知った有名な女性経営者をロールモデルとして、その後を追う形で成長することもできるはずだ。そもそもロールモデルが「1割」いるのであれば、身近にいる確率はかなり高い。そう考えると「1割」では少なすぎるという根拠は乏しい。

出口氏は経済成長のためにも「クオータ制」を導入すべきとの立場だ。これも主張としては説得力に欠ける。

【日経の記事】

産業構造の面からも女性活躍は重要だ。わが国の産業構造は製造業からサービス業へと比重が大きくシフトしている。サービスの主たる消費者は女性。成長には、女性の力が不可欠だ。

そのために何をすべきか。ヒントは高齢化が世界で最初に進んだ欧州にある。高齢化や経済危機を乗り越えるには人口の半分を占める女性の活躍が不可欠だと気づいた欧州の国々は、企業の役員の一定割合を女性とするなどのクオータ(割り当て)制を導入した。ロールモデルの輩出を「仕組み化」したのだ。

クオータ制の普及について、日本のある財界幹部が「欧州の政治家は女性に弱いなあ」と言ったと聞き、僕はあぜんとした。世界一高齢化が進み、女性の登用が遅れている日本は、本来どこよりも厳しいクオータ制を導入し、ロールモデルをどんどんつくり出し女性の活躍を促さなくてはならない。その現実を前に、日本の政財界のリーダーの感覚はあまりにも鈍い。



◎「クオータ制」導入で経済成長?

主張が情緒的なのが引っかかる。欧州を見習って「クオータ制を導入」すべきとの考えならば、その制度にどんな効果があるのかは示してほしい。
矢部川沿いの桜(福岡県八女市)※写真と本文は無関係です

原因と結果の経済学」(著者は中室牧子氏と津川友介氏)という本では以下のように書いている。

【「原因と結果の経済学」から】

ノルウェーでは、女性取締役比率が2008年までに40%に満たない企業を解散させるという衝撃的な法律が議会を通過した。南カリフォルニア大学のケネス・アハーンらは、この状況を利用して、女性取締役比率と企業価値のあいだに因果関係があるかを検証しようとした。

(中略)アハーンらが示した結果は驚くべきものだ。女性取締役比率の上昇は企業価値を低下させることが示唆されたのだ。具体的には、女性取締役を10%増加させた場合、企業価値は12.4%低下することが明らかになった。

◇   ◇   ◇

クオータ制」の導入が企業価値を低下させる可能性が高いのならば、導入に反対する人がいたとしても驚くに値しない。そういう人と話をして「僕はあぜんとした」という出口氏の方に問題がある。「クオータ制」導入によるプラス面が明確ではないのに、「どこよりも厳しいクオータ制を導入」すべきだと考える方が不思議だ。

原因と結果の経済学」という本ではこうも書いている。「政府によって、女性取締役の数値目標が課されたことで、ノルウェーの企業の多くは、経験が浅く、経営者の資質に欠ける女性を無理やり取締役にして急場をしのいだ。このことが企業価値を低下させることにつながったと考えられる

日本で「どこよりも厳しいクオータ制を導入」した場合、同じような問題が起きても不思議ではない。そうやって粗製乱造されたロールモデルを目の当たりにすることが、女性の成長を促すために不可欠なのだろうか。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~『割り当て制』議論本気で 『お手本』輩出し続けるために
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170417&ng=DGKKZO15316340U7A410C1TY5001

※記事の評価はC(平均的)。出口治明氏への評価は暫定でCとする。

2017年4月17日月曜日

踏み込み不足の日経1面「株指数運用、市場を席巻」

16日の日本経済新聞朝刊1面トップに据えた「株指数運用、市場を席巻  低コスト強み、投信の8割 企業選別機能衰えも」という記事は悪い出来ではない。だが、満足できる内容とも言えない。「踏み込み不足」が気になったからだ。以下で具体的に指摘してみたい。
浅井の一本桜(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

世界の株式市場で株価指数の構成銘柄を丸ごと買うインデックス運用が急激に広がっている日本株市場では投資信託の8割、年金運用の7割に達してきた。低コストで市場平均並みの成績を狙うのが効率的との見方が強まっているからだ。インデックス運用が勢いを増せば、業績や将来の成長性で個別企業を選別する市場の大切な機能が衰えてしまいかねない。



◎「世界」の解説が足りない

世界の株式市場で株価指数の構成銘柄を丸ごと買うインデックス運用が急激に広がっている」との書き出しからすると、世界全体の動向を解説してくれるのかと期待してしまう。実際には、ほとんどが日本の話だ。「世界」については「インデックス運用へのシフトは世界的な現象。16年度は世界で6888億ドル(約75兆円)と過去最大の資金が流入した」と書いてあるだけ。これでは苦しい。

記事では「インデックス運用が多数派になるのは市場関係者の多くが想定していなかった事態」とも記しているが、「多数派」になっているかどうかも怪しい。

【日経の記事】

株式運用は有望銘柄を個別に選ぶアクティブ運用と、株価指数に組み入れられた全銘柄を機械的に買うインデックス運用の2つに大別される。アクティブ運用からインデックス運用に資金を移す投資家が後を絶たない。

先導するのは巨大な公的マネーだ。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は日本株投資に占めるインデックス運用の比率を8割と2001年度から倍増させた。他の年金も追随し、年金全体で約7割に達した

東証株価指数(TOPIX)や日経平均株価などに連動する上場投信(ETF)を通じて年6兆円の日本株を買う日銀も同様。ETFを含めた日本株投信は8割をインデックス運用が占める。


◎インデックス運用は「多数派」?

「(インデックス運用が)日本株市場では投資信託の8割、年金運用の7割に達してきた」という事実から、「日本株市場ではインデックス運用が多数派」という結論を導けるだろうか。「多数派」と言い切るのであれば「投資信託」と「年金」だけでなく、他の投資主体も含めて見る必要がある。しかし、記事にはそうしたデータがない。それで「インデックス運用が多数派」と言われても困る。
三池港(福岡県大牟田市)※写真と本文は無関係です

次に「インデックス運用の弊害」について見ていく。この解説も説得力に欠ける。

【日経の記事】

インデックス運用が席巻する市場の弊害は、あちこちに出始めている。

インデックス運用の世界最大手、米ブラックロックは今なお東芝株の5%を保有する。指数に入っていれば、経営危機であろうが自動的に買わなければならないからだ。

業績がいい企業の株価が上がり、悪い企業の株価が下がるのが市場の選別機能だ。「業績情報が株価に反映されず、株価形成がゆがむ可能性がある」。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の芳賀沼千里氏は懸念する。


◎インデックス運用の「弊害」出てる?

米ブラックロックは今なお東芝株の5%を保有する」ことの何がインデックス運用の「弊害」なのか。「5%を保有」しているから、東芝の経営実態が株価に反映されないと言いたいのだろうか。しかし、東芝の株価は経営危機を受けてそれなりに下がっている。「経営状況の悪化に対して株価の下げが十分ではない」と見ているのならば、その根拠を示すべきだ。

次の「弊害」も苦しい。

【日経の記事】

機関投資家の大半はTOPIXに沿って運用。指数に入る約2千社の東証1部上場企業に資金が偏重する弊害もある。マザーズやジャスダックの新興企業にはお金が回らず、約1千社が上場する2市場の時価総額は東証1部のわずか2%だ。


◎これは「インデックス運用の弊害」?

上記の話はそもそも「インデックス運用の弊害」に当たるのか。アクティブ運用が増えても、それが「東証1部」の中での動きならば「東証1部上場企業に資金が偏重する」傾向は変わらない。一方、インデックス運用が増えても、「マザーズやジャスダック」を対象とした運用にまで広がるならば、投資資金は両市場にも向かう。
九州大学伊都キャンパス(福岡市西区)
     ※写真と本文は無関係です

そもそも「偏重」と言っても、その対象が「約2千社」ならばかなり多い。「東証1部の時価総額上位10銘柄ほどに資金が集中」ならば、「偏重」でしっくり来るのだが…。

さらに言えば、「約1千社が上場する2市場の時価総額は東証1部のわずか2%だ」との解説もやや乱暴だ。利益や純資産などで見て東証1部の「2%」の水準ならば、「2市場の時価総額は東証1部のわずか2%」となるのが当然だ。「2%」が低すぎるとの判断であれば、なぜそう言えるのか根拠を示すべきだ。

「東証1部が約2000社に対し、マザーズとナズダックは合わせて約1000社。なのに時価総額は東証1部の2%。これは少なすぎる」と言いたいのだろうが、それでは素人レベルだ。そのぐらいは、筆者である松崎雄典編集委員と宮川克也記者も分かっているはずだ。


※今回取り上げた記事「株指数運用、市場を席巻 低コスト強み、投信の8割 企業選別機能衰えも
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170416&ng=DGKKASGD13H0O_T10C17A4MM8000

※記事の評価はC(平均的)。松崎雄典編集委員への評価はD(問題あり)からC(平均的)に引き上げる。宮川克也記者は暫定でCとする。

2017年4月16日日曜日

海外M&A「9割失敗」が怪しい週刊ダイヤモンドの特集

週刊ダイヤモンド4月22日号の特集2「成功する/失敗する M&A」は甘い分析が目立つ物足りない内容だった。まず「日本企業の海外企業買収は なぜ9割も失敗するのか」という記事から見ていこう。見出しを見て「『9割も失敗』というデータがあるのか」と興味を持って記事に入っていったら、肩透かしを食らってしまった。
岡山公園の桜(福岡県八女市)※写真と本文は無関係

【ダイヤモンドの記事】

ここ数年、日本企業による海外M&Aが活発化している。ところが、その9割近くが失敗に終わっているという。企業の失敗事例を検証すると、そこにはある共通点があった。

◇   ◇   ◇

これは記事の冒頭部分だ。実は「9割も失敗」に触れているのはここだけだ。つまり、どこの調査なのかも、何を以って失敗と評価するのかも不明だ。なのに「なぜ9割も失敗するのか」を分析して意味があるのか。そもそも9割が失敗しているという根拠が見当たらない。

日本企業の海外企業買収」が「9割も失敗」するとしても、日本企業だけが失敗率が高いかどうかは知りたい。仮に「海外企業の買収は世界的に9割失敗が常識」だとすると、「日本企業の海外企業買収は なぜ9割も失敗するのか」という問題提起はやはり意味がなくなる。

記事には「M&Aから5~7年が経過した企業を対象に本誌が独自に行ったM&Aの追跡調査の結果」も載せている。この調査ではM&A後の満足度を60%、80%、100%、120%、150%の5つから選ばせている。このうち60%(期待や目標にあまり届いていない)と80%(期待や目標に一部届いていない)が「失敗」に該当しそうだ。しかし、2つを合わせても27%にしかならない。

M&Aに踏み切った企業自身の自己採点なので評価が甘い面は当然あるだろう。それを割り引いても「9割も失敗」とはかなり食い違う。

ついでに「同社」の使い方にも注文を付けておく。

【ダイヤモンドの記事】

10年にサントリーホールディングスとの経営統合交渉が破談に終わり、“非連続な成長”への道筋が見通せなくなっていた同社は、成長の代名詞ともいえるBRICsというキーワードを大義名分として、約3000億円もの大型買収に踏み切ったのである。

◇   ◇   ◇

上記の「同社」は形式的に見れば「サントリーホールディングス」だが、筆者は「キリンホールディングス」のつもりで書いているのだろう。誤解を招く恐れは小さいとはいえ、記者としての力量を疑われるので気を付けた方がいい。
本佛寺の仏舎利塔と桜(福岡県うきは市)
           ※写真と本文は無関係です

次は「34年間百戦百勝で負けなし 日本電産に学ぶ成功の鉄則」という記事を見ていく。これも「百戦百勝で負けなし」と決め付けているが、根拠は見当たらない。

【ダイヤモンドの記事】

前節では失敗事例から教訓を学んだ。今度は成功事例を検証することで、買収で失敗しないための秘訣を解き明かす。題材となるのは、52社の買収を全て成功させてきた日本電産だ。

◇   ◇   ◇

これは記事の冒頭部分だ。その後に「34年間で52社というハイペースの買収全てを、日本電産はいかにして成功させたのか」と繰り返すものの、何を以って「成功」とするのか、日本電産はその基準を52社全てで満たしているのか、といったことは教えてくれない。とにかく成功したとの前提で話が進む。

そして成功の要因に話が移る。

【ダイヤモンドの記事】

何より重要なのは高値つかみしないこと。逆に言えば、最近日本企業の海外M&Aで巨額の減損が発生しているのは、買い値が高過ぎるからだ。

◇   ◇   ◇

異論はない。ただ、そんなことは誰でも分かっている。「高値つかみ」でもいいから買収してしまえと考える経営者は稀だろう。「高値つかみ」かどうかの判断基準を教えてくれると助かるのだが、そんな話は見当たらない。
帝京大学 福岡キャンパス(大牟田市)※写真と本文は無関係です

日本電産の永守重信代表取締役会長兼社長はインタビュー記事の中で「自分の中に適正価格の算定基準を持っているので、それを超えていたら買いません」とは語っている。だが、「適正価格の算定基準」はもちろん教えてくれない。

これでは「株式投資に失敗しない秘訣は高値つかみをしないこと」と言っているようなものだ。間違ってはいないが「それができれば苦労はないよ」と返したくなる。

見出しに釣られて読んでみたものの、結局は期待に応えてくれる中身ではなかった。


※今回取り上げた特集「成功する/失敗する M&A
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/19959

※特集の評価はC(平均的)。前田剛記者への評価は暫定B(優れている)から暫定Cへ引き下げる。

2017年4月15日土曜日

「松屋フーズはラーメン店に本格参入」に見える日経の騙し

日本経済新聞の記事で「本格」の文字を見つけたら要注意だ。多くの場合、中身を実態よりも大きく見せようとしている。14日の朝刊企業面に載った「松屋フーズ、ラーメン店 郊外SC、家族客に照準」という記事はその典型だ。
旧三井港倶楽部(福岡県大牟田市)※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】 

松屋フーズはラーメン店に本格参入する。郊外のショッピングセンター(SC)内を中心に出店し、家族客を取り込む。主力の牛丼店は都心部の店舗賃料が高騰し、人手不足で従業員の確保も難しくなっている。一定の集客が見込めるSC内で収益が確保できる業態の店舗を増やし、牛丼やとんかつに続く新たな柱に育てる。

18日にイオンモール日の出店(東京都日の出町)内のフードコートに「トマトの花」1号店を出店する。主力商品のトマトスープ麺はトマトを丸ごと1個入れた。うま味調味料や甘味料なども使っておらず、健康意識の高い女性や家族層を開拓する。

商業施設のフードコートにはかつて牛丼店「松屋」を2店舗出店していたが、24時間営業ができず女性や家族の需要にも合わなかったことから、2013年に撤退していた。

ただ、都心の店舗は賃料や人件費が高騰している。日本不動産研究所などによると、東京・渋谷地区の1階店舗の平均賃料は16年下期に1坪あたり3万5200円と同年上期に比べ11%上昇した。一方で郊外のSCは賃料が割安でパート従業員も比較的確保しやすいとみて、収益が確保できるようにして再出店する。

松屋フーズは国内約1070店舗のうち約9割を牛丼業態が占める。第2の柱としてとんかつ店を100店規模まで増やしてきた。出店余地のあるフードコートなどでラーメン店を増やし、第3の柱に育てたい考えだ

◇   ◇   ◇

松屋フーズに詳しくない人がこの記事を読んだら「これまでは牛丼店やとんかつ店しかやってなかったが、今月からラーメン店も始めたんだな」と理解するのが普通だ。
福岡大学(福岡市城南区)※写真と本文は無関係です

しかし、記事の冒頭で「松屋フーズはラーメン店に本格参入する」と書いている。「トマトの花」1号店を出す前はラーメン店がなかったのならば「本格」を抜いて「松屋フーズはラーメン店に参入する」と書けばいいのではないか。そうしなかったのには、ちゃんと理由があるようだ。

同社のホームページによると、ラーメン業態の店は「トマトの花」1号店で3店目となる。「麺ダイニング セロリの花」という店が東京都内に2店舗あるらしい。

本格参入」という書き方をするなとは言わない。しかし、そう書くならば、既に2店舗あることは記事中で明示すべきだ。「既に2店あり、今回出す店は3店目」と正直に綴れば「本当に『本格参入』なの?」との疑問を持たれてしまう。だから既存の2店舗の存在は伏せたのだろう。

これは読者を欺く行為だ。記事を大きく見せる小手先の技術は身に付いているのかもしれないが、書き手として良い方向に成長しているとは思えない。

今回の件では2つの選択肢がありそうだ。

(1)「本格参入」を使う場合

本格参入」を使いたいならば、既存の2店舗に触れた上で、今後の出店計画を示して「本格参入」であることに説得力を持たせてほしい。例えば、「これまでは実験的に2店舗を運営してきたが、今後はSCを中心にラーメン業態で年間20店以上を出店する」と書いてあれば、「本格参入」だと納得できる。

ところが記事では、既存2店舗に触れていないだけでなく、具体的な出店計画にも言及していない。「出店余地のあるフードコートなどでラーメン店を増やし、第3の柱に育てたい考えだ」などと書いているだけだ。これでは苦しい。


(2)「本格参入」を諦める場合

松屋フーズはラーメン店に本格参入する」ではなく、「松屋フーズはショッピングセンターでラーメン店の展開を始める」「松屋フーズはショッピングセンターへの出店を再開する」などとする手もある。「本格参入」の方がインパクトがあるのは分かる。だが、実態と乖離しているのに「本格参入」と書くのはダメだ。「本格参入」と呼ぶに値しないものに、その言葉を使うべきではない。

まともな記事の書き手を目指すのならば、そこは妥協しないでほしい。


※今回取り上げた記事「松屋フーズ、ラーメン店 郊外SC、家族客に照準
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170414&ng=DGKKZO15297200T10C17A4TJC000

※記事の評価はD(問題あり)。

2017年4月14日金曜日

「収穫逓増」の説明が奇妙な週刊ダイヤモンド「速習!日本経済」

週刊ダイヤモンド4月15日号の特集「思わず誰かに話したくなる 速習! 日本経済」の中に出てくる「ミクロ経済~ ビジネスに効く八つの思考法」という記事の問題点をさらに指摘ていく。今回は「2 収穫逓減・逓増~打ち出の小づちは本当にあったんです」という「思考法」について述べる。
三池炭鉱宮原坑(福岡県大牟田市)
       ※写真と本文は無関係です

まず「収穫逓減の法則」を見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

大半の生産活動で起こり得る経済現象が、売り上げが増えると利幅が小さくなる「収穫逓減の法則」だ。

新型車の生産を例に考えてみると、大ヒットした場合、労働者(人件費)と資本の追加投入が必要になる。資本を借り入れていれば金利負担が増え、ライバル社が競合車を市場に投入してくれば販売コストや宣伝費もどんどん上がる。つまり全体の売り上げは増えても、生産要素追加1単位当たりの収益の増え方は減少していく。これが収穫逓減の法則だ。


◎「利幅」で見る?

収穫逓減の法則」とは「所与の状況のもとで、ある生産要素を増加させると生産量は全体として増加するが、その増加分は次第に小さくなるという法則」(ブリタニカ国際大百科事典 )ではないのか。だとすると「生産要素追加1単位当たりの収益の増え方」ではなく「生産要素追加1単位当たりの生産量の増え方」で測るのが適切だと思える。

次は「収穫逓増の法則」だ。こちらの方が問題が多い。

【ダイヤモンドの記事】

一方、全体の売り上げが増えて、さらに生産要素追加1単位当たりの収益の増え方も増加する“打ち出の小づち”のような法則がある。「収穫逓増の法則」だ。

からくりは1990年代半ば以降に普及し始めたインターネット。ネットでデジタル商品(スマートフォンのアプリなど)を売れば、増産に対するコストはほとんど増えない


◎「収益の増え方も増加」?

ここでは「生産要素追加1単位当たりの収益の増え方も増加する」のが「収穫逓増の法則」だという記事の説明をまず受け入れてみる(「収益=利益」と仮定する)。しかし、なぜ「ネットでデジタル商品(スマートフォンのアプリなど)を売れば」この法則が成り立つのか謎だ。
流川桜並木(福岡県うきは市)
      ※写真と本文は無関係です

デジタル商品」の「生産要素追加1単位」に掛かる費用が10円で、売値は1000円としてみる。確かに利益率は高いが、どんなに売れても「生産要素追加1単位」から得られる利益は990円のままだ。「収穫逓増の法則」が成り立つのならば、利益が1500円、2000円と増えていくはずだ。売値を段階的に上げていくのならば別だが、そうは書いていない。また「デジタル商品」であれば値上げが顧客から無制限に受け入れられるわけでもない。

減らす余地が少ないとはいえ、費用を少なくする手もある。ただ、記事では「増産に対するコストはほとんど増えない」と説明している。つまり、コストが減るわけではない。だとすると、どうやって「収益(利益)の増え方も増加する」のか。

ちなみに、記事に付けたグラフでは「デジタル商品」に関して、「生産量」が増えるに従って「増産コスト」が減ることになっている。これは記事中の「増産に対するコストはほとんど増えない」という説明とズレがある。それに「デジタル商品」は生産量を増やすに従って「増産コスト」が減るようなものとも思えない。疑問ばかりが残る解説だった。

さらに次の説明も苦しい。

【ダイヤモンドの記事】

例えばSNSなどで知られるミクシィ。2014年3月期は売上高122億円、営業利益5億円だったが、スマホゲーム「モンスターストライク」の大ヒットで翌15年3月期は売上高1129億円、営業利益527億円と、絵に描いたような収穫逓増となった


◎どこが「絵に描いたような収穫逓増」?

『モンスターストライク』の大ヒット」で大幅な増収増益になったからと言って、「絵に描いたような収穫逓増」とは限らない。売り上げが大きく伸びたから大幅増益になっただけで、「生産要素追加1単位」当たりの利益は15年3月期中に落ち始めている可能性もある。「絵に描いたような収穫逓増」だと言い切るのならば、「生産要素追加1単位」当たりの利益がどんどん増えている根拠を示すべきだ。

話が「15年3月期」と少し古いのも気になる。次の16年3月期決算の結果は既に出ているが、そこでは「収穫逓増」とはならなかったのだろうか。


※今回取り上げた記事「ミクロ経済~ ビジネスに効く八つの思考法
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/19845

※特集全体の評価はD(問題あり)。特集の担当者への評価は以下の通り。

大坪稚子記者(Dを維持)
竹田孝洋(Dを維持)
土本匡孝(暫定C→暫定D)
山口圭介(Fを維持)


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

誤り目立つ 週刊ダイヤモンド特集「速習! 日本経済」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_12.html

黒田投手に「限定合理性」? 週刊ダイヤモンドの不適切な説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_25.html

2017年4月13日木曜日

黒田投手に「限定合理性」? 週刊ダイヤモンドの不適切な説明

週刊ダイヤモンド4月15日号の特集「思わず誰かに話したくなる 速習! 日本経済」の不適切な説明について、さらに論じていきたい。ここでは「Part 1~経済は1%の基本だけ覚えればいい」の中の「ミクロ経済~ ビジネスに効く八つの思考法」という記事を取り上げる。まずは8つの「思考法」のうち「4 限定合理性~これで黒田投手の義理堅さも説明できる」の問題点を見ていく。
鎮西身延山 本佛寺の桜(福岡県うきは市)
         ※写真と本文は無関係です

記事では以下のように説明している。

【ダイヤモンドの記事】

2014年暮れ、大リーグに残れば20億円ともいわれた高年俸オファーを蹴って、古巣の広島東洋カープと推定年俸4億円で契約した黒田博樹投手(16年シーズンで引退)。日本では多くの人が拍手喝采、「義理堅い男だ」と褒めちぎった。

黒田投手をたたえる「おとこ気」という言葉がファンの間でブームに。Photo:JIJI
 一方、海の向こうの米国では「Why, Japanese people!?」と叫んだファンがいたかもしれない。同じ「野球」をするのだから、高い給料をもらった方がいいに決まっているじゃないかと。

経済学はコストパフォーマンスの良い方を選ぶ合理的な人間像を前提にしている。が、黒田投手のような人間も想定しており、そのような人間の性質を経済学では「限定合理性」と説明する


◇   ◇   ◇

大リーグに残れば20億円ともいわれた高年俸オファーを蹴って、古巣の広島東洋カープと推定年俸4億円で契約した黒田博樹投手」を記事では「限定合理性」に当てはまる例として取り上げている。これは奇妙だ。
福岡大学病院(福岡市城南区)※写真と本文は無関係です

完全な推論能力や情報処理能力を備えているという意味の合理性に対し、 限定された能力しかもたないことを限定合理性という」(weblio辞書)らしい。黒田投手に限らず人は誰も「限定された能力しかもたない」ものだ。ただ、記事の説明では「完全な推論能力や情報処理能力を備えて」いれば、「高年俸オファーを蹴って」古巣と契約することはなかったとの前提を感じる。

しかし、そうは思えない。「自分の経済的利益を最大化したいのならば、古巣に戻るのは得策ではない」との判断は黒田投手もできたはずだ。しかし「古巣に戻る方がより大きな満足感が得られる可能性が高い」との計算で広島に復帰したのだろう。これは「完全な推論能力や情報処理能力を備えている」場合でも同じ結論になり得る。

だとすれば、黒田投手の判断を「限定合理性」で説明するのは無理が生じる。例えば黒田投手が「なるべく年俸を多く得たい」と思っているのに、「球団から提案された契約の選択肢をよく理解できず、年俸が少なくなるような契約の方を選んでしまった」というのならば「限定合理性」で説明できる。だが、今回は違う。

こんな雑な説明の事例に使われては、黒田投手も気の毒だ。特集の担当者ら(大坪稚子記者、竹田孝洋記者、土本匡孝記者、山口圭介副編集長)には反省を求めたい。


※今回取り上げた記事「ミクロ経済~ ビジネスに効く八つの思考法
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/19845

※記事の評価はD(問題あり)。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

誤り目立つ 週刊ダイヤモンド特集「速習! 日本経済」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_12.html

「収穫逓増」の説明が奇妙な週刊ダイヤモンド「速習!日本経済」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_80.html

2017年4月12日水曜日

誤り目立つ 週刊ダイヤモンド特集「速習! 日本経済」

週刊ダイヤモンド4月15日号の特集「思わず誰かに話したくなる 速習! 日本経済」は誤った説明が目立つ。これを読んで「思わず誰かに話したくなる」人がいたら注意した方がいい。誰かに話せば、恥をかくだけかもしれない。
うきは市役所の桜(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

ここでは特集の中の「Prologue~統計データで見た 日本は『借金まみれの鈍くさい超富裕層』だ」という記事を見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

また豊かさの論拠として「個人金融資産残高」もよく出てくる数字だ。16年3月末時点で1706兆円に達し、米国に次ぐ世界2位の規模。ただし、資産の裏には必ず負債があるということを忘れてはいけない。「個人金融負債残高」でも日本は世界で2番目に多いとされる。

◎「資産の裏には必ず負債あり」?

資産の裏には必ず負債があるということを忘れてはいけない」と記事は教えてくれるが、本当にそうだろうか。借金のない持ち家の世帯は当たり前にあるはずだ。こういう世帯の保有する不動産や金融資産の裏には「必ず負債がある」のか。

負債の裏には必ず資産がある」とは言える。誰かが借金をしている場合、誰かがカネを貸している。そして、貸している側は債権という資産を有している。しかし逆は成り立たない。資産は負債に頼らず自己資金でも入手できる。

以下の説明もおかしい。

【ダイヤモンドの記事】

例えば、経済的な豊かさを表す「1人当たり名目GDP(米ドル)」の世界ランキング。失われた20年と呼ばれる長期低迷期に、日本の国際的地位は凋落してしまった。為替の影響があったとはいえ3位をキープしていた1990年代半ばから、足元では20位台にまで大きく順位を落としている。

しかも日本はこれから人口減少が本格化してくるため、さらなる低下も予想される



◎人口減少が「1人当たりGDP」の低下を招く?

1人当たり名目GDP」について世界ランキングの低下傾向が続いていると説明した後に「日本はこれから人口減少が本格化してくるため、さらなる低下も予想される」と書いている。これは奇妙だ。GDPの総額なら分かる。しかし、ここで言っているのは「1人当たりGDP」だ。人口が少なければ低くなるものではない。記事に付けた表でもあるように、この指標でトップに立つのは小国のルクセンブルクだ。
千仏鍾乳洞(北九州市)※写真と本文は無関係です

以下の記述にも問題がある。

【ダイヤモンドの記事】

経済成長は労働人口と労働生産性の掛け算であり、「人口減少が避けられないなら、働き者の日本人の高い生産性で補えばいい」との意見も出てきそうだ。

しかし実のところ、日本の「1人当たり労働生産性」は意外と低く、OECD加盟35カ国中22位、G7(主要7カ国)では最下位に甘んじている。数字だけを見れば、働き者どころか鈍くさい労働者といった方がピッタリくる。

実際、G7で最も労働生産性の高い米国と比較すると、日本の製造業の生産性は米国の7割、サービス業は5割にとどまるという。日本人は勤勉で働き者というイメージは、日本人自身がつくり上げた虚像なのかもしれない



◎「1人当たり労働生産性」で勤勉さが分かる?

日本の「1人当たり労働生産性」が低いか議論が分かれるところだが、取りあえずは受け入れて低いとしよう。その場合、「日本人は勤勉で働き者」とは言えないと断定できるだろうか。

例を挙げよう。A家とB家は同じ面積の畑を持っていて、同じ種類の野菜を同じ量だけ生産している。結果として両家の年間収入はともに1000万円だとする。A家では家族4人が機械に頼らず懸命に働き、B家では機械を使って2人で楽に作物を育てている。1人当たりの労働時間はA家がB家の2倍。一方、1人当たりの収入はB家がA家の2倍だ。

この場合、「勤勉で働き者」なのはA家の方だろう。しかし1人当たり労働生産性ではB家に完敗する。つまり「1人当たり労働生産性」で勤勉さを測るのは無理がある。より単純に言えば、100万部売れる小説を書く作家の方が10万部しか売れない小説を書く作家よりも「勤勉」とは限らないということだ。「勤勉で働き者」の作家の作品が全く売れず、それほど勤勉ではない作家に生産性で負ける事態は十分にあり得る。

最後に教育の問題を取り上げよう。

【ダイヤモンドの記事】

国の経済発展には人材育成も欠かせない。しかし、日本は未来に向けた投資には無関心のようだ。OECDによれば、日本は「GDPに占める教育機関への公的支出割合」が3.2%で、これは比較可能な33カ国中、なんと最下位のハンガリーに次ぐ32位教育に投資をしない国に未来はない



◎日本は「教育に投資をしない国」?

随分と単純かつ乱暴な説明だ。まず、GDP比で見れば日本で「教育機関への公的支出割合」が低くなるのは自然だと思える。人口に占める若年層の比率が低いからだ。そこを考慮せずに「なんと最下位のハンガリーに次ぐ32位」と驚いても、あまり意味はない。
福岡県立城南高校(福岡市南区)※写真と本文は無関係です

さらに言えば「公的支出割合」で見るのは適切なのか。例えば1人大学生にかかる教育費用が4年間で1000万円だとしよう。現状は公的支出で500万円、私的支出500万円で賄っているとする。これを全額公的支出で賄い、支出増加は増税でカバーすると「未来に向けた投資」に関心が出てきたことになるのか。

私的支出を公的支出で肩代わりしても、大学生1人に投入する金額が増えるわけではない。つまり教育水準には影響しない。教育に関する投資を「未来に向けた投資」と捉えて国別に多寡を論じるならば、国民1人を社会に出すまでにどの程度の投資をしているのか、私的支出も含めて見るべきだ。



※今回取り上げた記事「Prologue~統計データで見た 日本は『借金まみれの鈍くさい超富裕層』だ
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/19851

※記事の評価はE(大いに問題あり)。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

黒田投手に「限定合理性」? 週刊ダイヤモンドの不適切な説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_25.html

「収穫逓増」の説明が奇妙な週刊ダイヤモンド「速習!日本経済」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_80.html

2017年4月11日火曜日

炭素繊維は「商用化まで半世紀」? 週刊エコノミストの誤り

週刊エコノミスト4月18日号の「すごい新素材~セルロースナノファイバー 紙おむつ、化粧品から自動車まで 1兆円市場にらみ量産化へ」という記事で、誤りと思える記述があった。「日本が世界に誇る炭素繊維は、商用化までにほぼ半世紀を費やした」という部分だ。「商用化までにほぼ半世紀を費やした」とは考えにくいので、エコノミスト編集部に問い合わせを送ってみた。内容は以下の通り。
流川桜並木(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

【エコノミストへの問い合わせ】

4月18日号の「すごい新素材~セルロースナノファイバー 紙おむつ、化粧品から自動車まで 1兆円市場にらみ量産化へ」という記事についてお尋ねします。筆者でジャーナリストの吉田智氏は記事の中で「日本が世界に誇る炭素繊維は、商用化までにほぼ半世紀を費やした」と書いています。

炭素繊維協会のホームページによると、国内の先行企業である東レが「炭素繊維の研究に着手」したのが1961年で、「"トレカ"の商品名でCF商業生産開始」が1971年です。これを基に判断すると「商用化までほぼ10年」です。東レのホームページには「大阪工業技術試験所 進藤昭男博士が炭素繊維を発表。これがPAN系高性能炭素繊維の始まりです(1961年)」との記述もあります。ここから考えても「日本が世界に誇る炭素繊維」の出発点は1961年頃でよいはずです。「商用化までほぼ半世紀」だとすると、商用化の時期は2010年頃になってしまいますが、あり得ません。「日本が世界に誇る炭素繊維は、商用化までにほぼ半世紀を費やした」という記事の説明は誤りだと理解してよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が続いています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

筆者の吉田氏は「日本が世界に誇る炭素繊維は、利益を生み出す事業に育てるまでにほぼ半世紀を費やした」と言いたかったのではないか。これならば分かる。だが、赤字が続いたり、市場規模が小さかったりしても「商用化」を否定する根拠にはならない。販売を始めていれば「商用化」はできているはずだ。

日経ビジネス4月10日号の「企業研究~日本製紙 新素材で紙頼み脱却」という記事でもセルロースナノファイバーを解説する中で炭素繊維に触れ「日本発の新素材」という誤った説明をしていた。偶然だろうが、炭素繊維に関しては誤った認識がを持たれやすいのかもしれない。

製紙メーカー」というダブり感のある表現を用いている点でも2つの記事は共通する。「製紙メーカー」「製薬メーカー」といった表現は定着したと見るべきかもしれないが、どうもしっくり来ない。「製紙会社」「製薬会社」で通じるのだから、こちらを使ってほしい。


※結局、問い合わせに対する回答はなかった。記事の評価はD(問題あり)。吉田智氏への評価も暫定でD(問題あり)とする。なお、日経ビジネスの記事については以下の投稿を参照してほしい。

炭素繊維は「日本発」? 日経ビジネス「企業研究~日本製紙」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_7.html

2017年4月10日月曜日

「お金のデザイン」を持ち上げる日経 田村正之編集委員の罪

日本経済新聞はロボットアドバイザーでの運用サービスを提供する「お金のデザイン」という会社がお気に入りだ。紙面で繰り返し好意的に紹介している。そして、日経の田村正之編集委員は金融業界寄りの姿勢が目立つ書き手だと言える。では、田村編集委員が「お金のデザイン」を取り上げるとどうなるのか。
筑後吉井駅の桜(福岡県うきは市)
       ※写真と本文は無関係です

電子版に載った「ロボアド運用、仕組みと実力は? 『テオ』を分析」という記事(4月7日付)では、やはり「お金のデザイン」を持ち上げている。しかし、その解説には説得力がない。まずコストに関する説明が「業界寄り」だ。

【日経の記事】

ロボアドには(1)資産配分を助言するだけ(2)助言に基づいて運用までを一任――の2種類ある。テオは後者だ。海外の数多くの上場投資信託(ETF)を使って最低10万円から国際分散投資ができ、コスト(投資一任報酬)は預かり資産の1%だ。その他の売買手数料や為替手数料などはかからない


◎ETFの信託報酬は無視?

コスト(投資一任報酬)は預かり資産の1%だ。その他の売買手数料や為替手数料などはかからない」という説明は間違いではないだろう。ただ、ETFで運用するのであれば、投資家は「預かり資産の1%」に加えてETFの信託報酬を実質的には負担する。これには触れてほしかった。

次に「お金のデザイン」を持ち上げるくだりを見ていこう。

【日経の記事】

他社のロボアドには全部でも5~6種類の配分しか提示されないものがあるが、テオではこうした配分例が質問への回答次第で231種類でき、その中で最適なものが提示される。

テオのコストは年1%。世界的な成長鈍化を背景に投資の期待リターンも下がる中、最近は世界全体の株式に投資できるインデックス(指数連動)型投信なら年に0.2%程度、海外のETFなら0.1%台のコストも珍しくない。お任せだからといって、コスト1%に見合う利点はあるのだろうか
千仏鍾乳洞(北九州市)※写真と本文は無関係です

グラフDは昨年2月からのテオの資産配分231通りに基づいて運用した実績と、他社のロボアドの5つの資産配分の結果だ(円ベース、コスト控除前。他社のロボアドもコストは同じ1%近辺)。

目を引くのは同じリスクの場合に、テオの方が高いリターンを達成できていること。例えば右端のリスク18%前後の配分例だと、他社のロボアドのリターンが19%なのに対し、テオは24%程度(いずれも年率換算)。

この差は何か。比較対象の他社のロボアドは7つ程度の少ないETFの組み合わせでポートフォリオを構成するので、リスク・リターンは国内外の株や債券などのそれぞれの指数自体の動きがおおむね反映される。

テオの場合は最大30強のETFを組み合わせることで、指数そのものより効率的な運用を目指すスマートベータ(賢い指数)型の運用をしている。特にグロースでは最小分散投資というスマートベータの手法に基づき、より小さなリスクでより大きなリターンを実現できた」(北沢COO)。

今回は運用開始後まだ1年程度の実績だが、同様に同じリスクで相対的に高いリターンを継続できれば、コストにこだわる投資家にも一定の納得感が得られるかもしれない

時間の経過とともに資産の値動きの違いで配分比率が崩れた際に元に戻す「リバランス」については、年に1~2回というロボアドもある中、テオは毎月行う。

リバランスの頻度が多いほどリスク・リターンが向上するとは限らないとの議論やデータもある。ただテオの場合は、きめ細やかに実施することでスマートベータ型運用をより精緻に行えていることが、相対的に高いリターンにつながっている面もありそうだ

北沢COOは「グラフDは投資一任報酬控除前の数値だが、もちろん投資一任報酬を含めたコストも重要。ただ、自分でこれだけ多くのETFを組み合わせる運用をすると1%ではできないことも知ってほしい。テオでは実際の売買でもアルゴリズムの手法でETFを効率的に売買するなどコスト最小化に取り組んでいる」と話す。


◎「コスト1%に見合う」かを論じてる?

上記の説明で最も罪深いのは「お任せだからといって、コスト1%に見合う利点はあるのだろうか」と問題提起しているのに、それをまともに論じていない点だ。本来ならば「自分でETFを組み合わせるケース」と「お金のデザインに任せるケース」を比較検討すべきだ。しかし、田村編集委員はなぜかコストがほぼ同じの「他社のロボアド」と比べている。これでは話にならない。
耳納連山から見た筑後平野(福岡県久留米市)
            ※写真と本文は無関係です

「自分でETFを組み合わせるより、お金のデザインに任せる方がリターンを確実に1%以上高められそうだな」と思えれば、「コスト1%に見合う利点はある」と言える。証券アナリストとファイナンシャルプランナーの資格を持っているのが自慢の田村編集委員ならば、そのぐらいは分かっているはずだ。意図的に逃げているのだろうか。

強いて言えば「自分でこれだけ多くのETFを組み合わせる運用をすると1%ではできないことも知ってほしい」という「北沢COO」のコメントが手掛かりとなる。

しかし、「自分でこれだけ多くのETFを組み合わせる運用をすると1%ではできない」と言える根拠は不明だ。まず、国内の証券会社経由でも多数の海外ETFに「自分で」投資できる。投資資金1000万円であれば、その「1%」は10万円。自分で30銘柄に投資すると、売買手数料で最初に1万円ぐらいかかるかもしれないが、2年目以降はリバランスを多少すればいいだけだ。ETFの信託報酬などを考慮しても「自分でこれだけ多くのETFを組み合わせる運用をすると1%ではできない」と考える方が無理がある。


◎「お金のデザイン」には特別な力がある?

記事を読んで「同程度のリスクを取りながら、他のロボアドより高いリターンを実現できているのならば、やはり価値があるのではないか」と思う人もいるだろう。だが、ここはかなり割り引いて考える必要がある。
千鳥ヶ淵の桜(東京都千代田区)※写真と本文は無関係です

まず「他のロボアド」がどのロボアドなのか不明だ。そして、比較する「他のロボアド」は「お金のデザイン」が選んでいるようだ。その場合、複数の比較対象の中から最も自分たちの優位性を示せそうなロボアドを選ぶだろう。

他のロボアド」に比べて高いリターンを得られたのは単なる偶然という可能性も残る。田村編集委員もその辺りは分かっているようだ。「今回は運用開始後まだ1年程度の実績だが、同様に同じリスクで相対的に高いリターンを継続できれば、コストにこだわる投資家にも一定の納得感が得られるかもしれない」と抑えた書き方はしている。

ただ「同じリスクで相対的に高いリターンを継続」するのが難しいのは田村編集委員も知っているはずだ。そんな芸当が可能ならば、お金のデザインには運用に関する特別な力があることになる。しかし、ETFの組み合わせでライバルの運用成績を継続的に上回るとは期待しづらい。

他社のロボアドは7つ程度の少ないETFの組み合わせ」だが、「テオの場合は最大30強のETFを組み合わせる」から高いリターンが得られるとしよう。これが本当ならば(本当だとは思わないが、長くなるのでここでは論じない)、他社もすぐに真似するだろう。そうなれば差はなくなる。

リバランスについても同様だ。それで本当にリターンが高められるのならば、他社も同様の手法を取るだろう。しかし、田村編集委員も「リバランスの頻度が多いほどリスク・リターンが向上するとは限らないとの議論やデータもある」と書いているように、リバランスでリターンを高められると期待する根拠は乏しい。

お金のデザインに関して、個人的に投資初心者へ助言するなら以下のような内容になる。

「お金のデザインのロボアドに頼るのはやめた方がいい。ETFに投資したいのならば、自分で銘柄を選ぶべきだ。極端に言えばクジでETFを選んでもいい。ETFを投資対象にしているのだから、それだけで投資対象のある程度の分散はできている。その方が投資額の1%も払ってロボアドに頼るよりマシだ。1%も払ったら、低コストというETF投資のメリットが台無しになってしまう」

これに対する有効な反論は田村編集委員もできないはずだ。

最後に記事の終盤を見ておこう。田村編集委員の「業界寄り」の姿勢がよく出ている。

【日経の記事】

(お金のデザインでは)コストは現状で最小限に抑えているとはいえ、今後さらなる低減を期待したい。米国では巨大投信会社バンガードがロボアドと、対面でのファイナンシャルプランナーの助言を組み合わせたサービスを年0.3%で実施するなど、低コスト化がいっそう加速している。現時点ではできない積み立て投資のシステムなどの実現も期待されている。



◎「コストは現状で最小限」?

コストは現状で最小限」と言い切っているが、根拠は示していない。なぜ「最小限」と断定できるのか謎だ。しかも「米国では巨大投信会社バンガードがロボアドと、対面でのファイナンシャルプランナーの助言を組み合わせたサービスを年0.3%で実施」しているらしい。ならば、「最小限」ではなく「米国の大手に比べると高コスト」とも言える。米バンガードの3倍以上のコストを「現状で最小限」と評してくれるのだから、田村編集委員の業界への優しさは相当なものだ。それは、投資家側に立っていないことの裏返しでもある。


※今回取り上げた記事「マネー研究所 投資道場ロボアド運用、仕組みと実力は? 『テオ』を分析
http://style.nikkei.com/article/DGXMZO14646850Z20C17A3000000?channel=DF280120166571

※記事の評価はD(問題あり)。田村正之編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。田村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「購買力平価」に関する日経 田村正之編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_20.html

リバランスは年1回? 日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_1.html

無意味な結論 日経 田村正之編集委員「マネー底流潮流」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_26.html

なぜETFは無視? 日経 田村正之編集委員の「真相深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_24.html

功罪相半ば 日経 田村正之編集委員「投信のコスト革命」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_84.html

投資初心者にも薦められる日経 田村正之編集委員の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_64.html

「実質実効レート」の記事で日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_10.html

ミスへの対応で問われる日経 田村正之編集委員の真価(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_58.html)

日経 田村正之編集委員が勧める「積み立て投資」に異議
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_2.html

「投信おまかせ革命」を煽る日経 田村正之編集委員の罪(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_3.html)

運用の「腕」は判別可能?日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_21.html