2023年12月26日火曜日

親子上場は「日本特有の形態」? 日経 大西康平記者の誤解

記事中の誤りと見られる記述について久しぶりに日本経済新聞社へ問い合わせてみた。

宮島連絡船

日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 欧州総局 大西康平様

26日朝刊投資情報面に載った「一目均衡~『親子解消』に欧州マネー」という記事についてお尋ねします。「親子上場」に関して「日本特有の形態で少数株主利益が損なわれるとの批判が根強く、近年、親会社のTOB(株式公開買い付け)による完全子会社化が増えている」と大西様は説明しています。これが正しいならば海外に「親子上場」はないはずです。

しかし2019年11月5日号の週刊エコノミストの記事で一橋大学特任教授の藤田勉氏は「日本ほど活発でないが、親子上場は大陸欧州や南米を中心に海外でも広く存在する。海外の証券取引所で、親子上場を禁止している例はない」と述べており、大西様の説明と食い違います。

例えば日経は23年9月27日付で「アリババ、物流子会社を上場申請 香港で、過半保有は継続」と報じています。22年9月15日付では「テンセント音楽子会社、香港で重複上場へ」という日経の記事もあります。「ニューヨーク証券取引所(NYSE)との重複上場になる」との記述から判断するとNYSEも含めての「親子上場」と言えます。

大西様が「親子上場」を「日本特有の形態」と断定したのは誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。日経では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある対応をお願いします。


◇   ◇   ◇


問い合わせは以上。回答はないだろう。

※今回取り上げた記事「一目均衡~『親子解消』に欧州マネー」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231226&ng=DGKKZO77255610V21C23A2DTA000


※記事の評価はD(問題あり)

2023年10月31日火曜日

何とか紙面を埋めただけの日経 小平龍四郎編集委員「一目均衡~『北欧』が問うESGの真価」

日本経済新聞の小平龍四郎編集委員が苦しい。31日の朝刊投資情報2面に載った「一目均衡~『北欧』が問うESGの真価」 という記事の中身を見ながら問題点を指摘していく。

宮島連絡船


【日経の記事】

スウェーデンを足場に米欧アジアに投資をしてきたプライベートエクイティ(PE=未公開株)ファンド、EQTが日本で本格的に活動を始める。2021年に日本拠点を設置。22年にベアリング・プライベート・エクイティ・アジアと業務を統合し、パイオニアなどへの投資を引き継いだ。このほど首脳陣が来日し、日本の経済や産業を自らの目で確かめた。

1994年設立、資産規模2200億ユーロ(約35兆円)の北欧ファンドは、投資先の選定や価値向上において、ESG(環境・社会・企業統治)の要素を重視することで知られる。いわばPE版のESG投資家だ。

日本の証券会社の間で「ESGブームもそろそろ冷めようか」というこの時期、なぜ日本に来たのか。コニ・ヨンソン会長とマルクス・ワレンバーグ副会長に聞いてみた。

「地域社会や従業員への目配りを抜きに、投資のリターンは見込めない」(ヨンソン会長)「北欧では持続可能性を抜きに何ごとも成し遂げられない」(ワレンバーグ副会長)――。口ぶりににじむ確信は、スウェーデンの歴史にも裏づけられる。


◎答えになってる?

来日した「EQT」首脳に取材できることになったので「これで『一目均衡』を書けばいいや」と小平編集委員は思ったのだろう。それ自体は悪くない。しかし「上手く記事を作れそうにない」と感じたら潔く撤退してほしい。

『ESGブームもそろそろ冷めようか』というこの時期、なぜ日本に来たのか」を問うのは分かる。だが答えが辛い。「地域社会や従業員への目配りを抜きに、投資のリターンは見込めない」も「北欧では持続可能性を抜きに何ごとも成し遂げられない」も「この時期、なぜ日本に来たのか」の答えにはなっていない。取材時に「この時期、なぜ日本に来たのか」に関して明確な答えを引き出すことを小平編集委員が諦めたのならば「この時期、なぜ日本に来たのか」という問題提起も諦めるべきだ。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

EQTはスウェーデンの名門ワレンバーグ家から派生したファンドだ。家電のエレクトロラックスや通信のエリクソン、防衛のサーブなどスウェーデンを代表する多国籍企業を支えた同家の投資哲学を引き継いでいる。

通底するのは地政学的な緊張に向き合いつつ、決して大きくない母国市場を地盤にグローバル化を進めるしたたかさだ。ステークホルダー(利害関係者)への全方位の配慮は欠かせず、それを具現する手段がESGという位置づけだ。美辞麗句ではないし、金融商品のセールストークではありえない


◎なぜ「美辞麗句ではない」?

美辞麗句ではないし、金融商品のセールストークではありえない」と「EQT」を持ち上げているものの理由が分かりにくい。「地域社会や従業員への目配りを抜きに、投資のリターンは見込めない」「北欧では持続可能性を抜きに何ごとも成し遂げられない」という発言を受けた説明だろうが「美辞麗句」とも「金融商品のセールストーク」とも取れる。

EQT」に「地政学的な緊張に向き合いつつ、決して大きくない母国市場を地盤にグローバル化を進めるしたたかさ」があるのなら、事業拡大のために「美辞麗句」も「金融商品のセールストーク」も口から出てくる「したたかさ」はありそう。ただ今回の会長・副会長コメントは「当り障りのない内容」としか感じられない。

さらに続きを見ていく。


【日経の記事】

そう考えると、北欧のESGプレーヤーが今の日本で活動を始めることには象徴的な意味を見いだせる

経済規模でドイツに抜かれる見通しとなり、新興国が追ってくる日本にあって、企業は自国に閉じこもってばかりでは生き延びられない。外に目を向ければロシア・ウクライナや、イスラエル・ハマスの紛争など、いたるところで地政学リスクが顕在化する。平和を前提にしたグローバル戦略はもはや成り立たず、それは数々の戦争や動乱に向き合ってきたかつての北欧の状況に重なる


◎「象徴的な意味を見いだせる」?

「取材で面白い話は聞けなかったが記事にはしなければならない」と突っ走ってしまうと強引なこじつけに頼りがちだ。小平編集委員も「北欧のESGプレーヤーが今の日本で活動を始めることには象徴的な意味を見いだせる」と打ち出してしまった。だが説得力はない。

企業は自国に閉じこもってばかりでは生き延びられない」と言うが、日本企業が「自国に閉じこもってばかり」ではないのは自明。グローバルに事業を展開する企業も多数ある。そんなことは小平編集委員も分かっているだろう。しかし、こじつけのためには今まで日本企業が「自国に閉じこもってばかり」いたかように書くしかない。

平和を前提にしたグローバル戦略はもはや成り立たず、それは数々の戦争や動乱に向き合ってきたかつての北欧の状況に重なる」という話も同様だ。「地政学リスクが顕在化する」のは今に始まったことではない。「数々の戦争や動乱に向き合ってきた」歴史は日本も嫌と言うほど持っている。

北欧のESGプレーヤーが今の日本で活動を始めること」に特に「象徴的な意味」は感じられない。そもそも「ESG」はどうなったのか。

終盤になると話はさらに漠然としてくる。


【日経の記事】

企業に環境や社会への配慮、人材の多様性が求められるのは、不確実性に満ちた世界を進むための感度を高め、持続力を高める必要があるからだ。欧州の投資家と話すと強く感じることだ。

反ESGの風が強まる米国も、企業の意識は鈍っていない。ナスダックの調べでは主要3000社の約8割が、23年第1四半期の決算説明でESG関連テーマを取り上げた。気候変動などのほか、サイバーセキュリティーや倫理といった項目もある。

米企業も持続可能性を求めるグローバル市場の圧力を強く受けている。政治的な思惑や流行は無関係だ


◎結局、何が言いたい?

記事はこれで全て。なぜか「米企業も持続可能性を求めるグローバル市場の圧力を強く受けている。政治的な思惑や流行は無関係だ」という米国の話が結論になってしまった。「結局、何が言いたいの?」と聞きたくなるような脱線した展開だ。小平編集委員としては「特に言いたいことなんてない。何とか話をまとめようとしてあれこれ書いただけだよ」といったところだろう。

基本的には手抜きの結果と見ているが、一生懸命に書いてこの出来ならば書き手としての引退を考えた方がいい。


※今回取り上げた記事「一目均衡~『北欧』が問うESGの真価」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231031&ng=DGKKZO75723980Q3A031C2DTC000


※記事の評価はD(問題あり)。小平龍四郎編集委員への評価はC(平均的)からDに引き下げる。小平編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「危機は常に『未踏』の場所から」が苦しすぎる日経 小平龍四郎編集委員https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/08/blog-post.html

「近づく百貨店終焉の足音」を描けていない日経 小平龍四郎編集委員の記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/02/blog-post_7.html

日経 小平龍四郎編集委員  「一目均衡」に見える苦しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_15.html

基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_11.html

基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_73.html

日経 小平龍四郎編集委員の奇妙な「英CEO報酬」解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_19.html

工夫がなさすぎる日経 小平龍四郎編集委員の「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_3.html

やはり工夫に欠ける日経 小平龍四郎編集委員「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_11.html

ネタが枯れた?日経 小平龍四郎編集委員「けいざい解読」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_20.html

山一破綻「本当に悪かったのは誰」の答えは?日経 小平龍四郎編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_10.html

日経「一目均衡」に見える小平龍四郎編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_14.html

相変わらず問題多い日経 小平龍四郎編集委員「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_53.html

 何のためのインド出張? 日経 小平龍四郎編集委員「一目均衡」https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post.html

2023年10月2日月曜日

「DXで医療再生」に説得力欠く日経 大林尚編集委員「核心~英独にみた医療DXの功罪」

日本経済新聞の大林尚編集委員は9月下旬に「健康保険組合連合会が両国(英独)へ派遣した調査団に同行する機会を得た」らしい。おいしい海外出張に見える。遊んできた訳ではないと示すために朝刊オピニオン面に「核心:英独にみた医療DXの功罪~EU水準に追いつけ日本」という記事を書いたのだろうが、出張報告の域を出ない出来だった。中身を見ながら注文を付けていく。

錦帯橋


【日経の記事】

20世紀に2度の大戦で死闘を繰り広げた英国とドイツは国の制度も好対照を成す

医療制度に関していえば、財源調達に英国が税方式を採っているのに対しドイツは社会保険方式だ。日本は明治中期以降、ドイツ帝国の鉄血宰相ビスマルクが制定した健康保険法を手本に、曲折を経ながらも制度を整えてきた。


◎無駄な対比

英国とドイツは国の制度も好対照を成す」と冒頭で書いているので英独比較が軸になるのかと思えるが、そういう構成にはなっていない。「健康保険組合連合会」の「調査団」が訪問したのが英独だったから英独の話を中心に記事をまとめただけだろう。それはそれでいいので読者に変な期待を持たせるような書き方はしない方がいい。「好対照」を軸に話を展開するなら「医療DX」でも「好対照」だと見せる必要がある。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

国内居住者すべてに健康保険への加入を義務づけ、加入者と家族は保険証を出せば原則どの医療機関にかかってもよいという独自の体制を完成させたのは1960年代。医療界が「世界に冠たる」という枕ことばで語る、この皆保険制度をうらやむ国は多い。

だが「冠たる」に値しないケースがままあることを、コロナ禍が浮き彫りにした。発熱外来で検査を受けられない。肺炎の症状を呈しているのに病院のICU(集中治療室)がみつからない。2021年夏には、産気づいた女性がコロナ感染を理由にして9つの産科に受け入れを拒まれ、やむなく自宅で早産したが、赤ちゃんが死亡するという悲劇があった。

少なくとも世界に引けを取らない水準への医療再生が岸田政権の政治課題だ。カギを握るのは、デジタル技術を縦横に生かす医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の深化である。


◎「世界に引けを取らない水準」?

世界に引けを取らない水準」がよく分からない。「産気づいた女性がコロナ感染を理由にして9つの産科に受け入れを拒まれ、やむなく自宅で早産」するような事態は世界水準では起きないのか。記事を読み進めると英国では「パンデミック初期、医療崩壊が現実になった」ようだ。となると英国と日本だけが世界水準を下回っているのか。その辺りが漠然としたまま「医療再生」の鍵が「医療DXの深化」だと言われても困る。

さらに見ていく。


【日経の記事】

医療情報は個人情報のなかでも最も慎重に扱われるべきものだ。堅牢(けんろう)な保護ルールを施し、デジタル化した医療データを治療や研究にもっと使いやすくする。病院の繁閑を誰もが手元のスマホで簡便・瞬時に確認できるようにする。どの国にもあてはまる目標であろう。

英独の取り組みはどうか。9月下旬、筆者は健康保険組合連合会が両国へ派遣した調査団に同行する機会を得た。日本以上にコロナに苦しんだ欧州である。医療再生にはDXが必要条件になるという方向性は英独に一致していた


◎「方向性は一致していた」なら…

医療再生にはDXが必要条件になるという方向性は英独に一致していた」らしい。改めて言うが、何のために冒頭で「20世紀に2度の大戦で死闘を繰り広げた英国とドイツは国の制度も好対照を成す」と書いたのか。

さらに見ていく。


【日経の記事】

ドイツのデジタル化の現状は日本に似ている。医療と健康に関するデジタルインフラを担う政府機関ゲマティークで、デジタル戦略とデータ標準化を統括するヘッヒャール氏は「わが国の医療サービスはEU(欧州連合)の他の国々より質が高い。それがあだになり、DXに取り組む動機が鈍っていた」と釈明した。


◎話が違うような…

わが国の医療サービスはEU(欧州連合)の他の国々より質が高い。それがあだになり、DXに取り組む動機が鈍っていた」という「ヘッヒャール氏」のコメントは引っかかる。素直に受け取ればドイツは「DX」劣等生でありながら「医療サービス」優等生だったはずだ。優等生なのになぜ「医療再生」が必要なのか。「DX」によって「医療サービス」優等生の優秀さがさらに高まるのなら分かる。しかし大林編集委員の見立てではドイツも「医療再生」が必要な状況のはずだ。どういうことなのか。

この後の説明も理解に苦しんだ。


【日経の記事】

EU水準に追いつこうと、ゲマティークが躍起になっているのが電子処方箋アプリの普及だ。患者はアプリに蓄積した医師の処方箋データをかかりつけの薬局に送信し、宅配便などで薬を受け取る。この利点は、日本でも大問題になっているポリファーマシー(多剤投与)の抑止にひと役買う可能性ではないか

いくつかの慢性疾患を患う高齢者があちこちの診療科をかけもち受診し、そのたびに薬を処方される。薬箱はあふれかえり、飲み合わせが悪かったり副作用リスクがわかりにくくなったりする。

個々の医師は診断に自信をもって処方しても、結果として患者は用法・用量を守るのが難しくなり、かえって健康を損なうおそれが強まる。合成の誤謬(ごびゅう)だ。処方箋アプリは長寿化が進行する日本にこそ必要だろう。


◎「ポリファーマシーの抑止にひと役買う」?

電子処方箋アプリの普及」が「ポリファーマシー(多剤投与)の抑止にひと役買う」と大林編集委員は見ているようだが、なぜそう言えるのか。日本では「お薬手帳」で「多剤投与」の状況をチェックできる。それでも「ポリファーマシー」の問題が起きているのに「電子処方箋アプリの普及」でなぜ状況が改善するのか。その「可能性」が十分だと見るならば、そこはもう少し詳しく説明すべきだ。

続きを見ていく。


【日経の記事】

ドイツにとっての決定的な刺激剤は、デジタル医療データのEU共通基盤「欧州ヘルスデータ・スペース」(EHDS)だ。22年5月、関連法案が欧州議会に提出された。完成すればEU市民は域内27のどの国でも自らの医療データを取り出し、医師の診察を受けられるようになる。

ドイツは国内のシステムをEHDSに接続する時期を25年に定めた。ゲマティークはデンマーク、スウェーデンなど北欧のデジタル先進国から医療DXのよい点を導入すべく試行錯誤を重ねている。日本もEUに入れてくれるなら医療DXが一気に進むのに、と話を聞きながら夢想した。


◎「医療DXのよい点」とは?

今回の記事を読んでも「医療DXのよい点」がよく分からない。「産気づいた女性がコロナ感染を理由にして9つの産科に受け入れを拒まれ、やむなく自宅で早産」するような事態を避けられると言いたいのかと思ったが、そういう話は出てこない。「ポリファーマシー」の問題を解決できそうな感じもしない。「EHDS」が「完成すればEU市民は域内27のどの国でも自らの医療データを取り出し、医師の診察を受けられるようになる」らしいが、そうなると何が良くなるのかは教えてくれない。「コロナ感染を理由」に「受け入れを拒まれ」る事態を防げるのか。そうではないとしたら、なぜ「EHDS」が「医療再生」に繋がるのか。

色々と疑問が湧く中で話は英国へと移る。


【日経の記事】

一方、16年の国民投票でEU離脱を選択した英国は、コロナ禍で受けた傷がドイツよりもはるかに深かった。医療制度を運営する国民医療制度(NHS)傘下の病院・診療所はパンデミック初期、医療崩壊が現実になった。

同国の医療DXは「医療も介護もデジタルファースト」をうたった19年のNHS長期計画が原点だ。これを足がかりに、医療崩壊に直面したジョンソン保守党政権はデジタル化を遮二無二推し進めた。ハンコック保健相(当時)は「全てのGP(家庭医)はリモート診察をデフォルトに」と宣言したが、のちに女性問題で辞任することになる。

独立系研究機関ナフィールド・トラストのカリー局長補佐は「デジタルで問題が魔法のように解消するという期待が政治家には強すぎる」と、冷ややかにみていた。

コロナ後、情勢が落ち着くにつれGP診療所で重い役割を果たすようになったのが、受診予約を入れた患者のトリアージを一手に引き受ける受付係だ。治療の優先順位だけでなく、診察は対面かオンラインか、担当するのはGPかナースプラクティショナー(診療看護師)か――などを仕分けしてゆく。

この機能を医療職以外が担うのには賛否あろうが、勤務医の働き方改革が迫られている日本の病院にも参考になる点はあろう。


◎どこが「DXで医療再生」?

医療再生にはDXが必要条件になるという方向性は英独に一致していた」はずなのに、英国に関しては「医療崩壊に直面したジョンソン保守党政権」が「デジタル化を遮二無二推し進めた」ものの上手くいかなかったという話になっている。なのに「医療再生にはDXが必要条件」なのか。「コロナ後、情勢が落ち着くにつれGP診療所で重い役割を果たすようになったのが、受診予約を入れた患者のトリアージを一手に引き受ける受付係」だとしたら「DX」が「医療再生」の原動力になっているようには見えない。

そして記事は以下のように終わる。


【日経の記事】

医療制度はどの国にも一長一短ある。日本とは対照的に、医療機関へのアクセスを厳格に制限しているNHSは、18週間以上の手術待ち患者を760万人抱えている。この英国医療最大の弱点をDXがどこまで救うのか。次なる課題である。


◎結局あまり意味がなさそうだが…

デジタル化を遮二無二推し進めた」英国では「18週間以上の手術待ち患者を760万人抱えている」らしい。なのに「この英国医療最大の弱点」を「DX」が救うのか。結局「DX」と「医療再生」はあまり関係なさそうという感想しか持てない。


※今回取り上げた記事「核心:英独にみた医療DXの功罪~EU水準に追いつけ日本」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD280TR0Y3A920C2000000/


※記事の評価はD(問題あり)。大林尚編集委員への評価はC(平均的)からDへ引き下げる。大林編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

大林尚編集委員の「人口戦略」が見えない日経「核心~今年は島根県を失うのか」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/04/blog-post_4.html

年金70歳支給開始を「コペルニクス的転換」と日経 大林尚上級論説委員は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/70.html

「オンライン診療、恒久化の議論迷走」を描けていない日経 大林尚編集委員「真相深層」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/blog-post_21.html

「財政破綻はある日突然」? 日経 大林尚上級論説委員「核心」に見える根拠なき信仰https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/06/blog-post_28.html


日経 大林尚編集委員への疑問(1) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_72.html

日経 大林尚編集委員への疑問(2) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_53.html

日経 大林尚編集委員への疑問(3) 「景気指標」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post.html

なぜ大林尚編集委員? 日経「試練のユーロ、もがく欧州」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_8.html

単なる出張報告? 日経 大林尚編集委員「核心」への失望
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_13.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_16.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_17.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_33.html

まさに紙面の無駄遣い 日経 大林尚欧州総局長の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_18.html

「英EU離脱」で日経 大林尚欧州総局長が見せた事実誤認
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_25.html

「英米」に関する日経 大林尚欧州総局長の不可解な説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_60.html

過去は変更可能? 日経 大林尚上級論説委員の奇妙な解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_14.html

年金に関する誤解が見える日経 大林尚上級論説委員「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_6.html

今回も問題あり 日経 大林尚論説委員「核心~高リターンは高リスク」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_28.html

日経 大林尚論説委員の説明下手が目立つ「核心~大戦100年、欧州の復元力は」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/100.html

株安でも「根拠なき楽観」? 日経 大林尚上級論説委員「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_20.html

日経 大林尚上級論説委員の「核心~桜を見る会と規制改革」に見える問題
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_25.html

2020年も苦しい日経 大林尚上級論説委員「核心~選挙巧者のボリスノミクス」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/2020.html

2023年9月7日木曜日

店舗に張り付いて客単価を調べた日経の安西明秀記者は面白いかも

日本経済新聞の安西明秀記者は粗削りだが面白いかも。7日の朝刊 投資情報面に載った「記者の目:コメダ、群抜く収益力~損益分岐点比率低く 店舗数ドトール猛追、客単価の高さ強み」という記事を読んでそう感じた。ツッコミを入れながら中身を見ていきたい。

宮島連絡船

【日経の記事】

名古屋発祥の喫茶店「コメダ珈琲店」を展開するコメダホールディングスが首都圏で攻勢に出ている。店舗数はグループ1000店に達しスターバックスコーヒージャパンやドトールコーヒーを猛追する。ビジネス街でも豊富なメニューで居間でくつろぐような需要を掘り起こせるとみて、都心部を開拓しようとしている。

7月、JR新橋駅から徒歩3分のビルにコメダ珈琲店「新橋烏森通り店」が開業した。都内で働く50代会社員は「コメダは昔懐かしい雰囲気が好きで利用する」と話す。


◎具体的な数字を見せないと…

コメダホールディングスが首都圏で攻勢に出ている」と冒頭で打ち出したのだから、出店数などの数字を見せて「首都圏で攻勢に出ている」実態を読者に伝えないと。しかし出てくるのは「『新橋烏森通り店』が開業した」という話だけ。これでは辛い。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

いちよし経済研究所の鮫島誠一郎氏は新型コロナウイルス禍が本格化する前の2019年度の外食各社の損益分岐点比率を調べた。損益分岐点比率は売上高に対して利益が出る水準を示し、低いほど収益力が高い。ドトール・日レスホールディングスは83%だった。ファミリーレストランなど他の外食も70~90%程度だが、コメダは29%と群を抜いて低かった

コメダに財務的な強みをもたらすのは95%に達するフランチャイズチェーン(FC)だ。直営店は限られるため、実態は外食というよりもロイヤルティー収入も得る食品卸に近い。「コーヒーやパンは自社製造だが多額の設備投資は必要ない。店舗の建物など固定資産はFC側のものだ」(コメダ)。少ない資産と低いコストが収益力の高さとなっている。


◎FC比率の問題なら…

見出しでも「損益分岐点比率低く」と打ち出しているが、その要因が「FC比率が高いから」ならば、あまり意味はない。固定費負担が少ないのだから「損益分岐点比率」が低く出るのは当然。同じくらいのFC比率の同業他社と比べても「損益分岐点比率」が低いのかどうかが知りたい。

さらに見ていく。一番気になったくだりだ。


【日経の記事】

コメダの強みはそれだけではない。週末のお昼時、名古屋市の都心部・栄周辺にある3大チェーンの店舗で記者が合計100人の来店客の注文を観察した。ドトールコーヒーショップの客単価は約530円、スタバは約570円だったのに対し、コメダは約850円で客単価の高さが際立つ。


◎どうやって「観察」?

週末のお昼時、名古屋市の都心部・栄周辺にある3大チェーンの店舗で記者が合計100人の来店客の注文を観察した」らしい。各社が「客単価」を公表していないということか。安西記者の頑張りには敬意を表したい。ここまでやる記者はなかなかいないだろう。

ただ、実際にどうやって「観察」したのかは気になる。レジ近くの席に張り付いて店員が客に知らせる合計金額を聞き取っていたのか。ちょっと怪しい感じにはなりそう。

さらに続きを見ていこう。


【日経の記事】

コメダの客層は家族連れなどが多く食事を長時間楽しんでいる姿が目立つ。アイスコーヒー(480円)だけでなく、グラタン(910円)や熱々のパンにソフトクリームを乗せた看板スイーツ、シロノワール(680円)などフードが豊富だ。鮫島氏は「コメダの強みはフード。差異化できる」と指摘する。


◎これだけ?

コメダの強みはフード」というコメントを使っているが、記事の説明では「強み」は感じられない。「フードが豊富」なのが「強み」なら他社が追随するのは難しくなさそう。「いや難しい」という話なら、なぜそうなるのかを解説してほしい。

さらに見ていく。


【日経の記事】

コメダ珈琲店は1968年に名古屋で1号店を開業した。500店達成は13年で、それから10年間で店舗網を倍増させた。和風喫茶などの他業態や海外を除き、8月末時点で国内で944店のコメダ珈琲店を運営するが、コメダHDの甘利祐一社長は「首都圏をはじめ、国内にまだまだ出店余地がある」と意気込む。


◎首都圏以外の出店余地は?

首都圏をはじめ、国内にまだまだ出店余地がある」という社長コメントを使うのならば「首都圏」以外でどこに「出店余地」があるのかは触れてほしかった。

終盤を一気に見ていこう。


【日経の記事】

スターバックスコーヒージャパンは6月末で1846店を展開。ドトールコーヒーは「エクセルシオールカフェ」などを除いた主力業態の「ドトールコーヒーショップ」に限れば8月末で1067店で「ようやく背中が見えてきた」(事業会社コメダの木村雄一郎執行役員)。

コメダの24年2月期は売上高にあたる売上収益が前期比12%増の425億円、純利益が8%増の58億円で過去最高を見込む。営業利益率は外食では異例の20%を超え、自己資本利益率(ROE)も14%と高水準だ。

コメダは3年後にはグループ1200店を計画しており、今後は人手不足の中の接客教育など、居心地のいい空間を保つためのFC支援も欠かせない。さらなる飛躍には海外市場の攻略も重要だ。


◎「ようやく背中が見えてきた」?

ようやく背中が見えてきた」という発言は実際にあったのだろう。だが「944店」と「1067店」ならば大差はない。記事中で使うコメントとして適切なのか疑問が残る。

営業利益率は外食では異例の20%を超え」に関してはFC比率95%という店舗構成を考えると驚くような数字ではない。FC中心の同業他社の中でも「異例の20%を超え」ならば、そこを強調してもいいだろうが…。

結論部分にも不満が残る。「今後は人手不足の中の接客教育など、居心地のいい空間を保つためのFC支援も欠かせない。さらなる飛躍には海外市場の攻略も重要だ」と訴えたかったのならば「FC支援」や「海外市場の攻略」にも紙幅を割くべきだ。今回はそこは要らないと判断したのならば、別の結論にしないと説得力は生まれない。

「結論に説得力を持たせるために何を材料として提示すべきか」を意識して記事を書けば完成度の高い記事になりやすい。そのことを肝に銘じてほしい。


※今回取り上げた記事「記者の目:コメダ、群抜く収益力~損益分岐点比率低く 店舗数ドトール猛追、客単価の高さ強み」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230907&ng=DGKKZO74225350W3A900C2DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。客単価を店舗に出向いて調べた頑張りを買って安西明秀記者への評価はC(平均的)とする。

2023年7月9日日曜日

長すぎる昔話は何のため? 日経の赤川省吾 欧州総局長「風見鶏~ポスト・プーチンの幻想」

7月9日の日本経済新聞朝刊総合3面に欧州総局長の赤川省吾氏が書いた「風見鶏~ポスト・プーチンの幻想」という記事は出来が悪かった。中身を見ながら赤川氏に記事の書き方を助言したい。まず長すぎる昔話を見ていこう。

宮島連絡船


【日経の記事】

ロシアの民間軍事会社ワグネルの反乱で、プーチン体制を支える軍・治安組織に亀裂があることが露呈した。ロシアはどこに向かうのか。東西冷戦下の共産諸国で起きた混乱を基に展望してみる。

今年2月、冷戦下のソ連・東欧ブロックを熟知する政治家が静かに人生の幕をおろした。ハンス・モドロウ、95歳。共産圏の中核国だった東ドイツの独裁政党・ドイツ社会主義統一党(SED)の幹部で、盟主ソ連を含む東側陣営に幅広い人脈を築いた人物である。

穏健派だったモドロウ氏の別名は「東独のゴルバチョフ」。東欧革命のうねりが最高潮に達した1989年、ドレスデン県第1書記(県知事)から閣僚評議会議長(首相)に就く。沈みゆく共産圏を立て直そうともがいたものの、まもなく東側陣営は瓦解した。

実はモドロウ氏をもっと早い段階で東独の国家指導者に担ぎ、ペレストロイカ(改革)を掲げるソ連指導者ゴルバチョフ氏とタッグを組んで共産圏を再興するという極秘計画があった。

策を練ったのは東独の秘密警察・国家保安省の退役将校。ソ連国家保安委員会(KGB)の協力のもとに当時、権勢を振るっていた保守強硬派の国家指導者ホーネッカーに対するクーデターを画策した。87年、首謀者が秘密裏に集まり、モドロウ氏に決起を促したと噂される。

生前のモドロウ氏に真偽を確かめたことがある

KGB高官らに求められて顔を出したことは認める一方、「体制転覆の話はしていない」。経済政策を巡る議論をしただけという。「私が国家を率いるのにふさわしい人物かクーデター派が見極める会合だったのだろう」(モドロウ氏)

結局、モドロウ氏は動かなかった。歴史に「もしも」は禁物だが、決起したら失敗していた。反乱の兆しをつかんだホーネッカーは、忠誠を誓う主流派の治安要員に監視させていた。

クーデター計画は幻に終わったが、国家の先行きへの危機感からエリート層が一枚岩でなくなった状況はいまのロシアに似る。東独は89年、市民が西独国境に押し寄せてベルリンの壁が崩壊した。

この策が練られた頃、ロシアのプーチン大統領はKGB職員として東独に駐在していた。上司が絡む密計を知っていた可能性がある。そうでなくてもエリートが割れれば指導者の威信に傷がつくことは東欧革命で自らが体験したはずだ。


◎バランスを考えよう!

ここまでの昔話で記事の3分の2を占める。さすがに長い。ベテランの筆者が書くコラムは昔話が長くなりやすい。「生前のモドロウ氏に真偽を確かめたことがある」という話をしたくて長々と思い出を語ってしまったということか。それでも「ロシアはどこに向かうのか」をこの昔話からきちんと「展望」できているならまだいい。しかし、そうはなっていない。

続きを見ていく。


【日経の記事】

疑心暗鬼の権力者は独裁化する。ある欧州主要国で外交政策を担当する与党重鎮は心配する。「ロシアはスターリン時代に逆戻りするかもしれない」

プーチン体制はいつまで続くのか。東独と異なり混乱を恐れるロシア国民は民衆蜂起ではなく耐乏を選ぶとの見立てが欧州では多い。軍・治安組織でワグネルに続く反逆が起きるかがカギを握る。

反乱は保守的すぎる独裁者の「終わりの始まり」となるだけで民主化へのカウントダウンとは限らない。ポスト・プーチンでただちに民主国家になるというのは甘い幻想だ


◎だったら何のために…

かつての「東ドイツ」と同じ道をロシアが辿るという見方ならば昔話をするのも分かる。しかし「東独と異なり混乱を恐れるロシア国民は民衆蜂起ではなく耐乏を選ぶとの見立てが欧州では多い」「ポスト・プーチンでただちに民主国家になるというのは甘い幻想だ」と赤川氏は書いている。だったら何のために「東ドイツ」の話を長々としたのか。

記事の終盤も見ておこう。


【日経の記事】

次の権力者がウクライナと停戦しても欧州は以前のようなロシア融和策に戻らない。「全占領地の返還」と「戦争犯罪の謝罪」がロシア制裁を解除する条件だと外交当局者は口をそろえる。高いハードルにより制裁の半ば恒久化が視野に入る。

中国はデリスキング(リスク低減)、ロシアはデカップリング(分断)。それが主要7カ国(G7)の外交指針となり、ロシア貿易はさらに制約が強まる。ロシアでの資源権益にこだわる日本に独裁国家と手を切る覚悟はあるだろうか


◎この結論では…

コラムを書く時は「何を訴えたいのか」をまず考えてほしい。それを結論部分に持ってくる。今回の記事で言えば「ロシアでの資源権益にこだわる日本に独裁国家と手を切る覚悟はあるだろうか」だ。結論に説得力を持たせられるように記事を組み立てるのが実力のある書き手だ。残念ながら赤川氏はその域に達していない。

ロシアでの資源権益にこだわる日本に独裁国家と手を切る覚悟はあるだろうか」といった話は最後に取って付けたように出てくる。赤川氏には「モドロウ氏」の昔話をしたいという考えが最初にあり、結論部分を適当に作って記事を締めたのだろう。だから昔話がやたらと長く、その昔話が結論部分とリンクしていない。それでは説得力のあるコラムにならないことに赤川氏は気付いていないのだろうか。


※今回取り上げた記事「風見鶏~ポスト・プーチンの幻想」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230709&ng=DGKKZO72611600Y3A700C2EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。赤川省吾 欧州総局長への評価もDとする。

2023年6月14日水曜日

日経 藤田和明上級論説委員の「中外時評~キーエンスを見抜いた投資家」に欠けていること

日本経済新聞の藤田和明上級論説委員が相変わらず苦しい。14日の朝刊オピニオン面に載った「中外時評~キーエンスを見抜いた投資家」という記事も中身が乏しかった。何が問題なのか。内容を見ながら助言したい。

錦帯橋

【日経の記事】 

大企業も多くは最初はベンチャーだ。屈指の高収益で知られるセンサー大手のキーエンス。株式上場は1987年10月で大阪証券取引所第2部だった。売上高はまだ100億円に満たなかったが、高い将来性を見抜いて上場直後から投資したファンドマネジャーがいる。現在はフィデリティ・ジャパンの副会長をつとめる蔵元康雄氏(87)だ。

蔵元氏は69年に米資産運用会社フィデリティに入社、同社最初の日本株アナリストとなり東京事務所を開設した。個々の企業を徹底的に歩いて調査し投資するフィデリティの哲学を、日本で実践した。

「面白い会社がある」。キーエンスの噂を耳にし、創業者の滝崎武光氏にアポの電話を入れた。返事は「日中は忙しいから18時に」。本社は大阪府高槻市。駅から住宅地を抜け、まだ規模の小さい当時の拠点も訪れた。

40%という高い売上高営業利益率に驚いた。工場を持たないファブレスで営業社員の大半がエンジニア。顧客のニーズを聞いて歩き、すぐ会社に報告して新製品を設計、直販する。中間マージンをそぎ落とす効率経営だった。

滝崎氏は当時40代。強い起業家精神と新製品開発へのひたむきな情熱にひかれた。しかも「社用車なし・接待なし・ゴルフなし」の3つのレスだという。極めて高いコスト意識に再度驚かされた。

大証2部上場時の時価総額は800億円弱。それがいま17兆円だ。35年で200倍以上になった。「株価ではなく、会社を買うのが投資の本質だ。はっきりした理念を持つ経営者の会社を選び、長期の成長に参画するのが株主になるということ」と蔵元氏はいう。


◎肝心なことを書かないと…

キーエンスを見抜いた投資家」として「蔵元康雄氏」を取り上げるなら、その実績はしっかり説明してほしい。「はっきりした理念を持つ経営者の会社を選び、長期の成長に参画するのが株主になるということ」と「蔵元康雄氏」は言っているのだから、かなりの資金を投じて長期保有し莫大なリターンを得たのだろう。しかし、その辺りの記述が見当たらない。

キーエンスの時価総額が「35年で200倍以上になった」のは分かった。問題は「蔵元康雄氏」が関わった「フィデリティ」のファンドだ。そこが「35年」でどうなったのかを見せるべきだ。ファンドが消えていたりキーエンス株を手放していたりした場合、記事の前提は崩れてしまう。それを隠すためにあえて触れなかったのか。それとも書き手としての力量不足で言及を怠ったのか。いずれにしても問題ありだ。

そもそも「上場直後」だと投資のタイミングとしてはそれほど早くない。「キーエンスを見抜いた投資家」ならば公募・売り出しに応募して「上場前」から投資していてほしい。「40%という高い売上高営業利益率に驚いた」のは「上場直後」なのだろう。だとしたら、むしろ遅い。

ついでに言うと「『社用車なし・接待なし・ゴルフなし』の3つのレスだという。極めて高いコスト意識に再度驚かされた」という説明も引っかかる。「ゴルフなし」が「極めて高いコスト意識」と何か関係あるのか。接待ゴルフ禁止ならば「接待なし」に含まれるはず。社内のゴルフコンペなども禁止していたのならば、休日の過ごし方にまで介入するダメな会社だ。藤田上級論説委員はその辺りが気にならないのか。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

キーエンスのほか、京セラやセコム、ニトリなど若き経営者に会って投資先に選んできた。「現在の貸借対照表ではなく、将来の損益計算書を考える」。5年、10年先をみて有望な企業を見いだし、資金面から応援することで成長の果実を得る。それが資産運用業の神髄だといえる。


◎上場直後に投資したのなら…

5年、10年先をみて有望な企業を見いだし、資金面から応援することで成長の果実を得る。それが資産運用業の神髄だといえる」のならば「上場直後」にキーエンス株を買った「蔵元康雄氏」のファンドはキーエンスを「資金面から応援」できていない気がする。「上場直後」に増資したとは考えにくい。「大阪証券取引所」が用意した流通市場でキーエンス株を買ってもキーエンスに「資金」は入らない。そこは藤田上級論説委員も分かるはずだ。

記事の結論にも注文を付けておこう。


【日経の記事】

目の前の株価だけをみれば常に揺れている。ただその底流で第2、第3のキーエンスのような物語が進んでいるはずだ。資産運用業を通じた個人マネーが企業の長期成長を支え、果実が配られる。そうしたストーリーの積み重ねが今後の日本に必要になる


◎そんな必要ある?

第2、第3のキーエンス」が存在するとして「資産運用業を通じた個人マネーが企業の長期成長を支え」る必要があるだろうか。「第2、第3のキーエンス」を探している個人投資家は個別株に投資すればいい(未公開株についてはここでは考えない)。「資産運用業を通じ」て投資する場合はアクティブファンドを買うことになるだろう。しかし手数料が高い。アクティブファンドの高コストを藤田上級論説委員はどうやって正当化するのか。「高いコストを補って余りあるほどリターンが高い」とはなっていないことを藤田上級論説委員も知っているはずだ。

資産運用業を通じた個人マネー」はインデックスファンドに向かうのが好ましい(天才的な眼力がある個人を除く)。そうなると「第2、第3のキーエンス」を探すような話ではなくなる。それではダメで「資産運用業を通じた個人マネー」がアクティブファンドに向かうべきだと藤田上級論説委員が考えるのならば、その理由を記してほしかった。個人投資家をアクティブファンドへ誘導すれば「資産運用業」界は潤うだろうが投資家のためにはならない。


※今回取り上げた記事「中外時評~キーエンスを見抜いた投資家

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230614&ng=DGKKZO71842690T10C23A6TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明上級論説委員への評価はDを維持する。藤田上級論説委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

マーケットへの理解不足が目立つ日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」https://kagehidehiko.blogspot.com/2023/04/blog-post_18.html

IT大手にマネーが「一極集中」と日経 藤田和明編集委員・後藤達也記者は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/it_26.html

「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html

改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html

「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/01.html

「カラー取引」の説明不足に見える日経 藤田和明編集委員の限界
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_37.html

東証は「4市場」のみ? 日経 藤田和明編集委員「ニッキィの大疑問」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_28.html

合格点には遠い日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_10.html

説明に無理がある日経 藤田和明編集委員「一目均衡~次世代に資本のバトンを」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_28.html

新型肺炎が「ブラックスワン」に? 日経 藤田和明編集委員の苦しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_4.html

「パンデミック」の基準は? 日経1面「日米欧、時価総額1割減」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/11.html

「訴えたいこと」がないのが透けて見える日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_74.html

2023年6月5日月曜日

日経 滝田洋一特任編集委員に引退勧告 「核心~日本株、33年ぶりの檜舞台」

日本経済新聞社はいつまで滝田洋一特任編集委員に記事を書かせるつもりなのだろう。60代後半の滝田氏に特任編集委員の肩書を与える理由がよく分からない。記事のレベルが卓越しているなら文句はないが現実は逆だ。5日の朝刊オピニオン面に載った「核心~日本株、33年ぶりの檜舞台」という記事を読むと引退勧告したくなる。中身を見ながらあれこれツッコミを入れていこう。

宮島連絡船

【日経の記事】

日本の街を歩き回る訪日外国人(インバウンド)。羽振りよく買い物を楽しみ、今年1~3月の1人当たり旅行消費額は21.2万円にのぼった。新型コロナ禍前の2019年1~3月には14.7万円だったのと比べて44%も増えた。

株式市場では外国人投資家が4月以降、日本株を爆買いしている。株式買越額は5月第4週までの9週連続で合計7.4兆円に(財務省調べ)。日経平均株価は3万1000円台に乗せ、33年ぶりにバブル後の高値をつけた。

外国勢の日本株投資とインバウンド消費。両者に共通するのは、円安で日本がとても「お買い得」なことだ。ドルが元手の外国人投資家にとって、日本株の値札は「ドル建ての日経平均株価」である。

ドル建て日経平均が290ドルに迫る過去最高値をつけたのは、21年2月のことだ。円安が進んだ結果、足元ではドル建て日経平均は220ドル台にとどまっている

だから日本の投資家は高値警戒感を抱く3万1000円台という水準も、外国勢には「お値打ち価格」。ニューヨークのビジネスホテル並みの料金で、東京の一流ホテルに泊まれる感覚といえる。


◎なぜ日本株が「お買い得」?

日本株に関して円安で「お買い得」になると見る理由が謎だ。PERやPBRといった指標で割安感を見る場合、円建てでも「ドル建て」でも数値は変わらない。

ドル建て日経平均が290ドルに迫る過去最高値をつけたのは、21年2月」で、これと比較して現状が「220ドル台」だから「お買い得」と滝田氏は見ているのかもしれない。あまり意味のない比較だと思うが、これを受け入れるとしても、だったら円建ての日経平均に関しても「過去最高値」(1989年)と比べるべきだ。そうなると「お買い得」感に大差はない。

さらにツッコミを入れていく。


【日経の記事】

経済全体でみると、30年近く続いたデフレからの出口が近づく。今年1~3月期の国内総生産(GDP)は実質で前期比年率1.6%増えたが、名目では同7.1%増に。名目GDPは年換算で570兆円と過去最高を更新した。

企業の売り上げも利益も、給与明細も、政府の税収も、そして株価も、経済活動でまず目に入るのは名目値である。デフレから脱却するにつれてそれらの数字は自然に伸びやすくなる。日本がその転換点を迎えたとみれば、日本買いの好機ともなる。


◎「30年近く続いたデフレ」?

30年近く続いたデフレからの出口が近づく」との認識なら経済関連の記事を書くのはやめた方がいい。まず「デフレ」は「30年近く続い」てはいない。過去30年の物価はほぼ横ばい。わずかな下落を含めても物価上昇率がマイナスだった年は半分ほどだ。

デフレからの出口が近づく」と書いているので「現状はまだデフレ」と滝田氏は信じているのだろう。ちなみに岸田文雄首相は、黒田東彦氏が日銀総裁を務めた10年間の評価について「デフレではない状況を作り出したのは大きな成果」だと述べたらしい。滝田氏から見ると「首相は分かっていない。まだまだデフレなのに…」となるのだろうか。

続きを見ていく。


【日経の記事】

思い出すのは、速水優総裁時代に日銀が唱えた「ダム論」である。ダム(企業)の水(収益)が、やがてあふれ出し設備投資や個人消費に向かう――というものだ。

だがモノよりカネが値打ちを持つデフレ下では、ダムの水はたまり続け、企業の内部留保(利益剰余金)は500兆円を超えた。そのデフレが終わるとなると、ためていたカネを動かす出番となる。


◎「内部留保=カネ」?

上記のくだりから判断すると「内部留保=カネ」と滝田氏は思い込んでいるのだろう。よくある誤解だが、内部留保は全て現預金として蓄えられている訳ではない。設備投資などに使って企業の手元には既に「カネ」がない場合もある。

滝田氏は文の作り方もうまくない。1つ例を挙げよう。


【日経の記事】

賃上げのおかげで停滞していた消費も持ち直している。それは企業活動にも追い風だ。ヒト、モノ、カネが回り始めれば、日本経済は長期停滞を脱却する窓が開く。


◎「賃上げのおかげで停滞」?

賃上げのおかげで停滞していた消費も持ち直している」と書くと「『賃上げのおかげで停滞していた消費』も持ち直している」とも取れる。「停滞していた消費も賃上げのおかげで持ち直している」と直せば問題は解消する。

ベテランの書き手でありながら、この辺りの配慮ができないところにも滝田氏の限界が見える。やはり引退勧告をしておくべきだろう。


※今回取り上げた記事「核心~日本株、33年ぶりの檜舞台

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230605&ng=DGKKZO71562470S3A600C2TCS000


※記事の評価はD(問題あり)。滝田洋一特任編集委員への評価もDを維持する。滝田特任編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

融資を「ヘリマネ」と誤解した日経 滝田洋一編集委員の「核心」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/blog-post.html

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_4.html

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_24.html

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_5.html

引退考えるべき時期? 日経 滝田洋一編集委員 「核心」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_32.html

引退考えるべき時期? 日経 滝田洋一編集委員 「核心」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_40.html

市場をまともに見てない? 日経 滝田洋一編集委員「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_69.html

日経 滝田洋一編集委員「リーマンの教訓 今こそ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_16.html

市場への理解が乏しい日経 滝田洋一編集委員「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_9.html

株式も「空前の低利回り」? 日経 滝田洋一編集委員の怪しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_19.html

今回も市場への理解不足が見える日経 滝田洋一編集委員「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_25.html

「TPP11とEUの大連携」を日経 滝田洋一編集委員は「秘策」と言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/tpp11eu.html

2023年5月23日火曜日

パワハラの具体的内容に欠けるFACTA「狂える『近鉄の老虎』小林哲也会長」

FACTAが経営者を批判する記事は総じて品がない。それでも事実の裏付けがしっかりしていればまだいい。しかし、そこも怪しい。6月号に載った「狂える『近鉄の老虎』小林哲也会長」 という記事も例外ではない。中身を見ながら問題点を指摘したい。

宮島

【FACTAの記事】

純粋持ち株会社の近鉄GHDへ15年に移行すると決めたのは小林氏だ。自らは事業を行わず、グループ各社の株式を保有することでグループ会社の事業をコントロールすることだけを事業目的とするのが純粋持ち株会社だ。小林氏はKNT|CTHDやKNTの一体何をコントロールしていたのか。取締役としての善管注意義務をどこに置き忘れたのか。自身の監督責任を棚に上げて小林氏は米田氏を詰問し、罵詈雑言を浴びせまくった。御年79歳の小林氏はアンガーコントロールができないご高齢なのだ。同業の私鉄各社の社長・会長たちは普段の小林氏の言動を見聞きして「あのパワーハラスメントはひどすぎる」と眉をひそめる。


◎どんな「罵詈雑言」?

小林氏は米田氏を詰問し、罵詈雑言を浴びせまくった」と言うものの具体的にどんな言葉を発したのか記していない。なのに「同業の私鉄各社の社長・会長たちは普段の小林氏の言動を見聞きして『あのパワーハラスメントはひどすぎる』と眉をひそめる」と発言の主を特定できないコメントを使って「パワーハラスメント」があったと印象付ける。これは頂けない。

記事の続きも見ておく。


【FACTAの記事】

小林氏は早稲田大学在学中に始めた少林寺拳法にのめり込み、一時は関西実業団少林寺拳法連盟の会長を務め、近鉄社内にも実業団少林寺拳法連盟の支部を作らせた。物理的パワハラもやりかねない雰囲気だから周囲が震え上がる。ただし典型的な内弁慶で、一歩会社の外に出ると借りてきた猫のようにおとなしくなる。


◎「やりかねない」と言われても…

物理的パワハラもやりかねない雰囲気だから周囲が震え上がる」という説明も感心しない。「物理的パワハラもやりかねない雰囲気」ということは「物理的パワハラ」の事実を確認できていないのだろう。なのに「物理的パワハラもやりかねない」人物だとイメージさせる書き方をするのはいかがなものか。

記事には他にも引っかかる部分があった。


【FACTAの記事】

「小林氏が地位に恋々とするのは、小林夫人が近鉄GHDのファーストレディーであり続けたいからだ」と解説する近鉄OBもいる。雑誌や新聞に小林氏を批判する記事が出ると、夫人は「ウチの主人は辞めないといけないのですか」と知り合いに電話をかけまくるという

近鉄GHDのトップ人事撤回を報じた4月25日付の産経新聞朝刊は「企業はトップ人事を発表する前に、新社長を取り巻く問題がないかなどのチェックを当然行う。今回の事態はそれが不十分だったことを示している」と指摘し、小林氏の統治能力に難があることを強くにおわせた。この記事を読んでパニックに陥った小林夫人からの電話ラッシュに知人たちはさぞや困惑したことだろう


◎どうでもよい話では?

小林夫人」の話は要らない。「小林夫人」が近鉄の経営に介入しているならまだ分かる。「知り合いに電話をかけまくる」だけなら取り上げる意味はない。あと「この記事を読んでパニックに陥った小林夫人からの電話ラッシュに知人たちはさぞや困惑したことだろう」と書いているが筆者は「4月25日付の産経新聞朝刊」が出た後に「小林夫人からの電話ラッシュ」があったかどうか確認したのだろうか。

記事には気になる点がまだある。


【FACTAの記事】

小林氏が一旦は会長を退くと決断したのは昨年末、三重交通GHDのO会長が退任の意向を固めたことが影響したとの見方もある。O氏は近鉄の社長候補に名前が挙がっていたが、前任の山口昌紀社長が小林氏を選んだために三重交通に転じた経緯がある。関西財界ではO氏の知名度が圧倒的に高く、小林氏は本体社長に就いた後も、その動向を気にしていたフシがある。3歳若いO氏が先に退けば、小林氏の居座りがさらに目立ってしまうために、仕方なく取締役相談役になると3月に発表した、というのだ。


◎何のための「O会長」

O会長」をイニシャルにしているのが意味不明。「昨年末、三重交通GHDのO会長が退任の意向を固めた」などと書いているので人物は簡単に特定できる。記事中で本名を隠す意味がない。

他にも気になる点はある。

【FACTAの記事】

KNT|CTHDは調査委員会を立ち上げ、事実の解明と事態収拾を急ぐ。「KNT問題が解決するまでの小林氏留任」というのが近鉄GHDの公式見解。だが調査委員会が結果を出すまでに少なくとも3~6カ月はかかる。小林氏が半年だけ会長任期を延長するというのは非現実的。24年6月までやれば2025年国際博覧会(大阪・関西万博)は目前だ。在任中のレガシーがない小林氏だけに「万博で一旗揚げる」と言い出しかねない。近鉄GHD傘下の全従業員2万6605人(連結ベース)が恐れていた最悪のシナリオが浮上する


◎本当に「全従業員」が恐れていた?

近鉄GHD傘下の全従業員2万6605人(連結ベース)が恐れていた最悪のシナリオが浮上する」という話に至っては明らかにおおげさ。「全従業員2万6605人」に聞き取り調査をした訳でもないだろう。

記事の最終段落も見ておこう。


【FACTAの記事】

思うままに感情を爆発させるパワハラ行為は正しいのか、近鉄GHD内の人事異動に正当性はあるか、自らの出処進退に驕りや打算はないか、と熟考できないはずはない――。少林寺拳法とは、単に体を鍛える運動ではなく、正義を愛し人道を重んじる「人づくり」の行なのだから。


◎根拠を示さないと…

思うままに感情を爆発させるパワハラ行為は正しいのか」と問うなら「小林哲也会長」に「パワハラ行為」があったと言える根拠が欲しい。しかし今回の記事にはそれが見当たらない。となるとただ悪口を並べただけの記事に見えてしまう。


※今回取り上げた記事「狂える『近鉄の老虎』小林哲也会長」 https://facta.co.jp/article/202306019.html


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2023年5月13日土曜日

民間の医療保険へと読者を誘導する日経 土井誠司記者の罪

民間の医療保険は「愚か者向けの保険」と言っても過言ではない。しかし日本経済新聞の土井誠司記者が13日の朝刊マネーの学び面に書いた「働く女性、がん治療費に備え~まず50万円超、生活費も貯蓄」という記事では民間の医療保険を前向きに取り上げていた。この記事を参考にして無駄な保険に入ってしまう読者がいるかもと考えると罪深い。

錦帯橋

医療費の負担を抑える健康保険の高額療養費制度を利用できれば、入院・入院外合わせても10万円未満で収まるケースもありそうだ」と「高額療養費制度」について触れてはいる。この制度があれば追加で民間の医療保険に入る必要はない。しかし「治療にかかる費用は病院に払う医療費だけではない」などと言って民間の医療保険に誘導していく。そこを見ていこう。


【日経の記事】

こうした制度を知ったうえで蓄えが足りなかったり、治療が長引くのが不安だったりするなら民間の保険が選択肢になる。若い女性では預貯金が十分でないとか、貯金があっても教育費や住宅ローンの返済などで使い道が決まっている場合があり、保険の必要性が高そうだ。


◎「保険の必要性が高そう」?

若い女性では預貯金が十分でないとか、貯金があっても教育費や住宅ローンの返済などで使い道が決まっている場合があり、保険の必要性が高そうだ」という説明が謎。「預貯金が十分でないとか、貯金があっても教育費や住宅ローンの返済などで使い道が決まっている場合」は若くない女性でも男性でも当たり前にある。

若い女性」はがんなどになるリスクが「若くない女性」よりも小さい。なので公的保険に民間の医療保険を上乗せする理由は「若くない女性」以上になくなる。「預貯金が十分でない」なら余計な保険に加入せず「預貯金」を増やす方が得策だ。「3割負担の現役世代なら窓口で払うのは、乳がんが約18万円と約1万8000円、子宮がんは約19万円と約1万円」と土井記者も書いている。支払い額20万円程度のリスクに保険で備える必要はない。

差額ベッド代」などがかかると心配するなら「預貯金」を増やして対応すればいい。その前にがんになったら個室を諦めれば済む。必要な医療が受けられなくなる訳ではない。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

女性向け医療保険は、女性特有や女性に多い病気に対する保障を厚くした商品だ。通常の医療保険に女性向けの特約を付加するものもある。乳房や子宮、卵巣の疾病や、妊娠・出産に関する症状などの入院・手術の費用をカバーする。がんは乳がんや子宮がんに限らず、大腸がんや胃がんなど他の部位も対象になる。

「キュア・レディ・ネクスト」はオリックス生命保険の女性向け医療保険。1日当たりの入院日額を通常の医療保険に5000円上乗せし「個室に入りたい女性のニーズにも応えられる」と説明する。上乗せ分を合わせた日額1万円の一般的なプラン(1入院の支払限度日数60日)だと保険料(月額、終身払い)は30歳で2145円、40歳は2410円。がんと診断されたときなどに一時金(50万円)が出る特約を付けると2940円、3435円になる。

三井住友海上あいおい生命保険は医療保険「&LIFE 医療保険A(エース)セレクト」に「女性疾病給付特約」を加えると入院給付金が2倍になる。入院10日目まで一律10万円出るプラン(同60日)は月額の保険料(終身)が30歳が2560円で40歳は2675円。50万円の一時金が出る「ガン診断給付特約」を付けると3147円、3461円になる。

女性向けの医療保険は保障が厚い分、通常の医療保険より保険料は高めだ。加入は30~40代が中心。がんだけでなく、妊娠・出産のリスクや他の病気に備えたいという女性も多いようだ。


◎なぜ特定の保険を紹介?

土井記者はなぜ「キュア・レディ・ネクスト」と「&LIFE 医療保険A(エース)セレクト」を記事で取り上げたのか。「保険料」と「保障」内容を見て、この2つの保険が優れていると見たのなら、まだ分かる。しかし記事にそうした説明はない。結局、特定の保険に誘導する実質的な“広告”になっている。そこが残念。


※今回取り上げた記事「働く女性、がん治療費に備え~まず50万円超、生活費も貯蓄

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230513&ng=DGKKZO70928890S3A510C2PPK000


※記事の評価はD(問題あり)。土井誠司記者への評価もDとする。

2023年4月18日火曜日

マーケットへの理解不足が目立つ日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」

日本経済新聞の藤田和明編集委員が18日の朝刊マーケット総合面に書いた 「スクランブル:バフェット流取引の妙味~長期の流動性に強み、SVBと逆の道」という記事にはマーケットに関する理解不足を感じた。中身を見ながら具体的に指摘していく。

錦帯橋

【日経の記事】

日本の商社株への投資を増やした米投資家ウォーレン・バフェット氏。金融取引としてみれば、長期で安く資金を集め、高めの配当利回りで利ざやを狙う「キャリー取引」ともいえる。かたや短期資金が流出し行き詰まった米シリコンバレー銀行(SVB)。脆弱な銀行の逆を行く時間軸の取り方で周到に利ざやを稼ぐのがバフェット流だ。

同氏率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイの資金調達が14日明らかになった。円建てで総額1644億円になる。注目すべきは返済期間と金利水準だ。3年債から30年債まで広げた借り入れになる。金利は0.907~2.325%となっている。


◎「キャリー取引」を理解してる?

キャリー取引とは、低金利の通貨で調達した資金を高いリターンが期待できる通貨で運用し、その差で収益を得る運用手法のこと」(楽天証券のマネー用語辞典)だ。「円建て」で資金を調達しても、それを「高いリターンが期待できる通貨で運用」せず「日本の商社株への投資」に充ててしまうのならば「キャリー取引」とは言えない。

「そんなことは分かっている。キャリー取引的な要素があると言いたかったのだ」と藤田編集委員は反論するかもしれない。だったら記事でその点を断ってもよさそうだが、最後まで読んでもそうした記述は見当らない。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

これを元手に商社株に投資するとしよう。17日時点で三菱商事など5社の配当利回りは3.1~4.7%。単純な利ざやとしては3年債で2~3%強、30年債でも少なくとも2%近くを見込めると計算できる。

バークシャーの円建てでの調達はこれで総額1兆円を超える。過去の調達では利ざやが5%を見込めるような場面があってもおかしくなかった。


◎配当利回りに着目しても…

投資で「配当利回り」に着目する意味は基本的にない。1000円の株価で年間配当が100円ならば「配当利回り10%でお得」と考える人が多い。藤田編集委員もそうなのだろう。しかし配当は株式の価値を削って出すものだ。1000円の株で100円の配当をすれば株式価値は100円減るので株主にとって旨味はない。

株式投資ではキャピタルゲインも含めたトータルでリターンを見る必要があるが、なぜか多くの人が「配当利回り」だけに目を向けてしまう。金利1%で社債を発行して配当利回り3%の株を買えば2%の「利ざや」が見込めると考えるのは間違いだ。配当の多さは株価の下押しで相殺される。株価は配当以外の要因でも動いているので分かりにくい面はあるが、日経でマーケット関連の記事を書く編集委員ならば理解しておいてほしい。

さらに記事の続きを見ていく。


【日経の記事】

このキャリー取引が成功するカギは、配当利回りが見込んだ水準を将来も維持することにある。持続して現金を稼ぎ配当を増やし続ける投資先でなければならない。それをもってバフェット氏は経営の質といい、商社株に認めたのだといえる。


◎全然違うような…

マーケットに関して誤解があるので「このキャリー取引が成功するカギは、配当利回りが見込んだ水準を将来も維持することにある」という的外れな結論を藤田編集委員は導いてしまう。

商社株が減配にならなければ「配当利回りが見込んだ水準を将来も維持すること」はできるが、だからと言って「取引が成功」したとは言えない。やはり株価も含めたトータルでリターンを見るべきだ。「配当利回り」を維持できても株価が下がればトータルで損失が出る場合もある。「バフェット氏」がドルベースで「取引が成功」かどうかを見るならばドル円相場も重要な要素となる。

そんなことは改めて言うまでもないはずだが…。そこをベテランの書き手である藤田編集委員に指摘しなければならないのが辛いところだ。


※今回取り上げた記事「スクランブル:バフェット流取引の妙味~長期の流動性に強み、SVBと逆の道

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230418&ng=DGKKZO70260580X10C23A4EN8000


※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明編集委員への評価もDとする。藤田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

IT大手にマネーが「一極集中」と日経 藤田和明編集委員・後藤達也記者は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/it_26.html


「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html

改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html

「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/01.html

「カラー取引」の説明不足に見える日経 藤田和明編集委員の限界
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_37.html

東証は「4市場」のみ? 日経 藤田和明編集委員「ニッキィの大疑問」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_28.html

合格点には遠い日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_10.html

説明に無理がある日経 藤田和明編集委員「一目均衡~次世代に資本のバトンを」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_28.html

新型肺炎が「ブラックスワン」に? 日経 藤田和明編集委員の苦しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_4.html

「パンデミック」の基準は? 日経1面「日米欧、時価総額1割減」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/11.html

「訴えたいこと」がないのが透けて見える日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_74.html

2023年4月13日木曜日

週刊東洋経済:大垣共立銀行を手放しに持ち上げる金田信一郎氏の眼力に問題あり

作家・ジャーナリストの金田信一郎氏が週刊東洋経済で始めた「ヤバい会社烈伝」という連載に期待していたのだが、早くも第2回で残念な内容となっている。記事の終盤を見た上で具体的に指摘したい。

宮島連絡船

【東洋経済の記事】

コンビニのような店舗、ドライブスルーATM、移動店舗……。実は、こうしたアイデアはすでに大垣共立銀行が実現している。若い銀行員を先進サービス企業に出向させて、ノウハウを学び取らせ、サービス業化を進めた。頭取自らも金融商品を生み出した。

「シングルマザー応援ローン」。それは借り入れが難しい、単身で子育てしている女性に向けた優遇ローンだ。子育てに邁進しているシングルマザーが返済を怠ることはない……。そこを支援すれば、少子高齢化が叫ばれる未来に変化をもたらすかもしれない。こうした社会を変えうる発想と、そこにあえてカネを流す胆力にこそ、「銀行の存在意義」がある。


◎どこが「優遇ローン」?

大垣共立銀行」を金田氏は手放しに持ち上げる。持ち上げる価値があるなら、もちろんそれもありだ。しかし、どうも怪しい。「シングルマザー応援ローン」を「単身で子育てしている女性に向けた優遇ローン」と紹介しているが、どう「優遇」しているのか触れていない。

同行のホームページで金利を見ると「シングルマザー応援ローン」は年6.975%。同行には「キレイをかなえる女性専用ローン」という女性向けローンもあるようで、こちらは年5.975%と「シングルマザー応援ローン」より金利が低い。これでなぜ「シングルマザー応援ローン」を「優遇ローン」と言えるのか。

そもそも「育てに邁進しているシングルマザーが返済を怠ることはない」と同行が見ているのなら信用リスクがゼロ(そんなはずはないが…)なので貸出金利はかなり低くできる。さらに「優遇」を加えているのに、結果として他のローン商品より金利が高くなるとは…。金田氏は何かおかしいと思わなかったのか。「大垣共立銀行」の説明を疑いもなく鵜吞みにしたのか。だとしたら金田氏の「ヤバい会社」を見分ける力には大きな疑問符が付く。


※今回取り上げた記事「ヤバい会社烈伝(2)銀行、武富士、カネ貸し~体育会系っすから実は手荒いっす」


※記事の評価はD(問題あり)。金田信一郎氏への評価はB(優れている)からDへ引き下げる。

2023年4月11日火曜日

先祖返りしてミス放置に転じた日経ビジネス 磯貝高行編集長の罪

日経ビジネスが先祖返りしてミス放置の姿勢に転じた可能性が高い。東昌樹編集長時代には間違い指摘を受けたらきちんと対応するようになったが、今の磯貝高行編集長にその気はないようだ。3月25日に送った問い合わせと31日に届いた回答から、日経ビジネスの変化が透けて見える。その内容は以下の通り。

岩国城


【日経ビジネスへの問い合わせ】

日経ビジネス 編集部 担当者様

3月27日号について2点お尋ねします。まず八巻高之記者が書いた「米ネットフリックスに独自番組を提供~債務超過のAbemaTV、探る打開策」という記事の以下の記述を見てください。

CAは損失の続くAbemaTVを資金的に支えてきた。決算資料を総合すると、AbemaTVには22年9月末に固定負債が1168億円あり、CAが同額を貸し付けている。テレビ朝日もAbemaTVに約37%を出資するが、資金面でのサポートはCAが中心のようだ。引き受けた巨額の債務は回収可能なのか。CAは21年9月期単体決算でAbemaTVへ900億円の貸倒引当金を計上している。連結決算上は相殺されるものの、CA単体としての特別損失となった

この中で引っかかったのが「引き受けた巨額の債務は回収可能なのか」というくだりです。素直に読めば「CAサイバーエージェント」が「AbemaTV」から「巨額の債務」を「引き受けた」と取れます。しかし、その前には「1168億円」を「CAが貸し付けている」との説明しかありません。「CAからAbemaTVへの債務引き受け(債務譲渡)があった」とは書いていないのに「引き受けた巨額の債務は回収可能なのか」と唐突に出てきます。

記事中で説明がなかっただけで、実際に債務引き受けはあったとしましょう。この場合、その後の「回収可能なのか」と整合しません。債権は「回収」できますが債務の「回収」は意味不明です。「引き受けた巨額の債務は回収可能なのか」という記述は誤りではありませんか。「巨額の貸付金(債権)は回収可能なのか」などとすべきだった気がします。

次に在独ジャーナリストの熊谷徹氏が書いた「世界展望~ロシアのウクライナ侵攻でポーランドが欧州安全保障の中心に」という記事を取り上げます。ここで問題としたいのは「ポーランドは、ウクライナがロシアに占領されれば、ロシアの勢力圏と国境を接することになる」との記述です。

この説明だと「現状ではポーランドはロシアの勢力圏と国境を接していない」と取れます。しかし「ロシアの勢力圏」どころかロシアそのものと国境を接しているはずです。カリーニングラード州というロシアの飛び地があります。その国境線を確認してみてください。「ポーランドは、ウクライナがロシアに占領されれば、ロシアの勢力圏と国境を接することになる」という説明は不正確ではありませんか。筆者の熊谷氏が飛び地の存在を失念していたのだと推測していますが、いかがでしょうか。

質問は以上です。お忙しいところ恐縮ですが回答をお願いします。


【日経BPからの回答】

この度は貴重なご意見、ご指摘をいただき、ありがとうございました。いただきましたご意見は、日経ビジネス編集部へ確かに申し伝えました。編集部で対応を検討させていただきます。今後とも弊社刊行物を何卒よろしくお願い申し上げます。


◇   ◇   ◇


読者対応をしている部署から編集部に問い合わせを伝えてはいるのだろう。回答が返ってこないので編集部に確認したら、まともに回答する意思がないことが分かったので、読者対応の担当者としては上記のような返信をこちらにしたのだと思える。

編集部で対応を検討させていただきます」と書いてあるので念のために10日ほど待ってみたが、その後の進展はない。日経ビジネス編集部はミス黙殺の方針に転じたと見るほかない。

最近の日経ビジネスには活気がない。読みたいと思える記事が少ない。さらに、読者から間違い指摘があっても実質的なゼロ回答で済ます。それでも磯貝高行編集長は自信を持って日経ビジネスを世に送り出せるのか。改めて考えてほしい。


※今回取り上げた記事「米ネットフリックスに独自番組を提供~債務超過のAbemaTV、探る打開策

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/01731/


※記事の評価はD(問題あり)。八巻高之記者への評価もDとする。磯貝高行編集長への評価はEとする。磯貝編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。


インタビュー記事に粗さ目立つ日経ビジネスの磯貝高行編集長https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/05/blog-post_6.html

2023年4月3日月曜日

工場稼働率が上がると固定費が減る? 日経 西條都夫編集委員の誤解

日本経済新聞の西條都夫編集委員が相変わらず苦しい。今回は「固定費」について基礎的なことが理解できていないのではと思える記述を見つけた。日経には以下の内容で問い合わせしている。

宮島

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 編集委員 西條都夫様

3日の朝刊ビジネス面に載った「経営の視点:『社会善』効率的に実現~エーザイ、熱帯病対策への挑戦」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「さらにDEC錠の生産で工場稼働率が上がり、生産関連の固定費も下がる」との記述です。

固定費とは「変動費に対する言葉で、特定の一期間内で操業度 (生産数量) の増減に関係なく発生総額の一定した原価をいう。固定資産税、減価償却費、火災保険料、固定給の賃金などがこれに属する」とブリタニカ国際大百科事典では説明しています。「操業度 (生産数量) の増減に関係なく発生総額の一定した原価」なのですから「工場稼働率」を引き上げても「生産関連の固定費」は減りません。

DEC錠の生産で工場稼働率が上がり、生産関連の固定費も下がる」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

工場稼働率」の向上は製品1個当たりの「固定費」を下げる効果はありますが、記事ではそうは書いていません。

こうしたもろもろの効果を合計すれば、LF対策に要する費用の数倍に及ぶ『リターン』をエーザイはすでに手にしている、と同社OBの柳良平・早稲田大学客員教授は試算する」との記述も記事にはありますが、無償で提供している「DEC錠の生産」を増やして製品1個当たりの「固定費」を減らしても、工場全体の「固定費」は減りませんし、変動費の分だけ利益を削るので、この点では「リターン」はマイナスです。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアの一員として適切な行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「経営の視点:『社会善』効率的に実現~エーザイ、熱帯病対策への挑戦

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230403&ng=DGKKZO69824540S3A400C2TB0000


※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫編集委員への評価はDを据え置く。西條編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「絶望を希望に変える雇用改革」はどこに? 日経 西條都夫上級論説委員「核心」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/blog-post.html

春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html

7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html

日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html

何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html

日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html

タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html

日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html

さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_29.html

「根拠なき『民』への不信」に根拠欠く日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_73.html

「日の丸半導体」の敗因分析が雑な日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_18.html

「平成の敗北なぜ起きた」の分析が残念な日経 西條都夫論説委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_22.html

「トヨタに数値目標なし」と誤った日経 西條都夫論説委員に引退勧告
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_27.html

「寿命逆転」が成立してない日経 西條都夫編集委員の「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_17.html

「平井一夫氏がソニーを引退」? 日経 西條都夫編集委員の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_19.html

「真価が問われる」で逃げた日経 西條都夫論説委員の真価を問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_16.html

周知の「顔」では?日経 西條都夫上級論説委員「核心~GAFA、もう一つの顔」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/gafa.html

「強引」な比較をあえて選ぶ日経 西條都夫上級論説委員「核心」のご都合主義https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_21.html

2023年3月25日土曜日

前文での「宣言」は忘れた? 日経ビジネス生田弦己記者の記事に欠けていること

記事の前文(リード文)は「これから、こういうことを書きますよ」という読者に向けての宣言だ。前文で持たせた期待を裏切らないように記事を書くのが記者の務め。しかし日経ビジネス3月27日号に生田弦己記者が書いた「旭化成、最悪赤字転落も“勝算”~車載電池の絶縁材で1850億円減損」という記事では、その務めを果たせていない。まずは前文を見ていく。

宮島連絡船

【日経ビジネスの記事】 

旭化成が2023年3月期、同社にとって史上最悪となる1050億円の連結最終赤字を計上する見通しになった。15年に買収した車載電池用セパレーター(絶縁材)事業の不振で、1850億円もの減損損失を計上するからだ。ところが旭化成の工藤幸四郎社長は成長への自信を語り、株価も崩れるどころか発表直後は急騰した。なぜか


◇   ◇   ◇


株価も崩れるどころか発表直後は急騰した。なぜか」と書いているのだから、第二段落以降で、そこを分析してくれると期待してしまう。しかし、そうはなっていない。「株価」については記事の終盤で以下のように説明している。


【日経ビジネスの記事】

「戦略は間違っていなかった」「成長が確信めいたものになった」「湿式なら勝てる」──。8日の記者会見で、工藤社長は業績予想の大幅な下方修正を発表した経営者とは思えないほどの前向きな言葉を次々と口にした。

株価もおおむね持ちこたえた。ハイポア事業の平均的な投下資本利益率(ROIC)は2桁台といい、22~24年度の中期経営計画で掲げるROICの全社目標(24年度に8%以上)を上回っている。旭化成の成長を支えるけん引役の一つとしてハイポアに期待できそうな点が、株価が崩れなかった要因となったようだ

過去最悪の巨額赤字予想を示しながらも、成長への力強い自信を見せた旭化成。今後は投資家の期待に実績で応えることが求められる。今回の発表はしのいだとはいえ、株価は18年10月のピークに比べると約5割も安い。有言実行を果たせるかどうかが問われる。


◎「発表直後の株価」になぜ触れない?

株価も崩れるどころか発表直後は急騰した。なぜか」と前文で打ち出したのに、本文に入ると「株価もおおむね持ちこたえた」「株価が崩れなかった」とトーンが変わってくる。少なくとも「発表直後」にどのぐらいの「急騰」を見せたのかは読者に見せるべきだ。

株価も崩れるどころか発表直後は急騰した」件について、会社四季報オンラインの「旭化成が反発、今3月期の大幅赤字予想も織り込み済み」という3月9日付の記事では「当社の株価は22年に年間を通じて下落トレンドが続き1月中旬には923円の昨年来安値まで売られていた。この過程でポリポア社の不振は織り込んできていた」と伝えている。そして「アク抜け感が広がり、買い戻しや見直し買いが先行」したらしい。悪材料の発表直後に株価が上昇することは珍しくない。だいたいが「アク抜け感」が出るパターンだ。「旭化成」の場合も、その可能性が高い。

日経ビジネスの生田記者が違う見方をするなら、それはそれでいい。だったら「急騰」の要因をしっかり説明しないと。それが難しく「株価もおおむね持ちこたえた」で本文を作るなら、前文もそこに合わせるべきだ。

無理に前文で盛り上げようとしたのか。前文で書いたことを、記事を書き進めるうちに忘れてしまったのか。いずれにしても問題ありだ。


※今回取り上げた記事「旭化成、最悪赤字転落も“勝算”~車載電池の絶縁材で1850億円減損

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/01732/


※記事の評価はD(問題あり)。生田弦己記者への評価もDとする。

2023年3月6日月曜日

「『リアル書店』米で人気復活」が苦しい日経 清水石珠実記者

 6日の日本経済新聞朝刊国際面に清水石珠実記者が書いた「『リアル書店』、米で人気復活 ~コロナ下で読書ブーム、最大チェーン『今年30店増』」という記事は出来が悪かった。全文を見た上で具体的に問題点を指摘していく。

錦帯橋


【日経の記事】

米国で「リアル書店」の人気が復活している。新型コロナウイルス下で読書ブームが再燃し、書店に足を運んで紙の本を買うことの楽しみが米消費者に再認識された。ニューヨーク市では独立系書店の開店が相次ぎ、米最大チェーンのバーンズ・アンド・ノーブル(B&N)も全米で店舗拡大に動く。

「今年は総店舗数が30店ほど増える見通しだ」。B&Nのジェームズ・ドーント最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞とのインタビューで語った。現在、B&Nは全米で約600店舗を経営する。2年連続で店舗数が純増になる予定で、約10年続いた店舗数の縮小傾向に歯止めがかかってきた。

独立系書店の開店ラッシュも続く。ニューヨーク市に本拠を置く「マクナリー・ジャクソン」は1月、市内随一の観光地ロックフェラーセンターに5店舗目を開いた。2022年には大物ロビイストが経営する書店として話題を集めた「P&Tニットウエア」が、ブルックリン区在住の作家が経営する「ブックス・アー・マジック」は2店舗目をそれぞれ開店した。独立系書店は品ぞろえや内装に個性があり、週末には書店巡りを楽しむ若者の姿が目立つ。

米国では米アマゾン・ドット・コムの台頭を受け、11年に当時書店チェーン2位だったボーダーズ・グループが経営破綻した。B&Nも経営難が続き、19年に米ヘッジファンドのエリオット・マネジメントに6億8300万ドル(当時の為替レートで約740億円)で身売りした。

苦境続きの書店が反転のきっかけを得たのがコロナ禍だ。巣ごもり需要で読書ブームが再燃し、コロナ禍で楽しめる数少ない娯楽の一つとして書店を訪れる人が増えた。米NPDグループによると、21年に米国市場での紙の書籍販売は8億2800万冊と、04年の調査開始以来で過去最高になった


◇   ◇   ◇


(1)「人気復活」を裏付けるデータは?

この記事はいわゆる傾向物だ。「米国で『リアル書店』の人気が復活している」というなら、裏付けとなる直接的なデータが欲しい。「リアル書店」の米国全体の売上高などがその候補。しかし記事には、その手のデータは見当たらない。となると状況証拠的なデータで「『リアル書店』の人気が復活」と読者を納得させる必要があるが、それもできていない。

バーンズ・アンド・ノーブル(B&N)」の店舗数拡大は「『リアル書店』の人気が復活」の根拠としては弱い。「米最大チェーン」が中小書店のシェアを奪って成長している可能性もある。それでも多くのチェーンが出店攻勢をかけているなら「人気が復活」しているのかなとは思う。だが、残りの事例も力不足。

マクナリー・ジャクソン」が5店目、「P&Tニットウエア」と「ブックス・アー・マジック」が2店目を開いたというだけの話。「B&N」の店舗数拡大の動きをベースに傾向物の記事にしようと考えたものの、有力な事例は見つけられなかったのだろう。だったら傾向物にするのを諦めるべきだ。


(2)ネット販売との比較は?

米国では米アマゾン・ドット・コムの台頭を受け、11年に当時書店チェーン2位だったボーダーズ・グループが経営破綻した」と清水記者も書いているように「リアル書店」の苦戦の大きな原因はネット販売の台頭だったはずだ。だったら、そことの比較も欲しい。

21年に米国市場での紙の書籍販売は8億2800万冊と、04年の調査開始以来で過去最高になった」とは書いているが、ネットと「リアル書店」に分けるとどうなるのかは触れていない。そもそもなぜ「21年」の数字なのかとの疑問も残る。常識的に考えれば22年のデータもありそう。


(3)「反転のきっかけ」が「コロナ禍」なら

苦境続きの書店が反転のきっかけを得たのがコロナ禍だ」で「巣ごもり需要で読書ブームが再燃し、コロナ禍で楽しめる数少ない娯楽の一つとして書店を訪れる人が増えた」ことを「復活」の要因とするなら、20年と21年に大きく伸びて22年以降は勢いが鈍っていると見るのが自然。実際、清水記者も米国の「紙の書籍販売」が「過去最高」になったのは「21年」と書いている。なのに23年になって「人気が復活」と取り上げるのはなぜなのか。「コロナ禍」以外の要因を見出さないと苦しい。「独立系書店」(よく分からない表現ではあるが…)の人気が要因なら、記事の柱はそちらにすべきだ。


(4)文が分かりにくい…

2022年には大物ロビイストが経営する書店として話題を集めた『P&Tニットウエア』が、ブルックリン区在住の作家が経営する『ブックス・アー・マジック』は2店舗目をそれぞれ開店した」という文は非常に分かりにくい。

主語を簡素化すると「2022年にはAが、Bは2店目をそれぞれ開店した」という構造になっている。この形にするなら、まず助詞(「が」と「は」)は揃えた方がいい。また時期もそれぞれに付けた方が意味を捉えやすい。「2022年3月にはAが、同年6月にはBが2店目を開店した」といった具合だ。

「確かに読みずらい」と清水記者は同意してくれるだろうか。「何が問題なのか、さっぱり分からない」と感じるようなら記事の書き手としては苦しい。


※今回取り上げた記事「『リアル書店』、米で人気復活 ~コロナ下で読書ブーム、最大チェーン『今年30店増』

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230306&ng=DGKKZO69000640V00C23A3FF8000


※記事の評価はD(問題あり)。清水石珠実記者への評価もDとする。清水記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

あるべき情報が見当たらない日経「NYタイムズ、電子版収入が紙超え」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/ny.html

2023年2月25日土曜日

日経朝刊1面「ウクライナ侵攻1年」連載に2つの誤り

25日の日本経済新聞朝刊1面の囲み記事を書いた甲原潤之介記者(安全保障エディター)と中村亮記者は「第2次大戦の後」の歴史を誤認しているのではないか。そう思えたので以下の内容で日経に問い合わせを送ってみた。

錦帯橋

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 甲原潤之介様 中村亮様

25日の朝刊1面に載った「ウクライナ侵攻1年:変わる世界秩序(中)核抑止、米ロ危うい均衡 ~やまぬ脅し、拡散リスクも」という記事についてお尋ねします。まず問題としたいのは「第2次大戦の後、他国への軍事侵攻は国際法違反となった。侵攻に踏み切る国は米欧の軍事介入に遭ってきた」とのくだりです。「第2次大戦の後」に「侵攻に踏み切る国は米欧の軍事介入に遭ってきた」とは必ずしも言えないのではありませんか。

例えば1979年に起きた中越戦争は「中国とベトナムとの戦争」(日本百科全書)であり「中国軍は雲南、広西方面から侵攻」したものの「米欧の軍事介入」に遭うことなく「近代戦に慣れたベトナム軍によって多大の損害を強いられ、自主的に撤退」(同)しています。

1969年の六日戦争(第3次中東戦争)も「イスラエルがエジプト、ヨルダン、シリアとの間で行なった戦争」(ブリタニカ国際大百科事典)であり「米欧の軍事介入」に至っていません。ちなみにイスラエルは「6日間に東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区、ガザ地区、シナイ半島、ゴラン高原を占領」(同)しています。

付け加えると、今回の記事の「ウクライナ侵攻が過去の例と決定的に異なるのは国連安全保障理事会の常任理事国で、核保有を認められているロシアが国際秩序を侵す暴挙に出たことだ」との説明にも問題を感じました。

1978年にソ連はアフガニスタンに侵攻しています。言うまでもなく「国連安全保障理事会の常任理事国で、核保有を認められている」国でした。この侵攻を「国際秩序を侵す暴挙」と見た日本を含む西側諸国は1980年のモスクワ五輪をボイコットしました。「ウクライナ侵攻」と似た状況と言えます。

第2次大戦の後」に「侵攻に踏み切る国は米欧の軍事介入に遭ってきた

ウクライナ侵攻が過去の例と決定的に異なるのは国連安全保障理事会の常任理事国で、核保有を認められているロシアが国際秩序を侵す暴挙に出たことだ

いずれも説明として誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御紙では読者からの間違い指摘を無視してミスを放置する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「ウクライナ侵攻1年:変わる世界秩序(中)核抑止、米ロ危うい均衡 ~やまぬ脅し、拡散リスクも

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230225&ng=DGKKZO68768550V20C23A2MM8000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。甲原潤之介記者と中村亮記者への評価もEとする。


※甲原記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

何があってもやっぱり「日米同盟強化」? 日経 甲原潤之介記者「アフガンの蹉跌(下)」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/08/blog-post_20.html

日経 甲原潤之介記者は「非核化の歴史3勝3敗」と言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/33.html

どうなったら「世界分裂」? 日経 甲原潤之介記者に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_25.html

日経 甲原潤之介記者の見立て通りなら在日米軍は要らないような…https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/04/blog-post_20.html


※中村亮記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

メキシコは「低税率国」? 日経1面「税収 世界で奪い合い」http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_3.html

なぜ韓国は対象外? 日経 中村亮記者「米軍がアジアに対中ミサイル網」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/blog-post_5.html

EU批判は「NATO批判」? 日経  中村亮記者に注文https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/eunato.html

2023年2月14日火曜日

「Deep Insight~ソニーでも後がなかった」を読んで日経 梶原誠氏に引退勧告

 日本経済新聞の梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)は書き手として引退の時期を迎えている。14日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~ソニーでも後がなかった」という記事を読んで改めてそう感じた。中身を見ながら問題点を指摘していきたい。

宮島連絡船

【日経の記事】

勝ち組企業であるソニーグループを率いた吉田憲一郎氏が、実質ナンバー2の十時裕樹氏に社長の座を譲る。一見順当なトップ人事だが、吉田氏は後がないと追い込まれていたはずだ。「市場に育てられた」とまで重んじてきた株式市場が変化を迫っていた。

グローバル比較のために株価をドル建てで見よう昨年1月までは好調だったが、その後息切れして9月には半分以下に落ち込んだ。世界の主要株で構成するMSCI全世界株価指数、テック株ブームの終わりに苦しむ米アップル、さらに東証株価指数(TOPIX)と比べても値動きが下回る。


◎「昨年1月までは好調」?

ソニーのドル建て株価について「昨年1月までは好調だった」と梶原氏は言う。しかし記事に付けたグラフ(21年末=100として指数化)を見ると21年末に比べ1月は10%ほど下げている。「昨年1月までは好調」と見せたいのならば、「昨年1月」がピークとなるようなグラフにすべきだ。

吉田氏は後がないと追い込まれていたはずだ」との見立てにも無理がある。続きを見た上でこの問題を論じたい。


【日経の記事】

吉田氏が指名委員会に十時氏の社長就任を提案したのは、株価の見劣りが目立ち始めた昨年7月。2月のロシアによるウクライナ侵攻が供給網の制約に拍車をかけ、米英を40年ぶりのインフレが襲っていた。6月には米連邦準備理事会(FRB)が0.75%の大幅利上げに踏み切り、世界景気の落ち込みは避けられなかった。

歴史的な衝撃を経て、世界経済は以前の常識が通じない姿に変わる。無配に落ちた2014年度から半導体事業を柱に立ち直ったが、変わり続けないと危機は繰り返す。そんな市場のシグナルを受け止めたうえでの決断だったのだろう。「事業ポートフォリオは静的でなく動的」。記者会見での十時氏の一言は、事業を入れ替えてでも会社を変える意思表示だ。


◎色々と問題が…

そもそも「吉田憲一郎氏が、実質ナンバー2の十時裕樹氏に社長の座を譲る」ことに大きな意味を見出すべきなのか。「吉田憲一郎氏」は会長兼CEOとしてトップに留まるので「十時裕樹氏」は「社長」になるとは言え「実質ナンバー2」のままだ。これでソニーが大きく変わると考えるのは無理がある。

吉田氏が指名委員会に十時氏の社長就任を提案したのは、株価の見劣りが目立ち始めた昨年7月」と梶原氏は言う。株式市場に急かされる形で社長交代に踏み切ったとのストーリーを描きたいのだろう。「ドル建て」で株価を見るのも、円建ての株価では辻褄が合わないからだと推測できる。

実際に「吉田氏」が「ドル建て」の株価を気にしていて「自分がトップにいてはダメだ。交代しなければ」と考えたのなら、そのストーリーでいい。しかし「そんな市場のシグナルを受け止めたうえでの決断だったのだろう」とあくまで梶原氏の読みだ。せめてソニー関係者がそう見ているぐらいの裏付けは欲しい。

記者会見での十時氏」のコメントからも、社長交代を機にソニーが大きく変わるとは感じられない。ネタに困ったのだとは思うが苦しすぎる。

ついでに言うと「歴史的な衝撃を経て、世界経済は以前の常識が通じない姿に変わる」という説明も大げさで根拠に欠ける。戦争やインフレは珍しいことではない。それで「世界経済」が「以前の常識が通じない姿に変わる」とは思えない。通じなくなった「以前の常識」が具体的に何なのか記事中に説明もない。

さらに続きを見ていこう。


【日経の記事】

世界経済はどんな姿になるのか。家電量販店で同社の製品を手に取れば、ヒントが浮かぶ。

まずはカメラ売り場。5年前、プロも使うハイエンドのミラーレス一眼で、ソニーは「ライバルを周回遅れにしている」と言われていた。ここ数年は各社も競合機を投入し、優位性は薄れている。

競争を左右するのは人工知能(AI)だ。被写体の属性を認識してピント合わせを助ける。ソニーが2年前に発売したフラッグシップ「α1」は人、動物、鳥を検出するが、ニコンは列車や飛行機を含む9種類を検出する機種をα1より低価格で同年ぶつけた。

次に音響製品。昨年発売した「ウォークマン」の最上位モデルは中国製だ。16年に発売した先代モデルはマレーシア製だった。多数の部品メーカーを擁する中国で作り、天災や地政学的な要因で部品が入ってこないリスクを減らす。部品の輸送距離を縮めて二酸化炭素(CO2)の排出も抑える。

AIが一変する先端技術、常態化する地政学リスク、地球温暖化が招く水害などの天変地異、脱炭素への社会的な圧力……。製品に映るのは、一昔前の発想ではついていけない経営環境ばかりだ。


◎「一昔前の発想ではついていけない」?

製品に映るのは、一昔前の発想ではついていけない経営環境ばかりだ」と梶原氏は言うが、そうでもない。まず「常態化する地政学リスク」。「地政学リスク」がゼロだった時代があるのか。「地球温暖化が招く水害などの天変地異、脱炭素への社会的な圧力」もかなり前からある。トヨタ自動車がプリウスを世に送り出したのが1997年。この段階では「脱炭素への社会的な圧力」は立派にあったと見ていい。

言いたいことを強引に捻り出しているので無理な説明になっている気がする。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

経済指標は「ノーマル(通常)への回帰」を告げる。ニューヨーク連銀が供給網の制約を数値化した「グローバル・サプライチェーン圧力指数」は1月、21年末の4分の1以下になった。米利上げのペースが緩むシナリオを読み、ドルに集中していたマネーも円やユーロに戻っている。だが、経営環境は元に戻らない。回帰先はむしろ「アブノーマル」だ

その事実に気付いている米企業がある。医療診断機器大手のダナハーだ。「買収の環境が整いつつある」。1月24日、ライナー・ブレア最高経営責任者(CEO)は投資家向け説明会で言い切った。目をつけていた会社が株安で買いやすくなったという意味だ。

同社は買収で事業の内容を変えてきた「変態企業」だ。QUICK・ファクトセットによると、1990年以来の買収は270件。204件のオランダ・フィリップスを引き離し、ヘルステクノロジー業界で圧倒的な世界一だ。

80年代まで工具や自動車部品を作っていた同社は、計測機器、医療診断機器、バイオ医薬品製造機器、デジタルを駆使した遠隔診断と、技術を応用できる成長分野に買収と融合で進出してきた。昨年末の株式時価総額は世界50位の1930億ドル(約25兆円)と90年末の425倍に膨らみ、営業利益率は9%から27%に拡大した。


◎「回帰先はむしろ『アブノーマル』」?

回帰先はむしろ『アブノーマル』」と梶原氏は言うが、その「アブノーマル」が具体的に何を指すのか判然としない。「その事実に気付いている米企業がある」とも書いている。ただ「買収の環境が整いつつある」というコメントが出てくるだけで「アブノーマル」が具体的に何を指すのかは謎。強引に推測するならば「買収しやすい環境」か。しかし、それが「アブノーマル」とも思えない。そもそも、ここで取り上げた「ダナハー」自体が「買収で事業の内容を変えてきた」企業なのだから「買収」はむしろ「ノーマル」だ。

一気に最後まで見ていく。


【日経の記事】

投資家も、変わる力を見定めて売買の判断を下す。昨年8月、米ゴールドマン・サックスの資産運用部門は世界経済の新潮流「5Ds」を打ち出した。

Digitization(デジタル化)、Deglobalization(グローバル化の後退)、Decarbonization(脱炭素)、Destabilization(地政学的な不安定)、Demographics(人口動態の変化)だ。

「秩序の変化は選別の機会だ」と共同最高投資責任者(CIO)のマリア・バサール氏は語る。デジタル化に懸けたダナハーの株は相場全体の下落に耐え、電子商取引(EC)への対応が遅れて経営危機に陥った米ベッド・バス・アンド・ビヨンドの株はマネーゲームに翻弄されている。

投資家心理が悪化すれば、選別が強まり市場を舞台にした企業の明暗はもっと露呈する。金融政策の効果は1年以上後に本格化する。足元の底堅い景気指標は、中国経済が再開したことや昨年春までの米金融緩和の効果が残っているためともいえ、引き締めが実体経済に及ぼす逆風はこれからだ。

ソニーの株価は人事発表以降、一時8%上昇した。新体制で会社が変わることへの期待だ。変化の裾野がどこまで広がるかは、日本経済の巻き返し力を決める。「時間はあまり残されていない」。日銀の次期首脳候補に取り沙汰された一人は、日本経済再建の処方箋について周囲に漏らしている。吉田氏もそう考えたに違いない


◎結局、何が言いたい?

あれこれ語っているが焦点が定まっていない。特に最後の段落が謎。「『時間はあまり残されていない』。日銀の次期首脳候補に取り沙汰された一人は、日本経済再建の処方箋について周囲に漏らしている」と急に「日銀の次期首脳候補に取り沙汰された一人」が出てくるが、これまた「日本経済再建の処方箋」の具体的な中身は分からない。ただ「時間はあまり残されていない」という漠然とした誰でも言えそうなコメントを紹介して「吉田氏もそう考えたに違いない」と、これまた推測で記事を締めている。

梶原氏については「訴えたいことが枯渇した書き手」と見ている。今回の記事を読んだ後も、その見方は変わらない。「頑張らないと日本は大変なことになるよ」的な話は誰でもできる。梶原氏だからこそ訴えられる結論を説得力のある形で導き出すのが難しいなら、後進に道を譲った方がいい。その方が梶原氏のためにも日経のためにも読者のためにもなる。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~ソニーでも後がなかった」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230214&ng=DGKKZO68410700T10C23A2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価もDを据え置く。梶原氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

異次元緩和は「国民生活を明るくした」と信じる日経 梶原誠氏に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2022/07/blog-post_28.html

「外国人投資家は日本株をほぼ売り尽くした」と日経 梶原誠氏は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/09/blog-post_16.html

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html

「霞が関とのしがらみ」は東京限定? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight.html

「儒教資本主義のワナ」が強引すぎる日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight_19.html

梶原誠氏による最終回も問題あり 日経1面連載「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/1.html

色々と気になる日経 梶原誠氏「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight.html

「投資の常識」が分かってない? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight_16.html

「気象予測の力」で「投資家として大暴れできる」と日経 梶原誠氏は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_16.html

「世界がスルーした東京市場のマヒ」に無理がある日経 梶原誠氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/deep-insight.html

「世界との差を埋める最後のチャンス」に根拠欠く日経 梶原誠氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/deep-insight.html

「日経平均3万円の条件」に具体性欠く日経 梶原誠氏「コメンテーターが読む2021」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/3-2021.html

2023年2月7日火曜日

豊田章男トヨタ社長は「数値目標」を口にしたことがない? 日経 中山淳史氏の誤解

久しぶりに日本経済新聞の誤りを指摘してみた。具体的な内容は以下の通り。

錦帯橋

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 中山淳史様

7日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~中計はレカネマブを生むか」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは冒頭の「4月に会長になるトヨタ自動車の豊田章男社長には在任期間中、曲げなかったことがある。『数値目標』を口にしないことだ」という記述です。

2021年12月14日付の日経の記事によると「トヨタ自動車の豊田章男社長は14日、都内で開いた電気自動車(EV)戦略に関する説明会で、EVの販売目標について『2030年に350万台を目指す』と発表した」そうです。この記事には「豊田氏はトヨタが5月に打ち出した戦略では30年にハイブリッド車(HV)を含めた電動車を年800万台売ることを目標とし、うちEVと燃料電池車(FCV)で計200万台としていた」とも述べています。

豊田章男社長」は「在任期間中」に「EVの販売目標」などに関して「数値目標」を口にしたのではありませんか。「豊田章男社長には在任期間中、曲げなかったことがある。『数値目標』を口にしないことだ」との中山様の説明は誤りだと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


問い合わせの内容は以上。効果が乏しそうなエーザイの「レカネマブ」について「不治の病とされたアルツハイマー病治療の画期的な新薬『レカネマブ』」などと書いていることからも中山淳史氏(肩書は本社コメンテーター)には期待できない。同氏への評価はD(問題あり)とする。記事への評価もD。


※今回取り上げた記事

Deep Insight~中計はレカネマブを生むか

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230207&ng=DGKKZO68220240W3A200C2TCR000

2023年2月1日水曜日

朝刊1面には苦しすぎる日経「日本交通、タクシー運転手に女性パート採用」

1日の日本経済新聞 朝刊1面に載った「日本交通、タクシー運転手に女性パート採用 人手不足で」という記事は、ビジネス面で大きく扱うのさえ難しいと思える中身だった。見出しからは「女性パートに限った採用に踏み切ったのがニュースなのだろう」と感じたが、実はそうでもない。最初の段落を見てみよう。

宮島

【日経の記事】

タクシー大手の日本交通グループは子育て中の女性などを対象にパート勤務の運転手を採用する。運転手は大半が正社員雇用だが高齢化と新型コロナウイルス禍による需要減で大幅に減っている。時給制で勤務時間を柔軟にして従来雇うのが難しかった層を受け入れる。深刻化する人手不足が雇用形態の多様化を促している。


◎「女性パート採用」と言うものの…

女性パート採用」と見出しでは打ち出しているが、記事には「子育て中の女性などを対象」としか書いていない。男性も「対象」に入っているのだろう。騙しの要素が強い見出しではあるが担当者を責めるのは酷だ。記事の内容が弱すぎて見出しを付けるのに困ったのではないか。しかも1面。騙し要素ゼロでは成立しにくい。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

日本交通グループのハロートーキョー(東京・江東)がパート運転手の募集を始めた。週3日、1日5時間からのシフト制で、午前6時から午後10時の間で希望の時間帯を選べる。時給は1500円からになる。

普通自動車免許を取得して3年が経過していることが採用の要件だ。会社負担でタクシー運転に必要な二種免許を取得できる。まず15人の採用を目指しており3月の乗務開始を見込む。


◎何が新しい?

ニュース記事では「何が新しい」のかを読者に知らせる必要がある。しかし、この記事ではそこが明確になっていない。見出しから判断すると「女性パート採用」だろう。だが「タクシー運転手に女性パート採用」は初めてといった説明は見当たらない。「日本交通グループ」として初めてなのかも不明。ついでに言うと「ハロートーキョー」以外の「日本交通グループ」の会社がどう対応するのかも記事では触れていない。

記事を読み進めるとタクシー運転手の「パート採用」自体は珍しくないと分かる。最後まで見ていこう。


【日経の記事】

日本交通グループは全国で約7000台のタクシーを運行している。今回のパート勤務は配車アプリからの予約客に特化し車を走らせながら乗客を探す「流し営業」はしない。

日本のタクシー運転手は大半が正社員雇用だ。パートは2割程度で定年後に再雇用された65歳以上がこのうち8割以上を占める。運転手全体の平均年齢は60歳、女性の割合は4%にとどまる。

コロナによる需要減で人材も流出した。東京ハイヤー・タクシー協会などによると、2021年度末の都内の法人タクシーの運転手数は5万5391人と19年度末と比べて9000人以上減少し、記録が残る1970年度以降で最少となった。

営業収入はコロナ禍前の水準に戻り、今後は訪日客の需要回復も見込める。タクシー大手の幹部は「需要はあるのに人手が足りない。車両の稼働率はコロナ前より10%超下がっている」と語る。


◎悪い意味で度胸が凄い

日本のタクシー運転手」全体で見ると「パートは2割程度」いるらしい。「タクシー運転手」に占める「女性の割合は4%」とすると「タクシー運転手」の1%程度は「女性パート」だと推定できる。ならば「日本交通グループ」がその採用を始めたからと言ってニュース性は乏しい。1面に持っていくなら、まとめ物にしたいところだが、今回は1社モノ。これで1面に出そうとするのは悪い意味で度胸がある。

ついでに記事の書き方で注文を1つ。「配車アプリからの予約客に特化し車を走らせながら乗客を探す『流し営業』」と書くと「流し営業」=「配車アプリからの予約客に特化した上で車を走らせながら乗客を探す営業」と取れる。ここは読点を打つだけでいい。「配車アプリからの予約客に特化し、車を走らせながら乗客を探す『流し営業』は~」とすれば誤解されにくくなる。


※今回取り上げた記事「日本交通、タクシー運転手に女性パート採用 人手不足で」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230201&ng=DGKKZO68075100R00C23A2MM8000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2023年1月20日金曜日

岩田屋の宣伝係のつもり? 「高級ラウンジ活況」が苦しい日経 関口桜至朗記者の記事

日本経済新聞の関口桜至朗記者は岩田屋の宣伝係でもやっているつもりなのか。20日の朝刊 九州経済面に載った「高級ラウンジ活況 岩田屋三越、1000万円購入客も~モノ・サービス提案 若年層取り込む」という記事は目を覆いたくなる出来の悪さだった。冒頭で「百貨店の岩田屋三越(福岡市)が岩田屋本店(同市)に設けた高級ラウンジに、20~30代の富裕層が集まっている」と打ち出しているが、この話自体が苦しい。記事の一部を見ていこう。

宮島

【日経の記事】

岩田屋本店にある富裕層向けの「ラウンジS」は、2021年3月にオープンした。(中略)ラウンジの利用には事前予約が必要で、受け入れるのは1日1組のみだ。毎月10組程度が利用し、これまでに延べ約180組が訪れた。

岩田屋三越によると、客層は20~30代の若年層が1割程度を占める。ラウンジ担当者は「百貨店を利用する富裕層は高齢の方が多いイメージだが、岩田屋本店新館は若者に人気のブランドも多く入っていることから、客層は比較的若い」と話す。


◎わずか20組程度?

電子版では違う見出しが付いているが、紙の新聞では「高級ラウンジ活況」となっている。しかし「受け入れるのは1日1組のみ」で「毎月10組程度が利用し」ている程度らしい。「1日1組」しか「受け入れ」ないのに稼働率は3割ぐらいで高くない。「高級ラウンジ」での売り上げがどの程度あるのかは不明。全体として「活況」を呈していると判断できる材料はない。

では「高級ラウンジに、20~30代の富裕層が集まっている」とは言えるだろうか。「約180組が訪れ」て「若年層が1割程度」だとすれば開設から2年近くが経過して利用は20組前後。これで「高級ラウンジに、20~30代の富裕層が集まっている」と見なすのは無理がある。

なのに「具体的な購入品目は秘密だが、若年富裕層の客が1000万円を超える商品をまとめて購入したこともあったという。投資などで成功した若年層が、豊富な資金力で高額消費を楽しむ構図が浮かび上がる」などと書いてしまう。嘘ではないとしても強引に盛り上げている印象は否めない。

取材してみて「岩田屋の高級ラウンジにどんどん20~30代の富裕層が集まってきているのか。これは面白い話だ」と関口記者が本気で思えたのならば経済記者には向いていない。ネタに困って強引に九州経済面のトップ記事を書き上げたのかもしれないが、だとしても「こんな岩田屋の宣伝係を買って出たような苦しい記事を世に送り出して恥ずかしい」という気持ちは持ってほしい。


※今回取り上げた記事「高級ラウンジ活況 岩田屋三越、1000万円購入客も~モノ・サービス提案 若年層取り込む」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC065HV0W2A201C2000000/


※記事の評価はD(問題あり)。関口桜至朗記者への評価もDとする。

2023年1月19日木曜日

「証券、手数料より資産残高」が怪しい日経 五艘志織記者の記事

19日の日本経済新聞朝刊 金融経済面に五艘志織記者が書いた「証券、手数料より資産残高 個人向け営業の評価転換~相場低迷、問われる持続性」という記事には色々と問題を感じた。中身を見ながら具体的に指摘したい。

錦帯橋

【日経の記事】

証券会社が個人向け営業員の評価体系を変えている。SMBC日興証券は売買手数料などの収益の総額から、投資信託など預かり資産の伸びを重視する体系に改めた。大和証券グループ本社や三菱UFJモルガン・スタンレー証券なども短期利益より顧客の資産形成を優先する営業にかじを切っている。株安で収益環境が厳しさを増すなか、営業改革の持続性が問われている。

SMBC日興では22年度から総収益の仕組みをなくし、投資信託やファンドラップの手数料収入や残高の純増、運用以外の事業承継などにわけて支店を評価している。「残高重視の営業に移行する中で、高い手数料の金融商品を売る動機が働きにくくなるようにした」。SMBC日興の担当者は狙いをこう語る。


◎話が古い

囲み記事だとしても話が古い。「証券会社が個人向け営業員の評価体系を変えている」と打ち出してはみたものの最初の事例となる「SMBC日興証券」が「評価体系を変え」たのは「22年度から」。「22年度」も終わろうとしているこのタイミングでなぜ記事にしたのか。この後に出てくる「野村証券」もやはり「22年4月」に仕組みを変えている。例えば「評価体系を変え」たことが、ようやく利益につながり始めたといった話なら分かる。その辺りの工夫が欲しい。

さらに言えば「SMBC日興証券」の場合「手数料より資産残高」なのか微妙。「総収益の仕組みをなくし、投資信託やファンドラップの手数料収入や残高の純増、運用以外の事業承継などにわけて支店を評価している」らしいが「個人向け営業員の評価体系を変えている」かどうかは触れていない。「支店を評価」する方法に関しても「投資信託やファンドラップの手数料収入」が評価項目に入っている。「預かり資産の伸びを重視する体系」がどの程度の「重視」なのか具体的な数値も見当たらない。

残高重視の営業に移行する中で、高い手数料の金融商品を売る動機が働きにくくなるようにした」という「担当者」のコメントも「まだ残高重視の営業に移行する途上」と読み取れなくもない。結局「手数料より資産残高」の中身がぼんやりとしか見えてこない。これが辛い。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

従来は特定の大口顧客からのまとまった注文で成績を上げられた。新しい体系では商品販売額を評価するポイント制を導入し、顧客1人あたりのポイントに上限を設けた。営業員は多くの顧客と取引し、それぞれのニーズに合った提案をすることが求められるようになった。


◎で「残高重視」は?

やはり「手数料より資産残高」という話になっていない。「顧客1人あたりのポイントに上限を設けた」というだけだ。「営業員」の評価に関しては、今も「資産残高より手数料」重視なのではと思える。

さらに見ていく。


【日経の記事】

野村証券は顧客の預かり資産残高に応じ、手数料を受け取る「レベルフィー」を22年4月に全店で始めた。株式と債券、投資信託が対象。運用商品を売り買いするたびに手数料を徴収するのではなく、時価の評価額に手数料が連動するしくみだ。顧客の預かり資産が増えれば証券会社の実入りも伸び、両者の利害が重なりやすくなる。一定の資産を持つ投資家は従来型とレベルフィーの双方から選ぶことができ、22年9月末時点の対象資産は2500億円に達した


◎これも苦しいような…

野村証券」の事例も「手数料より資産残高」で「営業員」を評価している話にはなっていない。「時価の評価額に手数料が連動するしくみ」を導入して「一定の資産を持つ投資家は従来型とレベルフィーの双方から選ぶことができ」るようにしただけだ。「営業員」の評価が「手数料」で決まっている可能性は残る。仮に「資産残高」で評価が決まる仕組みになっているのなら、そこは明示すべきだ。

付け加えると「22年9月末時点の対象資産は2500億円に達した」とだけ書くのは感心しない。この場合は「従来型」との比較が欲しい。

紙面を埋めるために強引に企画を捻り出したのか。記者・デスクの力量不足なのか。いずれにしても、この記事に高い評価は与えられない。


※今回取り上げた記事「証券、手数料より資産残高 個人向け営業の評価転換~相場低迷、問われる持続性

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230119&ng=DGKKZO67695090Y3A110C2EE9000


記事の評価はD(問題あり)。五艘志織記者への評価もDとする。

2023年1月12日木曜日

「西欧諸国」では「生涯無子」の増勢収まった? 日経 福山絵里子記者に問う

12日の日本経済新聞朝刊1面に福山絵里子記者が書いた「生涯子供なし、日本突出~50歳女性の27% 『結婚困難』が増加」という記事は、目の付け所こそ悪くないが高い評価はできない。データの解釈が恣意的だからだ。「生涯無子」について福山記者は以下のように書いている。

宮島

【日経の記事】

人口学では、女性で50歳時点で子どもがいない場合を「生涯無子」(チャイルドレス)と見る。OECDによると、70年生まれの女性の場合、日本は27%。比較可能なデータがある17カ国のうちで最も高い。次いで高いのはフィンランド(20.7%)で、オーストリア、スペインと続く。ドイツはOECDのデータにないが、ドイツ政府の統計によると21%(69年生まれ)だった。

24カ国で比較できる65年生まれでも日本(22.1%)が最も高く、英国、米国など主要国を上回る。両立支援などの政策が進んだ西欧諸国では子を持たない人の増加の勢いが収まっており、日本は後れをとっている


◎「西欧諸国」とはどの国のこと?

両立支援などの政策が進んだ西欧諸国では子を持たない人の増加の勢いが収まっており、日本は後れをとっている」と福山記者は言うが、それを裏付ける具体的なデータは見当たらない。記事に付けたグラフでは増加組が日本、フィンランド、英国、ドイツ、スペインで「増加の勢いが収まって」いるのが米国とスウェーデン。この両国は「西欧諸国」ではない(スウェーデンを北欧ではなく「西欧」と見なしても1カ国では「諸国」にならない)。そして「西欧」に当たるドイツ、スペインでは増加傾向。話が違う。

そして「生涯無子」を減らす策に関しても福山記者はおかしな主張を展開する。


【日経の記事】

近年大きく増えたのは(1)の結婚困難型だ。25歳から49歳までのどの年代(5歳刻み)を見ても最多だった。十分な経済力がある適切な相手を見つけることができないことも一因とみられる。次に多かったのは(2)の無子志向で、若い世代で増えた。女性全体の中で5%程度が無子志向と推察した。

未婚女性では低収入や交際相手がいないと子を望まない確率が高かった。守泉氏は「積極的選択というより、諦めている女性が多いと示唆される」と話す。

岸田政権は子育て世帯への経済的支援を充実する見通しだ。非正規社員への社会保障の拡充や男女ともに育児との両立が可能な働き方へ向けた改革も必要となる。子育てのハードルを下げるため教育費の軽減も急務だ。

日本では86年に男女雇用機会均等法が施行された。無子率が高い65年~70年生まれは均等法第一世代だ。働く女性が増えたものの両立支援は進まず、退職して出産か子どもを持たずに働くかの選択を迫られる傾向が続き、少子化が進んだ


◎「両立支援」に効果ある?

働く女性が増えたものの両立支援は進まず、退職して出産か子どもを持たずに働くかの選択を迫られる傾向が続き、少子化が進んだ」と福山記者は言う。「両立支援」が十分ならば「少子化が進んだ」りしないと思い込んでいるようだ。となるとフィンランドで「生涯無子」の比率が高く、しかも増加傾向にあるのをどう説明するのか。日経は2021年の記事で「教育や福祉が充実、育児休業を取得する男性が8割以上いるなど、共働き子育ての先進国」と同国を紹介している。なのに出生率は日本とほぼ同水準。「共働き子育ての先進国」になっても少子化克服は難しいことをフィンランドは教えてくれる。むしろ「共働き子育ての先進国」だからこそ少子化を克服できないと見る方が自然だ。

個人的には少子化は放置で良いと思うが、どうしても克服したいならば学ぶべきは「西欧諸国」でも北欧でもない。人口置換水準を大きく上回る国々だ。世界には、そうした国がたくさんある。そこから目を背けたままでは、この問題で説得力のある答えは出せない。



※今回取り上げた記事「生涯子供なし、日本突出~50歳女性の27% 『結婚困難』が増加

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230112&ng=DGKKZO67498650R10C23A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。福山絵里子記者への評価もDとする。福山記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。


読者に誤解与える日経 福山絵里子記者「子育て世代『時間貧困』」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/08/blog-post_21.html

2023年1月6日金曜日

「東南ア『観光公害』回避広がる」が成立していない日経の記事

何を訴えたいのかよく分からない記事が6日の日本経済新聞朝刊 国際・アジアBiz面に載っていた。 「東南ア『観光公害』回避広がる~インドネシア、島の入園料上げ中止」という見出しからして分かりにくい。「入園料大幅引き上げ」なら見出しの組み合わせとして違和感はない。だが「入園料上げ中止」だ。

宮島連絡船

記事の中身を見ていこう。

【日経の記事】

東南アジア諸国で観光客を制限することで「オーバーツーリズム(観光公害)」を回避する動きが広がる。新型コロナウイルス禍から観光需要が回復しつつあるなか、環境に配慮した持続可能な観光産業の育成を目指す。だが、収入減を不安視する地元住民の反対も根強く、各国政府は難しいかじ取りを迫られている。

インドネシア政府は、世界最大のトカゲ「コモドドラゴン(コモドオオトカゲ)」の生息地として人気のあるコモド島への入園料の大幅値上げを予定していた。だが、値上げを翌月に控えた2022年12月、値上げの中止を発表した

平日の入園料は外国人の場合は15万ルピア(約1300円)だが、同政府の計画ではこれを375万ルピアに引き上げるはずだった。

観光客数を減らして自然環境を保全する狙いだったが、収入減を懸念する観光業界や地元自治体の関係者からは反対の声が上がっていた。


◎話が違うような…

冒頭で「東南アジア諸国で観光客を制限することで『オーバーツーリズム(観光公害)』を回避する動きが広がる」と打ち出しているが、事例として最初に出てくるのは「コモド島への入園料の大幅値上げ」が中止になった話。これをメインに据えるなら「『オーバーツーリズム』を回避する動きに歯止めがかかってきた」とでも書くべきだ。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

オーバーツーリズム対策には値上げのほか、訪問者数の制限、自然環境の回復のための一時的な閉鎖などがある。

タイ政府は22年、南部のビーチリゾート、ピピ島のマヤ湾を約40カ月ぶりに観光客に開放した。マヤ湾はレオナルド・ディカプリオさん主演の映画「ザ・ビーチ」のロケ地となったことで、観光客が急増して生態系が損なわれてしまった。そのため同国政府が18年、環境保全を理由にマヤ湾の閉鎖に踏み切った経緯がある。

訪問者数は現在、1日4000人と18年時点の繁忙日(5000人)を下回る水準に制限され、遊泳も禁止された。天然資源・環境省の担当者は、閉鎖期間中にサンゴの状態が回復しサメの群れも戻ってきたと話す。


◎これも苦しい…

これも「『観光公害』回避広がる」の事例としては苦しい。「政府が18年、環境保全を理由にマヤ湾の閉鎖に踏み切った」のを受けて「『観光公害』回避広がる」と書くのなら分かるが「22年、南部のビーチリゾート、ピピ島のマヤ湾を約40カ月ぶりに観光客に開放」している。つまり規制緩和だ。「『観光公害』回避」の観点から見れば後退とも言える。

3番目の事例はさらに辛い。


【日経の記事】

持続可能な観光産業の育成は、短期的な収益機会よりも長期的な視点を重視できるかがカギになる。

解決策のひとつとなりそうなのが、アジア開発銀行(ADB)が支援してベトナム中部のフォンニャケバン国立公園の近くで立ち上げたファームステイのプロジェクトだ。地元住民が事業の9割を担い、収益を得る。宿泊施設では生ごみなどを発酵・分解させて堆肥化する「コンポスト」を行い、徹底したリサイクルを実践している


◎関係ある?

宿泊施設では生ごみなどを発酵・分解させて堆肥化する『コンポスト』を行い、徹底したリサイクルを実践している」と言うが、これが「観光公害」とどう関連するのか分かりにくい。常識的に考えれば「宿泊施設」から出る「生ごみ」が「観光公害」の元になっている訳ではないだろう。

宿泊施設」で出る「生ごみ」をいくら「リサイクル」したところで「フォンニャケバン国立公園」を訪れる観光客が公園内などにゴミを落としていく問題は解決しないはず。事例が足りないので、あまり関係ない話を強引にねじ込んだのだろうか。

最後まで読んでも「東南アジア諸国で観光客を制限することで『オーバーツーリズム(観光公害)』を回避する動きが広がる」とは感じられなかった。むしろ、そうした「動き」にブレーキがかかっているのでは?


※今回取り上げた記事「東南ア『観光公害』回避広がる~インドネシア、島の入園料上げ中止

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230106&ng=DGKKZO67358230V00C23A1FFJ000


※記事の評価はD(問題あり)。ジャカルタ支局の柴田奈々記者とバンコク支局の井上航介記者への評価もDとする。