2020年10月29日木曜日

英仏は本当に休んでた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight~準大国の休息は終わった」

 訴えたいことは特にないが順番が回ってきたから紙面をとりあえず埋めた--。29日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~準大国の休息は終わった」という記事からは、そんな印象を受けた。

新田大橋(大川市)※写真と本文は無関係

筆者の秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)は記事を以下のように締めている。


【日経の記事】

米国の一極体制が終わったといわれてから久しい。準大国が米国の指導力に頼っていればよかった休息の時代は終わった。


◎「休息の時代」はいつ終わった?

準大国の休息は終わった」と見出しにも取っているのだから、これが秋田氏の最も訴えたかったことなのだろう。だが「準大国の休息」がいつ「終わった」のかは教えてくれない。わざわざ訴えるぐらいだから「最近になって終わった」との趣旨かと思えば「米国の一極体制が終わったといわれてから久しい」とも書いている。だとすれば、かなり前に「準大国の休息は終わった」とも取れる。それならなぜ今頃になって「準大国の休息は終わった」と打ち出したのか。

第2次世界大戦終了と同時に「休息」が始まり、トランプ政権誕生で「休息は終わった」と仮定しよう。本当に「準大国」(秋田氏によると「日英独仏、イタリア、カナダ」)は「休息」していたのだろうか。

例えば1982年のフォークランド紛争で英国は200人を超える戦死者を出した。2003年にはイラク戦争にも参戦している。フランスは2013年にマリへ軍事介入し、15年にはシリアで空爆に踏み切った。それでも「休息」なのか。

秋田氏の話に耳を傾ける必要はない。そう結論付けるのが妥当だろう。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~準大国の休息は終わった」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201029&ng=DGKKZO65558570Y0A021C2TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を維持する。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。


日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/deep-insight.html

「イスラム教の元王朝」と言える?日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight_28.html

「日系米国人」の説明が苦しい日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/deep-insight.html

米軍駐留経費の負担増は「物理的に無理」と日経 秋田浩之氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_30.html

中国との協力はなぜ除外? 日経 秋田浩之氏「コロナ危機との戦い(1)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_23.html

「中国では群衆が路上を埋め尽くさない」? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight.html

日経 秋田浩之氏が書いた朝刊1面「世界、迫る無秩序の影」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/1_15.html

2020年10月28日水曜日

業界寄りの姿勢が残念な日経「大手証券、投信手数料『残高連動』で試行錯誤」

28日の日本経済新聞朝刊 金融経済面に載った「大手証券、投信手数料『残高連動』で試行錯誤~大和、売買多いと顧客有利に」という記事は「大手証券」に寄り添う内容だと感じた。前半部分を見てみよう。

柳川市から見た有明海※写真と本文は無関係

【日経の記事】

証券会社の投資信託販売で「残高連動」の手数料体系が広がってきた。大和証券は10月から連動型を新たに設け、野村証券も連動型の導入を検討している。もっとも、大和の場合は多く売買するほど顧客が有利になる仕組みで、一つの商品を長期保有すると不利になる場合もある。顧客本位の営業と、利益動向をにらみながらの試行錯誤が続いている。

大和は10月から、購入額が1000万円以上の場合に、購入時にその都度手数料を支払うか、残高に応じて年換算で最大約1%のフィーを支払う連動型にするかを選べるようにした。既に販売手数料が無料の商品などを除き、約360本を選んだ。12月以降に約30本を追加して原則として全ての投信が対象となる。

「相場環境にあわせ売買しながらふやしたい」なら残高連動型――。大和はウェブサイトで多く売買するほど有利になりやすいと解説している。連動型のコストは何回売買しても残高の約1%で、アクティブ型投信で一般的な2~2.5%程度の販売手数料がかからないためだ。

一般的な残高連動のイメージは、同じ商品を長期保有し、資産が膨らめば業者の収益も増えるというもの。大和も資産と収益が連動するのは同じだが、売買を前提としている点が目を引く。


◎「販売手数料」を実質的に取られるなら…

連動型のコストは何回売買しても残高の約1%で、アクティブ型投信で一般的な2~2.5%程度の販売手数料がかからない」と言うが、これだと「販売手数料」の代わりに「連動型」の「手数料」を払うことになる。「既に販売手数料が無料の商品」が世の中にはたくさんあるのだから、「大手証券」の「残高連動型」を選ぶ合理性はゼロに近い。

大手証券」が「試行錯誤」するのは勝手だが、日経には「投資家にとってメリットはない」と解説してほしかった。しかし、話は逆の方向に進んでいく。


【日経の記事】

野村証券は5月に残高連動型の手数料体系の導入検討を表明した。野村ホールディングスの奥田健太郎グループ最高経営責任者(CEO)は「(顧客と)同じベクトルを共有したい」という。ただし導入めどは2年で、慎重に制度設計しようという思惑がにじむ。

金融庁の森信親元長官が「顧客本位の営業」を求めてから、証券会社の手数料体系への注目は高まった。主要インターネット証券では投信の販売手数料はほぼ全面的に撤廃され、資産形成向けを掲げる新規参入組もおおむね無料だ。

対面営業型証券の歩みが遅く見えるのは、顧客層とも関連しているといえそうだ。相対的に売買頻度が高い顧客が多いのだとすれば、大和の新手数料が顧客の利益になるのは間違いない。大和は「当初は全体の投信手数料収入は減る可能性が高い」(古橋朋和営業企画部長)と予想する。


◎「顧客の利益になる」?

相対的に売買頻度が高い顧客が多いのだとすれば、大和の新手数料が顧客の利益になるのは間違いない」というのは間違いではない。選択肢は多い方がいいだろう。だが「主要インターネット証券では投信の販売手数料はほぼ全面的に撤廃され」ているのだから「対面営業型証券」も追随して「撤廃」してくれた方が「顧客の利益になる」。なのに「大和の新手数料が顧客の利益になるのは間違いない」と書いてしまうところに「大手証券」寄りの姿勢を感じた。


※今回取り上げた記事「大手証券、投信手数料『残高連動』で試行錯誤~大和、売買多いと顧客有利に

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201028&ng=DGKKZO65515450X21C20A0EE9000


※記事の評価はC(平均的)

2020年10月27日火曜日

根拠なしに「多様性」の大切さを説いても…日経 村山恵一氏「Deep Insight」

27日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に村山恵一氏(肩書は本社コメンテーター)が書いた「Deep Insight~グーグルは『民主的』なのか」という記事は、まともな根拠なしに「多様性」や「開放性」が重要だと訴えているのが引っかかった。

九州佐賀国際空港※写真と本文は無関係です

問題のくだりを見ていこう。


【日経の記事】

いまや世界の半数以上がネットを使い、人々の行動や思考にテクノロジーが深く影響する。現代のテック企業がもつ力は、かつてパソコン用基本ソフトを牛耳った米マイクロソフトの比ではない。

だから斬新なものをつくる創造力だけでは足りない。テクノロジーが社会にもたらす副作用やリスクに気づく想像力がいる。さまざまな価値観を解するオープンな企業文化が大切になる

グーグルはどうだろうか。

まず多様性。世界の技術系従業員の76%を男性が占める。米国では白人とアジア系の技術者が圧倒的で、黒人は2.4%、ラテン系は4.8%にとどまる。グーグルの利用者は世界中にいる。「それに見合った人員構成にしたい」と同社は訴えるが、道半ばだ。


多様性」を求める根拠は?

テック企業」には「テクノロジーが社会にもたらす副作用やリスクに気づく想像力がいる」としよう。だが、そのために「多様性」が重要かどうかは何とも言えない。「多様性」によって「副作用やリスクに気づく想像力」が高まるという統計的な根拠が欲しい。

そもそもなぜ「技術系従業員」で見るのか。経営方針を決めるのは経営陣なので「多様性」の確保が重要だとしても経営陣限定で十分な気もする。

従業員」が問題を指摘してくる場合もあるとは思う。だとしたら、なぜ「技術系従業員」に限るのか。「副作用やリスクに気づく想像力」を有している非「技術系」の「従業員」もいるはずだ。

続きを見ていく。


【日経の記事】

次に開放性。グーグル親会社のアルファベットは創業者であるラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン両氏が特殊な株で議決権の51%を握る(2019年末時点)。「部外者がグーグルを乗っ取ったり、影響を与えたりするのが困難な構造」は04年の上場時に築かれた。

この体制が大胆な意思決定と驚異的な成長を可能にしたのは確かだ。しかしサービスが公共性を帯びるほど社会に浸透してもなお、ごく少数の意見で重要事項が決まる経営がずっと最適なのかはわからない。2人が公の場で考えを語る機会が減ったのも気になる。

グーグルの従業員だけが豊かになり、自分たちは取り残された。そう怒る地域住民が同社の通勤バスを「格差の象徴」と取り囲んだこともある。セクハラで同社の幹部らが大量解雇された一件では、明るい企業イメージとの落差に驚いた人がたくさんいただろう。


◎「わからない」なら…

この体制が大胆な意思決定と驚異的な成長を可能にしたのは確か」だと村山氏は言い切る。そして「ごく少数の意見で重要事項が決まる経営がずっと最適なのかはわからない」と見ている。ここから「開放性」を高めるべきとの結論は見出せない。何の根拠も示していないし、村山氏自身も「ごく少数の意見で重要事項が決まる経営がずっと最適なの」かもしれないと考えているのだから。

さらに見ていく。最も引っかかったのが以下のくだりだ。


【日経の記事】

社会とのズレを感じさせるのはグーグルだけではない。データやアルゴリズムを駆使して効率や規模を追う技術者気質の単一文化がしみつき、自社のテクノロジーが引き起こす問題をなかなか察知できないテック企業が多い――。業界内から聞こえてくる声だ。

例えば、SNS(交流サイト)でヘイトスピーチや誹謗(ひぼう)中傷が広がる問題。男性中心のサービス開発ではなく、女性の意見が重視される組織なら、事態が深刻になる前に手を打てたのではないか。そういう見方がある


◎誰の「見方」?

女性の意見が重視される組織なら、事態が深刻になる前に手を打てたのではないか。そういう見方がある」という説明が引っかかる。まず「テック企業」は「女性の意見が重視される組織」ではないのか。記事に付けたグラフによると、フェイスブックの技術職の24%は「女性」だ。彼女らの「意見」を軽視して「サービス開発」を進めてきたと言える根拠を村山氏は示していない。

女性の意見が重視される組織なら、事態が深刻になる前に手を打てたのではないか」という見立てにもまともな根拠はない。「そういう見方がある」とは書いているが、誰の「見方」かすら分からない。仮に著名な学者が「女性の意見が重視される組織なら、事態が深刻になる前に手を打てた」と言っているとしても、それだけでは苦しい。大切なのはエビデンスだ。

多様性」を高めることが組織にとって望ましいとは限らない。それは少し考えれば分かる。例えば男女混合のサッカーワールドカップを開催するとしよう。選手の男女比は各国が自由に決められる。

この場合「多様性」を重視して男女半々の選手構成で大会に臨む国と、実力重視で選び選手全員が男性の国では、どちらが勝利の可能性を高めているだろうか。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~グーグルは『民主的』なのか」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201027&ng=DGKKZO65471560W0A021C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。村山恵一氏への評価もDを維持する。村山氏については以下の投稿も参照してほしい。


「日本の部長、データを学べ」に説得力欠く日経 村山恵一氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_16.html

日経 村山恵一氏の限界見える「Deep Insight~注目 シェア人類の突破力」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/deep-insight_6.html

「ネットと民主主義 深まる相克」に説得力欠く日経 村山恵一氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/blog-post_30.html

2020年10月26日月曜日

「新型・胃袋争奪戦が勃発」に無理がある日経 中村直文編集委員「経営の視点」

26日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「経営の視点~新型・胃袋争奪戦が勃発 業態・場所超え顧客に接近」という記事で中村直文編集委員が苦しい分析を披露している。問題のくだりを見ていこう。

新田大橋(大川市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

日本惣菜協会によると食市場のシーン別内訳は、自宅で調理して食べる内食が約36兆円、弁当や総菜などの中食が約10兆円、外食が約26兆円。近年はコンビニエンスストアがイートインをつくったり、スーパーがレストランを運営したり、垣根が低くなっていた。


◎「近年」の話?

近年はコンビニエンスストアがイートインをつくったり、スーパーがレストランを運営したり、垣根が低くなっていた」という説明がまず引っかかる。ミニストップの「イートイン」はいつからあるのか。イトーヨーカ堂がデニーズの出店を始めたはいつなのか。それが「近年」でないのは中村編集委員も知っているはずだが…。

続きを見ていく。


【日経の記事】

新型コロナでこれが加速。内食から中食、外食に向かっていた流れが逆流している。国内人口の伸び率が鈍化してきた1980年代後半から食品市場では「ストマックウオー」(胃袋争奪戦)という言葉が生まれていた。今や新型の胃袋争奪戦が勃発したのだ。

仮に外食市場が15%縮むとざっと4兆円が流出する計算になる。ロイヤルホールディングスの菊地唯夫会長は「消費者は好きなときに、好きな場所で好きなモノを食べることができる。食ビジネスはデジタル化で時間と場所から解放された」と指摘する。


◎「新型」と言える?

人口が増えない中で限られた「胃袋」需要を奪い合う状況を「『ストマックウオー』(胃袋争奪戦)」と呼ぶならば、ここに来ての質的変化はない。「新型コロナ」の影響で「内食から中食、外食に向かっていた流れが逆流している」としても戦況が変わっているだけだ。そこは中村編集委員も気付いているのか「デジタル化」を持ち出している。

消費者は好きなときに、好きな場所で好きなモノを食べることができる。食ビジネスはデジタル化で時間と場所から解放された」という「ロイヤルホールディングスの菊地唯夫会長」の見立てが的を射ているのならば「新型の胃袋争奪戦が勃発した」と見ていいかもしれない。しかし、「菊地唯夫会長」の認識は的外れと言うほかない。

食ビジネスはデジタル化で時間と場所から解放された」のならば、日本の外食店は「デジタル化」によって世界各地に24時間の出前が可能になっているはずだ。そもそも「ロイヤルホールディングス」の系列店舗で出している料理は客が「好きなときに、好きな場所で」食べられるようになっているのか。中村編集委員も少し考えれば分かるはずだ。

なのに「業界の垣根を壊し、時間と場所からも解放された新型の胃袋争奪戦はゼロベースでの戦略見直しを突きつけている」と記事を締めてしまう。ネタに困って無理に話を捻り出したのだとは思うが、説得力がなさすぎる。


※今回取り上げた記事「経営の視点~新型・胃袋争奪戦が勃発 業態・場所超え顧客に接近

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201026&ng=DGKKZO65376050T21C20A0TJC000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。


無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html

「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html

渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html

早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html

日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html

「高島屋は地方店を閉める」と誤解した日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_23.html

野球の例えが上手くない日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_15.html

「コンビニ 飽和にあらず」に説得力欠く日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_23.html

平成は「三十数年」続いた? 日経 中村直文編集委員「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/deep-insight.html

拙さ目立つ日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ~アネロ、原宿進出のなぜ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_28.html

「コロナ不況」勝ち組は「外資系企業ばかり」と日経 中村直文編集委員は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/blog-post.html

データでの裏付けを放棄した日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_17.html

「バンクシー作品は描いた場所でしか鑑賞できない」と誤解した日経 中村直文編集委員https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_11.html

2020年10月25日日曜日

データの扱いが恣意的では? 日経「チャートは語る~財政膨張 出口はどこに」

 日本経済新聞朝刊1面に載った「チャートは語る~財政膨張 出口はどこに~世界『増税より成長』に軸足」という記事ではデータの扱いが引っかかった。問題のくだりを見ていこう。

大雨で増水した筑後川(福岡県うきは市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

財政の健全化には成長力の底上げこそが重要というデータもある。経済協力開発機構(OECD)で加盟から間もないコロンビアを除き、36カ国の00~17年の名目GDP成長率と税収の関係を調べると成長率1ポイントに対する税収の振れ幅を示す「税収弾性値」は平均で1.2だった。GDPが拡大すれば、それ以上に税収が伸びることを示す。

直近5年間も名目成長率の高い国ほど税収は増えた。成長率が計20%超の英国は法人税率を引き下げながら税収が25%増えた。ドイツも成長率(19%)を上回る税収の伸び(24%)があった。成長率が10%だった日本の税収は23%伸びた。高成長なら税収はより増えていた可能性もある。


◎なぜ「実質成長率」で見ない?

直近5年間も名目成長率の高い国ほど税収は増えた」と筆者ら(小滝麻理子記者と真鍋和也記者)は言う。それはそうだろう。「名目成長率」にはインフレも絡んでくる。インフレ率が高い国ほど名目上の「税収」も膨らむのは当然だ。「財政の健全化には成長力の底上げこそが重要」と訴えるならば「実質成長率」と「税収」の関係を見た方がいい。ただ、相関関係はぐっと小さくなりそうだ。それが嫌で「名目成長率」を選んだとしたらご都合主義の誹りを免れない。

記事で言及した3カ国の比較も苦しい。「成長率が計20%超の英国は法人税率を引き下げながら税収が25%増えた。ドイツも成長率(19%)を上回る税収の伸び(24%)があった。成長率が10%だった日本の税収は23%伸びた」という。「名目成長率の高い国ほど税収は増えた」と言えなくはないが「税収」の増加率に大差はない。この3カ国に限れば「名目成長率」と「税収」増加率は無関係と言われた方がしっくり来る。

記事に付けたグラフの注記も引っかかった。「長い目で見れば税制よりも成長率が税収を左右」というタイトルを付けて「名目成長率」と「税収」の関係を示している。そして「OECD加盟国が対象。日本は12~17年、ほか13~18年」となっている。なぜ日本だけ1年ズレているのか。「18年」の「名目成長率」と「税収」増加率が分からないとは考えにくい。「13~18年」で揃えると不都合があるから「12~17年」にしたのではと疑いたくなる。

そう考えると「経済協力開発機構(OECD)で加盟から間もないコロンビアを除き」とした点にも疑いの目を向けたくなる。「加盟から間もない」からと言って除外しなければならない決まりはない。怪しい感じはする。

ついでに言うと「長い目で見れば税制よりも成長率が税収を左右」というタイトルもおかしい。グラフで示しているのは「名目成長率」と「税収」増加率だけだ。「税制」がどう影響しているかは全く示していない。増税に積極的だった国ほど「税収」が伸びており、その相関関係は「名目成長率」を上回るという可能性も残る。


※今回取り上げた記事「チャートは語る財政膨張 出口はどこに~世界『増税より成長』に軸足

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201025&ng=DGKKZO65428990U0A021C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。小滝麻理子記者への評価はDを維持する。真鍋和也記者への評価はDで確定とする。小滝記者については以下の投稿も参照してほしい。

日経 小滝麻理子記者 メイ英首相の紹介記事に問題ありhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2016/07/blog-post_16.html

2020年10月24日土曜日

具体策なしで「消費喚起こそ改革の本丸」と言われても…日経「大機小機」

 24日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に載った「大機小機~消費喚起こそ改革の本丸に」という記事で「魔笛」氏が展開した主張は納得できなかった。記事の後半を見ていこう。

柳川市図書館※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

振り返れば、小泉純一郎内閣では生産効率化を推し進め、完全失業率は5%を超えた。他方、安倍晋三内閣では女性活躍や若者雇用拡大をうたい、雇用は改善したが、労働生産性の低い非正規雇用が大幅に拡大した。いずれにしても需要は増えず、消費も国内総生産も低迷したままだ。

すなわち選択肢は2つしかなく、いずれも経済拡大効果はない。一部の効率的な企業や人材が限られた需要を独占し残りは失業するか、非効率な生産を続けて需要を皆で分け合うかだ。前者は所得格差と社会の分断を、後者は低労働生産性と低賃金を生む。


◎「残り」が9割以上?

上記のくだりでは「小泉純一郎内閣」型か「安倍晋三内閣」型かの二者択一だと訴えている。しかし「小泉純一郎内閣」型の説明がおかしい。小泉政権下で「一部の効率的な企業や人材が限られた需要を独占し残りは失業する」事態になったと「魔笛」氏は認識しているのか。

例えばトヨタ自動車が「一部の効率的な企業」に入るとして、トヨタは当時、自動車市場を「独占」していたのか。そもそも「完全失業率は5%を超えた」というレベルならば「一部の効率的な企業」で働く人の割合が9割を超えていることになる。悪い話ではない。それが現実ならばだが…。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

菅内閣は前者を選択するようだが、それでは地方を中心に失業率が上がり、格差が拡大して消費を抑えてしまう。経済拡大には生産面の改革ではなく、消費喚起を目指すしかない

金融緩和や大幅な赤字財政でお金を増やしても消費が増えないことは、アベノミクスで実証済みだ。今回の需要面の改革は携帯料金引き下げだが、すでに十分普及した携帯の需要増は期待できず、赤字財政でお金を渡すことと同じだ。地道に新需要を掘り起こすしかない


◎選択肢は3つある?

選択肢は2つしかなく」と言っていたが、なぜか「消費喚起を目指すしかない」と第3の道を打ち出してしまう。そこは良しとするとしても肝心なのは具体策だ。ところが「地道に新需要を掘り起こすしかない」と述べているだけ。「魔笛」氏に策はない。ならば「選択肢は2つ」でいいのではないか。

激しい副作用を受け入れて投薬による治療を続けるか、緩和ケア以外の措置を止めて完治を諦めるかという「選択」を迫られている患者に対し「副作用のない特効薬を飲めばいいのではないか」と提案しているようなものだ。そんな薬があれば苦労はない。

ついでに「今回の需要面の改革は携帯料金引き下げだが、すでに十分普及した携帯の需要増は期待できず、赤字財政でお金を渡すことと同じだ」との指摘にもツッコミを入れておきたい。「携帯料金引き下げ」は政府の「財政」負担なしに消費者の懐を潤せる。「赤字財政でお金を渡すことと同じ」ではない。また「携帯の需要増は期待でき」ないとしても、他の分野での「需要増は期待でき」る。消費全体を押し上げる力はないだろうが…。


※今回取り上げた記事「大機小機~消費喚起こそ改革の本丸に」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201024&ng=DGKKZO65414850T21C20A0EN2000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年10月22日木曜日

問題多いFACTA「『誤魔化しの産物』大阪都構想」に関する問い合わせ

FACTA11月号の「『誤魔化しの産物』大阪都構想」という記事は色々と問題を感じた。変換ミスはいいとしても、説明には矛盾があるし、不自然な日本語の使い方も気になる。記事も全体として説得力に欠けた。

沖端川(柳川市)※写真と本文は無関係
FACTAには以下の内容で問い合わせを送っている。


【FACTAへの問い合わせ】

FACTA編集人兼発行人 宮嶋巌様

11月号の「『誤魔化しの産物』大阪都構想」という記事についてお尋ねします。質問は3つです。

まず「市民が『料金が安い』と誇る水道事業も、かつて府との事業統合が検討された際、『市民に利点がない』として破断になった経緯がある」との記述についてです。文脈から考えて「破断」は「破談」の誤りではありませんか。

次は以下のくだりです。

『大阪維新の会』が市民に配った冊子によると、『四つの特別区になっても今までの市役所はなくなりません』『新しくなることも変わらないこともある』と改革を主張しながら今までと何も変わらないことをメリットとして伝えているが、これでは虻蜂取らずだ

冊子」で「新しくなることも変わらないこともある」と記しているのならば「今までと何も変わらないことをメリットとして伝えている」とは言えません。「新しくなること」が「ある」のに「今までと何も変わらない」のですか。矛盾しています。「今までと何も変わらないことをメリットとして伝えている」との説明は誤りではありませんか(「冊子」に関する説明を間違えている可能性もあります)。

最後は結びの部分についてです。そこでは以下のように記しています。

松井は『賛成しなければ任期終了次第、引退する』といったが、こんな空虚な構想に進退をかける政治家には一刻も早く辞表を出すことを勧めたい

賛成しなければ」とすると、日本語として不自然です。時事通信の記事によれば「政治家なので任期はしっかり務める。勝つために今やっているが、負けたらそこで僕自身の政治家としては終了だ」と松井氏は述べたそうです。これに倣うならば「賛成しなければ」は「負けたら」とすべきです。「賛成しなければ」との表現は不適切ではありませんか。仮に本人が「賛成しなければ」と実際に言ったとしても、そのまま記事に使うのは感心しません。

せっかくの機会なので、記事内容に関する意見も付記しておきます。

私は「大阪都構想」についてもよく知りません。なので中立の立場で記事を読みました。今回の記事では筆者が「大阪都構想」を否定したい気持ちはしっかり伝わってきますが、具体的な材料に乏しく説得力に欠けていました。例えば以下のくだりです。

本誌が入手した市発行の協定書の説明書も『大阪市が直面している現状』にはいかにも問題が多いかのように描き、都構想を『意思決定がスピーディー』『身近なサービスに専念』とバラ色にしていた。だが、『全く逆。大阪市民にとってメリットはない』というのが、この構想を研究し尽くしたある識者の見方だ

都構想」を完全否定していますが、その根拠は「この構想を研究し尽くしたある識者」が「大阪市民にとってメリットはない」と見ているからというだけです。名前も出せない「ある識者」の「見方」だけでは何とも言えません。「全く逆」とする根拠を具体的に説明すべきでしょう。

記事では「橋下、松井、吉村の『都構想夢物語』が本当に実現するかどうかはまもなく決まる」などと書いているだけで、住民投票の結果予測はしていません。「大阪市民にとってメリットはない」のならば否決されそうなものですが、なぜか筆者はそう言い切りません。「メリットはない」のに過半数が賛成票を投じるほど「大阪市民」は愚かだと見ているのでしょうか。

都構想」実現の可能性は十分ありと見た反対派の筆者が焦って強引に「都構想」を否定している--。今回の記事にはそんな印象を受けました。

問い合わせは以上です。3つの質問に関しては回答をお願いします。誤りであれば次号で訂正を掲載してください。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。

御誌は今号で「菅首相『一切説明なき暴走』」という記事を掲載しています。記事中の誤りに関して「説明」責任を果たさず「暴走」しているのは御誌の方です。まず自らの「暴走」を止めてみませんか。「菅首相」の「暴走」を諫めるのは、その後です。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「『誤魔化しの産物』大阪都構想

https://facta.co.jp/article/202011017.html


※記事の評価はD(問題あり)

2020年10月21日水曜日

問題あり 日経 高井宏章編集委員の「一目均衡~『強制MMT』で黙るカナリア」

20日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に高井宏章編集委員が書いた「一目均衡~『強制MMT』で黙るカナリア」という記事はツッコミどころが多い。記事を見ながら具体的に指摘してみる。

西鉄三潴駅(久留米市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】  

自国通貨建ての国債は債務不履行のリスクはなく、インフレが脅威になるまでは財政支出を拡大すべきだ――。MMTの主張のひとつだ。コロナ禍で各国は、中央銀行とタッグを組んで巨額の財政支出を賄う「強制MMT」に追い込まれた。余波は金融・資本市場にも及ぶ。

真っ先に大波をかぶるのは債券市場だ。米国の10年物国債利回りは4月以降、0.7%前後のレンジに押し込められ、月間の変動幅は「コロナ前」の3分の1程度に縮小。イールドカーブ・コントロール(YCC)を導入済みの日本は金利変動がほぼ消えた

債券の期間が長いほどさまざまなリスクを織り込んで利回りが高くなるのが市場の力学。これを封殺する発想はMMTに近い。MMTの旗手、ニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授は著書「財政赤字の神話」で「(国債の)金利は常に政策判断で決まる」と言い切っている。


◎別物では?

金利の「変動幅」が日米で「縮小」したことに触れて「債券の期間が長いほどさまざまなリスクを織り込んで利回りが高くなるのが市場の力学。これを封殺する発想はMMTに近い」と解説している。これは別の話だ。「10年物国債利回り」が「変動幅」がゼロだとしても、イールドカーブが消失するとは限らない。高井編集委員には米国債のイールドカーブを見てほしい。「期間が長いほど」「利回りが高く」なっているはずだ。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

市場からダイナミズムを奪えば、金利動向から物価や景気の先行きや財政リスクを読み取るのは困難になる。債券市場を長年見てきた岡三証券の高田創氏は「日本国債が『生体反応』を失って久しい。クレジット市場もその後を追うだろう」と話す。

企業分析はやるだけ無駄。クレジットは『安くなったら黙って買いましょう』ぐらいしか言うことはない」。あるベテラン市場関係者はあきらめ顔だ。「すでにバブルの域に入っているが、疑似MMTと金融社会主義的な政策で、今の構図は崩れそうもない」と嘆く。実際、国内社債のスプレッド(上乗せ金利)は「コロナ前」の水準を回復。海外の低格付け債も堅調だ。

「強制MMT」で金融市場の「見えざる手」の力が衰えると何が起きるか。

クレジット市場は過去、異変をいち早く告げる「炭鉱のカナリア」として機能してきた。そのシグナルが弱まれば、危機の火種の探知は難しくなる。債券ほど官製相場のグリップはきつくないが、カネ余り主導で進む株高にも同様の危うさが漂う。米著名投資家のハワード・マークス氏は「政策効果が支配的になりすぎて、『良い企業かどうか』という問いがかき消されてしまう」と警鐘を鳴らす。


◎「クレジット市場も後を追う」?

クレジット市場もその後を追うだろう」という見立てが正しければ、社債市場もいずれ「生体反応」を失う。「企業分析はやるだけ無駄」と言える状況ならば「社債のスプレッド」はトリプルAの社債だろうがジャンク債だろうが同じ水準に固定されて動かなくなるはずだ。

しかし、なぜそうなるのかよく分からない。「疑似MMTと金融社会主義的な政策」のせいとなるのだろうが「疑似MMTと金融社会主義的な政策」は全ての社債発行企業の債務不履行を阻止してくれるものなのか。

日産自動車が9月に発行を決めた社債のドル建ての「利回りは3年債で3.04%、10年債で4.81%」と日経も書いている。かなり高い。「疑似MMTと金融社会主義的な政策」が完全に社債の債務不履行を防いでくれるのならば、日産はトヨタ自動車と同じ条件で起債できるはずだ。しかし、そうはなっていないし、なりそうもない。本当に「クレジット市場もその後を追う」のか。

企業分析はやるだけ無駄」だとすれば、信用リスクを無視して高利回りの社債を買えばいい。本当にそんな単純な話で済む時代が来るのだろうか。とりあえず「来そうもない」と予言しておく。


※今回取り上げた記事「一目均衡~『強制MMT』で黙るカナリア」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201020&ng=DGKKZO65196400Z11C20A0DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。高井宏章編集委員への評価も暫定でDとする。

2020年10月20日火曜日

スウェーデンは「当初から集団免疫を目指した」と日経は言うが…

新型コロナウイルスに関して「スウェーデン」は「当初から集団免疫を目指した」のだろうか。これは誤解だとの指摘が多い。日本経済新聞も記事でそうした見方を紹介していた。しかし19日の記事では「当初から集団免疫を目指した」と言い切っている。日経には以下の内容で問い合わせを送った。

彼岸花と耳納連山(久留米市)
    ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

19日の日本経済新聞朝刊科学技術面に載った「ブラジルの都市で『集団免疫』成立か~コロナで論文、持続性は不明」という記事についてお尋ねします。

この中に「高い抗体保有率は感染拡大の裏返しでもある。マナウス地域では住民1000人に1人の割合で死亡した。死亡者が多い米国、当初から集団免疫を目指したスウェーデンでも同0.6人前後」との記述があります。これは「集団免疫でなく持続性追求~元駐スウェーデン大使 渡辺芳樹氏」という7月10日付の御紙の記事と矛盾します。この記事で「渡辺芳樹氏」は以下のように述べています。

スウェーデンは今回の新型コロナウイルス対策で集団免疫を獲得する戦略をとったわけではない。一時は70歳以上に外出自粛勧告を出し、規制を順次強め50人以上の集会も禁止した。ただ、欧州のほかの国のような都市封鎖(ロックダウン)はしなかった

こちらを信じれば「スウェーデン」は「集団免疫を獲得する戦略をとったわけではない」はずです。他のメディアの報道なども併せて考えると「渡辺芳樹氏」の説明に分がありそうです。

当初から集団免疫を目指したスウェーデン」との記述は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も教えてください。

御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「ブラジルの都市で『集団免疫』成立か~コロナで論文、持続性は不明

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201019&ng=DGKKZO65091910W0A011C2TJM000


※記事の評価はD(問題あり)。スウェーデンの集団免疫に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「スウェーデンは日常を変えない集団免疫戦略」? 日経 矢野寿彦編集委員に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_18.html

2020年10月19日月曜日

「出口」見えたのでは? 日経 大島三緒論説委員「出口見えぬ学術会議問題」

19日の日本経済新聞朝刊社会面に大島三緒論説委員が書いた 「風紋~出口見えぬ学術会議問題 『知』への反発が増幅」という記事の見立てには同意できない。「出口見えぬ」と大島論説委員は言うが「出口」が見えてきたのではないか。

新田大橋(大川市)※写真と本文は無関係

記事の一部を見た上で、そう考える理由を述べる。


【日経の記事】

なんといっても、騒ぎの発端は政府による個別人事である。学者6人を任命せず、批判を受けるや、政府・自民党は論点を行革に移した。行革といえば響きがいいが、順番が違う。

もうひとつ憂慮すべきは、これを受けて、ネット空間などで組織への中傷や学者バッシングが盛り上がっていることだ。

「税金を使っているのだから政府にたてつくな」という指摘はおとなしいほうだ。「日本をおとしめる学術会議」「スパイもどきの集団」「エリートがふんぞり返っている」……。

デマやフェイクの混じった言説が飛びかい、学術会議が諸悪の根源であるかのような騒ぎぶりである。ふだんは気にも留めなかった組織への、異様な視線というほかない。

政治と社会それぞれの、こうした動きの背景にあるメンタリティーは何か。それこそ総合的、俯瞰(ふかん)的にいえば、学術や知性、教養といったものへのリスペクトの欠如、さらには反発や嫌悪だろう。

「学者の世界へのルサンチマンが噴き出している。反知性主義の風潮が見て取れます」と広田照幸日本大教授は言う。政府への「声援」の高ぶりは、政権の当事者さえ予想していなかったかもしれない。

政治と社会のあいだで増幅する「知」への反発。こういう状況が事態の収拾をいっそう難しくさせる。その間に、少なからぬ学者が萎縮していくだろう。公的資金を受けている、さまざまな文化、芸術活動に影響は及びかねない。

学術会議に多くの課題があることは確かだ。決して聖域ではない。けれど6人の学者を、なぜ、どんな経緯で任命しなかったのか。この不透明さを拭い、行き過ぎがあったなら正さないと、話はますます深刻になるだろう。必要な改革だって進まないはずだ


◎「必要な改革だって進まないはず」?

6人の学者を、なぜ、どんな経緯で任命しなかったのか。この不透明さを拭い、行き過ぎがあったなら正さないと、話はますます深刻になるだろう。必要な改革だって進まないはずだ」と大島論説委員は言う。ここが決定的に違うと思える。

学者6人を任命せず」の理由が「6人は反政府的だから」だとしよう。そして菅政権の真の狙いが「学術会議」の改革にあるとする。

この場合、「任命しなかった」真の理由を説明するのは得策ではない。「改革」を阻止しようとする側に政府批判の材料を与えてしまうからだ。

ネット空間などで組織への中傷や学者バッシングが盛り上がっていること」は「改革」を進めようとする政府にとっては都合がいい。説明が不十分でも「学術会議が諸悪の根源であるかのような騒ぎぶり」が起きているのだから、馬鹿正直に真の理由を説明するのは得策ではない。余計な説明はしない方が「必要な改革」はやりやすい。

そもそも菅政権が支持率の低下を気にしなければ「改革」はできる。記事には「菅首相との会談を終え、記者団の取材に答える日本学術会議の梶田会長」の写真が付いている。この時の「梶田会長」に政府を批判する様子は見られない。「菅首相との会談」で恭順の意を示したと見るべきだろう。つまり「出口」が見えてきた。

任命拒否問題で「日本学術会議」が訴訟などの法的措置に出る可能性は低いと見ている。「改革」には抵抗したいだろうが「学術会議が諸悪の根源であるかのような騒ぎぶり」を受けて反対しづらい空気ができた。そして政府も「改革」の意向を示している。

菅政権が最初から計算していたのかどうかは分からないが、「出口」への持っていき方は上手いと感じる。


※今回取り上げた記事 「風紋~出口見えぬ学術会議問題 『知』への反発が増幅」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201019&ng=DGKKZO65108270W0A011C2CR8000


※記事の評価はC(平均的)。大島三緒論説委員への評価は暫定でCとする。

2020年10月18日日曜日

菅政権との対比が苦しい日経 大石格編集委員「風見鶏~中曽根戦略ふたたび?」

18日の日本経済新聞朝刊総合面に載った「風見鶏~中曽根戦略ふたたび?」という記事は苦しかった。筆者の大石格編集委員は「中曽根康弘元首相の葬儀にお邪魔してきた」ので、これに絡めて記事を仕上げられないかと考えたのだろう。そこで「いまの政治情勢と似ていなくもない」と対比を試みている。しかし、あまり似ていない。

彼岸花(久留米市)※写真と本文は無関係

まずは「昔話」の部分を見ていこう。


【日経の記事】

新型コロナウイルスの流行で、半年延期された中曽根康弘元首相の葬儀にお邪魔してきた。永田町生活を中曽根内閣の首相番記者で始めたので、感慨深いものがあった。

会場に向かう道すがらも「いまの政治家と比べて、存在感があった」といった話し声を耳にした。

その中曽根内閣の足跡を振り返ると、発足当時の評判は散々だった。角福戦争のさなか、1979年の四十日抗争では福田赳夫氏に味方したのに、翌80年のハプニング解散では田中角栄氏の側についた。

「風見鶏」と皮肉られた寝返り劇によって、首相になれたのだが、女房役の官房長官を田中派から起用したのには、身内の中曽根派の面々まであっけにとられた。「田中曽根内閣」「直角内閣」といった見出しが紙面に躍った。

首相退任後に「批判ばかりされて、悔しくなかったですか」と尋ねたことがある。「なってしまえばこっちのもの」との答えが返ってきた。

なってしまった中曽根氏は自立へと動き出した。ひとつは、政治家としての悲願であった憲法改正を封印し、もっと身近な改革に取り組んだことだ。国鉄の民営化はスト続きにうんざりしていた国民に歓迎され、内閣支持率は徐々に持ち直した。これを「行革グライダー」と称した。

ふたつめが、世代交代である。田中派の領袖だった二階堂進氏よりも格下の金丸信氏や竹下登氏を登用した。実力を蓄えた金丸、竹下両氏はクーデター的に田中派を乗っ取り、中曽根内閣の支柱となった。

中曽根氏はほかの派閥にも手を突っ込んだ安倍晋太郎氏や宮沢喜一氏をポストに就け、領袖だった福田氏や鈴木善幸氏の権勢をそいだ。竹下、安倍、宮沢3氏をメディアはニューリーダーと呼んだ。


◎中曽根氏が「世代交代」を進めた?

まず「世代交代」を進めたのが「中曽根氏」のような書き方が引っかかった。「安倍晋太郎氏や宮沢喜一氏をポストに就け、領袖だった福田氏や鈴木善幸氏の権勢をそいだ」と書いているが、「安倍晋太郎氏や宮沢喜一氏」は既に派閥の後継者と目されていたはずだ。「中曽根氏はほかの派閥にも手を突っ込んだ」と言うと、派閥の意向に反して大臣を選んでいた印象を受ける。しかし当時は派閥の力が強く、その意向を無視した人事は難しかったのではないか。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

以上は昔話だが、いまの政治情勢と似ていなくもない。菅義偉首相には無派閥議員を束ねた「隠れ菅派」的な応援団がいるが、最大派閥に支えられていた安倍晋三前首相ほどの党内基盤はない。

まずは携帯電話料金の引き下げといった家計に直結する施策に取り組み、世論を味方に引き寄せる。発想が中曽根流である。

ふたつめはどうか。安倍内閣が長く続いたことで、自民党の権力構造はこのところ大変わりせずにきた。領袖になっていちばん長いのは麻生太郎副総理・財務相で、2006年から務めている。

「省庁の縦割り打破」を掲げた菅首相は、要の行革担当に麻生派の河野太郎氏を据えた。麻生派の前身である河野グループを率いた河野洋平元衆院議長の長男である。

同派には他派や無派閥からの合流組がかなりいる。早急な世代交代は派内の秩序を乱し、麻生氏の権勢を揺るがしかねない。そこまで読み切っての厚遇なのだろうか

他派でも波風が立っている。毎週木曜にある竹下派の総会では、竹下亘会長や茂木敏充会長代行(外相)らが最前列に陣取る。加藤勝信氏は真ん中右端あたりが定位置だった。官房長官の在任中は出席しないだろうが、「もし来たらどこに座らせるのか」と話題になっているそうだ。

最大派閥の細田派は後継候補が定まっていない。自民党政調会長になった下村博文氏、閣僚に再任された西村康稔氏や萩生田光一氏ら多士済々だ。菅首相の立ち振る舞いが内紛を誘発するかもしれない

こんな政局模様を中曽根氏は空の上からどう見ているだろうか。そんなことを考えながら手を合わせた。


◎菅政権は「世代交代」に積極的?

以上は昔話だが、いまの政治情勢と似ていなくもない」という書き方からは「昔話に終始してはダメ。今の政治状況と絡めなければ…」との意思を感じる。これはいいことだ。「昔話」が多過ぎるのは「風見鶏」の問題点で、今とほとんど絡めない記事も珍しくない。今回も「昔話」は長いが、しっかり今と関連させていれば文句はない。ただ、そうはなっていない。「ふたつめ」の「世代交代」が辛い。

麻生派の河野太郎氏」に関して「厚遇」としているが、外相、防衛相に続いての「行革担当」はそんなに「厚遇」なのか。しかも「麻生太郎副総理・財務相」は留任。「早急な世代交代は派内の秩序を乱し、麻生氏の権勢を揺るがしかねない」と言うものの、そもそも「早急な世代交代」に見えない。

竹下派」も同じだ。「官房長官の在任中は出席しないだろうが、『もし来たらどこに座らせるのか』と話題になっているそうだ」という小さな話が出てくるだけで「世代交代」が目立って進んでいる感じはない。

細田派」に関してはさらに苦しい。「菅首相の立ち振る舞いが内紛を誘発するかもしれない」と可能性に触れているだけだ。

強引に似ていることにして「こんな政局模様を中曽根氏は空の上からどう見ているだろうか。そんなことを考えながら手を合わせた」と記事を締めている。結局、何も言っていないに等しい。

やはり大石編集委員が書く記事は苦しい。毎度のことだが結論は変わらない。


※今回取り上げた記事「風見鶏~中曽根戦略ふたたび?

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201018&ng=DGKKZO65015150V11C20A0EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。大石格編集委員への評価もDを維持する。大石編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大石格編集委員は東アジア情勢が分かってる?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_12.html

ミサイル数発で「おしまい」と日経 大石格編集委員は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_86.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_15.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_16.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_89.html

どこに「オバマの中国観」?日経 大石格編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_22.html

「日米同盟が大事」の根拠を示せず 日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_41.html

大石格編集委員の限界感じる日経「対決型政治に限界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_70.html

「リベラルとは何か」をまともに論じない日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_30.html

具体策なしに「現実主義」を求める日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_4.html

自慢話の前に日経 大石格編集委員が「風見鶏」で書くべきこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_40.html

米国出張はほぼ物見遊山? 日経 大石格編集委員「検証・中間選挙」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_18.html

自衛隊の人手不足に関する分析が雑な日経 大石格編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_27.html

「給付金申請しない」宣言の底意が透ける日経 大石格編集委員「風見鶏」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/blog-post_74.html

「イタリア改憲の真の狙い」が結局は謎な日経 大石格上級論説委員の「中外時評」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_7.html

2020年10月17日土曜日

まとめ物的な1社物? 日経「パナソニック、空気清浄機の生産能力3倍に」の奇妙さ

16日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「パナソニック、空気清浄機の生産能力3倍に 病院で需要」という記事は奇妙な作りだ。見出しからも「パナソニックは空気清浄機を増産する」との書き出しからも、1社物のニュース記事だと判断できる。しかし、その半分近くを「ダイキン工業」と「シャープ」の話に充てている。常識的には考えられない。

有明海沿岸道路 筑後川橋(福岡県大川市)
     ※写真と本文は無関係です

全文は以下の通り。


【日経の記事】

パナソニックは空気清浄機を増産する。主力機「ジアイーノ」の2020年度の売上高が100億円規模と急増するのを見込んで生産能力を前年度比3倍に増強。ダイキン工業も空気清浄機の国内生産を始めるほか、シャープも増産を継続する。新型コロナウイルス感染拡大に伴う室内環境への意識向上で、堅調な需要が続くと判断した。

ジアイーノは内部で次亜塩素酸を作り、取り込んだ空気を除菌・脱臭する装置。パナソニックは子会社のパナソニックエコシステムズの春日井工場(愛知県春日井市)の生産ラインを増強する。人員も増やし同工場の生産能力を台数ベースで3倍に引き上げた。足元では病院やホテルなど人が集まる施設の引き合いが強いという。

ジアイーノは受注の殺到を受けて4月に新規受注を停止したが、9月末に再開した。18年度の売上高は35億円で25年度に100億円に増やす目標だったが、今年度に前倒しで達成する見通しだ。

ダイキンは21年に空気清浄機の国内生産を始める。滋賀製作所(滋賀県草津市)で年15万台以上の規模で生産する。従来は国内外で販売する全量を中国など海外メーカーに生産委託していたが、12月からはマレーシアでも年15万台規模で自社生産を始める予定。十河政則社長は「顧客の需要をスピーディーにとらえ、将来の一大事業にする」と強調する。

シャープも「プラズマクラスター」の販売増に伴い生産台数を引き上げている。4~9月の出荷台数は前年同期比2倍に伸びた。冬季の需要増にも対応するため、中国やタイで増産を継続する方針だ。


◎全体的に粗さ目立つが…

最初の段落で「ダイキン工業」と「シャープ」にも触れているので、記者は最初からまとめ物として書くつもりだったのだろう。しかし、なぜか「パナソニックは空気清浄機を増産する」と滑り出してしまい、担当デスクも疑問を抱かずにそのまま紙面化してしまったということか。まとめ物にするならば、書き出しを変える必要がある。

記事には他にも粗さが目立つ。

子会社のパナソニックエコシステムズの春日井工場(愛知県春日井市)の生産ラインを増強する」と書いてあると「生産ラインを増強する」のはこれからだと取れる。しかし直後に「生産能力を台数ベースで3倍に引き上げた」と記している。

生産能力」の引き上げも「増産」も既に始まっている気がする。過去の話としてしまうとニュース価値が薄れるので「パナソニックは空気清浄機を増産する」「生産ラインを増強する」と表現したのだろう。

この推測が合っているのならば、表現としては「空気清浄機の増産に乗り出した」「生産ラインを増強した」などとすべきだ。

2020年度の売上高が100億円規模と急増する」と書いているのに、直近の数値として「18年度の売上高は35億円」としているのも引っかかった。なぜ「19年度」の売上高を見せないのか。

ダイキン工業」「シャープ」に関する記述にも注文を付けておきたい。

この記事をまとめ物と捉えた場合、3社が「空気清浄機を増産」となっている必要がある。しかし「ダイキン工業」に関しては「自社生産」に切り替えると説明しているだけで、「生産委託」分も含めた全体の生産量がどうなるのか分からない。

シャープ」についても「4~9月の出荷台数は前年同期比2倍に伸びた」とは書いているが、どの程度の「増産」になっているのか説明していない。

この完成度からすると、担当デスクも含めて記事を書くための基礎ができていないと判断するしかない。


※今回取り上げた記事「パナソニック、空気清浄機の生産能力3倍に 病院で需要

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201016&ng=DGKKZO65040480V11C20A0TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年10月16日金曜日

「貪欲過ぎるグルメサイト」批判が的外れな日経ビジネス鷲尾龍一記者

日経ビジネス10月19日号に載った「早くも制度見直しを迫られたGo Toイート~『錬金術』が暴いた利益相反」という記事は強引な批判が気になった。筆者の鷲尾龍一記者は「貪欲過ぎるグルメサイトが、外食店と消費者に見放される日が近づいている」と結んでおり「グルメサイト」に矛先を向けている。これが的外れだと感じた。記事の後半を見て、この問題を考えたい。

彼岸花と耳納連山(久留米市)
   ※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスの記事】

そもそもGo Toイート事業に対しては開始前から、外食の支援よりグルメサイトを利すると批判の声が上がっていた。大手グルメサイトが外食店から得る手数料には、サイト掲載に必要な基本料金と、予約客1人当たり50~200円の送客手数料がある。Go Toイート期間中は、基本掲載料無料が事業参加の条件とされたが、送客手数料の徴収は農水省が認めた。

外食店で得たポイントは、別の外食店でも使えるため、グルメサイトの回遊性を高める効果は大きい。一方、「Go Toイート経由の来店客は、外食店が従来想定してきたお客さんとは違う」(外食業界に詳しい石﨑冬貴弁護士)。石﨑弁護士が運営する外食店は、これまで地元の家族連れの利用が多かったが、10月以降は「単価が低く、ネットで予約する1人客が急増した」。予約やポイント対応で従業員の手間は増えたが、利幅は小さくなったうえ、リピーターになってくれる見込みは薄い。

外食店にとっては、グルメサイト経由で来店した客が常連に育ち、サイトを経由せずに来てくれるようになった方がコストは下がる。逆にグルメサイトは常に使い続けてほしいので、Go Toイート以前から、利用者向けのポイント還元に力を入れている。その原資は外食店からの手数料だ。両者の間には根源的に利益相反が内在している

大手グルメサイトからすれば、外食店での支払額がいくらでも、1人分の送客手数料は不変。グルメサイトに寄り添い過ぎといわれるGo Toイート事業が、錬金術の隙を見逃したのも、当然の成り行きと言える。

皮肉にも、今回の騒動で、グルメサイトが外食店の経営を必ずしも助ける存在でないことが広く知られることになった。新型コロナ禍で「お気に入りの外食店を支援したい」という消費者は増えている。貪欲過ぎるグルメサイトが、外食店と消費者に見放される日が近づいている


◎どこが「貪欲過ぎる」?

貪欲過ぎるグルメサイトが、外食店と消費者に見放される日が近づいている」と鷲尾記者は結論付けているが、なぜ「貪欲過ぎる」と言えるのか。

Go Toイート事業」では「サイト掲載に必要な基本料金」を「無料」としている。となると「予約客1人当たり50~200円の送客手数料」が高過ぎるのか。しかし、その根拠を鷲尾記者は示していない。「グルメサイト」は慈善事業ではない。「50~200円の送客手数料」をどう見直せば「貪欲過ぎる」と言われずに済むのか。そこは触れてほしい。

鷲尾記者によると「グルメサイト」は「利用者向けのポイント還元に力を入れて」いて「その原資は外食店からの手数料」らしい。だとすれば「50~200円の送客手数料」のかなりの部分は利用者に「還元」される。それでも「貪欲過ぎる」のか。「還元」された「ポイント」を使って「外食店」を利用すれば、「外食店」の利益につながる可能性もある。

百歩譲って「Go Toイート事業」が「外食の支援よりグルメサイトを利する」としよう。それでも批判されるべきは「グルメサイト」ではなく制度設計者だ。「錬金術」に関しては「席だけのネット予約をやめてコースに限定するなどの対策」を「外食店」側が最初から打つこともできた。なのになぜ「貪欲過ぎるグルメサイトが、外食店と消費者に見放される日が近づいている」という話になるのか。理解に苦しむ。

付け加えると「『錬金術』が暴いた利益相反」との分析にも疑問を感じた。「グルメサイト」は「手数料」収入を増やしたいし、「外食店」は「手数料」の負担が小さい方が助かる。当たり前の話だ。それを「利益相反」と呼ぶならば「利益相反」は自明だ。「『錬金術』が暴いた」訳ではない。

グルメサイトが外食店の経営を必ずしも助ける存在でない」のは確かだ。「手数料」に見合った集客効果がない場合「外食店の経営」はかえって苦しくなる。その場合「グルメサイト」への掲載を取り止めればいい。「手数料」を支払う価値があると判断した「外食店」だけが掲載しているのだから「グルメサイト」と「外食店」の関係を単純に「利益相反」と見るのは違う気がする。


※今回取り上げた記事「早くも制度見直しを迫られたGo Toイート~『錬金術』が暴いた利益相反

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00786/?P=1


※記事の評価はD(問題あり)。鷲尾龍一記者への評価も暫定でDとする。

2020年10月15日木曜日

最適な「投資資金の待機場所」は「普通預金」と文藝春秋に書いた橘玲氏に異議あり

文藝春秋11月号に作家の橘玲氏が書いた「臆病者のための『資産防衛術』」という記事には同意できない解説が目立った。特に気になったのが「普通預金」に関する記述だ。当該部分を見ていこう。

彼岸花(久留米市)※写真と本文は無関係です


【文藝春秋の記事】

財務省が発行する個人向け国債は元本が保証され、1万円から購入可能で、直近2回の利子を放棄することでいつでも中途換金できる。これは将来、金利が上がって(債券価格が下落して)損失が生じても国が補填してくれるということで、機関投資家ではあり得ない大盤振る舞いだ。

問題は、利率が0.05%ときわめて低いことだ。もちろんこれは財務省が悪いのではなく、日銀のゼロ金利政策によるものだが、100万円投資して1年間で得られる利息が500円なら、わざわざ手間をかけても仕方がないと思うひとも多いだろう。

そんなときに勧めたいのが普通預金だ。こういうとたいてい「なにをバカなことを」という顔をされるが、普通預金はじつはきわめてすぐれた金融商品だ。

まず、タダでお金を預かってもらえるうえに、出し入れも無料だ。当たり前だと思うかもしれないが、これらはすべてコストがかかる。現状では、それをぜんぶ銀行が負担している(金融機関から見れば小口の預金口座はすべて赤字だ)。貸金庫を借りるにはお金がかかるが、それよりずっと便利なサービスをタダで提供してくれているのだから、これを使わない手はない。

そのうえ普通預金は元本が保証されていて、金融市場がどれほど混乱しても損失を被るおそれがない(金融機関が破綻しても1000万円までは保険から支払われる)。

ゼロ金利では債券価格が上限いっぱいまで上がっているのだから、あとはそのまま横ばいか、価格が下がる(金利が上がる)しかない。将来、金利が上昇に転じるようなことがあれば、投資家はクリックひとつで普通預金からより有利な金融商品(定期預金や国債、外貨預金など)に乗り換えることができる。この流動性の高さが普通預金の大きな魅力だ。

「普通預金ではお金が増えない」のは確かだが、デフレで物価が下落していれば実質利回りはプラスになる(そのぶんだけ生活に余裕ができる)。未来が不確実なとき(いまがまさにそうだろう)に、投資資金の待機場所としてもっともふさわしいのが普通預金なのだ。


◎個人向け国債の方が「ふさわしい」ような…

投資資金の待機場所としてもっともふさわしいのが普通預金」だとは思えない。橘氏も触れている「個人向け国債」(「変動10年」との前提で話を進める)の方が「ふさわしい」。

まず「利率が0.05%」と高い。絶対的な水準としては確かに「きわめて低い」。しかし、ここで問題となるのは「普通預金」との比較。0.001%の「普通預金」よりは魅力的だ。

さらに言えば「個人向け国債」にはキャンペーンでキャッシュバックが得られる場合がある。これを利用すれば「普通預金」に対する優位性は決定的になる。

投資資金の待機場所」として「普通預金」を選ぶとすれば、「利率」の低さを補えるメリットが必要になる。

普通預金は元本が保証されていて、金融市場がどれほど混乱しても損失を被るおそれがない(金融機関が破綻しても1000万円までは保険から支払われる)」と橘氏は書いているが、これも「普通預金」の優位性を示すものではない。

国が支払いを保証しているから「金融機関が破綻しても1000万円までは保険から支払われる」と言える。「個人向け国債」の場合は「1000万円まで」という上限がない。国の信用力を絶対だと見なす場合、「損失を被るおそれがない」のは「普通預金」では「1000万円まで」だ。1億円でこの安心を得ようとすれば10以上の口座が必要となる。しかし「個人向け国債」ならば1つの口座で10億円でも20億円でも安全に「待機」させられる。「待機」資金が大きい場合は「個人向け国債」の方が「普通預金」よりも特に優れている。

普通預金」に優位性があるとすれば「出し入れ」のしやすさか。「待機」資金が同時に日常的な生活資金でもあるならば「普通預金」を選ぶ合理性はある。

ただ、橘氏も書いているように「個人向け国債」でも「中途換金」はできるし、元本を棄損する恐れもない。

個人の場合「投資資金の待機場所としてもっともふさわしいのが個人向け国債」と見てよいのではないか(国債購入も「投資」に当たるとの考えは成り立つが…)。


※今回取り上げた記事「臆病者のための『資産防衛術』


※記事の評価はD(問題あり)

2020年10月14日水曜日

PCR検査の陰性的中率は「7割」? プレジデント「保健所座談会」への疑問

PCR検査の結果は絶対じゃない。陰性が出ても、安心してはだめ。当たる確率は最高のタイミングでも7割。かかっている可能性もある」とプレジデントの「保健所座談会」で医師が語っている。これは基本的な部分での誤解があると思える。「大多数に検査」をする場合、日本での「当たる確率」(陰性的中率)は100%近くになるはずだ。

彼岸花 ※写真と本文は無関係です

以下の内容で問い合わせを送ってみた。


【プレジデントへの問い合わせ】

プレジデント編集部 担当者様

10月30日号に載った「保健所座談会~『おい、共産党! PCR検査を増やせば医療は崩壊する』」という記事についてお尋ねします。この中で公衆衛生医のA氏は以下のように発言しています。

それに、PCR検査の結果は絶対じゃない。陰性が出ても、安心してはだめ。当たる確率は最高のタイミングでも7割。かかっている可能性もある

これを信じれば、PCR検査で「陰性」となった場合でも、3割の確率で新型コロナウイルスに感染していることになります。しかし、これは感度と特異度を混同しているのでありませんか。

北海道大学病院の調査によると「感度は従来いわれていた70%を遥かに上回る約90%」で「特異度は99.9%以上」だそうです。

A氏は「感度」が「7割」と言われていたので「当たる確率は最高のタイミングでも7割」と考えたのではないでしょうか。しかし「陰性のものを正しく陰性と判定する確率」を表すのは「特異度」です。これが「99.9%以上」だと話は全く変わってきます。

全体の罹患率10%、感度70%、特異度99%と仮定すると「陰性」の場合の「当たる確率」は96%になります。ここでは罹患率10%という高めの数字で計算していますが、日本で「大多数に検査」をする場合、罹患率は10%よりかなり低くなるはずです。

そう考えると「陰性」が出た場合は、かなり「安心」してよいと見る方が自然です。少なくとも「当たる確率は最高のタイミングでも7割」とは言えません。

A氏の発言には「PCR検査」に関する誤解があると見てよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。誤解に基づく発言であれば次号での訂正をお願いします。

付け加えると「おい、共産党! PCR検査を増やせば医療は崩壊する」との見出しには問題を感じました。「保健所座談会」では誰もこの趣旨の発言をしていません。挑発的な見出しを付けるなとは言いませんが「共産党もPCR検査を増やせと政府に申し入れしたそうですね。もう検査しろっていう人たちを見ると、『あ、コロナ脳』としか思えません」といった発言から「おい、共産党! PCR検査を増やせば医療は崩壊する」という見出しを持ってくるのはどうかと思いました。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「保健所座談会~『おい、共産党! PCR検査を増やせば医療は崩壊する』


※記事の評価はD(問題あり)

2020年10月13日火曜日

日経 丸谷浩史氏「Deep Insight~菅首相と『大乱世』」の無理ある解説

13日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~菅首相と『大乱世』」という記事は苦しい内容だった。筆者でニュース・エディターの丸谷浩史氏はかなり無理のある解説をしている。

彼岸花(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

まず問題を感じたのが以下のくだりだ。


【日経の記事】

その意味でデジタル改革相の平井卓也氏、規制改革相の河野太郎氏は活躍の場面が多い半面、力量を試されてもいる。コロナ対策と経済の両立は田村憲久厚生労働相と萩生田光一文部科学相、首相肝いりの携帯電話料金の引き下げでは武田良太総務相、エネルギー政策は経産相、無派閥の梶山弘志氏が当面、政策遂行で脚光を浴びる立場にいる。

ここにあげた閣僚たちは次世代の自民党を担う顔ぶれで、派閥も見事に分散している。閣僚が競い合って内閣全体のパフォーマンスをあげるとともに、個々の閣僚は実力と結果次第で次への道が開ける。政策と政略の両面から、考え抜いた人事になっている。


◎西村康稔氏はなぜ無視?

コロナ対策と経済の両立は田村憲久厚生労働相と萩生田光一文部科学相」が「政策遂行で脚光を浴びる立場にいる」と書いているが、この問題でまず名前が挙がるのは西村康稔経済再生担当相だろう。それを丸谷氏が認識していないとは思えない。なのになぜ無視したのか。

おそらく「派閥も見事に分散している」と書きたかったからだ。西村氏は「萩生田光一文部科学相」と同じ細田派に属する。そうなると「派閥も見事に分散」「政策と政略の両面から、考え抜いた人事」といった話が成り立ちにくくなる。ご都合主義で「政策遂行で脚光を浴びる立場にいる」人を選んだと考えれば腑に落ちる。

以下の解説にもツッコミを入れておきたい。


【日経の記事】

切れ目なく繰り出す政策の行き着く先には、自民党総裁選と衆院選がある。

総裁としての任期は来年9月、衆院議員の任期は10月に満了する。残るは1年間。永田町には「党内基盤が弱い首相は、大派閥が合従連衡して他の候補を担げば敗れる」との見方がある。この考え方は当たっているようでいて、この四半世紀で自民党内に生じた構造的な変化を見落としている。

派閥連合が威力を発揮したのは98年、小渕恵三氏が梶山静六氏と小泉純一郎氏を下した総裁選が最後といえる。この時、梶山氏とともに小渕派を飛び出した首相が学んだのは、議員が勝ち馬に乗ろうとする心理だった。

自民党に君臨した「竹下派経世会」創業者の一人でもある梶山氏は派閥の強さも弱点も知り、そこに一瞬の勝機を賭けた。派閥のタガは「経世会支配」といわれたころから緩んでいたとはいえ、まだ当時は中選挙区が小選挙区選挙になって2年足らず。なお強かった派閥の幻想と威光は「大乱世の梶山」でも破れなかった。

それから22年、安倍前首相の「議員は世論で反応のある人に動く。そこが昔と小選挙区制になった現在で異なる」との言葉が、首相が無派閥で勝った事情を総括する。次の総裁選も総選挙も派閥の思惑ではなく、首相が勝ち馬と認識される実績と世論が左右する。


◎「世論で反応のある人に動く」なら…

安倍前首相の『議員は世論で反応のある人に動く。そこが昔と小選挙区制になった現在で異なる』との言葉が、首相が無派閥で勝った事情を総括する」との分析が正しければ、菅氏は総裁選直前に「世論で反応のある人」だったはずだ。

しかし9月2日付の「『ポスト安倍』小泉進次郎氏が29%で首位 日経世論調査」という日経の記事によると、菅氏は6%で河野太郎氏をわずかに上回り4位。3位の石破茂氏(13%)にも大差を付けられている。これで「世論で反応のある人」と見なすのは無理がある。

丸谷氏にまともな分析を期待するのはやめた方がいいのかもしれない。

分析が雑でも、せめて歯切れが良ければまだ救われる。丸谷氏の場合、そこも苦しい。


【日経の記事】

世論でいえば、日本学術会議の新会員候補6人を任命しなかった問題がある

作家の山崎豊子さんが60年代に発表し、昭和、平成、令和にテレビドラマ化もされた「白い巨塔」の後半部分では、主人公の医学部教授が日本学術会議の会員選挙に向け、あの手この手を尽くす姿が描かれている。良心派の教授が「国会並みの愚劣極まる会になり下がっている」と皮肉を交えて語る場面もある。時の首相が任命する仕組みへと84年に変わったのは、こうした組織票による選挙制度への批判が高まったからでもあった。

学術会議会員の選考方法は2005年にも変更された。首相は学術会議を行政改革の対象とする方針を示している。説明責任と行革の両面で議論が進むことになる


◎結局、何が言いたい?

世論でいえば、日本学術会議の新会員候補6人を任命しなかった問題がある」と言うが、これが「世論」にどう影響するのか見解を示してはいない。何となく「首相」寄りな印象はあるものの漠然としている。必要性の乏しい昔話をして「説明責任と行革の両面で議論が進むことになる」と書いているだけだ。前後との関連も乏しい。

行数稼ぎだとは思うが、もう少し歯切れよく書けないものか。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~菅首相と『大乱世』」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201013&ng=DGKKZO64894530S0A011C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。丸谷浩史氏への評価はDを維持する。丸谷氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
 
丸谷浩史政治部長の解説に難あり 日経「日本の針路決まる3年」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_88.html

日経「Deep Insight」に見える丸谷浩史 政治部長の実力不足https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/deep-insight_3.html

2020年10月12日月曜日

「おい、共産党! PCR検査を増やせば医療は崩壊する」は誰の発言? プレジデント「保健所座談会」

 今回はプレジデント10月30日号に載った「保健所座談会~『おい、共産党! PCR検査を増やせば医療は崩壊する』」という記事を取り上げたい。問題はこの見出しだ。「おい、共産党!」はかなり強い表現だ。それでも「座談会」でそういう発言が実際に出たのならば許容範囲ではある。しかし記事を読むと話が違ってくる。

筑後川と夕陽 ※写真と本文は無関係です

見出しの基となったと思われる女性「保健師」の「Cさん」の発言は以下の通り。


【プレジデントの記事】

(世田谷モデルは)意味なしの極みですね。世田谷区医師会がホームページで「世田谷モデル事業と、世田谷医師会PCR検査センターは全く関係ありません」と否定していました。さらに、共産党もPCR検査を増やせと政府に申し入れしたそうですね。もう検査しろっていう人たちを見ると、「あ、コロナ脳」としか思えません。頭が悪い。


◎無理がありすぎでは?

この発言から「おい、共産党! PCR検査を増やせば医療は崩壊する」と見出しに取ってよいだろうか。まず「おい、共産党!」といった言葉遣いを「Cさん」はしていない。「PCR検査を増やせば医療は崩壊する」とも言っていない。どう考えても無理がある。

医療は崩壊する」という話は別のところに出てくる。そこも見ていこう。


【プレジデントの記事】

C:コロナの厄介なところは入院すると1~2カ月は出られないところ。長いんですよね。回復するまでが。ICUを長期間独占してしまいます。そうなると自然と病床が埋まってしまう。

B:第3波が来たらどうなるか……考えるのも恐ろしいよ。

C:ついに医療崩壊でしょうか。震えます。

A:ベッド数が埋まってきているのは、やばいよな。小池都知事、「ベッドが足りないから、独自で作る」と言ってなかったか。あれ、どうなった。


◎「PCR検査を増やせば」ではないような…

第3波が来た」時の「医療崩壊」を心配しているのは分かる。しかし「PCR検査を増やせば」といった話ではない。なのにどうして見出しが「おい、共産党! PCR検査を増やせば医療は崩壊する」となってしまうのか。作り手のモラルの低さを感じる。


※今回取り上げた記事「保健所座談会~『おい、共産党! PCR検査を増やせば医療は崩壊する』


※記事の評価はD(問題あり)

2020年10月11日日曜日

人生100年時代は60歳で「残り半分」だと出口治明APU学長は言うが…

立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明氏が週刊東洋経済10月17日号の特集「定年消滅」の中の「定年制は今こそ廃止を~シニアこそ起業すべきだ」というインタビュー記事で持論を展開している。これはツッコミどころが多かった。

彼岸花と耳納連山(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

一部を見ていこう。


【東洋経済の記事】

──著書で人生は還暦から底力を発揮できると訴えています。

人生100年時代が訪れると、20歳で社会人になったとして、残りの人生は80年ある。60歳はマラソンでいうと折り返し点だ。半分走ってきて、走り方も景色も知っているのだから、残り半分は楽しく走ったらいい。

僕は60歳前後の人に起業を勧めている。人生を半分走って酸いも甘いも知り、仕事経験も十分。それなのに日本では、起業は若い人のものだという考えが根強い。これは根本から間違っている。知識も経験もノウハウもない若い人ほどリスクが大きいのは当然だ。

歴史上も高齢になって活躍した人は大勢いる。最たる人物が4世紀の中国の僧、法顕だ。彼は399年に仏教を学ぶためインドへ旅立った際、60歳を超えていた。足かけ15年の長旅で、中国へ戻ってきたときには70代半ば。出発時は何人かのお供がいたが、生きて帰国したのは法顕だけだった。本当にやりたいことがあったため、生き残ったのだろう。やりたいことは、思ったときが潮時だ。法顕はそのことを体現している。

歴史上にはこうした事例が多くあるのに、今は定年制があることで、多くの人が60歳以降を余生や第二の人生と考える。その発想では、人生が残り半分もあるのにもったいないと思う


◎80代の「景色」を「60歳」は知ってる?

人生100年時代」になると「60歳はマラソンでいうと折り返し点」らしい。「半分」ならば「50歳」が「折り返し点」のはずだ。

半分走ってきて、走り方も景色も知っているのだから、残り半分は楽しく走ったらいい」という助言も苦しい。「残り半分」でどんどん若返って最後は赤ん坊に戻って死ぬのならば「景色も知っている」と言われて納得できる。しかし実際の人生では知らない「景色」が続く。80代がどんな「景色」なのか記憶している「60歳」はたぶんいない。

やりたいことは、思ったときが潮時だ。法顕はそのことを体現している。歴史上にはこうした事例が多くあるのに、今は定年制があることで、多くの人が60歳以降を余生や第二の人生と考える。その発想では、人生が残り半分もあるのにもったいないと思う」という発言も理解に苦しむ。

例えばAさんは「60歳」までに資金を貯めて世界中を旅しようと考えているとする。「60歳」になって「これからは第二の人生だ。ずっとやりたかった世界旅行を仕事を気にせず思いっ切り楽しむぞ」とAさんが意気込んでいる場合、出口氏の考えだと「人生が残り半分もあるのにもったいない」となってしまう。

やりたいことは、思ったときが潮時」ならば、本来はもっと早く仕事を辞めるべきかもしれない。しかしAさんが「やりたいこと」に着手しようとしているのは間違いない。なのに「起業」したりして働き続けるのが正解なのか。世界旅行に没頭するのは「もったいない」のか。

人にはそれぞれの生き方があり、価値観も多様なのだと出口氏には知ってほしい。

このインタビュー記事には他にも色々と疑問を感じたが、長くなるのでこの辺りにしておく。


※今回取り上げた記事「定年制は今こそ廃止を~シニアこそ起業すべきだ」https://premium.toyokeizai.net/articles/-/24900


※記事の評価は見送る

2020年10月10日土曜日

もう少し踏み込めば…日経 矢野寿彦編集委員「Deep Insight~『命か経済か』には解がない」

 10日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に矢野寿彦編集委員が書いた「Deep Insight~『命か経済か』には解がない」という記事は基本的に評価できる。問題意識は伝わってくるし、それなりの説得力もある。ただ、少しだけ踏み込み不足だと思えた。

彼岸花(福岡県久留米市)
    ※写真と本文は無関係です


記事の後半を見ていこう。


【日経の記事】

経済へのダメージが長引くと、コロナによる直接の死だけでなく、生活苦による死も無視できない。今年8月の自殺者数は前年同月に比べて16%増えた。女性に限ると、40%増に跳ね上がる。

磯野氏(※医療人類学者である磯野真穂氏)が指摘するように「命と命の問題」として捉えれば、取るべき策は変わってくるのではないか。

国内でコロナによる感染症は、ほかの肺炎と同じように「治せる病気」になってきた。国立国際医療研究センターの調査によると、6月6日から9月4日までの2276の入院症例中、死亡したケースは33例で、70歳未満に限ると1例しかない

ならば、感染者ゼロはもう目指さない。足元で全国の感染者数は1日500人前後で推移しており、これを一定数以下にコントロールできているとし、よしとする。あくまでゼロを目指すなら、人々はまだ対策が十分でないと不安に駆られ、それによってまた、失われかねない命もでてくるだろう。

景気刺激策にもかかわらず、経済の先行きが見通せないのは、コロナに対する底知れぬ不安を抱く人が今なお、たくさんいるからだ。日本総合研究所チーフエコノミストの松村秀樹氏は「過度な恐怖が国民心理の萎縮を招き、経済に大きなダメージになっている」とみる。

人々の不安を取り除くのも医療の大切な役割だ。社会に安心を広げるために、思い切ってPCR検査を大幅に拡充してみてもいい。

確かに感染症学や疫学の立場では、「だれでもPCR検査を受けられる」といった考え方に否定的な見方は多い。しかし、人間には心があり、社会という集団に属している。その行動は科学的な合理性だけで割り切れるものでもない。コロナの医療が、現代医学頼みの硬直的な姿勢を改めなければ、厄介なウイルスに翻弄され続けることになる。


◎基準はどうやって決める?

コロナによる直接の死」と「生活苦による死」を合わせて考え「」を最小化すべきだとの主張には納得できる。問題はどうやって基準を決めるかだ。

足元で全国の感染者数は1日500人前後で推移しており、これを一定数以下にコントロールできているとし、よしとする」とは書いているが、「一定数以下にコントロールできている」とする基準には触れていない。「全国の感染者数」で1日1000人なのか1万人なのか。その基準はどうやって決めるのか。

個人的には「感染者数」がどれだけ増えても経済活動を制限する必要はないと考える。高齢者の「コロナによる直接の死」は基本的に受け入れた方が良いと見るからだ。この立場だと「6月6日から9月4日までの2276の入院症例中、死亡したケース」は「70歳未満に限ると1例しかない」のであれば経済制限に合理性がないとの結論は当然だ。

だが皆がこの立場ではない。「2276の入院症例中、死亡したケースは33例」というデータを根拠に「『治せる病気』になってきた」と矢野編集委員は言うが「33例」を重く見る人にとっては「治せるとは限らない病気」となる。

一定の条件を付けてもいいので、全体の「」を最小化するための計算式のようなものを提示してほしかった。それがあれば「科学的な合理性」に基づいて「命と命の問題」を考えるための良い材料になったはずだ。

ついでに言うと「『治せる病気』になってきた」との表現は引っかかる。不治の病が医療の力で「『治せる病気』になってきた」との印象を与えやすいからだ。元々、新型コロナウイルス感染症は多くの人にとって「自然に治る病気」だったはずだ。「多くの人にとっては『治る病気』だと分かってきた」といった説明が適切だと思える。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『命か経済か』には解がない」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201010&ng=DGKKZO64839370Z01C20A0TCR000


※記事の評価はC(平均的)。矢野寿彦編集委員への評価もCを据え置く。矢野編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「スウェーデンは日常を変えない集団免疫戦略」? 日経 矢野寿彦編集委員に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_18.html

2020年10月9日金曜日

日経社説「『LIBOR』廃止への備えを万全に」はQUICKが手掛ける「TORF」の宣伝?

 9日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「『LIBOR』廃止への備えを万全に」という社説には臭いものを感じた。これは社説を使った日経グループの宣伝ではないのか。

大塚古墳公園(福岡県久留米市)
   ※写真と本文は無関係です

冒頭で「内外の金融・通貨取引で広く活用してきた国際金利指標が2021年末で廃止となる見通しだ。金利の受け払いができなくなるような混乱の回避へ、金融機関や事業会社は備えを急ぐ必要がある」と書いている。「廃止となる」のは1年2か月後でタイミングとしては中途半端だ。「金利の受け払いができなくなるような混乱の回避へ」と言われると大変な問題がありそうな気もするが「金利の受け払いができなくなるような混乱」が起きてもおかしくないと納得できる材料を社説では示していない。

では、なぜこのタイミングで社説が載ったのか。ヒントは以下のくだりにある。


【日経の社説】

課題は主に2つある。まず代替指標の開発と定着が国際的に急務だ。日本では近く新指標、東京ターム物リスク・フリー・レート(TORF=トーフ)の参考値の日次公表が始まる。LIBORで露呈した脆弱性や恣意性を排除し、頑健性と安定性が問われる。


◎宣伝は社説以外でやった方が…

東京ターム物リスク・フリー・レート(TORF=トーフ)の参考値の日次公表が始まる」のが9日で、社説が載った日と重なる。そしてこの「TORF」を算出・公表するのが日経グループに属するQUICKだ。

社説では「TORF」と日経グループの関係に全く触れていない。宣伝だと気付かれるのが嫌だったのだろう。だったら宣伝臭い社説を書かなければいいだけだ。

自社モノを大きく扱うのには反対だが、社説が宣伝臭くなるぐらいならば、宣伝だと明確に分かる“記事”として目立つところに載せればいい。

ついでに追加で注文を付けておく。

社説には「ところが、リーマン危機後の12年に大規模な不正操作が発覚し、指標としての信頼が失墜した」との記述がある。「12年」は確かに「リーマン危機後」ではあるが、かなり時間が経っている。この書き方をするならば「リーマン危機」と「不正操作」の関係を説明すべきだ。しかし何も言及していない。


※今回取り上げた社説「『LIBOR』廃止への備えを万全に」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201009&ng=DGKKZO64796490Y0A001C2EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

2020年10月8日木曜日

「『増資は売り』変化の芽」に疑問残る日経 須賀恭平記者の「スクランブル」

 7日の日本経済新聞朝刊マーケット総合1面に「スクランブル~『増資は売り』変化の芽 成長投資へ資金調達、評価」という記事を書いた須賀恭平記者は「株式市場で公募増資を発表した企業への株価反応が変わってきた」と見ているようだが「なるほど」とは思えなかった。

福岡県立浮羽究真館高校(うきは市)
       ※写真と本文は無関係です

当該部分を見ていこう。


【日経の記事】

「『公募増資は売り』はセオリーだが、最近はその通りではないかもしれない」。岩井コスモ証券の川崎朝映シニアアナリストは話す。6日の東京株式市場で日経平均株価は前日比121円(0.5%)高の2万3433円で取引を終えた。教育サービス事業を手掛けるEduLab(エデュラボ)は11%上昇し上場来高値、オープンハウスも一時だが上場来高値をつけた。いずれも夏以降に公募増資を発表した銘柄だ。

エデュラボは9月30日に公募増資などで最大50億円を調達すると発表。最大で約7%の希薄化が起きる。株価は翌2日に下落したが、6日終値までに10%高となった。足元で公募増資を決めたユーザベースやメドレーなど多くが発表後から株価が上昇。岩井コスモの川崎氏は「在宅勤務やオンライン診療などコロナをテーマにした銘柄は個人投資家が成長ストーリーを理解しやすい」と指摘する。

公募増資に伴う1株利益の希薄化に投資家が警戒感を強めたのはリーマン・ショック以降とされる。日立製作所や東芝などが大規模な増資を実施し、中には希薄化率が2~3割に及ぶものも珍しくなかった。財務を健全化する守りの調達という面が強く、「増資は売り」とのアレルギーを投資家に植えつけた。


◎「発表直後」で見ないと…

代表例として挙げた「エデュラボ」は「公募増資」を発表した後の最初の営業日に「下落した」らしい。だとしたら「増資は売り」が当てはまると見なすべきだ。

公表された材料は株価にすぐ織り込まれる。その時間をどう見るかは難しいが、1営業日あれば十分だろう。その後は「公募増資」以外の要因で株価が変動していると考えた方がいい。

他の銘柄に関しては「公募増資」発表直後の株価がどうだったのか触れていない。それで「株式市場で公募増資を発表した企業への株価反応が変わってきた」と言われても困る。

増資は売り」が「増資を発表した企業の株価は10日以内に2割以上下がる」とか「1年以上にわたって発表前の株価を超えない」といったことを言っているのならば、記事中で明示してほしい。

付け加えると「2008年のリーマン・ショック以降、1株利益の希薄化懸念などから『公募増資は売り』が定説」という説明も引っかかる。理論的に言えば「増資」は株価には中立だ。「公募増資に伴う1株利益の希薄化に投資家が警戒感を強めたのはリーマン・ショック以降とされる」のならば「定説」と言うより「経験則」だ。


※今回取り上げた記事「スクランブル~『増資は売り』変化の芽 成長投資へ資金調達、評価

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201007&ng=DGKKZO64681720W0A001C2EN1000


※記事の評価はD(問題あり)。須賀恭平記者への評価はDを据え置く。須賀記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

疑問だらけの日経「本田圭佑選手、VBファンド設立」http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_19.html

2020年10月7日水曜日

「イタリア改憲の真の狙い」が結局は謎な日経 大石格上級論説委員の「中外時評」

大石格 上級論説委員の書く記事は相変わらず問題が多い。7日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「中外時評~イタリア改憲の真の狙い」という記事では、説明がまともに成立していない。「改憲の真の狙い」に言及したと見られるくだりを見てみよう。

筑後川(大分県日田市 福岡県うきは市)
    ※写真と本文は無関係です


【日経の記事】

もうひとつ指摘しておきたいことがある。イタリアで定数削減が多数の支持を得たのはなぜかについてだ。

今回の憲法改正には前段がある。4年前も国民投票が実施され、そのときは否決されたのだ。上院の権限を大幅に縮小する改憲案だった。

主要国のなかでイタリアは日本と並んで首相交代が多いことで知られる。政治が不安定な最大の理由は、上下両院の選挙の仕組みや権限がほぼ同じで、ねじれ議会が起きやすいからだ。なんとか事態を打開しようと、事実上の一院制を目指したのだ。

このときは与党だった民主党のレンツィ首相が「否決されたら、首相を辞める」と公約した。改憲の是非よりも政権の信任投票の色彩が濃くなり、レンツィ氏の思惑に反する結果で終わった。

それでも、ねじれを起こさせないためにはどうすればよいのかという模索は続いた。国会での発議には至らなかったが、こんどは下院の権限を縮小する改憲案が検討されたりした。最終的には民意のずれを回避するため、18年に上下両院のダブル選挙を実施し、五つ星運動が両院とも第1党を占めた。

今年の改憲は、ねじれ解消に直接つながるわけではないが、何かと百家争鳴になり、ものごとが決まらない政治風土を抑制するという意味では16年国民投票の延長線上にあったわけだ。


◎結局、「多数の支持を得たのはなぜ」?

イタリアで定数削減が多数の支持を得たのはなぜか」と大石上級論説委員は問題提起している。記事を読んで「なぜか」を読み取れただろうか。

まず考えられるのが「ねじれ解消」を多くの国民が望んだからか。しかし「今年の改憲は、ねじれ解消に直接つながるわけではない」と大石上級論説委員自身が書いている。「定数削減」だけならば、間接的にも「ねじれ解消」にはつながらない。

仮に、間接的には「ねじれ解消」につながるとしよう。しかし「上院の権限を大幅に縮小する改憲案」は「4年前」に否決されている。前回は「ねじれ解消に直接つながる」ものだ。今回は「直接つながるわけではない」。なのに「定数削減が多数の支持を得た」のが「ねじれ解消」を多くの国民が望んだからと見るのは無理がある。

最終的には民意のずれを回避するため、18年に上下両院のダブル選挙を実施し、五つ星運動が両院とも第1党を占めた」とも大石上級論説委員は書いている。ならば「ねじれ解消」につながるのは「定数削減」ではなく「ダブル選挙」だ。

結局「イタリアで定数削減が多数の支持を得たのはなぜか」はよく分からない。しかし記事は以下のように続く。


【日経の記事】

ねじれが起きないためのダブル選挙というやり方は、16年にオーストラリアでも行われている

翻って日本はどうか。安倍前首相のもとで自民党が衆参両院選に6連勝したことで、安定期を迎えたが、いつまでも続く保証はない。定数削減と同時に「強すぎる参院」の権限縮小にも取り組まなければ、真の政治の安定は訪れないだろう


◎「ねじれ」を問題視するならば…

ねじれ」を防ぐために「イタリア」と「オーストラリア」が実行したのは「ダブル選挙」だ。「翻って日本はどうか」と言うならば衆参の「ダブル選挙」を制度化するように求めるのが自然な流れだ。しかし「定数削減と同時に『強すぎる参院』の権限縮小にも取り組まなければ、真の政治の安定は訪れないだろう」と結んでしまう。

定数削減」に「ねじれ」を防ぐ効果はない。「『強すぎる参院』の権限縮小」は「ねじれ」の弊害を低減できるだろうが、「ねじれ」そのものは防げない。「ダブル選挙」の有効性を紹介してきたのに、なぜ日本で「ダブル選挙」を制度化を求めないのか。

きちんと考えをまとめ切れていないまま記事を書いたのか。あるいは、きちんとまとめる能力に欠けるのか。やはり大石上級論説委員は書き手として問題ありだ。


※今回取り上げた記事「中外時評~イタリア改憲の真の狙い」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64660110W0A001C2TCR000/


※記事の評価はD(問題あり)。大石格上級論説委員への評価もDを維持する。大石上級論説委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大石格編集委員は東アジア情勢が分かってる?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_12.html

ミサイル数発で「おしまい」と日経 大石格編集委員は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_86.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_15.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_16.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_89.html

どこに「オバマの中国観」?日経 大石格編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_22.html

「日米同盟が大事」の根拠を示せず 日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_41.html

大石格編集委員の限界感じる日経「対決型政治に限界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_70.html

「リベラルとは何か」をまともに論じない日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_30.html

具体策なしに「現実主義」を求める日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_4.html

自慢話の前に日経 大石格編集委員が「風見鶏」で書くべきこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_40.html

米国出張はほぼ物見遊山? 日経 大石格編集委員「検証・中間選挙」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_18.html

自衛隊の人手不足に関する分析が雑な日経 大石格編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_27.html

「給付金申請しない」宣言の底意が透ける日経 大石格編集委員「風見鶏」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/blog-post_74.html

2020年10月6日火曜日

「世界がスルーした東京市場のマヒ」に無理がある日経 梶原誠氏「Deep Insight」

 6日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に梶原誠氏が書いた「Deep Insight~『東証マヒ』世界がスルー」という記事は無理がある。本当に「世界がスルーした東京市場のマヒ」と言えるのかを考えてみたい。梶原氏は以下のように説明している。

大塚古墳公園(福岡県久留米市)
   ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

1日の東京証券取引所の売買停止問題で、見逃せない点がある。外国の関心が低かったことだ。

米ウォール・ストリート・ジャーナルも英フィナンシャル・タイムズも、初報は内側の面で淡々と事実を報じただけだ。韓国では大型連休による休刊が明けた5日、多くの主要紙が掲載を見送った。

2006年の「ライブドア・ショック」で停止に追い込まれたときのように、「東京ストップ・エクスチェンジ」と皮肉られた方がまだ救われた。日本が外国マネーに注目されている証拠だからだ。

現実は逆だ。外国人投資家は18年以降一貫して日本株を売り越しており、日本市場への興味の薄れぶりを裏付けている。


◎それだけでは何とも…

記事の最後で「世界がスルーした東京市場のマヒ。その無関心ぶりには、世界が官民を挙げて急ぐ企業の新陳代謝の競争から日本が取り残されるという、冷めた目線がちらつく」と梶原氏は訴える。しかし「世界がスルーした」と言い切るには材料不足だ。

材料は2つしかない。まず「米ウォール・ストリート・ジャーナルも英フィナンシャル・タイムズも、初報は内側の面で淡々と事実を報じただけ」について検討したい。

初報は内側の面で淡々と事実を報じた」のならば少なくとも「スルー」ではない。「初報は」と限定しているのも引っかかる。続報はどうだったのか。

韓国では大型連休による休刊が明けた5日、多くの主要紙が掲載を見送った」という材料はどうか。

東京市場のマヒ」が起きたのは1日。「大型連休による休刊が明けた5日」の段階ではかなり古い話だ。「多くの主要紙が掲載を見送った」としても「無関心ぶり」を示す材料としては弱い。それに、米英と韓国が「スルー」だとしても3カ国だ。これだけで「世界がスルー」とするのも苦しい。

2006年の『ライブドア・ショック』で停止に追い込まれたとき」は「日本が外国マネーに注目されて」いたと梶原氏は見ているようだ。だったら今回との比較が欲しい。例えば「米ウォール・ストリート・ジャーナルも英フィナンシャル・タイムズも、当時は初報を1面トップで報じた」といった事実があるのならば、関心の低下を実感できる。しかし「『東京ストップ・エクスチェンジ』と皮肉られた」と伝えているだけだ。

「かつては注目されていたのに今はスルー」とした方が話を進めやすいのは分かる。しかし、その設定に強引に持ち込んでいる感は否めない。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『東証マヒ』世界がスルー

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201006&ng=DGKKZO64630190V01C20A0TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html

「霞が関とのしがらみ」は東京限定? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight.html

「儒教資本主義のワナ」が強引すぎる日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight_19.html

梶原誠氏による最終回も問題あり 日経1面連載「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/1.html

色々と気になる日経 梶原誠氏「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight.html

「投資の常識」が分かってない? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight_16.html

「気象予測の力」で「投資家として大暴れできる」と日経 梶原誠氏は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_16.html

2020年10月5日月曜日

津田建二氏の雑な解説が目立つ週刊エコノミスト「キオクシア上場延期」

国際技術ジャーナリストの津田建二氏が週刊エコノミストで「キオクシア上場延期」に関する雑な解説をしている。「国際技術ジャーナリスト」が株式上場を扱うことに無理があったのかもしれない。誤りと思える記述もあったので、以下の内容で問い合わせを送った。

九州佐賀国際空港※写真と本文は無関係です

【エコノミストへの問い合わせ】

津田建二様  週刊エコノミスト編集部 担当者様

10月13日号の「FOCUS NEWS~キオクシア上場延期 予定の8日前に翻意 東芝の慎重さが見え隠れ」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下の記述です。

米国政府はこれまで中国の半導体企業を狙い撃ちしてきた。この米中貿易戦争は、最初はZTE、次にファーウェイ、そして今度は半導体製造を手掛けるファウンドリーのSMICへと対象を広げた。キオクシア上場延期発表の日に、SMICの工場で欠かせない米国製半導体製造装置の中国への輸出に許可制を米国政府が導入した。SMICはファーウェイへの半導体を製造することが極めて困難になる。今後もさらに中国の半導体企業が狙われる可能性がある。それまでに東芝は、米中貿易の安定した時期を見つけて上場することになろう

それまでに東芝は、米中貿易の安定した時期を見つけて上場することになろう」と津田様は書いていますが「東芝」は既に「上場」しています。文脈から考えて「それまでにキオクシアは、米中貿易の安定した時期を見つけて上場することになろう」とすべきではありませんか。

東芝」としたのは「キオクシア」の誤りだと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、上記の解説にも注文を付けておきます。

中国の半導体企業を狙い撃ち」する形での「米中貿易戦争」が激化していると津田様は解説しています。「今後もさらに中国の半導体企業が狙われる可能性がある」とも述べています。なのに、その間に「米中貿易の安定した時期」が訪れて、そこで「キオクシア」が「上場することになろう」と予測しています(「東芝は上場する」という津田様の説明は誤りと仮定します)。

今後もさらに中国の半導体企業が狙われる」場合、「米中貿易戦争」は激化へと向かい「米中貿易の安定した時期」は「戦争」終結まで訪れないと見るのが自然です。何らかの事情で休戦期間が生まれるかもしれませんが、記事にその辺りの説明はありません。なのに「米中貿易戦争」の期間中に「米中貿易の安定した時期」が訪れることを前提に「キオクシア」の「上場」実現を津田様は見通しています。説明不足だと思いませんか。

似たような問題は他の記述にも見られます。「何としても東芝はキャピタルゲインが欲しい。というのは、売り出す株は東芝とHOYAが握っている株式であり、東芝はキオクシアの株式の約4割を持つからだ」と津田様は書いていますが「何としても東芝はキャピタルゲインが欲しい」と言える根拠になっていません。

株式の約4割を持つ」株主が全て上場による「キャピタルゲイン」を欲しがるわけではありません。半永久的に保有するという選択も十分にあり得ます。例えば「東芝」が資金繰りや決算対策の問題を抱えていて「キャピタルゲインが欲しい」と言うのならば分かります。しかし、津田様はそうしたことには触れていません。

行数の制限があるのは分かりますが、だからと言って雑な説明を良しとしていては書き手として失格です。今後の記事執筆に際しては丁寧に説明することを意識してください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。週刊エコノミストでは読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を改めて求めます。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「FOCUS NEWS~キオクシア上場延期 予定の8日前に翻意 東芝の慎重さが見え隠れ

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20201013/se1/00m/020/048000c


※記事の評価はD(問題あり)

2020年10月4日日曜日

やはり市場理解度に問題あり 小幡績 慶大准教授「アフターバブル」

 慶応大学大学院准教授の小幡績氏の主張は歯切れがいい。一方で粗さも目立つ。「アフターバブル~近代資本主義は延命できるか」という著書では「市場の仕組みを理解していないのでは」と思える記述もあった。原油市場に関する解説を見てみよう。

豪雨被害を受けた天ケ瀬温泉(大分県日田市)
       ※写真と本文は無関係です


【本の引用】

国家内部にはいろんな意見があるし、利害関係者がいる。たとえ独裁国家、独裁企業であったとしても内部を簡単にはまとめられない。国際的な寡占体制も、高い価格水準から値崩れを起こした場合には、産油国同士で一致団結することはできない。一方、価格暴騰のときには一致団結できる。すべての関係者がさらに儲かる、団結で全員が得をするからである。暴落のときは抜け駆けするインセンティブが常にあるし、それが強い。だから、うまくいかないのである。


◎「価格暴騰のとき」は必ず「一致団結できる」?

そもそも「国際的な寡占体制」が成立していない。「寡占」とは「同一産業内で、少数の大企業が、その市場を支配している状態」だ。「シェールオイルの開発業者も40ドルを割ると持続性がなくなるから、破産する中小業者が続出してくる」と小幡氏もこの本で書いている。「破産する中小業者が続出」するのに「寡占」なのか。国単位での「寡占」と言うならば「産油国」はそんなに「少数」なのか。

とりあえず「国際的な寡占体制」が成立していて、原油を生産できるのは米国、ロシア、サウジアラビアだけだとしよう。この場合「価格暴騰のときには一致団結できる」だろうか。この「価格暴騰」が協調減産の結果だとする。そして生産量は国家が管理できると仮定する。

ロシアは現状で満足しているのに、米国は「ガソリン価格の上昇などで国民の不満が高まっている。減産を緩和したい」と考えてもおかしくない。サウジは「財政状況が厳しいので、減産強化でさらに価格を上げたい」と願うかもしれない。「価格暴騰のとき」に「一致団結できる」場合もあるだろうが、そうなるとは限らない。

暴落のときは抜け駆けするインセンティブが常にある」とも小幡氏は言う。異論はないが「価格暴騰のとき」も同じだ。自国だけが協調減産を緩める「抜け駆け」によって「さらに儲かる」可能性はある。

暴落のとき」に「団結で全員が得をする」状況もあり得る。上記の例で言えば、3カ国すべてが完全な採算割れに陥る価格水準では「一致団結できる」可能性が高まる。「抜け駆け」で供給量を増やすと再び採算割れに陥ると思えば「抜け駆けするインセンティブ」も弱まる。

価格暴騰のときには一致団結できる」が「暴落のとき」は「うまくいかない」と単純に考えるのは誤りだ。そうなる場合もあれば、違う場合もある。市場に関してある程度の知識がある人にとっては「言われるまでもない当たり前の話」だ。


※今回取り上げた本「アフターバブル~近代資本主義は延命できるか


※本の評価はD(問題あり)。小幡績氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

小幡績 慶大准教授の市場理解度に不安を感じる東洋経済オンラインの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_18.html

「確実に財政破綻は起きる」との主張に無理がある小幡績 慶大准教授の「アフターバブル」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post.html

2020年10月3日土曜日

政府の「ゼロ回答」を批判する前に日経は自らの説明責任を果たせ

日本経済新聞には「異例の決定に至った経緯と理由をきちんと説明すべきである」などと「政府」に求める資格があるのか。3日の朝刊総合1面に載った「なぜ学者6人を外したのか」という社説では、冒頭で以下のように訴えている。

豪雨被害を受けた天ケ瀬温泉(大分県日田市)
        ※写真と本文は無関係です
内閣府の所管だが、学者が自由に政策提言をしてきた特別機関『日本学術会議』が推薦した新会員候補105人のうち、6人が任命されなかった。いまの仕組みになった2004年度以降で初めてのことだ。政府は異例の決定に至った経緯と理由をきちんと説明すべきである

読者からの間違い指摘を無視して多くのミスを放置してきた日経が「政府」に「きちんと説明すべきである」と求めても説得力はない。訂正を出した案件でさえ、日経は問い合わせに回答しない。つまり「自らに非があっても説明責任は果たさない」というのが日経の姿勢だ。なのになぜ「異例の決定に至った」だけで「政府」は「経緯と理由をきちんと説明すべき」なのか。自分に甘く他者に厳しい姿勢を日経はまず改めるべきだ。

もう少し社説の中身を見ておこう。


【日経の社説】

任命されなかった6人の経歴をみると、法学者や歴史学者がほとんどだ。特定秘密保護法や安全保障関連法の制定や共謀罪の新設に反対した人が含まれている。ときの政府の方針に従わなかったことが理由だとすれば、学問の自由を侵害しかねない

学術会議が2017年に大学が軍事研究にかかわることに歯止めをかけるように求める声明を出したことへの意趣返しとみる向きもある。野党は秋の臨時国会で、菅義偉首相による権力乱用だとして追及する構えだ。

法的な正当性がいずれにあるかはさらなる議論が必要だが、政府が長年の方針を変更したことは間違いない。加藤氏は「個々の選考理由はコメントを控える」としているが、これではゼロ回答だ

選考の内規のようなものがあって、6人の過去の業績の優劣で決めたのか。それとも特定の振る舞いを理由に除外したのか。問答無用ではすまない問題である。


◎ちょっと大げさでは?

ときの政府の方針に従わなかったことが理由だとすれば、学問の自由を侵害しかねない」という主張は多くなされているとは思うが、大げさな感じがする。「学問の自由」を「学問研究・研究成果の発表・討論・教授・学習などに関して、政治・宗教・経済などいっさいの外的権力からの干渉・制限・圧迫を受けることなく、活動しうること」(デジタル大辞泉)と定義するならば「日本学術会議」の「会員」になれなくても「自由」は確保できる。

また「経緯と理由をきちんと説明」することに、あまり意味があるとは思えない。「ときの政府の方針に従わなかったことが理由」だとしても、それをそのまま「政府」が説明するとは限らない。仮に「『6人の過去の業績』を総合的に見て、学者としての能力が低いと判断した」と説明した場合、どうなるのか。

「だったら仕方がない。納得」とはならないはずだ。本当の理由を隠しているとの疑いは残る。「政府」の介入が好ましくないことならば、推薦された学者を無条件に「新会員」とするよう制度を改めるしかない気がする。


※今回取り上げた社説「なぜ学者6人を外したのか


※社説の評価はD(問題あり)

2020年10月1日木曜日

「確実に財政破綻は起きる」との主張に無理がある小幡績 慶大准教授の「アフターバブル」

 慶応大学准教授の小幡績氏によると、日本で「確実に財政破綻は起きる」らしい。「アフターバブル~近代資本主義は延命できるか」という著書で繰り返し訴えている。しかし、どういう経路で「財政破綻」に至るのかはっきりしない。

大雨で増水した筑後川(福岡県うきは市)
       ※写真と本文は無関係です

主張の一部を見ていこう。


【本の引用】

日本は、これまでも、財政ファイナンスではないと強く否定しながら、政府の政策、意向に合わせて、大量の国債購入を続けてきただけでなく、それを加速度的に拡大してきた。建前はかろうじて守られているものの、この7年間、実質財政ファイナンスを行ってきた。景気がよくなっても、出口には向かわず、国債保有残高を増やし続けた。

この経緯からすると、財政出動の規模が米国政府よりも日本政府のほうが小さいことから、日銀は、とりあえず、実質的な財政ファイナンスであると半ば認めたような米国FEDのようなスタンスはとらないだろう。しかし、いやだからこそ、なし崩し的に政府に押し込まれる可能性が高い。明確な説明をしないまま、建前は財政ファイナンスでないと言い続けながら、政府の財政政策の言いなりになって無限に国債を買い続ける可能性もある

実際、MMTという世界的には眉唾物の経済理論が日本では注目を集めている。さらに悪いことに、MTTに誤った拡大解釈を加え、インフレにならなければ、いくらでも財政赤字は増えて構わない、それどころかインフレにならないのだから、財政赤字を増やさなければならない、という暴論が日本では蔓延している。さらにこのような論調が力を増している雰囲気が、ネット論壇(そういうものが存在するとすれば)に見られる。しかも、コロナ対策として、とにかく何でも金を配れ、という雰囲気があることから、今まで以上に歯止めが利かなくなる恐れがある。

中央銀行は財政政策に乗っとられつつある。

この結果、確実に財政破綻は起きる。日本経済と日本社会は真の危機に陥る。これが、現在の日本における最大のリスクである。このリスクシナリオは、ほぼ実現しつつある。

もはや手遅れに近いが、最後の望みをかけて、「無制限」の国債購入という文言を変更するしかない。「無制限」ではなく、国債購入の方針として、「量の明示はしない」という見解を公式に表明する。それが現在の日銀の最優先課題であり、唯一できることだ


◎「無限に国債を買い続ける」能力があるのに「破綻」する?

この7年間、実質財政ファイナンスを行ってきた」「中央銀行は財政政策に乗っとられつつある」という見方に異論はない。だが、そこから「この結果、確実に財政破綻は起きる」と飛躍した結論を導く根拠がこの本には見当たらない。

「(日銀は)政府の財政政策の言いなりになって無限に国債を買い続ける可能性もある」と小幡氏は書いている。つまり日銀には「無限に国債を買い続ける」能力があると認めている。「実質財政ファイナンス」を続けるためには日銀が「国債を買い続ける」必要があり、その能力が限界に近付いているのならば「確実に財政破綻は起きる」との結論に辿り着くのも分かる。

しかし「無限に国債を買い続ける」能力があると知っていながら「確実に財政破綻は起きる」と見るのはおかしい。「長期金利ターゲットのゼロ%付近という目標は維持する」というのが小幡氏の考えだ。つまり、国債を増発しても利払いの負担は非常に軽い。そして日銀には「無限に国債を買い続ける」能力がある。なのに「財政赤字」の拡大が続くと「もう償還も利払いもできません。日本国債の債務不履行を宣言します」と政府は白旗を上げるのか。さらに国債を発行して日銀が買い支えれば済む話だ。

インフレなどの問題は起きるかもしれないが「財政破綻」となる道筋は見えてこない。小幡氏には見えているのならば、それを具体的に教えてほしい。

MMT」についても「世界的には眉唾物の経済理論」と言い切っているが「眉唾物」と見なすべき根拠は教えてくれない。「MMT」では「自国通貨建ての国債は債務不履行にならない」と考える。当たり前の話にも思えるが、小幡氏は「違う」と確信しているのだろう。だったら日銀が「無限に国債を買い続ける」意思を明確にして政府を支えても円建ての国債が債務不履行になる理由も示してほしかった。

そこに触れないで「確実に財政破綻は起きる」と言われても納得はできない。

確実に財政破綻は起きる」のならば、回避策を考えても意味はなさそうだ。しかし「もはや手遅れに近いが、最後の望みをかけて、『無制限』の国債購入という文言を変更するしかない」と小幡氏は訴える。「国債購入の方針として、『量の明示はしない』という見解を公式に表明する」だけで「財政破綻」を避けられるのならば、随分とお手軽な話ではある。なぜそうなるのか。再び本の中身を見てみる。


【本の引用】

要は、無制限の買い入れというイメージを払拭し、財政ファイナンスはしない、という建前を再度前面に押し出す、ということである。

ただし、建前の確立に成功したとしても、政府の要求や世論(エコノミストを含む)からの圧力により、現実には、実質財政ファイナンスに陥る可能性も十分にある。しかし、それは残念だが仕方がない。無制限を残したままでは抵抗もできず、ただ財政ファイナンスになってしまうし、このリスクシナリオの実現可能性も高くなってしまうだろう。そのリスクを少しでも抑えるために「建前」という防御壁をつくり直すということだ。


◎「建前」に意味ある?

実質財政ファイナンスに陥る可能性も十分にある」と書くと、現状は「実質財政ファイナンス」ではないとの印象を受けるが「この7年間、実質財政ファイナンスを行ってきた」と小幡氏は見ているはずだ。「実質財政ファイナンスが続く可能性も十分にある」などとした方が良いだろう。

『建前』という防御壁をつくり直す」ことが大事だと小幡氏は説く。だが疑問が2つ湧く。黒田東彦総裁は記者会見でも「日銀を含めた中銀が国債を大量に買い入れているのは、あくまでも金利を低位で安定させる金融政策のためで、財政ファイナンスではない」と発言している。「財政ファイナンスはしない、という建前」は今もあるはずだ。なのに、さらに「建前」を「つくり直す」のか。

しかも「実質財政ファイナンス」は「仕方がない」と小幡氏は言う。「建前」を「つくり直す」と「実質財政ファイナンス」から抜け出せるのならば「建前の確立」にこだわるのも分かる。しかし、そうではないようだ。

なのに「建前の確立」によって「リスクシナリオの実現可能性」を「抑える」ことができるらしい。「確実に財政破綻は起きる」のだから「リスクシナリオの実現可能性」を仮に99.9%としよう。小幡氏の求める「建前の確立」に成功すると、これはどう変わるのだろう。99.8%辺りか。だとしたら「建前の確立」に実質的な意味があるとは思えないが…。


※今回取り上げた本「アフターバブル~近代資本主義は延命できるか


※本の評価はD(問題あり)。小幡績氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

小幡績 慶大准教授の市場理解度に不安を感じる東洋経済オンラインの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_18.html