2019年1月31日木曜日

「ゴーン元会長インタビュー凄いでしょアピール」に見える日経の幼さ

「こんな自画自賛みたいな記事を1面に持ってくるのは恥ずかしくないですか」と夕刊を作る時に誰も言わなかったのか。31日の日本経済新聞夕刊1面に載った「ゴーン元会長インタビュー、『反逆』発言に関心~欧米メディアが速報、電子版トップで掲載」という記事には、日経のメディアとしての幼さを感じた。
由布岳(大分県)※写真と本文は無関係です

「ゴーン元会長のインタビューを載せたら、欧米メディアがこんなに取り上げてくれたんですよ。凄いでしょ」という喜びが記事から溢れてしまっている。その滑稽さを理解できない人物が編集局幹部に少なくとも何人かはいて、今回の記事掲載につながったのだろう。

記事の最初の段落だけ見ておこう。

【日経の記事】

日本経済新聞(電子版)が30日報じた日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告とのインタビューを各国のメディアは速報で伝えた。日産社内で行われた不正調査に関し「これは策略であり、反逆だ」と批判したゴーン被告の発言などに関心が集まっている。日経の英文媒体「Nikkei Asian Review」(電子版)が掲載した英語版の記事を引用する例も目立った。


◎これが1面の3番手?

この記事は1面の3番手で80行近い長さだ。「日本経済新聞(電子版)が30日報じた日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告とのインタビューを各国のメディアは速報で伝えた」ことは、日経の読者にとってそれほど重要な話なのか。

読者に何を伝えるべきかを真剣に考えて紙面を作っていたら、「ゴーン元会長インタビュー 欧米メディアが速報」を1面の大きな記事で取り上げる結果にはならなかったはずだ。

夕刊を担当した編集局幹部は「この手の自画自賛系の記事を載せると日経のメディアとしての価値が高まる」とでも思っているのか。個人的には「インタビュー記事を載せたところまでは良かったのに…」と残念でならない。

褒められたい気持ちは分からないでもない。だが、そこを我慢できずに自分で「こんなに凄いんですよ」とアピールするのは、あまりに未熟だ。日経編集局の幹部はそこに気付いてほしい。


※今回取り上げた記事「ゴーン元会長インタビュー、『反逆』発言に関心~欧米メディアが速報、電子版トップで掲載
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190131&ng=DGKKZO40693010Q9A130C1MM0000


※記事の評価はC(平均的)。「ゴーン元会長インタビュー」に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_31.html

日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏

31日の日本経済新聞朝刊1面に載ったゴーン元会長のインタビュー記事は基本的には評価できる。ただ、総合2面に載った「統治不全生んだすれ違い ゴーン元会長と日産」という解説記事には問題を感じた。この中で筆者の中山淳史氏(肩書は本社コメンテーター)は以下のように記している。
白池地獄(大分県別府市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

有罪か、無罪か。すべては裁判で判断されるべきことだ。ただ、日産子会社を通じてブラジルやレバノンに自宅用物件を購入したとの疑惑について質問が及んだ時だった。元会長は「私は弁護士ではない。問題があるのならなぜ(その時に日産の関係者が『会長、それはだめです』と)私に教えてくれなかったのか」と眉をつり上げながら反論していた。

「みなが知っていた」とすれば、日産の関係者にも不作為があった可能性がある。元会長による人事面での報復を恐れた。「会長だから仕方ない」との忖度(そんたく)が働いた――。理由は様々考えられるが、報酬などをめぐる問題がルノーでは起きず、日産だけで起きたことを考え合わせれば、日産のガバナンスが取締役会から執行の様々な層に至るまで、機能不全に陥っていたことは確かだろう

自分が日産を救ったリーダーだと信じていた元会長。いつしか独裁者だと感じるようになったそれ以外の人々。問題の底流には両者のすれ違いもあったとは言えないか。



◎日産への取材はまだ?

「『みなが知っていた』とすれば、日産の関係者にも不作為があった可能性がある」という説明が引っかかる。ゴーン元会長が逮捕されて2カ月以上が過ぎている。「みなが知っていた」かどうかについて取材する時間は十分にあったはずだ。なのに現段階でも「日産の関係者にも不作為があった可能性がある」としか言えないのか。

「数多くの日産関係者に取材を試みたものの、誰も何も答えてくれなかった」といった事情が仮にあるのならば、そこは明示すべきだ。

取りあえず「不作為があった」かどうかは分からないとしよう。なのに中山氏は「報酬などをめぐる問題がルノーでは起きず、日産だけで起きたことを考え合わせれば、日産のガバナンスが取締役会から執行の様々な層に至るまで、機能不全に陥っていたことは確かだろう」と結論付けてしまう。これも解せない。

不作為があった可能性がある」と書いているのだから「なかった可能性」も十分にあるはずだ。だとすると「機能不全に陥っていたことは確かだろう」と言える根拠は「報酬などをめぐる問題がルノーでは起きず、日産だけで起きたこと」に尽きる。

しかし、これも苦しい。「報酬などをめぐる問題がルノーでは起きず、日産だけで起きた」としても、「ルノー」では「報酬などをめぐる問題」がなかったかどうかは分からない。同じような「問題」があるのに誰も問題視していない「可能性がある」はずだ。

結局、「(日産側に)不作為があった」かどうかも、「報酬などをめぐる問題」がルノーではなかったかどうかも明確ではない。なのに「日産のガバナンスが取締役会から執行の様々な層に至るまで、機能不全に陥っていたことは確かだろう」という結論を導くのは無理がある。

ついでに言うと「自分が日産を救ったリーダーだと信じていた元会長。いつしか独裁者だと感じるようになったそれ以外の人々」という書き方も決め付けが過ぎる。「それ以外の人々」の全てが「いつしか独裁者だと感じるようになった」と取れるが、そう感じていない人もいると考える方が自然だ。中山氏は日産関係者の全員に「独裁者だと感じるようになった」か聞いた訳ではないだろう。

両者のすれ違い」と書くと「それ以外の人々」は一枚岩だと感じるが、これも違うだろう。「ゴーン元会長」を積極的に支持していた人たちが社内に皆無だった可能性は非常に低いと思える。

インタビューに合わせて解説記事を書くことは、かなり前から分かっていたはずだ。ならば、もう少ししっかりした内容に仕上げてほしかった。


※今回取り上げた記事「統治不全生んだすれ違い ゴーン元会長と日産
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190131&ng=DGKKZO40665250Q9A130C1EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html

日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post.html

ゴーン氏の「悪い噂」を日経 中山淳史氏はまさか放置?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_21.html

GAFAへの誤解が見える日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/gafa-deep-insight.html

2019年1月30日水曜日

「顧客主義の徹底」には程遠い週刊ダイヤモンドの訂正記事

週刊ダイヤモンド2月2日号に載った「訂正とお詫び」には、「仕方なく訂正は出すけど、何に関してどう訂正したのかはボカしたい」という作り手の気持ちがにじみ出ていた。例えば「『再上場』を『上場』に」訂正したものの、具体的な企業名は記していない。
浜離宮恩賜庭園(東京都中央区)※写真と本文は無関係

一方、この号の特集「サブスク革命」を担当した山口圭介副編集長は編集後記で「顧客主義の徹底」の大切さを説いていた。「言うは易く行うは難し」。ダイヤモンド編集部は読者軽視の姿勢を転換して「顧客主義の徹底」へと舵を切れるだろうか。以下の内容で変革を求めておいた。

【ダイヤモンドに送った意見】

週刊ダイヤモンド 編集長 深澤献様  副編集長 山口圭介様

2月2日号に以下の訂正が出ていました。

【訂正とお詫び】●本誌1月19日号106ページの「再上場」を「上場」に、また107ページ図(4)の有利子負債額を、2012年度1637億円、13年度567億円、14年度300億円、15年度150億円、16年度2115億円、17年度1830億円に訂正します。

これは「財務で会社を読む リクルートホールディングス~積極的M&Aで『第3の創業』 人材と販促で世界一を目指す」という記事に関する訂正です。しかし「訂正とお詫び」を読んだだけでは、どの会社の「上場」を「再上場」と誤ったのか分かりません。

何のために訂正を出すのか、よく考えてください。届けた記事に誤りがあったと読者に知らせるために訂正を出しているはずです。しかし、上記のような「訂正」では、自分が読んだ記事に関する訂正なのか、容易には判断できません。

2週間前に「財務で会社を読む リクルートホールディングス」という記事を読んだ人は「1月19日号106ページ」という情報だけで「自分が読んだあのリクルートの記事か」と気付けるでしょうか。「有利子負債額」についても、誤って載せた金額が今回の訂正では分かりません。これも不親切です。

最新号の特集は「サブスク革命」です。訂正記事の隣にある「From Editors」では、この特集に絡めて山口様が以下のように述べています。

私自身も昨年から仕事として、サブスクリプションモデルの導入を検討してきました。 今回の特集に登場する米ズオラ創業者のティエン・ツォCEOにも複数回にわたって取材させてもらいました。そのときに強調されたのは、ユーザビリティなど顧客主義の徹底、そして『Just do it !』。とやかく言わず早く始めろと

訂正とお詫び」の上には、かなりのスペースが空いています。「顧客主義の徹底」を図り、訂正に関して丁寧に説明しようとすれば簡単にできたはずです。今回の「訂正とお詫び」は御誌が「顧客主義の徹底」からは程遠いところにいると教えてくれています。

特集「サブスク革命」に関しては(1)ゾゾタウンの「おまかせ定期便」を「サブスク」に分類したのは誤りではないか(2)「サブスク」の「所有権の移転」に関して「なし/サブスク事業者保有」としたのは誤りではないか--という間違い指摘を既にしていますが、回答は得ていません。

読者からの間違い指摘を当たり前のように無視するのは、「顧客主義の徹底」に逆行する御誌の悪しき伝統です。山口様は「顧客主義の徹底」の重要性に気付いたはずです。深澤編集長にその大切さを伝え「悪しき伝統を断ち切って顧客主義を徹底しましょう」と訴えてはどうでしょうか。

一読者の立場で言わせてもらえば、まさに「とやかく言わず早く始めろ」です。

Just do it !

◇   ◇   ◇

※「サブスク革命」に関しては以下の投稿を参照してほしい。

ゾゾの「おまかせ定期便」は「サブスク」? 週刊ダイヤモンドに問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_57.html

「サブスクに所有権の移転なし」と週刊ダイヤモンドは言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_29.html

2019年1月29日火曜日

「サブスクに所有権の移転なし」と週刊ダイヤモンドは言うが…

週刊ダイヤモンド2月2日号の特集「トヨタ・パナ・ソニーも参戦~サブスク革命 定額課金の衝撃」の問題点をさらに指摘していく。今回は「サブスクリプション」での「所有権の移転」を取り上げる。担当者らには以下の内容で問い合わせを送った。
呼子大橋(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部

山口圭介様 浅島亮子様 片田江康男様 鈴木洋子様 松本裕樹様  山本輝様

2月2日号の特集「トヨタ・パナ・ソニーも参戦~サブスク革命 定額課金の衝撃」についてお尋ねします。「Part 1~単なる定額制じゃない! サブスク超入門」という記事に付けた表を見ると「サブスクリプション」の「所有権の移転」の欄には「なし/サブスク事業者保有」と出ています。これは記事中の説明と矛盾します。まず以下のくだりです。

サブスクリプション(subscription)を辞書で引いてみると、『新聞や雑誌の定期購読』や『予約購読』という意味が出てくるはずだ。定期購読プランは大半の雑誌が用意しているし、何より紙の新聞を定期購読することは、ほんの数年前まで『社会人の常識』だった。つまり、サブスクは最近になって新たに誕生したビジネスモデルではないのだ

雑誌の定期購読」で考えてみましょう。この場合「雑誌」の「所有権」は購読者に「移転」するはずです。週刊ダイヤモンドを「定期購読」している場合、自宅に届いた「雑誌」の「所有権」は「サブスク事業者(ダイヤモンド社)」にあるでしょうか。

次のユニコーンはどこだ! 業種別 サブスク超カオスマップ」という記事では「花の定期宅配を行うブルーミーライフ」や「おやつの定期宅配を行うスナックミー」を「サブスク」として取り上げています。これらも「」や「おやつ」に関する「所有権の移転」は「あり」と言えそうです。

定額制アパレル四つの成功法則~撤退続出のファッション サブスク覇権争いの内幕」という記事では、アマゾンジャパンンの「プライム・ワードローブ」と、ゾゾタウンの「おまかせ定期便」を「購入型サブスクサービス」に分類しています。「購入型」ですから当然に「所有権の移転」を伴います。

サブスクリプション」での「所有権の移転」に関して「なし/サブスク事業者保有」とした説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして適切な行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた特集「トヨタ・パナ・ソニーも参戦~サブスク革命 定額課金の衝撃
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/25720


※特集全体の評価はD(問題あり)。担当者らの評価は以下の通りとする(敬称略)。

山口圭介(Fを維持)
浅島亮子(Dを維持)
片田江康男(Dを維持)
鈴木洋子(Dを維持)
松本裕樹(暫定C→暫定D)
山本輝(Dを維持)

2019年1月28日月曜日

ゾゾの「おまかせ定期便」は「サブスク」? 週刊ダイヤモンドに問う

記事中に「革命」の文字を見つけたら要注意というのは、日本経済新聞だけに当てはまる傾向ではないようだ。週刊ダイヤモンド2月2日号の特集「トヨタ・パナ・ソニーも参戦~サブスク革命 定額課金の衝撃」にも色々と問題を感じた。「革命」が起きているとの前提で記事を作ると無理が生じやすいのだろう。
田島神社(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係

まずは「サブスク」ではない事業を「サブスク」に分類した問題を取り上げたい。担当者らには以下の内容で問い合わせを送った。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部

山口圭介様 浅島亮子様 片田江康男様 鈴木洋子様 松本裕樹様  山本輝様

2月2日号の特集「トヨタ・パナ・ソニーも参戦~サブスク革命 定額課金の衝撃」についてお尋ねします。特集では「サブスクリプション」を「単なる定額課金と捉えられがちだが、顧客に合った商品やサービスを、定額で提供するモデル」と定義しています。そして特集の中の「定額制アパレル四つの成功法則~撤退続出のファッション サブスク覇権争いの内幕」という記事には以下の記述があります。

サブスクに関心を寄せるのは大手メーカーだけではない。ゾゾタウンが18年2月に始めたのが『おまかせ定期便』。専門スタッフがユーザーの好みに合った商品5~10点を選んでコーディネートし、定期的に送るサービスだ。ユーザーは気に入ったものだけを購入し、残りは手数料無料で返品する。スタイリングなど新たな価値を提供する点ではエアークローゼットなどレンタル型サブスクと似ているが、ゾゾはあくまで商品の販売で稼ぐモデルだ

おまかせ定期便」には「サブスク」の要素が見当たりません。これは「顧客に合った商品やサービスを、定額で提供するモデル」ではなく、顧客が気に入った商品をそれぞれに設定された価格で購入する仕組みです。「ゾゾタウン」もホームページで「購入した商品の代金のみクレジットカードからお支払いいただきます」と説明しています。これでは「定額」になりようがありません。

おまかせ定期便」を「サブスク」として紹介したのは誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして適切な行動を心掛けてください。

せっかくの機会なので、当該記事に関して他に気になった点を記しておきます。まずは以下のくだりに関してです。

カジュアル衣料大手のストライプインターナショナルは2015年9月、定額レンタルの『メチャカリ』を開始。有料会員数は年率150%で成長しており、すでに1万2000人(18年11月末時点)。「次は20万人が目標」(澤田昌紀・グローバルファッションEC本部メチャカリ部長)という。さらに18年にはAOKIホールディングス、レナウンなども自社スーツを定額レンタルする事業に乗り出した。『会員数は5年で1万人を目標にしていたが、商品供給が追い付かないほど好調。前倒しで達成するペース』(東村昌泰・レナウン企画商品部長)という。ストライプもレナウンも共に社長の発案で始まったプロジェクト。それ故、社内の既存事業部門の反発を押さえて、サブスク事業に注力できた

記事に付けた「アパレルサブスク 四つの成功法則」の1つは「リアル店舗など『レガシー』のしがらみがない」です。しかし「ストライプインターナショナル」や「レナウン」は「リアル店舗など『レガシー』のしがらみ」が「ある」のに「成功」しているのではありませんか。

さらに記事では「スタートアップでも撤退企業が続々と出てきている。特に男性向けで目立っており、すでにフレッシュネック、サンドリヨンオム、CONCINENTAL、ビモールなどがサービスを中止している」とも書いています。こうした「スタートアップ」は「『レガシー』のしがらみがない」のに「撤退」に追い込まれているはずです。

リアル店舗など『レガシー』のしがらみがない」という「成功法則」は必要条件としても十分条件としても成立していないと思えます。

成功法則」で言えば「商品自体の販売を目的としていない」も苦しいでしょう。この「成功法則」が成り立つならば「ゾゾタウン」の「おまかせ定期便」はダメな「サブスク」の典型です。しかし、そうは書いていません。記事には以下の記述もあります。

さらに気になるのがアマゾンジャパンの動き。同社では18年10月からプライム会員向けに、試着したい商品を自宅にまとめて届ける『プライム・ワードローブ』を始めたのだ。『アマゾン経済圏』での会員の行動履歴などを基に、商品提案することも可能だろう

記事に付けた表で「プライム・ワードローブ」は「おまかせ定期便」とともに「購入型サブスクサービス」に分類されています(「おまかせ定期便」と同様に「プライム・ワードローブ」も「サブスク」ではないと思えますが、ここでは論じません)。だとすれば、当然にダメな「サブスク」です。しかし記事では前向きに取り上げています。

定額制アパレル四つの成功法則」と見出しでも打ち出していますが、少なくとも2つは「成功法則」とは呼べないと感じました。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた特集「トヨタ・パナ・ソニーも参戦~サブスク革命 定額課金の衝撃
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/25720


※特集全体の評価はD(問題あり)。担当者らの評価は以下の通りとする(敬称略)。

山口圭介(Fを維持)
浅島亮子(Dを維持)
片田江康男(Dを維持)
鈴木洋子(Dを維持)
松本裕樹(暫定C→暫定D)
山本輝(Dを維持)

2019年1月26日土曜日

肝心の情報がない日経 篠崎健太記者「仏メディア、3社関係改善を期待」

記事として成立していないと言うべきか。26日の日本経済新聞朝刊総合6面に載った「仏メディア、3社関係改善を期待」という記事には、「3社関係改善を期待」に関する具体的な情報が出てこない。そこが抜けては話にならない。
杵築城(大分県杵築市)※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

【パリ=篠崎健太】仏ルノーが新経営体制を発表したことを受け、仏メディアは連合を組む日産自動車、三菱自動車との関係改善に期待を示している

仏紙フィガロ電子版はゴーン被告の辞任を了承した3時間余りの取締役会を経て、ルノーと日産の対立関係が「2018年11月の逮捕以来初めて1段階和らいだ」と伝えた。両社のトップとして君臨してきたゴーン被告の退任が緊張緩和につながるとの見方を示した。

AFP通信は、スナール氏が記者会見で3社連合は「絶対に重要だ」と述べたことを取り上げ、指名後の最初の仕事は「投資家を安心させることだった」と伝えた。



◎本当に「期待」を示した?

仏メディアは連合を組む日産自動車、三菱自動車との関係改善に期待を示している」と篠崎健太記者は断言している。しかし「仏紙フィガロ電子版」は「ゴーン被告の退任が緊張緩和につながるとの見方を示した」だけで「関係改善に期待を示している」と取れる引用は出てこない。「AFP通信」も似たようなものだ。

本当に「仏メディア」が「関係改善に期待を示している」のであれば、「期待を示している」部分をきちんと引用すべきだ。今回のような書き方をすると、そんな「期待」は示していないのではと疑いたくなる。

紙の新聞に収まらなかった部分に「期待」が入っていたのかと思って、電子版の記事も見てみた。収まらなかった部分は以下のようになっている。

【日経の記事(電子版)】

AFP通信は、スナール氏が記者会見で3社連合は「絶対に重要だ」と述べたことを取り上げ、指名後の最初の仕事は「投資家を安心させることだった」と伝えた。フランスのテレビは新体制を「歓迎する」と述べた、同日の日産の西川広人社長兼CEOの記者会見の様子を繰り返し流した。

だが仏政府がルノーと日産を経営統合させたい意向を示したと先に伝わるなか、関係の再構築がすんなりと進む保証はない。AFP通信は3社連合について「ゴーン被告に代わるトップに誰が就くのかはっきりしないままだ」とし、先行きは不透明だと指摘した。

24日のパリ株式市場でルノー株は続伸し、終値は前日比0.89ユーロ(1.6%)高い58.30ユーロだった。一時は58.56ユーロと、18年12月6日以来約1カ月半ぶりの高値水準を付けた。


◎やはり見えない「期待」

上記のくだりにも「仏メディアは連合を組む日産自動車、三菱自動車との関係改善に期待を示している」と判断できる引用は出てこない。肝心な情報が抜けたままなのに、最後の段落では「ルノー株」の値動きまで紹介している。

篠崎記者には「まともに記事を書く気があるのか」と問いたい。


※今回取り上げた記事

仏メディア、3社関係改善を期待
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190126&ng=DGKKZO40507770V20C19A1EA6000

仏メディア『日産との関係改善期待』ルノー新体制 ゴーン退場
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40451280V20C19A1FF8000/


※記事の評価はD(問題あり)。篠崎健太記者への評価も暫定でDとする。

韓国の男性差別を記事にした日経 鈴木壮太郎ソウル支局長に高評価

徴兵制がある韓国では男性は2年近くを軍で過ごす」とすれば、犯罪に手を染めなくても男性だけが懲役2年を科されるようなものだ。他の分野でかなりの男性優遇がなければ、全体としての男女平等は成立しない。韓国でそこはどうなっているのかと以前から疑問には思っていた。
浜離宮恩賜庭園(東京都中央区)
      ※写真と本文は無関係です

26日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「真相深層~若者男性、文政権に『反旗』 熱心な女性政策に批判の目 不公平感、支持率低下に拍車」 という記事は、その疑問にかなり答えてくれる興味深い内容だった。

記事の一部を見ていこう。

【日経の記事】

「『かわいいね』っていっただけで性暴力? それはあんまりじゃないか」

1月中旬。ソウルの学生街で開かれた集会で若い男性が声を上げた。名門私大の西江大で昨春起きた事件のことだ。

ある男子学生が同じクラスメートの女子学生に「うちの女子はみなかわいいよね」と発言したことが問題になり、学生による「対策委員会」が設置された。「言葉による性暴力事件」と認定。昨年末に男子学生に学内活動の制限を勧告した。

「厳しすぎる」との声が上がり、同委も勧告を見直したが、女性が不快に思う言動をとれば社会的な制裁は免れない。事件はそんな韓国社会のいまを象徴する。


◎兵役とのバランスが…

男性だけに2年近い兵役があり「女性が不快に思う言動をとれば社会的な制裁は免れない」とすれば、かなりの男性差別社会だと感じる。「女性が不快に思う言動」にも寛容でないと兵役とのバランスは取れないだろう。しかし、記事を信じれば事態は逆のようだ。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

男性優位社会が長らく続いた韓国では女性によるセクハラ告発が相次ぐ。昨年12月にはスピードスケート女子ショートトラックの平昌五輪の金メダリスト、沈錫希(シム・ソッキ)選手が男性コーチから性暴力を受けていたと警察に告発。韓国社会に衝撃が走った。

女性を暴力から守る法整備も進む。「女性暴力防止基本法」が昨年12月、国会を通過した。セクハラやストーカー行為など、これまで法的根拠がなく処罰が難しかった行為を「女性暴力被害」と規定。取り締まれるようにする趣旨だ

こうした動きを20代の男性は「逆差別」と受け止める。「#Me Too」で告発されたのは自分たちより年配の世代だ。上下関係が厳しい文化・芸能、スポーツ界などで年長者が権力をかさにセクハラすることに被害女性が声を上げた。



◎「逆差別」と言うより…

セクハラやストーカー行為など、これまで法的根拠がなく処罰が難しかった行為」を「取り締まれるようにする」のは問題ない。ただ「女性暴力防止基本法」という名前からは「女性暴力被害」に対象を絞った法律だと取れる。その点は記事で明示してほしかった。
境川(大分県別府市)※写真と本文は無関係です

男性による女性への「ストーカー行為」が処罰の対象となり、その逆は処罰されないのならば、明らかな男性差別だ。既に兵役と言う大きな男性差別があるのだから、「逆差別」というより「男性差別の強化」と捉えるべきだろう。

さらに記事を見ていく。

【日経の記事】

だが、いまの20代は「男女平等」の価値観で生まれ育った世代だ。むしろ成績優秀な女性が就職でも優位に立ち「女性=弱者」という発想はない。それなのに女性ばかりが守られていると感じる。

それは文政権の支持率にはっきりと表れている。韓国ギャラップによると、2017年5月の政権発足直後は9割近かった19~29歳の支持率は昨夏あたりから急落。昨年12月には不支持が45%と、支持の41%を上回る逆転劇が起きた。同年代の女性は支持が63%と高く、不支持が23%にとどまるのとは対照的だ

別の世論調査会社リアルメーターの昨年12月の調査でも同じ傾向が出た。同社は「20代男性は文政権の核心支持層から核心不支持層へと変わった」と分析する。



◎男性の数字を見せた方が…

19~29歳の支持率」を読者に示すのならば「男性」の数字を優先して見せてほしかった。記事からは男女合計と女性の支持率しか分からない。およその数字は推測できなくもないが…。

さらに続きを見ていこう。

【日経の記事】

「文政権の政策基調は女性中心で、男性に剥奪感が募っている」。冒頭の集会を主催した市民団体のムン・ソンホ代表は語る。同氏は被害女性の証言だけで男性が有罪になる裁判が増えていると、司法に推定無罪の原則を守るよう求める運動を展開する。反フェミニズム団体ではないが、会員の75%は男性だ。



◎「推定無罪」とやや違うような…

被害女性の証言だけで男性が有罪になる裁判」への抗議ならば「司法に推定無罪の原則を守るよう求める」こととは少しズレる気がする。

日本弁護士連合会のホームページによると、「無罪の推定」とは犯罪を行ったと疑われて捜査の対象となった人(被疑者)や刑事裁判を受ける人(被告人)について、「刑事裁判で有罪が確定するまでは『罪を犯していない人』として扱わなければならない」とする原則を指す。

市民団体」が訴えているのは「疑わしきは被告人の利益に」の原則を徹底せよという話だと思える。日本と韓国で「推定無罪の原則」の捉え方に差があるのかもしれない。

記事の終盤は以下のようになっている。

【日経の記事】

青年男性の不満に対し、韓国女性団体連合の金炫秀(キム・ヒョンス)氏は「なお現存する女性差別をなくすのが目的で、男性への逆差別ではない」と反論する。

韓国最高裁が昨年11月、宗教的な信念から兵役を拒否するのは「正当」と判断したことも若い男性には不満だ。徴兵制がある韓国では男性は2年近くを軍で過ごす。女性や宗教的マイノリティーへの兵役免除は、義務を果たさなければならない側からは不公平に映る

「若者に希望を与えられていないということだ。希望を与えたい」。文氏は10日の新年記者会見で20代男性の支持率低下について、こう語った。

文氏の支持率は昨年12月から50%を下回ったままだ。弾劾された朴槿恵(パク・クネ)前政権の与党だった保守政党は若者の支持を失い、2020年4月の総選挙で受け皿になる可能性は低い。ただ、将来の主役になる若者の怒りを放置すれば、文政権を支える革新陣営の土台が揺らぐ可能性もある。



◎「女性差別」をなくしたいなら…

金炫秀(キム・ヒョンス)氏」の「なお現存する女性差別をなくすのが目的で、男性への逆差別ではない」という主張は苦しい。「女性差別をなくす」べきだとの考えならば、まずは兵役に関する男性差別(女性優遇)を改めるよう求めてほしい。

あえて繰り返すが、兵役での深刻な男性差別を維持する場合、他の分野である程度の「女性差別」(男性優遇)は仕方がない。個人的には、兵役でもその他のことでも全て男女平等が好ましいとは思う。しかし、どうしても兵役で男性差別を残さざるを得ないのならば、他では男性優遇を認めるべきだ。そうでないと韓国の男性があまりに哀れだ。


※今回取り上げた記事「真相深層~若者男性、文政権に『反旗』 熱心な女性政策に批判の目 不公平感、支持率低下に拍車
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190126&ng=DGKKZO40507830V20C19A1EA1000


※記事の評価はB(優れている)。鈴木壮太郎ソウル支局長への評価は暫定C(平均的)から暫定Bへ引き上げる。鈴木支局長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

自ら「解」を示さないのが惜しい日経1面「人材開国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post.html

GAFAへの誤解が見える日経 中山淳史氏「Deep Insight」

25日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~GAFAに負けぬ稼ぎ方」 という記事は強引な説明が目立った。特に苦しいのが東芝やGAFAに関する解説だ。筆者の中山淳史氏(肩書は本社コメンテーター)は以下のように記している。
特急 ゆふいんの森(大分県玖珠町)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

例えば、東芝だ。今後力を入れる事業の一つにPOS(販売時点情報管理)レジがあるという。「デス・バイ・アマゾン(アマゾン・ドット・コムによる死)」と言われる時代に今さらPOSか、という指摘もあろうが、現場はそう単純ではない。

小売業界では、インターネットを通じてモノが消費される比率のことを「EC(電子商取引)化率」と呼ぶが、日本のそれは現在、5.7%。米国でも約1割しかなく、リアルな世界の市場の方が経済規模は圧倒的に大きい。

東芝のPOS事業の販売シェアは国内が6割、海外が3割だ。POSを握る同社には楽天やヤフーのほか、アマゾンより多くの消費者データが集まってくる可能性がある。うまく使えば、巨額投資を伴わずにリアルの世界の消費経済を束ねるプラットフォーマーにもなれるチャンスだ



◎「データが集まってくる」?

POSを握る同社には楽天やヤフーのほか、アマゾンより多くの消費者データが集まってくる可能性がある」という説明が引っかかる。東芝からPOS関連の機器を購入している小売業者は、それを使って得た「消費者データ」を東芝に提供しているのか。

常識的に考えれば違うだろう。今後、何らかの形で提供してもらえるようになれば「アマゾンより多くの消費者データが集まってくる可能性がある」と言いたいのか。だとすれば、実現性の乏しい雲をつかむような話だと思える。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

水処理事業、人事管理用のソフトウエアなどでもGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれる米IT(情報技術)企業に対して、東芝は優位に立てるという。



◎GAFAが「水処理事業」?

GAFA」の事業内容をきちんと理解している自信はない。ただ「水処理事業、人事管理用のソフトウエア」を「GAFA」は手掛けているのかなとは感じた。

今は手掛けていないが、仮に手掛けたとしても「東芝は優位に立てる」との趣旨なのか。解釈に迷った。

さらに続きを見ていこう。

【日経の記事】

いわゆる「ハードウエアの逆襲」の一例だ。ネット上だけで完結するビジネスは意外に範囲が限られ、ハードが絡む現実経済の方が規模や商機が大きいことが多い。期待先行で巨大化したGAFAの株価が年初から変調をきたしているが、それも「現実経済に事業基盤を欠くGAFAの事業モデルに限界が来ている」という見方で一部、理解できないだろうか。



◎「現実経済に事業基盤を欠く」?

現実経済に事業基盤を欠くGAFAの事業モデル」という説明が引っかかる。アップルはiPhoneなどの「ハードウエア」を売っているはずだ。なのに「事業モデル」は「現実経済に事業基盤を欠く」と言えるのか。

記事で言う「現実」とは「ネット以外」の意味だろう。だとすればアマゾンも「現実経済に」物流施設などの「事業基盤を」持っている。「ネット上だけで完結するビジネス」ではない。



※今回取り上げた記事「Deep Insight~GAFAに負けぬ稼ぎ方
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190125&ng=DGKKZO40424820U9A120C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html

日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post.html

ゴーン氏の「悪い噂」を日経 中山淳史氏はまさか放置?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_21.html

2019年1月24日木曜日

データの裏付け乏しい日経1面トップ「中国ハイテク生産急減」

24日の日本経済新聞朝刊1面トップを飾った「中国ハイテク生産急減~部品・装置、対中輸出ブレーキ」という記事を最後まで読んでも 「中国ハイテク生産」がどの程度の「急減」となっているのか不明だ。「ハイテク生産」が全体として減少していると判断できるデータも見当たらない。これでは困る。
山地獄(大分県別府市)※写真と本文は無関係


最初の段落では以下のように説明してる。

【日経の記事】

中国でハイテク製品の生産が急減している。日本からの半導体製造装置の輸出は2018年12月に前年同月比34%減と大幅に落ち込んだ。韓国からの半導体輸出も減少が鮮明だ。ハイテク製品の「世界の工場」である中国での生産減は、世界の半導体市場(総合2面きょうのことば)やハイテク景気の冷え込みを示す。関連する企業の業績は悪化しており、グローバル経済の重荷となる恐れがある。



◎状況証拠にはなっても…

日本からの半導体製造装置の輸出は2018年12月に前年同月比34%減と大幅に落ち込んだ。韓国からの半導体輸出も減少が鮮明だ」としても「中国でハイテク製品の生産が急減している」とは限らない。「半導体製造装置」を日本以外から買っているのかもしれない。「半導体製造装置」なしで製造できる「ハイテク製品」の比率が高まっている可能性も残る。

中国でハイテク製品の生産が急減している」と冒頭で打ち出したのだから、「中国」の「ハイテク製品の生産」に関する直接的なデータが欲しい。記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

中国のハイテク景気の変調は日本を含む各国の統計に表れている。日本から中国への半導体製造装置の輸出額は18年12月に692億円と直近ピークの8月(1274億円)の半分程度の水準となった。12月は韓国の半導体輸出(香港含む)も前年同月比で19%減り、台湾から中国への輸出総額(同)も9.9%減少した。ハイテクが主力の台湾は輸出の4割が中国向けだ。

スマートフォン(スマホ)製造などに使う工作機械も中国向けの落ち込みが大きい。日本工作機械工業会は23日、中国向け工作機械の受注額が18年12月に56.4%減少したと発表した。マイナスは10カ月連続。「底だとは思っていない」と飯村幸生会長(東芝機械会長)は述べた。

スマホは世界的な市場の飽和が指摘されているうえ、中国では景気減速で需要が低迷している面もある。実際、中国でのスマホの生産量は18年9月からマイナスが続き、12月には10%近く減少。台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業はスマホ製造の最大拠点である中国河南省鄭州の工場で従業員を5万人規模で減らした。



◎ようやく出てきたが…

ようやく「中国」での「ハイテク製品の生産」に関する具体的な数字が出てきた。「中国でのスマホの生産量は18年9月からマイナスが続き、12月には10%近く減少」と書いている。しかし「ハイテク製品の生産」が全体としてどうなっているかは依然として謎だ。

続きを一気に見ていく。

【日経の記事】

米IT(情報技術)大手などによるデータセンターの建設ラッシュが一巡した影響もある。データセンターに必要なメモリーは中国にも生産拠点が多い。米グーグル、アップル、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト、フェイスブックの5社による設備投資は18年4~6月期、7~9月期と連続で減少した。

中国を震源地とするハイテク景気の悪化は、世界の企業に打撃を与え始めている。村田製作所、TDK、京セラ、日本電産、アルプスアルパイン、日東電工の6社の電子部品の受注額(一部は受注額に近い売上高)を日本経済新聞が独自集計したところ、10~12月期は約1兆5300億円と前年同期比で3%減り、9四半期ぶりのマイナスとなったことが明らかになった。自動車向けは堅調だが、スマホ向けなどの落ち込みが大きく、16年10~12月期から続く成長トレンドが途切れた。

韓国サムスン電子は18年10~12月期決算が2年ぶりの営業減益になると発表。台湾積体電路製造(TSMC)も19年1~3月期は営業減益だとの見通しを示す。日本でも半導体製造装置の東京エレクトロンなどが業績予想を下方修正した。中国でもハイテク企業が打撃を受け、雇用情勢の悪化などを通じて個人消費が鈍り、さらにハイテク製品の需要が落ち込むといった悪循環が生じる可能性もある。

半導体需要はデータエコノミーの拡大などを支えに長期的には拡大が続くとみられる。ただ、米中摩擦などの不確実な要因も絡むため、「今回のダウンサイクルは通常より長引く可能性がある」(SMBC日興証券の花屋武アナリスト)との慎重な見方が出ている。



◎周辺情報ばかり並べても…

上記のくだりにも「中国でハイテク製品の生産が急減している」ことを示すデータは見当たらない。「村田製作所、TDK、京セラ、日本電産、アルプスアルパイン、日東電工の6社の電子部品の受注額」といった周辺情報ばかりだ。

中国でハイテク製品の生産が急減している」と打ち出した以上は「ハイテク製品」の定義を明確にした上で、全体としてどのくらい「生産が急減している」か読者に示すべきだ。それができないのならば「中国ハイテク生産急減」で見出しを取るのは諦めてほしい。

見出しに釣られて記事を読んだ者としては「騙された」との印象を拭えない。


※今回取り上げた記事「中国ハイテク生産急減~部品・装置、対中輸出ブレーキ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190124&ng=DGKKZO40390720U9A120C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。

2019年1月23日水曜日

大西康之氏に「JIC騒動の真相」を書かせるFACTAの無謀

産業革新投資機構(JIC)」に関するFACTAの報道が迷走している。1月号では朝日新聞の大鹿靖明記者が「『JIC騒動』嶋田・糟谷は切腹せよ」という記事で辻褄の合わない説明をしていた。それに対する問い合わせは相変わらずの無視。そして2月号に「志賀に7億円報酬 『JIC騒動』の真相」という記事を載せ、再びこの問題を取り上げている。今回の筆者はジャーナリストで元日経新聞編集委員の大西康之氏。何かと問題の多い大西氏に任せて上手くいくはずもなく、さらに無理のあるな内容になっている。
呼子大橋(佐賀県唐津市)からの風景
        ※写真と本文は無関係です

まず1月号の一部を見ていこう。

【FACTAの記事(1月号)】

(JIC社長の)田中氏はこの(11月)12日の会談で、嶋田氏の要請を受け入れ、「役員報酬を下げるのは構わない」と了承。(中略)嶋田氏は(11月)24日、それまで糟谷氏との間で進められた報酬の議論をすべてひっくり返し、3150万円という糟谷案の四分の一という金額を提示した。これでは田中氏が怒るのも無理はない。いったいなぜ嶋田氏ともあろうものが、こんなちゃぶ台返しをしたのか

◇   ◇   ◇

「12日に役員報酬の減額を田中氏が受け入れたのだから、24日の減額提示は『ちゃぶ台返し』とは言えないのではないか」との趣旨の問い合わせをしてみた。これに対しFACTA編集部も大鹿記者も回答しなかった。それを踏まえて2月号の記事を見てほしい。

【FACTAの記事(2月号)】

ところが土壇場になって官邸から「1億円を超えるのはまずい」と横やりが入ると、経産省は大混乱に陥り、自らが提示した報酬案を「白紙撤回する」と言い出した。当初、JICの民間出身取締役たちは「自分たちは日本経済に正しくリスクマネーを供給する目的で集まったのだから、報酬にはこだわらない」という姿勢を取った。とはいえ、経産省の言いなりでJDIなどに出資し、投資ファンドとしては素人丸出しの「INCJより下」というのは間尺に合わない。経産次官の嶋田とJIC社長の田中は、こういう状況のもとで対峙していた。ここで嶋田は驚くべき発言をする。関係者の証言をもとに11月12日の2人の会話を再現するとこうなる。

嶋田「報酬案の白紙撤回は申し訳ない」

田中「報酬額にはこだわらない。が、朝日新聞からの情報開示にはどう答えるのか」

嶋田「INCJの部分は全部、黒塗りにしたが、キャリーの部分が問題だ。いずれ公表して世論の反応を見極めたい」

田中「批判が出たらどうするのか」

嶋田「その時はキャリーを廃止する」

田中「そんなことをしたらINCJが崩壊するし、裁判になったら負ける」

嶋田「裁判にするなら、すればいい」


◎やはり「報酬額にはこだわらない」?

今回も11月12日の段階で「報酬案の白紙撤回」について合意できたとの見方は維持している。記事を信じれば、12日の話し合いで問題となったのは「JIC」の前身である「INCJ」についてだ。しかし、これは奇妙だ。

田中氏は「JIC社長」だから「INCJ」に関して直接の関係者ではない。なのに「キャリーを廃止」したら「INCJが崩壊するし、裁判になったら負ける」と訴えている。そもそも「INCJ」から「JIC」に衣替えするのだから「崩壊」しても問題なさそうな気もする。

取りあえず、田中氏は「INCJ」の件を心配し善処を求めていると仮定して、記事の続きを見ていこう。

【FACTAの記事(2月号)】

驚くべき傲岸ぶりである。INCJのキャリーは一般の企業でいえば退職金や企業年金に近い。企業が機関決定し、役員、社員と結んだ契約であり、それを後から反故にするのは「財産権の侵害」にあたる。

JIC側は驚愕したが、それでもこの日は結論を持ち越した。何とか折衷案を探ろうと考えたからだ。

そして11月24日の帝国ホテルでの会談。JIC側は経産省がリカバリー案を持ってくると期待したが、大臣官房総務課長の荒井勝喜が差し出した「基本的な考え方」という資料は「取締役報酬の上限は3150万円」とあり、さらに以下の条件がついていた。

①政策目的の達成と投資利益の最大化

政府としてのガバナンス(ファンドの認可など)と現場の自由度(迅速かつ柔軟な意思決定の確保)の両立

③報酬に対する国民の納得感、透明性と優秀なグローバル人材の確保(民間ファンドに比肩する処遇)の両立


「政策目的の達成」は「政府がゾンビ企業を救済せよと指示したら、それに従え」、「政府としてのガバナンス」は「子ファンド、孫ファンドに至るまで投資決定の際は経産省の認可を仰げ」、「報酬に対する国民の納得感」は「報酬は事務次官、日銀総裁並みにせよ」というお達しである。リカバリーどころか「箸の上げ下ろしまで役所が指示する」締め付け案だ。激怒した田中は「話にならない」と席を立ち、その背中に向かって嶋田は「2度目はありませんよ」と言い放った。


◎なぜJICは「折衷案」を出さない?

JIC側は驚愕したが、それでもこの日は結論を持ち越した。何とか折衷案を探ろうと考えたからだ」と大西氏は解説している。「JIC側」が当事者ではない「INCJ」の件で「折衷案を探ろうと考え」て「11月24日の帝国ホテルでの会談」で「経産省がリカバリー案を持ってくると期待した」のが相変わらず不可解だが、ここでは置いておこう。
小石川後楽園(東京都文京区)※写真と本文は無関係です

結局、経産省側から「リカバリー案」は出てこなかったらしい。だったら自分たちが「折衷案」を提示すればいいではないか。しかし、記事からは「11月24日の帝国ホテルでの会談」では「INCJ」の件を話し合っていないと取れる。

そして「大臣官房総務課長の荒井勝喜が差し出した『基本的な考え方』という資料」に田中氏が「激怒」して決裂している。問題は「INCJ」の件ではなかったのか。なのに「11月24日の帝国ホテルでの会談」では「JIC」の位置付けを巡って対立が起きている。

大西氏が事態を正しく認識していないのか、説明が下手なのだろう。

さらに言えば経産省側が出した「条件」を「『箸の上げ下ろしまで役所が指示する』締め付け案」と理解した理由も分からない。「政策目的の達成」を「条件」にするのは当然だろう。

例えば「新産業の育成」という「政策目的の達成」を政府が求めているのに、海外の不動産を買ったり仮想通貨に投資したりでは困る。

ゾンビ企業を救済せよ」は「政策目的」としては間違っているかもしれないが、だとしても政府の定めた「政策目的の達成」に向けて「JIC」が行動するのは当然だ。勝手な行動を許すのならば、それこそガバナンスが機能していない。

基本方針に従わせることが、大西氏には「『箸の上げ下ろしまで役所が指示する』締め付け案」と映るのか。

「『政府としてのガバナンス』は『子ファンド、孫ファンドに至るまで投資決定の際は経産省の認可を仰げ』」については何を訴えたいのか分かりにくいが、取りあえず「子ファンド、孫ファンド」を勝手に設立するのはダメという趣旨だとしよう。

これも「『箸の上げ下ろしまで役所が指示する』締め付け案」とは思えない。設立時に「認可を仰げ」ばいいだけだ。

政府としてのガバナンス(ファンドの認可など)と現場の自由度(迅速かつ柔軟な意思決定の確保)の両立」というのは、そんなに怒るべき話なのか。「現場の自由度」を極限まで認めるのが好ましいとは限らない。暴走を食い止めるための管理も必要だ。

記事からは、田中氏が「激怒」して「『話にならない』と席を立」った理由が、やはりよく分からない。

報酬」は問題ないはずだ。最も気にしていた?「INCJ」の件では「何とか折衷案を探ろうと考え」ていたはずなのに、自ら何らかの提案をした形跡も見当たらない。そして、ごく常識的と思える「基本的な考え方」に「激怒」して席を立ってしまう。

朝日新聞の大鹿靖明記者も大西康之氏も「田中氏=善玉、経産省=悪玉」という前提で話を進めている。しかし、どちらも納得できる材料を示せていない。FACTAの記事は1月号でも2月号でも「田中氏を善玉として描くのは無理がある」と示唆している。

筆者を変えてまで同じ話を1月号と2月号で続けて取り上げたのは、1月号での辻褄の合わない説明を2月号で「リカバリー」したかったからだろう。しかし、やはり大西氏には荷が重すぎたようだ。


※今回取り上げた記事「志賀に7億円報酬 『JIC騒動』の真相
https://facta.co.jp/article/201902005.html


※記事の評価はD(問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。朝日新聞の大鹿靖明記者が1月号に書いた記事に関しては以下の投稿を参照してほしい。

FACTA「JIC騒動 嶋田・糟谷は切腹せよ」で朝日 大鹿靖明記者が無理筋
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/factajic.html


※大西康之氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html

「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html

大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/facta.html

FACTA「デサント牛耳る番頭4人組」でも問題目立つ大西康之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/facta4.html

日経 川崎健次長の「一目均衡~調査費 価格破壊の弊害」に感じた疑問

22日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に載った「一目均衡~調査費『価格破壊』の弊害」という記事には色々と疑問を感じた。筆者の川崎健証券部次長は「調査費『価格破壊』」について以下のように説明している。
玄海エネルギーパーク観賞用温室(佐賀県玄海町)
            ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

証券アナリストがじわじわと追い詰められている。きっかけは欧州連合(EU)が2018年1月3日に導入した「第2次金融商品市場指令(MiFID2)」だ。証券会社に支払うアナリストの調査費用を「見える化」する新ルールの破壊力は甚大だった。この1年で欧州のみならず、日本を含めた世界の株式市場でアナリスト費用の値下げが加速している。

「株式リサーチの手数料は2~3割減った。日本株も例外ではないですよ」。大手証券の株式部門の担当幹部はこう明かす。

MiFID2は証券会社に支払う調査費用の「アンバンドリング(分離)」を欧州の運用会社に義務付けた。機関投資家は売買手数料に含まれていたアナリスト向けの費用を別途支払うことになる。

売買執行サービスと調査情報の対価の合計だった手数料を分離し、あたかも無償と捉えられてきたアナリスト情報の「費用対効果」を明確にする狙いだ。投資家は無駄なアナリスト情報に払っていた費用を削減でき、市場には質の高いリサーチ情報だけが残るようになる、はずだった。

実際は何が起きたか。大手グローバル金融機関によるリサーチの価格破壊だった。

中でも米JPモルガンは全リサーチ情報の対価として1社あたり一律年1万ドル(約110万円)という破格の安値を提示。あおりでリサーチ情報の相場は下がっていった。優秀なアナリストを抱える独立系リサーチ会社はコストが賄えなくなり英ロンドンでは人員削減の動きも出ている。

JPモルガンも調査部門の損益は悪化したとみられるが、顧客数を大きく伸ばした。「JPモルガンの一人勝ち。MiFID2のタイミングを狙い勝負に出て、一気にシェアを高めた」。ライバルの証券会社幹部は舌を巻く。

日本株市場にも対岸の火事ではない。約7割の売買シェアを握る海外勢で最大のボリュームを占める欧州投資家はMiFID2の規制対象だ。米ブラックロックなど外資系運用会社は証券会社に支払う日本株リサーチの金額を引き下げ、欧州年金基金から受託する国内運用大手の一角も値下げに動いたとされる。

◇   ◇   ◇

疑問点を列挙してみる。

(1)いきなり「破格」と言われても…

1社あたり一律年1万ドル(約110万円)という破格の安値を提示」といきなり言われても、「全リサーチ情報の対価」に関する相場観がないので納得しにくい。「従来の常識的な金額」とどの程度の差があるかは入れるべきだ。
田島神社(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係


(2)本来はゼロでは?

あたかも無償と捉えられてきたアナリスト情報」と書いているのだから、2017年までは「リサーチ情報」の対価としてカネを払う必要はなかったはずだ。そして「米JPモルガン」は「MiFID2のタイミングを狙い勝負に出て、一気にシェアを高めた」。

だとしたら、名目上は「無償」だったものを「1社あたり一律年1万ドル(約110万円)」に設定しただけの話ではないか。同業他社にとっては予想外の安値だったかもしれないが「価格破壊」とはやや違う気がする。同業他社が最初に2万ドルとか3万ドルと設定していたのならば、「JPモルガン」の動向を読み違えていただけだろう。


(3)「調査部門の損益は悪化」?

JPモルガンも調査部門の損益は悪化したとみられる」との説明も謎だ。17年まで「アナリスト情報」はタダだったはずだ。なので「調査部門」だけ取り出せば大幅な赤字だろう。それが「破格の安値」とは言え収入を得られるようになった。なのに「損益は悪化」となるのか。17年との比較ではないのかもしれないが、ならばいつと比較して「悪化」なのか。

記事の終盤も見ていこう。

【日経の記事】

だが貧すれば鈍するともいう。情報は安ければいいわけではない。欧州ではリサーチ情報が減った結果、株の流動性が低下する弊害が目立っている。英ハードマンによると昨年1年間で英国株の1銘柄あたりの担当アナリスト数は6.2%減り、ロンドン証券取引所上場銘柄の1株あたり売買高は15.5%減った。

「逆説的だが、今ほどアナリストの役割が高まっているときはない」。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の塩原邦彦インベストメントリサーチ部長はいう。アナリスト情報の不足に加え世界の運用マネーのパッシブ(指数連動)化が加速する中、市場が付ける株価が適正価値から大きく外れる例が目立ってきた。多様な調査と分析を提供し株価をこなれたものにする市場の「公共財」として、アナリストの奮起が期待される。


◎「適正価値」が分かる?

市場が付ける株価が適正価値から大きく外れる例が目立ってきた」という説明が引っかかった。「適正価値から大きく外れ」ているかどうか川崎次長は判断できるのか。仮にできるとすれば「アナリストの奮起」に期待する必要はない。「適正価値」を大幅に下回る株価が付いた銘柄には自然と買いが入るのだろう。川崎次長でも簡単に分かることが、他の投資家に分からないと考えるのは無理がある。

ついでに言うと「欧州ではリサーチ情報が減った結果、株の流動性が低下する弊害が目立っている」との解説も引っかかった。この因果関係は立証できているのか。「昨年1年間で英国株の1銘柄あたりの担当アナリスト数は6.2%減り、ロンドン証券取引所上場銘柄の1株あたり売買高は15.5%減った」としても、そこに因果関係があるとは限らない。

個人的には「1銘柄あたりの担当アナリスト数」が「6.2%」減った程度で「流動性が低下する弊害」が出るかなとは思う。


※今回取り上げた記事「一目均衡~調査費『価格破壊』の弊害
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190122&ng=DGKKZO40258450R20C19A1DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。川崎健次長への評価はDで据え置く。川崎次長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

川崎健次長の重き罪 日経「会計問題、身構える市場」http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_62.html

なぜ下落のみ分析? 日経 川崎健次長「スクランブル」の欠陥http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_30.html

「明らかな誤り」とも言える日経 川崎健次長の下手な説明http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_27.html

信越化学株を「安全・確実」と日経 川崎健次長は言うが…http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_86.html

「悩める空売り投資家」日経 川崎健次長の不可解な解説
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_27.html

日経「一目均衡」で野村のリーマン買収を強引に庇う川崎健次長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_11.html

英国では「物価は上がらない」と誤った日経「モネータ 女神の警告」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_29.html

2019年1月21日月曜日

「小売りの輪」の説明が苦しい日経 田中陽編集委員「経営の視点」

21日の日本経済新聞朝刊企業面に 田中陽編集委員が書いた「経営の視点~世界観なき店舗は淘汰 アマゾンが問う『小売りの輪』」という記事は「小売りの輪」がキーワードになっているが、個別の事例に上手く当てはまっていない。
小石川後楽園(東京都文京区)※写真と本文は無関係

アマゾン・ドット・コム」に関しては「この理論を自ら取り込んで高速で回し続けている」らしい。そうなっているか見ていこう。

【日経の記事】

新しい小売業は革新的なローコスト経営で低価格を実現し、既存業者から市場を奪う。やがて同様の手法の業者が相次ぎ、価格競争が激化する。すると「安さ」だけでは魅力が薄れ、今度は品ぞろえや接客の充実、店内環境の改善などの非価格競争に移る。価格が上がると間隙を縫って再び低価格を武器とする新しい小売業が誕生する。この繰り返し。約60年前に米国の学者が提唱した「小売りの輪」の理論だ。新陳代謝、栄枯盛衰を表す。

今、この理論を自ら取り込んで高速で回し続けている代表格はアマゾン・ドット・コムであるに違いない。

デジタル革命は手のひらにのるスマートフォンを営業時間を気にしなくてよい巨大なショッピングモールにした。買い物に行く必要は無くなり、商品を自宅に届けてくれる。低価格の追求も怠らない。購買履歴などからオススメ商品まで紹介してくれる。技術に裏打ちされた新しい商品やサービスを連打する。本のネット販売が祖業でありながらいち早く電子書籍にも乗り出すなど自社内競合もお構いなしだ。

アマゾン流の小売りの輪は市場を根こそぎ奪うようなトロール網商法で、デス・バイ・アマゾン(アマゾンによる死)という言葉も生んだ。同社を前に立ちすくむ小売業が続出している。



◎アマゾンは「自ら取り込んでる」?

アマゾン」に関して「小売りの輪」が「高速で」回っている様子は見当たらない。回っているのならば「価格競争が激化」→「非価格競争に移る」→「低価格を武器とする新しい小売業が誕生」という流れが「アマゾン」の中で起きていなければならない。

しかし「技術に裏打ちされた新しい商品やサービスを連打する。本のネット販売が祖業でありながらいち早く電子書籍にも乗り出すなど自社内競合もお構いなしだ」などと書いているだけだ。

「『小売りの輪』の理論」が「新陳代謝、栄枯盛衰を表す」もので、「この理論を自ら取り込んで高速で回し続けている代表格はアマゾン・ドット・コム」と断言するのならば、「アマゾン」の中でどんな「栄枯盛衰」が起きてきたのか記すべきだ。

おそらく「アマゾン」内で「小売りの輪」は起きていない。しかし、記事の展開上、「この理論を自ら取り込んで高速で回し続けている代表格はアマゾン・ドット・コム」とした方が都合が良いので、そうしてしまったのだろう。

付け加えると「アマゾン流の小売りの輪は市場を根こそぎ奪うようなトロール網商法」との見方にも同意できない。「アマゾン」は「本のネット販売が祖業」だ。「アマゾンが誕生してもう四半世紀」とも田中編集委員は書いている。田中編集委員には、日経本社の近くにある丸善や紀伊国屋書店を覗いてみてほしい。その時に「本の市場はアマゾンに根こそぎ奪われてしまったなぁ…」と感じるだろうか。

さらに「小売りの輪」について検証していこう。

【日経の記事】

だが小売りの輪は至る所で今も回っている。キーワードは「館の雰囲気と新しい顧客体験」だ。

三越伊勢丹ホールディングスの三越日本橋本店は昨秋、30年ぶりの改装を機に売り場にコンシェルジュを配し、手厚い接客体制を敷く。杉江俊彦社長は「人の力、環境デザイン、サービス施設を一体とした新しい店づくり」と強調する。高島屋は「まちづくりの発想」(木本茂社長)で日本橋店周辺を開発。新しい商環境を目指す。ともにデジタルの世界では味わえないリアルな商いの風景だ。

スーパーのユニーを完全子会社化するなど積極果敢に急成長するドンキホーテホールディングスだが、「ネット通販はやらない」(大原孝治社長)と明確だ。うずたかく積まれた商品陳列をかいくぐりお目当ての商品を探し、思いもしない品も目に留まる楽しさがドンキという館の世界観と顧客体験である。



◎「小売りの輪」が回ってる?

繰り返すが「価格競争が激化」→「非価格競争に移る」→「低価格を武器とする新しい小売業が誕生」というのが「小売りの輪」だ。「小売りの輪は至る所で今も回っている」と訴えるのならば、この3つが起きていると示すべきだ。
大分香りの博物館(別府市)※写真と本文は無関係です

三越伊勢丹ホールディングス」「高島屋」の事例は「非価格競争に移る」動きなのか。しかし百貨店は「低価格を実現し、既存業者から市場を奪う」存在ではなかったので、最近になって「非価格競争」に力を入れている訳ではない。

それに、「手厚い接客体制」は百貨店に昔からあるものだ。こうした動きを「新しい顧客体験」と田中編集委員は持ち上げるが、具体性には欠ける。「新しい商環境を目指す」という高島屋の話もかなり漠然としている。

デジタルの世界では味わえないリアルな商いの風景」で良ければ、どの百貨店にもある。「三越伊勢丹ホールディングス」や「高島屋」だけが実現している訳ではない。

記事の終盤もついでに見ておこう。

【日経の記事】

ユニクロ、ニトリ、無印良品は店に足を踏み入れるだけで買い物客の多くが店の屋号を言い当てることができる。他の店では販売されていない独自商品で売り場がつくられ、館の世界観がしっかりとしているからだ。当然、そこには製造の現場まで踏み込んで独自の世界観を演出できるもの作りの思想は欠かせない。

小売業は顧客が毎日訪れる日銭商売のため経営環境の構造的な変化に気付くのが遅いといわれる。天気や景気などを不振の理由にして現状を直視しない宿痾(しゅくあ)がある。気が付けば、デス・バイ・アマゾンが本当に待ち受ける

アマゾンが入ってこられない聖域はどこにあるのか。アマゾンが誕生してもう四半世紀。いつまでも業績の低迷をアマゾンにかこつけていてもいいのか

デジタルの渦と小売りの輪。身を委ねているだけでは何ら進歩はない。



◎最後も辻褄が…

「(小売業は)天気や景気などを不振の理由にして現状を直視しない宿痾(しゅくあ)がある。気が付けば、デス・バイ・アマゾンが本当に待ち受ける」と書いてあると、小売業界では「アマゾン」の脅威を直視しない傾向が強いのだろうと思える。

しかし、直後に「いつまでも業績の低迷をアマゾンにかこつけていてもいいのか」と出てくる。だったら「アマゾン」の脅威という「現状を直視」しているようでもある。この辺りは辻褄が合うように書くべきだ。

今回はネタに困って強引に「小売りの輪」で記事を作ったのだとは思う。だとしても、もう少ししっかりした内容に仕上げてほしかった。


※今回取り上げた記事「経営の視点~世界観なき店舗は淘汰 アマゾンが問う『小売りの輪』
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190121&ng=DGKKZO40133260X10C19A1TJC000


※記事の評価はD(問題あり)。田中陽編集委員への評価もDを据え置く。

2019年1月20日日曜日

日経 下村凜太郎記者「健康経営 消えるたばこ」への注文

19日の日本経済新聞夕刊1面に載った「健康経営 消えるたばこ 投資家の目厳しく~人手不足や働き方改革…社内禁煙に拍車」という記事を読むと、筆者の下村凜太郎記者が頑張って取材したのは分かる。そこは評価したいが、内容には色々と問題を感じた。
仮屋湾(佐賀県玄海町)※写真と本文は無関係です

まずは最初の事例から。

【日経の記事】

たばこを吸わない人に煙たがられ、オフィスから愛煙家の姿は減る一方だ。最近では勤務時間内の仕事の効率を高める働き方改革や、人手不足の中で健康な人材を確保する動きが、社内の全面禁煙に拍車をかけている。顧客や投資家の目も厳しく、仕事中の「ちょっと一服」はますます肩身が狭いようだ。

禁煙を始めて支店の営業成績が伸びました」。中堅人材サービス、ジェイエイシーリクルートメントの小浜剛・北関東支店長(36)の言葉には勢いがある。

同社は2018年4月から国内外のグループで、社内はもちろんプライベートでも従業員に禁煙を求めるようにした。北関東支店では3分の2を占めた喫煙者が席を外して紫煙をくゆらすことがなくなり、オフィスでの会話が増えた。必然的に営業先の情報交換が密になり、ノウハウも共有されやすい。

一般的に、たばこを吸う人には「喫煙所での何気ない話が仕事のアイデアにつながる」との意見がある。だが自身もたばこをやめた小浜さんは「喫煙所の限られたメンバーで話すより、大人数での会話の方が生産性が上がる」と言い切る。



◎常識的には…

社内の全面禁煙」が「営業成績」の向上をもたらしたと取れる書き方が気になる。常識的に考えれば、両者に因果関係はないか、あってもわずかだろう。「ほぼ前年並みだった売上高が、禁煙にした途端に一気に10%を超える伸びになった」などと書いてあれば「ひょっとしたら…」と思えるが、「営業成績」に関する具体的な数値は出てこない。

しかも「営業成績」が伸びたのは「北関東支店」の話だ。「社内の全面禁煙」の効果を伝えたいのならば、「ジェイエイシーリクルートメント」全体の売り上げが「全面禁煙」によってどう変化したのかを入れたい。「北関東支店」を前面に押し出したのは、そこがたまたま「全面禁煙」後に「営業成績」が伸びたからではないかと疑いたくなる。

次は「セイコーエプソン」の事例を見ていく。

【日経の記事】

セイコーエプソンでは18年度に、勤務時間中の喫煙禁止をそれまでの週2日からすべての日に広げた。「人手不足の中で社員には健康で長く働いてほしい」(総務部)というのが狙いだ。昼休みにはたばこを吸える敷地内の喫煙所も、将来はなくしたい考えだ。

今のところ社内の反応は二分されている。直近のアンケートでは、たばこを吸う従業員の3~4割が喫煙所をなくすことを認める一方で「喫煙者をいじめている」と率直な声も上がる

全面禁煙に不満な従業員もおり、企業はストレス解消に気を配る。ジェイエイシーは月4000円を上限にスポーツジムの費用を補助、セイコーエプソンは休憩時間の運動を呼びかけている。たばこを吸った場合の罰則までは定めていないことが多いようだ。



◎ここも数字の見せ方が…

勤務時間中の喫煙禁止をそれまでの週2日からすべての日に広げた」のを受けて「今のところ社内の反応は二分されている」と書くのならば、「直近のアンケート」に関しては「喫煙所をなくすことを認める」かどうかではなく、「すべての日に広げた」ことへの賛否を入れてほしかった。
長崎大学(長崎市)※写真と本文は無関係です

喫煙所をなくすことを認める」のが「たばこを吸う従業員の3~4割」と書いて「一方で『喫煙者をいじめている』と率直な声も上がる」と反対派の数字を入れていないのも引っかかる。どちらが多かったのかは知りたい。

ついでに言うと「アンケート」の結果なのに「3~4割」という幅のある数字になっているのが気になる。数値は明確に出ているはずなので、例えば「34%」などと書いた方が好ましい。

そして、今回の記事で最も気になったのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

だが今や、たばこを吸う人は採用しない企業も珍しくない。人工知能(AI)を開発するHEROZもその一つ。「社員の多くはきつい、帰れない、給料が安い、3K職業と思われているシステムエンジニア。イメージを払拭したい」(高橋知裕代表取締役)。喫煙者という理由で採用を断ったこともある。



◎関係ある?

たばこを吸う人は採用しない」ようにすると「きつい、帰れない、給料が安い、3K職業と思われているシステムエンジニア」の「イメージを払拭」できると「HEROZ」の「高橋知裕代表取締役」は考えているようだ。

しかし、社内で「たばこを吸う人」をゼロにしても「きつい、帰れない、給料が安い」という状況は改善しない。基本的に関係ない話だと思える。下村記者はコメントを使う時に何も疑問を抱かなかったのか。だとしたら、かなり心配だ。

また「喫煙者という理由で採用を断ったこともある」は何のために入れているのか謎だ。「たばこを吸う人は採用しない企業も珍しくない。人工知能(AI)を開発するHEROZもその一つ」と書いているのだから、「喫煙者という理由で採用を断ったこともある」と改めて入れる意味はない。

次は「オリンパス」の事例に注文を付けたい。

【日経の記事】

厚生労働省の17年の調査では、屋外を含めた敷地内の全面禁煙に取り組む事業所は全体の14%。「建物内禁煙」も35%に上り、屋内でたばこを吸えない事業所は国内の半数に迫る。こうなると対応が遅れている企業には危機感すらあるようだ

オリンパスでは2年後をメドに社内の喫煙スペースをなくす。同社は医療用の内視鏡の世界大手。笹宏行社長は「肺がんを調べる医療機器メーカーとして社内禁煙は必須」ときっぱり。顧客である病院関係者の視線を意識する。同社で海外営業を担当する西橋和寛さん(59)は30年来の喫煙と昨秋に決別した。「社内の取り組みをきっかけに念願の禁煙ができました」と安堵の表情だ。



◎「危機感」ある?

対応が遅れている企業には危機感すらあるようだ」と書いた後で「オリンパス」の話が出てくるので「危機感」を感じている企業の動きを紹介するのかと感じる。しかし「オリンパス」の事例から特に「危機感」は伝わってこない。

社内の喫煙スペースをなくす」のも「2年後」とのんびりだ。「危機感」がないと理解する方が自然だろう。「喫煙スペースをなくす」ぐらい、その気になればすぐにできる。

次が最後の事例だ。

【日経の記事】

たばこの有無は、投資家の評価材料にもなりつつある。経済産業省と東京証券取引所が、社員の健康管理に積極的な企業を選ぶ「健康経営銘柄」は、19年から新たに分煙の取り組みが審査の対象になる。ドアなどで周囲から閉ざされた喫煙室があることが条件だ。



◎「分煙」の話では?

たばこの有無は、投資家の評価材料にもなりつつある」と書いているのに、出てきたのは「たばこの有無」ではなく「分煙」の話だ。これは苦しい。

それに「ドアなどで周囲から閉ざされた喫煙室があること」が「健康経営銘柄」に選ばれる「条件」になるのならば、「全面禁煙」の会社は対象外になってしまう(実際にはそうではないとは思うが…)。

ついでに言うと「経済産業省と東京証券取引所」は「投資家」ではないので、「健康経営銘柄」の選定基準を見て「たばこの有無は、投資家の評価材料にもなりつつある」と判断するのも、やや無理がある。

色々と注文を付けてきたが、少し改善するだけで優れた書き手になれる素地は感じる。下村記者の今後に期待したい。


※「健康経営 消えるたばこ 投資家の目厳しく~人手不足や働き方改革…社内禁煙に拍車
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190119&ng=DGKKZO40223270Z10C19A1MM0000


※記事の評価はD(問題あり)。下村凜太郎記者への評価も暫定でDとする。

2019年1月18日金曜日

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」

日本経済新聞の中村直文編集委員が書く記事が相変わらず苦しい。18日の朝刊企業2面に載った「〈ヒットのクスリ〉こだわり力(上)乃が美、食パンに高級革命 『日常』に希少性の芽」という記事では、文の拙さだけでなく分析力の低さも目立った。
呼子大橋(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係

記事を見ながら具体的に指摘していく。

【日経の記事】

イタリアの高級車「フェラーリ」は年間販売台数が1万台にも満たないが、言うまでもなく世界ブランドだ。小さいからこそ輝く。フェラーリとまではいかなくても、モノがあふれる成熟経済では規模より希少性を提供することが今の消費者をつかむ



◎「希少性」がテーマのはずだが…

 最初の段落を読むと「希少性」が今回の記事のテーマだと思える。しかし、どうも怪しい。これは後で論じるとして、さらに記事を見ていこう。

【日経の記事】

2018年に日経MJヒット番付にランクしたのは1000円食パン。その先駆者である乃が美(大阪市)のサクセスストーリーは興味深い。実家が米屋で、居酒屋など外食店を経営していた阪上雄司社長は景気に左右されない食ビジネスを模索していた。

まず考えたのは「赤福」など老舗が生き残った理由だ。結論は一つの商品に特化し、「どこどこのギョーザとか、シューマイとか、代名詞になるような商品を作ること」(阪上社長)。次は食感。阪上社長は「テレビの食リポで必ずリポーターが口にする二大ワードは『甘い』と『柔らかい』。これが実現できる分野を探した」と話す。



◎必ず「甘い」と口にする?

テレビの食リポで必ずリポーターが口にする二大ワードは『甘い』と『柔らかい』」というコメントが引っかかる。例えばラーメンの「食リポ」で「リポーター」は「必ず」「甘い」と「口にする」だろうか。

実際に「阪上雄司社長」がそう述べたとしても、記事にする段階では「必ず」を抜くべきだ。でないと「阪上雄司社長」が愚か者に見える。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

そもそもは米屋だが、特化する分野は食パンに行き着いた。きっかけは老人ホームへの慰問。高齢者の多くが食パンの耳を残すことに気づいた。「食パンは大手メーカーが独占するが、耳のおいしいパンはない」。そのためには業界の常識を破ることが不可欠だった。



◎「食パンは大手メーカーが独占」?

ここでもコメントが問題だ。「食パン」市場を「大手メーカーが独占する」はずがない。街のパン屋でも自家製の食パンを当たり前に販売している。「阪上雄司社長」が「食パンは大手メーカーが独占する」と実際に言ったとしても、そこは中村編集委員が上手く対応して記事を書くべきだ。

さらに記事を見ていく。

【日経の記事】

例えば食パンは棚に置いたとき、曲がったり、倒れたりする「腰折れ」が起きてはいけない。阪上社長は2年かけて焼く温度や時間、原料の配合を研究し、腰折れしそうでしない柔らかく、程よい甘さの食パンを開発。耳のおいしさを実現した。13年にスタートした乃が美は食パンだけで全国で100店を超え、年商も100億円に達した。

値段は2斤で800円と通常の食パンの2倍以上。当初は「高過ぎる」と批判されたが、3年たつと品質と味への評価が高まり、800円は「安いね」と変わった。高いが、買えないレベルではないデパ地下の食品に似ている。同時に乃が美が好調を持続しているのは主食用だけでなく、ギフトとしても使える市場を創り出したからだ。



◎「希少性」ある?

13年にスタートした乃が美は食パンだけで全国で100店を超え」たらしい。そこに「希少性」は感じられない。例えば「1店舗のみで営業は土日だけ。しかも1日100斤限定」ならば「希少性」があると思えるが…。
グラバー園 旧オルト住宅(長崎市)※写真と本文は無関係

高いが、買えないレベルではないデパ地下の食品に似ている」とも中村編集委員は解説している。「デパ地下の食品」は「希少性を提供すること」で「消費者をつか」んでいるのか。そういう要素がゼロとは言わないが、基本的には「希少性」は乏しい。

乃が美」の「食パン」が「デパ地下の食品に似ている」のならば、「希少性」は大したことがなさそうだ。

文の書き方にも注文を付けたい。「阪上社長は2年かけて焼く温度や時間、原料の配合を研究し~」とすると、「2年かけて焼く」と取れる。「阪上社長は焼く温度や時間、原料の配合を2年かけて研究し~」などとすべきだ。この辺りにも中村編集委員の書き手としての技術不足が垣間見える。

先に進もう。

【日経の記事】

実は同時期に高級食パンを出した会社がある。セブン―イレブン・ジャパンだ。パン全体の売上高に占める比率が「なぜ食パンの比率は14%と低いのか」との問題意識が偶然にも芽生えた。そこで製法、原料、包装材まで一新し、13年に誕生したのが「金の食パン」だ。あまりの偶然に阪上社長は「これはやられる」と一瞬焦ったという。



◎文として成立してる?

パン全体の売上高に占める比率が『なぜ食パンの比率は14%と低いのか』との問題意識が偶然にも芽生えた」という文は成立していない気がする。おそらく「パン全体の売上高に占める比率が『なぜ食パンは14%と低いのか』との問題意識が偶然にも芽生えた」と言いたかったのだろう。

この段落には他にも引っかかった点が2つある。まず「14%」がなぜ「低い」と言えるのかだ。「そんなものかな」とも思うし、そこそこ高いようにも感じる。「本来ならば食パンの比率は14%を上回っているはずだ」と言える理由が欲しい。

また、「『これはやられる』と一瞬焦った」のに、結局は「乃が美」が成功した理由も謎だ。セブンの「金の食パン」を失敗例として取り上げているのならば分かるが、成功例っぽく書いている。ならば、なぜ「やられ」なかったかは入れたい。「行数が足りない」と言うのならば「セブン」の事例は省いた方がいい。

ようやく最後の段落に辿り着いた。

【日経の記事】

大手食品メーカーも価格と品質を重視したものづくりを進め、パン食の消費量は米食を抜き去った。だが消費者のこだわりは大手だけでは対応しきれない。高くて売れるのは世の中に「ないもの」だが、そんなものはない。商機はパンのような日常シーンの「あるもの」の中にある。



◎時期が合わないような…

これだけ読むと「乃が美」などの成功に刺激を受けて「大手食品メーカーも価格と品質を重視したものづくりを進め、パン食の消費量は米食を抜き去った」と理解したくなる。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
       ※写真と本文は無関係です

しかし「パン食の消費量」が「米食を抜き去った」のは2011年のようだ。「乃が美」は「13年にスタートした」ので時期が合っていない。「乃が美」が世に出るまでは「食パンは大手メーカーが独占」していて「耳のおいしいパン」も存在していなかったはずだが…。

付け加えると「高くて売れるのは世の中に『ないもの』だが、そんなものはない」という説明もよく分からない。

まず「高くて売れるのは世の中に『ないもの』」なのか。中村編集委員が冒頭で取り上げた「フェラーリ」は「高くて売れる」商品だと思えるが、これは「ないもの」なのか。

高くて売れる」商品など、いくらもある。時計でもバッグでもいい。これらは全て「世の中に『ないもの』」なのか。あるいは最近になってようやく「あるもの」になったのか。

そんなものはない」との説明もおかしい。「耳のおいしいパン」が2012年までの世界に存在しなかったのならば「高くて売れる」上に「世の中に『ないもの』」はあったはずだ。「耳のおいしいパン」がそうではないのか。

大して長くもない記事で、これだけの問題点を散りばめられるのは、中村編集委員の実力が不足している証でもある。中村編集委員に記事を書かせ続けるつもりならば、企業報道部として強力な支援体制を築くべきだ。今のままコラムを任せるのは、読者のためにも中村編集委員のためにもならない。


※今回取り上げた記事「〈ヒットのクスリ〉こだわり力(上) 乃が美、食パンに高級革命 『日常』に希少性の芽
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190118&ng=DGKKZO40047500V10C19A1TJ2000

※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

2019年1月17日木曜日

第3回だけ残念な日経1面連載「地銀波乱」

日本経済新聞の朝刊1面で4回連載した「地銀波乱」は全体的には悪い出来ではない。ただ、16日の「(3)会計『装飾』のからくり 厳しい運用、袋小路に」だけは合格点を与えられない。記事を見ながら問題点を指摘してみる。
田島神社(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

ウチにも教えてもらえませんか」。関東地方にある地方銀行の運用担当者がこんな会話を交わしていた。話題は「リパッケージローン」と呼ばれる金融派生商品(デリバティブ)だ。

 地銀でひそかに広がっているのは理由がある。表面的には一定の利回りを手にできる金融商品。その中身は特定の企業や事業の破綻に備えたデリバティブなのだが、地銀はそこに融資する形をとる。複雑な金融商品が姿を変え、会計上は融資が増える構図だ。「マイナス金利で何をやっても苦しい状況。決算の見栄えが良くなると頭取が喜ぶんだよ」。運用担当者は内幕をこう明かした。



◎ちゃんと説明できてる?

まず「関東地方にある地方銀行の運用担当者」が誰に対して「ウチにも教えてもらえませんか」とお願いしているのか謎だ。「地方銀行の運用担当者」同士の「会話」かなとは思うが、そう断定できる書き方にはなっていない。

リパッケージローン」の説明はさらに分かりにくい。これは「特定の企業や事業の破綻に備えたデリバティブ」で「地銀はそこに融資する形をとる」らしい。素直に読めば「デリバティブ」への「融資」となるが、「デリバティブ」は常識的にはカネを借りる主体ではない。

やや無理があるが「融資」するのは「特定の企業」という可能性も考えてみた。「リパッケージローン」は「特定の企業や事業の破綻に備えたデリバティブ」となっているのでCDSのようなものだと推測できる。しかし、それだと「ローン」なのかとの疑問が湧く。

特定の企業」が「リパッケージローン」という「デリバティブ」に投資する際に、地銀が「特定の企業」に投資用資金を「融資」すると理解すればよいのか。しかし、顧客の投資資金として「融資」するだけならば、普通の「融資」だ。

普通の「融資」だとすると、「表面的には一定の利回りを手にできる金融商品」が「地銀でひそかに広がっている」とはならない。やはり「地銀」自身が「金融商品=リパッケージローン」に手を出していると解釈すべきか。結局、よく分からない。

しかも、「マイナス金利で何をやっても苦しい状況」下で、なぜ「リパッケージローン」だと「決算の見栄えが良くなる」のかも謎だ。「会計上は融資が増える」としても、だからと言って「決算の見栄えが良くなる」とは限らない。「融資」ならば焦げ付くリスクがある。リスクゼロで「会計上は融資が増える」仕組みなのかもしれないが、常識的には考えにくい。

記事の説明に間違いはないのだろう。だが、説明が不十分で下手なために理解に苦しむ内容になってしまった気がする。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

急増している投資信託もからくりは似ている。少数のプロ投資家に割り当てる私募投信は、解約時に出る利益が本業のもうけを示す「業務純益」(資金運用収益)に加わる。一般的な株式であれば臨時の株式関係損益となり「本業」の外になる。価格変動による含み損益を決算に反映させる必要もない。この違いが決算を少しでも良く見せたい地銀の経営者の心に響いている。



◎誤解を招く書き方

上記のくだりで「価格変動による含み損益を決算に反映させる必要もない」というのは「私募投信」に関する説明なのだろう。しかし、「一般的な株式」について述べたとも取れる。これも説明が下手だ。
仮屋湾(佐賀県玄海町)※写真と本文は無関係です

記事の終盤にも問題を感じた。

【日経の記事】

問題は含み損の拡大・蓄積により、だんだんと身動きがとれなくなってくる点にある。横浜銀行を傘下に抱える地銀首位のコンコルディア・フィナンシャルグループも19年3月期の通期見通しで純利益を100億円も下方修正した。含み損の拡大により市場部門の積極的な売買が制限されたためだ。機動的な売買こそ必要なのに実態は逆に向かう。厳しくなるばかりの運用環境。安易な逃げ場を探して、地銀は困難な道に迷い込もうとしている。

◎「含み損の拡大」で「売買が制限」?

含み損の拡大により市場部門の積極的な売買が制限された」と書いているが、なぜそうなるのか説明がない。「含み損の拡大」があると「積極的な売買」が必然的にできなくなる訳ではない。「コンコルディア・フィナンシャルグループ」にそうなる構造的な要因があるのならば、そこは説明してほしかった。


※今回取り上げた記事「地銀波乱(3)会計『装飾』のからくり 厳しい運用、袋小路に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190116&ng=DGKKZO40053460W9A110C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。連載全体の評価はC(平均的)とする。連載の最後に「玉木淳、亀井勝司、高見浩輔、広瀬洋平、田口翔一朗が担当しました」と出ていたので、玉木淳氏を連載の責任者と推定し、同氏への評価をCで確定とする。玉木氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「投信の手数料開示を促す」?日経「手数料にメス」に疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_8.html

2019年1月16日水曜日

BNPパリバの中空麻奈氏に任せて大丈夫? 東洋経済「マネー潮流」

週刊東洋経済1月19日号に載った「マネー潮流~ブラックスワンを抑え込む政策」の筆者はBNPパリバ証券投資調査本部長の中空麻奈氏。肩書は立派だが、記事の内容はお粗末だ。「マネー潮流」の筆者に相応しい人物なのか東洋経済の編集部は再考した方がいい。
呼子大橋(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係

まず冒頭に出てくる「ブラックスワン」の話にツッコミを入れてみたい。

【東洋経済の記事】

誰もがそんなことは起こりえないと思っている事象を表す言葉に「ブラックスワン」がある。2019年にブラックスワンは登場するのか。例を挙げてみる。

1羽目のブラックスワン。米中間の通商協議が決裂し、中国から米国への輸入品全体に関税がかかり、米中両国の景気にさらなる下押し圧力が加わる。これがアジア、中南米により深刻な影響をもたらし、新興国リスクが顕在化する。半導体関連製品に関税がかかるため、株式市場の好調を支えてきたIT関連企業の株価が総崩れ、株価指数も大きく低下する。

2羽目のブラックスワン。英国のEU(欧州連合)離脱交渉が時間切れとなり、「合意なき離脱」に陥る。労働者の大規模なデモ活動である「黄色いベスト運動」の過熱により、仏マクロン政権が退陣に追い込まれる。レームダック化する独メルケル政権の後の体制が定まらないまま、5月の欧州議会選挙に突入、ポピュリズムの空気が蔓延して定着。イタリアの財政問題も含め、欧州の混乱がリスクオフに拍車をかける。



◎「ブラックスワン」ではないような…

誰もがそんなことは起こりえないと思っている事象を表す言葉に『ブラックスワン』がある」という説明は問題ない。しかし「1羽目」も「2羽目」も「ブラックスワン」とは思えない。「『合意なき離脱』なんて絶対ないと誰もが信じている」と中空氏は認識しているのか。

英国関連の報道は「合意なき離脱」への懸念であふれている。なのにそれが実現した時に「ブラックスワン」だと感じる中空氏に不安を覚える。「仏マクロン政権が退陣に追い込まれる」「独メルケル政権の後の体制が定まらないまま、5月の欧州議会選挙に突入」といった事態をセットにしても、やはり「ブラックスワン」とは言い難い。

例えば「2019年にEU解体、ユーロ廃止」ならば「ブラックスワン」と呼ぶのも分かる。だが、中空氏の挙げた2つの「ブラックスワン」は十分にあり得そうな話ばかりだ。

記事の続きを見ていく。

【東洋経済の記事】

ブラックスワンが姿を現せば、株式市場やレバレッジドローン(低格付け企業向けで利回りの高い融資)市場などでリスクを取りすぎているシャドーバンク(金融当局の監督対象外のファンドなど)で大きな損失が出て資産凍結が相次ぎ、さまざまな金融市場にリスクが伝播する可能性は大きい。

FRB(米連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)はすでに資産購入プログラムを終了し、FRBはバランスシートの削減を始めている。これは流動性の減少を意味し、銀行の貸し出しを厳格化させる。絞り込みから、信用リスクの高い企業に資金繰り難が生じる可能性は大きい。米中貿易戦争がすでに経済を悪化させる兆候を示しているだけでも、信用リスクは悪化の方向にある。

しかし、19年にブラックスワンが出現するかは微妙である。

現在、米中貿易戦争は90日間のモラトリアム中だ。結論が出る3月には、米国には債務上限問題の期限が、中国には全国人民代表大会が控えるため、米中政府は中身がどうであれ合意すると想像される。ポピュリズムの台頭は阻止できないとしても、通貨統合後20年の節目を迎える欧州の結束が簡単に崩れると考えるのも無理がある。何より、この数年あれだけ効いた金融政策がまったく効かなくなるというのもいささか唐突だ



◎色々と説明に難が…

ブラックスワン」と呼ぶからには、それが起きる前には「発生確率ほぼ0%」と思える
ものでないと苦しい。中空氏によると「19年にブラックスワンが出現するかは微妙」らしい。つまり、かなりの確率で起こり得る。だとしたら「ブラックスワン」とは言い難い。中空氏に見えていることが世界の他の人には見えないならば話は別だが…。
名護屋城跡(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係

通貨統合後20年の節目を迎える欧州の結束が簡単に崩れると考えるのも無理がある」との説明も謎だ。「合意なき離脱」「マクロン政権が退陣」「イタリアの財政問題」などが「ブラックスワン」だとしたら、それは「欧州の結束が簡単に崩れ」なくても実現する。

最も分からないのが「この数年あれだけ効いた金融政策がまったく効かなくなるというのもいささか唐突だ」という説明だ。米国が利上げ局面に入ってから約3年。米国に関して「あれだけ効いた金融政策」という場合、「引き締め効果が顕著に表れた」と理解したくなる。

しかし、文脈的に考えて「この数年あれだけ効いた金融政策」とは「金融緩和政策」を指すのだろう。「緩和的な金融政策って最近そんなに効いてましたか? そもそも米国はここ数年、引き締め局面にあったのでは?」と聞いてみたくなる。

さらに記事の終盤を見ていく。

【東洋経済の記事】

日本も例外ではない。4〜5月に天皇陛下の退位と新天皇の即位、6月に大阪でG20首脳会議の開催、7月に参議院選挙、10月に消費増税など、重要イベントが目白押しだ。安倍政権にとって、株価の高いほうが望ましく、日本銀行の金融政策への期待もおのずと高まるだろう。 

したがって、ブラックスワンが現れる前に、効果的な金融政策や財政政策により強制される形で市場の安定が続くシナリオも考えておきたい。中国人民銀行の追加緩和やパウエルFRB議長の「必要に応じてバランスシート政策を変更する」との発言により、株価が上昇へ簡単に切り替わる市場を見れば明らかであろう。金融・財政政策がいつ効果を発揮するのかを読んでいくことが19年もことのほか大事、ということだ。



◎日銀が出す「効果的な金融政策」とは?

日本」に関する記述にも疑問符が付く。「日本銀行の金融政策への期待もおのずと高まるだろう」と中空氏は言うが、副作用を上回る効果が見込める追加の金融緩和手段など日銀は持っているのか。

ブラックスワンが現れる前に、効果的な金融政策や財政政策により強制される形で市場の安定が続くシナリオも考えておきたい」と書くぐらいだから、日銀も「効果的な金融政策」をまだまだ発動できると中空氏は見ているはずだ。それが具体的にどんなものなのか教えてほしかった。

記事の完成度から判断すると、中空氏も具体的なイメージは持っていない気がするが…。


※今回取り上げた記事「マネー潮流~ブラックスワンを抑え込む政策」 
https://dcl.toyokeizai.net/ap/textView/init/toyo/2019011900/DCL0101000201901190020190119TKW014/20190119TKW014/backContentsTop


※記事の評価はD(問題あり)。中空麻奈氏への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。

2019年1月15日火曜日

日経社説「高齢世帯の保有不動産を生かす方策を」の奇妙な解説

15日の日本経済新聞朝刊 総合・政治面に載った「高齢世帯の保有不動産を生かす方策を」という社説は苦しい内容だった。「リバースモーゲージ」を広げる方策として、この社説では以下のように提言している。
玄海エネルギーパーク観賞用温室(佐賀県玄海町)
            ※写真と本文は無関係です

【日経の社説】

欧米では普及しているが、リバースモーゲージが日本でも定着するにはハードルがある。

最大の問題は中古住宅の資産価値が著しく低い点だ。日本では住宅の建物部分が築20年を超すとほぼゼロになり、土地しか評価されない。銀行は融資額を絞り、地価の安い地域は対象から外す。

築年数にかかわらず建物を適切に評価するには、柱や壁などの構造部分と内外装・設備部分に分けて査定するのが有効だ。例えば早くからシロアリ対策をしていれば構造部分の耐用年数は延びるし、給排水管を交換すれば設備の資産価値は高まるはずだ。

こうしたリフォーム情報を建設時の竣工図面などと一緒に「住宅履歴書」として保管し、データベース化すれば第三者も建物本来の価値を判断しやすくなる。蓄積されたデータが解析できるようになれば、不良債権化を恐れる銀行の姿勢も変わってこよう。

高齢者にとって持ち家は老後生活を支える貴重な資産だ。国や地方自治体、金融、不動産業界が連携して新たな評価手法を早急に取り入れてほしい。

◇   ◇   ◇

気になった点を列挙してみる。

(1)「分けて査定するのが有効」?

築年数にかかわらず建物を適切に評価するには、柱や壁などの構造部分と内外装・設備部分に分けて査定するのが有効だ」という説明がまず謎だ。「分けて査定するのが有効だ」と言える根拠を社説では示していない。

分けて査定する」ことで「日本では住宅の建物部分が築20年を超すとほぼゼロになり、土地しか評価されない」状況を変えられると筆者は考えているのだろう。

例えば、価値ゼロと評価された築25年の建物を「柱や壁などの構造部分と内外装・設備部分に分けて査定」してほしいと依頼すると、なぜか「構造部分が100万円、内外装・設備部分が100万円、合計で200万円の評価額になります」といった話になるのだろう。

夢のような方策だが、個人的には「分けて査定」しても全体の評価額は変わらない気がする。「変わる」と言うのならば、社説の中でその理由を解説すべきだ。


(2)カネをかけて資産価値を高めても…

早くからシロアリ対策をしていれば構造部分の耐用年数は延びるし、給排水管を交換すれば設備の資産価値は高まるはずだ」との説明はその通りかもしれない。しかし、資金を投じることで保有する不動産の「資産価値」を高めて「リバースモーゲージ」を活用するのならば、あまり意味がない。

給排水管」は今のままでも使えるが、「資産価値」を高めるために100万円をかけて「交換」すると仮定する。それで「資産価値」がそのまま100万円高まり「リバースモーゲージ」で借りられる金額も100万円増えたとしよう。「めでたしめでたし」と言えるだろうか。

それよりも、「給排水管」の「交換」に使ったカネを自分たちの生活資金に回した方が合理的だ。一般的には、100万円をかけて「給排水管を交換」しても「資産価値」の上昇は100万円を下回るはずだ。


(3)市場が間違ってる?

社説の筆者は、現状では「建物を適切に評価」できていないと見ているのだろう。「違う」と断定はしないが、個人的には「市場が間違っている」とは思わない。

「築30年の建物だが、まだまだ十分に暮らせる」としても、市場参加者の全員が「築30年の建物に価値がない」と判断しているのであれば、その評価額がゼロになるのは当然だ。市場参加者が評価を間違っている訳ではない。

市場が間違っている場合、裁定者が現れると考えるのが自然だ。例えば200万円の価値がある建物が無価値との評価を受けているのならば、10万円でも容易に仕入れられる。それを200万円で売れば簡単に利益が出る。

長期に亘ってそうした裁定者が出てこないのならば、やはり市場は間違っていないと考えるべきだろう。


※今回取り上げた社説「高齢世帯の保有不動産を生かす方策を
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190115&ng=DGKKZO39996590V10C19A1PE8000


※社説の評価はD(問題あり)。

2019年1月14日月曜日

「郵政とアフラック」の分析が雑な週刊ダイヤモンド藤田章夫副編集長

週刊ダイヤモンド1月19日号に載った「Close Up~2700億円の出資で浮き彫りになった
郵政とアフラックが抱える事情」という記事は雑な分析が目立った。筆者は藤田章夫副編集長。役職から判断すると記者を指導する立場にあるはずだが、このレベルの記事しか書けないのならば指導役は苦しい。
平和公園(長崎市)※写真と本文は無関係です

まず、写真に付けた説明文に触れておきたい。「昨年12月19日に東京都内のホテルで行われた記者会見。提携の功労者であるはずのチャールズ・レイク氏の姿はなかった」と書いてあるが、「チャールズ・レイク氏」について記事の本文では全く触れていない。それで「チャールズ・レイク氏の姿はなかった」と書かれても、読者はどう理解すべきか分からない。

そもそも「チャールズ・レイク氏」がどういう立場の人かも謎だ。調べてみると、アフラック生命保険の会長らしい。そこを省いて記事を作ってしまう度胸が悪い意味で凄い。

ここからは本文を見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

2013年7月、日本郵政とアフラックはがん保険の販売で提携すると発表して以降、15年には全国2万局の郵便局でアフラックのがん保険を取り扱うまでになった。さらに昨年末、両社の資本提携にまで発展した。その背景には、両社共に抜き差しならぬ事情が横たわっていることがある。



◎「抜き差しならぬ事情」がある?

両社の資本提携にまで発展した。その背景には、両社共に抜き差しならぬ事情が横たわっている」と藤田副編集長は言うが、記事を最後まで読んでも「抜き差しならぬ事情」があるとは感じなかった。ここから記事の全文を見ていくので、そうした「事情」があると納得できるか考えてほしい。


【ダイヤモンドの記事】

年の瀬も押し迫った昨年12月20日、衆議院第二議員会館の地下1階にある会議室で日本郵政の長門正貢社長は、並み居る郵政族議員たちに詰め寄られていた。議案は、「郵便局の利活用について」。

言うまでもなく、前日に東京都内のホテルで大々的に記者会見を開いて発表した、日本郵政による米保険大手アフラック・インコーポレーテッドに対する約2700億円に上る出資についてだ。

「7%出資するだけで、4年後に議決権が20%を超えて持分法適用になるというのは本当か?」

「非常に分かりにくいスキームだ。むしろ乗っ取るという話の方がすっきりとして分かりやすい」

そう執拗に言い立てる議員たちが恐れているのは、2015年に日本郵政が約6200億円で買収した豪物流会社トール・ホールディングスでの手痛い失敗劇の再来に他ならない。トールを買収した後すぐに4000億円を超える減損を強いられ、3200億円の黒字予想から一転、民営化以降初となる400億円の赤字に転落するという事態に陥ったからだ。

もっとも、今回の日本郵政によるアフラックへの出資の内容が分かりづらいのも確かだ

まず、アフラック株を4年間保有すると議決権が10倍になるという米国でも珍しい仕組みに加え、いずれ筆頭株主になるにもかかわらず日本郵政側からアフラックに経営陣を送り込まず、経営に一切介入しない点だ



◎そんなに「分かりづらい」?

今回の日本郵政によるアフラックへの出資の内容が分かりづらいのも確かだ」というが、特に分かりづらさは感じない。「アフラック株を4年間保有すると議決権が10倍になる」のは、そんなに難しい話なのか。
豊後森駅(大分県玖珠町)※写真と本文は無関係です

筆頭株主になるにもかかわらず日本郵政側からアフラックに経営陣を送り込まず、経営に一切介入しない」のも、ありがちだろう。「そういう方針なんだな」と思うだけだ。

さらに記事の続きを見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

昨年5月に日本郵政がアフラックに出資を打診した際には、7%を大きく上回る株数を提示したようだが、安定株主を増やすためにアフラックが導入している4年で議決権が10倍になる規定に加え、米国政府は国内生保が外国政府に支配されることを禁じている。

何より、アフラックの創業者一族であるダニエル・P・エイモス会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)が、支配されることを断固として拒絶したという。

とはいえ、日本郵政からすれば想定より少額の出資にもかかわらず、36年にわたり増配を続けているアフラックから年間60億円に上る配当を安定的に受け取れるようになることは、まさに願ったりかなったりの投資といえる。



◎「願ったりかなったり」と言える?

想定より少額の出資」だったのに「願ったりかなったりの投資といえる」のか疑問が残る。「アフラックの創業者一族であるダニエル・P・エイモス会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)が、支配されることを断固として拒絶した」のだから、「日本郵政」としては「支配」を望んだのに「拒絶」されたはずだ。それを「願ったりかなったりの投資」と評価するのは理解に苦しむ。

さらに言えば「アフラックから年間60億円に上る配当を安定的に受け取れるようになる」かどうかは分からない。業績が急激に悪化すれば、減配や無配もあり得るはずだ。

次は「抜き差しならぬ事情」に関する記述が出てくる。

【ダイヤモンドの記事】

いかにアフラックが日本郵政傘下のかんぽ生命保険の競合相手であり、今回の件を受けてかんぽ生命が怒り心頭に発しようとも、かつて野村不動産ホールディングスの買収が不調に終わり、トール買収でもみそを付けた手前、もはやなりふり構っていられるような状況ではないということだ。


◎これが「抜き差しならぬ事情」?

トールを買収した後すぐに4000億円を超える減損を強いられ」た日本郵政が「民営化以降初となる400億円の赤字に転落するという事態に陥った」のは分かる。「野村不動産ホールディングスの買収が不調」に終わったのも、その通りだろう。

だが、そこから「もはやなりふり構っていられるような状況ではない」と結論付けるのが謎だ。「とにかく、どこかに出資しなければならない」という事情が日本郵政にあるのか。少なくとも記事からは伝わってこない。

ついでに言えば「抜き差しならぬ」とは「身動きがとれず、どうにもならない」(大辞林)という意味だ。本当に「抜き差しならぬ事情」があるのならば、日本郵政は積極的に出資には動けない気もする。

次は「アフラック」について見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

一方のアフラックにしても、今回の日本郵政からの申し出は、ありがたかったに違いない。

というのも、これまで40年以上にわたってアフラックの躍進を支えてきた、同社がアソシエイツと呼ぶ保険代理店チャネルでの販売は限界を迎え、今や業績の“足かせ”と化しているからだ。

事実、上の左下写真にあるように、アフラックの業績を支えているのは今や郵便局だといっても過言ではない。アフラックのがん保険の新契約件数約91万件のうち、郵便局経由での販売は実に約25万件を占める。全生保のがん保険の新契約件数に占めるシェアはピーク時の6割超から落ち込んだとはいえ、いまだ5割弱のシェアを誇っているのは日本郵政との提携にあることは論をまたない。

それ故、経営権を支配されることなく、郵便局でのがん保険の販売強化につながるであろう今回の資本提携は、まさに昨年2月に役員ブログで「ツキが回ってくることを願ってやみません」と、自他共に“ラッキーボーイ”と認める営業部門を統括する某上級役員が願いを込めた通り、ありがたい事態になったというわけだ。



◎やはり見えない「抜き差しならぬ事情」

今回の日本郵政からの申し出は、ありがたかった」からと言って「アフラック」に「抜き差しならぬ事情」があったとは断定できない。「アフラックの業績を支えているのは今や郵便局」だとしても、以前から提携関係にあるのだから「郵便局でのがん保険の販売強化につながるであろう今回の資本提携」がなければ収益基盤が崩れてしまうという話でもない。
名護屋城跡(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係です

資本提携」を死活問題と考えなければならないような「抜き差しならぬ事情」はやはり見えてこない。しかも「今回の提携強化」は業績面でマイナスに働く可能性もあるという。そこに触れた部分を見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

もっともアフラックにとって今回の提携強化は、もろ手を挙げて喜んでばかりもいられない

日本郵政との提携に不快感を示す信用金庫を筆頭にアフラック離れが進むだろう。業績低迷が著しい代理店チャネルは既存顧客にダイレクトメールを送り、新商品に乗り換えさせる解約新規が大半のため、大型新商品が出ない今年度はさらに業績が沈む見込みだ。

アフラック生命保険の古出眞敏社長の肝いりで投入したイノベーション・ラボ発の健康応援型の新型医療保険は、発売2カ月で数十件しか売れず、これまた望み薄。



◎だったら、なおさら…

日本郵政との提携に不快感を示す信用金庫を筆頭にアフラック離れが進む」としたら、「郵便局でのがん保険の販売強化につながるであろう今回の資本提携」が業績を上向かせる効果は限定的だ。それでも「資本提携」に執着しなければならない「抜き差しならぬ事情」が「アフラック」にあるのか。藤田副編集長はあると見ているのだろうが、その根拠は示せていない。

最後に結論部分の問題点を指摘したい。

【ダイヤモンドの記事】

何より日本郵政にしてもかんぽ生命への気兼ねから、どこまで本腰を入れてアフラックの商品を販売するかは未知数だ。またぞろ、日本郵政がアフラックのがん保険を販売する見返りに、再保険を引き受けることを求めるような事態も想定される。いずれにせよ、アフラックは日本郵政に主導権を握られたことは間違いない



◎「日本郵政に主導権を握られた」?

いずれにせよ、アフラックは日本郵政に主導権を握られたことは間違いない」という結論が唐突で説得力に欠ける。「日本郵政側からアフラックに経営陣を送り込まず、経営に一切介入しない」のに「アフラックは日本郵政に主導権を握られたことは間違いない」と判断した理由がよく分からない。

日本郵政がアフラックのがん保険を販売する見返りに、再保険を引き受けることを求めるような事態」があるとしても「主導権を握られた」とは言い切れない。

郵便局でのがん保険の販売強化につながるであろう今回の資本提携」と藤田副編集長は書いている。ならば「アフラック」が「主導」する形で「郵便局でのがん保険の販売強化」が進むかもしれない。「それはない」と藤田副編集長が見ているのならば、「アフラック」が「主導権」を握る可能性はないと判断できる材料を読者に提示すべきだ。


※今回取り上げた記事「Close Up~2700億円の出資で浮き彫りになった
郵政とアフラックが抱える事情
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/25595


※記事の評価はD(問題あり)。藤田章夫副編集長への評価はDを据え置く。藤田副編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「首相官邸の意向」週刊ダイヤモンドが同じ号で矛盾する説明
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_20.html

バランス型投信を「投資の王道」と言う週刊ダイヤモンドへの「異論」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_30.html

「マカオ返還」は忘れた? 週刊ダイヤモンド「投資に役立つ!地政学・世界史」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_29.html

がん保険の「広告」? 週刊ダイヤモンド藤田章夫記者の記事
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_29.html

週刊ダイヤモンド保険特集で鬼塚眞子氏が選ぶ怪しい「お宝」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_25.html

「中高一貫校」主要178校の選び方がおかしい週刊ダイヤモンド
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/178.html

「最安の信託報酬」に誤り 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_18.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に2件目の間違い指摘
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_94.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に3件目の間違い指摘
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_86.html

週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に4件目の間違い指摘
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_65.html

テクニカル分析は必要? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_22.html

森信親長官への批判が強引な週刊ダイヤモンド「金融庁vs銀行」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/07/vs.html

関西知らずが目立つ週刊ダイヤモンド「関関同立」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_19.html

2019年1月13日日曜日

「ちょうどいいブスのススメ」は本ならOKに説得力欠く小田嶋隆氏

コラムニストの小田嶋隆氏は優れた書き手だと思うが、最近は調子が悪いのかなとも感じる。日経ビジネス1月14日号に載った「小田嶋隆の『pie in the sky』~ 絵に描いた餅べーション:ちょうどよくないと笑えない」という記事は、ご都合主義的な主張が目に付いた。
風の見える丘公園(佐賀県唐津市)
      ※写真と本文は無関係です

今回のテーマは「ルッキズム(身体的に魅力的でないと考えられる人々に対する差別的取り扱い)」。これに関して「笑いを求めて毒を承知で本を買って読むのだって自由だ。しかし、無料で誰でも見られるテレビドラマで人をブス呼ばわりして、そのブスに対して上から生き方をススメてよいはずがない」と小田嶋氏は主張する。つまり「本ならOKだが、テレビドラマではNG」となる。この線引きに説得力があるだろうか。

記事の中身を順に見ながら考えてみたい。

【日経ビジネスの記事

1月から日本テレビ系で放送される予定だった連続ドラマ「ちょうどいいブスのススメ」に関して、先日、制作局である読売テレビが記者会見を開いた。主旨は、ドラマのタイトルを「人生が楽しくなる幸せの法則」に改めるというものだ。理由は、「視聴者の方々に、ドラマの内容を理解していただくため」だという。まったく意味不明の弁解だ。

彼らは、本来なら「女性の人格を否定する不適切なタイトルだった」と、率直に自分たちの誤りを認め、関係各方面に謝罪をしたうえで、タイトルを変更するべきだった。



◎「女性の人格を否定」?

まず「ちょうどいいブスのススメ」を「女性の人格を否定する不適切なタイトル」と認識する感覚が分からない。容姿は「人格」と関係ない気もするが、とりあえず人格の一部だとしよう。だとしても「ちょうどいいブスのススメ」に「人格を否定」している感じはない。

自分は男性だが「ちょうどいいブオトコのススメ」というタイトルだったとしても「人格を否定」されたとは全く思わない。例えば「すべての女性はブスである」「ブスには生きる資格がない」といったタイトルならば、まだ分かる。

ちょうどいいブスのススメ」では誰かを「ブス」と特定している訳ではないし、「ブス」を否定もしていない(むしろ肯定している)。なのに「女性の人格を否定する不適切なタイトル」と断定する方が「不適切」だ。

記事の続きを見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

なぜそうしなかったのだろうか。

おそらく、誤りを認めてしまったらタイトル変更だけでは済まないからだ。

というのも、批判の主たるポイントであるルッキズム(身体的に魅力的でないと考えられる人々に対する差別的取り扱い)の問題は、タイトルだけに起因する話ではないからだ。

ドラマの原作として発売されている同名のエッセイ(山﨑ケイ著)を読めばわかるように、ルッキズムは原作の主題のど真ん中に居座っている

「ちょうどいいブスとは、酔ったらイケる女性のこと」と、前書きで宣言し、本文内で何度も繰り返している通り、本書は、「自己評価70点で実際には50点の女」たちに「45点の自己申告」と「酔わせればオトせる」女としてのプレゼンを推奨している本だ。

もっとも、著者たる山﨑ケイ氏が、自身をブスであると規定しているその自己規定自体に問題があるわけではない。また、彼女がそのセルフイメージに沿った生き方を通じて成功をおさめた自覚を持っていることもまた、何ら責められるべき認識ではない。

ただ、だからといって、「ブス」としての自覚や「ブス」ならではの処世を他人に勧めるには、相当の慎重さと覚悟が必要だと思う。「ブス」は極めて微妙な概念で、ギリギリ自虐としては使用可能でも、自覚して活用することを他人に「ススメ」たり教えたりしてよい言葉ではないからだ。



◎だったら本もダメなような…

今回の記事が苦しいのは「著者たる山﨑ケイ氏」をギリギリでセーフな場所に置いて、「(テレビドラマの)企画を進めたプロデューサー」を厳しく批判している点だ。「ルッキズム」が許されないもので「ルッキズムは原作の主題のど真ん中に居座っている」のならば、「タイトルも中身もダメ。こんな本を書く著者は激しく批判されてしかるべき」となるのが自然だ。しかし、小田嶋氏はなぜか「著者たる山﨑ケイ氏」には甘い。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
      ※写真と本文は無関係です

さらに言えば「『ブス』は極めて微妙な概念で、ギリギリ自虐としては使用可能でも、自覚して活用することを他人に『ススメ』たり教えたりしてよい言葉ではない」との解説にも同意できない。

テレビのバラエティー番組で女性芸人が「ブス」いじりされるのは珍しくない。この場合、特定の女性を「ブス」として扱っている。

ブス」が「ギリギリ自虐としては使用可能」な「言葉」ならば、女性芸人に対する「ブス」いじりは基本的に放送できないし、放送されれば激しい批判を招くはずだ。しかし現状ではそうなっていない。

ブス」いじりを全国ネットで放送して大きな問題になっていないのに、「ブス」を「ギリギリ自虐としては使用可能」な「言葉」と捉えるのは無理がある。小田嶋氏は「自分が思っていること」と「社会の共通認識」を同一視し過ぎているのではないか。

さらに記事の続きを見ていく。

【日経ビジネスの記事】

お笑い芸人というのは、山﨑氏もそうであるように、私がいまここで書き並べているような、ポリティカリーにコレクトな「建前」を揶揄する立場の人たちだ。実際、笑いは、「建前」と「本音」が相克する場所に摩擦として生じる、ある種の熱力学的な運動でもある。

その意味では、彼ら彼女らが「ブス」をネタにしたがることに理由がないわけではないのだろう。しかし、世界は少しずつではあるが前に進んでいる。いつも本音をぶっちゃけてさえいれば笑いが取れるというものではないし、本音でさえあればすべての不謹慎や暴力が免罪されるものでもない



◎論理展開が苦しいような…

いつも本音をぶっちゃけてさえいれば笑いが取れるというものではないし、本音でさえあればすべての不謹慎や暴力が免罪されるものでもない」のは、その通りだ。しかし「ゆえに「『ブス』をネタに」することが「免罪され」ないとは言い切れない。

世界は少しずつではあるが前に進んでいる」としても、「『ブス』をネタに」するのはご法度と言えるレベルまで「前に進んでいる」とは言い難い。それはバラエティー番組の現状を見れば分かるはずだ。

そもそも「『ブス』をネタに」することが「本音をぶっちゃけ」る行為なのかも微妙だ。「本音ではブスとは思っていないが、流れ的にそうした方が面白いから」と考えて発言している芸人がいても不思議ではない。

最後に結論部分を見ていく。

【日経ビジネスの記事】

女芸人が「女を捨て」たり「女を売っ」たりすることそのものは、「芸」の範囲の話なのかもしれない。笑いを求めて毒を承知で本を買って読むのだって自由だ。しかし、無料で誰でも見られるテレビドラマで人をブス呼ばわりして、そのブスに対して上から生き方をススメてよいはずがない。しかも、その「ちょうどいいブス」の生き方が、セックスを安売りする体当たり戦術だというのではシャレにさえなりゃしない。だが、そんな芸人世界のホモ・ソーシャル設定に、地上波のテレビ局がそのまま乗っかったわけだ。

企画を進めたプロデューサーは「本物」だと思う。つまり「ちょうどいいバカ」でさえないということだが。


◎有料コンテンツならばOK?

笑いを求めて毒を承知で本を買って読むのだって自由」なのに「無料で誰でも見られるテレビドラマで人をブス呼ばわりして、そのブスに対して上から生き方をススメてよいはずがない」と小田嶋氏は言う。

「本はOKでテレビドラマはNG」の根拠は「テレビドラマは無料で観られるから」だと思える。だとしたら有料チャンネルのドラマならばOKなのか。

『ブス』は極めて微妙な概念で、ギリギリ自虐としては使用可能でも、自覚して活用することを他人に『ススメ』たり教えたりしてよい言葉ではない」としたら、出版社が「ちょうどいいブスのススメ」という本を出して全国の書店で販売するのは避けるべきだ。

女性の人格を否定する」ことは「有料で販売している本の中でやるのならば自由。でも無料で見られるものでやってはダメ」と小田嶋氏は考えているのか。常識的に言えば「無料であろうと有料であろうと好ましくない」と思える。

小田嶋氏も執筆している日経ビジネスオンラインで考えれば分かるはずだ。「無料コンテンツでは『女性の人格を否定』してはダメだが、有料コンテンツならば許される」との主張に小田嶋氏は同意できるだろうか。


※今回取り上げた記事「小田嶋隆の『pie in the sky』~ 絵に描いた餅べーション:ちょうどよくないと笑えない
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/257045/010800197/?ST=pc


※記事の評価はD(問題あり)。小田嶋隆氏への評価はB(優れている)からC(平均的)に引き下げる。小田嶋氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

どうした小田嶋隆氏? 日経ビジネス「盛るのは土くらいに」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_25.html

山口敬之氏の問題「テレビ各局がほぼ黙殺」は言い過ぎ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/06/blog-post_10.html

小田嶋隆氏の「大手商業メディア」批判に感じる矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_12.html

杉田議員LGBT問題で「生産性」を誤解した小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/lgbt.html