2022年9月28日水曜日

日経が朝刊1面に載せた「〈おわび〉本社報道、誤解を与える表現や誤り」に思うこと

注目すべき記事が28日の日本経済新聞朝刊1面に載っていた。見出しは「〈おわび〉本社報道、誤解を与える表現や誤り ~『ロシア石油 欧州へ裏流通』」。1面の記事の訂正でさえ1面に載せたがらない日経が、そこそこのスペースを割いて「誤解を与える表現や誤り」を「おわび」している。とりあえず好ましい変化だ。それを踏まえた上で、この件について考えてみたい。

宮島連絡船

そもそも8日の朝刊1面に載った「ロシア石油、欧州へ裏流通 船舶情報など日経分析~ギリシャ沖で移し替え1隻→41隻 制裁効果阻む恐れ」という記事に無理がある。「ロシア石油、欧州へ裏流通」と打ち出したものの、日経が「社内調査では、一連の記事の他の部分に誤りはなく」とした部分からも「裏流通」とは判断できない。

EUは来年2月までにロシア石油の海上輸入を止める」が「現時点で取引は違法ではない」と8日の記事でも書いている。言ってみれば「ロシア石油、欧州へ“表”流通」という話。しかも、その根拠を「英リフィニティブのデータ」に頼っている。これだけでは朝刊1面トップには弱いとの判断が働いたのだろう。それが「誤解を与える表現」へとつながったと考えると腑に落ちる。

8日の記事で日経が電子版から削除した部分は以下の通り。

【日経の記事(9月8日)】

8月24日、日経はギリシャ南部のラコシア湾で2隻のタンカーが横付けして石油を移し替える「瀬取り」の瞬間を写真に捉えた。1隻はギリシャ籍の「シーファルコン」で4日にロシア北西部の石油積み出し基地ウスチ・ルガ港を出港。もう1隻も4日にトルコの港を出たインド籍の「ジャグロック」だ。地域住民によるとロシアがウクライナに侵攻した2月24日以降、湾内に停泊するタンカーが急増したという。


◇   ◇   ◇


これに対して28日の朝刊社会面に載せた「編集幹部の認識・確認不十分 本社報道に誤解与える表現や誤り」という検証記事では以下のように説明している。

【日経の記事(9月28日)】

8月24日のタンカー2隻の取材は海上で行い、写真や映像を撮影しました。その後の分析で、1隻は石油基地があるロシアの港から現場海域に来たギリシャ籍タンカー、もう1隻はイラク発トルコ経由のインド籍タンカーと分かりました。

担当デスクはギリシャ沖で急増する石油取引の事例として記事で取り上げることを念頭に、積み荷の重さを示す「喫水」データの変化から、2隻の移し替えの状況を調べるよう取材班に指示。喫水の分析でこの取引はインド籍船からギリシャ籍船への移し替えで、ロシア産石油の取引だった可能性は低いと取材班の記者は判断し、デスクも共有しました

デスクは上司のグループ長と記事を巡る協議の際にこの情報にも言及しましたが、意思疎通が不十分で、グループ長はロシア産石油と誤認したままでした。一方、デスクは海上取引の一事例として記事に使うことを了承されたと受け止め、編集作業を進めました。他の編集幹部にも取材班の判断は伝わりませんでした。

一連の記事は、この2隻がロシア産石油を移し替えたとは記述していません。ただ、「ロシア石油」「裏流通」の見出しとともにタンカー2隻の写真や映像を掲載した記事は、2隻がロシア産石油を取引したという誤解を読者に与えました。

当社は今回の問題をインド籍船側の指摘で把握し、調査しました。デスクが編集幹部らとの十分な意思疎通を欠いたまま誤解を招く記事を作成したこと、編集幹部の認識や確認が明らかに不十分だったことなどを重く受け止め、再発防止を徹底します。


◎知っていたなら…

まず書いていないことに触れておこう。

8日の記事には末尾に「長尾里穂、朝田賢治、関優子」と担当記者の名前が出ており、タンカーの写真には「長尾里穂撮影」との説明が付いている。

この3人は記事をチェックする時に「誤解を与える」説明だと思わなかったのか。だとすれば記者としては致命的だ。

では「誤解を与える」と思っていたならどうだろう。「デスク」や「上司のグループ長」に「このまま記事を出すと誤解を与えてしまいます」とは訴えたのか。そこが気になる。

サラリーマンとして「デスク」や「上司のグループ長」に意見をしにくいのは分かる。しかし、ある程度の行動はしてほしい。自分だったら「このままではマズい」と訴えた上で、どうしてもそのまま行くと上が判断したら「せめて署名から自分の名前を外してほしい」とは求める。3人の記者はどう動いたのか。

デスク」が「誤解を与える表現」だと自覚していたのかどうかも引っかかる。そこは検証記事で明らかにしてほしかった。

推測はできる。

「誤解を与える説明になっているのは自覚していた。しかし『この2隻がロシア産石油を移し替えた』とは書いていない。指摘を受けたら、そう答えて逃げればいい。正直に書いたら事例として成立しないし、それだと1面トップの記事としては弱い。嘘にならない範囲で盛り上げて1面トップの記事に仕上げるのがデスクの仕事。自分はそれをしっかりやっただけだ」

こんなところだろう。サラリーマンとしては正しく実力を付けているとも言える。それが結果的に読者を欺く方向に動くのが悲しい。

再発防止策として何をしたらいいのだろう。

個人的には「1面(特に1面トップ)に記事を持っていくことが社内的なアピールになり評価につながる」という仕組みを改めるべきだと考える。

「1面に持っていける記事を出せ」「1面候補の記事を何とか1面トップ級に仕上げろ」

こうした圧力を現場にかけていくと記事は歪んでいく。

そのことを今回の件から学んでほしい。


※今回取り上げた記事

「〈おわび〉本社報道、誤解を与える表現や誤り ~『ロシア石油 欧州へ裏流通』」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220928&ng=DGKKZO64679060Y2A920C2MM8000

編集幹部の認識・確認不十分 本社報道に誤解与える表現や誤り」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220928&ng=DGKKZO64677360X20C22A9CT0000


※記事への評価は見送る

2022年9月26日月曜日

原発問題で逃げの姿勢が目立つ日経のエネルギー・環境問題「緊急提言」

多くの人手と時間は使ったのだろう。しかし結果は当り障りのない具体性の乏しい「緊急提言」になってしまった。

錦帯橋

26日の日本経済新聞朝刊1面に載った「原発、国主導で再構築を 再生エネ7割目標に~エネルギー・環境、日経緊急提言 『移行期』の安定と脱炭素両立」という記事(関連記事も含む)は残念な内容だった。1面と社説、さらに特集2ページを使ってこの中身では辛い。

緊急提言」の肝は「原発、国主導で再構築を」。つまり「国がしっかり考えてね」という話。「提言は論説委員会と編集局が検討チームをつくり、専門家らと議論を重ねてまとめた」らしいが、その結果がこれでは浮かばれない。

特に「原発」では肝心の問題に日経としての答えを出していない。そこから逃げて何のための「緊急提言」なのか。特集面の「原子力:安全性・信頼性・透明性の確保を前提に」という記事を見ながら問題点を指摘したい。


【日経の記事】

ウクライナで原発周辺が攻撃対象となり、外部電源喪失への懸念が生じたことは看過できない。規制当局と事業者が協力して、海外事例も参考に最適な防護策を検討し、放射性物質の拡散が起きないよう、できうる限りの対策を実施する必要がある。


◎結局、具体策はなし?

原発問題の肝の1つが安全保障。「ウクライナで原発周辺が攻撃対象となり、外部電源喪失への懸念が生じたことは看過できない」のはその通り。原発は攻撃対象となれば重大事故につながりやすく安全保障上の大きな弱点となる。敵に占拠された場合は反撃が難しいという問題もある。「ウクライナ」はそのことを改めて認識させてくれた。

そこで日経はどう考えるのか。出した答えは「規制当局と事業者が協力して、海外事例も参考に最適な防護策を検討し、放射性物質の拡散が起きないよう、できうる限りの対策を実施する必要がある」。つまり「規制当局と事業者が協力して」しっかり「対策を実施」してねとお願いしているだけ。具体策はゼロ。難しい問題だから逃げたのだろう。

この問題で具体策を打ち出せる力が自分たちにないと思うのならば「緊急提言」を出そうなどとは考えないことだ。

もう1つの肝である高レベル放射性廃棄物の処分問題も日経として答えを出す力はないようだ。「原発事業の形態、損害賠償の見直しに加え、核燃料サイクルのあり方、バックエンドの問題なども公開の場で議論の俎上(そじょう)に載せるのがよい」「使用済み核燃料の再処理と地層処分、廃炉などバックエンドにも国に積極的な関与を求める。処分地決定には期限を設け、新増設とセットで計画を進める」としか記していない。

公開の場で議論」した後で「」が「積極的」に「関与」して何とかしてねというレベルの話だ。「処分地決定には期限を設け」るべきと考えるならば、せめてその「期限」だけでも具体的に提言してほしかった。

結局「原発はしっかり活用すべきだが高レベル放射性廃棄物の処理問題とか安全保障の問題とか厄介なことは国や事業者に頑張って考えてもらおう」というのが日経の考えだろう。

今回の「緊急提言」を読み解くとそうなる。



※今回取り上げた記事「原子力:安全性・信頼性・透明性の確保を前提に

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220926&ng=DGKKZO64596710U2A920C2M12500


※記事の評価はD(問題あり)

2022年9月21日水曜日

岡島喜久子WEリーグチェアの説明に誤り 日経「スポートピア~女性登用、不変のテーマ」

女性登用」を推し進めようとする主張は性別にこだわる時点で説得力がなくなる。20日の日本経済新聞朝刊スポーツ面にWEリーグチェアの岡島喜久子氏が書いた「スポートピア~女性登用、不変のテーマ」という記事もその一例だ。まず以下のくだりにツッコミを入れてみたい。

下関駅前

日経の記事】

2009年以降、国際大会で優勝したチームの96%が女性監督だったというデータをご存じだろうか。数少ない例外の一つが佐々木則夫監督。男性指導者の力を否定するわけではない。ヨーロッパなどサッカー先進国では、女性が男性を脅かす存在だとはとらえていないのだと思う。

ビジネスゴルフを4人で回った日のこと。この手のラウンドは往々にして男性3人に対して女性1人、という比率が多い。その日は逆だった。

3人いる女性陣のペースに男性が合わせる。プレー後、女性がシャワーや身だしなみに時間をかける間、男性は待つ。いつもとは勝手の違ったその男性はつぶやいた。「マイノリティーになるとは、こういうことなんだとわかった」。その立場になってみると、分かるのだ。


◎女性が1人でも同じことでは?

まず女性は「マイノリティー」なのか。「2009年以降、国際大会で優勝したチームの96%が女性監督だった」のであれば「男性指導者」の方が「マイノリティー」だ。日本は逆と言いたいのかもしれないが、そうしたデータは示していない。

さらに引っかかるのが「ゴルフ」の話だ。「女性がシャワーや身だしなみに時間をかける間、男性は待つ」のは「女性」がいれば1人でも同じことは起きる。例えば同じ車で帰るのならば「女性」が1人でも残り3人の「男性は待つ」。当然の話だ。

マイノリティーになるとは、こういうことなんだとわかった」と「その男性はつぶやいた」らしいが本当かなとは思う。

さらに見ていこう。


【日経の記事】

日テレ東京VやACミラン(イタリア)など強豪6クラブが米国で競ったカップ戦をみてきた。ミランの快足、早いパス回しに日テレ東京Vは圧倒され、自分たちのパスは通らない。1-3で屈した内容は、東京五輪で日本代表が喫したやられ方をなぞるかのようだった。

世界は進んでいる。プレー面にとどまらない。その大会に米国外から集結した4チームの監督、団長はみな女性。日テレ東京Vの男性監督、男性団長は珍奇なようで決まりが悪いというか、これでいいのだろうかとも感じたという。そんな違和感に男性が気づいてくれること、女性への視線を変えることが変革の一歩だと思う。


◎「4チームの監督、団長はみな女性」?

上記のくだりには誤りがあると思える。日経には以下の内容で問い合わせしている。

《日経への問い合わせ》

日本経済新聞社 運動部 担当者様

20日の朝刊スポーツ面にWEリーグチェアの岡島喜久子氏が書いた「スポートピア~女性登用、不変のテーマ」という記事についてお尋ねします。

記事では「日テレ東京VやACミラン(イタリア)など強豪6クラブが米国で競ったカップ戦」に関して「その大会に米国外から集結した4チームの監督、団長はみな女性」と説明しています。これを信じれば日テレ東京Vの「監督、団長」は「女性」のはずです。しかし、この直後に「日テレ東京Vの男性監督、男性団長は珍奇なようで決まりが悪いというか、これでいいのだろうかとも感じたという」と岡島氏は記しています。

日テレ東京Vの「監督、団長」が男性であれば「その大会に米国外から集結した4チームの監督、団長はみな女性」とは言えません。日テレ東京Vの監督は当時も男性のようなので「その大会に米国外から集結した4チームの監督、団長はみな女性」との記述に問題があると思えます。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので上記のくだりに関してさらに指摘しておきます。

「6クラブ」のうち日テレ東京V以外は「監督、団長」が「みな女性」だったのならば「日テレ東京Vの男性監督、男性団長は珍奇なようで決まりが悪いというか、これでいいのだろうかとも感じた」との説明もまだ分かります。なぜ米国のクラブは除いたのでしょうか。

米国の2つのクラブと日テレ東京Vを除く「チームの監督、団長はみな女性」だったのだとすれば「チームの監督、団長はみな女性」と言えるのは参加クラブの半数です。かなり話が変わってきます。

「世界は進んでいる」と訴えるために、その趣旨に添わない米国のクラブは無視することにしたのでしょう。気持ちは分かりますが、こうしたご都合主義的なデータの使い方は感心しません。

問い合わせは以上です。「4チームの監督、団長はみな女性」で正しいのかどうかは回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視してミスを放置する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある対応を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

問い合わせは以上。岡島氏は記事を以下のように締めている。

【日経の記事】

意識的に女性の指導者やリーダーをつくり、登用する道筋をつくっていかねば、変わらない。トップが誰であろうと変わらぬテーマであり続ける。


◎なぜ性別にこだわる?

意識的に女性の指導者やリーダーをつくり、登用する道筋をつくっていかねば、変わらない」と岡島氏は言うが、なぜ変える必要があるのか。

重要なのか「指導者やリーダー」としての資質だ。性別に関係なく優れた「指導者やリーダー」を登用してくのが基本ではないのか。

意識的に女性の指導者やリーダーをつくり、登用する」ために「指導者」としての実力が見劣りしても、あえて女性を選ぶのか。それは日本の女子サッカーのためになるのか。


※今回取り上げた記事「スポートピア~女性登用、不変のテーマ

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220920&ng=DGKKZO64451060Z10C22A9UU8000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2022年9月17日土曜日

ジョージアでのロシアの「裏工作」話に根拠欠く日経 秋田浩之氏

「せっかく海外出張でジョージアに行ったのだから何か記事にしないと…」という気持ちは分かるが、それが無理につながったのだろう。17日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)が書いた「Deep Insight~侮れないロシア『裏工作力』」という記事は苦しい内容だった。

宮島連絡船

各国から重い制裁を浴び、ロシアの国力は衰えていくだろう。だが、旧ソ連仕込みの対外裏工作力の危険は、決して侮れない。そのことをジョージアは教えている」と記事を締めた秋田氏。しかし、この結論に説得力を持たせる材料を示せていない。「ジョージア」関連の「裏工作」に関する記述を見ていこう。


【日経の記事】

地元の政治専門家らにたずねると、ジョージアの対ロ関係のキーパーソンとして「陰の権力者」の名前が浮かび上がる。

同国の国内総生産(GDP)の2割以上に当たる資産を持つとされる大富豪、ビジナ・イワニシビリ氏。ソ連崩壊後のロシアで事業を広げ、莫大な財をなした。

その後、政党「ジョージアの夢」(現与党)を創設し、12年10月の議会選で勝利、首相に就く。翌年秋に首相は退いたが、財力と人脈で「いまに至るまで、政府に絶大な影響力を持っている」(元ジョージア政府高官)という。

興味深いのは、イワニシビリ氏とロシアのつながりの深さだ。非政府組織(NGO)トランスペアレンシー・インターナショナルによると、12~19年、オフショア事業体を通じ、彼は少なくとも10社のロシア企業を所有していた。ロシアからみれば、対ジョージア工作上、願ってもない人脈だ。

イワニシビリ氏とプーチン政権に具体的な連携があるのかどうか、実態は闇の中だ。ただ、英オックスフォード大のニール・マクファーレン教授は「彼の承認がなければ、ジョージア政府はここ数年、親欧米から対ロシア中立に近い路線にまで、転換することはなかっただろう」と分析する。


◎結局は推測?

長々と説明しているものの「イワニシビリ氏とプーチン政権に具体的な連携があるのかどうか、実態は闇の中」らしい。これでは「旧ソ連仕込みの対外裏工作力の危険は、決して侮れない」と言い切る根拠にはならない。

彼の承認がなければ、ジョージア政府はここ数年、親欧米から対ロシア中立に近い路線にまで、転換することはなかった」としても、それがロシアの「裏工作」によるものと信じるに足る材料は見当たらない。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

ロシアが影響力を振るう手段は、軍事脅迫や独自の人脈以外にもある。専門家によれば、プーチン政権は「欧米にはジョージアを助ける意志はない」といった偽情報を拡散し、世論のロシア離れを食い止めようとしている。


◎これが「裏工作」?

欧米にはジョージアを助ける意志はない」というのが「偽情報」だとなぜ断定できるのか。

今回の記事でも「ジョージアには『北大西洋条約機構(NATO)に入れる見通しが立っていない以上、ロシアと過度に敵対せず、うまく共存するしかない』(同国元高官)という心理が働く」と秋田氏自身が書いている。

欧米にはジョージアを助ける確固たる意志がある」のならば「NATOに入れる見通し」も立ちそうなものだ。

欧米にはジョージアを助ける意志はない」という情報をロシアが「拡散」しているとしても「偽情報」かどうかは怪しいし「裏工作」と呼ぶほどの話なのかと感じる。

仮に「裏工作」に含めるとしても「ジョージア」に関する「裏工作」話はこれで終わりだ。「実態は闇の中」という話と合わせても「旧ソ連仕込みの対外裏工作力の危険は、決して侮れない。そのことをジョージアは教えている」とは、とても思えない。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~侮れないロシア『裏工作力』

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220917&ng=DGKKZO64394090W2A910C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。


相変わらずの「日米同盟強化」に説得力欠く日経 秋田浩之氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/04/deep-insight.html

日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/deep-insight.html

「イスラム教の元王朝」と言える?日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight_28.html

「日系米国人」の説明が苦しい日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/deep-insight.html

米軍駐留経費の負担増は「物理的に無理」と日経 秋田浩之氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_30.html

中国との協力はなぜ除外? 日経 秋田浩之氏「コロナ危機との戦い(1)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_23.html

「中国では群衆が路上を埋め尽くさない」? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight.html

日経 秋田浩之氏が書いた朝刊1面「世界、迫る無秩序の影」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/1_15.html

英仏は本当に休んでた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight~準大国の休息は終わった」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/deep-insight_29.html

「中国は孤立」と言い切る日経の秋田浩之氏はロシアやイランとの関係を見よ
https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/07/blog-post.html

「日本は世界で最も危険な場所」に無理がある日経 秋田浩之氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/blog-post_11.html

日経 秋田浩之氏「Deep Insight~TPP、中国は変われるか」に見える矛盾https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/deep-insighttpp.html

台湾有事の「肝」を論じる気配が見えた日経 秋田浩之氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/11/deep-insight.html

「弱者の日本」という前提が苦しい日経 秋田浩之氏の「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/01/deep-insight.html

「大国衝突」時代に突入? 日経 秋田浩之氏「大国衝突、漂流する世界」の無理筋https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/02/blog-post_23.html

2022年9月13日火曜日

政府・トヨタの広報担当のつもり? 日経 金子冴月記者「経産相、自動運転『レベル4』に試乗」

「日本経済新聞は政府やトヨタ自動車の広報用メディアなのか」と思わせる記事が12日の夕刊ニュースぷらす面に出ていた。金子冴月記者が書いた「経産相、自動運転『レベル4』に試乗~米のトヨタ拠点を視察」という記事の全文は以下の通り。

錦帯橋

【日経の記事】

訪米中の西村康稔経済産業相は10日(日本時間11日)、シリコンバレーにあるトヨタ自動車の研究開発拠点を視察した。特定の条件下で運転を完全に自動化する「レベル4」を目指した試験車に乗車した。政府は2025年度までに全国40カ所でレベル4の自動運転サービスの実現を目標に掲げており、規制緩和など対応を急ぐ。

視察したトヨタ・リサーチ・インスティテュートは人工知能(AI)や自動運転、ロボットなどの最先端技術に関するトヨタ自動車の研究開発拠点だ。

西村氏は特定の場所であれば人が介在しない「レベル4」の実用化を目指した試験車で、市街地を10分ほど走行した。西村氏は後部座席に乗り、技術者が操作した。

乗車中は「安心して身を委ねられる」と話していたという。試乗後、記者団に「自動車が100年に1度の大きな変革期にきている。そのことを改めて肌で実感した」と語った。

自動運転車は、自動ブレーキや前方車追従などの機能がある「レベル1」や「レベル2」から、完全に車に運転を任せる「レベル5」まで、5段階にわかれる。

日本では4月、特定の条件下で運転を完全に自動化する「レベル4」を許可する制度を盛り込んだ道路交通法の改正案が成立した。経産省は22年度中にも福井県永平寺町でレベル4の自動運転の実現を目指している。

西村氏は記者団に対し、早ければ来月にも首相や関係閣僚とともに、自動車会社トップらと自動車がもたらす将来の社会を見据えた意見交換をしたいとの意向を示した。世界の自動車メーカーが競争を激化させる中、日本も環境整備を加速していくため、官民で課題などを議論する。


◎大きく取り上げているが…

囲み記事としてかなりの紙面を割いているが特にニュースはない。「西村康稔経済産業相」が「トヨタ自動車の研究開発拠点を視察した」だけの話だ。「特定の条件下で運転を完全に自動化する『レベル4』を目指した試験車に乗車した」ことも含めて大きく取り上げる価値はない。ベタ記事でも苦しい中身だ。

これを長々と記事にしたのが金子記者の意思かどうかは分からない。「面白い話だ。これはしっかり書き込もう」と金子記者が判断したのならば「自分は政府やトヨタの広報担当」といった意識が芽生えているのではないか。

この内容で大きめの囲み記事にする価値があると考えた担当デスクにも似たような意識があるのだろう。それも怖い。

金子記者としては「こんな話を記事にしなくても…」と思いつつ本社からの指示であれこれ書いたのかもしれない。そうだとしたら同情を禁じ得ない。政府や有力企業に媚びる傾向が日経で一段と強まっている表れだろう。


※今回取り上げた記事「経産相、自動運転『レベル4』に試乗~米のトヨタ拠点を視察

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220912&ng=DGKKZO64239290S2A910C2EAF000


※記事の評価はD(問題あり)。金子冴月記者への評価も暫定でDとする。

2022年9月10日土曜日

朝刊1面トップには苦しすぎる日経「グーグル、検索で国ごとに最適化」

「これで1面トップはさすがに苦しいだろう」と編集局の幹部は思わなかったのだろうか。10日の日本経済新聞朝刊に載った「グーグル、検索で国ごとに最適化~アジア主要国にチーム ニーズに対応、開発分散」という記事は苦しい内容だった。一言で言えば「ほぼニュース性がない」。

宮島連絡船

グーグル、検索で国ごとに最適化」が記事の柱だ。これまで「検索で国ごとに最適化」しない方針だった「グーグル」が「アジア主要国」を皮切りに「最適化」に乗り出すという話ならば1面トップの扱いも分かる。しかし、そうはなっていない。

まず「アジア」以外の動向については触れていない。なので「最適化」に乗り出す最初の地域が「アジア」かどうか判断できない。

それでもこれから「アジア主要国にチーム」を置くという話がしっかり出てくるのならば救いがある。しかし、そうはならない。日本に関しては以下のように書いている。

日本では2021年に専任チームの設立を決め、検索を担当するゼネラルマネジャーや研究開発のポストなどを順次増やしている。日本のユーザー特性に焦点を当て、使い勝手を向上させる機能の開発を進めている

専任チームの設立」の時期は断定できないが「2021年」だとすると「アジア主要国」での「最適化」は昨年には動き出していたことになる。それでも、これから一気に「アジア主要国」に広げていくという話なら何とかなる。インドに触れたくだりも見ておこう。

同様の専任チームはインドにも設立した。同国では『音声での検索が3割を占め、しかも複数の言語が使われる』(ラガバン氏)ことから、会話の解析技術を優先して開発しているという

インドでも「専任チーム」は既にあるようだ。では日本とインド以外の「アジア主要国」に広げていくのか。そうだとは思うが日印以外の「アジア主要国」がどの国を指すのか記事には明確な説明がない。

各市場に特化した開発チームを日本やインドを皮切りに東南アジアの国々へ広げ~」と書いているので「東南アジアの国々」だろうが、国の特定はできない。記事中に「ベトナム」の話は出てくるものの「アジア主要国」に含めていると取れる書き方ではない。

日本やインド」には既に「専任チーム」がある。これから「専任チーム」を作る「東南アジアの国々」が具体的にどの国を指すのか不明だし設立の時期にも触れていない。

検索・広告事業を率いるプラバッカー・ラガバン上級副社長が都内で日本経済新聞のインタビューに応じ」たからニュースはほぼなくても頑張ってニュース記事に仕立てたのだろう。

仮にそれを認めるとしても1面に持ってくる必要はない。同日の1面にある「物価高対策」でも「希望子ども数」でもいい。もっと1面トップにふさわしいネタがあったはずだ。

記者というより、この記事を1面トップに選んだ編集局幹部に反省を促したい。


※今回取り上げた記事「グーグル、検索で国ごとに最適化~アジア主要国にチーム ニーズに対応、開発分散

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220910&ng=DGKKZO64224640Q2A910C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年9月5日月曜日

ツッコミどころが多い日経ビジネス薬文江記者の「広がれ“イクメン休業”」

日経ビジネス9月6日号に薬文江記者が書いた「広がれ“イクメン休業” 男女格差是正の試金石」という記事は色々とツッコミどころが多かった。具体的に指摘してみたい。

錦帯橋

【日経ビジネスの記事】

厚生労働省によると、男性正社員のうち育休取得を希望したものの制度を利用できなかった割合は4割に達し、利用したのは2割にとどまる。日本企業に広く男性育休への理解を浸透させるのは容易ではない。

大きな壁となっているのが、「男は仕事、女は家庭」と性別で役割を決める社会通念だ。性別役割意識といわれ、日本は特にその傾向が強い。内閣府の「少子化社会に関する国際意識調査報告書」によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という考え方に反対するスウェーデン人の割合は95.3%に達したのに対し、日本人は56.9%だった。NPO法人ファザーリング・ジャパンの安藤哲也代表は「日本の男性育休制度は(期間や給付金の面で)世界一の水準だが、男女分業意識が根強いことが普及を妨げている」と指摘する。


◎なぜスウェーデンとだけ比較?

性別役割意識といわれ、日本は特にその傾向が強い」と書いているが、なぜか「スウェーデン」としか比較していない。これでは「日本は特にその傾向が強い」かどうか判断できない。

続きを見ていこう。


【日経ビジネスの記事】

内閣府が別の調査で日本人の性別役割意識を年代別に集計したところ、「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」との質問に対して「そう思う」「どちらかといえばそう思う」の合計が60代男性で63.5%を占めた。20代と30代の男性の比率はそれより下がるが、それでも40%を超える。

この「男は仕事をして家計を支えるべきだ」というのは、「男らしさ」に関する無意識の思い込み(バイアス)といえる。こうしたバイアスを持つ人が多いと、社会で性別役割分担が固定されバイアスに沿った画一的な生き方を強いられる。「男性学」やジェンダー論専門の伊藤公雄・京都産業大学教授は「ジェンダー平等に向け社会や家庭が急速に変化する中、無意識に持つ古い男性像との乖離(かいり)が大きくなり『生きづらさ』を感じる男性は多い」と解説する。


◎なぜ「無意識」?

『男性は仕事をして家計を支えるべきだ』との質問に対して『そう思う』『どちらかといえばそう思う』」と答えた人が多いことを問題視しているのに、なぜこういう考え方を「無意識の思い込み」と見なすのか。「無意識の思い込み」ならば「そう思わない」と答えるのが自然だろう。明確に「そう思う」人がなぜ「無意識」となってしまうのか。

さらに言えば「バイアス」とも言い難い。「男は仕事をして家計を支えるべきだ」というのは事実認識ではないからだ。1つの価値観であり認知が歪んでいる訳でもない。

薬記者の方に「バイアス」があるのではと感じる記述は他にもある。


【日経ビジネスの記事】

男女格差是正の先にあるのは、豊かな社会の実現だ。世界経済フォーラムは、国の豊かさを示す1人当たり国民総所得(GNI)と男女格差の相関関係をリポートで示している。それによると、北欧や英国、ドイツ、米国などGNIが高い国は共通して、男女格差が小さい傾向がある


◎相関ある?

記事に付けたグラフを見ても相関関係は感じない。あるとしてもわずかだろう。さらに言えば、相関関係があるからと言って因果関係があるとは限らない。なのに「男女格差是正の先にあるのは、豊かな社会の実現だ」と言い切ってしまっていいのか。

そして最大の問題が以下の記述だ。


【日経ビジネスの記事】

ジェンダー平等は女性の社会参画と同時に、男性に積極的な家事・育児への関わりを求めている。共働き世帯の育児環境を整えることで、出生率の改善と労働人口の増加が見込める。企業はより質の高い労働力を確保する選択肢が広がり、経済が活性化する好循環が生まれる。

また、社会の変化がもたらす多様な経験や価値観はイノベーションも後押しする。性別に縛られない柔軟な生き方にこそ、30年に及ぶ経済停滞の突破口がある


◎そんな根拠ある?

共働き世帯の育児環境を整えることで、出生率の改善と労働人口の増加が見込める」と薬記者は言うが何か根拠があるのか。日本では「共働き世帯の育児環境」を改善してきたが少子化には歯止めがかかっていない。

育休を取る男性が増えるのは悪くないが「出生率の改善」にはつながりそうもない。

社会の変化がもたらす多様な経験や価値観はイノベーションも後押しする」とも書いていて、これも根拠は示していない。薬記者の願望と見るべきだろう。

性別に縛られない柔軟な生き方にこそ、30年に及ぶ経済停滞の突破口がある」との結論にも同意できない。高度成長期には「性別に縛られない柔軟な生き方」があったのか。「性別に縛られない柔軟な生き方」は良いとしても、そこに「経済停滞の突破口がある」とは思えない。


※今回取り上げた記事「広がれ“イクメン休業” 男女格差是正の試金石」https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00117/00220/


※記事の評価はD(問題あり)。薬文江記者への評価も暫定でDとする。