2015年7月24日金曜日

日経「トレンドサーチ 70代こそ女子力消費」の無意味さ

載せる意味がない記事とは、この記事のことだろう。23日の日経朝刊企業・消費面に出ていた「トレンドサーチ~70代こそ『女子力』 消費 服・ネイル…流行にも敏感」は苦しい内容だった。70代以上の女性に焦点を当てるのは構わない。しかし、そこで「トレンドサーチ」をするならば、これまでの高齢女性にはなかったようなトレンドを紹介してほしい。「随時掲載」なのだから、新しいトレンドが見つからないのに、無理して記事を作り出す必要はないはずだ。

記事は以下のように構成されている。

(1)ネイルサロンに通う78歳の女性を紹介

(2)三越日本橋本店のシニア向け婦人服売り場で買い物を楽しむ70歳の女性を紹介

(3)横浜のフランス料理店で友人とランチを楽しむ79歳の女性を紹介

(4)70代以上はスカートもマグロも牛肉も高いものを買うというデータを紹介

(5)数年後には団塊の世代も70代に加わるので、「さらに輝く存在になりそうだ」と締める

北海のビーチリゾート、スヘフェニンヘン ※写真と本文は無関係です
正直言って、トレンド面で目新しい話がない。強いて挙げれば(1)だろうか。「ネイルサロンに通う70代以上の女性が増えている」という話に仕上げれば、「70代こそ『女子力』消費」で成立するかもしれない。

実際の記事はどうか。ネイルサロンに触れた部分を見てみよう。


【日経の記事】

東武百貨店池袋店(東京・豊島)のネイルサロン「ネイルズユニーク アルティミッド」。7月初旬、施術を受けた伊藤園子さん(78)は「爪だけハタチみたいでしょ」と笑う。この日は「夏」をイメージして水色や黄色にし、ラインストーンできらきら輝かせた。

同店に月に1度通う70代以上のリピーター客は約20人に上る。凝ったデザインを選び、客単価は1万2千円前後だ。


これでは、何とも言えない。ネイルサロンを利用する70代女性がいるのは不思議ではないし、1つのネイルサロンに70代以上のリピーターが約20人いるのは、多いのか少ないのか判断できない。記事で取り上げた「ネイルズユニーク アルティミッド」の話で押し切るにしても、「1年前は10%以下だった70代以上の比率が今では30%以上」といった「驚き」が欲しい。

たぶん、そういう新しい動きはないのだろう。ネイルサロンでこのレベルなので、(2)(3)はさらに辛い。


【日経の記事】

「このスパンコールの襟、かわいいわね」。7月初旬の平日午後、三越日本橋本店(東京・中央)の婦人服売り場「リ・スタイル レディ」で、白いパンツに鮮やかなブルーのトップスを着た橋本純子さん(70)は洋服を手に取った。

昨年9月にオープンした同売り場はシニア向けだが、流行を取り入れた服が目を引く。それもそのはず。30~40代の感度の高い女性たちに人気の伊勢丹新宿本店から商品が選ばれる。売上高は好調で、月によっては計画を10%以上上回る。

「たまにはフランス料理もいいかなと思って」。横浜ベイホテル東急(横浜市)のフランス料理店「クイーン・アリス」。友人4人でランチに訪れた埼玉県入間市の新谷弘子さん(79)は話す。

シニア向け旅行情報誌「ゆこゆこ」の同封クーポンを使った。同クーポンでランチの平均単価は2000円台後半と高額だが、「味や雰囲気など非日常感を求めている」(内海裕晃経営企画室室長)。


三越日本橋本店の話は、新しい売り場の宣伝にしか見えない。これで70代女性の消費トレンドを語るのは無理だ。「それもそのはず。30~40代の感度の高い女性たちに人気の伊勢丹新宿本店から商品が選ばれる」という書き方をためらいもなくできるのは、宣伝くさい記事を世に送り出すことに抵抗がないからだろう。そもそも、そんなに伊勢丹新宿店の商品が素晴らしいのならば、最初から日本橋ではなく新宿の伊勢丹で買い物をすればいいのではないか。

フランス料理のランチの話も意味がない。高いランチを楽しむ70代以上の女性は10年前も20年前もいた。「そういう人が増えている」と訴えたいのなら、それを裏付けるデータが欲しい。記事には「家計調査によると、70代以上が買う『スカート』は1枚あたり6749円。全世代平均より5割以上高い。食費でも世代別で一番高いマグロや牛肉を購入している」というデータは出てくる。しかし、過去との変化は見えない。「70代以上の女性の消費行動で高級志向が強まっている」と書きたいのならば、家計調査などでその変化を見せてほしい。

結局、記事を読んで分かるのは「70代でネイルサロンに通う人もいるし、服やランチに結構なお金を使う人もいる」といったところだ。しかし、そんなことは改めて言われなくても分かっている。

この記事のように「いくつになっても輝きたい――。70歳以上の女性がグルメやファッションを優雅に楽しんでいる。住宅ローンや子育てから解放され、豊富な人生経験もある。全人口の約1割を占める『なでしこ』たちは流行にも敏感で、女子力をいかんなく発揮している」と70代以上の女性の消費行動をバラ色に描くことは否定しない。しかし、「トレンドサーチ」であれば、トレンドの変化をデータで見せてほしいし、今までになかった新たな動きを紹介してもらいたい。


※記事の評価はD(問題あり)

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