2020年12月31日木曜日

間違い指摘の無視も「感情で判断」? 週刊エコノミスト藤枝克治編集長の編集後記に思うこと

2020年の最後は、週刊エコノミストの藤枝克治編集長が2021年1月12日号に書いた編集後記を取り上げたい。読者からの間違い指摘を無視して多くのミスを放置する雑誌の編集長の言葉として読むと色々と考えさせられる。
大阪城


全文は以下の通り。

【エコノミストの記事】

分断は、トランプ大統領による米国の話、と思っていたが、新型コロナが日本にもたらしたのも社会の分断だった。恐怖にかられてマスク着用や自粛に従わない者を犯罪者のごとく非難する人々と、コロナを風邪やインフルエンザと同様に捉えて無用の自粛に憤る人々の間には、憎しみに似た溝がある。

まだコロナがどういうものか、はっきりしなかった昨年春ごろは、それも仕方ないと思ったが、1年たって多くを学び、同じデータを見ているのに、両者の対立は先鋭化している。

要するに人は自分が知りたい事実や数字しか見ないのだろう。トランプ氏に投票した支持者は、4年たって減るどころか、逆に増えた。論理で説得しようとしても無駄だ。トランプ氏が好きか嫌いか、コロナは怖いかどうか、人は感情で判断し、理屈は後から付いてくる。数年たち冷静になって反省するのはどちらだろうか。


◎藤枝編集長を「論理で説得しようとしても無駄」?

人は自分が知りたい事実や数字しか見ないのだろう」とは思わない。そうではない「」も当たり前にいるはずだ。藤枝編集長は自分自身にも「知りたい事実や数字しか見ない」傾向があると気付いているようだ。でないと、こういう書き方にはならない。

そして「論理で説得しようとしても無駄だ」「人は感情で判断し、理屈は後から付いてくる」と続けている。

雑誌の編集長を務めるほどの人物だから、読者からの間違い指摘を無視してミスを放置するのがなぜ好ましくないか「論理で説得」できると信じて、これまで藤枝編集長にメッセージを送ってきた。しかし藤枝編集長は「感情で判断」する人であり、無視を正当化する「理屈は後から」いくらでも付けられるのだろう。

自分は藤枝編集長の「感情」に基づいて、気に食わない読者と「判断」されているのかもしれない。その場合は「論理で説得しようとしても無駄だ」。

12月25日にも藤枝編集長には問い合わせを送っている。やはり回答は届いていない。少なくとも自分は「憎しみ」とは無縁だが、藤枝編集長から見れば、「自分が知りたい事実」とは正反対の「事実」を突き付けてくる読者との間には「憎しみに似た溝」を感じるのだろう。

冷静になって反省」すべきなのは自分なのか。それとも藤枝編集長なのか。結果が出る日が来ると信じたい。

ついでに細かい注文を1つ。

恐怖にかられてマスク着用や自粛に従わない者を犯罪者のごとく非難する人々」と書くと「マスク着用や自粛に従わない者」が「恐怖にかられて」いるように見える。「マスク着用や自粛に従わない者を恐怖にかられて犯罪者のごとく非難する人々」などとした方が好ましい。

25日に送った問い合わせを再掲しておく。記事の説明で問題ないという「理屈は後から付いて」きたのだろうか。


【エコノミストへの問い合わせ】

岩田太郎様 週刊エコノミスト編集長 藤枝克治様 

12月29日・1月5日合併号の特集「世界経済総予測 2021」の中の「インタビュー1~ジム・ロジャーズ『21年の株は最後のひと上げ まだ割安の日本は“買い”だ』」という記事についてお尋ねします。記事中で「米国や日本の株式市場は過熱しており、史上最高値圏にある」とロジャーズ氏は述べています。

日経平均株価で見ると「史上最高値(終値)」は1989年に付けた3万8915円です。2020年に関しては3万円にも届かない状況が続いており「史上最高値圏にある」とは言えません。しかもロジャーズ氏自身が記事の中で「日本株」について「史上最高値よりまだ4割も安い」と述べており、発言に矛盾があります。

米国や日本の株式市場は過熱しており、史上最高値圏にある」というのはロジャーズ氏の発言を忠実に訳したのかもしれませんが事実関係が誤っているのではありませんか。回答をお願いします。間違いであれば次号で訂正してください。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。


※今回取り上げた記事「From Editors」


※記事の評価はC(平均的)。ミス放置を続けている責任を重く見て藤枝克治編集長への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。藤枝編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

がん「早期発見→手術」がベスト? 週刊エコノミスト藤枝克治編集長の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_27.html

2020年12月29日火曜日

小田嶋隆氏が日経ビジネスで展開した「コロナ楽観論批判」への「反論」

25日付の日経ビジネス電子版に載った「小田嶋隆の『ア・ピース・オブ・警句』 ~世間に転がる意味不明~来年が凡庸で退屈な一年でありますように」という記事の後半部分を見ながら問題点をさらに指摘していく。前半部分については以下の投稿を参照してほしい。

根拠示さず小林よしのり氏を否定する小田嶋隆氏の『律義な対応』を検証」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_28.html

夕暮れ時の巨瀬川
【日経ビジネスの記事】

新型コロナウイルスについては、まだまだわからないことがたくさんある

その一方で、はっきりとわかってきたこともたくさん出てきている。

無論、医師でもなければ感染症の専門家でもない私が、この問題を自分のアタマでどんなふうに読み解いているのかは、たいした問題ではない。

新型コロナウイルスへの対応のような「深い専門知識と広い視野の両方を持っていないと適切な解答にたどりつけないタイプの問題」については、そもそも「自分の頭」で考えることがむずかしい。

そこで、私は、この種の「自前の見識や思考力だけでは手に負えない論題」については、毎度

「どの専門家の見解を鵜呑みにしたら良いのだろうか」

という視点から対処している。そうすることによって、早呑込みを防ぐとともに、思考を節約している次第だ。

今回の新型コロナ問題について申し上げるなら、私は、この春以来、5人ほどの専門家の著書やツイートやインタビュー記事を参考にしながら、なんとか現状に追随しようと苦闘している。

もっとも、細かいことを言えば、私が信頼を置いているその5人ほどの専門家の間にも、多少の見解の相違はある。じっさい、特定の時期における特定のタームに関しては、正反対の見解が並んで、困惑したこともある。

とはいえ、大筋において、彼らの意見は一致している。

以下、現状の日本における新型コロナ理解のための手引きとして、長らく当欄の担当編集者をしてくれていたY氏が聞き手として編集した書籍をご紹介しておく。私の一押しと考えてもらって良い。

『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』峰宗太郎・山中 浩之著(日経プレミアムシリーズ)

というのが、その本だ。

扱っているテーマのバランスの良さや情報の充実度もさることながら、説明の順序や深さがとてもよく考えられている。

どういうことなのかというと、

説明しすぎないこと

断定しすぎないこと

深みにハマりすぎないこと

を注意深く考えた態度に終始しているということだ。

基礎的で大切で見逃してはならない重要なポイントについてだけ、何度も丁寧に、言い方を変えながら解説している。これはなかなかできないことだ。

いったいに、専門家は説明過剰になりがちだ。

知っている知識を全部並べないと気がすまない人も多い。

私自身、自分が多少ともくわしい分野についてはかなり説教くさいオヤジに変貌している自覚がある。

でも、この本は、読者の側が知っておくべきことを、順序正しく知らしめることに専念している。専門家が書いた書籍でこういう内容のものはめずらしい。おそらく聞き手として素人の立場の人間を立てたことが功を奏しているのだと思う。たしかに、ふりかえってみれば、Y氏は、こっちの説明がくどくなると、たちまち退屈そうな顔をしてみせる油断のならない聞き手だった。この種の書籍の進行役としてはまさにうってつけの人材だったわけですね。


◎その方法で大丈夫?

新型コロナウイルス」に関して上記のようなやり方で小田嶋隆氏は正しい判断ができると信じているようだ。同意できない。

まず「どの専門家の見解を鵜呑みにしたら良いのだろうか」というアプローチがダメだ。基本姿勢としては「どの専門家の見解」も「鵜呑み」にすべきではない。「この人はそういう見方なんだなぁ」ぐらいでいい。「新型コロナウイルスについては、まだまだわからないことがたくさんある」のならばなおさらだ。

説明しすぎないこと」「断定しすぎないこと」「深みにハマりすぎないこと」といった条件を満たしているからと言って「5人ほどの専門家」の主張が正しいとは限らない。「断定しすぎないこと」はまだ分かるが「説明しすぎないこと」と「深みにハマりすぎないこと」は正しいかどうかとほぼ無関係だ。

自分ならば「エビデンスに基づいて冷静かつ論理的に自論を展開している人をあくまで暫定的に信じる」といったところだろうか。

説明の順序や深さがとてもよく考えられている」ことは、著者としての優秀さの基準にはなるが、それを「主張がおそらく正しい」と結び付けてしまうのは危険だ。

記事の続きを見ていこう。


【日経ビジネスの記事】

さて、新型コロナについて楽観論を拡散している人たちは

ただの風邪と思って対応した方が害が少ない

「商業メディアは、コロナ脅迫が目先の視聴率や部数に結びつくからということを理由に、大げさに騒ぎ立てている」

「ウイルスの害そのものよりも、ウイルスによる経済の萎縮の害の方が大きい」

「新型コロナウイルスの死者は、例年のインフルエンザウイルス感染による死者よりも少ない」

「コロナ警戒の影響で経済が停滞すれば、食えなくなった商店主や従業員に給与を支給できなくなった経営者の自殺が増える」

「新型コロナウイルスで死ぬ可能性があるのは、ほぼ高齢者と基礎疾患を持つ人々に限られている。ということは、若者や働き盛りの人間に優しいウイルスと見ることも可能だ」

「ウイルス克服の最終シナリオが、集団免疫の獲得であるのだとしたら、時期の違いがあるだけの話で、だとすれば、ロックダウンで経済停滞を招くような小細工をせずに、自然でゆるやかな感染拡大と免疫獲得を待つのが得策だ」

てな調子の、コロナ疲れした人々に俗受けしそうなお話を繰り返している。

ひとつひとつ反論しても良いのだが、細かい論点のやりとりに巻き込まれることは控えようと思っている。なぜというに、「異端の説」は、それを論破するべく議論の対象とすることで、かえって広まってしまう性質を持っているものだからだ。

たとえばの話、「地球は平面だ」でも「月はアルミ製の黄色い円盤だ」でも良いのだが、この種のトンデモな主張は、マトモな人間が大真面目に反論することでいよいよ世間にあまねく知られることになる。しかも、世の中には何パーセントかの割合で「異端の説」を偏愛する人々が暮らしていて、そういう人たちは、言説の妥当性よりは、その独自性に誘引される傾きを持っている。

彼らは、

「自分が凡庸なマスコミ発の情報に踊らされ、退屈きわまりない定説をアタマから信奉してしまっている世俗的で集団主義的で臆病で平凡なあいつらとは違う、孤高で冷徹でユニークでとんがった独自路線の人間であること」

を証明するべく、より信じにくい言説を、アクロバティックな解釈を総動員して信じ込むことを好む。

逆に言えば、

「すんなりと説明されている、誰にでもわかるようなお話」

を、テンからバカにしてかかるわけだ。

コロナ楽観論がどれほどバカげた言説であるのかについては、さきほどご紹介した書籍を読んでもらえば、隅々まで納得できるはずだ。ちなみに私は発売初日にKindle版を手に入れて、その日のうちに読了している。

論争から逃げているように見えてしまうのもシャクなので、あまりにもあたりまえで凡庸なお話ではあるが、以下、「コロナ楽観論」への反論をひととおり書き並べておくことにする。

なお、この反論への反論にはお答えしない。理由はさきほども述べた通り、論争は、もっぱら異端の論を拡散せんとしている崖っぷちの人々の利益にしかならないからだ


◎どっちかにしたら…

論争から逃げているように見えてしまうのもシャク」なので「反論をひととおり書き並べておく」が「反論への反論にはお答えしない」らしい。「論争は、もっぱら異端の論を拡散せんとしている崖っぷちの人々の利益にしかならない」と信じているのならば「シャク」だとしても「論争から逃げ」るべきだ。

逃げているように見えてしまうのもシャク」ならば「反論への反論」にも「お答え」した方がいい。でないと結局は「論争から逃げているように見えてしまう」。「異端の論を拡散」させた上で「論争から逃げているように見えてしまう」やり方をなぜ選ぶのか。

さらに言えば「コロナ楽観論」は正しいかどうかを判定できる類のものではない。「ただの風邪と思って対応した方が害が少ない」かどうかは厳密に言えば検証不可能だ。

2020年を2回やれるのならば厳密な比較実験ができるかもしれないが、無理だ。2021年に「ただの風邪と思って対応」すれば、ある程度の比較はできるが厳密さに欠ける。

」をどう判断するのかも困難を伴う。自殺者についてもコロナ対策との因果関係を正確に判断するのは難しい。

月はアルミ製の黄色い円盤」かどうかと違って「コロナ楽観論」は厳密な検証ができない。それを「異端の説」で「バカげた言説」と斬って捨てるのは感心しない。かつて地動説は「異端の説」とされた。当時、小田嶋氏が生きていれば「バカげた言説」と相手にしなかっただろう。それが正しい態度かどうかは歴史が証明しているのではないか。

記事の続きを見ていく。


【日経ビジネスの記事】

「ゆるやかで自然な感染拡大」などという都合の良い感染形態は存在しない。じっさい、初期対応で放置に近い態度(経済優先のためにロックダウンを回避した)で臨んだスウェーデンは、近隣諸国に比べて人口比で何倍もの死者を出し続け、国王が政府を批判する事態になっている。


◎基準の問題では?

ゆるやかで自然な感染拡大」はある得る。「ゆるやかで自然な感染拡大」をどう定義するかの問題だ。「近隣諸国に比べて人口比で何倍もの死者を出し続け」ていることは「ゆるやかで自然」と矛盾しない。「死者」が多いから「感染拡大」が急だとも言い切れない(可能性は高いだろうが…)。

正確な「感染拡大」の状況が分からないので断定はできないが、日本でも「ゆるやかで自然な感染拡大」が続いていると個人的には見ている。

さらに続きを見ていく。


【日経ビジネスの記事】

「インフルエンザより死者が少ない」というのは、チェリーピッキング(←論者にとって都合の良いデータだけをつまみ食いにする態度)の結果にすぎない。例年と違って、多くの国民がマスク・手洗い・三密回避に気を配っている2020年シーズンのデータを見ると、インフルエンザの感染者は劇的に減少している。新型コロナウイルスが同じ状況下で、感染拡大しつつある現状を見れば、感染力においても、インフルエンザウイルスよりはるかに厄介な相手であることは明白だ。

老人と基礎疾患持ちだけを感染回避させるような小器用な対策は不可能


◎対策は可能では?

人との接触を避ければ「感染回避」の対策になるはずだ。「老人と基礎疾患持ち」で「感染」を恐れる人は実行に移しているのではないか。そんなに難しい話ではない。

さらに見ていく。


【日経ビジネスの記事】

ちなみに指摘しておけば、「基礎疾患を持った人間と老人しか殺さないから優しいウイルスだ」式の立論は、あからさまな優生思想でもあれば、「働き手」となる人間の価値ばかりを高く評価する狂ったネオリベ思想でもある


◎優生思想と関係ある?

優生」とは「良質の遺伝形質を保つようにすること」(デジタル大辞泉)だ。「老人」はこれから子供を作る訳ではないので「優生」とほぼ無関係だ。それに「基礎疾患を持った人間と老人」が邪魔だから「ウイルス」に殺してもらおうと「コロナ楽観論」者が考えている訳でもないだろう。「あからさまな優生思想」という指摘は強引かつ的外れだ。

『働き手』となる人間の価値ばかりを高く評価する狂ったネオリベ思想」という見方もおかしい。「基礎疾患を持った人間と老人」は働いていないとの認識なのか。多くの「働き手」がいるはずだ。

個人的には「子供や若者がほとんど死なないという点で新型コロナウイルスは優しいウイルス」だと思っている。「老人」より子供を守ってあげたい。しかし子供は現時点で「働き手」ではない。将来の「働き手」だから助けたい訳でもない。まだ十分に人生を謳歌していないと思うから優先的に守ってあげたい。それは「『働き手』となる人間の価値ばかりを高く評価する狂ったネオリベ思想」なのか。

ようやく記事の終盤に来た。


【日経ビジネスの記事】

集団免疫の獲得が最終的な着地点であるのだとしても、それを「国民の多数派が感染すること」によって達成するのは、「棄民シナリオ」にほかならない。凡庸な言い方になるが、人々の活動を制御することを通じて感染をコントロールし、医療崩壊を回避しながら、ワクチン接種の効果を待つのが、最も穏当な集団免疫獲得のロードマップということになろう。

常識は、多くの場合、凡庸なものだ。

真実もまた、そのほとんどは凡庸に見える

来年が凡庸で退屈な一年になるようお祈りして、本年最後のごあいさつに代えたい。

よいお年を。


◎なぜ「棄民シナリオ」?

集団免疫の獲得が最終的な着地点であるのだとしても、それを『国民の多数派が感染すること』によって達成するのは、『棄民シナリオ』にほかならない」と主張する理由が分からない。

ワクチン」がない状態を考えてみよう。徐々に感染が広がり、最終的には「集団免疫の獲得」となる。それを「棄民シナリオ」とするならば、厳しい行動制限を課して感染のスピードを抑えたとしても「国民の多数派が感染すること」によって「集団免疫の獲得」に至るのは同じだから、やはり「棄民シナリオ」だ。

有効かつ安全な「ワクチン」があるのに使わないという主張に対して「棄民シナリオ」だと言うのはまだ分かる。しかし小田嶋氏が紹介した「コロナ楽観論」の主張の中に、そうした内容は見当たらない。

真実もまた、そのほとんどは凡庸に見える」というくだりに注文を付けておく。「真実もまた、そのほとんどは凡庸に見える」とは思わないが、とりあえず受け入れてみよう。ただし「だから凡庸に見えるものが真実だ」とは言えない。なので正しさを判断する時に「凡庸に見える」かどうかを考えても意味はない。

人々の活動を制御することを通じて感染をコントロールし、医療崩壊を回避しながら、ワクチン接種の効果を待つのが、最も穏当な集団免疫獲得のロードマップということになろう」と小田嶋氏は結論を導いているが、問題はどの程度「人々の活動を制御する」のかだ。

ロックダウンと呼ばれるようなやり方で「人々の活動を制御する」のならば「最も穏当」とは言い難い。「なるべくマスクをしましょうね」ぐらいの話で終わるのならば確かに「穏当」だが、これだと「コロナ楽観論」の主張と変わらなくなる。

この反論への反論にはお答えしない」と小田嶋氏は宣言したので、「お答え」になってしまうような主張は一切できなくなった。本当にこの宣言を遵守するのならば、悪くないのかもしれない。小田嶋氏は「コロナ楽観論」に関する「論争」に参加すべき人物ではない。「コロナ楽観論」は「バカげた言説」だと信じたままでいいので、「論争」からは距離を置いてほしい。


※今回取り上げた記事「小田嶋隆の『ア・ピース・オブ・警句』 ~世間に転がる意味不明~来年が凡庸で退屈な一年でありますように

https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00116/00100/


※記事の評価はE(大いに問題あり)。小田嶋隆氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

どうした小田嶋隆氏? 日経ビジネス「盛るのは土くらいに」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_25.html

山口敬之氏の問題「テレビ各局がほぼ黙殺」は言い過ぎ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/06/blog-post_10.html

小田嶋隆氏の「大手商業メディア」批判に感じる矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_12.html

杉田議員LGBT問題で「生産性」を誤解した小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/lgbt.html

「ちょうどいいブスのススメ」は本ならOKに説得力欠く小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/ok.html

リツイート訴訟「逃げ」が残念な日経ビジネス「小田嶋隆のpie in the sky」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/pie-in-sky.html

「退出」すべきは小田嶋隆氏の方では…と感じた日経ビジネスの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_16.html

「政治家にとってトリアージは禁句」と日経ビジネスで訴える小田嶋隆氏に異議ありhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_10.html

「利他的」な人だけワクチンを接種? 小田嶋隆氏の衰えが気になる日経ビジネスのコラムhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_15.html

根拠示さず小林よしのり氏を否定する小田嶋隆氏の「律義な対応」を検証https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_28.html

2020年12月28日月曜日

根拠示さず小林よしのり氏を否定する小田嶋隆氏の「律義な対応」を検証

小田嶋隆氏のコラムを長く愛読してきた。最近は衰えが目立つようにはなってきたが、それでも読むのを楽しみにしている。言ってみれば小田嶋氏寄りの人間だ。その自分から見ても25日付の日経ビジネス電子版に載った「小田嶋隆の『ア・ピース・オブ・警句』 ~世間に転がる意味不明~来年が凡庸で退屈な一年でありますように」という記事は問題ありだ。

耳納連山に沈む夕陽

記事の前半を見た上で問題点を指摘したい。

【日経ビジネスの記事】

今年の当欄の更新は今回で最後だ。

なるべくなら明るい話題で2020年を締めくくりたかったのだが、諸般の事情から、どうやらそういうわけにもいかない。

12月21日、22日の両日、毎日新聞が有料契約者向けに公開しているWebコンテンツのひとつ「医療プレミア」内で、小林よしのり氏(67)のインタビュー記事を掲載した。

この記事に関連して、私は以下の2つのツイートを発信した。

《いま、この時期に、この状況で、よりにもよって小林よしのりの言い分をまるで無批判に垂れ流しにするインタビュー記事を掲載する毎日新聞の見識に心の底からあきれている。逆張り言説でメシを食おうとする人間がいること自体は個人の自由だが、新聞がそういうヤカラに翼を与えちゃダメだろ。午前9:19・2020年12月21日》

《(下)も小林よしのり氏の言いたい放題を拝聴するだけの翼賛記事ですね。論評も検証もゼロ。両論併記すらしていません。失望しました。午前9:39・2020年12月22日》

で、このツイートへの反応が軽く炎上している。

賢明な人間であれば、自分の炎上ネタは扱わない。

というよりも、賢い人間の振る舞いとしては、小林よしのり氏のような人物とのやりとりは黙殺することになっている。別の言い方をすれば、小林よしのり氏のようなタイプの言論人は、優秀な文筆家や賢明な有識者が、あえて相手にしないからこそ、メディアの中で生き残ることができているわけだ。

でも、私はあまり賢くない。

なので、今回は、新型コロナウイルスを軽視する論陣を張っている人々をあえてテーマとして持ってくることにする。

過剰に賢明でないことは、書き手としての私の数少ない長所のひとつだ。

というのも、賢明で先の見える人間は、面倒くさい仕事には関与しないものだからだ。

そして、厄介なやりとりや危険を伴う論争を回避する賢さを備えた書き手は、いつしか文筆の仕事から離れてしまうのだな。

私の知る限りでも、何人もの秀逸な文章家が、業界を見限っている。彼らはいまや別の世界でまったく違ったタイプの仕事をしている。

勘違いしてはいけない。出版業界が彼らを見捨てたのではない。彼ら優秀な書き手が、面倒くさいばかりでさしたるメリットを提供しない文筆の仕事に愛想を尽かしたのである。

しかしながら、もう一度言うが、私は賢くない。

なので、小林よしのり氏のような、対峙した相手になんらの利益をももたらさない面倒くさい人間にも、律義に対応する。わがことながら愚かなリアクションであることは自覚している。でもまあ、こうして相手をしてさしあげるのは、これが最後だ。クリスマスプレゼントだと思ってもらえるとありがたい。

さて、私がこの労多くして益少ない論争に片足を突っ込んだ理由は、必ずしも愚かさだけではない。

個人的な自覚としては、私がこのテーマをあえてテキスト化することにした理由は、新型コロナウイルスの感染危機が拡大すればするほど、世間にはびこっている「コロナ楽観論」(←と、勝手に名前をつけます)の有害さもまた巨大化しつつある、と、そう考えたからだ。

ということはつまり、この原稿は、世のため人のために為されている一種の慈善事業でもある。

私はサンタクロースなのかもしれない。


◎相手を否定するのならば…

小田嶋氏は「小林よしのり氏」をかなり激しく否定している。否定や批判は悪くないが、しっかりした根拠は欲しい。しかし小田嶋氏は「小林よしのり氏」の主張の問題点を全く指摘していない。記事の後半で一般的な「コロナ楽観論」に対する小田嶋氏の考えを示してはいる。だが、その前にやることがある。

小林よしのり氏の言いたい放題」の中に事実誤認があるのか。差別発言があるのか。そうした「論評も検証も」できる場を与えられたのに、なぜそれをしないのか。

相手をしてさしあげる」と小田嶋氏は言っているが「小林よしのり氏のような、対峙した相手になんらの利益をももたらさない面倒くさい人間」などと根拠も示さず悪く言っているだけだ。「律義に対応する」しているとは思えない。

そもそも話の展開もおかしい。

賢明な人間であれば、自分の炎上ネタは扱わない。というよりも、賢い人間の振る舞いとしては、小林よしのり氏のような人物とのやりとりは黙殺することになっている」と小田嶋氏は書いている。

小田嶋氏の「2つのツイート」に「小林よしのり氏」が嚙みついてきたのならば「小林よしのり氏のような人物とのやりとりは黙殺することになっている」と書くのも分かる。しかし「小林よしのり氏」がアクションを起こしたと取れる記述はない。なのに「小林よしのり氏」に対して「リアクション」してしまっている。

リアクション」するのならば「ツイートへの反応」に対してとなるのが自然だ。あらぬ方向へ「リアクション」が向かっている。「小林よしのり氏」としては「小田嶋氏の何のアクションも起こしていないのに…」となるのではないか。


※今回取り上げた記事「小田嶋隆の『ア・ピース・オブ・警句』 ~世間に転がる意味不明~来年が凡庸で退屈な一年でありますように

https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00116/00100/


※今回取り上げた記事の後半部分については以下の投稿を参照してほしい。

小田嶋隆氏が日経ビジネスで展開した「コロナ楽観論批判」への「反論」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_29.html


※記事の評価はE(大いに問題あり)小田嶋氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

どうした小田嶋隆氏? 日経ビジネス「盛るのは土くらいに」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_25.html

山口敬之氏の問題「テレビ各局がほぼ黙殺」は言い過ぎ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/06/blog-post_10.html

小田嶋隆氏の「大手商業メディア」批判に感じる矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_12.html

杉田議員LGBT問題で「生産性」を誤解した小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/lgbt.html

「ちょうどいいブスのススメ」は本ならOKに説得力欠く小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/ok.html

リツイート訴訟「逃げ」が残念な日経ビジネス「小田嶋隆のpie in the sky」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/pie-in-sky.html

「退出」すべきは小田嶋隆氏の方では…と感じた日経ビジネスの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_16.html

「政治家にとってトリアージは禁句」と日経ビジネスで訴える小田嶋隆氏に異議ありhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_10.html

「利他的」な人だけワクチンを接種? 小田嶋隆氏の衰えが気になる日経ビジネスのコラムhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_15.html

2020年12月27日日曜日

90年ごろの創価大学は9割が「非学会員」? 週刊ダイヤモンドの特集「創価学会90年目の9大危機」

週刊ダイヤモンドに久しぶりの間違い指摘をしてみた。「90年ごろ、非学会員の比率は、創価大学では9割、創価高校ではほぼ10割といわれていた」と書いているが「学会員の比率」の誤りではないかという内容だ。年明け後の対応に注目したい。

シップ神戸海岸ビル

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド 編集長 山口圭介様 担当者様

1月9日号の特集「創価学会90年目の9大危機」の中の「創価高の難関大合格者激減~“創価エリート教育”の迷走」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

90年ごろ、非学会員の比率は、創価大学では9割、創価高校ではほぼ10割といわれていた。だが令和の今のそれは、大学で8割程度、高校で9割くらいと、じわりと『非学会員率』が増えつつあるという

この説明には矛盾があります。「非学会員の比率」は「創価大学」では「9割」から「8割程度」へ、「創価高校」でも「ほぼ10割」から「9割くらい」へと低下しているはずです。しかし「『非学会員率』が増えつつある」と書いています。

常識的には「90年ごろ」に「創価大学では9割、創価高校ではほぼ10割」が「非学会員」だったとは思えません。「非学会員の比率」となっているのは「学会員の比率」の誤りではありませんか。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「創価高の難関大合格者激減~“創価エリート教育”の迷走


※記事の評価はD(問題あり)

2020年12月26日土曜日

ROEは「分母と分子を複利で成長させ」ないと維持できない? 日経 中山淳史氏の誤解

日本経済新聞の中山淳史氏は書き手としてはやはり厳しい。少なくとも本社コメンテーターといった肩書を付けてコラムの執筆を任せるのはやめるべきだ。「ROE」に関して「10%の水準を守ろうとすれば、分母と分子をそれぞれ複利で成長させ続けないと実現しない」と説明しているが明らかに間違いだ。

大阪市内を流れる淀川

日経には以下の内容で問い合わせを送った。


【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 中山淳史様 

26日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~超過利潤生んでこそ経営」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

ROEは純利益÷自己資本に100を掛けて算出する経営指標だが、例えば『優良』の入り口とされる10%の水準を守ろうとすれば、分母と分子をそれぞれ複利で成長させ続けないと実現しない

これを信じれば「ROE」で「10%の水準」を維持するためには「分母と分子をそれぞれ複利で成長させ続け」る必要があるはずです。しかし、そうしなくても「10%の水準」は維持できます。

自己資本」100億円、「純利益」10億円で「10%の水準」を達成しているA社について考えてみましょう。A社は「純利益」を全て配当に回します。なので「自己資本」は100億円のままで「複利で成長」はできません。

純利益」も10億円でずっと横ばいです。これも「複利で成長」には当たりません。つまり「自己資本」100億円、「純利益」10億円が続いていきます。にもかかわらず「ROE」は「10%」のままです。

ROE」で「10%の水準を守ろうとすれば、分母と分子をそれぞれ複利で成長させ続けないと実現しない」という説明は誤りではありませんか。そもそも「自己資本」は少ない方が「10%の水準」を維持する上で有利です。記事の説明に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

追加でもう1つ指摘しておきます。以下のくだりについてです。

日本企業の平均的資本コストは約8%だとされている。安倍晋三政権では『ROEを8%に』とする号令が企業にかかったが、それはこの資本コストを意識した数字であり、あくまで『マイナス超過利潤をなくそう』との意味だった。つまり、8%ではお金が減りもしないし、増えもしない

ROE」が「資本コスト」を下回ったからと言って「お金」が減る訳ではありません。「8%ではお金が減りもしないし、増えもしない」と中山様は解説していますが、株主から見ると「お金」は増えます。100億円の「自己資本」を使って8億円の純利益を得れば「自己資本」は増えていきます。純利益の全額を配当に回せば別ですが、配当は株主が受け取るので、株主から見るとやはり「お金」は増えます。

資本コスト」を下回っている状態を中山様は「お金」が減っていると認識しているようですが誤解です。「株主の期待するリターンを得られていない状態」などと理解した方が良いでしょう。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアの一員として責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「Deep Insight~超過利潤生んでこそ経営

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201226&ng=DGKKZO67720570V21C20A2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html

日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post.html

ゴーン氏の「悪い噂」を日経 中山淳史氏はまさか放置?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_21.html

GAFAへの誤解が見える日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/gafa-deep-insight.html

日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_31.html

「自動車産業のアライアンス」に関する日経 中山淳史氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_6.html

「日経自身」への言及があれば…日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/deep-insight.html

45歳も「バブル入社組」と誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/45-deep-insight.html

「ルノーとFCA」は「垂直統合型」と間違えた日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/fca.html

当たり障りのない結論が残念な日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight.html

中国依存脱却が解決策? 日経 中山淳史氏「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_26.html

資産は「無形資産含み益」だけが時価総額に影響? 日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight_16.html

やはり苦しい日経 中山淳史氏の「Deep Insight~『時間経済』は商機か受難か」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight_27.html

理解に苦しんだ日経 中山淳史氏の「Deep Insight~テスラが変える車のKPI」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/deep-insightkpi.html

2020年12月25日金曜日

日本株は「史上最高値圏」とジム・ロジャーズ氏は語るが…週刊エコノミストに問い合わせ

週刊エコノミストの記事で「ジム・ロジャーズ」氏が「米国や日本の株式市場は過熱しており、史上最高値圏にある」と述べている。「日本」に関しては「史上最高値圏にある」とは思えないので以下の内容で問い合わせをしている。

大阪市中之島の紅葉

【エコノミストへの問い合わせ】

岩田太郎様 週刊エコノミスト編集長 藤枝克治様 

12月29日・1月5日合併号の特集「世界経済総予測 2021」の中の「インタビュー1~ジム・ロジャーズ『21年の株は最後のひと上げ まだ割安の日本は“買い”だ』」という記事についてお尋ねします。記事中で「米国や日本の株式市場は過熱しており、史上最高値圏にある」とロジャーズ氏は述べています。

日経平均株価で見ると「史上最高値(終値)」は1989年に付けた3万8915円です。2020年に関しては3万円にも届かない状況が続いており「史上最高値圏にある」とは言えません。しかもロジャーズ氏自身が記事の中で「日本株」について「史上最高値よりまだ4割も安い」と述べており、発言に矛盾があります。

米国や日本の株式市場は過熱しており、史上最高値圏にある」というのはロジャーズ氏の発言を忠実に訳したのかもしれませんが事実関係が誤っているのではありませんか。回答をお願いします。間違いであれば次号で訂正してください。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「インタビュー1~ジム・ロジャーズ『21年の株は最後のひと上げ まだ割安の日本は“買い”だ』

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210105/se1/00m/020/072000c


※記事の評価はD(問題あり)

2020年12月24日木曜日

財務体質の強化になる? 日経「エイベックス 本社ビル売却へ」

 最近の日本経済新聞で気になる言葉の1つに「財務」がある。24日の朝刊企業2面に載った「エイベックス 本社ビル売却へ~700億円で、カナダのファンドに」という記事を材料にこの問題を考えてみたい。

JR久留米駅に入ってくる列車

【日経の記事】

エイベックスは東京都港区の本社ビルをカナダの大手不動産ファンド、ベントール・グリーンオーク(BGO)に売却する方針を固めた。金額は700億円強となる見通し。エイベックスは新型コロナウイルスの感染拡大で音楽ライブを開催できなくなるなど、業績が悪化していた。発表済みの希望退職者の募集と合わせ、資産の売却で財務を強化する狙いがあるとみられる。


◎「財務を強化」?

財務」とは「財政に関する事務」(デジタル大辞泉)を指す。財務部の人員を増やすといった話ならば「財務を強化」でいいだろう。しかし「資産の売却」で「財務を強化」と言われると妙な感じになる。

企業の資産・負債の状況を「財務体質」と表現するのは分かる。定着した用語だ。最近の日経でよく見る「財務を強化」は「財務体質を強化」を略しているようだが違和感は拭えない。できれば「財務体質を強化」と書いてほしい。

さらに言えば「資産の売却で財務を強化」できるのかという疑問も残る。例えば増資ならば「財務体質」は良くなる。しかし「資産の売却」は違う。

エイベックス」の「本社ビル」の価値が「700億円強」だとしよう。これを売却して現金に替えても「エイベックス」の持つ資産額は変わらない(税金等は考慮しない)。不動産で持つか現金で持つかの違いだけだ。

簿価が「700億円強」を下回っている場合は売却益が見込める。その場合には「財務体質」が良くなったと言えるだろうか。見かけ上の自己資本は増えるかもしれないが、実質的な変化はない。時価ベースで考えれば「エイベックス」の「財務体質」に大きな変化はない。

資産の売却で資金繰りを良くする」効果はあるだろう。「エイベックス」が「本社ビル」を売却するのも、そのためだと推測できる。

当面は本社を移転しない見通し」なので「エイベックス」には売却後に賃料負担が生じる。売却で得た資金を有効に使えなければ、賃料負担のマイナスが上回り、結果的に「財務体質」が悪化する可能性も十分にある。

資産の売却」を発表する企業は「財務を強化」などと説明するかもしれない。しかし経済紙である日経の記者には「本当に財務体質の改善につながるのか。単なる資金繰り対策では?」と考える力を持ってほしい。

ついでに記事についていくつか注文を付けておきたい。

【日経の記事】

エイベックスの業績は悪化している。2020年4~9月期の連結決算は最終的なもうけを示す最終損益が32億円の赤字(前年同期は17億円の赤字)だった。最終赤字は同期間として2年連続となる。ライブ中止にともない、グッズ販売が落ち込んだことも打撃となった。21年3月期通期の見通しは「未定」としている、足元でも感染が広がるなど、収益の回復に向けた道筋は見えていない。


◎逆接ではないのなら…

逆接でない場合、接続詞「」の使用は避けたい。「21年3月期通期の見通しは『未定』としているが、足元でも感染が広がるなど、収益の回復に向けた道筋は見えていない」という記述に関しては「21年3月期通期の見通しは『未定』としており、足元でも感染が広がるなど、収益の回復に向けた道筋は見えていない」などとした方が好ましい。

こと」もできるだけ使わないようにしたい。「ライブ中止にともない、グッズ販売が落ち込んだことも打撃となった」に関しては「ライブ中止に伴うグッズ販売の落ち込みも打撃となった」でいい。情報量はそのままに文字数を減らせているはずだ。

最後に「同社」の使い方について。

【日経の記事】

シンガポールを拠点とする資産運用会社、3D・インベストメント・パートナーズが3日、関東財務局に提出した大量保有報告書では、同社株の5.59%を保有することが明らかになった。


◎「同社=3D・インベストメント・パートナーズ」

この書き方だと「同社=3D・インベストメント・パートナーズ」になってしまう。「3D・インベストメント・パートナーズが3日、関東財務局に提出した大量保有報告書では、エイベックス株の5.59%を保有することが明らかになった」と伝えたかったはずだ。記事の説明は厳しく言えば間違っている。記事を書くための基礎的な技術をしっかり身に付けてほしい。


※今回取り上げた記事「エイベックス 本社ビル売却へ~700億円で、カナダのファンドに

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201224&ng=DGKKZO67627770T21C20A2TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年12月23日水曜日

材料が弱すぎるFACTA「老害撒き散らす『近鉄の暴君』」

個人的にはヨイショ記事より批判記事が好きだ。しかし他者を批判するのだから、きちんと根拠は示すべきだし表現にも配慮すべきだ。FACTA2021年1月号に載った「老害撒き散らす『近鉄の暴君』」という記事はそれができていない。「老害」「暴君」という言葉はできれば使ってほしくない。使うのならば「老害」「暴君」だと納得できる十分な材料が欲しい。

有明海

記事の一部を見ていこう。

【FACTAの記事】

近鉄GHDの足を引っ張ったのは上場旅行会社のKNT︱­CTホールディングスだ。21年3月期の連結最終損益が170億円の赤字を見込み、子会社合併や賞与削減などで22年度に200億円のコストを削減する。約7千人いる社員は24年度末までに約3分の2に減らし、22年度入社の新卒採用は取りやめる。店舗138店は約3分の1に縮小する。危機的状況だ。

原因は社長・会長として13年間、近鉄GHDに君臨する小林哲也会長(77)にある。

とにかく怖い。悪い報告を持っていくと怒鳴りつけ、罵倒する。KNT︱CTは足がすくみ、早めのリストラで手が打てなかった。同じことが百貨店や不動産など近鉄グループ各社にも起きて赤字が雪ダルマ式に膨らんでいった。


◎それだけ?

悪い報告を持っていくと怒鳴りつけ、罵倒する」と書いてあるだけで具体性に欠ける。「なんでこうなるんだ。この前と話が違うじゃないか。どうしてきちんとできないんだ」といった程度の話かもしれない。この材料だけで「暴君」はさすがに厳しい。他に材料が出てくるのかと思って読み進めたが、結局「暴君」に関してはこれだけだ。

小林哲也会長」が「自分に都合がいい人事」をやったともFACTAは訴える。これも根拠は薄弱だ。


【FACTAの記事】

少林寺拳法オンラインマガジン(16年6月28日付)のインタビューでリーダー像を「いちばん大切なのは責任を回避しないこと。俺が責任を取るから心配するなという姿勢が大事」「この人は信頼できない、と思われるとその組織は崩壊する」と説いた。その決してあってはいけない現象が現在、近鉄GHDで起きている。

「公平であることが大事で、好き嫌いや、自分に都合がいいように考えるような人は絶対にダメ」とも語ったが、今年のトップ交代で「自分に都合がいい人事」をやった。16年に傘下の三重交通グループホールディングス社長に出していた小倉敏秀氏(65)を4年で呼び戻し、近鉄GHD社長に据えた。社長だった吉田昌功社長(68)を近鉄不動産会長に放逐し、自らは会長で留任し、さらに社長交代のどさくさに紛れて新設のCEO(最高経営責任者)に就いた


◎どこが「自分に都合がいい人事」?

どこが「自分に都合がいい人事」なのかよく分からない。「小倉敏秀氏(65)を4年で呼び戻し、近鉄GHD社長に据えた」上で「社長だった吉田昌功社長(68)を近鉄不動産会長に放逐」したのはなぜ「自分に都合がいい」と言えるのか説明がない。

新設のCEO(最高経営責任者)に就いた」のは「自分に都合がいい人事」かもしれないが、元々が実質的な最高権力者だったのならば大きな変化はない。「決してあってはいけない現象が現在、近鉄GHDで起きている」とまで言うのならば、もう少ししっかりした材料が欲しい。

記事の結論部分も頂けない。


【FACTAの記事】

小林会長は大手前高校同窓会のホームページで「毎朝、CDに録音した6種類の体操をやる」と打ち明けた。「ラジオ体操第1」「ラジオ体操第2」「みんなの体操」などを30分ぐらいかけて全てこなす。さらに30分ほど近所をウォーキング。入浴し、仏壇と神棚に手を合わせてから軽く朝食をとり出勤する。内視鏡手術で良性腫瘍を切除してから酒をやめた。カラオケで大好きな軍歌を歌う時に少し飲む程度だ。

これだけ体に気を使い、神仏の加護を願えば長生きしてしまう。近鉄GHD社員3万人(連結)にとって最大の悩みである


◎早く死ぬべき?

小林会長」が「長生きしてしまう」ことが「近鉄GHD社員3万人(連結)にとって最大の悩み」と言い切っている。どうやって「社員3万人」の意思を確認したのか。「小林会長」の死を「社員3万人」が願っているかような書き方は「社員」にも「小林会長」にも失礼だ。

百歩譲って「社員3万人」のほとんどが「小林会長」の「長生き」を懸念しているとしても、それを書くべきか疑問だ。きちんと事実関係を確認していない場合は、さらに罪深い。


※今回取り上げた記事「老害撒き散らす『近鉄の暴君』」https://facta.co.jp/article/202101018.html


※記事の評価はD(問題あり)

2020年12月22日火曜日

無理のある説明が並ぶ日経1面「パクスなき世界~大断層(2)」

 22日の日本経済新聞朝刊1面に載った「パクスなき世界~大断層(2)『巨大ITが秩序』現実に デジタル化、国家置き去り」という記事は無理のある内容だった。特に引っかかったのが以下のくだりだ。

耳納連山に沈む夕陽

【日経の記事】

伊ボローニャ大のエミリオ・カルバノ准教授らの実験では、複数の人工知能(AI)に商品の値付けをさせると、バラバラだった価格が最終的に均一の価格となった。AIが他者の動きをにらんで利益を最大化した結果で、消費者には不利益となる価格水準に収まるケースもある。

既存の概念では「価格カルテル」に当てはまりそうな事例だが、カルバノ氏は「人の意思や交渉によらない『AIカルテル』を、現行の競争法で規制することはできない」と指摘する。経済協力開発機構(OECD)もこれまでの報告書で同様の懸念を示している。


◎既存の概念では「価格カルテル」?

AIが他者の動きをにらんで利益を最大化した結果」として「バラバラだった価格が最終的に均一の価格となった」という「実験」に触れて「既存の概念では『価格カルテル』に当てはまりそうな事例」と解説している。

AI」間で合意があるならば分かるが「他者の動きをにらんで利益を最大化した」だけならば、同じことを人間がやっても「価格カルテル」にはならない。

例えば同じ地域のガソリンスタンドの価格が「均一」に近い状態になるのは珍しくない。クルマの運転者に分かるようにそれぞれのガソリンスタンドが道路に向けて価格を表示している影響が大きいのだろう。だが「他者の動きをにらんで利益を最大化」しただけならば取り締まりの対象とはならない。

AI」が既に話し合いや合意形成の力を持っているという話ならば、そう書いてもらわないと困る。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

米グーグルの新たな決済アプリ。2021年からシティバンクなどの口座がひも付くが、銀行側には口座維持手数料や最低残高の決定権が制限されているという。グーグルなど「GAFA」合計の時価総額はシティなどグローバルに展開する30金融機関の2倍。強者のルールに弱者が従う構図は金融も例外ではない。

トマス・ホッブズが17世紀に「リバイアサン」で提唱して以来、万能な国家が市民の上に立つのが近代の統治モデルの前提だった。21世紀のいま、膨大な個人データとデジタル技術を持つ巨大IT企業は国家をしのぐ影響力を持ち始めている

米国では当局がグーグルとフェイスブックを反トラスト法(独占禁止法)で提訴している。圧倒的な市場支配力で公正な競争を阻害していると判断し、M&A(合併・買収)で事業領域を拡大したフェイスブックに対しては、事業分割も求めている


◎「国家をしのぐ影響力」?

膨大な個人データとデジタル技術を持つ巨大IT企業は国家をしのぐ影響力を持ち始めている」と言うが、それを裏付ける材料は見当たらない。「口座維持手数料や最低残高の決定権」を「グーグル」が「制限」できるからなのか。「国家」の「影響力」はそれをはるかにしのぐはずだ。

圧倒的な市場支配力で公正な競争を阻害していると判断」されれば「国家」の力で「事業分割」を強制されることもある。記事を読む限りでは「巨大IT企業」が「国家をしのぐ影響力を持ち始めている」感じはしない。

記事の結論部分も引っかかった。


【日経の記事】

富やデジタル化の恩恵を人々に平等に分配する仕組みやルールを誰が、どう作るのか。各国の政府や司法機関は前例のない問いに対する答えを探し始めている。


◎「平等に分配」すべき?

富やデジタル化の恩恵を人々に平等に分配する仕組みやルールを誰が、どう作るのか」と書いているので「富やデジタル化の恩恵」は「平等に分配」すべきとの考えが取材班にはあるのだろう。起業して成功を収めた人も、働かずに生活保護を受けて暮らしている人も「」は「平等に分配」されるべきなのか。

税金などを使って「」を再分配するのは分かる。しかし「平等に分配」していたら、起業して頑張ろうと考える人はほとんどいなくなるだろう。良い就職先を見つける必要もなくなる。働かずに家で待っていれば「」を「平等に分配」してもらえるからだ。

それでは社会が上手く回らないことは自明のはずだが…。


※今回取り上げた記事「パクスなき世界~大断層(2)『巨大ITが秩序』現実に デジタル化、国家置き去り

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201222&ng=DGKKZO67491180Y0A211C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

「女性も働くことで幸福度は上がる」と日経に書いた出口治明氏の誤解

21日の日本経済新聞朝刊女性面に載った「ダイバーシティ進化論~コロナと女性活躍 行動を変え、未来をつくろう」という記事に「女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」と立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏が書いている。この説明は正しいのだろうか。

大阪取引所

これを考えるために3月6日付の東洋経済オンラインに載った「『働く妻』が働けば働くほど不幸になる深刻理由」という記事を見ておこう。筆者の橘木俊詔氏は自分たちの研究結果を以下のように記している。

【東洋経済オンラインの記事】

第1に、既婚女性に関しては、本人の家計負担率が高くなる(すなわち本人がもっと働く)と、本人の生活満足度が低下するのである。すなわち自分が働けば働くほど家計所得は増加すれど生活満足度(幸福度)は下がるのが、既婚女性で働く人の気持ちなのである

一方で既婚男性に関しては、本人がもっと働いて所得が増加しても、生活満足度には影響を与えない。女性と男性とでは自分がもっと働くことの効果に関して、異なる評価をしているとの発見は興味深い。


◎出口氏の話とは合わないが…

女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」という出口氏の解説とは逆に、女性の場合は「自分が働けば働くほど生活満足度(幸福度)は下がる」というのが橘木氏らの結論だ。

既婚男性に関しては、本人がもっと働いて所得が増加しても、生活満足度には影響を与えない」のだから、夫婦の「幸福度」を最大化するためには「男は仕事、女は家庭」という分業制が合理的だ。もちろん全ての夫婦に当てはまる訳ではないが「女性も働くこと」を社会全体で推進していけば、女性の「幸福度」は低下していくだろう。

もう1つ材料を提示しよう。「2億円と専業主婦」という本で著者の橘玲氏は「第6回世界価値観調査(2010~2014)」の内容を以下のように紹介している。

【「2億円と専業主婦」の引用】

ニュージーランドは、「とても幸せ」な専業主婦の割合が55.4%なのに対し共働きは38.7%で、その格差は16.7%と専業主婦の方が幸福度が高くなっています。こうした「専業主婦の幸福度が高い国」は59カ国中35カ国(約6割)です。

日本(格差13.8%)はそのニュージーランドに次いで「専業主婦の幸福度が高い国」ですが、「#MeToo」運動発祥の地で共働きが当然とされるアメリカも19位(格差5.1%)ですから、世界的にも「専業主婦は幸せ」という傾向があることがわかります。


◎願望と現実は別なのに…

世界の中でも日本は「専業主婦の幸福度が高い国」のようだ。「共働き」の女性よりも明確に「幸福度が高い」らしい。「女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」という出口氏の説明はますます怪しくなってくる。

ここで取り上げた情報がそろって間違っている可能性も当然にある。出口氏は何らかの確固たる根拠を持って「女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」と断言したのかもしれない。しかし少なくとも記事中では根拠を示していない。

推測だが「女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」と根拠なしに思い込んでいるのだろう。なぜそうなるかと言うと「そうでなくては困るから」ではないか。

出口氏の書いたものを読んでいると「女性も男性も同じように働き、家事を平等に分担するのが好ましい。ついでに言えば国会議員の数も企業の管理職の数も男女同数が理想」という価値観を感じる(明確にそう出口氏が言っている訳ではない。しかし方向としては合っていると思う)。

こうした「あるべき社会の理想像」を持つのは悪くない。しかし「自分の理想に近付く」のと「世の中が良くなる」のは別だ。「仕事も家事も男女が同じようにやる社会」では社会全体の幸福度が上がるのか。経済成長率が高まるのか。企業価値が向上するのか。少子化に歯止めがかかるのか。これらは個別に検証する必要がある。

自分の思い描く理想に近付けば、社会全体が好ましい方向に動くとの前提を出口氏には感じる。だから「女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」と根拠なしに言い切ってしまうのだろう。

女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになるが、女性の幸福度は下がる」という調査結果があっても、出口氏がそれを受け入れて考えを改めるとは考えにくい。不都合な情報として無視していくのではないか。読者としては「出口氏の話は信用しない」という姿勢で臨むしかない。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~コロナと女性活躍 行動を変え、未来をつくろう

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201221&ng=DGKKZO67458140Y0A211C2TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。出口治明氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。


女性「クオータ制」は素晴らしい? 日経女性面記事への疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/04/blog-post_18.html

「ベンチがアホ」を江本氏は「監督に言った」? 出口治明氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_2.html

「他者の説明責任に厳しく自分に甘く」が残念な出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/apu.html

日経で「少子化の原因は男女差別」と断定した出口治明APU学長の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/apu.html

日経「ダイバーシティ進化論」巡り説明責任 果たした出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/apu.html

日経「ダイバーシティ進化論」に見えた出口治明APU学長の偏見
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/apu.html

日経女性面での女性管理職クオータ制導入論が苦しい出口治明氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/blog-post_20.html

立命館アジア太平洋大学は日本人学生の6割が東京・大阪出身? 日経ビジネスの回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/6.html

人生100年時代は60歳で「残り半分」だと出口治明APU学長は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/10060apu.html

「男性と女性の差は筋力だけ」と日経ビジネスで語った出口治明APU学長の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/apu.html

2020年12月21日月曜日

「強引」な比較をあえて選ぶ日経 西條都夫上級論説委員「核心」のご都合主義

分析記事を書く上で比較対象の選択は重要だ。不適切な比較をすれば記事の信頼性に疑問符が付く。21日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「核心~市場が映す企業の浮沈」という記事で、筆者の西條都夫上級論説委員はあえて不適切な比較をしているように見える。

夕暮れ時のうきは市

【日経の記事】

さて日本企業の弱点として「成長力不足」が指摘されて久しいが、この弱みは株高の今も継続中だ。ここでは日本を代表する銘柄として、経済界のパワーエリートである経団連正副会長の母体企業19社に登場してもらおう

時価総額を自己資本で割った株価純資産倍率(PBR)の値が大きいほど成長期待が大きく、逆に1倍を切れば、経営のまずさやその他の要因で、株主価値が将来にわたって破壊されると市場が判断していることを意味する。厳しくいえば、PBR1倍割れ銘柄は「事業の継続が株主にとってプラスにならない」とみなされている企業である。

日本企業はもともとこのPBRが海外勢に比べて低いが、経団連銘柄はさらに低く、19社平均のPBRは0.75倍。個別企業でみても2倍超えの銘柄はなく、最高がコマツの1.46倍。以下1倍超えは日立製作所、三菱電機、ANAホールディングス(HD)、トヨタ、東京海上HD、NTTの計7社で、残る12社は時価総額が解散価値(=自己資本)を下回っている。

なぜこんなことになるのか。シンプルな答えは経団連銘柄の構成企業が総じて古く、成長力に欠けることだ。19社中、純粋な戦後生まれはANAHDただ1社で、それとて1952年の創業。社齢は70歳近い。

一方で米国のダウ構成銘柄はマイクロソフトやウォルマートなど戦後生まれが半数近くを占める。経団連銘柄とダウ銘柄を直接比較するのはやや強引かもしれないが、やはり日本の産業社会の新陳代謝の不足はここでも明らかであり、私たちが直視すべき「日本経済の弱み」である。


◎なぜ「日米の株価指数」で比べない?

米国のダウ構成銘柄」との比較対象を日本で探すとすれば何が適切だろうか。株価指数の構成銘柄だということは最優先で考慮すべきだ。すぐに思い付くのは日経平均株価だろう。

ダウ」の30社に対して日経平均は225社で社数が違いすぎると考えるならばTOPIXコア30がある。これなら日米ともに30社で比べられる。どちらもその国の主要企業が名を連ねる。「構成銘柄」の歴史の長さで日米の「新陳代謝」の差を見せたいのならば、自分が思い付く範囲ではTOPIXコア30が最適だ。西條上級論説委員が適切な比較対象をしっかり探していれば辿り着けそうな指数だ。TOPIXコア30を知らなかったとしても日経平均は選べるはずだ。

しかし西條上級論説委員は「経団連正副会長の母体企業19社」を選んでいる。「経団連銘柄とダウ銘柄を直接比較するのはやや強引かもしれないが」とは書いているが、「やや強引かもしれない」ではなく「明らかに不適切」だ。

どうしても「経団連銘柄」を使いたいのならば、米国の比較対象をビジネス・ラウンドテーブルの会員企業にしてもいい。このぐらいのことは西條上級論説委員も分かっているだろう。

では、なぜ不適切な比較を選んだのか。「米国のダウ構成銘柄」には「新陳代謝」が顕著に感じられ、「経団連銘柄」にはそれがないからではないか。西條上級論説委員が描こうとするストーリーに合うように比較対象を恣意的に捉えたと考えれば腑に落ちる。

例えばTOPIXコア30を比較対象に選ぶとソフトバンクグループやキーエンスなど多くの「戦後生まれ」企業が入ってくる。米国も「戦後生まれ」は「半数近く」に過ぎないのだから日米の差はあまり明確にならない。

それはまずいと考えて「経団連銘柄」との比較を選んだのならば、ご都合主義との誹りを免れない。TOPIXコア30や日経平均との比較は全く思い付かなかったとすれば、分析記事を書くための基礎的な能力が欠けていると言わざるを得ない。


※今回取り上げた記事「核心~市場が映す企業の浮沈

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201221&ng=DGKKZO67474640Y0A211C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫上級論説委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西條上級論説委員については以下の投稿も参照してほしい。


春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html

7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html

日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html

何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html

日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html

タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html

日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html

さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_29.html

「根拠なき『民』への不信」に根拠欠く日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_73.html

「日の丸半導体」の敗因分析が雑な日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_18.html

「平成の敗北なぜ起きた」の分析が残念な日経 西條都夫論説委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_22.html

「トヨタに数値目標なし」と誤った日経 西條都夫論説委員に引退勧告
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_27.html

「寿命逆転」が成立してない日経 西條都夫編集委員の「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_17.html

「平井一夫氏がソニーを引退」? 日経 西條都夫編集委員の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_19.html

「真価が問われる」で逃げた日経 西條都夫論説委員の真価を問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_16.html

周知の「顔」では?日経 西條都夫上級論説委員「核心~GAFA、もう一つの顔」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/gafa.html

2020年12月20日日曜日

高齢者による高齢者のための主張…野口悠紀雄氏に失望した東洋経済オンラインの記事

 「自分が属する集団の利益を守れ」と外に向かって訴えるのは美しくない。訴えるならば「結果として社会全体の利益につながる」という理屈が欲しい。しかし20日付の東洋経済オンラインに載った「80歳の私が政府のコロナ対策に強く切望する事~通常医療を保って救える命を守れるように」という記事で、筆者で早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏は「自分を含む高齢者の利益を守れ」と強く訴える。同氏を長年高く評価してきたが今回の記事には失望した。

夕暮れ時の巨瀬川(久留米市)

一部を見ていこう。

【東洋経済オンラインの記事】

そこで、つぎのような考えが生まれます。

まず、高齢者や基礎疾患者は、隔離状態に置きます。

それら以外の人々については、社会経済活動の制限は、最小限にとどめます。

そして、ある程度の感染を許容します。

感染が拡大して医療崩壊に至った場合には、高齢者は見捨てます。これは、「トリアージ」(選別)と呼ばれる措置です。

スウェーデンでは、実際に、これに近い考えが採られました。

医療現場での個別的判断だけでなく、都市のロックダウンを行わないなど、社会全体としての政策にも、その考えが反映されました。これを「社会的トリアージ」と呼ぶことができるでしょう。

私は、こうした政策には断固反対です。 

沖縄やスウェーデンやトリアージのことを考えていたのは、春のことです。ところが、最近になって、日本でもすでに間接的な社会的トリアージが始まっていると考えるようになりました。

そう考えたきっかけは、私の近所の病院で、新型コロナウイルスのクラスターが発生したことです。

40人程度の感染者が発生したようです。一部のテレビでは報道されましたが、新聞に記事が現れません。地域版にも記事がでません。

外来には影響がなかったからということのようです。外来患者への通知もありませんでした。

つまり、この程度のことは、もはやニュースにもならない「当たり前」のことになってしまったのです。今年の春であれば、大ニュースだったでしょう。

ところで、この件があったため、この病院の外来診療は、当面休止になってしまいました。ここは地域の中心病院なので、多くの人が診療を受けられなくなりました。その大部分は高齢者です。

コロナによる医療逼迫とは、コロナ患者の病床が不足することだけでなく、通常医療ができなくなることでもあると、改めて認識しました。

コロナ感染を免れたとしても、そのほかの病で命を落とす確率が上昇しているわけです。


◎自分を守りたいから?

社会的トリアージ」には「断固反対」だと野口氏は言う。その理由は「コロナによる医療逼迫とは、コロナ患者の病床が不足することだけでなく、通常医療ができなくなることでもある」からのようだ。「地域の中心病院」で「多くの人が診療を受けられなく」なり「その大部分は高齢者」だったという事例も紹介している。

記事では「高齢者や基礎疾患者以外の人々が『自分は大丈夫』と考えるのは、多分、合理的な判断」とも書いている。そうした人たちが「高齢者」のために「社会経済活動の制限」に協力すべきだというのが野口氏の考えだ。

つまり「高齢者や基礎疾患者以外の人々」の犠牲の下に自分たちの利益を増やしたいと訴えている。気持ちは分かる。だが自分たちへの利益誘導を懸命に訴えられても共感はできない。

野口氏は記事を以下のように締めている。

SNSの発信は若い世代が中心です。60代以上の高齢者になるほど、インターネットの利用率、スマホの保有率は下がり、その声はSNSではあまり現れません。なんとか、コロナ弱者である高齢者の声が、政策当局に届いてほしいものです

高齢者」が声を上げて「高齢者」の利益を守る。悪いことではない。しかし、それが全体の利益につながるという理屈を野口氏は示していない。そうなると結局は「高齢者」による「高齢者」のための訴えだ。

個人的には「若い世代」の利益を優先させたい。それを堂々と言えるのは自分が「若い世代」に属していないからだ。「感染が拡大して医療崩壊に至った場合には、高齢者は見捨て」ていい。基本的には年齢が上の者から犠牲になるような仕組みにしたい。

結果的に自分が「見捨て」られる側に回るとしても受け入れるつもりだ。そこそこ長生きしてきた人間が「若い世代」に多大な犠牲を強いてさらに長生きしようとする姿勢には醜さしか感じない。

若い世代」もいずれ年老いていく。自分たちが「高齢者」になった時に同じような状況になれば、上の世代を見習って今度は自分たちが「見捨て」られる側に回る。そういう社会にであってほしい。

野口氏のような優れた書き手が「80歳」になって声高に「高齢者」の利益を守れと主張したのには驚いたし、がっかりした。

自分も「80歳」になったら野口氏のように考えるのだろうか。だとしたら怖い。


※今回取り上げた記事「80歳の私が政府のコロナ対策に強く切望する事~通常医療を保って救える命を守れるように

https://toyokeizai.net/articles/-/396720


※記事の評価は見送る

2020年12月19日土曜日

「悩み解決法」の説明が意味不明な日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」

日本経済新聞の中村直文編集委員は説明が上手くないのだろう。18日の朝刊企業3面に載った「ヒットのクスリ~『オールインワン』商品台頭 本や服、何度も役立つ」という記事は理解に苦しんだ。「精神科医が教える ストレスフリー超大全」という本について記事では以下のように説明している。

耳納連山に沈む夕陽

【日経の記事】

今年の「ヒットのクスリ」は今回で最後。新型コロナウイルスの感染拡大で大きく変わった消費の姿を伝えてきた。1つの特徴が1粒で2度、あるいは3度おいしい「オールインワン型」商品の台頭だ。

ダイヤモンド社の書籍「精神科医が教える ストレスフリー超大全」は販売部数が15万を突破した。ストレスをきちんと夜にリセットし、ため込まない方法を指南する。新型コロナで悩む人は多かっただろうが、この本の何がそんなに刺さったのか。

著者で精神科医の樺沢紫苑(しおん)氏はユーチューブで悩み相談を受けていた。相談件数が2500に達するなかで気づきが生まれたという。「90%は過去の質問と同じで、おおむね複数のパターンに大別できる。すでに答えも出ている。実行するかどうかだけ」

同書では「人間関係」「プライベート」「仕事」「健康」「メンタル」の5つのテーマを設定、さらにそれぞれを複数の論点に切り分けている。「個別の悩みを解決法としての『to do』に置き換えている。ストレス本の決定版」と樺沢氏は自負する。1冊に全て入っているから、どんな悩みが生じても当てはまるというわけだ。

例えば「人間関係」では「人から嫌われたくない」という悩みがある。これに関する事実関係として「好意の1対2対7」の法則を示す。自分を嫌う人が1割、好きが2割、中立が7割という意味だ。そして「to do」として3割のキーマンに7割のエネルギーをそそぐことをあげる。

自分を嫌いなのは1割しかいないのだから、おおむね気にする必要がないということだ。樺沢氏は「不調の兆しが出たら、睡眠、朝散歩、運動を徹底するだけ。仮に人間関係が改善できなくても身体を整えれば、メンタルも整う」という。


◎答えになってる?

人から嫌われたくない」という「悩みがある」としょう。「自分を嫌う人が1割、好きが2割、中立が7割」という「『好意の1対2対7』の法則」も受け入れよう。

悩める人に対して「3割のキーマンに7割のエネルギーをそそぐこと」を勧めるらしい。それで「人から嫌われ」ないようになるのならば立派な助言だ。しかし記事は「自分を嫌いなのは1割しかいないのだから、おおむね気にする必要がないということだ」と続く。

嫌われ」ずに済むのではなく「おおむね気にする必要がない」という話になってしまう。さらに言えば「おおむね気にする必要がない」のに、なぜ「3割のキーマン(『嫌う』と『好き』の合計だと仮定)に7割のエネルギーをそそぐ」べきなのか。「自分を嫌う」人にも2割超の「エネルギーをそそぐ」計算になる。「おおむね気にする必要がない」のならば「自分を嫌っていない9割」にほぼ100%のエネルギーを注ぐべきではないか。

そもそも「気にする必要がない」を答えとしていいのか。これで良ければ多くの問題は確かに解決する。「上司とそりが合わない」「ネットで叩かれて傷付いてしまう」「部活でレギュラーになれない」といった「悩み」には「気にする必要がない」で対応できる。「どんな悩みが生じても当てはまる」に近付けるが、そこに価値は感じない。

本の中で「精神科医の樺沢紫苑氏」はもっときちんと説明しているのかもしれない。内容がおかしいと感じたならば中村編集委員も取り上げないだろう。せっかく取り上げるのならば、ちゃんとした「著者」だと伝わるように書いてほしい。今回の内容だと「樺沢紫苑氏」が愚か者に見えてしまう。

今年の『ヒットのクスリ』は今回で最後」という書き方から判断すると、このコラムは来年も続くのだろう。であれば、記事を担当するデスクなど周りがしっかり中村編集委員を支えてあげるべきだ。今回のような記事を世に送り出してしまうのは今年で終わりにしたい。


※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~『オールインワン』商品台頭 本や服、何度も役立つ

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201218&ng=DGKKZO67441890X11C20A2TJ3000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。


無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html

「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html

渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html

早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html

日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html

「高島屋は地方店を閉める」と誤解した日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_23.html

野球の例えが上手くない日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_15.html

「コンビニ 飽和にあらず」に説得力欠く日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_23.html

平成は「三十数年」続いた? 日経 中村直文編集委員「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/deep-insight.html

拙さ目立つ日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ~アネロ、原宿進出のなぜ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_28.html

「コロナ不況」勝ち組は「外資系企業ばかり」と日経 中村直文編集委員は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/blog-post.html

データでの裏付けを放棄した日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_17.html

「バンクシー作品は描いた場所でしか鑑賞できない」と誤解した日経 中村直文編集委員https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_11.html

「新型・胃袋争奪戦が勃発」に無理がある日経 中村直文編集委員「経営の視点」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_26.html

2020年12月18日金曜日

女性だけ「念入り」にすべき? 日経社説「コロナで困窮する女性への支援念入りに」

女性に限定して問題を論じる意味があるのか。18日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「コロナで困窮する女性への支援念入りに」という社説を材料にこの問題を考えてみたい。社説の全文は以下の通り。

JR久留米駅に停車中の無限列車

【日経の社説】

新型コロナウイルスの感染拡大が、労働市場を直撃している。とりわけ女性は非正規で働いている人が多く、雇用が不安定だ。コロナによる影響も、女性の多いサービス業などで強く出ている。

女性の収入減や失職は、その家族をふくめ大きなダメージとなる。育児など家庭内での負担も増えるなか、新たに仕事を探すのも簡単ではない。ひとりで抱え込み、精神的に追い込まれることがあってはならない。暮らしを安定させられるよう、政府や自治体はあらゆる策を動員してほしい。

大事なのは、必要な支援が必要な人にしっかり届くことだ

野村総合研究所が10月に実施した調査では、休業を余儀なくされているパート・アルバイトの女性で、休業手当を受け取っていない人は7割にのぼった。卸・小売り、宿泊、飲食などの業種でその割合が高い。外出自粛や営業時間短縮の影響が表れている。

企業が従業員に休業手当を支払う場合、政府は雇用調整助成金を出してバックアップしている。先行きへの不安を広げぬよう、経営者はできる限り休業手当を支払う努力をすべきだ。ほかの業務に配置転換するなど、従業員を休ませずに済む方法はないか探る努力も尽くしてほしい。

政府は休業手当を受け取っていない中小企業の従業員を対象に、休業前の賃金の8割を休んだ日数に応じて支給する「休業支援金・給付金」制度も設けている。本人が直接、申請できる。こうした制度を政府はもっと周知すべきだ。

感染の収束が見通せないため、休業中の従業員がもとの職場に復帰できなくなる心配もある。非正規の契約が更新されない「雇い止め」が増えることも懸念される。

介護サービスなど人材の需要が旺盛な分野は少なくないが、女性一人ひとりの事情に応じてきめ細かく対応することが大切だ。国のハローワークの機能を、民間ノウハウを取り入れて強める必要がある。新しい仕事に移るための能力開発の支援もより重要になる。

コロナによる暮らしへの影響は多岐にわたる。就労支援と福祉が連携することも一層、大切になる。一定の条件のもと収入が減った人らに家賃を補助する制度は、支給期間の延長が決まった。自治体のなかには、生活困窮者への相談窓口を年末年始も開くところもある。悩みをしっかり受け止められるよう、柔軟に対応してほしい。


◎男女を区別する意味ある?

女性は非正規で働いている人が多く、雇用が不安定だ。コロナによる影響も、女性の多いサービス業などで強く出ている」というのが事実だとして「女性への支援」を男性に比べて「念入りに」する必要があるだろうか。

非正規で働いている」男性も当然にいるし、正規雇用での職を失う男性もいる。「女性の多いサービス業など」でも男性は働いているはずだ。仮に「支援」が必要な人の8割が「女性」だとして、人数が多いから男性よりも「女性」を「念入りに」支えていくべきだろうか。基本的には男性差別だ。男女の別なく「必要な支援が必要な人にしっかり届く」ようにすべきだ。

例えば「女性」は家計の主な担い手になるケースが圧倒的なので、補助的な役割の男性よりも「念入りに」支えるべきとの主張であれば、まだ理解できる。しかし常識的に考えれば、この根拠で「念入り」な「支援」を正当化できるのは男性の方だろう。

女性の収入減や失職は、その家族をふくめ大きなダメージとなる」と社説では書いている。「男性の収入減や失職は、その家族をふくめ大きなダメージとはならない」と言えるのならば「女性」に限定して「支援」の必要性を訴えていくのも分かる。しかし現実と合致しないのは明らかだ。

男性には既に「念入り」な「支援」があるのに「女性」にはないといった場合も「女性への支援念入りに」と訴える意味は出てくる。しかし社説にそうした記述はない。

必要な支援が必要な女性にしっかり届くこと」は「必要な支援が必要な人にしっかり届くこと」と同義ではない。社説を書いた論説委員も分かっているはずだが…。


※今回取り上げた社説「コロナで困窮する女性への支援念入りに

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201218&ng=DGKKZO67447410Y0A211C2EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

2020年12月17日木曜日

過去との比較が抜けた日経「東芝、5年で1兆円投資~再生エネ買収など検討」

17日の日本経済新聞朝刊1面に載った 「東芝、5年で1兆円投資~再生エネ買収など検討」という記事は完成度が低かった。全文を見た上で具体的に指摘したい。

耳納連山に沈む夕陽

【日経の記事】

東芝は今後5年間で1兆円を投資する。風力発電事業への参入などM&A(合併・買収)にも資金を投じる。これまで不採算事業の売却など財務改善を優先してきた。業績が回復してきたことで、借入金も活用しつつ攻めの経営に転じる。

風力発電では関連技術などの買収や協業を検討し、火力や原子力発電で培った発電ノウハウと組み合わせて事業を拡大する。また発電所などのインフラ向けサービスの売上高営業利益率は9%と高く、成長が見込める。蒸気タービンの部品メーカーなどを買収し、他社製タービンの更新需要を取り込む。

M&Aは1件あたり数百億円規模までを想定する。過去の大型買収の失敗を踏まえ、リスクを分散させつつ、稼ぐ力を示す投下資本利益率(ROIC)や投資効率を表す内部収益率(IRR)などを使って管理する。

資金は借り入れや、半導体メモリーのキオクシアホールディングス株の売却で賄う。有利子負債は9月末の約6000億円から、2000億円程度増える見通し。自己資本に占める純有利子負債の比率を30%程度に抑えて健全性を保つ。

中期経営計画では最終年度の2026年3月期に営業利益で4000億円と、今期予想(1100億円)の約3.6倍を目指す。投資を積極化し、達成につなげる。


◇   ◇   ◇


気になった点を列挙してみる。

(1)暦年での話?

12月中旬に出た記事で「今後5年間で1兆円を投資する」と書いてあれば「来年(2021年1月)からの5年間)と取るのが自然だ。しかし決算期が3月なので「2021年4月からの5年間」のような気もする。記事でも「中期経営計画では最終年度の2026年3月期に~」と書いている。暦年かどうかは明示した方がいい。


(2)過去との比較は?

今後5年間で1兆円を投資する」と書いているだけで過去との比較はない。「攻めの経営に転じる」と言うのだから「投資」を増やすのだろう。これまでの「5年間」と比べてどのくらいの増加になるのかは必須の情報だ。


(3)「自己資本に占める純有利子負債の比率」?

自己資本に占める純有利子負債の比率」という記述は厳しく言えば誤り。「純有利子負債」は「自己資本」の一部ではない。「自己資本に対する純有利子負債の比率」などとすべきだ。



※今回取り上げた記事「東芝、5年で1兆円投資~再生エネ買収など検討

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201217&ng=DGKKZO67401420X11C20A2MM8000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2020年12月16日水曜日

「携帯値下げ」の恩恵は40代まで? 日経「看板政策、20~40代に照準」の無理筋

16日の日本経済新聞朝刊政治面に載った「看板政策、20~40代に照準~携帯値下げ・不妊治療・高齢者医療費増 コロナと経済の両立に腐心」という記事はツッコミどころが多かった。まず「看板政策、20~40代に照準」と言えるのか。冒頭では以下のように書いている。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

16日に政権発足3カ月を迎えた菅義偉首相は携帯電話料金の値下げなど20~40歳代の現役世代に照準を定める政策で実績を上げつつある。独自の支持層をつかむ狙いが透ける。新型コロナウイルス対応は観光需要喚起策「Go To トラベル」の扱いなど感染拡大防止と経済の両立に腐心する。


◎「携帯値下げ」で「20~40代に照準」?

携帯値下げ」の恩恵は50代以上にも及ぶはずだ。なぜ「20~40代に照準」なのか最後まで読んでも説明はない。記事では「首相が掲げる看板政策の状況」という表で「脱炭素」と「行政のデジタル化」にも触れている。これらも「20~40代に照準」とは考えにくい。

独自の支持層をつかむ狙いが透ける」という説明も謎だ。「20~40代」は「独自の支持層」になるのか。安倍政権は若者の支持率が高いと言われていた。「20~40代」とはかなり重なる。「独自の支持層」とは安倍政権との比較ではないということか。

さらに記事では「若年層の不安要因を取り除く首相の姿勢は一定の評価を得る」とも書いている。「日本経済新聞の11月の世論調査は年代別でもっとも高い年代層の支持率が30代の64%だった。40代も61%と高く、60代の54%を大幅に上回る」と続けているので「20~40代」を「若年層」と捉えているのだろう。

若年層」を辞書で調べると「年齢の若い人々の集団。統計では、15~24歳または15~34歳程度とすることが多い」(デジタル大辞泉)と出てくる。「40代」を「若年層」とするのは無理がありそうだ。


※今回取り上げた記事「看板政策、20~40代に照準~携帯値下げ・不妊治療・高齢者医療費増 コロナと経済の両立に腐心

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201216&ng=DGKKZO67361350V11C20A2PP8000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年12月15日火曜日

「利他的」な人だけワクチンを接種? 小田嶋隆氏の衰えが気になる日経ビジネスのコラム

日経ビジネスでは小田嶋隆氏のコラムを楽しみにしている。だが最近は同氏の衰えを感じる記述も多い。12月14日号に載った「小田嶋隆の『pie in the sky』絵に描いた餅べーション~GoToとワクチンの不穏な関係」という記事もそうだ。

日田市の三隈川(筑後川)

記事の終盤を見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

ワクチンは社会の一定数以上の人が接種しないと、集団免疫が得られない。成功させるには、政府の政策への信頼が共有されていることが前提になる。逆に言えば、政治不信やシニシズムが横行している社会では、こうした共同体的な(あるいは「利他的な」)行動は無視される。GoToトラベルは「利己」だけでドライブできるが、ワクチンは自己利益一辺倒の人間にはアピールしない

してみると、来年以降の景気回復は、われわれがどれほど利他的な人間であるかにかかっているということになる。

うむ。自信は持てない。


◎「ワクチンは自己利益一辺倒の人間にはアピールしない」?

ワクチン」であれば感染予防の効果があるはずだ。副反応のリスクよりも予防のメリットが上回るのであれば、接種は「自己利益」を増やす上で有効だ。

しかし小田嶋氏は違う考えのようだ。「自己利益」は増えないが「利他的」ではあるという意味で、「ワクチン」接種を無償での臓器提供のようなものだと見なしているのだろう。だが副反応なしに予防を実現できれば「ワクチン」接種が「自己利益」の拡大につながるのは明らかだ。

とあるテレビ番組を見ていたら「自分は基礎疾患もあるからワクチンができたら10万円出してでも打ちたい」と高齢男性がインタビューに答えていた。この人は「利他的な人間」だから10万円を払ってでもワクチンを接種するのだろうか。

少し考えれば小田嶋氏も分かるはずだ。そこが分からなくなっているとすれば、コラムニストとして引退を考えるべき時期かもしれない。


※今回取り上げた記事「小田嶋隆の『pie in the sky』絵に描いた餅べーション~GoToとワクチンの不穏な関係

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00106/00094/


※記事の評価はD(問題あり)

2020年12月14日月曜日

先輩ヨイショの「From Editors」が残念な週刊ダイヤモンド山口圭介編集長

編集後記で内輪の話を書くなとは言わない。むしろ書いてほしい。しかし読者に向けた内容にはすべきだ。週刊ダイヤモンド12月19日号の「From Editors」で山口圭介編集長は以下のように記している。

夕暮れ時の筑後川

【ダイヤモンドの記事】

今週号の第1特集を企画した編集委員の田中久夫さんは、これが定年前の最後の特集です。長い間、本当にお疲れ様でした。数々のヒット作を生み出した名物編集長として鳴らし、今回も読者ニーズを巧みにくみ取ったさすがの仕上がりです

直接指導を受ける機会はそれほどありませんでしたが、独自ランキングや読者目線の企画構成など、誌面を通じて多くを学ばせてもらいました。昨年、編集部が新体制に移行して厳しい部数が続いていたとき、反転攻勢のきっかけは久夫さんの特集でした。あれがなければ、私は辞表を出していたかもしれません。

定年後もぜひとも編集部に関わってもらいたいと思っているので、引き続きよろしくお願いします!


◎社内報に書いた方が…

社内の先輩である「田中久夫さん」に向けたメッセージになっている。それを読者に発信する気が知れない。社内報にでも書くべき内容だ。しかも「今回も読者ニーズを巧みにくみ取ったさすがの仕上がりです」と遠回しな自画自賛の内容になっている。やるなら編集部内でやってほしい。「読者ニーズを巧みにくみ取ったさすがの仕上がり」だと思わない読者もいるはずだ。なのに山口編集長は自ら「読者ニーズを巧みにくみ取ったさすがの仕上がり」だと断定してしまう。

From Editors」の中身は「From Editors to readers」であるべきだ。

ちなみに今回の「From Editors」では「田中久夫さん」自身も記事を書いている。その一部を見ておこう。


【ダイヤモンドの記事】

今週、定年で退職します。この場を借りてごあいさつ。お世話になった取材先の皆さま、誠にありがとうございました。定年まで持たないと思っていた会社を支えてくれた社内の人たち、わがままな私に付き合ってくれた職場の同僚、本当に感謝です。まだ恨んでいる方、どうか忘れてください。


◎読者への感謝がないが…

編集後記で定年退職の「あいさつ」をするならば、自分だったらまず読者への感謝を伝える。しかし「田中久夫さん」は違う。「取材先の皆さま」「会社を支えてくれた社内の人たち」「職場の同僚」限定だ。「社内の人たち」と「職場の同僚」は重なっている部分も多いので「社内の人たち」に「本当に感謝」なのだろう。

会社を支えてくれた社内の人たち」から「社内の」を抜けば、そこに読者も入っているという解釈もできる。しかし「田中久夫さん」はきちんと「社内」に限定し、社外の読者は除いている。

田中久夫さん」が読者に感謝していないのはよく分かった。「定年で退職」するのだからもういい。問題は山口編集長だ。今回の「From Editors」をもう一度読み返してほしい。その上で、読者の方を向いて誌面作りをしているのか、改めて自問してほしい。


※今回取り上げた記事「From Editors


※記事の評価はD(問題あり)。山口圭介編集長への評価はB(優れている)を据え置くが弱含みとする。山口編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。


ミス3連発が怖い週刊ダイヤモンドの特集「株・為替の新格言」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_28.html

ミス放置「改革」できる? 週刊ダイヤモンド山口圭介編集長に贈る言葉
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_95.html

「ミス放置」方針を転換した週刊ダイヤモンドの「革命」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_12.html

週刊ダイヤモンド ようやく「訂正」は出たが内容が…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_15.html

山口圭介編集長を高く評価したくなる週刊ダイヤモンドの訂正
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/blog-post_26.html

山口圭介編集長率いる週刊ダイヤモンドの「不都合な記事」に期待
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/blog-post_2.html

2020年12月13日日曜日

高い配当利回りは「魅力的」と週刊ダイヤモンド篭島裕亮記者は言うが…

株式投資で配当に着目する意味はほぼない。しかし、なぜか「配当利回り」に目が行くようだ。週刊ダイヤモンド12月19日号の特集「高利回り商品 総点検」でも「安心して持てる高配当株 5つのチェック項目を伝授」という記事で「高配当株」を取り上げている。そして「預金金利がほぼゼロの状態が続き『高利回り』に対する需要は強い」「超低金利は今後も継続する可能性が高く、高い(配当)利回りは魅力的なのも事実」などと書いている。

コスモスパーク北野(久留米市)

配当利回りに関して記事を書く場合には以下のことを考えてほしい。

(1)預金金利との比較は不適切

配当利回り」と「預金金利」を比べる意味はない。100円の預金に10%の金利が付くと110円になる。しかし100円の株で10%の配当をすると90円の株と10円の現金が残る(税金などは考慮しない)。合計は100円で変わっていない。

配当利回り50%は預金金利の10%より魅力的と言えるだろうか。100円の株だと配当後は50円の株と50円の現金(合計100円)にしかならない。配当がいくらだろうと株主に損得はない(税金などを考慮すれば別)。預金は違う。預金金利10%と50%ならば50%の方が預金者の利益は大きくなる。

株の場合、配当以外の要因でも価格が変動するので「配当すると株式価値が減る」というイメージを持ちにくい。だから多くの書き手が「配当利回り」と「預金金利」を比べてしまうのだろう。


(2)インカムゲインを切り離すな

(1)とも関連するが、株式投資の場合はインカムゲインとキャピタルゲインがある。インカムゲインを切り離して考えることに意味はない。トータルリターンのみを考えればいい。ダイヤモンドの記事でも「『配当利回り』だけで選ぶのはNG」という説明を「2019年初の配当利回り上位30社の株価騰落率」という表に付けている。

『配当利回り』だけで選ぶのはNG」というのは間違いではない。だが「配当利回り」も重要な指標だと誤解させているところに罪を感じる。「『配当利回り』は見ないでトータルの利回りで考えろ」などと助言すべきだ。

記事では「高すぎる配当性向は減配リスクが高いことの裏返しだ」とも書いている。業績悪化に伴い「減配」となる状況は株主にとって歓迎すべき事態ではない。だが「減配」ではなく業績悪化が問題なだけだ。

業績好調の中での「減配」であれば気にする必要はない。その分は株価が高くなる。自分が成長株に投資するならば無配の方がいい。配当よりも成長投資に資金をつぎ込んで株式価値を高めてくれることを願う。

企業に余剰資金が生まれた時に配当として株主に還元することを否定はしない。しかし配当が増えたからと言って株主として喜ぶ気にはなれない。その分は株式価値が低下しているからだ。

配当利回りに着目しても意味がない--。投資に関する書き手にはこの認識を持ってほしい。


※今回取り上げた記事「安心して持てる高配当株 5つのチェック項目を伝授」https://diamond.jp/articles/-/255410


※記事の評価はD(問題あり)。篭島裕亮記者への評価も暫定でDとする。

2020年12月12日土曜日

「アクティブ型投信」は有力な選択肢? 日経 大場智子記者に考えてほしいこと

12日の日本経済新聞朝刊マネーのまなび面に載った「トップストーリー~投信、利回り改善の選択肢 リスク踏まえ積極運用型も」という記事を投資初心者は参考にしないでほしい。筆者の大場智子記者は「アクティブ(積極運用)型投信」を前向きに紹介しているが、ほとんどの投資家にとってまともな選択肢にはなり得ない。

耳納連山に沈む夕陽

記事を見ながら、その理由を述べてみたい。

【日経の記事】

指数(インデックス)の動きに連動するように組み入れ銘柄を選んで運用するのがインデックス型投信。目安とする指数に採用されている銘柄を中心に投資するので、運用担当者が独自に企業調査などをする手間が基本的に省けることが多い。このため、投資家が払う信託報酬などのコストも一般的に低くなりやすい。

ただ老後に向けて資産を少しでも増やしたいなら、指数を上回る成績が期待できる投信が選択肢だ。例えば毎月5万円を20年間積み立てて運用する場合、利回りが年3%なら元本1200万円が約1600万円に増えるが、年5%だと2000万円を超える。一案がファンドマネジャーが独自の運用方針に基づいて銘柄を選ぶアクティブ(積極運用)型投信だ。

「インデックス型を運用の中核に据え、一部の資金をアクティブ型に振り向けてはどうか」とファイナンシャルリサーチ代表の深野康彦氏は提案する。運用資金の中心は低コストで世界全体に幅広く分散投資し、資金の一部で個別株などに投資する手法を「コア・サテライト戦略」という。年金を運用する機関投資家などが採用することが多く、「資産全体の利回りを引き上げる効果が期待できる」(深野氏)。

とはいえアクティブ型の運用成績は玉石混交。国内のアクティブ型の信託報酬は年1~2%程度が多い。1%を下回ることが多いインデックス型より高いが、運用成績はインデックス型を下回る投信が少なくない。もちろんリターンが指数を大きく上回るアクティブ型もあるが、リスクは一般的に大きくなりやすい。


◎高い信託報酬を支払う意味ある?

コア・サテライト戦略」を否定するつもりはない。と言うより「アクティブ運用」も否定しない。しかし「アクティブ型投信」はダメだ。「国内のアクティブ型の信託報酬は年1~2%程度が多い。1%を下回ることが多いインデックス型より高いが、運用成績はインデックス型を下回る投信が少なくない」と大場記者も書いている。コストが高いことが「アクティブ型」を否定する唯一の理由だ。「インデックス型」とコストに差がないのならば「アクティブ型」も選択肢になり得る。

運用成績は玉石混交」なのだから「」を選べばいいと考えがちだ。しかし事前に「」を見極める方法はほとんどない。「信託報酬」が高いのだから「アクティブ型」の期待リターンが「インデックス型」をそれ以上に上回る必要がある。しかし「アクティブ型」の期待リターンは「信託報酬」がかさむ分、むしろ低くなると考えるべきだ。

大場記者は記事の中で「長期で運用実績を確認すること」の重要さを説いている。過去の「運用実績」に基づいて投資対象を決めると高いリターンが得られるというデータでもあるのだろうか。そうした戦略に有効性はないというのが定説だ。なのになぜ「運用実績を確認すること」を勧めるのか。

金融業界の人間が「アクティブ型投信」を組み込むべきだと訴えるのは分かる。「インデックス型」は儲けが少ないからだ。しかし記者が丸め込まれてはダメだ。今回の記事を読む限りでは、大場記者は業界関係者に上手く誘導されている気がする。


※今回取り上げた記事「トップストーリー~投信、利回り改善の選択肢 リスク踏まえ積極運用型も

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201212&ng=DGKKZO67239390R11C20A2PPK000


※記事の評価はD(問題あり)。大場智子記者への評価も暫定でDとする。

2020年12月11日金曜日

株式市場は「臆病村」だから「有望」? 塚崎公義 久留米大学教授の誤解

久留米大学教授の塚崎公義氏に関しては、信用すべきでない書き手だと繰り返し指摘してきた。週刊東洋経済12月12日号の特集「お金と株 超入門」の中の「『65歳までに2000万円』」が目標~いたずらに怖がらない 余裕資金は株式投資へ」という記事を読んでも、その評価は変わらない。

久留米市の石橋文化センター

特に違うと思えたくだりを見ておこう。

【東洋経済の記事】

「株式投資は怖い」と思っている人は多いが、それを裏返せば「期待値がプラスの株でもリスクを嫌う人々が買わないから、簡単に手に入る」ということだ

強欲村で拾った儲け話より臆病村で拾った儲け話のほうが有望なのと同じことで、カジノより株式市場のほうが期待値が高いのだ。配当利回りだけを考えても預金よりはるかに高いので、株価が長期的に値下がりしていくのでなければ、銘柄分散と時間分散をしっかり行うことによって預金より高い利益が得られる可能性が高い。

しかも上記のように株式はインフレに強い資産なのだから、資金配分を考える際には、いたずらに怖がるのではなく、ある程度は株式も組み入れるべきだろう。


◎裏返せてる?

『株式投資は怖い』と思っている人は多いが、それを裏返せば『期待値がプラスの株でもリスクを嫌う人々が買わないから、簡単に手に入る』ということだ」と塚崎氏は言う。これは「裏返せ」ているのか。「裏返せ」ている場合、「ほぼ同じことを言っている」必要がある。

例えば「日本は山地の占める割合が高い。裏返せば平地が少ない」といった具合だ。

リスクを嫌う人々が買わないから、簡単に手に入る」ということは「低リスクのものは簡単には手に入らない」と塚崎氏は考えているのだろうか。しかし個人向け国債など安全資産の多くは「簡単に手に入る」。

さらに言えば「期待値がプラスの株でもリスクを嫌う人々が買わない」のに「カジノ」が成立するのが謎だ。「カジノ」の期待リターンはマイナスだろう。それでも資金をつぎ込む人がいる。「期待値がプラスの株」であれば「強欲」な人々が放置してくれそうもない。

塚崎氏は「株式」市場を「臆病村」と見ているようだが「強欲村」だと考える方が自然だ。「臆病村」でもバブルが発生するものなのか。だとしたら誰がファンダメンタルズを無視して強気に買ってくるのか。

強欲村で拾った儲け話より臆病村で拾った儲け話のほうが有望」だとすれば株式ではなく個人向け国債を買うべきとの結論になるはずだ。この「臆病村」には「わずかだが金利が付くし証券会社がキャンペーンをやっている時には、それなりの金額が入ってくる。元本割れの心配もないからいいよ」という「儲け話」がある。

「うまく銘柄を選べば株価10倍だって夢じゃない」という「強欲村」の「儲け話」に比べれば大儲けは望めない。しかし塚崎氏の考えでは「強欲村で拾った儲け話より臆病村で拾った儲け話のほうが有望」なはずだ。なのに「株式投資」を勧めてしまう。

株式投資」は「預金より高い利益が得られる可能性が高い」という見方に異論はない。しかしそれは「臆病村」の住民だからではない。むしろ逆だ。預金や国債といった「臆病村」ではなく危険地帯である「強欲村」にリスクを負って足を踏み入れたことに対する見返りとして高い期待リターンが与えられたと考えるべきだ。

株式投資」の期待リターンが預金金利や国債利回りと同じならば、わざわざリスクを負って「強欲村」で「儲け話」を探す意味はない。

「だったら、期待リターンがマイナスなのになぜカジノが成り立つのか」との反論は考えられる。単純に言えば「投資」以外の魅力があるからだろう(他にもいくつか理由は思い付くが…)。

投資に関して塚崎公義氏の言葉を信じるな--。結論はやはりこれに尽きる。


※今回取り上げた記事「『65歳までに2000万円』」が目標~いたずらに怖がらない 余裕資金は株式投資へ

https://premium.toyokeizai.net/articles/-/25376


※記事の評価はD(問題あり)。塚崎公義氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

久留米大学の塚崎公義教授の誤り目立つ東洋経済「50歳からのお金の教科書」https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50_9.html

MMTの基礎を理解しない塚崎公義氏が書いたダイヤモンドオンラインの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/mmt.html

2020年12月10日木曜日

「政治家にとってトリアージは禁句」と日経ビジネスで訴える小田嶋隆氏に異議あり

より良い社会を築くためには自由な議論が欠かせない。改めて言うまでもない当然の話だ。しかしコラムニストの小田嶋隆氏は違う考えのようだ。日経ビジネス12月7日号に載った「小田嶋隆の『pie in the sky』~絵に描いた餅ベーション ハードボイルドに酔う見苦しさ」という記事で、同氏は以下のように書いている。

大阪城

【日経ビジネスの記事】

はるか関東から浪速のパンデミックを見て、私が危うさを感じるのは、各種の数字よりは、むしろ彼の地のリーダーの資質に対してだ。

吉村洋文大阪府知事は、感染患者の急拡大を受けて、11月19日「大阪全体で救急病床のトリアージ(選別)をしていく」と述べている。この第一報を読んで、文字通り、驚倒した。

「トリアージ」とは、災害や事故現場で、医療者が「生存可能な患者を優先して治療する生命の選別」を含意する言葉だ。最近では、2008年の秋葉原無差別殺傷事件で、現場に倒れる多数の被害者の救命に当たった医師たちが直面した事態を物語る用語として知られている。いずれにせよ、普通の医療現場の話ではない。言ってみれば「戦場の」「修羅場の」ための言葉だ。

あるいは、トリアージは、テロや災害の現場でのみ想定されている「最悪の事態における最も残酷な決断」で、医療従事者にとってのトロッコ問題に相当すると申し上げてもよい。

とすれば、政治家が安易に口にしてよい言葉ではない。無論、医療崩壊の可能性が囁かれている現在の状況では「もののたとえ」としてさえ禁句であるはずだ。ところが吉村知事は、むしろ得意げにこの言葉を振り回している。まるで「命の選別」という「冷徹な判断」が「政治家だけに許された究極の決断」であるとばかりに、だ。


◎許されない理由がないような…

まず「トリアージは、テロや災害の現場でのみ想定されている『最悪の事態における最も残酷な決断』」という説明が怪しい。千葉県のホームページでは「災害時だけでなく、救急受診した患者さんがたくさんいるときに、診療の優先順位をつけ、緊急度の高い患者さんから診療を行うことを指す場合もあります」と解説している。

トリアージ」という言葉を使うのがいかにダメかを訴えるために小田嶋氏は「トリアージ」の使用範囲を限定したかったのだろう。しかし、少なくとも千葉県の説明とは整合しない。

百歩譲って小田嶋氏の「トリアージ」に関する説明が正しいとしよう。それでも「政治家が口にしてよい言葉」だと思える。理由は2つある。

まず自由な議論が大切だからだ。「トリアージ」が「禁句」となれば、自由な議論への制約となる。罵詈雑言の類を禁じるのならともかく、ものの考え方として役立ちそうな用語まで「禁句」にしていくのは適切なのか。

2番目の理由は「テロや災害の現場」に近付いているからだ。小田嶋氏自身が「医療崩壊の可能性が囁かれている」と「現在の状況」を認識している。

必要な医療を十分に提供できない状況を「医療崩壊」と呼ぶのならば「テロや災害の現場」で「トリアージ」を行っている時には「医療崩壊」が起きている。助かりそうもない人や軽傷者は放置されやすくなる。

医療崩壊の可能性が囁かれている」状況で「トリアージ」の手法を参考に対応策を議論するのは「許される」と言うよりやるべきことだ。医療の供給が難しくなってきた時に「大阪全体で救急病床のトリアージ(選別)をしていく」のは当然ではないか。

誰かを生かすためには、ほかの誰かを殺さなければならないとする前提が、そもそも狂っているということに、できれば、気づいてほしいものだ」と小田嶋氏は記事を締めている。これは前提が違う。「トリアージ」に関しては「誰かを生かすためには、ほかの誰かを放置するしかない状況もあり得るとする前提」だ。

これは「狂っている」のか。「狂っている」から、そういう状況が起きそうな時は考えないことにするのか。議論を封じるのか。声を上げようとする人がいたら「禁句」を作って黙らせるのか。

命を懸けて戦っている兵隊さんがいるのに『降伏』なんて言葉はもののたとえとしてさえ禁句だ」という主張がまかり通って、圧倒的劣勢の中でも「降伏」に関する議論さえしない国があったらどうか。その方が「狂っている」のではないか。そんな国が昔あったような気もするが…。


※今回取り上げた記事「小田嶋隆の『pie in the sky』~絵に描いた餅ベーション ハードボイルドに酔う見苦しさ

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00106/00093/


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2020年12月7日月曜日

30年前の「女性の官房長官」は忘れた? 日経「池上彰の大岡山通信」の誤解と偏見

7日の日本経済新聞朝刊18歳プラス面に載った「池上彰の大岡山通信 若者たちへ(255)米新政権の閣僚顔ぶれ~進む女性登用 日本は…」という記事に引っかかる記述があった。

大阪城

【日経の記事】

ホワイトハウスの大統領報道官に起用されるのはジェン・サキ氏。彼女はオバマ前政権でホワイトハウス広報部長や国務省報道官を歴任しています。また2004年大統領選で民主党候補ジョン・ケリー氏の選挙陣営、08年と12年大統領選でオバマ陣営の広報を担当した経歴を持っています。

この経歴を見ると、女性だから起用されたのではなく、広報の分野で豊富な経験を持っているから選ばれたことがわかります。人気取りで人事配置をしているのではなく、米国の政治・経済の分野では多数の女性が活躍しているのですね。

こんな様子を見ると、それに引き換え日本は……と言いたくなってしまいます。日本も安倍晋三前政権は「女性活躍社会」を謳(うた)っていましたが、ちっとも進まないまま退陣。菅義偉内閣でも女性閣僚の数は少なく、バイデン政権で多数の女性たちが活躍するようになると、これまで以上に「日本の女性の地位の低さ」が目立つことになりそうです。

今年の新型コロナウイルス対策では、ドイツのメルケル首相やニュージーランドのアーダーン首相など女性首脳の国民向けメッセージが国民の心をつかみました。メルケル首相は、スーパーマーケットのレジで働く人たちに感謝を伝え、アーダーン首相は子どもを寝かしつけた後、自宅からカジュアルな姿でメッセージを送りました。

いずれも生活感があふれ、その言葉には国民への共感がありました

ホワイトハウス報道官の仕事は、日本に置き換えれば官房長官の役割。女性の官房長官が生活感あふれるコメントで国民に呼びかけるようになるのは、いつのことになるのでしょうか


◎嘆く必要ある?

ホワイトハウス報道官の仕事は、日本に置き換えれば官房長官の役割。女性の官房長官が生活感あふれるコメントで国民に呼びかけるようになるのは、いつのことになるのでしょうか」と書くと日本ではまだ「女性の官房長官」が誕生していないと理解したくなる。

しかし1980年代末の日本には既に「女性の官房長官」がいた。海部内閣で森山真弓氏が官房長官を務めている。「生活感あふれるコメントで国民に呼びかけ」ていたかどうかは分からないが「それに引き換え日本は……」と嘆く必要はない。

池上氏も世代的には森山官房長官時代を知っていておかしくないが、記憶に残っていなかったのだろう。

ついでに言うと記事には男性への偏見を感じる。

メルケル首相」や「アーダーン首相」の「メッセージ」には「生活感があふれ」ていて「国民への共感」を得た。だから日本でも「女性の官房長官」が「生活感あふれるコメントで国民に呼びかける」ようにするべきだと池上氏は考えているのだろう。

首相」や「官房長官」が発する「メッセージ」に「生活感」は要らないと思うが、あった方が良いとしよう。その場合でも「女性」である必要はない。男性の「官房長官」でも「生活感」は出せる。

スーパーマーケットのレジで働く人たちに感謝を伝え」たり「子どもを寝かしつけた後、自宅からカジュアルな姿でメッセージ」を送ったりするのは「女性」にしかできないことなのか。


※今回取り上げた記事「池上彰の大岡山通信 若者たちへ(255)米新政権の閣僚顔ぶれ~進む女性登用 日本は…

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201207&ng=DGKKZO67047120U0A201C2TCL000

2020年12月5日土曜日

間違い指摘を当たり前に握り潰す日経に首相の「説明不足」を責める資格ある?

日本経済新聞は読者からの間違い指摘を当たり前のように無視してきた。長く続く悪しき伝統だ。改まる気配はない。紙面に載る訂正で見えるのは氷山の一角に過ぎない。記事を書かれた当事者らから直接の抗議を受けると訂正が出る可能性は高まるが、一般読者からの指摘の多くは握り潰してしまうのが常だ。

中之島公園内にあるGARB weeks

以上のことが事実と反するならば名誉棄損に当たるだろう。だが訴訟リスクはほぼゼロだ。事実だと裏付ける材料が山のようにあるからだ。だから日経としては沈黙を決め込むしかない。

そんな新聞社が一国の首相の「説明不足」を責めて説得力が出るだろうか。5日の朝刊1面に載ったコラム「春秋」では以下のように書いている。


【日経の記事】

 日本人は背中が好きだ。師匠の生きざまは背中で学び、親の背を見て子は育つ。高倉健さんも緒形拳さんも、背中で演技ができる名優と評された。だからといって後ろ姿で何かを語ろうとしたわけではなかろう。先月の末、菅義偉首相が見せた背中が記憶に残っている。

場所は官邸のエントランスだった。新型コロナの感染拡大を受け、マスク着用などの対策を改めて呼びかけた直後、記者団から追加の質問が相次いだ。だが首相はそれらにまったく応じることなく、足早に立ち去った。記者会見を開かない。国会の答弁では官僚のメモを棒読みする。説明に対する首相の姿勢は評判が悪い

そんな菅さんが、国会が事実上閉幕したきのう、就任以来2回目となる会見に臨んだ。官邸での「ぶら下がり」と呼ばれる一方的な発信とは違う、久しぶりのやり取りの場である。コロナ対策や「桜を見る会」の前夜祭をめぐる疑惑などで質疑応答がなされたが、自らの思い、自らの言葉で語ったようには聞こえなかった。

ドイツのメルケル首相や米ニューヨーク州のクオモ知事など、コロナ禍の中で発する海外の指導者の言葉に心打たれることがある。国民性の違いなどもあり同じようにはいかないだろうが、菅さんにもセールスポイントであるたたき上げならではの、実直な言葉を期待したい。説明不足は国民に「背を向ける」ことになる


◎読者に「背を向ける」新聞社に言われても…

記者会見を開かない。国会の答弁では官僚のメモを棒読みする。説明に対する首相の姿勢は評判が悪い」と筆者は言う。

ならば読者からの間違い指摘を無視して多くのミスを放置してきた自分たちはどうなのか。この問いに日経は答えられるのか。答えられないのに「首相の姿勢」を問題視する資格があるのか。

「(首相の)説明不足は国民に『背を向ける』ことになる」のは、その通りだ。ならば新聞社の「説明不足」は読者に「背を向ける」ことにはならないのか。

人の振り見て我が振り直せ

この言葉を日経には贈りたい。

どうしても「我が振り」を直せないのならば他者への批判は控えるべきだ。今の日経に他者の「説明不足」を責める資格はない。


※今回取り上げた記事「春秋

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201205&ng=DGKKZO67048980V01C20A2MM8000


※記事の評価は見送る

2020年12月3日木曜日

書き手の拙さ感じる日経「ホンダ、早期退職を優遇」

3日の日本経済新聞朝刊企業1面に載った「ホンダ、早期退職を優遇~来年度から 55歳以上、再就職も支援」という記事には色々と問題を感じた。全文は以下の通り。

JR下関駅前

【日経の記事】

ホンダは2021年度から中高年やシニアの正社員向けに早期退職時に割増退職金を払う制度を導入する。55歳以上が対象で、希望すれば再就職支援も実施する。ホンダは17年に定年を60歳から65歳に延長したが、車の電動化などが急速に進み若手やソフトウエア技術に強い中途社員へのニーズが強まっている。新制度で年齢構成や人員配置の適正化を進める。

21年4月から「ライフシフト・プログラム」と名付けた制度を新たに導入する。早期退職の募集人数や期限は定めない。初年度は55歳以上64歳未満、2年目以降は59歳未満の社員を対象とする

ホンダはかつて早期退職者の退職金を割り増しで払う制度があったが、11年に終了していた。当時は45歳以上が対象だった。

今回は直近の定年延長に伴い生じつつあるシニア人材の余剰感に対応する。自動車業界では自動運転や電動化など「CASE」と呼ばれる新領域の発展により求められる技術も変わってきている。長年の経験よりも新たな知識が必要な場合も多く、新制度で組織の新陳代謝を進めやすくする。

期間を設けて退職者を募るような措置はとらない。継続して働きたいシニア社員の雇用は続ける。希望する社員には再就職を手助けする。

ホンダは新型コロナウイルスの感染拡大を受けた販売減などで、21年3月期の連結営業利益(国際会計基準)が前期比34%減の4200億円となる見込み。早期退職の優遇制度の導入で、シニア社員を中心とする人件費の圧縮を進める狙いもありそうだ。


◇   ◇   ◇


気になった点を列挙してみる。

(1)「中高年やシニア」って…

冒頭の「中高年やシニア」が引っかかる。「シニア」も「中高年」ではないのか。

中高年やシニアの正社員向けに早期退職時に割増退職金を払う制度を導入する。55歳以上が対象」と書いているが「55歳以上が対象」ならば最初から「55歳以上の正社員向けに早期退職時に割増退職金を払う制度を導入する」と説明すれば済む。「中高年やシニア」がそもそも無駄だ。


(2)どの程度の「優遇」?

早期退職を優遇」と見出しでも打ち出しているが、どの程度の「優遇」なのか触れていない。「割増退職金を払う制度」であれば、どのくらいの「割増」なのかは欲しい。分からないのならば、その点は記事中で明示すべきだ。


(3)「期間」は定めない?

早期退職の募集人数や期限は定めない」「期間を設けて退職者を募るような措置はとらない」と繰り返す一方で「初年度は55歳以上64歳未満、2年目以降は59歳未満の社員を対象」とも書いている。だとすると59~63歳に関しては「初年度」しか制度を利用できないのではないか。「期間を設けて退職者を募るような措置」とも言えるはずだ。

定めない」と書きたいのならば「59歳未満の社員に関しては期間を設けて退職者を募るような措置はとらない」などと説明した方がいい。


(4)「若手やソフトウエア技術に強い中途社員」?

車の電動化などが急速に進み若手やソフトウエア技術に強い中途社員へのニーズが強まっている」という文には拙さを感じた。これだと「『若手やソフトウエア技術』に強い中途社員」と読み取りそうになる。書き方が上手くない。


※今回取り上げた記事「ホンダ、早期退職を優遇~来年度から 55歳以上、再就職も支援」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201203&ng=DGKKZO66901280S0A201C2TJ1000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年12月2日水曜日

「重粒子線治療」は副作用の心配なし? 日経「大機小機」に見える過大評価

日本経済新聞のコラム「大機小機」の筆者である桃李氏によると「重粒子線治療」は「手術や副作用なく体内深部のがんだけを消滅させる革命的技術」らしい。「副作用」と無縁とは考えにくいので以下の内容で問い合わせを送ってみた。回答はないだろう。

錦帯橋

【日経の記事】

12月2日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に載った「大機小機~技術進歩、加速する世紀」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

日本では例えば、がん死ゼロを目指す、米国にもない最先端の重粒子線治療が6拠点で実施されている。炭素イオンを光速近くまで加速した量子メスを使い、手術や副作用なく体内深部のがんだけを消滅させる革命的技術である

これを信じれば「重粒子線治療」では「副作用」は起きないはずです。しかし「副作用」のリスクはあると思えます。例えば群馬大学 重粒子線医学センターのホームページでは「重粒子線治療では、がんを含む限られた範囲に必要な量だけ照射することができるため、一般の放射線治療に比べ、かなり副作用は軽くなっています。 ただ、副作用が全くないとはいえません」と説明しています。

副作用なく」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


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記事はこの後「巨額投資が要るが1人当たり追加費用は少なく、保険全適用になれば利用者が増えるほどコスト回収ができる。世界に普及すれば人類への日本の貢献は計り知れない。この分野には国の関与が不可欠だ」と続く。「重粒子線治療」が先進医療として承認されたのが2003年。それから随分と時間が経っているが「保険全適用」には程遠い。本当に「がん死ゼロ」の実現を可能にする「革命的技術」ならば早々に「保険全適用」となるはずだ。

なぜそうならないのか。そこを桃李氏には考えてほしい。


※今回取り上げた記事「大機小機~技術進歩、加速する世紀」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201202&ng=DGKKZO66880480R01C20A2EN2000


※記事の評価はD(問題あり)