2015年7月10日金曜日

矛盾してない? 日経「米、低インフレ脱却近い」(2)

9日の日経夕刊1面の記事「米、低インフレ脱却近い~FOMC議事要旨 ギリシャ・中国不安視」を最初に見て思ったのは「『低インフレを脱却』って、高インフレになっちゃうの? 低インフレって脱却する必要ある?」ということだ。

アントワープ中央駅(ベルギー) ※写真と本文は無関係です
記事が問題なのは、「低インフレ脱却」を柱に据えているのに、どういう状態が低インフレなのか具体的な説明がない点だ。例えば「低インフレ=物価上昇率1~3%の緩やかなインフレ」と定義すれば、「低インフレで何の問題があるの? そのままでいいじゃない」となるのが普通だろう。

低インフレを脱却すると「高インフレ」になるのか「中インフレ」になるのか知らないが、例えば「5%超のインフレ」が低インフレを脱却した状態だと仮定すると、FRBの物価目標である2%を大きく飛び越えてしまう。

筆者は「低インフレ=物価上昇率1%未満のインフレ」と言いたいのかもしれない。そして物価上昇率2%前後の状態を「低インフレ脱却」と想定しているのだろう。しかし、2%ならば「低インフレ継続」と理解する方が自然だ。「低インフレ」に明確な定義はないので使い方に多少幅はあっていい。しかし、その場合はどう定義しているのか読者に伝わるようにすべきだ。

記事中には、「低インフレとはどの程度の物価上昇率なのか」の説明がないだけでなく、米国の最近の物価上昇率にも触れていない。これで「低インフレ」に関して読者が筆者と認識を共有するのはかなり困難だ。

ついでに記事中の不自然な表現を指摘しておく。


【日経の記事】

議事要旨は焦点の利上げを巡り「大半のメンバーは金融引き締めの条件はまだ達成されていない」と指摘した。性急な政策判断をいさめる声も多く出た。

何人かのメンバーはすでに利上げ可能な状況、もしくは、近く環境が整うと主張した。だが「成長力と雇用が強まり、インフレ率が上昇へ動き出したデータを待つ必要がある」との慎重論が主流を占めたことを示した。


この書き方だと「議事要旨は指摘した」となってしまう。指摘したのは「大半のメンバー」だと思われるが、カギカッコの区切り方がおかしいので「『大半のメンバーは金融引き締めの条件はまだ達成されていない』と議事要旨は指摘した」という妙な文になってしまう。以下に改善例を示す。

【改善例】

議事要旨によると、焦点の利上げを巡り大半のメンバーは「金融引き締めの条件はまだ達成されていない」と指摘した。


ついでに言うと、記事中の「雇用が強まり」という表現も日本語としてしっくり来ない。訳する時はその辺りもしっかり考えてほしい。

※記事の評価はD(問題あり)、ワシントン支局の矢沢俊樹記者への評価も暫定でDとする。

0 件のコメント:

コメントを投稿