2015年7月6日月曜日

ダイヤモンドの「広告戦争」 説明不足が過ぎる(2)

週刊ダイヤモンド7月11日号の特集「広告戦争」の最初の記事「デジタル広告の巨人 フェイスブック~『いいね!』帝国、日本市場の大誤算」の気になる点をさらに挙げていく。


◎オープンになっている話では?
オランダの王宮(アムステルダムのダム広場)
                  ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

6月下旬、東京・六本木にある米フェイスブックのオフィス。世界14億人のユーザーをつなぐネットワークを支えるIT企業の日本拠点だ。明るく開放的なフロアでは「オープン&コネクテッド」という社是の下で約70人が働いていたが、彼らにはどうしてもオープンにできない秘密があった。

オキシジェン──。英語で酸素を意味するこの単語は、水面下で交渉中のある重大なプロジェクトに付けられたコードネームなのだ。それは、ずばり日本最大の顧客数を誇る通信キャリア、NTTドコモとの包括的な業務提携だ。

彼らが狙っているのは、ドコモが抱える約6659万人のユーザー。自動的にフェイスブックユーザーへと〝塗りつぶす〟ための秘策が練られている。新規のスマートフォンにあらかじめアプリを埋め込んでもらえれば、これまで手が届かなかった50代より上のシニア、シルバー層を毎年百万人単位で取り込めるはずだとソロバンをはじく(iPhoneは対象外)。

「フェイスブックはドコモ側への〝手土産〟として、彼らの音楽やアニメコンテンツをフェイスブック上で共有してもらうという新機能をすでに約束しています」(業界関係者)


上記のくだりの「音楽やアニメコンテンツをフェイスブック上で共有してもらう」という話は5月13日にドコモが発表しているのではないか。ダイヤモンドの記事を読むと、水面下で進んでいる話のような印象を受ける。


◎組織がきしんでる?

【ダイヤモンドの記事】

二つ目が、組織のきしみだ。13年5月に初めて日本代表の座に就任した岩下充志氏が、今年1月には休暇を取得し、営業担当幹部と共に3月末に会社を去った。

「風通しの良さを重視している会社のカルチャーに合わず、最後は本社から降格を迫られた」(同社関係者)のが原因というが、十分なあいさつ回りもない急な〝更迭〟に、取引先には動揺が走った。

誤算の2つ目が「組織のきしみ」らしい。しかし、特にきしんでいるようには感じられない。日本代表の岩下氏が急に辞めたというだけならば、「2つ目の誤算」として取り上げるほどではないだろう。「取引先には動揺が走った」とは書いているが、常識的に考えれば「何があったんだろうね」と話題になるぐらいの話だ。新たなトップが就任して普通に会社が回っているのならば、何の問題もないはずだ。

例えば「代表が急に辞めたのをきっかけに派閥争いが激化している」とか「岩下氏を追って優秀な人材が次々と会社を去っている」といった話ならば「組織のきしみ」と言われても頷けるのだが…。


◎これは誤算?

【ダイヤモンドの記事】

三つ目が、ナショナルクライアントと呼ばれる大手企業や、そこに寄り添う大手広告代理店との信頼関係の悪化だ。

過去フェイスブックは、企業側が「いいね!」を多く集めることで、ファンとコミュニケーションが図れると説明してきた。そのため企業側は「いいね!」を集める広告に投資をしてきた。ところが昨年からアルゴリズムの変更によって企業による投稿の表示頻度が激減、時間とカネが水泡に帰した一部企業は不信感を抱いた。


これも「誤算」と言えるか疑問だ。アルゴリズムの変更によって企業の投稿の表示頻度が減ることをフェイスブックは知らなかったのか。あるいは、表示頻度を減らしても企業は不満を持たないと思っていたのか。そうならば「誤算」だろうが、常識的にはフェイスブックがそこまで間抜けだとは考えにくい。一部企業が不満を持つことを想定した上で、それでもアルゴリズムを変更した方が全体としてはメリットが大きいと判断したのではないか。フェイスブックにとって計算違いだったと確信できる材料を筆者が持っているのならば、それを読者に示すべきだ。


◎「極めて良質なデジタル広告を出稿できる随一のプラットフォーム」?

見誤ってはいけないのは、ありとあらゆる個人データを大量に蓄積しているフェイスブックは、極めて良質なデジタル広告を出稿できる随一のプラットフォームであるという点だ。年齢や性別、興味関心などにより分けてターゲティングをした場合、狙った通りの人物像に広告が届けられる精度は96%超と驚異的な正確性を誇る。

フェイスブックは、極めて良質なデジタル広告を出稿できる随一のプラットフォームである」と断定しているのも気になった。何の根拠もないからだ。「極めて良質なデジタル広告=消費者の購入意欲を大幅に高められるデジタル広告」と考えれば、広告主が「極めて良質なデジタル広告」を作ってしまえば、その出稿先はいくらもある。

記事では「狙った通りの人物像に広告が届けられる」ことを根拠にフェイスブックを「極めて良質なデジタル広告を出稿できる随一のプラットフォーム」と断定しているのかもしれないが、狙った通りの人に届けられるからと言って、「良質なデジタル広告」だとは言い切れない。「届けたい人に極めて高い確率でデジタル広告を届けられる唯一のプラットフォーム」ならば、まだ違和感はないが…。


◎フェイスブックは「デジタル空間の覇者」?

【ダイヤモンドの記事】

デジタル空間の覇権は誰の手に渡るのか。王者すらも酸素(オキシジェン)吸入に頼らざるを得ない今、明日を読めぬ世界が広がっている。


記事では「フェイスブックがデジタル空間の覇権を有している」と断定しているが、これも納得できない。特集の39ページの表を見ると「2014年広告関連収入」はグーグルの7兆0867億円に対し、フェイスブックは1兆3790億円。これで「フェイスブックはデジタル空間の覇者」と言えるだろうか。特集の最後の記事では「モバイルへのシフトでフェイスブックの価値が一層増している」と書いているので、モバイル分野ではフェイスブックの方が上なのかもしれない。しかし、「デジタル空間の覇権」を論じる場合、デジタル空間全体で見るべきだろう。


※記事の評価はD(問題あり)。池田光史記者、後藤直義記者の評価も暫定でDとする。

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