2021年5月31日月曜日

日経「選球眼~交流戦で見たい好勝負」に感じた浜田昭八氏の限界

スポーツライターの浜田昭八氏にコラムを任せるのはやめた方がいい。31日の日本経済新聞朝刊スポーツ2面に載った「選球眼~交流戦で見たい好勝負」という記事を読んで改めてそう感じた。問題のくだりを見ていこう。

大阪城公園

【日経の記事】

交流戦は2005年に1カード3連戦を双方の本拠地で1度ずつ行う、1球団36試合制で始まった。試合が多過ぎて、リーグの独自性が失われるなどの声が出て、1球団24試合に減った。さらに15年から現行の1カード3連戦のみ、本拠地開催は隔年という方式になった。主力の人気投手と打者がすれ違うと、その年の対戦は見られない。

観客が多く、放送権料も多い巨人、阪神との対戦が交流戦のために減るのは、セ側にとって重大な問題だ。だが、パ側にもドラフトのくじ運に恵まれたとはいえ、目玉になる好選手は多い。交流戦を減らして、いい商品を見せないような状態にする手はない。

戦前、戦後の苦境を乗り越えてきたセの老舗チームの人気に寄りかかろうとするパ側の姿勢にも問題があろう。交流戦、日本シリーズの好成績をステータス向上の証しと振りかざすのもどうか。気を緩めると人気も実力もすぐに逆転する


◎「パ側の姿勢にも問題」?

上記のくだりを読んで「なるほど」と思えただろうか。自分の読解力不足なのかもしれないが「戦前、戦後の苦境を乗り越えてきたセの老舗チームの人気に寄りかかろうとするパ側の姿勢にも問題があろう」という部分をどう解釈すれば良いのか分からなかった。

交流戦を減らして、いい商品を見せないような状態にする手はない」と書いているのだから浜田氏は「交流戦」の減少を問題視しているはずだ。「パ側」が「セの老舗チームの人気に寄りかかろうとする」のならば「交流戦」を増やす原動力になる。なのになぜ「問題」なのか。

そもそも「パ側」が「セの老舗チームの人気に寄りかかろうと」しているのかも疑問だ。浜田氏自身も「気を緩めると人気も実力もすぐに逆転する」と書いている。ならば現時点で「人気も実力も」上なのは「パ側」だ。なのになぜ「セの老舗チームの人気に寄りかかろうとするパ側」との認識になってしまうのか。

ついでに言うと「パ側」は「交流戦、日本シリーズの好成績をステータス向上の証しと振りかざ」しているのか。個人的には、そうした報道に触れた記憶がない。「振りかざ」していると言える材料を浜田氏が持っているのならば具体的に書いてほしかった。

記事の続きを見ておこう。

【日経の記事】

それにしても、ロッテには「見せる」気概を示してほしかった。佐々木朗に佐藤輝敬遠を指示した場面。不振の次打者梅野隆太郎を打ち取り、作戦は成功した。だが、松井秀喜5敬遠のアマのトーナメントとは事情が違う。若い当事者2人の、ともに怒った「プロの顔」に救われたが……。


◎説明が足りないような…

ここでは「松井秀喜5敬遠のアマのトーナメントとは事情が違う」という説明が引っかかった。「松井秀喜5敬遠」を読者は当然知っているとの前提で書いているのだろう。しかし、そうとは限らない。日経には若い読者も少ないながらいるはずだ。そうした人たちへの配慮が足りない。

そういう意味でも浜田氏にコラムを任せるのは、やはり無理がある。


※今回取り上げた記事「選球眼~交流戦で見たい好勝負」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210531&ng=DGKKZO72420710Q1A530C2UU2000


※記事の評価はD(問題あり)。浜田昭八氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経のコラムで「リクエスト制度に大過なし」と浜田昭八氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_43.html

浜田昭八氏の理解力に問題あり 日経「選球眼~選手と首脳陣つなぐ本音」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_16.html

「プロゴルファーに複数年契約はない」と日経に書いた浜田昭八氏に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/blog-post_16.html

2021年5月30日日曜日

最低賃金で「3つの問題」を指摘した日経 水野裕司編集委員への疑問

30日の日本経済新聞朝刊総合4面に水野裕司編集委員が書いた「Views~先読み『最低賃金1000円』議論へ 古びた制度、賃上げの壁」という記事には色々と問題を感じた。内容を見ながら具体的に指摘したい。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

菅義偉政権初となる最低賃金の引き上げをめぐる審議会の議論が6月下旬にも始まる。政府は全国平均で時給1000円への早期引き上げを掲げるが、新型コロナウイルス禍で労使の対立が激しさを増し、実現は容易ではない。議論の進め方や制度設計をめぐる3つの問題が浮かび上がる。

最低賃金は都道府県ごとに改定される。引き上げ幅の目安を、学識者らの公益委員と労使代表で構成する厚生労働省の中央最低賃金審議会が示す

だが2020年は目安の提示を断念する異例の事態となった。コロナ禍による景気低迷で労使が合意できる水準を見いだせなかったためだ。公益委員が出した見解は「現行水準の維持が適当」というもので、議論は各都道府県の地方審議会にゆだねられた。全国平均の時給は前年から1円増の902円にとどまった。

中央審議会での議論が膠着状態に陥りがちな点が、第1の問題だ。公益委員は景気や雇用のデータを基に適切な上げ幅を探るというよりも、労使間の調整が役割になる傾向がある。労使対立が激しいと、どうしても目安は控えめになる。

英国では政府諮問機関の低賃金委員会が最低賃金の改定案を示す。これまでの引き上げが物価や企業の投資などに及ぼした影響を精査する。同委員会は20年10月、最低賃金を2.2%上げて8.91ポンド(約1370円)とするよう提案、英政府は今年4月に実施した。


◎どう変えたい?

第1の問題」は「中央審議会での議論が膠着状態に陥りがちな点」だと水野編集委員は言う。だとしたら話は簡単だ。「全国平均で時給1000円への早期引き上げ」を是とするのならば「学識者らの公益委員と労使代表で構成する厚生労働省の中央最低賃金審議会」を「引き上げ」賛成派で固めればいい。しかし水野編集委員はそれを求めない。

そして「英国」の話を持ち出す。日本も「政府諮問機関」で「景気や雇用のデータを基に適切な上げ幅を探る」べきだと言いたいのかもしれない。しかし、それだと「議論が膠着状態」になるのを防げない。例えば学者だけをメンバーにして「景気や雇用のデータ」を分析するにしても、見解が一致するとは限らない。

続きを見ていこう。以下のくだりに最も大きな問題を感じた。

【日経の記事】

日本の第2の問題は、最低賃金を引き上げた場合の企業への影響を抑える工夫が足りないことだ

英国は若年層を18~20歳、16~17歳などに分け、年齢が下がるに従い最低賃金を減額する。スウェーデンは産業別に労使が協議し、景況や技能水準を踏まえて最低賃金を決める。ドイツは職業訓練生の一部などが最低賃金の対象外だ。

日本の最低賃金は安倍前政権下での上げ幅が計150円を超えた。とはいえ現在の額の水準は英独仏の65~70%強にとどまる。

一方、急速な引き上げで、改定後に賃上げが必要になった労働者の比率(小規模企業ベース)は19年には16.3%に高まった。

「国際的にみて低い日本の最低賃金は今後も引き上げが必要だが、雇用への影響を抑える工夫が一層重要」(日本総合研究所の山田久副理事長)。生産性に見合う形で最低賃金が上がる制度設計が求められる。


◎本当に「工夫が足りない」?

日本の第2の問題は、最低賃金を引き上げた場合の企業への影響を抑える工夫が足りないことだ」と水野編集委員は言う。本当だろうか。

英国は若年層を18~20歳、16~17歳などに分け、年齢が下がるに従い最低賃金を減額する」らしい。きめ細かく分けているから「企業への影響を抑え」られると言いたいのだろう。しかし「最低賃金」に関して英国は全国一律で日本は都道府県別だ。地域の実情に応じて決めることで日本は「企業への影響を抑える工夫」をしているのではないか。

スウェーデンは産業別に労使が協議し、景況や技能水準を踏まえて最低賃金を決める」らしい。日本でも「学識者らの公益委員と労使代表で構成する厚生労働省の中央最低賃金審議会」で「引き上げ幅の目安」を示すのだから「企業への影響を抑える工夫」としては似たようなものだ。

ドイツは職業訓練生の一部などが最低賃金の対象外」と書いてあると日本に対象外のものはないような印象を受ける。しかし厚生労働省のホームページを見ると「基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める方」は「最低賃金の減額の特例」が認められると出てくる。

結局「最低賃金を引き上げた場合の企業への影響を抑える工夫が足りない」と言える十分な根拠を水野編集委員は示せていない。

さらに最後まで見ていこう。

【日経の記事】

第3の問題は雇用の安全網の不備だ。職業訓練や職業紹介が充実していないと最低賃金を上げにくい。ハローワークの求人開拓力のテコ入れなどが急務だ。

最低賃金引き上げは格差拡大の抑制策として各国が重視する。成長力を失った企業を淘汰する効果も指摘される。日本の現行制度の骨格が固まってから40年余り。制度を立て直す時だ。


◎どういう関係?

職業訓練や職業紹介が充実していないと最低賃金を上げにくい」という理屈が謎だ。労働側から見るとほとんど関係ない。「職業訓練や職業紹介が充実していない」から「最低賃金」を上げないでほしいと労働側が望む場合があるのか。経営側から見ても同じだ。「職業訓練や職業紹介が充実」してきたら「最低賃金」の引き上げに抵抗がなくなるものなのか。人件費の負担増が困るのならば、「職業訓練や職業紹介が充実」しても問題は解決しない。

最低賃金」が上がると雇用が減るから「職業訓練や職業紹介」を充実させるべきとの考えなのだろうか。しかし「最低賃金」の引き上げが雇用の絶対数を減らすのならば「職業訓練や職業紹介」を充実させても、あまり意味はない。椅子取りゲームの椅子が減るのに、椅子取りゲームの参加者への「訓練」を充実させても椅子を取れる人は増えないはずだ。


※今回取り上げた記事「Views~先読み『最低賃金1000円』議論へ 古びた制度、賃上げの壁

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210530&ng=DGKKZO72412090Z20C21A5EA4000


※記事の評価はD(問題あり)。水野裕司編集委員への評価もDを据え置く。水野編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。


通年採用で疲弊回避? 日経 水野裕司編集委員に問う(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_28.html

通年採用で疲弊回避? 日経 水野裕司編集委員に問う(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_22.html

宣伝臭さ丸出し 日経 水野裕司編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_26.html

「脱時間給」擁護の主張が苦しい日経 水野裕司編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_29.html

「生産性向上」どこに? 日経 水野裕司編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_23.html

理屈が合わない日経 水野裕司編集委員の「今こそ学歴不問論」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post.html

日経 水野裕司上級論説委員の「中外時評」に欠けているものhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_9.html

具体策は「労使」丸投げで「雇用と賃金、二兎を追え」と求める日経 水野裕司上級論説委員https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/blog-post_17.html

2021年5月28日金曜日

色々と情報が足りない日経1面「ソニー、テレビ工場自動化」

28日の日本経済新聞朝刊1面に載った「ソニー、テレビ工場自動化 23年度めどコスト7割減」という記事には問題を感じた。入れておくべき情報が抜け過ぎている。これで1面に持ってくるのは辛い。電子版にはより長めの記事があるが、やはり肝心の情報は見当たらない。電子版の記事の全文を見た上で、何が足りないのか指摘したい。

熊本港

【日経の記事】

ソニーグループはテレビ事業の主力拠点のマレーシアで工場を大幅に自動化する。製品の設計から生産まで一体で進める事業体制の競争力強化を狙い、2023年度をめどに生産コストを18年度比7割減らす。韓国・中国勢の躍進で日本勢が地盤沈下するなか、同社は19年時点で世界シェア5位に踏みとどまっている。生産革新で事業基盤を強固にする。

電子機器では効率生産に強みを持つ中国や台湾の受託製造サービス(EMS)が台頭。ソニーもテレビ生産の一部を任せている。だが「最新技術を使った製品を早く安く生産できる」(ソニー)利点があるとして、高機能の先端商品を中心に内製を続ける方針だ。

首都クアラルンプール近郊の工場に初の無人生産ラインを導入した。残るラインの自動化も進める。ロボットは汎用品を使うが、要となる制御プログラムなどは独自開発する。ロボットが扱いにくい部材を使う工程などがあるため、完全無人化は難しいという。

数千人規模いる従業員は段階的に減らす。大半が有期契約のため、自動化の進展に合わせて満了時の再契約を見送る。

ソニーはマレーシアのペナン州にある音響機器工場を9月までに停止し、生産をテレビ工場に集約する。統合後、音響機器の生産ラインでも自動化に取り組む。マレーシアで自動化技術を確立し、ほかの地域の生産拠点に広げることも検討する

英調査会社のユーロモニターインターナショナルによると、19年の世界の薄型テレビ市場でソニーは5.4%のシェアを持つ5位だった。首位の韓国サムスン電子(18.7%)や2位の韓国LG電子(15.2%)に水をあけられているが、高価格帯の製品を中心に一定の存在感を確保している。

日系企業が多い東南アジアでは人件費の上昇が続く。日本貿易振興機構(ジェトロ)の20年度の調査によると、マレーシアの製造業の作業員の人件費(諸手当や賞与含む)は年7048ドルと10年前から25%上昇した。

海外での製造業の立地を巡っては、米中貿易戦争に絡む地政学リスクや脱炭素に向けた再生可能エネルギーの調達のしやすさなども考慮されるようになりつつある。自動化技術が発達すれば、企業の立地の自由度が高まる可能性もある。


◇   ◇   ◇


入れておくべきなのに抜けていると思える材料を挙げてみる。

(1)「自動化」はいつ終わる?

ソニーグループはテレビ事業の主力拠点のマレーシアで工場を大幅に自動化する」と冒頭で書いている。しかし、いつ完了するのか触れていない。「2023年度をめどに生産コストを18年度比7割減らす」との記述から「2023年度」に完了するとの推測はできるが、そこは明示してほしい。

生産コストを18年度比7割減らす」という話も「首都クアラルンプール近郊の工場」に限ったものなのか「テレビ事業」全体なのか判断に迷う。前者だとは思うが…。


(2)ラインは何本ある?

首都クアラルンプール近郊の工場に初の無人生産ラインを導入した。残るラインの自動化も進める」と書いているものの、「ライン」が何本あるか不明。この情報があれば、現時点での「自動化」の進展具合が分かるのに…。


(3)「自動化」は画期的?

テレビ工場自動化」が凄いことなのかどうか記事からは判断できない。同業他社はどこもやっていないのならば1面にふさわしいネタだ。しかし、その辺りはスルーしている。あえてなのか、うっかりなのか。いずれにしろ問題がある。


(4)「無人生産ライン」と言う割に…

首都クアラルンプール近郊の工場に初の無人生産ラインを導入した。残るラインの自動化も進める」と書く一方で「完全無人化は難しい」とも説明している。だとしたら「無人生産ライン」と言えるのか。「完全無人化」できなのならば、「無人生産ライン」がどの程度の「無人化」を実現しているのかは情報として欲しい。


(5)マレーシアで何割作ってる?

マレーシアで工場を大幅に自動化する」というものの「テレビ事業」の中でどの程度の重みがあるのかが分からない。「マレーシアで自動化技術を確立し、ほかの地域の生産拠点に広げることも検討する」と書いているので他にも「生産拠点」はあるのだろう。「中国や台湾の受託製造サービス(EMS)」も利用しているらしい。

その中で「マレーシア」がどの程度の大きさなのかは知りたい。例えば生産台数ベースで8割を占める工場ならば「自動化」のインパクトは大きいだろう。逆に1割程度ならば大した話ではない。

記事の終盤では長々と背景説明をしているが、「自動化」についてしっかり書き込むのが先だ。それができてから余裕があれば背景説明もすればいい。


※今回取り上げた記事「ソニー、テレビ工場自動化 23年度めどコスト7割減

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ2831A0Y0A221C2000000/


※記事の評価はD(問題あり)

2021年5月27日木曜日

財政破綻が起きる「仕組み」は結局不明? 日経「大機小機~財政破綻を決めるのは誰か」

 27日の日本経済新聞朝刊マーケット総合面に載った「大機小機~財政破綻を決めるのは誰か」という記事は興味深いテーマを扱っている。ただ、説得力は感じなかった。全文を見た上で問題点を指摘したい。

筑後川と西鉄大牟田線

【日経の記事】

筆者は日本の財政は将棋に例えると既に詰んでいる、とみている。換言すれば、民主主義のシステムに基づいて、増税や歳出削減で財政バランスを取り戻すのは、もはや無理なところまで来ているのではないか。

しかし、どのようなメカニズムで財政破綻が発生するのか、その仕組みをイメージすることは難しい。そこで財政赤字のファイナンスが困難になる時点を決める要因が何かを考えてみたい

日銀がゼロ金利を維持する限り、政府の借り入れコストはゼロである。仮に国債の市中消化ができなくなっても、日銀がゼロ金利で無制限に国債を購入すれば、財政赤字ファイナンスの問題は表面化しない。

しかし日本の財政を政府だけでみると判断を誤る。政府と日銀を統合したバランスシートで見てみよう。

政府赤字の相当部分は、日銀が発行する銀行券(お札)と民間銀行が持つ日銀当座預金に置き換えられてファイナンスされている。銀行券の大部分はわれわれが現金として持っており、日銀当座預金は民間銀行が日銀にお金を預ける形で、われわれの預金の裏付けになっている。

将来、日銀が物価の上昇を抑えるために短期市場金利を引き上げようとすると、日銀当座預金に利息を払う必要がある。例えば、市場金利を2%上げようとすれば、日銀当座預金に対して利息を2%つけなければならず、年10兆円もの利払い負担になる。

しかし、日銀が持っているのはゼロ金利の国債ばかりなので、利息を払うおカネがない。日銀は新たに借用証書を書き、利息を払い続けるという典型的な多重債務者と同じになる。こうした状況が何年か続けば、日本のお金を持ちたいと思う人は減っていく。

政府はゼロ金利の長期国債で借りているので、当面利払いは出てこないが、日銀に借金を押し付けて利息も払わせていることになる。

日銀はどこかの時点で信用をなくし、現預金から不動産、外貨、金などへのシフトが発生するだろう。どの時点で信用をなくすかについては、誰にも分からない。それを決めるのはわれわれ国民だ。国民が日銀券や民間銀行の預金を安心して持つ限り問題は表面化しない。しかし国民が愛想を尽かす時には日銀の信用は崩壊する


◎結局、資金は尽きない?

財政赤字のファイナンスが困難になる時点を決める要因が何かを考えてみたい」と筆者の山河氏は切り出している。しかし、その答えは明らかになっていない。「日銀はどこかの時点で信用をなくし、現預金から不動産、外貨、金などへのシフトが発生する」としよう。だからと言って「財政破綻が発生する」訳でも「財政赤字のファイナンスが困難になる」訳でもない。

政府と日銀を統合」して考えた場合、「政府と日銀」の支払い能力がなくなった時に「財政破綻が発生する」はずだ。それがどういう形で起きるのか示してほしかった。しかし「国民が愛想を尽かす時には日銀の信用は崩壊する」と結論付けているだけで「日銀の信用」が「崩壊する」となぜ「財政赤字のファイナンスが困難になる」のかは教えてくれない。

政府」が「日銀に借金を押し付けて利息も払わせている」状態になったとしても、「日銀」の支払い能力が限界に達しない限り「財政赤字のファイナンス」はできるはずだ。「政府と日銀」には日本円を創出する権限がある。金などの裏付けは必要ない。「政府と日銀」が「財政破綻」を望まないとの前提で考えれば「財政赤字のファイナンス」ができなくなる事態は考えにくい。

日本の財政は将棋に例えると既に詰んでいる」と山河氏は見ている。それは、それでいい。であれば「財政破綻」は不可避のはずだ。なのに「どのようなメカニズムで財政破綻が発生するのか、その仕組みをイメージすることは難しい」らしい。不思議な話だ。本当に「詰んでいる」のか。「典型的な多重債務者」であれば、債務不履行に陥る「仕組みをイメージする」ことは容易だ。

日本円を無限に創出できる「政府と日銀」を個人の「多重債務者」と重ねて見ているから問題を見誤っているのではないか。

円建ての政府債務がどれだけ膨らんでも「政府と日銀」の資金が尽きて「財政破綻が発生する」ことはないーー。それが正しい答えだと思える。


※今回取り上げた記事「大機小機~財政破綻を決めるのは誰か」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210527&ng=DGKKZO72301650W1A520C2EN8000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年5月26日水曜日

「デジタル空間に移住」「身体機能を機械に移植」との説明が苦しい日経「データの世紀」

「新たな技術が世界を大きく変えている」と訴えるのは日本経済新聞朝刊1面連載にありがちなパターンだ。しかし総じて説得力がない。26日の「データの世紀~グレートリセット(下)『バーチャル生活』人生の半分 デジタル化、進化か退化か」という記事にも無理を感じた。問題の事例を見ていこう。

アオサギ

【日経の記事】

それでもバーチャルがリアルを上回る新世界はもう止まらない。人類のさらなる進化か、それとも退化の始まりか。恐れ惑っているだけでは前に進めない。

英ロボット学者のピーター・スコット・モーガン氏(63)がデジタル空間に移住して1年半たった。筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断されて以降、ほぼすべての身体機能を機械に移植した。アバターは顔も声もそっくりな「もう一人の自分」を体現する。

人工呼吸器がつながり、胃には栄養チューブ、結腸には人工肛門が着けられている。だが不便どころか、むしろ自分を「ピーター2.0」に更新できたと喜びを感じる。「デジタル空間の私は年を取らないし、あらゆる言語を話せる。これまでのキャリアで最もハードに働いているよ」

物理的な制約に縛られず、距離や時間、そしてあらゆるハンディをも乗り越えられる。うまく使いこなせば、デジタル空間は豊かな想像力を育む創造の場だ。より良いデータの世紀へ、どう考え、何を選び抜くか。一人ひとりの「グレートリセット」が始まる。


◎「移住」「移植」と言える?

筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の患者が「顔も声もそっくり」な「アバター」を「デジタル空間」に作った場合「デジタル空間に移住」と言えるのか。「リアル」の空間の自分が消えてしまうなら分かる。冬眠状態でもいいだろう。しかし記事に出てくる「モーガン氏」は今も「人工呼吸器がつながり、胃には栄養チューブ、結腸には人工肛門が着けられている」ようだ。現実の生活がしっかり残っているのに「デジタル空間に移住」と見なすのは苦しい。

ほぼすべての身体機能を機械に移植した」との説明にも疑問を感じる。この「アバター」には呼吸、栄養消化、排便、排尿、発汗などの「身体機能」が本当にあるのか。「デジタル空間」でタンパク質などの栄養をどう取るのだろう。

顔も声もそっくり」にしただけでは「ほぼすべての身体機能を機械に移植した」とは言い難い。それに「移植」であれば「リアル」の「モーガン氏」はその「身体機能」を失っていると考えるのが自然だ。栄養を吸収する機能を「移植した」のに今も「リアル」の世界で生きているとすれば不思議だ。

デジタル空間に移住」とか「ほぼすべての身体機能を機械に移植」といった説明に無理があると考えるべきなのだろう。連載を担当した長尾里穂記者と綱嶋亨記者も、その自覚はあるかもしれない。しかし「バーチャルがリアルを上回る新世界はもう止まらない」などと大きく出ないと日経好みの1面連載に仕上がらない。なので、どうしても強引な描き方になってしまう。

長尾記者と綱嶋記者は「物理的な制約に縛られず、距離や時間、そしてあらゆるハンディをも乗り越えられる」と心の底から思えるのか。それとも記事の構成上そう書いてみただけなのか。改めて自問してほしい。


※今回取り上げた記事「データの世紀~グレートリセット(下)『バーチャル生活』人生の半分 デジタル化、進化か退化か

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210526&ng=DGKKZO72268540W1A520C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。長尾里穂記者と綱嶋亨記者への評価は暫定でDとする。

2021年5月25日火曜日

解説に無理がある日経「米、人種格差是正遠く~コロナ死亡率・住宅価格…」

 25日の日本経済新聞朝刊国際面に載った「米、人種格差是正遠く~コロナ死亡率・住宅価格…」という記事には無理を感じた。中身を見ながら具体的に指摘したい。

山に沈む夕陽

【日経の記事】

全米で「ブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命は大切だ)」運動が続く背景には、新型コロナウイルスでの死亡率や直近の失業率などで、黒人と白人との差が改めて浮き彫りになっている現実がある。バイデン米政権は格差是正を掲げ、企業も歩を合わせるが、道のりは険しい。

米疾病対策センター(CDC)によると、黒人の人口当たりのコロナ死亡率は白人の1.9倍だ。一方でワクチンの接種率は低い。米カイザー・ファミリー財団(KFF)が集計する17日時点でのワクチン接種率は白人42%に対し、黒人は28%にとどまり、人種別で最低だった。黒人は在宅勤務をしにくい接客業などに就く人が多く、接種に行く時間を捻出するのも難しい。ニューヨークに住む黒人女性は「仕事の時間の融通がきかない」とこぼす。


◎在宅勤務じゃないと接種が難しい?

黒人は在宅勤務をしにくい接客業などに就く人が多く、接種に行く時間を捻出するのも難しい」から「ワクチン接種率」が低いと筆者ら(大島有美子記者、吉田圭織記者、野毛洋子記者)は見ているようだ。納得はできない。「接客業」で働いていても休日はあるはずだ。

米国のワクチン接種事情はよく分からないが、「接種」してもらえるのが平日だけならば、平日休みが多い「接客業」の方が「時間を捻出」しやすそうだ。曜日に関係なく「接種」できるのならば、仕事がない日に「接種」すれば済む。黒人の「ワクチン接種率」が低い原因は別にありそうな気がする。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

米国では低金利が住宅購入需要を刺激し、住宅価格が上がり続けている。だがそこにも「人種の偏見で説明できる大きな価格差が存在する」(インターネット不動産仲介のレッドフィンの担当者)。同社の調べでは、人口数上位10%の大都市では、黒人の多い居住区の住宅価格が白人の多い居住区と比べて2021年2月時点で5万5000ドル(約600万円)低かった。その差は遡れることが可能な13年以降で最大だ。犯罪率の差などが理由にある。


◎「人種の偏見で説明できる」?

黒人の多い居住区の住宅価格」が低いことは「人種の偏見で説明できる」だろうか。「犯罪率の差」が住宅価格に反映されているのならば「人種の偏見」とは関係ない。「黒人の多い居住区」の住宅が「白人の多い居住区」と比べて狭かったり作りが貧弱だったりすれば、それらも価格差を生む。「人種の偏見」に理由を求めているのに、その根拠を示せていない。

さらに見ていこう。

【日経の記事】

金融機関から住宅ローン申請を却下された割合は19年時点で黒人16%、白人7%と2倍超の開きがあった。「住宅価値で過小評価されている黒人居住区に政策でお金を回して、悪循環を断ち切るべきだ」(レッドフィンのチーフエコノミスト、ダリル・フェアウェザー氏)。住宅保有率の差も遡れる1994年以降、埋まっていない。


◎「過小評価」と言える?

住宅価値で過小評価されている黒人居住区」と言い切るコメントを使っているが、「犯罪率の差」が原因で価格差が生じているのならば「過小評価されている」とは言い切れない。

住宅保有率の差も遡れる1994年以降、埋まっていない」とも書いているが「住宅保有率」は高ければいい訳ではない。個人的には「住宅ローン」を抱えてまで持ち家にこだわるのは避けたい。

記事の終盤も見ておこう。

【日経の記事】

バイデン米政権は経済政策構想「米国家族計画」で格差の是正を目指す。企業や富裕層には増税とする一方、中低所得層の保育負担の軽減に2250億ドルを振り向けるなど、所得の再分配を促す。

企業も格差是正に向けた投資に積極姿勢だ。米銀最大手のJPモルガン・チェースは20年10月、5年で80億ドル(4万件)の住宅ローンを黒人やヒスパニック系向けに組成するとの目標を掲げた。スポーツ用品のナイキやグーグルなどIT(情報技術)も黒人など人種的マイノリティーの幹部起用を加速する方針。格差が格差を生む悪循環を断ち切れるかが課題となる。


◎「格差が格差を生む」?

米国では人種間の「格差が格差を生む悪循環」が起きているのかもしれない。しかし、今回の記事では、それを裏付ける材料を提示できていない。

ついでに「企業も格差是正に向けた投資に積極姿勢だ」という説明にも注文を付けたい。「住宅ローン」を提供するのならば「投資」というより「融資」だ。それに「住宅ローン」が「格差是正」につながるとは限らない。借金の負担が「格差」を広げる可能性もある。信用力の低さを反映して金利が高めに設定されている場合は、さらにその可能性が高まる。

全体として物の見方が単純で浅い印象を受けた。もっと深く多面的に考えて記事を書いてほしい。


※今回取り上げた記事「米、人種格差是正遠く~コロナ死亡率・住宅価格…」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210525&ng=DGKKZO72220500U1A520C2FF8000


※記事の評価はD(問題あり)。大島有美子記者への評価はDで確定とする。吉田圭織記者と野毛洋子記者への評価は暫定でDとする。

2021年5月24日月曜日

台湾有事「日本は是々非々の対応を」で逃げる日経 原田亮介論説主幹に伝えたいこと

長々と記事を書いて漠然とした主張しかできないのならば何のための「論説主幹」なのかーー。24日の日本経済新聞朝刊オピニオン2面に原田亮介論説主幹が書いた「核心~老いる中国と米の包囲網 日本は是々非々の対応を」という記事を読んで、そう感じた。

河口付近の筑後川

前半では中国の人口問題に触れているが、後半との関連は薄く、行数稼ぎに見える。そこは目をつぶるとしても台湾問題に関する歯切れの悪さは引っかかる。当該部分を見ていこう。

【日経の記事】

 米政権はそこで「責任の公平な分担」という要求への答えを各国に求めるだろう。台湾海峡問題への対応もその一つだ。台湾有事への備えや、中国のミサイルに対する抑止力強化が課題になる。日本国際問題研究所の佐々江賢一郎理事長は「米政権は中国に、有事には行動するというメッセージを出した。日本はそれに巻き込まれるという議論でなく、自らどう関わるかを決めないといけない」と話す。

例えば経済安全保障にかかわるサプライチェーンについて、民生用の旧来技術の貿易を規制すべきではないが、AIなどの先端技術で競争力を高める協力は惜しんではならない。温暖化ガスの問題では中国に「途上国扱い」の返上を一緒に迫るべきだろう。

一つ一つに是々非々で答えを出す必要がある。菅政権はワクチン接種と同時に、外交でも正念場を迎える


◎で、台湾有事の際の「是々非々」とは?

民生用の旧来技術の貿易を規制すべきではないが、AIなどの先端技術で競争力を高める協力は惜しんではならない。温暖化ガスの問題では中国に『途上国扱い』の返上を一緒に迫るべきだろう」などと原田論説主幹の考えを明確にしている部分もある。しかし肝心の「台湾有事の際に日本はどう対応すべきか」という問題からは逃げている。

米政権は中国に、有事には行動するというメッセージを出した。日本はそれに巻き込まれるという議論でなく、自らどう関わるかを決めないといけない」という「日本国際問題研究所の佐々江賢一郎理事長」のコメントを紹介していることから推測すると「台湾有事の際に米国が中国と戦うならば日本も同盟国として参戦すべきだ」と原田論説主幹は思っているのではないか。日米同盟の強化(言い換えれば「米国への属国状態の強化」)を求める日経に「米国に逆らう」との選択肢があるとは考えにくい。

しかし、それを前面に出せば「台湾を守るためになぜ日本が戦争に巻き込まれなきゃいけないんだ」「日本は台湾を中国の一部と認めている。であれば中国の内戦なのに日本が武力介入するのはおかしい」といった批判を受けそうだ。

そして、原田論説主幹はこの手の批判に対する有効な答えを持っていないのだろう。だから態度を明確にせず「是々非々で答えを出す必要がある」「外交でも正念場を迎える」などと当たり障りのない結論を導いてしまう。

「台湾有事の際に米国が中国と戦っても日本は軍事面での協力は一切すべきではない」と主張するのが一番スッキリする。日米が台湾防衛のために中国と戦って自衛隊にも多数の戦死者が出る事態になった場合「台湾を守るためには仕方がない」と受け入れるのは難しい。

在日米軍基地や自衛隊基地を中心に日本が中国からの攻撃を受ける事態になれば「何のために台湾を守るのか」との疑問はさらに膨らむ。

「戦争を避けるため、日本を守るためには日米同盟が必要」と原田論説主幹は信じているだろう。しかし台湾有事の問題を掘り下げていくと、日米同盟にしがみついた結果として戦争に巻き込まれ日本が戦場となるリスクが高まる。

論説主幹という立派な肩書を付けてコラムを書くのならば、この問題に日経としての解を示すべきだ。それができないのならば後進に道を譲ってほしい。


※今回取り上げた記事「核心~老いる中国と米の包囲網 日本は是々非々の対応を」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210524&ng=DGKKZO72134850R20C21A5TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。原田亮介論説主幹への評価はDを維持する。原田論説主幹に関しては以下の投稿も参照してほしい。


「2%達成前に緩和見直すべき?」自論見えぬ日経 原田亮介論説委員長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_77.html

財政再建へ具体論語らぬ日経 原田亮介論説委員長「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_33.html

日経 原田亮介論説委員長「核心~復活する呪術的経済」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_20.html

日経 原田亮介論説委員長「核心~メガは哺乳類になれるか」の説明下手
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post.html

中国「中進国の罠」への「処方箋」が苦しい日経 原田亮介論説委員長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_57.html

「中台のハイテク分断に現実味」が苦しい日経 原田亮介論説委員長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_29.html

「長々」と続く昔話は行数稼ぎ? 日経 原田亮介論説委員長「核心」 
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_2.html

2021年5月23日日曜日

大西康之氏が書いたFACTA「コロナ禍より怖い『食べログ』の減点」の問題点

FACTA6月号にジャーナリストの大西康之氏が書いた「コロナ禍より怖い『食べログ』の減点」という記事はツッコミどころが多かった。中身を見ながら具体的に指摘したい

夕暮れ時の筑後川
【FACTAの記事】

新型コロナウイルス第4波による緊急事態宣言で苦境が続く飲食店――。チェーン店のオーナーたちが、コロナより恐れているものがある。ネット大手「カカクコム」(東証1部上場、東京・恵比寿)が運営するグルメサイト「食べログ」による「チェーン店ディスカウント」だ。

食べログは2019年5月、チェーン店の評点を大幅に引き下げた。それにより一部のチェーン店の予約は激減した。焼肉チェーンの「コラボ」は20年5月、約6億4千万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。そんなチェーン店にコロナが追い討ちをかけた。チェーン店は「減点」と「コロナ」という二つの恐怖と戦っている


◎「減点」は今も「恐怖」?

この記事は基本的に話が古い。「チェーン店の評点を大幅に引き下げた」のが「2019年5月」で「コラボ」が「訴訟を起こした」のが「20年5月」。記事を最後まで読んでも、今年に入ってからの動きは出てこない。なぜ今この話題を取り上げたのか謎だ。

記事を読む限りでは「チェーン店の評点を大幅に引き下げた」のは「2019年5月」だけのようだ。だとすれば過去の話とも言える。なのに「チェーン店は『減点』と『コロナ』という二つの恐怖と戦っている」のか。本当に「減点」を「コロナより恐れている」のか。

「大きな問題なんだ」と訴えたいのは分かるが、無理がある。

続きを見ていこう。


【FACTAの記事】

〈被告の事実行為である評点付けに関する「チェーン店ディスカウント」が飲食店間の競争を阻害し、自由競争経済秩序を侵害していることから独禁法違反に当たる〉

裁判で原告側のアドバイザーを務める元公正取引委員会事務総局審査局長の南部利之は東京地裁に意見書を提出した。独禁法のスペシャリストとして「食べログ」の行為を優越的地位の濫用と指摘し、当該行為の差し止めを請求する内容だ。

「減点」と「コロナ」のダブルパンチを食らったチェーン店は、今現在も毎月、大きな赤字を出し続けており「判決を待っている間に倒産しかねない」という危機感が原告側にはある。それほどに「食べログ」による減点のダメージは大きいのだ。一体、何が起きているのか。少し時計の針を戻してみよう。

関東を中心に関西、中部を加えた地域で35店舗を展開する焼肉チェーン「コラボ」を経営する「韓流村」(東京・赤坂)の社長、任和彬(イム・ファビン)は毎月第一、第三火曜日、朝一番で食べログが更新する「コラボ」各店の評価をチェックするのが慣わしになっていた。

食べログは5点満点で飲食店に評点をつけているが、それが0.01上がる(又は下がる)だけで、ネット予約に大きな影響が出る。飲食店にとって食べログの評点はまさに死活問題なのだ。

「嘘だろ!」

19年5月21日の朝、任はパソコンの前で凍りついた。それまで星3.5を超えていた各店の評点が、一斉に3.0台まで下がっていたのだ。星3.6と高評価を得ていた恵比寿店は3.08に落ちていた。大学受験に例えれば、星3.5は難関校に合格する偏差値60レベル。星3.0台は偏差値40レベルを意味する。食べログを使い慣れたユーザーは星3.0台の店をまず選ばない。

任は食べログの各店舗のサイトを隈なく調べたが、特段に悪いレビュー(クチコミ)は見当たらない。多くの利用者が「美味しかった」「いい店だった」と書き込んでくれているのに、評点がバッサリと切り下げられているのだ。

「一体どうなってるんだ!」

任はいつも広告を取りに来る食べログの営業マンに問い合わせたが、「営業と評点をつける部門は別々なので、どうしてそうなったか分からない」と言うばかり。カカクコムに問い合わせると「我々が開発したアルゴリズムに則って公正に評価しています」と、木で鼻をくくったような答えしか返ってこない。

大幅減点の影響は凄まじかった。減点前の18年6月から19年2月まで8カ月平均の「コラボ」の売上高は4億5千万円だったが、減点された後の19年6月から8カ月平均売上高は2億4900万円に落ち込んだ。

さらに調べてみると「コラボ」と同様、焼肉の「トラジ」「叙々苑」、とんかつの「まい泉」、ラーメンの「一風堂」など、15店舗から50店舗を展開するチェーン店が軒並み大幅減点を食らっていた。1、2店舗しか持たない個人経営の店に対し、チェーン店の評価を下げようという意図(狙い撃ち)は明らかだった


◎色々と疑問が…

まず「8カ月平均売上高」がよく分からない。「8カ月」間の「売上高」の合計ならば「平均」を入れる意味がない。例えば「8カ月」間の平均月間「売上高」ならば、「月間」だと明示すべきだ。

1、2店舗しか持たない個人経営の店に対し、チェーン店の評価を下げようという意図(狙い撃ち)は明らかだった」と大西氏は言う。これも腑に落ちない。「1、2店舗しか持たない個人経営の店に対し、チェーン店の評価を下げようという意図」があるのならば、3店舗以上の「チェーン店の評価を下げ」るのが自然だ。しかし、なぜか「15店舗から50店舗を展開するチェーン店」限定で「狙い撃ち」になっている。

その理由は考えてみるべきだ。推測でもいい。分からないのならば、そう書いてもいい。しかし大西氏はスルーで済ませてしまう。

ちなみに「15店舗から50店舗を展開するチェーン店」に「一風堂」を含めているが、当時既に「50店舗」を大きく上回っていたと思える。これに関してはFACTAに問い合わせを送り、別の投稿でその内容を紹介している。

記事の続きを見ていこう。

【FACTAの記事】

「一緒に裁判で戦わないか」

任は減点を食らったチェーン店のオーナーたちに呼びかけたが、腰は重い。グルメサイトで圧倒的な支配力を持つ食べログを敵に回しては日本の飲食業界で生きてはいけない。皆、食べログの怒りを買うことを恐れていた。

理論派の任だけは怯まなかった。任は大阪生まれの在日3世。ソウル大学を経て米国のペンシルベニア州立大学・ウォートン校に入学しMBA(経営学修士)を取得した。その後、世界最大級の資金運用会社「キャピタル・グループ」で10年ほど働いた後、ヤマダ電機の山田昇会長の支援を受けて2000年にヤマダ電機LAB日本総本店(東京・池袋)のレストランフロアにコラボの1号店を出店している。

任の韓流村は20年5月、カカクコムに対し約6億4千万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。9月11日に開かれた第1回口頭弁論でカカクコム側は請求棄却を求めたが、任は「和解は考えていない。最後まで戦い抜きたい」とファイティングポーズを崩していない。

グルメサイトの振る舞いには公取も強い関心を持っている。19年10月には「有力な広告や集客手段となっているサイト側が飲食店に不当な条件を押しつけていないか実態を把握したい」(山田昭典事務総長)と、実態調査を始めた。

サイトの具体名は明らかにしていないが、「食べログ」や「ぐるなび」など大手を対象に独占禁止法上の「優越的地位の濫用」にあたる行為があるかを調べた模様だ。掲載店がサイト運営会社に年会費を支払えば「口コミ評価」などその店のサイト上の評価ポイントが自動的に上がるといった状況が生まれていれば、優越的地位の濫用に当たる

摘発には至らなかったが20年3月、公取は「公平公正に運用されていない飲食プラットフォーマー(グルメサイト)は、独禁法違反に当たる」とするガイドラインを出した。

問題は今回、焼肉「コラボ」などが食らった「チェーン店ディスカウント」が公正な運用といえるかどうかだ。「チェーン店ディスカウントに苦しむ企業の存在をどう考えるか」という本誌の質問にカカクコムはこう答えた。

〈公正取引委員会の報告書に言及があります透明性・公正性の確保につきましては、弊社としても従前より大変重要なテーマであると認識しております。そのため、2020年5月に、点数の決まり方や点数の変動などについてより分かりやすい説明となるよう、「点数・ランキングについて」のページを全面リニューアルいたしました〉

リニューアルされたページを見てみたが、なぜチェーン店の評点が一斉に切り下げられたのかという謎は全く解けなかった

月間のユニークユーザー1億人、月間ページビュー20億件を超える「食べログ」は今や「国民的グルメサイト」(韓流村の任)である。同サイトの「減点」で予約数が激減し、コロナ禍とのダブルパンチで倒産の危機に瀕するチェーン店は少なくない。

「食べログ」は自分たちが「恐怖の大魔王」になっていることを自覚すべきだろう。


◎なぜ答えを出さない?

問題は今回、焼肉『コラボ』などが食らった『チェーン店ディスカウント』が公正な運用といえるかどうか」という認識に異論はない。しかし、この答えを大西氏は出していない。

カカクコム」の回答内容を紹介した後で「なぜチェーン店の評点が一斉に切り下げられたのかという謎は全く解けなかった」と話が逸れてしまう。その「」は必ずしも解く必要はない。「公正な運用」ではないと証明できればいいはずだ。

掲載店がサイト運営会社に年会費を支払えば『口コミ評価』などその店のサイト上の評価ポイントが自動的に上がるといった状況が生まれていれば、優越的地位の濫用に当たる」とも大西氏は書いている。ならば、そこを掘り下げるべきだ。

任和彬(イム・ファビン)」氏からは話を聞けているようなので、なぜ「優越的地位の濫用に当たる」と言えるのか同氏に語らせればいい。「理論派の任」氏ならば簡単にできるのではないか。なのに、そこには触れていない。

チェーン店の評点が一斉に切り下げられた」という事実だけで「優越的地位の濫用に当たる」との主張ならば、それでもいい。その辺りを論じないままに「『食べログ』は自分たちが『恐怖の大魔王』になっていることを自覚すべきだろう」と結んでも説得力はない。

食べログ」が評価基準を変えて「チェーン店ディスカウント」に踏み切ったとしても、それは「食べログ」の裁量権の範囲内の行為だと思える。大西氏が違うと考えるのならば理由を述べてほしい。しかし、その辺りの説明が不十分なまま「食べログ」を悪者として描いている。これだと「食べログ」側に同情したくなる。


※今回取り上げた記事「コロナ禍より怖い『食べログ』の減点」https://facta.co.jp/article/202106035.html


※記事の評価はD(問題あり)。FACTAへの問い合わせに関しては以下の投稿を参照してほしい。

2019年の一風堂は「15~50店のチェーン」? FACTAの記事で大西康之氏に問い合わせhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/05/20191550-facta.html


※大西康之氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html

「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html

大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/facta.html

FACTA「デサント牛耳る番頭4人組」でも問題目立つ大西康之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/facta4.html

大西康之氏に「JIC騒動の真相」を書かせるFACTAの無謀
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/jicfacta.html

FACTAと大西康之氏に問う「 JIC問題、過去の記事と辻褄合う?」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/facta-jic.html

「JDIに注がれた血税が消える」?FACTAで大西康之氏が奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/jdifacta.html

FACTA「アップルがJDIにお香典」で大西康之氏の説明に矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/factajdi.html

FACTA「中国に買われたパソコン3社の幸せ」に見える大西康之氏の問題
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/facta3.html

FACTA「孫正義『1兆円追貸し』視界ゼロ」大西康之氏の理解力に疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/facta1.html

文藝春秋「LINEはソフトバンクを救えるか」でも間違えた大西康之氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/line.html

2021年5月22日土曜日

2019年の一風堂は「15~50店のチェーン」? FACTAの記事で大西康之氏に問い合わせ

ジャーナリストの大西康之氏がFACTA6月号に書いた「コロナ禍より怖い『食べログ』の減点」という記事には色々と問題を感じた。誤りだと思える説明もあったので以下の内容で問い合わせを送っている。

夕暮れ時の筑後川

【FACTAへの問い合わせ】

大西康之様  FACTA編集人兼発行人 宮嶋巌様

6月号に大西様が書いた「コロナ禍より怖い『食べログ』の減点」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「さらに調べてみると『コラボ』と同様、焼肉の『トラジ』『叙々苑』、とんかつの『まい泉』、ラーメンの『一風堂』など、15店舗から50店舗を展開するチェーン店が軒並み大幅減点を食らっていた」との記述です。

記事の説明が正しいのならば、ここに出てくる「チェーン店」は当時いずれも「15店舗から50店舗を展開」していたはずです。しかし「一風堂」を展開する力の源ホールディングスの決算補足説明資料によると、「大幅減点」となった2019年当時に国内の「一風堂」だけで93店舗(同年6月末)を有しています。

15店舗から50店舗を展開」する「チェーン店」に「一風堂」を含めたのは誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。

『食べログ』は自分たちが『恐怖の大魔王』になっていることを自覚すべきだろう」と大西様は今回の記事を締めています。他者を批判するならば、自らも相応の責任を負うべきです。大西様が批判した「食べログ」の運営会社であるカカクコムは「本誌の質問」に回答しています。それだけでも立派だと思いませんか。

「自分たちには誌面で他者を批判する資格がある」と大西様や宮嶋様が自負するならば、まずはカカクコムを見習って「質問」に答えてください。「それは面倒だし自分たちのミスは認めたくないから…」と説明責任を果たさないまま大西様や宮嶋様が逃げ続けるとすれば、FACTAによる他者への批判は説得力を持つでしょうか。その点を改めて自問してください。


◇   ◇   ◇


問い合わせの内容は以上。記事に関する他の問題点に関しては別の投稿で触れたい。


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「コロナ禍より怖い『食べログ』の減点」https://facta.co.jp/article/202106035.html


※記事の評価はD(問題あり)。大西康之氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html

「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html

大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/facta.html

FACTA「デサント牛耳る番頭4人組」でも問題目立つ大西康之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/facta4.html

大西康之氏に「JIC騒動の真相」を書かせるFACTAの無謀
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/jicfacta.html

FACTAと大西康之氏に問う「 JIC問題、過去の記事と辻褄合う?」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/facta-jic.html

「JDIに注がれた血税が消える」?FACTAで大西康之氏が奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/jdifacta.html

FACTA「アップルがJDIにお香典」で大西康之氏の説明に矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/factajdi.html

FACTA「中国に買われたパソコン3社の幸せ」に見える大西康之氏の問題
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/facta3.html

FACTA「孫正義『1兆円追貸し』視界ゼロ」大西康之氏の理解力に疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/facta1.html

文藝春秋「LINEはソフトバンクを救えるか」でも間違えた大西康之氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/line.html

2021年5月21日金曜日

「法整備検討」の必要ある? 日経「『空飛ぶクルマ』本格導入へ」に浮かぶ疑問

空飛ぶクルマ」に関する記事の多くには怪しさが漂う。21日の日本経済新聞朝刊 経済・政策面に載った「『空飛ぶクルマ』本格導入へ~旅客輸送へ法整備検討 政府、まず大阪万博で」という記事もそうだ。

夕暮れ時の筑後川

まず 「空飛ぶクルマ」の定義が気になる。個人的には「公道を自動車として走行できて空も飛べる機械」を「空飛ぶクルマ」だと考えたい。しかし記事に付けた「米ジョビー・アビエーションが開発する『空飛ぶクルマ』」はドローンによく似ていて、公道を走れる感じがない。

記事では「空飛ぶクルマは滑走路が不要で垂直に離着陸でき、機動的に動ける」とは書いているが「空飛ぶクルマ」の条件は明確ではない。「滑走路が不要で垂直に離着陸でき、機動的に動ける」だけでいいのならばヘリコプターも「空飛ぶクルマ」と言える。だとすれば「旅客輸送へ法整備」を検討する必要があるのか。

米ジョビー・アビエーション」が開発しているのは電動垂直離着陸機(eVTOL)らしい。「電動」というところがヘリコプターと違うとしても、機能は似たようなものだ。それを「空飛ぶクルマ」と呼ぶのは適切なのか。そこを日経には考えてほしい。

どんな「法整備」が必要なのかもよく分からない。当該部分を見てみよう。


【日経の記事】

新たに設ける作業部会は経済産業省と万博運営主体の日本国際博覧会協会が事務局を担う。トヨタや同社が出資する空飛ぶクルマ開発の米ジョビー・アビエーション、ドイツの機体メーカーのボロコプターなどが参加する見通しだ。国土交通省や大阪府も加わる。

作業部会では万博を舞台にした旅客輸送の運営計画をまとめるとともに、離着陸場の整備や飛行高度といった具体的な運航ルールを協議する。空飛ぶクルマは法的には航空機とみなされ、国交省が所管する航空法での制度整備が必要になる

空飛ぶクルマは滑走路が不要で垂直に離着陸でき、機動的に動ける。万博会場となる大阪市の人工島、夢洲(ゆめしま)と周辺地域の移動に適しているとみており、観客の移動体験や富裕層向けサービスを想定する。


◎これは「法整備検討」?

記事を読むと、これは「法整備検討」なのかとの疑問が湧く。「作業部会」で「万博を舞台にした旅客輸送の運営計画をまとめるとともに、離着陸場の整備や飛行高度といった具体的な運航ルールを協議する」だけならば「法整備」には踏み込んでいない。

航空法での制度整備が必要になる」とも書いているが、これだと「航空法」の改正が必要なのか「航空法」の下での「制度整備が必要」なのかよく分からない。後者ならば「法整備」の検討は不要とも言える。

結局「空飛ぶクルマ」とは何か、その普及に向けてどんな「法整備」が必要なのかが漠然としている。

空飛ぶクルマ」がヘリコプターに似た大型ドローンの類ならば、社会に与える影響は非常に小さいだろう。道路を走っていた車から翼が出てきて空に飛んでいくような本物の「空飛ぶクルマ」が実用化されれば、新たな「法整備」が要るとは思う。しかし、その手の話はまだまだ先のようだ。取りあえず「空飛ぶクルマ」という言葉が記事に出てきたら眉唾物だと疑ってみたい。


※今回取り上げた記事「『空飛ぶクルマ』本格導入へ~旅客輸送へ法整備検討 政府、まず大阪万博で

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210521&ng=DGKKZO72103500Q1A520C2EP0000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年5月20日木曜日

「先進国と新興国でK字型の差が鮮明」? 日経「K字経済の試練(下)」に見える騙し

20日の日本経済新聞朝刊1面に載った「K字経済の試練(下)新興国不安、米回復で増幅~債務増大がアキレスけんに」という記事も苦しい内容だった。「」と同様に「K字経済」を描けていない。企画段階で「これで行ける」と判断したのが不思議だ。記事の一部を見ていこう。

筑後川の土手

【日経の記事】

コロナ危機からの回復は先進国と新興国でK字型の差が鮮明だ。国際通貨基金(IMF)は4月、主要7カ国(G7)の成長率が21年に5%を超え、20年のマイナス5%からV字回復する見通しを示した。20年にマイナス7%に沈み、21年も4%台の成長にとどまる中南米などと対照的だ。


◎似たような動きだが…

G7」は「マイナス5%」から「5%」成長へ転じる。一方「中南米など」は「マイナス7%」から「4%」に回復する。どちらも「V字回復」と言えなくもない。しかし筆者は「対照的だ」と言い切ってしまう。「K字経済の試練」というタイトルなので「K字経済」に見せる必要があるのは分かる。だとしても強引すぎる。

中南米など」とボカしているのも引っかかる。「新興国」の一部を切り出しているのだろうが、どうも怪しい。

調べてみると「IMF」が「4月」に出した2021年予測では「先進国・地域」が5.1%成長で「新興市場国と発展途上国」が6.7%成長となっている。「ラテンアメリカ・カリブ諸国」は4.6%なので記事ではこの数字を使ったのだろう。

先進国と新興国でK字型の差が鮮明」と言えるのならば「新興市場国と発展途上国」全体の数字を用いればいい。しかし、それだと「先進国」の成長率を上回ってしまい話が成立しない。なので、ご都合主義的に「ラテンアメリカ・カリブ諸国」の数字を前面に出したとすれば腑に落ちる。

だとしたら「先進国と新興国でK字型の差が鮮明」ではないことを筆者は分かっている。つまり意図的に読者をだましている。この罪は重い。


※今回取り上げた記事「K字経済の試練(下)新興国不安、米回復で増幅~債務増大がアキレスけんに

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA091OH0Z00C21A4000000/


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2021年5月19日水曜日

主張に無理があり過ぎる日経「大機小機~将来不安を払拭せよ」

18日の日本経済新聞朝刊マーケット総合面に載った「大機小機~将来不安を払拭せよ」という記事はかなり無理のある内容だった。中身を見ながらツッコミを入れていきたい。

ゆめタウン久留米

【日経の記事】

5月11日までだった4都府県の緊急事態宣言は31日まで延長、9都道府県に広がった。予想されていたこととはいえ、出口の見えない閉塞状態が続く。

民間の試算では、延長による経済的損失は約1兆円、4月25日から5月31日までの合計だと、1兆7000億円になるという。4~6月期の国内総生産(GDP)は、2四半期連続でマイナス成長に陥る可能性大である。

足もとの経済的損失もさることながら、日本経済にとって最大の悩みは、家計の将来不安がいつまでたっても払拭されないことだ。GDPの6割を占める消費が動かなければ、経済は動かない。一体何が不安なのか。目の前ではコロナ禍も不安であるに違いないが、世論調査で毎回トップの座を占めるのは「医療・年金等で財政が悪化する」ことである


◎毎回トップが「財政悪化」?

一体何が不安なのか。目の前ではコロナ禍も不安であるに違いないが、世論調査で毎回トップの座を占めるのは『医療・年金等で財政が悪化する』ことである」と筆者の与次郎氏は言う。

しかしセコムが昨年7月に発表した「日本人の不安に関する意識調査」によると「最も不安に感じていること」の1位は「感染症の拡大(新型コロナウイルス)」で、2位が「老後の生活や年金」。「『財政が悪化する』こと」はランキングにも入っていない。何を根拠に「毎回トップ」と言い切っているのだろうか。

続きを見ていく。

【日経の記事】

多くの消費者は社会保障制度の持続性に疑いを持っている。高齢者は、いざというとき医療や介護にどれだけお金がかかるのか不安に思っている。現役世代は、自分たちが老いたとき十分な公的年金がもらえるとは考えていない。かねて指摘されてきた日本の医療提供体制の綻びも、コロナ禍により白日の下にさらされることになった。

こうした不安の帰結として、消費が必要以上に抑制されている。直近では34歳以下の消費性向は55%まで低下した。実際アベノミクスの下、2013~19年の消費の(実質)平均成長率は0.0%だ。コロナ禍に先立ち、日本経済は「将来不安のわな」に陥っていたのである。


◎「必要以上に抑制」の基準は?

消費が必要以上に抑制されている」と見なす根拠がよく分からない。「34歳以下の消費性向は55%まで低下した」とは書いているが、「55%」だとなぜ「必要以上に抑制されている」と言えるのか説明していない。「消費の(実質)平均成長率は0.0%」というデータも同じだ。

日本経済は「『将来不安のわな』に陥っていたのである」と断定できる材料を与次郎氏は示していない。

記事の後半を見ていこう。


【日経の記事】

社会保障制度の改革、それと同じコインの表裏の関係にある財政再建は、政府にしかできない仕事である。残念ながら、やるべきことは先送りされてきた。

財政再建というと今でも必要なし、急いでやることはない、という声すらある。実際、日本銀行の国債購入によって長期金利に上昇の気配はない。しかし、赤字国債が支える社会保障制度の持続可能性については、すでに人々の信頼は失われている。市場に先駆けて消費者は自己防衛に走り始めた。

日本経済を再起動させるためには、社会保障・財政が抱える問題の全体像を分かりやすく説明し、骨太の改革案を示し、将来不安を払拭しなければならない


◎それで「将来不安を払拭」できる?

個人的には、どんなに頑張っても「将来不安」は「払拭」できないし、「払拭」すべきとも思わない。しかし与次郎氏は「払拭」できるし、そうすべきだと考えているようだ。

社会保障・財政が抱える問題の全体像を分かりやすく説明し、骨太の改革案を示し」て「財政再建」へと動き出せば「将来不安」は「払拭」できるだろうか。

「国の財政状況は危機的です。だから、これからどんどん増税します。年金給付もしっかり減らしていきます。そうすれば財政赤字は確実に減ります。5年以内に黒字に転じます」と政府が国民に説明するとしよう。

これでは「払拭」どころか「将来不安」を逆に高めてしまうだろう。

先述した「日本人の不安に関する意識調査」を思い出してほしい。「最も不安に感じていること」の2位は「老後の生活や年金」だ。増税して年金給付を減らすやり方が国民の「不安」を高める方に作用するのは誰でも分かる。

与次郎氏はこんな簡単なことが分からないのか。あるいは、あえて気付かないふりをしているのか。いずれにしても主張に説得力はない。


※今回取り上げた記事「大機小機~将来不安を払拭せよ

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210518&ng=DGKKZO71976540X10C21A5EN8000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2021年5月18日火曜日

「K字経済」を描けていない日経1面「K字経済の試練(中)」

18日の日本経済新聞朝刊1面に載った「K字経済の試練(中)景気下支えとインフレ懸念~膨らむマネー、制御難しく」という記事では「K字経済」を描けていない。問題のくだりを見ていこう。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

2020年の世界の株式時価総額は前年比2割増の101兆ドルと、3%減の84.5兆ドルとなった世界の名目GDP(国内総生産)を上回った。時価総額をGDPで割った「バフェット指標」は約120%と乖離(かいり)幅は最高だ。上昇基調をたどる時価総額と、名目GDPの回復のグラフを重ねるとK字を描く


◎どう見ても「K字」には…

K字経済」を取り上げるならば、経済に関して二極化が起きていると示す必要がある。しかし、そうした話は出てこない。「上昇基調をたどる時価総額と、名目GDPの回復のグラフを重ねるとK字を描く」と筆者は言うが「時価総額」も「名目GDP」も上向きなのに「K字を描く」と言われても困る。記事に付けたグラフも「K字」には見えない。


ついでにいくつか注文を付けておきたい。

【日経の記事】

ドージコインは開発者が英語の「ドッグ」をもじり柴犬のデザインを使うなどふざけて作った仮想通貨で投機性が高い。米テスラのイーロン・マスク氏がネットで言及するたびに投機マネーが一喜一憂する。「価値のほとんどは投機だ」。専門家は警鐘を鳴らす


◎「投機」比率が計算できる?

価値のほとんどは投機だ」というコメントは2つの意味で引っかかる。まず、なぜ匿名なのか。名前を出すことにリスクがある発言とは思えない。しかも何の「専門家」なのかも不明だ。本当に「専門家は警鐘を鳴ら」しているのか疑いたくなる。

さらに言えば、「仮想通貨」の何%が「投機」などと計算できるものなのか。仮に90%が「投機」だとして残りの10%は何だろう。「投資」なのか、あるいは「実需」なのか。仮に「投資」だとして「投機」と何が違うのか。この辺りを明確にしないで「価値のほとんどは投機だ」と読者に伝えても、あまり意味がない。

最後は以下のくだりだ。

【日経の記事】

すでに隣国のカナダでは中央銀行が先月、他の主要中銀に先駆けて緩和縮小に踏み切った。米ダラス連邦準備銀行がまとめる世界の住宅価格指数で20年10~12月期にカナダの上昇率が前年同期比14.5%となるなど経済の過熱を無視できなくなった。

米国も物価上昇などを制御できなくなる状況になれば、カナダと同様の対応を避けられなくなる。金融危機以降の超金融緩和の継続を前提に高いリスクをとってきた市場は大きく揺らぎかねない。


◎それでは手遅れでは?

米国も物価上昇などを制御できなくなる状況になれば、カナダと同様の対応を避けられなくなる」と筆者は言うが「制御できなくなる状況」になってから「緩和縮小」に踏み切っても手遅れだ。既に「制御できなくなる状況」に陥っているのだから。

常識的に考えれば「物価上昇などを制御」できる段階で「緩和縮小」に動くはずだ。なぜ「制御できなくなる状況」になるまで「超金融緩和」が続くと見ているのか謎だ。


※今回取り上げた記事「K字経済の試練(中)景気下支えとインフレ懸念~膨らむマネー、制御難しく

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB05BA10V00C21A4000000/


※記事の評価はD(問題あり)

2021年5月17日月曜日

「男女格差」は解消すべき? 山口慎太郎 東大教授が書いた日経の記事に注文

男女格差は解消されるべきだろうか。例えば、保育士では女性比率が圧倒的に高く、消防士では男性比率が圧倒的に高いとしよう。どちらも男女同数に近付くように誘導すべきなのか。男女どちらにも平等に門戸が開かれていて、個人の自由な選択の結果として男女格差が生まれるのならば、それでいいのではないか。

夕暮れ時の筑後川

しかし東京大学教授の山口慎太郎氏は違う考えのようだ。17日の日本経済新聞朝刊女性面に載った「ダイバーシティ進化論~男女格差解消のために 男性を家庭に返そう」という記事で以下のように書いている。

【日経の記事】 

世界経済フォーラムが3月に発表した「ジェンダーギャップ指数」によると、経済分野における日本の男女格差はきわめて大きい。世界156カ国中の117位である。しかし、それ以上に大きいのは家庭内における男女格差だろう。

経済協力開発機構(OECD)平均では、女性は男性の1.9倍の家事・育児などの無償労働をしている。日本ではこの格差が5.5倍にも上り、先進国では最大だ。これは日本において性別役割分業が非常に強いことを示している。経済・労働市場での男女格差と、家庭での男女格差は表裏一体なのだ。


◎選択の自由は尊重しない?

日本では「家事・育児は女性が主に担う。その代わりに男性はしっかり稼ぐ」という役割分担を良しとする人が多いとしよう。結果として「家事・育児」にかける時間に差が生じる。これは問題なのか。

「各人の自由な選択は許されず、強制的にそうなっている」と言えるのならば問題だろう。しかし山口氏もそうは書いていない。個人が自由に選択し、現状に満足しているならば「家庭での男女格差」はあっていい。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

ワークライフバランスの問題を解決するために、育児休業や短時間勤務などが法制化されてきた。こうした制度は確かに有効だ。2019年における25~54歳の女性労働力参加率をみると日本は80%と高い。米国の76%やOECD平均の74%を上回っている。

しかしこうした施策には限界もある。「子育ては母親がするもの」との固定観念がある中では、結局のところ女性が負う子育てと家事の責任や負担が減るわけではない。そのため、女性が職場で大きな責任を担うことは難しいままだ。実際、日本では管理職に占める女性の割合は15%にすぎず、米国の41%やOECD平均の33%を大きく下回る。


◎そんな「固定観念」ある?

子育ては母親がするもの」が「子育ては母親だけがするもの(父親は全くしない)」との趣旨ならば、そんな「固定観念」を持っている人がいるのかと聞きたくなる。少なくとも自分は、そういう人に会ったことがない。「固定観念がある」と断定する根拠を山口氏は持っているのか。

百歩譲って「子育ては母親がするもの」という「固定観念」を全国民が持っているとしよう。その場合でも「女性が負う子育てと家事の責任や負担」は減らせる。「家事」を周囲の人が肩代わりしたり、業者に任せたりすればいい。「固定観念」は「子育て」に関するものなので、子育てに関係しない「家事」の負担を減らす障害にはならない。

さらに言えば「女性が職場で大きな責任を担うことは難しいまま」だとすれば「ワークライフバランス」の観点からも好ましい。「女性が職場で大きな責任を担う」ようになれば、どうしても生活の比重が仕事に傾き「ワークライフバランス」の確保が難しくなる。

もちろん、これは女性に限った話だ。「女性が職場で大きな責任を担う」傾向が強まれば、男性の「ワークライフバランス」は良くなる。個人的には、この方向に行ってほしい。しかし、個人の選択を尊重する方が大切だ。

女性の多くが「管理職になるよりワークライフバランス重視」と考えていて、男性の多くが「ワークライフバランスが崩れてもいいから管理職になりたい」と願うのならば、結果として「男女格差」が生じるのは仕方がない。自分の好みを社会全体に押し付けるつもりはない。

山口氏には「日本を自分好みの社会に変えたい」という願望を感じる。しかし、山口氏が好む社会が国民全体にとって好ましい社会とは限らない。

男女格差」はなくすべきなのか。なくすべきだとすれば、なぜなのか。そこを山口氏にはしっかり考えてほしい。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~男女格差解消のために 男性を家庭に返そう

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210517&ng=DGKKZO71874570U1A510C2TY5000


※記事の評価はC(平均的)

2021年5月16日日曜日

「日本はワクチンに絶対安全を求める」と言い切る日経 矢野寿彦編集委員の無理筋

16日の日本経済新聞朝刊総合4面に載った「Views 先読み~英社ワクチン、月内にも承認判断 『ゼロリスク社会』試す」という記事で、筆者の矢野寿彦編集委員は「予防接種に対して日本は絶対安全を求める『ゼロリスク社会』」と言い切っている。この認識は誤りだと思える。その理由を述べてみたい。まずは記事の当該部分を見ておこう。

空を舞う鳥の群れ


【日経の記事】

承認申請から3カ月半、英製薬大手アストラゼネカが手がける新型コロナウイルスのワクチンに、可否の判断が今月中に下される見通しだ。日本にとって接種が進む米ファイザー製に次ぐ期待の大きいワクチンだが、海外で血管に血栓(血の塊)ができて詰まる症例が相次ぎ発覚、使用をやめる国も出てきた。

可否は厚生労働省の専門部会が早ければ20日にも米モデルナ製と同時に判断する。予防接種に対して日本は絶対安全を求める「ゼロリスク社会」。コロナ禍の非常事態とはいえ「10万分の1(0.001%)」レベルの致命的リスクを受け入れることができるか。


◎ファイザー製は「ゼロリスク」?

上記の記述から判断すると日本は「承認」の段階でワクチンに「絶対安全」を求めてきたはずだ。となれば「接種が進む米ファイザー製」を「厚生労働省」は「絶対安全」「ゼロリスク」と見ているはずだ。少なくとも建前としては「絶対安全」を打ち出していないと矢野編集委員の見立ては成立しない。

しかし厚労省のホームページでは「ワクチンの接種後には副反応を生じることがあり、副反応をなくすことは困難です。接種によって得られる利益と、副反応などのリスクを比較して接種の是非を判断する必要があります」と説明している。「絶対安全」や「ゼロリスク」を期待するなと厚労省自身が言っている。なのに「予防接種に対して日本は絶対安全を求める『ゼロリスク社会』」と言えるのか。

絶対安全を求める」のは国民の側だと矢野編集委員は考えているのだろうか。新型コロナウイルスのワクチンに関しては「副反応」に関する報道もたくさんある。それでも接種を求める人の問い合わせが殺到したりして様々な自治体で混乱が起きている。

圧倒的多数の国民が「絶対安全を求める」国ならば、こうしたことは起きないはずだ。「予防接種に対して日本は絶対安全を求める『ゼロリスク社会』」という前提は間違っていると見なすべきだろう。

なぜ矢野編集委員はこうした無理のある主張をしたのか。記事の終盤にヒントがある。

【日経の記事】

仮に承認されたとしても悩ましいのが「ワクチン忌避」の問題だ。夏以降、一般向けに使われたとしても、日本では今のところ、どのワクチンにするかを国民が選ぶことはできない。

アストラゼネカ製は南アフリカ型の変異ウイルスでは効果が薄れるとの研究もある。リスクとのバランスを考えると、敬遠する人が出てもおかしくない

医療行政の問題に加え、予防接種における「ゼロリスク」の考え方が日本を「ワクチン後進国」に導いた。公衆衛生を守るために犠牲を受け入れる考え方は社会に浸透していない

アストラゼネカ製の行方によって、公衆衛生の要となるワクチンへの認識と胆力が日本社会に試される。


◎気持ちは分かるが…

多少リスクがあっても、なるべく多くの国民にワクチンを打ってもらいたいと矢野編集委員は願っているのだろう。気持ちは分からなくもない。だから「ゼロリスクを求めるのはおかしい」という多くの人が賛成しそうな話を持ち出してワクチン接種へ誘導しようとしたのだろう。

だが、既に述べたように「予防接種に対して日本は絶対安全を求める『ゼロリスク社会』」とは言えない。「アストラゼネカ製」に関しては「リスクとのバランスを考えると、敬遠する人が出てもおかしくない」と矢野編集委員も認めている。

健康状態の良好な若者にとって新型コロナウイルスのリスクは極めて小さいと思える。一方でワクチンには「『10万分の1(0.001%)』レベルの致命的リスク」があるのならば、若い人がワクチンを接種するのは合理的なのか。

若者にとっては「リスクとのバランスを考えると、敬遠」すべきだが、それでも「公衆衛生を守るために犠牲を受け入れる」べきだと矢野編集委員は考えるのか。

個人的には反対だ。中高年が犠牲になって若者の命を救うのなら、まだ分かる。しかし今回は話が逆だ。「公衆衛生を守るために(若者の)犠牲を受け入れる考え方」が「社会に浸透」しないことを祈る。


※今回取り上げた記事「Views 先読み~英社ワクチン、月内にも承認判断 『ゼロリスク社会』試す


※記事の評価はD(問題あり)。矢野寿彦編集委員への評価もC(平均的)からDへ引き下げる。矢野編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「スウェーデンは日常を変えない集団免疫戦略」? 日経 矢野寿彦編集委員に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_18.html

もう少し踏み込めば…日経 矢野寿彦編集委員「Deep Insight~『命か経済か』には解がない」

https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/deep-insight_10.html

2021年5月15日土曜日

三浦まり上智大学教授が日経ビジネスで訴えたクオータ制導入論に異議あり

「クオータ制の導入で女性議員を増やすべき」との主張に説得力を感じたことがない。日経ビジネス5月17日号に上智大学教授の三浦まり氏が書いた「気鋭の経済論点~世界で圧倒的に低い女性議員比率、クオータ制などで抜本改革を」という記事もそうだ。これを題材に「クオータ制」はなぜ筋が悪いのか考えたい。

夕陽と鉄塔

まず、海外との比較に問題がある。

【日経ビジネスの記事】

現在、世界では約60%が何らかのクオータ制を導入している。日本はこうした動きについていかず、大きく立ち遅れたのである。


◎「立ち遅れ」なの?

クオータ制」の導入が正しいとの前提に立てば「日本」は「大きく立ち遅れ」ているかもしれない。しかし、その前提を反対派は共有していない。「世界」の多数派が常に善ではないし、少数派は常に多数派に合わせるべきとも言えない。

クオータ制」導入国の比率が50%を切る流れになったら、日本も導入の必要はなくなるのか。三浦氏もそうは考えないだろう。この問題で海外との比較は基本的に意味がない。

さらに三浦氏の主張を見ていこう。


【日経ビジネスの記事】

ところでこの議論をするとよく疑問をぶつけられる。①意思決定の場に男女格差があるデメリットは大きいのか②女性自身に議会など決定の場に立ちたい人が多くない③議員などの候補者になる力のある人が女性に多くない④男性にとってのメリットがないと改革は進まないのでは──といったものだ。

①と④についてはこう言える。女性が立候補しにくい状況は、男性も多様な候補が出にくいことにつながる。日本の国会には2世や官僚出身の男性議員が相変わらず多い。男性も普通の会社員は立候補しにくい。議会での男女格差解消は、その問題を多くの人に改めて気づかせる。女性が立候補しやすくする改革は、候補者の多様化につながる。多くの男性にとってもメリットになる話だ。

②と③についてはこうだ。女性のなり手がいないように見える原因は、選ぶ側が男性ばかりなので、女性の潜在的候補者層を見つけにくいこと、家庭責任がある女性への支援や配慮に欠けていること、男性とは異なる女性特有のキャリア経験を評価していないことがある。まずは政党が数値目標を掲げ、必死で女性候補者を探し、声をかけ、支援する体制を整えることだ。


◎色々と問題が…

まず「①意思決定の場に男女格差があるデメリットは大きいのか」については答えを出していない。「日本の国会には2世や官僚出身の男性議員が相変わらず多い。男性も普通の会社員は立候補しにくい」という三浦氏の見方が正しいとしても、個人的には大きな「デメリット」は感じない。「2世や官僚出身」が多いとどんな「デメリット」があるのか。その「デメリット」がなぜ大きいと言えるのか。三浦氏は教えてくれない。

議会での男女格差解消は、その問題を多くの人に改めて気づかせる」かどうか怪しいが、とりあえず受け入れてみよう。だとしても「議会での男女格差」を解消すれば「その問題(男性も多様な候補が出にくい問題)」が解決するとは限らない。

「女性議員は増えたけれど、そのほとんどは『2世や官僚出身』」という可能性も十分にあり得る。女性は「普通の会社員」でも立候補しやすい環境が整う一方、男性は以前と変わらずという結果になるかもしれない。

②女性自身に議会など決定の場に立ちたい人が多くない」に関しても、答えになっていない。「多くない」のは事実なのか。実は「多い」のか。そこを教えてほしい。「多くない」のならば、女性議員が少ないのは当然だ。だとしたら三浦氏もまずは「女性よ。議員を目指そう」と呼びかけるべきではないか。

クオータ制」の導入推進論者はなぜか、そこから逃げたまま「クオータ制」に頼ろうとする。

選ぶ側が男性ばかり」などと嘆くならば、女性が新党を立ち上げて大量の女性候補者を擁立し、その候補者を女性有権者が支持すればいいい。男性に頼らなくても女性の力だけで女性議員は増やせる。それを妨げる制度的な障害はない。なのに、なぜそこに挑まないのか。

④男性にとってのメリットがないと改革は進まないのでは」についても触れておこう。女性議員を増やすための「クオータ制」は男女平等の原則に反する。三浦氏の言葉を借りれば「明らかな性差別」(この記事では森喜朗元首相の問題発言を指したものだが…)だ。男女平等主義者の自分からすると、正当化の難しい制度と言える。

しかし絶対反対とは言わない。圧倒的な「メリット」があれば「明らかな性差別」を受け入れてもいい。女性議員の比率を100%とする「クオータ制」でも構わない。

女性が立候補しやすくする改革は、候補者の多様化につながる」と三浦氏は言うが、その程度の「メリット」なら男女平等の原則を崩してまで導入したいとは思わない。そもそも「候補者の多様化」が必要なのか。個人的には、立候補したい人が自由に立候補できれば、属性は偏っていても構わない。

幅広い人が意思決定に関わり、様々な働き方ができる社会は、イノベーションの生まれやすい社会にもつながるはずだ」とも三浦氏は言う。これは希望的観測に過ぎない。「イノベーション」が多少増える程度ならば、実現するとしても「メリット」は小さい。

例えば「『クオータ制』を導入すると大きな『イノベーション』が生まれ、今世紀中には太陽系外の第2の地球に何億人もの人類が移住できるようになる。結果として、環境問題なども解決に向かう」と言えるのならば、「クオータ制」に前のめりになれるが…。

そもそも「幅広い人が意思決定に関わ」るようにしたいのならば「クオータ制」を女性のみに適用するのはおかしい。若い世代の「クオータ制」は導入しなくていいのか。非大卒への「クオータ制」も考えられる。

属性は無数にあるので、この作業に終わりはない。この終わりなき「クオータ制」導入に足を踏み入れるべきだと三浦氏は考えるのか。それとも「クオータ制」を性別に限って導入することを正当化できる根拠があるのか。

結局「クオータ制」はこうした批判に耐えるのが難しい。それでも導入すべきだと三浦氏が考えるのならば、その理由を教えてほしい。


※今回取り上げた記事「気鋭の経済論点~世界で圧倒的に低い女性議員比率、クオータ制などで抜本改革を

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00120/00023/


※記事の評価はD(問題あり)

2021年5月14日金曜日

「ながら族が増えた」に根拠欠く日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」

日本経済新聞の中村直文編集委員が14日の朝刊ビジネス2面に書いた「ヒットのクスリ~デジタル疲労と『ながら族』 巣ごもり、withコスパ」という記事は苦しい内容だった。「ながら族」が復活し関連消費が伸びているという話だが、裏付けとなる事実はほとんど見当たらない。

進撃の巨人 大山ダム銅像

記事を順に見ていこう。

【日経の記事】

高度経済成長期からだろうか。ラジオやレコード、カセットを聴きながら勉強する「ながら族」という言葉が流行した。デジタル生活の日常化と新型コロナウイルスの感染拡大に伴う巣ごもり生活は、再び「ながら族」を活発にさせている

スマホを利用しながら、テレビ、仕事、家事とのマルチタスクは今や当たり前。アプリの利用時間は急拡大し、2020年の世界でのアプリ支出額は前の年に比べ3割増の1109億ドル(約12兆円)に達したとか。今年に入っても高い伸びを示している。


◎「ながら族」増加の裏付けになる?

アプリの利用時間は急拡大し、2020年の世界でのアプリ支出額は前の年に比べ3割増の1109億ドル(約12兆円)に達した」としても「再び『ながら族』を活発にさせている」根拠とはならない。「スマホを利用しながら、テレビ、仕事、家事とのマルチタスク」をこなす傾向が強まっているといったデータが欲しい。中村編集委員も探してみたとは思うが…。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

この結果、ロート製薬には追い風が吹いた。新型コロナでインバウンド(訪日外国人)需要が消失し、主力の目薬市場は落ち込んだ。だが、ながら族が増えたことで見る力の維持をサポートする同社のサプリメント「ロートV5粒」の人気に拍車がかかった


◎数字はなし?

データの裏付けがないまま「ながら族が増えた」ことになっている。そして「『ロートV5粒』の人気に拍車がかかった」らしい。しかし、やはり数字を見せてはくれない。

さらに見ていく。


【日経の記事】

今や、ながら族は若い世代だけの「特権」ではない。高齢者でもスマホなどを見ながらのテレビ鑑賞は日常行為で、巣ごもりで一段と強まった。目の疲れを訴える消費者が増え、「アプリ」疲れが「サプリ」需要を喚起しているというわけだ


◎「ながら族」だからなの?

コロナの影響でスマホ、パソコン、テレビに接する時間が増えたかもしれない。それが「ながら族」かどうかは「目の疲れ」とあまり関係ない。「ながら族」でなくても画面を見つめる時間が長ければ「目の疲れ」は強まる。「ながら族」にごだわる意味があるのか。

さらに見ていく。

【日経の記事】

ながら族の本質は昔から変わることはない。時間を有効に使いたいというコスパ意識だ。それが生活のデジタル化で「はずれ時間」を作りたくないという思考がさらに強まり、新しい消費シーンを生み出す。とりわけ、デジタルライフの拡大に伴う「疲労」をいかに抑えるかをテーマにした商品が増えている

例えば、眼鏡店「JINS」のジンズホールディングスと磁気治療器「ピップエレキバン」のピップ(大阪市)がコラボした「JINS MAGNET」。メガネバンド型の磁気治療器だ。

JINSのデザイナーが首筋の疲れに悩み、いろいろと試したが、貼るタイプやネックレスタイプの治療器しかないことに気づく。そこで日常生活をしながら、手軽に利用できる治療器を考え、2年前にピップに共同開発を持ちかけたという。

バンドには磁石が付いている。バンドを眼鏡のつるに付けると首の後ろにフィットする。大々的なプロモーションはしなかったが、予定以上の売り上げになったという


◎既存商品でいいような…

結局「デジタルライフの拡大に伴う『疲労』をいかに抑えるかをテーマにした商品が増えている」という話になってしまう。これだと「ながら族」に焦点を絞る意味がない。「ながら族」の消費を取り上げるなら、「ながら族」だからこそ便利さを感じるような商品を取り上げるべきだろう。

そして「JINS MAGNET」に関しても「予定以上の売り上げになった」というだけで、やはり具体的な数字はない。

さらに気になるのが「貼るタイプやネックレスタイプの治療器しかないこと」に気付いた「JINSのデザイナー」が「日常生活をしながら、手軽に利用できる治療器を考え」たという話だ。「貼るタイプやネックレスタイプ」だと「日常生活をしながら、手軽に利用」はできないのならば納得できる。

しかし「貼るタイプやネックレスタイプ」と「JINS MAGNET」に「手軽」さに関して大差はない。個人的には「貼るタイプ」が最も「手軽に利用でき」る気がする。

ネタがない中で話を捻り出しているのは分かるが、やはり苦し過ぎる。中村編集委員にこのコラムを書かせ続けるのならば、もう少し回数を減らしてはどうか。


※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~デジタル疲労と『ながら族』 巣ごもり、withコスパ

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210514&ng=DGKKZO71866280T10C21A5TB2000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。


無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html

「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html

渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html

早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html

日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html

「高島屋は地方店を閉める」と誤解した日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_23.html

野球の例えが上手くない日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_15.html

「コンビニ 飽和にあらず」に説得力欠く日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_23.html

平成は「三十数年」続いた? 日経 中村直文編集委員「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/deep-insight.html

拙さ目立つ日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ~アネロ、原宿進出のなぜ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_28.html

「コロナ不況」勝ち組は「外資系企業ばかり」と日経 中村直文編集委員は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/blog-post.html

データでの裏付けを放棄した日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_17.html

「バンクシー作品は描いた場所でしか鑑賞できない」と誤解した日経 中村直文編集委員https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_11.html

「新型・胃袋争奪戦が勃発」に無理がある日経 中村直文編集委員「経営の視点」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_26.html

「悩み解決法」の説明が意味不明な日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_19.html

問題多い日経 中村直文編集委員「サントリー会長、異例の『檄』」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_89.html

「ジャケットとパンツ」でも「スーツ」? 日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_30.html

「微アルコール」は「新たなカテゴリー」? 日経 中村直文編集委員の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/blog-post_12.html

2021年5月13日木曜日

日経「ソフトバンクG、赤字一転し国内最高益に」に感じた拙さ

13日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「ソフトバンクG、赤字一転し国内最高益に~純利益4.9兆円 株高でファンド含み益膨張」という記事には全体的に拙さを感じた。前半部分を見ていこう。

大刀洗町の夕焼け空
【日経の記事】

ソフトバンクグループ(SBG)が12日発表した2021年3月期の連結決算(国際会計基準)は、純利益が4兆9879億円だった。過去最大の赤字だった20年3月期から一転し、国内企業の純利益では過去最大を記録した。SBGの利益のほとんどはファンド投資先の含み益で、株高の恩恵を受けた。収益の振れ幅が大きいことが浮き彫りになった。

SBGの投資会社化は前期の決算でより鮮明となった。通信子会社ソフトバンクの事業別利益は8479億円だった。世界の有望スタートアップに投資する「ビジョン・ファンド」事業の利益は4兆268億円で、全体の利益の7割を占める。

直近1年間の本決算で比べると、SBGの純利益は世界1位の米アップル、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコに続く3位だった。

革新的なサービスなどで利益を上げる世界の大企業と違い、SBGは投資を主軸とする。株式市場の動向に左右されやすく、好業績から悪化する恐れもある特異な収益構造だ


◎サウジアラムコは「革新的」?

革新的なサービスなどで利益を上げる世界の大企業と違い、SBGは投資を主軸とする」と書いているが、「純利益」2位の「石油会社サウジアラムコ」は「革新的なサービス」を提供しているのか。「世界の大企業」とは違うという話に説得力を持たせたいなら、せめて「アップル」と「サウジアラムコ」は「革新的なサービスなどで利益を上げる世界の大企業」に該当していないと苦しい。

記事の説明からは「世界の大企業」で「投資を主軸とする」のは「SBG」のみとの印象を受ける。例えばバークシャー・ハサウェイはどうか。「革新的なサービスなどで利益を上げ」ているだろうか。「投資を主軸」としている点では「SBG」と似ている気がする。

さらに言えば「株式市場の動向に左右されやすく、好業績から悪化する恐れもある特異な収益構造だ」という説明も謎だ。「好業績から悪化する恐れもある」のは全ての企業に共通する。それを「特異な収益構造」と言われてもとは思う。

続きを見ていく。


【日経の記事】

実際に20年3月期はファンド事業が足を引っ張り、最終損益で過去最大の9615億円の赤字を計上した。孫正義会長兼社長は12日の記者会見で「今回は『たまたま』が重なった程度。あまり胸を張って言える状況ではない」と述べた。

ビジョン・ファンドは「ユニコーン」と呼ばれるような新規株式公開(IPO)も視野に入った新興企業を投資対象とする。前期決算では複数の投資先企業の含み益が拡大した。代表例は3月に上場した韓国の電子商取引(EC)大手クーパンだ。SBGによると、クーパンは投資した当初の価値の10倍になった。


◎「ユニコーン」の使い方が…

ここでは「ビジョン・ファンドは『ユニコーン』と呼ばれるような新規株式公開(IPO)も視野に入った新興企業を投資対象とする」という説明が引っかかった。

まず「ユニコーン」とは何かを説明していない。この書き方だと「新規株式公開(IPO)も視野に入った新興企業」を「ユニコーン」と呼ぶと誤解する読者もいそうだ。

さらに言えば、最初に読んだ時は「『ユニコーン』と呼ばれるような新規株式公開(IPO)」で一塊に見えて、どう理解すべきか一瞬迷った。修飾・被修飾の関係が分かりづらい作りになっている。


※今回取り上げた記事「ソフトバンクG、赤字一転し国内最高益に~純利益4.9兆円 株高でファンド含み益膨張

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210513&ng=DGKKZO71813130S1A510C2EA2000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年5月12日水曜日

長いデフレで企業がもうからない?東洋経済の記事に見える堀内勉氏の誤解

 「デフレ=悪いこと」という前提を持っている人の多くは誤った認識を持っている。HONZレビュアーの堀内勉氏もそうだ。週刊東洋経済5月15日号に載った「話題の本~厳選ノンフィクション『安いニッポン 「価格」が示す停滞』」という記事の中で以下のような説明をしている。

熊本港

【東洋経済の記事】

日本が「安く」なった背景には、長いデフレによって、企業が材料や人件費の負担増を価格に転嫁するメカニズムが破壊されてしまったことがある。製品の値上げができない→企業がもうからない→賃金が上がらない→消費が増えない→結果的に物価が上がらない、という悪循環が長年にわたって続いている


◎「企業がもうからない」のに利益は過去最高?

この説明で最もおかしいのは「企業がもうからない」との認識だ。2018年5月1日付の記事で日本経済新聞は以下のように報じている。

日本企業の『稼ぐ力』がかつてない水準に高まってきた。上場企業(金融除く)は2018年3月期に売上高が約560兆円と最高を更新し、純利益も約29兆円と2期連続で過去最高となった

2018年3月期」に「純利益」が「2期連続で過去最高」となったのに、「長年にわたって続いている」と堀内氏が言う「悪循環」に「企業がもうからない」を含めるのは無理がある。

そもそも堀内氏の説明だと「デフレ」になっていない。「製品の価格が下がる→企業の利益が減る→賃金が減る→消費が落ち込む→結果的に物価下落に歯止めがかからない」という状況ならば「デフレ」だと感じるが…。

物価が上がらない」状況が続いているのは確かだが、過去20年で言うと物価はほぼ横ばいだ。「デフレ」と騒ぐほどの話ではない。既に述べたように「企業がもうからない」状況でもなかった。業績が良くなっても「賃金が上がらない」傾向はあったが、堀内氏の言うような「悪循環」にはなっていない。


※今回取り上げた記事「話題の本~厳選ノンフィクション『安いニッポン 「価格」が示す停滞』

https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26926


※記事の評価はD(問題あり)

2021年5月11日火曜日

セブンの「指示」の問題点に気付けない? 日経 田中陽編集委員に感じる限界

日本経済新聞の田中陽編集委員は経営を語るべき書き手ではないーー。10日の朝刊ビジネス面に載った「経営の視点~セブン『データ見るな』の理由』~現場の『腹落ち』DXのカギ」という記事を読んで、そう感じた。問題のくだりを見ていこう。

熊本市内のセブンイレブン

【日経の記事】

セブンはまれに本部から全店舗に「発注のためのデータを一切見るな」という指示が飛ぶ。POSデータはもちろん、天気予報、運動会や道路工事といった付近のイベント情報など、発注に日ごろ活用している情報なしで仕事をする。

現場は悪戦苦闘しながら、データが魅力的な売り場づくりにいかに大切か再認識し「腹落ち」する。それが本部の狙いだ。


◎テレビさえも見られない?

発注のためのデータを一切見るな」という「本部」の「指示」を田中編集委員は前向きに紹介している。その気持ちが分からない。どう考えても問題が多過ぎる。

セブンイレブンのホームページでは「私たちのフランチャイズ・ビジネスは、加盟店さまと本部が対等の立場で、独立性を保ちながら取り組む共同事業です」と説明している。「発注のためのデータを一切見るな」という「本部」の「指示」に従う加盟店は本当に「対等の立場」なのだろうか。

「実態として本部と加盟店が対等じゃないのは大前提だ。それを踏まえて書いてるんだ」と田中編集委員は反論したくなるかもしれない。だとしても前向きに紹介すべき話ではない。

記事の説明が本当ならば加盟店のオーナーは「発注のためのデータを一切見るな」という「指示が飛ぶ」と「天気予報、運動会や道路工事といった付近のイベント情報など、発注に日ごろ活用している情報なしで仕事をする」ことになる。

会社の指示で働く会社員に対しても「天気予報を見るな」はやり過ぎだろう。「指示」をきちんと守ろうとすればテレビやスマホを見るのも避けるべきとなる。朝の情報番組を見ているだけでも「天気予報」の情報は目に入る。

さらに気になるのがオーナーが被る損失についてだ。「現場は悪戦苦闘しながら、データが魅力的な売り場づくりにいかに大切か再認識し『腹落ち』する。それが本部の狙いだ」と田中編集委員は書いている。だとすれば「データ」なしだと売り上げや利益が落ちることもあるはずだ。

本部」の「指示」に従って「天気予報、運動会や道路工事といった付近のイベント情報」などを入手せずに仕事をしたら売り上げが大きく落ちてしまった時に「腹落ち」するだろうか。自分がオーナーだったら「どうしてくれるんだ。ふざけるな」と怒り出しそうだ。

本部」の「指示」に従えば自分の利益も増えるのならば「対等の立場」という建前を無視した「指示」もまだ分かる。しかし利益が減りそうな「指示」を飛ばして、実際に利益が減る。それで「本部はさすがだなー」などと「腹落ち」するはずがない。

ひょっとすると「本部」は何らかの救済策を用意しているのかもしれない。しかし記事にそうした説明はない。

記事の情報から判断すると「セブン」の「本部」は加盟店のオーナーを奴隷か家来ぐらいにしか考えていないように感じる。それは田中編集委員にも分かるはずだ。なのに、なぜ前向きに紹介したのか。

説明が下手なのか。それとも問題点に気付く力がないのか。いずれにしても経済記事の書き手としては苦しい。


※今回取り上げた記事「経営の視点~セブン『データ見るな』の理由』~現場の『腹落ち』DXのカギ

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210510&ng=DGKKZO71692210Z00C21A5TB0000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。田中陽編集委員への評価はD(問題あり)からEに引き下げる。田中編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。


「小売りの輪」の説明が苦しい日経 田中陽編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_21.html

「セブン24時間営業」の解説が残念な日経 田中陽編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/24_11.html

日経 田中陽編集委員の「経営の視点」に見えた明るい兆し
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_12.html

セブンイレブン「旧経営陣」の責任問わぬ日経 田中陽編集委員の罪
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/blog-post_11.html

世間の空気に合わせて変節? 日経 田中陽編集委員「真相深層~コンビニ 崩れた方程式」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_9.html

お金出す側の「ありがとう」は新しい?日経 田中陽編集委員「経営の視点」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/blog-post_8.html

2021年5月10日月曜日

国産ワクチンがないと「敗戦」? 日経の高田倫志記者に考えてほしいこと

10日の日本経済新聞朝刊インサイドアウト面に載った「必然だったワクチン敗戦~不作為30年の官、民のはしご外す」という記事には問題を感じた。最初の方で高田倫志記者(先端医療エディター)は以下のように書いている。

下関駅

【日経の記事】

新型コロナウイルスのワクチン開発で日本は米英中ロばかりか、ベトナムやインドにさえ後れを取っている。菅義偉首相が4月、米製薬大手ファイザーのトップに直々に掛け合って必要なワクチンを確保したほどだ。「ワクチン敗戦」の舞台裏をさぐると、副作用問題をめぐる国民の不信をぬぐえず、官の不作為に閉ざされた空白の30年が浮かび上がる。

世界がワクチンの奪い合いの様相を強める中で、国産ワクチンはひとつも承認されていない。ところが、厚生労働省で医薬品業務にかかわる担当者は「米国や欧州ほどの感染爆発は起きていない。何がいけないのか」と開き直る。「海外である程度使われてから日本に導入したほうが安全性と有効性を見極められる


◎世界は敗戦国ばかり?

高田記者の考えでは「新型コロナウイルスのワクチン開発」に成功した国が戦勝国で、それ以外が「ワクチン敗戦」国なのだろう。記事から判断すると「米英中ロ」「ベトナム」「インド」などの限られた国が戦勝国ということか。つまり世界は「ワクチン敗戦」国で溢れている。だとしたら、それほど嘆くことなのか。

そもそも自国で「新型コロナウイルスのワクチン開発」をしようとする国がかなり少ないはずだ。記事によると日本は4社が「開発中」だ。承認には至っていないとしても、先頭集団に近いところにいる。

アンジェス、塩野義などが開発中の国産ワクチンは承認されるとしても22年以降の見通しだ」と高田記者は言うが、裏返せば「22年以降」は戦勝国の仲間入りを果たせる可能性が十分にある。やはり嘆くほどの話ではない。

そもそも「新型コロナウイルスのワクチン開発」に成功したかどうかで勝敗を決める意味はあるのか。例えばイスラエルは外国製のワクチンに頼って高い接種率を実現したようだが、この場合も高田記者の考えに従えば「ワクチン敗戦」なのだろう。しかし、必要な人にワクチンが十分に供給できればいいのではないか。

日本に関しては「菅義偉首相が4月、米製薬大手ファイザーのトップに直々に掛け合って必要なワクチンを確保したほどだ」とも書いている。これも「必要なワクチンを確保」できているのならば問題はないはずだ。

国産ワクチンはひとつも承認されていない」状況に関して「米国や欧州ほどの感染爆発は起きていない。何がいけないのか」という「厚生労働省で医薬品業務にかかわる担当者」のコメントを高田記者は紹介している。「海外である程度使われてから日本に導入したほうが安全性と有効性を見極められる」という発言も含めて納得できる内容だが、高田記者はこれらの発言にどんな問題があるのか教えてくれない。

新型コロナは、全体として見れば日本人の命を守ったとさえ言える。日本ではコロナ禍によって超過死亡が生じることはなく、逆に2020年の死亡者数は11年ぶりに減少した。新型コロナによる死亡者が高齢者に偏っていることも併せて考えれば、慌てて「国産ワクチン」を承認すべき状況にはなっていない。

ワクチンは感染が広がらなければ需要がなく、民間企業だけでは手がけにくい。しかし日本では開発支援や買い取り、備蓄の機運は乏しい」とも高田記者は書いている。政府が支援しろといいたいのだろう。しかし「開発支援」が乏しい中でも4社がワクチンを「開発中」だ。それで十分ではないか。特定の産業に資金を投じて保護する政策は不正の温床になるし公平性にも欠ける。なるべく避けるべきだ。

結局、「ワクチン敗戦」と騒ぐほどの事態だとは思えない。もちろん、十分な有効性を確保して承認を得る国内企業が現れた方が好ましい。しかし、そうした企業がいないからと言って、いたずらに危機感を煽る必要はない。


※今回取り上げた記事「必然だったワクチン敗戦~不作為30年の官、民のはしご外す


※記事の評価はD(問題あり)。高田倫志記者への評価は暫定でDとする。

2021年5月9日日曜日

日経社説「出生急減の克服へ若者の将来不安を拭え」に見える勘違い

日本経済新聞が少子化問題を取り上げると、おかしな話になりやすい。9日の朝刊総合1面に載った「出生急減の克服へ若者の将来不安を拭え」という社説もその例に漏れない。個人的には「少子化は放置でいい」と考えているが、ここでは少子化を食い止めるべきとの前提で話を進めたい。

錦帯橋

社説の後半を見ていこう。

【日経の社説】

少子化の最大の要因は、未婚化・晩婚化だ。不安定な就労で将来不安を抱えていると、家族を持ち子どもを育てるハードルは高くなる。非正規の処遇改善や正社員への転換、実効性のある職業訓練などで安定した経済基盤を築けるよう、官民あげて後押ししたい。

働き方、暮らし方を変えていくことも、対策のカギを握る。長時間労働を見直し、働く場所や時間を柔軟にすれば、男女問わず仕事と子育てを両立しやすくなる。

これらは介護の担い手や病気を抱える人にも役立つ。企業は全社的課題として取り組んでほしい。女性に偏った育児分担を変えるうえで、男性の育児休業などの推進を大きな契機にしてほしい。

少子化対策に特効薬はない。子どもが生まれにくい要因を一つひとつ、根本から変えていく覚悟が要る。菅義偉首相は、高齢者向けに偏る社会保障を「思い切って変えなければ」と強調する。長年にわたり進まなかった課題に、いまこそ答えを出してほしい。


◎少子化の現実を直視すれば…

出生急減の克服へ若者の将来不安を拭え」という考え方がおそらく間違っている。本当に「将来不安」があるから「子どもが生まれにくい」のか。第1次ベビーブーム(1947~49年)の時は今よりずっと「将来不安」が小さかったのか。

常識的に考えれば逆だ。終戦から間もない時代にベビーブームが起きている。「将来不安」は当時に比べれば明らかに小さくなっているのに出生率は大きく下がっている。なのに「将来不安」を減らせば「子どもが生まれ」やすくなると考えるべきなのか。

国内の推移を見る限り「少子化対策」としては「昔に戻る」が有効だろう。世界的に見れば、少子化は先進国に共通の現象なので「先進国的な部分を捨てる」必要もありそうだ。その辺りを突き詰めていくと、例えば「女性の社会進出を減らして、家事・育児に専念する女性を増やすことが少子化対策として有効」といった結論になるかもしれない。

子どもが生まれにくい要因を一つひとつ、根本から変えていく覚悟が要る」と本気で考えるのならば、世の中の流れと逆行するような対策も選択肢から排除せず検討する必要がある。その覚悟があるのか。

また、社説では「少子化の最大の要因は、未婚化・晩婚化」と断定している。同意はしないが、取りあえずそうだとしよう。この対策として、個人的には重婚の解禁はありだと感じる。今風に選択的重婚制度とでも名付けよう。

どの程度の効果があるか分からないが、婚姻件数を増やす方向に力が働くはずだ。選択的夫婦別姓を「強制する訳ではない。個人の選択肢が増えるだけだ」として賛成する人なら重婚に理解を示しても良さそうな気はする。

同性婚とも話は似ている。「結婚したい相手が同性でも結婚できるようにしよう」と考える人ならば「結婚したい相手が既婚者でも結婚できるようにしよう」となるのが道理ではないか。

子どもが生まれにくい要因を一つひとつ、根本から変えていく覚悟が要る」と日経が本気で考えているのならば、選択的重婚制度の導入をぜひ社説で訴えてほしい。

無理だとは思うが…。


※今回取り上げた社説「出生急減の克服へ若者の将来不安を拭え」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210509&ng=DGKKZO71689220Y1A500C2EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

2021年5月8日土曜日

対象店舗数が不明でも重要ニュース? 日経「マクドナルド、店大型に」

マクドナルドの宣伝担当にでもなったつもりなのかーー。8日の日本経済新聞朝刊総合5面に載った「マクドナルド、店大型に 240億円投じ調理能力2倍」という記事を読むと、そんなツッコミを入れたくなる。この記事は同面で2番手の扱い。見出しは4段で写真とグラフ付き。「かなり大きなニュースですよ」と読者に訴えているはずだ。しかし途中で驚きの一文が出てくる。そこまでを見ていこう。

夕暮れ時の筑後川
【日経の記事】

日本マクドナルドホールディングスは新型コロナウイルス下での「巣ごもり需要」に対応するため、店舗を大幅刷新する各店の調理能力を2倍にするほか、建て替えなどで大型化してドライブスルーの受け入れ能力も拡大する。2021年12月期の設備投資を13年ぶりの高水準となる約240億円に引き上げ、宅配などの需要増を取り込む。

店舗の刷新は新たな厨房設備の導入と店舗の大型化が柱になる。新設備の導入でハンバーガーなどを同時に調理できる人数を現在の2倍の4人にする。店舗も建て替えや移転で大型化し、ドライブスルーの受け入れ能力を高める。車が商品の注文のために並ぶレーンを1店当たり2レーンにする。

今期の設備投資は約240億円と前期に比べて約2割増える。設備投資の増額は4年連続で、直営店の出店を増やした08年12月期以来の水準になる。マクドナルドは全国に約2900店を展開する。新設備の導入店舗数などは明らかにしていない。


◎「導入店舗数などは明らかにしていない」のなら…

マクドナルド、店大型に 240億円投じ調理能力2倍」という見出しを見ると「マクドナルド」全体で見て「調理能力」が「2倍」になるような印象を受ける。しかし「同時に調理できる人数を現在の2倍の4人にする」店や「ドライブスルーの受け入れ能力を高める」店がどの程度あるのか明らかにしないまま話が進んでいく。そして「新設備の導入店舗数などは明らかにしていない」という説明が出てくる。

新設備の導入店舗数などは明らかにしていない」のならば記事にするのは諦めた方が賢明だ。どんなに無理してもベタ記事止まりだろう。しかし日経は4段見出しを立てて写真とグラフまで付けてしまった。

マクドナルド」の意図を考えてみよう。「マクドナルド」全体で見て「調理能力」が「2倍」になるような設備投資をするのならば「全店でやりますよ。凄いでしょ」とアピールしてくるはずだ。取材に応じながらも「新設備の導入店舗数」を明らかにしないとすれば「導入店舗数」はかなり少ないと推測できる。

となると今回の扱いは明らかに大きすぎる。しかも見出しなどで「マクドナルドの店が全体的にさらに良くなる」という印象は読者に与えている。読者よりもマクドナルドの方を見て記事を作っていると言われても仕方ない内容だ。

さらに言うと「マクドナルド、店大型に 240億円投じ調理能力2倍」と見出しを付けているが、記事では「今期の設備投資(の総額)は約240億円」と書いている。「調理能力2倍」のためだけに「約240億円」を投じる訳ではないだろう。その意味でも誤解を招く恐れがある。


※今回取り上げた記事「マクドナルド、店大型に 240億円投じ調理能力2倍」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210508&ng=DGKKZO71673970X00C21A5EA5000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年5月7日金曜日

「3月に進出済み」なのに、そこは触れずに「ニトリ、外食進出」と打ち出す日経の姑息さ

日本経済新聞のニュース記事には「when」が抜けやすいと繰り返し指摘してきた。7日の朝刊総合1面に載った「ニトリ、外食進出~まず低価格ステーキ、家具店に併設でコスト抑制」という記事もその1つだが、少し事情が異なる。記事の冒頭を見てから問題点を指摘したい。

大阪城

【日経の記事】

ニトリホールディングス(HD)は外食事業に参入した。卸を通さずに食材を調達し、店舗では自社の家具や食器を使うなどして運営コストを下げる。将来は家具と同様に生産から販売までの一貫体制を目指す。新型コロナウイルスの感染拡大で外食の事業環境は厳しいが、低コストを武器にすれば参入余地があると判断した。

店舗名は「ニトリダイニング みんなのグリル」。まず東京都足立区と相模原市のニトリの家具・雑貨店に併設する形で低価格ステーキ店を設けた。集客面で家具店との相乗効果に期待するが、外食事業単独で利益を出せる規模への拡大を狙う。


◎「参入した」のが3月なら…

「参入する」という話ならばwhenは必須だ。しかし「参入した」ならばwhenなしでも許せる時もある。ごく最近になって「参入した」場合だ。もちろんwhenはあった方がいいが、これまでも過去形であれば問題視はしてこなかった。

しかし今回は違う。ニトリダイニングのホームページによると「みんなのグリル 環七梅島店」のオープンは3月18日だ。

「3月には参入済みで他社も4月には報じている話を、なぜ今ごろになって総合1面で新しい話のように報じているんだ」と批判するつもりはない。遅さは問題ではない。そのことを隠すような姑息な記事の作り方が問題だ。

遅く取り上げたとしても、「参入」時期を明示した上で、内容に付加価値を付けられていればそれでいい。

妙なプライドは捨てて読者ファーストの記事作りを心掛けてほしい。


※今回取り上げた記事「ニトリ、外食進出~まず低価格ステーキ、家具店に併設でコスト抑制

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210507&ng=DGKKZO71622400W1A500C2EA1000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年5月6日木曜日

インタビュー記事に粗さ目立つ日経ビジネスの磯貝高行編集長

前任の東昌樹氏に代わり日経ビジネスの編集長となった磯貝高行氏。東氏が優れた編集長だっただけにプレッシャーは大きいだろうが、負けずに頑張ってほしい。今回は5月3日号に載った「編集長インタビュー~アサヒGHD勝木社長、もう国内シェアは追わない」という記事に注文を付けてみたい。東氏も完璧だった訳ではなく当時の編集長インタビューにも問題があった。磯貝氏も読者の声に真摯に耳を傾けて優れた編集長となってほしい。

大阪ビジネスパーク
今回の記事で気になったくだりを見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

ーー小路明善前社長の5年間、総額2兆円を超えるM&Aで勝木さんは中心的な役割を果たしました。今後のグローバル展開をどう描いていますか。

最優先課題としては財務健全化があります。24年に純有利子負債をEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の3倍をめどに減らしたい。

ーー有利子負債は2兆円近い

1兆8236億円です。前期末で。大型M&Aはなかなか難しい。

そういう状況なので腰を落ち着けてオーガニック中心の成長に取り組める。昨年11月に2つのユニットに分かれていた欧州事業をまとめ、買収した豪ビール最大手も10月に統合作業を終えました。いよいよ日本と欧州、オセアニアの3極のベストプラクティスでやっていきたい。人材交流を進め、原材料の共同調達も広げたい。グローバル・プレミアム・ブランドにも期待しています。スーパードライを筆頭に5つを世界の大都市を中心に流通させます。

ーースーパードライを世界トップ10のブランドに育てると公表されていますが、グローバルで数量を追うのですか。

ボリュームだけではなく、価値で世界トップ10に入りたい。ビールは1日の労働の疲れを癒やすためにがぶ飲みする飲料から、コミュニケーションのツールになってきました。クールでハイエンドで、スタイリッシュなものがいいと。豪州ではスーパードライがびしっとはまり、5年半いた間に販売数量が5倍になりました。


◎なぜ現状を見せない?

勝木さん」は「24年に純有利子負債をEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の3倍をめどに減らしたい」と語っているが、直近の数字が見当たらない。そこは磯貝氏が見せてあげるべきだ。

どうやって「3倍」に持っていくのかも、もう少し語らせたい気もする。「EBITDA」を増やすのか「純有利子負債」を減らすのか、あるいは両方を追うのか。「腰を落ち着けてオーガニック中心の成長に取り組める」と述べているので「EBITDA」を増やす考えなのかと思うが材料が足りない。

さらに言えば「オーガニック中心の成長」という表現は馴染みがない読者も多いと思える。説明があった方が親切だ。

さらに付け加えると「3倍」が「純有利子負債」ベースの話ならば「有利子負債は2兆円近い」という質問のところに「純有利子負債」の数字も補足で入れた方がいいだろう。

スーパードライを世界トップ10のブランドに育てる」という話にも似たような問題がある。まず現状で何位なのか触れていない。また「価値で世界トップ10」という発言があるが、何で「価値」を測るのか不明だ。

インタビューでは、あれもこれもと話題を広げずに焦点を絞った方がいい。そして絞ったところは重点的に根掘り葉掘り聞いていく。その方が迫力も出るし、説明不足も起きにくい。

今回のインタビューでは、あれこれ話題を広げて深掘りしないままインタビューを終えたという印象を受けた。

総花的に話を聞いて予定調和的に記事を仕上げればいいのならば、わざわざ編集長が出向く意味はない。取材経験が豊富な編集長だからこその緊張感あるインタビュー記事を読者に提供する。そういう気概を持ってインタビューに臨んでほしい。

編集長としての時間はある。今後に期待したい。


※今回取り上げた記事「編集長インタビュー~アサヒGHD勝木社長、もう国内シェアは追わない

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00119/00116/


※記事の評価はD(問題あり)。磯貝高行編集長への評価も暫定でDとする。

2021年5月3日月曜日

「食と酒はリターンのいい投資」と言い切る堀江貴文氏に異議あり

3日付のプレジデントオンラインに載った「堀江貴文が『ランチでは5000円のうな丼を食え』と言うワケ~食と酒はリターンのいい投資だ」という記事は説得力がなかった。「本稿は、堀江貴文『非常識に生きる』(小学館集英社プロダクション)の一部を再編集したものです」との注記があったので、この本の内容も苦しい可能性が高い。

夕暮れ時の筑後川

中身を見ながらツッコミを入れていきたい。

【プレジデントオンラインの記事】

酒食に浪費をいとわないのは、純粋に美味しいものが好きだから。

そして、人生を楽しくする投資として、リターンがよいのだ。

食は文化であり、料理の成り立ちを遡っていくと、文化や歴史を学ぶことができる。例えば中国で料理技術が発展したのは、中国皇帝の顕示欲が背景となっているとか。日本での発酵食品の発達は、湿度の高い国土で保存の利く料理をつくりだす必要があったからなど、料理と文化・歴史は密接に関わっている。

美味しいものを突きつめていけば、歴オタの道に通じるのだ。

美食の経験を通して、僕はワインや日本酒など各国のお酒の歴史や蘊蓄を、ずいぶん学べた。これらは後に小説を書くのにも役立てられた。


◎「歴オタの道に通じる」ためなら…

歴オタの道に通じる」ことが「酒食に浪費をいとわない」メリットだと堀江氏は言う。しかし「各国のお酒の歴史や蘊蓄」は「酒食」にカネを投じれば必然的に得られる訳ではない。堀江氏は自ら学んだのだろうが、食べて飲んで終わりという人の方が多そうだ。この場合「リターンがよい」とは言えない。

さらに言えば「酒食に浪費をいとわない」やり方ではなく、「酒食」に使う金額を抑えて学ぶ方に時間やコストをかけた方が「歴オタの道に通じる」上ではコストと「リターン」の関係が良くなる。

それに「歴オタの道に通じる」のが目的ならば「美味しいものを突きつめ」る以外にも色々と道はある。城巡りをするとか鉄道好きになるとかでも「歴オタの道に通じる」場合はある。特に「酒食」の「リターンがよい」とは思えない。

堀江氏が挙げるもう1つの魅力は人脈だ。そのくだりも見ておこう。


【プレジデントオンラインの記事】

酒食にお金を費やすことで一番得られるものは、幅広い人間関係だ

美食の場には、経済界や放送業界、芸能界などさまざまな分野の成功者が集まっている。彼らとの新鮮で刺激的な会話も、ご馳走だ

グルメ好きは、分野の垣根を越える。仕事しているだけでは出会えない各界の著名人やタレント、インフルエンサーと知り合えるのも面白い。僕は社会に出てから、毎晩のように彼らと酒席を囲み、魅力的な情報を教えてもらい、しばしばビジネスプランの熱いディスカッションを交わしている


◎堀江氏はそうだとしても…

堀江氏は「毎晩のように彼ら(各界の著名人やタレント、インフルエンサーら)と酒席を囲み、魅力的な情報を教えてもら」っているらしい。だからと言って一般の人にとって「リターンがよい」とは限らない。

高い店で食事をし、たまたま同じ時間にその店に「成功者」がいたからと言って「酒席を囲み、魅力的な情報を教えてもら」える訳ではない。全く知らない人に「同席させてください」と頼んでも断られるケースがほとんどだろう。それに、有名人でもない限り「成功者」かどうかを見分けるのも難しい。

普通のビジネスパーソンが「酒食に浪費をいとわない」暮らしをしても、投じた金額に見合う「リターン」が得られる可能性は低いと考える方が自然だ。堀江氏にとって「リターンがよい」ことが、一般人にも当てはまるとは限らない。上記の話は、その典型だろう。

今回の記事で最も引っかかったのが以下のくだりだ。


【プレジデントオンラインの記事】

「起業するためにお金を貯めています!」と言って、食事は500円ランチか、吉牛やマクドナルドで済ませている若者がいる。500円ランチもファストフードも別に不味くはないが、起業家を目指すというなら、あまり推奨できる姿勢ではない。

美食には、お金を惜しんではダメだ! ご飯への出費からは、投じた以上の機会創出と、知識を満たすリターンが得られる。

安くてそこそこ腹を満たせるひとりメシを続けていると、その回数分、ライフステージを上げるチャンスを失っている。安いメシで腹を膨らませているビジネスパーソンに、良質な人脈が築けるとは思えない

僕は、ランチではうな丼を食え! と言っている。それもチェーン店の1000円程度のうな丼ではなく、浅草や日本橋など老舗店のうな丼を食べてほしい。ひとりで5000円以上するが、その金額分の情報の獲得と、学習の代金だ。

5000円のうな丼を食べる、それ自体が情報のシャワーだ。

このご時世に、なぜ5000円もの値段がついているのか? 味を維持する方法は? 経営がどう回っているのか? 知れば有益な情報が丼いっぱいに詰まっている

高額のランチは、外食産業の構造を考えるのに格好の機会だ。舌を通して考えるので、思考はより深まり、学びの質も上がるだろう。


◎「500円ランチ」も「情報のシャワー」では?

5000円のうな丼を食べる、それ自体が情報のシャワーだ」と言うのならば「500円ランチもファストフード」も「情報のシャワー」だ。「なぜ安くできるのか?」「味を維持する方法は? 経営がどう回っているのか?」などと考える機会は容易に得られる。10倍の値段を出した方が10倍の「情報のシャワー」を浴びられる訳でもない。

高額のランチは、外食産業の構造を考えるのに格好の機会」との見方を否定はしないが、それは「500円ランチもファストフード」も同じだ。

ついでに言うと「安くてそこそこ腹を満たせるひとりメシを続けていると、その回数分、ライフステージを上げるチャンスを失っている。安いメシで腹を膨らませているビジネスパーソンに、良質な人脈が築けるとは思えない」というくだりには引っかかりを感じた。

良質な人脈」を築き「成功者」の仲間入りをして「経済界や放送業界、芸能界などさまざまな分野の成功者が集まっている」場で「酒席を囲み、魅力的な情報を教えてもらい、しばしばビジネスプランの熱いディスカッションを交わ」すと高い「ライフステージ」に到達するのだろう。

堀江氏のそうした価値観を否定するつもりはないが、皆がそうした「ライフステージ」を上だと見ている訳ではない。そこは考えてほしかった。


※今回取り上げた記事「堀江貴文が『ランチでは5000円のうな丼を食え』と言うワケ~食と酒はリターンのいい投資だ

https://president.jp/articles/-/45234


※記事の評価はD(問題あり)

2021年5月2日日曜日

強引な組み立てが目立つ日経「チャートは語る~半導体供給、根深い不安」

2日の日本経済新聞朝刊1面に載った「チャートは語る~半導体供給、根深い不安 アジア依存8割 自国生産回帰の動き」という記事は強引な作りが目立った。記事の前半を見ていこう。

熊本港

【日経の記事】

半導体サプライチェーン(供給網)のリスクが拭えない。自動車生産の急回復に、自然災害や事故なども加わり半導体不足が長引いている。不安を強める主要国は自国への生産回帰に動くが効率低下などの副作用は避けられない。

世界の半導体工場で停止が相次いでいる。

2021年に入り、米テキサス州の大寒波やルネサスエレクトロニクスの火災で工場が相次ぎ停止。半導体不足に拍車をかけ自動車の減産規模は21年世界生産見込みの約3%に相当する240万台に上る可能性が指摘される。

半導体は自動車以外にも幅広い製品に組み込まれる。供給網が寸断されれば影響は大きい。にもかかわらず脆弱性が次々と露呈する。背景に半導体特有の要因がある。

一つは生産拠点の集中だ。19年まで20年間の世界の半導体の輸出を見ると、台湾・韓国・中国などアジアからの輸出は5割から8割に上昇。一方、米欧日からは5割から2割弱に低下した。生産拠点が絞られると災害や地政学などのリスク分散も限られる。

生産集中を加速したのが水平分業だ。米欧日のメーカーは巨額投資を抑えるため、製造の一部を台湾積体電路製造(TSMC)など受託生産会社(ファウンドリー)に委託した。ファウンドリーの半導体生産シェアで台湾・中国・韓国が8割を持つ。


◎「生産拠点の集中」が問題?

筆者ら(林英樹記者、真鍋和也記者、龍元秀明記者)はアジア(日本を除く)への「生産拠点の集中」を問題視する。しかし「世界の半導体工場で停止が相次いでいる」事例として取り上げたのは「米テキサス州の大寒波」や「ルネサスエレクトロニクスの火災」によるものだ。日米の話なので、アジア(日本を除く)への「生産拠点の集中」とは関係ない。

生産拠点の集中」を問題視するのならば生産量や生産拠点数で見ればいいと思えるが、なぜか「輸出」のシェアで見ている。「ファウンドリーの半導体生産シェアで台湾・中国・韓国が8割を持つ」との記述はあるものの、「ファウンドリー」以外も含めた「半導体生産シェア」は教えてくれない。「生産拠点」が「集中」していると見せたいためにデータを恣意的に用いているのではないか。

そもそも「台湾・中国・韓国」に「集中」していたとしても、地域としてはかなり広い。本当に「生産拠点の集中」が問題なのかとは感じる。「世界の半導体輸出に占めるアジア勢のシェア」に関しても、日本を除いているから右肩上がりになっているが、この間に日本がシェアを落としているとすれば「日本を含むアジア」のシェアは大きく動いていないのではとも思える。

チャートは語る」というタイトルなので、自分たちの描いたストーリーに合致するデータが必要なのは分かる。しかしデータの使い方がご都合主義的になってはダメだ。筆者らには、そこをよく考えてほしい。


※今回取り上げた記事「チャートは語る~半導体供給、根深い不安 アジア依存8割 自国生産回帰の動き

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210502&ng=DGKKZO71564720S1A500C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)林英樹記者と龍元秀明記者への評価は暫定でDとする。真鍋和也記者への評価はDを据え置く。

2021年5月1日土曜日

「男性の方が雇用悪化がきつい」と伝えないのはなぜ?日経「苦境、女性・非正規に集中」

1日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「苦境、女性・非正規に集中~昨年度の就業65万人減、雇用押し下げ 支援策の恩恵に偏り」という記事には、重要なポイントが抜け落ちていると感じた。「苦境、女性・非正規に集中」という切り口に無理があるとは言わない。しかし、今回のデータを見ると「雇用押し下げ」の影響を大きく受けているのは男性の方だと分かる。「コロナ禍では女性の方が雇用面での痛みが大きい」と言われてきたが、それを覆す結果となっている。こんな大事なことをなぜ伝えないのか。

寺内ダム

記事では「総務省が30日発表した労働力調査」を基に「2020年度の雇用環境は長引く新型コロナウイルスの影響で悪化した」と報じている。「就業者数」で見ればその通りだが、内訳は意外な結果になっている。記事から数字を拾うと以下のようになる。

男性(非正規)32万人減

男性(正規)4万人減

女性(非正規)65万人減

女性(正規)36万人増

男女別に合計すれば、男性が36万人減で女性が29万人減。男性の減少幅の方がかなり大きい。正規雇用の方が労働者にとっておいしいと仮定すれば、女性の雇用環境は悪化したのかどうか微妙だ。一方、男性は正規も非正規も減っており、救いがない。

なのに「コロナで職を失って苦しんでいるのは女性」といった伝えられ方をしてきた。「労働力調査」の数字が正しければ「女性よりも男性の雇用が厳しい」と見るべきだ。

今回の記事では「女性でも正規労働者は需要増が続く」とは書いている。しかし「トータルで見ると男性の雇用減少の方が女性よりきつい」という視点は見当たらない。書き手にはそれが見えないのか、見えているのに見えないふりをしているのか。

いずれにしても問題がある。


※今回取り上げた記事「苦境、女性・非正規に集中~昨年度の就業65万人減、雇用押し下げ 支援策の恩恵に偏り

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210501&ng=DGKKZO71551270R00C21A5EA2000


※記事の評価はD(問題あり)