2015年7月4日土曜日

日経「真相深層~緩和マネーが経験則覆す」への疑問(2)

4日の日経朝刊総合1面に載っていた「真相深層~緩和マネーが経験則覆す 食品・銀行株…新たな連動」という記事の問題点を引き続き指摘していく。


アムステルダム(オランダ)のダム広場 ※写真と本文は無関係です
◎「株の投資家にはなかった」?

【日経の記事】

投資家を困惑させた代表格がカルビーやヤクルト本社といった食品株の値動きだ。年初から4月中旬までで4割も上昇しており、1割強の上昇だった日経平均をはるかに上回った。業績と株価水準を比較しても、食品株が上がる理由が分からない。証券アナリストらがこぞって背景を探り、たどり着いた原因が海外の金利の低下だった。

食品株が上昇した起点は1月だ。欧州中央銀行(ECB)が量的金融緩和の導入を決めた時期に重なる。欧州ではマイナス金利が広がり、債券の投資家は利回りを得られなくなった。そこで目を付けたのが日本の食品株だ。業績が安定して配当を期待でき株価の変動幅も小さい。「国債と株式の利回りを比較して買う株の投資家にはなかった買い方」(野村証券の村上昭博氏)といえる。


アクティブファンドの7割が市場平均に負けているという話の後に、食品株の上昇が急だったことを持ってくるのがまず不可解だ。市場平均より食品株の値上がりが大きいのならば、食品株の比率が小さいファンドには不利でも、逆の場合は有利だ。なぜ7割が市場平均を下回ったのかの説明にはなりにくい。アクティブファンドの多くが食品株の比率を思い切って絞っていたといった状況があるのならば別だが、記事中にそうした説明はない。

コメント部分の「国債と株式の利回りを比較して買う株の投資家にはなかった買い方」というくだりは読者に誤解を与える恐れがある。筆者は「株の投資家であればしないような国債と株式の利回りを比較して買う手法」と言いたいのだろう。しかし「国債と株式の利回りを比較して買うのが当たり前になっている株の投資家ならばしない買い方」とも解釈できる。これでは記事を書く技術が十分とは言えない。

ついでにもう1つ。専門家である野村証券の人の見解に異を唱えるのも気が引けるが、国債と株式の利回りを比較して買うのは珍しくないと思える。日本でも電力株の配当利回りと国債利回りを比べたりする考え方は以前からあったような…。


◎「経験則覆す」? ~その1

【日経の記事】

4月に入ると新たな連動が起きる。次の主役はメガバンクなど銀行株だ。融資が伸び悩む銀行株を、国内の投資家は必要以上には保有していなかった。それが突如として上昇し始めた。慌てた投資家が追随して銀行株を買い、上昇に拍車をかけることになった。

原因を探ると、またもや株式市場の外側にあった。この時期、商品市場では原油価格が反転し、上昇していた。原油高は物価を押し上げる。物価が上がれば金利が上昇し、銀行の利ざやも大きくなる。この連想が働き、日本だけでなく世界で銀行株が上昇した


今回の記事では「原油価格と銀行株の新たな相関」という図を載せている。そこでは「原油高→物価の上昇→金利の先高観→銀行の利ざや拡大→銀行株の上昇」という流れになっている。これのどこが新しいのだろう。原油高がインフレ要因なのも、インフレ傾向が強まれば金利が上昇しやすくなるのも当然だ。金利上昇局面の方が銀行の利益が増えやすいのもよく知られている。何も新しくないだろう。状況次第では「原油高→景気後退懸念の高まり→銀行株の下落」となるかもしれないが、どちらになっても「経験則を覆す」とか「新たな連動」などと騒ぐような話ではない。



◎「経験則覆す」? ~その2

【日経の記事】

主軸通貨であるドル相場と原油市場では「ドル高=原油安」の関係性が一段と強くなっている

原油市場では年金基金などの長期投資家に代わって、相場の流れに追随して利益を確保するCTA(商品投資顧問)や、短期売買を繰り返す超高頻度取引(HFT)業者が存在感を高めている。為替市場と商品市場の関係性が強くなったのは、こうしたヘッジファンドの台頭が原因だ。

「多くのヘッジファンドは為替相場が動くと自動的に原油を売買するプログラムを組み込んでいる」とマーケット・リスク・アドバイザリーの新村直弘代表取締役は話す。為替相場でドルが買われれば機械的に原油が売られる。ドルの実質実効為替レートと原油価格の相関係数は今年に入り「マイナス1」に迫っている。これは正反対の値動きであることを示す。



まず脱線が過ぎる。投資信託の7割が市場平均を下回る状況を「異常事態」と捉え、その原因を「経験則が覆されていること」に求めていたのではなかったのか。「原油とドルの関係」になると、投信の7割が市場平均を下回る話との関連がほとんどなくなる。

しかも、見出しで謳った「緩和マネー、経験則覆す」の事例とも言えない。記事では「『ドル高=原油安』の関係性が一段と強くなっている」と書いている。つまり、経験則がますます当てはまるようになっているのだ。株式市場との関連が薄い上に、経験則を覆すわけでもない話を持ってくる必然性は感じられない。記事の企画自体に無理があると考えるべきだろう。


※記事の評価はD(問題あり)。酒井隆介記者、金子夏樹記者への評価も暫定でDとする。

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