2024年2月1日木曜日

遅きに失した日経産業新聞の“廃刊”

日経産業新聞の休刊が発表された。遅すぎた感はあるが悪い話ではない。今回は日経産業新聞について論じてみたい。まずは1日の日本経済新聞朝刊1面に載った「お知らせ」を見ていこう。

宮島

【日経の「お知らせ」】 

ビジネスやテクノロジーの最先端トレンドを伝えてきた日経産業新聞が創刊50周年を迎えたのを機に、ビジネス報道を刷新します。「読みたい時に最新情報を得られる」電子版の特徴を生かし、企業の動きをより早く、深く報じていきます。日経産業新聞は3月29日付で休刊し、デジタル時代の情報発信力を高めます。(関連特集を掲載)

生成AI(人工知能)の台頭や地政学的なリスクの高まりなど、企業環境は目まぐるしく動いています。変化の波を映すニュースと、ニュースの内幕に迫る分析記事で「ビジネスの今」を伝えていきます。

電子版では今春、トップ画面のデザインを見直します。ビジネスニュースコーナー「ビジネスデイリー」を新設し、最新の企業情報にたどり着きやすくします。業界・テーマ別にコンテンツをまとめた一覧ページも設け、興味のあるコンテンツを見つけやすくします。国内外の企業の動きをきめ細かく報じてきた日経産業新聞の強みを電子版で受け継ぎ、次のビジネスのヒントを提示します。

電子版での報道に加え、テーマごとに深掘りした専門情報を有料メディア「NIKKEI Prime(日経プライム)」シリーズでお伝えしていきます。世界各地のデジタル規制やビジネスのトレンドを読み解くメディアを新たに立ち上げます。ビジネスニュース関連のPrimeシリーズでは第4弾となります。

朝刊紙面でもビジネス面を刷新し、ページ数を増やします。電子版で発信したよりすぐりのコンテンツを一覧性の高い紙面に収容しビジネスに役立つ多様な視点を提供していきます。


◎休刊を前面に出すべき

朝刊を見ると「ビジネス報道を刷新」という主見出しを目立たせ「電子版、企業情報を拡充」が2番手の見出しになっている。その下に「日経産業新聞、3月末で休刊」とようやく出てくる。「休刊」(事実上の廃刊だろう)という重要な判断をしたのなら、まずはそれをしっかり伝えるべきだ。本文も冒頭で「ビジネスやテクノロジーの最先端トレンドを伝えてきた日経産業新聞が創刊50周年を迎えたのを機に、ビジネス報道を刷新します」と書いており、日経産業新聞が「ビジネス報道を刷新」するのかと誤解しそうになる。「休刊」のイメージを弱めたかったのだろうが、読者に対して誠実な「お知らせ」にはなっていない。


◎日経産業新聞の罪

インターネット普及前には日経産業新聞にも、それなりの存在意義があった。日経が取材で集めた企業情報のうち日経本紙に収容できないものを有効活用できたし、その「余りもの」情報への需要もまだあった。しかしネットの普及で存在意義はほぼ失われた。日経産業新聞が提供してきたのは「ガラクタ情報」に近いが、その手の情報はネットで容易に手に入るようになった。日経本紙に載らない企業の発表なども、企業のホームページにアクセスすれば見られるようになった。そうした点を考えると日経産業新聞の歴史的な使命は1990年代で終わっていた。そこから休刊を決断するまでに20年以上を要したのは長すぎる。

日経にとって報道の質という点で日経産業新聞の罪は重い。まず記者を疲弊させてしまう。日経産業新聞の専属記者を置かず日経の記者に本紙にも日経産業新聞にも記事を書かせれば効率はいい。しかし記者の負担は増える。この負担の重さが本紙を含めた日経の企業ニュース記事の質に悪影響を与えてきた。

日経産業新聞よりも注目度の高い日経本紙への出稿に記者としては力が入る。そうなると日経産業新聞に関しては「何とか紙面を埋める」という感覚になりがちだ。結果として日経産業新聞は記者の中で「あまり書きたくないけど何とか埋めなければならない新聞」となってしまう。これで質の高い紙面が作れるはずがない。そしてネットの登場でとどめを刺された。有効な生き残り策があったとは思えない。21世紀に必要とされる新聞ではなかったのだ。その評価は、まだ生き残っている日経MJや日経ヴェリタスにも当てはまる。


※今回取り上げた「お知らせ」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20240201&ng=DGKKZO78134540R00C24A2MM8000