2018年12月31日月曜日

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」

日本経済新聞の中村直文編集委員が31日朝刊企業面に書いた「経営の視点~キリン変えたP&G流 破壊こそ再生への道」という記事では、最後まで読んでもキリンの経営に関して「破壊」と呼べるような話は出てこない。
別府タワー(大分県別府市)※写真と本文は無関係

当該部分は以下のようになっている。

【日経の記事】 

神獣を巡る破壊と再生。頭に浮かんだのは神獣「麒麟」を企業名に掲げるキリンビールだ。アサヒビールに水をあけられていたが、2018年は3年ぶりにビール類の販売が前年比で増える見込み。好調な主因は、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)からマーケティング担当者である山形光晴氏(42)を招き、従来のビジネス手法を破壊したことにある。

15年9月にキリンビバレッジのマーケティング部長に就き、「生茶」の刷新に成功。17年3月にキリンビールのマーケティング部長になると、山形氏は主力の「一番搾り」に切り込む。「(第三のビールの)のどごしやチューハイの氷結ではなく、真ん中の商品を変えないと組織は変わらない」と言い切る。

実は部長就任時に一番搾りのリニューアルの中身は決まっていたが、これをひっくり返した。例えばCMキャラクターはそれまで人気グループの「嵐」で、主婦層の支持率は高かった。だが40~50代の主力客に飲んでもらうために俳優の堤真一さんなどに変更。一部の顧客を失うリスクもあったが、味の改善も支持され、売り上げは逆に伸びた。

「着任したとき、(横軸と縦軸で商品のブランドポジションを考察する)四象限マトリックスを使っていたことに驚いた。あんなやり方、絶滅していたと思ったのに」と山形部長は振り返る。大手4社の決まったプレーヤーが寡占するビール業界。他社との違い、自社商品とのすみ分けなどメーカー目線のマーケティングが低迷の元凶と看破した。

3月に発売した第三のビール「本麒麟」は今年の日経MJヒット商品番付の関脇に選ばれた。真っ赤なボディーに麒麟マークを大きくあしらったデザインは顧客の目を引く。新しさとともにどこか懐かしい。一世を風靡した「キリンラガー」に似ているのだ。赤色に難色を示す声があったが、これも押し切る。「これまでは反対者が一人でもいると動きが止まった。リーダーは半分からは嫌われる仕事」(山形部長)


◎「従来のビジネス手法を破壊」してる?

キリンビール」では「17年3月にキリンビールのマーケティング部長」に就任した「山形光晴氏(42)」が「従来のビジネス手法を破壊した」と中村編集委員は解説している。具体的な内容を見てみよう。

(1)「一番搾りの」CMキャラクターを「」から「俳優の堤真一さんなど」に変更

(2)「本麒麟」のデザインに一部の反対を押し切って「赤色」採用

山形氏」がやったことは基本的に上記の2つだと読み取れる。ここに「従来のビジネス手法」の「破壊」があるのか。あるいは「四象限マトリックス」を使わないようにしたのが「破壊」なのか。

従来のビジネス手法を破壊した」とまで言うのならば、もっと強烈な事例が欲しい。例えば「一切の市場調査をやめ、顧客の声も無視して、1人の担当者の直感でマーケティングの方針を全て決めるようにした」などと書いてあれば「破壊」だと納得できる。

しかし、「メーカー目線」をなるべく避けてといった程度の話ならば、「改善」「見直し」の類だ。中村編集委員がキリンを持ち上げたいのならば、それはそれでいい。だが、大した材料もないのに、大げさに持ち上げるのは感心しない。


※今回取り上げた記事「経営の視点~キリン変えたP&G流 破壊こそ再生への道
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181231&ng=DGKKZO39500420Y8A221C1TJC000

※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

2018年12月30日日曜日

日経1面「米中横目に巨大貿易圏~世界経済の4割弱」の無理筋

話を盛り上げたい気持ちは分かるが、30日の日本経済新聞朝刊1面に載った「米中横目に巨大貿易圏 TPP11・日欧EPA発効へ~世界経済の4割弱 企業、商機見越し着々」という記事は「巨大貿易圏」に無理がある。飛田臨太郎記者と大平祐嗣記者はまず、以下のように説明している。
藩校の門(大分県杵築市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

米国を除く11カ国の環太平洋経済連携協定「TPP11」が30日、発効した。来年2月1日には欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)も発効する。貿易戦争を繰り広げる米中を横目に、世界の国内総生産(GDP)の4割弱を占める巨大貿易圏が動き出す。保護主義の連鎖を防ぐ試金石となる。

TPP11は日本を除く10カ国が最終的にほぼ全ての関税をなくす。日本も工業製品の100%、農林水産品の82.3%の関税を最終的に撤廃する。日欧EPAでも日本側が94%の品目で、EU側が99%の品目で、それぞれ関税を撤廃する。



◎足していいなら…

TPP11」と「日欧EPA」を合計して「世界の国内総生産(GDP)の4割弱を占める巨大貿易圏」と表現している。別々の「協定」なのに同一の「貿易圏」と見なしているのが引っかかる。

「日本が両方をつないでいるから合計しても問題ない」と筆者らは言うかもしれない。その場合、「米中を横目に」が苦しくなる。米国は「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定、NAFTAの改訂版)」のメンバーであり、ここでカナダ、メキシコとつながっている。だとしたら「巨大貿易圏」に米国も加わるはずだ。なのに枠外になっている。辻褄が合っていない。

記事に付けたグラフでは「TPP11」と「EU」に色を付けて「世界のGDPの4割弱が自由貿易圏に」と説明している。ここでも米国は「自由貿易圏」の外にいる。記事では「仮に米国がTPP11などの自由貿易圏に入れば、世界のGDPの6割を占める」とも書いている。

自由貿易協定の類に参加していれば「自由貿易圏」に入るとの前提であれば、米国も「自由貿易圏」に入るはずだ。関税などの貿易障壁を完全に撤廃した場合に「自由貿易圏」になると筆者らが考えているのならば、「農林水産品の82.3%の関税を最終的に撤廃する」日本が「自由貿易圏」に入らなくなる。

かなり恣意的に「自由貿易圏」を定義しない限り「日本は入るが米国は圏外」とはならない気がする。

付け加えると「農林水産品」の17.7%で「関税」が残るのであれば、「最終的にほぼ全ての関税をなくす」と言うのは苦しい。「ほぼ全て」ならば「農林水産品」でも撤廃率99%は欲しい。

さらについでに言うと「TPP11」と「EU」を足しても34.9%にしかならない。これを「4割弱」と言われてもとは思う。


※今回取り上げた記事「米中横目に巨大貿易圏 TPP11・日欧EPA発効へ~世界経済の4割弱 企業、商機見越し着々
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181230&ng=DGKKZO39578500Z21C18A2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。飛田臨太郎記者と大平祐嗣記者への評価はDで確定とする。大平記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

未熟さ感じる日経「ポスト平成の未来学~ ゴミはなくせる」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post_21.html

「海にゴミを捨てるのは合法」と解説する日経 未来学面の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post_13.html

2018年12月29日土曜日

英国では「物価は上がらない」と誤った日経「モネータ 女神の警告」

中央銀行が設定した物価の政策目標が2%で、実際の上昇率が2%を超えてきた。そこで物価抑制のために利上げに動いたものの、それでも2%台の物価上昇率が続いている。この場合、「(金融緩和にもかかわらず)それでも物価は上がらない」状況だと言えるだろうか。
別府港(大分県別府市)に停泊中の「えひめ」
        ※写真と本文は無関係です

日本経済新聞朝刊1面で連載した「モネータ 女神の警告~未来への問い」の取材班には、なぜか「それでも物価は上がらない」と映るらしい。日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 川崎健様 清水桂子様 松崎雄典様 白壁達久様 高見浩輔様 須永太一朗様 松本裕子様 福田航大様 丸山大介様

28日の朝刊1面に載った「モネータ 女神の警告~未来への問い(4)膨らむ『通貨外経済』 お金は不滅の存在なのか」という記事についてお尋ねします。まず問題としたいのは以下のくだりです。

1694年に誕生したイングランド銀行の資産は金融緩和で膨らみ続け、GDPの2割を超えた。政府に融資していた18世紀の水準も上回るが、それでも物価は上がらない

英国の消費者物価指数の前年比上昇率は直近の11月で2.3%です。2017年2月以降は政策目標である2%を上回って推移しており、物価上昇を抑えるための利上げにも踏み切っています。なのに「それでも物価は上がらない」と言えますか。

8月2日付の「英9カ月ぶり利上げ、0.75%に 金融正常化へ」という記事で御紙の篠崎健太記者は以下のように記しています。

英国では16年の国民投票でEU離脱が決まった後、通貨ポンドが急落し輸入品が値上がりした。消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率は17年11月、3.1%に伸びた。英中銀は同月、約10年ぶりに利上げした。その後、物価上昇率は縮小したが政策目標(年2%)をなお上回り、追加の利上げ時期を探ってきた

この記事では「イングランド銀行」が「利上げはインフレの抑制に必要だと判断した」とも書いています。だとすると今回の「それでも物価は上がらない」との説明が間違っているのではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。篠崎記者に英国は「それでも物価は上がらない」状況なのか聞いてみるのも手です。

記事の中でもう1つ気になったのが以下のくだりです。

世界がネットでつながり、物々交換やモノを買わずに共有するシェアリングエコノミーが急速に広がる。芸術さえも貨幣価値で計って市場経済に組み込んできた流れの逆流だ。『経済と日常生活の伝統的な境界が壊れつつある』。英元財務省アドバイザーのダイアン・コイル氏はいう

疑問点を3つ挙げておきます。

(1)「物々交換」と「ネット」の関係は?

京都市の清水寺にほど近いアパートに賃料が要らない一室がある。月13万円の賃料に見合うモノとの物々交換で住人を受け入れる」という事例の後に「世界がネットでつながり、物々交換やモノを買わずに共有するシェアリングエコノミーが急速に広がる」と書いています。しかし「アパート」の話は「ネット」と関係なさそうです。少なくとも関係を説明はしていません。
浜離宮恩賜庭園(東京都中央区)※写真と本文は無関係

ついでに言うと「物々交換やモノを買わずに共有するシェアリングエコノミーが急速に広がる」という書き方は上手くありません。「『物々交換やモノ』を買わずに共有する」と読めるからです。「物々交換や、モノを買わずに共有する」と読点を打つのが簡単な解決方法です。ただ、読点が多過ぎる感じもします。改善例を示しておきます。

<改善例>

世界がネットでつながり、モノを買わずに共有するシェアリングエコノミーだけでなく物々交換も急速に広がる。



(2)「シェアリングエコノミー」は「通貨外経済」?

皆さんは「シェアリングエコノミー」を「通貨外経済」と認識しているようですが、基本的には「貨幣価値で計って市場経済に組み込んできた流れ」に反しないでしょう。「シェアリングエコノミー」の代表的なサービスであるカーシェアリングや民泊は「通貨外経済」だと思いますか。これらのサービスの市場規模も「貨幣価値」で測れるはずです。


(3)「経済と日常生活の伝統的な境界」とは?

経済と日常生活の伝統的な境界が壊れつつある」とのコメントが理解できませんでした。「経済と日常生活の伝統的な境界」がまず分かりません。そもそも「経済と日常生活」には「境界」があるのですか。

記事を信じれば、スーパーで食料品を買うといった「日常生活」と「経済」の間には「伝統的な境界」があるはずです。しかし「そんなのあるの?」としか思えません。それが「物々交換」と何か関係あるのでしょうか。さらには「境界が壊れつつある」ようですが、どう「壊れ」ているのか記事からは読み取れません。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「モネータ 女神の警告~未来への問い(4)膨らむ『通貨外経済』 お金は不滅の存在なのか
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO39482100X21C18A2MM8000/


※記事の評価はE(大いに問題あり)。連載全体の評価はD(問題あり)とする。連載の責任者は川崎健氏だと推定し、同氏への評価をDで据え置く。同氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

川崎健次長の重き罪 日経「会計問題、身構える市場」http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_62.html

なぜ下落のみ分析? 日経 川崎健次長「スクランブル」の欠陥http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_30.html

「明らかな誤り」とも言える日経 川崎健次長の下手な説明http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_27.html

信越化学株を「安全・確実」と日経 川崎健次長は言うが…http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_86.html

「悩める空売り投資家」日経 川崎健次長の不可解な解説
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_27.html

日経「一目均衡」で野村のリーマン買収を強引に庇う川崎健次長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_11.html


※今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

米国では「金利が消滅」? 日経「モネータ 女神の警告」の誤り
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_45.html

予想通りに苦しい日経「モネータ 女神の警告~未来への問い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_28.html


※「モネータ 女神の警告」の過去の連載に関しては以下の投稿を参照してほしい。

色々と分かりにくい日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_59.html

間違った説明が目立つ日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_14.html

株主・銀行は「力失った」? 日経「モネータ 女神の警告」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_7.html

強引に「運用難」を描き出す日経「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_72.html

製薬会社の従業員が「空港封鎖」? 日経「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_81.html

最終回も間違い目立つ日経「モネータ 女神の警告」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_31.html

2018年12月28日金曜日

予想通りに苦しい日経「モネータ 女神の警告~未来への問い」

日本経済新聞朝刊1面で連載している「モネータ 女神の警告~未来への問い」が予想通りの苦しい展開となっている。27日の第3回でも「利益」と「現金」を区別せずに書いたりと、あれこれ問題が目に付いた。日経には以下の内容で問い合わせを送っている。
日本橋高島屋S.C.(東京都中央区)※写真と本文は無関係

【日経への問い合わせ】

27日の日本経済新聞朝刊1面に載った「モネータ 女神の警告~未来への問い(3)積み上がる死蔵資金 投資は設備から人へ」という記事についてお尋ねします。まず問題としたいのは冒頭に出てくる以下の記述です。

ソフトウエア開発のサイボウズでは今、毎年恒例の重要な活動が山場を迎えている。12月決算期末にその年に稼いだ現金を関係者に全額分配する『キャッシュイーブン』と呼ぶ活動だ。取引先向けのイベントにお金を使ったり、従業員のボーナスを引き上げたりして、その年の利益を株主や取引先、従業員にすべて配分する。過去に稼いだ利益も徐々にはき出し、内部留保は5年間で1割減った

記事の説明が正しければ「サイボウズ」の「株主」は「12月決算期末」に配当を受け取っているはずです。しかし同社の2017年12月期の決算短信を見ると「配当支払開始予定日 平成30年4月2日」と出てきます。「キャッシュイーブン」が「毎年恒例の重要な活動」であれば、株主は前期も12月末に配当を受け取っているはずですが、そうはなっていません。

18年12月期も「配当支払」は来春になるのではありませんか。「12月決算期末にその年に稼いだ現金を関係者に全額分配する」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

次の質問は「全額分配」の対象が「その年に稼いだ現金」なのか「その年の利益」なのかです。「その年に稼いだ現金を関係者に全額分配する」と書いた後で「その年の利益を株主や取引先、従業員にすべて配分する」と出てきます。

たっぷりと「現金」を稼いでも評価損などの影響で「利益」が出ない場合はあります。「キャッシュイーブン」という名称からは「現金」が正解なのかと感じます。「利益=純利益」との前提で考えれば、「利益」をその期のうちに「従業員のボーナス」に振り向けることはできません。人件費などの費用を差し引いた後に残るのが「利益」です。

せっかくの機会なので、他にも気になった点を記しておきます。記事には以下の記述があります。

国民の将来不安が解消されない日本では高齢者に貯蓄が偏在。教育など将来への投資が必要な若年層にお金が回らない。野村資本市場研究所によると18年は54兆円に達する日本の相続額は30年は60兆円に増える見通しだが、遺産を相続した次の世代も高齢化。将来不安が消えない限り、家計の貯蓄は積み上がる一方だ

高齢者に貯蓄が偏在」しているから「教育など将来への投資が必要な若年層にお金が回らない」と断定していますが、それを裏付けるデータは示していません。2018年度の大学・短期大学進学率は57.9%に達し、過去最高を更新したようですが、それでも「教育など将来への投資が必要な若年層にお金が回らない」と言えるでしょうか。

若年層」の多くは親や祖父母から資金を得て大学に進学します。「高齢者に貯蓄が偏在」しているとしても、それだけで「教育など将来への投資が必要な若年層にお金が回らない」と判断するのは早計です。

この後の説明はさらに疑問が残りました。

そんな家計にも人への投資が突破口になり得る。都内在住の80代男性は今年、現金と不動産で5千万円を子供と孫に生前贈与した。2人の孫は小学生でこれから教育資金がかかる。男性が見据えるのは未来の日本社会。『お金を生かして社会に貢献する人材に育ってほしい』と期待を寄せる

まず「何のためにこんな無駄なことを?」と感じました。「都内在住の80代男性」が存命の間は必要に応じて「教育資金」を出してあげれば済む話です。死亡すれば「子供」が遺産を相続するので、「子供」を通じて「2人の孫」への「教育資金」に充てられます。

今年、現金と不動産で5千万円を子供と孫に生前贈与した」のならば、普通はかなりの贈与税がかかってきます。特例措置を活用しても税負担ゼロは厳しそうな気がします。必要な時に「教育資金」を出せば非課税なので、「子供と孫」に資産を残してあげたいのならば一気に「5千万円」の「生前贈与」は避けるべきでしょう。

また「そんな家計にも人への投資が突破口になり得る」との説明も謎です。「都内在住の80代男性」に多額の資産があり、それを「子供と孫」に残すつもりがあるのならば、「2人の孫」は元々「教育資金」をほぼ確保できています。「生前贈与」があれば「突破口」が開けるが「生前贈与」なしでは開けないといった類の話ではありません。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「モネータ 女神の警告~未来への問い
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181227&ng=DGKKZO39402040W8A221C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

米国では「金利が消滅」? 日経「モネータ 女神の警告」の誤り
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_45.html

英国では「物価は上がらない」と誤った日経「モネータ 女神の警告」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_29.html


※「モネータ 女神の警告」の過去の連載に関しては以下の投稿を参照してほしい。

色々と分かりにくい日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_59.html

間違った説明が目立つ日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_14.html

株主・銀行は「力失った」? 日経「モネータ 女神の警告」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_7.html

強引に「運用難」を描き出す日経「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_72.html

製薬会社の従業員が「空港封鎖」? 日経「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_81.html

最終回も間違い目立つ日経「モネータ 女神の警告」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_31.html

2018年12月27日木曜日

「一人負け」に無理あり 日経ビジネス「日産、国内販売力で一人負け」

日経ビジネス12月24日・31日号の「時事深層 INSIDE STORY~日産、国内販売力で『一人負け』 『ポスト・ゴーン』巡りルノーと主導権争いも」という記事は「一人負け」に無理がある。「メーカー別の乗用車の保有台数」で「日産はこの10年でざっと200万台減らしている」としても「三菱自動車も82万台に半減している」のであれば、「負け」ているのは「日産」だけではない。
くにみ海浜公園(大分県国東市)
      ※写真と本文は無関係です

この件に関する問い合わせと日経ビジネス編集部の回答は以下の通り。

【日経BP社への問い合わせ】

12月24日・31日号「時事深層 INSIDE STORY~日産、国内販売力で『一人負け』 『ポスト・ゴーン』巡りルノーと主導権争いも」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

もともと日産のディーラーの経営は苦しい。8ページ左下のグラフを見てほしい。これはメーカー別の乗用車の保有台数を今年3月末時点と10年前で比べたもの。日産はこの10年でざっと200万台減らしていることが分かる。トヨタが25万台、ホンダは24万台増やしており、さながら日産は『一人負け』の様相だ。ルノー・日産と連合を組む三菱自動車も82万台に半減している

国内のメーカー別乗用車保有台数」に関する「グラフ」には「日産と三菱自の減少が目立つ」との説明文が付いています。だとすれば「日産と三菱自」の「二人負け」です。「グラフ」を見るとマツダもわずかに「減少」しているようなので「減少=負け」ならば「三人負け」となります。

日産と三菱自」を一体として考えている可能性も考慮しましたが、「日産はこの10年でざっと200万台減らしている」ことを根拠に「一人負け」と書いているので、これはなさそうです。また、減少率で言えば「三菱自」が最大なので、グラフで示した6社の中で1番の「負け」組が「日産」とも言えません(減少した台数で言えば日産が最大ですが、減少率で見るのが適切でしょう)。

日産は『一人負け』」との説明は誤りではありませんか。見出しで「一人負け」と打ち出すのであれば、明らかに「一人負け」と言える根拠が欲しいところです。

記事に関して他に気になった点も挙げておきます。まずは冒頭の事例です。「今、中古車を買うなら日産自動車よりトヨタ自動車がおすすめ」と「都内にある大手中古車ディーラーの営業担当者」に語らせ、その「理由」を以下のように「営業担当者」が説明しています。

ゴーンさんの問題が出てから日産車の人気が落ちている。日産という会社のイメージも悪くなってきた。人気が下がると中古車の買い取り価格も落ちるのが業界の常識。この点、トヨタ車なら買う時も高いけど売る時も高く売れる。だからおすすめなんです

筆者はこの説明に納得したようですが、個人的には「だったら、基本的には日産の中古車を買った方が得では?」と感じました。「性能などの条件がほぼ同じ中古車をトヨタ車ならば120万円で、日産車ならば100万円で買える。3年後の売値はいずれも購入価格の半分。買った車は3年後に売却する」との前提で考えてみましょう。

3年後にトヨタ車は60万円、日産車は50万円で売れます。購入価格と売値の差を売却損と見なすと、損失額はトヨタ車が60万円、日産車が50万円です。同じ性能の車を買ったのに日産車の方が損失を抑えられています。

トヨタ車なら買う時も高いけど売る時も高く売れる」としても「だからトヨタ車を買った方が得」とはなりません。「3年後にトヨタ車は半値で済むが、日産車は9割下がる」と言えるのならば話は別ですが、「営業担当者」もそういう説明はしていません。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。

【日経BP社の回答】

日経ビジネスをご愛読頂き、ありがとうございます。ご質問に回答させて頂きます。

「一人負け」について。日産の中古車の価値が下がっていること、全面改良(フルモデルチェンジ)の新車がこの1年、出ていないこと、検査不正問題で販売店の負担が強まっていること、などを総合的に判断し、タイトルを「日産、国内販売力で『一人負け』」とさせて頂きました。その事例の一つとして、保有台数の減少数も取り上げました。ただ、ご指摘の通り、保有台数を見る場合には、減少率で比較することもできました。ご意見を真摯に受け止め、今後の記事の参考にさせて頂ければと思います。

中古車のお買い得の件について。ご指摘の見方があることを担当記者との間で共有させて頂きたく存じます。

以上です。引き続き、日経ビジネスをご愛読頂きますよう、お願い申し上げます。

◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「時事深層 INSIDE STORY~日産、国内販売力で『一人負け』 『ポスト・ゴーン』巡りルノーと主導権争いも
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/121701324/?ST=pc


※記事の評価はD(問題あり)。

2018年12月26日水曜日

CEO主導の経営を「院政」と表現する週刊エコノミストの非常識

CEOが会社経営の実権を握る存在なのは、経済記者でなくても分かる常識だ。企業ニュースを書く記者ならば当然に理解していてほしい。しかし週刊エコノミストには、この常識を持ち合わせていない記者がいるようだ。2009年1月1・8日号の「ブリヂストンで社長職復活 津谷CEOの院政が濃厚」という記事では、「CEO」主導の経営を「院政」と表現している。これは辛い。
渋谷モディ(東京都渋谷区)
   ※写真と本文は無関係です

エコノミスト編集部には以下の内容で問い合わせを送った。

【エコノミストへの問い合わせ】

週刊エコノミスト 編集長 藤枝克治様  

1月1・8日号の「ひと&こと~ブリヂストンで社長職復活 津谷CEOの院政が濃厚」という記事についてお尋ねします。記事ではブリヂストンの「最高経営責任者(CEO)兼会長の津谷正明氏」と「COO兼社長に就任する」予定の「江藤彰洋副社長」に関して「後任の江藤氏は津谷氏の『子飼い』として有名。津谷氏が院政を敷くのは間違いなさそうだ」と記しています。

企業経営で「院政」と言う場合、「現職を引退した人が、なお実権を握っていること」(デジタル大辞泉)を指します。「津谷氏」の場合、「CEO兼会長」に留まっているので「院政」には当たりません。

CEO兼会長」の「津谷氏」が経営を主導することを「院政」と表現するのは誤りではありませんか。問題なしとの判断ならば、その根拠も併せて教えてください。

「CEO=経営トップ」というのは、企業関連記事を書く記者にとって基本知識だと思えます(「最高経営責任者」という訳語からも明らかです)。今回の記事を書いた記者にその認識がなく、編集部内でチェックも働かなかったとすれば、かなり問題です。

御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「ひと&こと~ブリヂストンで社長職復活 津谷CEOの院政が濃厚

※記事の評価はE(大いに問題あり)。

2018年12月25日火曜日

米国では「金利が消滅」? 日経「モネータ 女神の警告」の誤り

苦しい内容になりそうな1面連載が日本経済新聞で始まった。「モネータ 女神の警告~未来への問い」の初回には「ゼロ金利が作るバベルの塔 膨らむリスクに向き合う」との見出しが付いている。しかし「ゼロ金利」も「バベルの塔」も強引さが否めない。記事によると米国も「金利が消滅」した世界の一員のようだが、ここまで来ると間違いだ。
油屋熊八の像(大分県別府市)
     ※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

25日の日本経済新聞朝刊1面に載った「モネータ 女神の警告~未来への問い(1)ゼロ金利が作るバベルの塔 膨らむリスクに向き合う」という記事についてお尋ねします。まず問題としたいのは記事の冒頭に出てくる以下のくだりです。

米欧は大規模な金融緩和から脱却を目指し、米国に続き欧州も正常化に向かう。だが経済の先行きは不透明なうえ、利上げペースは鈍く、低金利状態から動けない。金利が消滅したぬるま湯から抜け出せない世界を、マネーの女神はどんな思いで眺めるのか

記事の説明が正しければ、少なくとも「米欧」では「金利が消滅」しているはずです。しかし、記事でも触れているように米国では「利上げ」に動いています。「FOMCは短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を、年2.00~2.25%から2.25~2.50%へと引き上げた」と日経も20日に報じています。「金利が消滅」していますか。

今回の記事でも「米10年債利回りは1982年の約15%をピークに低下し、2010年代は1~3%で推移する」と書いています。直近では2.7%程度です。これは「ゼロ金利」ではありませんし「金利が消滅」した世界でもありません。新興国に目を向ければ、米国の金利水準を上回る国はいくつもあります。

金利が消滅したぬるま湯から抜け出せない世界」という説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、2%超の「金利」をなぜ「金利が消滅した」と解釈できるのか教えてください。

米国で「金利が消滅」していないのは筆者も分かっているはずです。しかし、記事を書く上では「金利が消滅したぬるま湯から抜け出せない世界」の方が都合がいいので、ご都合主義的に「金利が消滅した」と表現したのではありませんか。

せっかくの機会なので、以下の記述に関しても問題点を指摘しておきます。

サウジアラビアの首都リヤド。東京ドーム35個分の地に数十棟もの未完成の超高層ビルが林立する。サウジが『脱石油』の最重要プロジェクトと位置づけるアブドラ国王金融特区は1兆円を投じ10年以上も建設が続くバベルの塔だ

バベルの塔」と言っているのですから、筆者は「アブドラ国王金融特区」に関して「完成が見込めない無謀な計画」と認識しているのでしょう。しかし、その根拠は示していません。「1兆円を投じ10年以上も建設が続く」としても、それだけでは「バベルの塔」とは呼べません。

国外からのマネーを投資に振り向ける国際金融センターを目指す」「政府系ファンドが国際銀行団から1兆円超の融資を得るなど今や中東は資金の調達側の顔も持ちつつある」といった解説も出てきますが、これも「バベルの塔」との例えを裏付けるものではありません。

さらに言えば、記事に付けた「アブドラ国王金融特区」の写真にも問題を感じました。「写真左上のビル群」が「アブドラ国王金融特区」となっていますが、もう少しまともな写真はなかったのですか。どうしても入手困難ならば、全く別の写真を使った方が良いでしょう。「写真左上のビル群」は10棟以下に見えます。「数十棟もの未完成の超高層ビル」は確認できません。これでは写真を使う意味がありません。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「モネータ 女神の警告~未来への問い(1)ゼロ金利が作るバベルの塔 膨らむリスクに向き合う
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181225&ng=DGKKZO39329270U8A221C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

予想通りに苦しい日経「モネータ 女神の警告~未来への問い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_28.html

英国では「物価は上がらない」と誤った日経「モネータ 女神の警告」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_29.html


※「モネータ 女神の警告」の過去の連載に関しては以下の投稿を参照してほしい。

色々と分かりにくい日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_59.html

間違った説明が目立つ日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_14.html

株主・銀行は「力失った」? 日経「モネータ 女神の警告」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_7.html

強引に「運用難」を描き出す日経「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_72.html

製薬会社の従業員が「空港封鎖」? 日経「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_81.html

最終回も間違い目立つ日経「モネータ 女神の警告」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_31.html

2018年12月24日月曜日

「出資の成算」を論じない東洋経済「日本郵政、アフラック出資の成算」

週刊東洋経済12月29日-1月5日合併号に載った「ニュース深掘り~豪トール以来の大型案件 日本郵政、アフラック出資の成算」という記事は「アフラック出資の成算」という肝心の問題を論じていない。「日本郵政が豪トール以来の巨額出資を行うことになった。成否はいかに」と打ち出したのを忘れたかのような内容だ。
復旧したJR久大線の花月川橋梁(大分県日田市)
         ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【東洋経済の記事】

傘下にかんぽ生命保険を抱える日本郵政が2019年にも、米国ニューヨーク証券取引所上場の持ち株会社アフラック・インコーポレーテッドに数千億円出資することになった

日本郵政にとっては西室泰三・前社長時代の15年に豪トールに約6200億円を投じて以来の大型投資。トールについては、そのわずか2年後の17年3月期決算で約4000億円の減損を計上し、「M&A(企業の合併・買収)下手」の印象が強く残る。だが、同社は成長戦略の一環として20年度までの3年間で数千億円規模の投資を行っていくとしており、今回は長年のパートナーを選んだ。

この資本提携はアフラックにも大きなメリットをもたらすだろう。同社は1974年に日本で初めてがん保険を発売し、「保険業界では、今もがん保険といえばアフラックの名前が真っ先に浮かぶ」(業界関係者)というほどだ。

先行者メリットによって事業を急激に拡大し、今やアフラックグループの保険料収入のうち、7割以上を日本が占める。

ただ、このところ日本事業に陰りが出ていたのも確かだ。医療技術の進歩により、がん保険に対するニーズの中心はアフラックが得意としてきた入院保障から通院保障へ移りつつある。

アフラックの新契約件数は15年度が164万件だったが、16年度は155万件、17年度は144万件と減少傾向が続く。今年、通院治療の保障を充実させた新商品を投入したが、日系生保大手が健康増進型保険を投入するなど、アフラックが強みを持つ医療保険などの「第3分野」保険商品の競争は激化している。

13年に両社が業務提携した際、アフラックのがん保険の取扱局を2万局に拡大することを目指した。今回の提携で「郵便局がもっと売りやすいようながん保険を共同で開発してくるのではないか」と生保大手は警戒感を隠さない



◎「保険業界」の話が長過ぎる

この資本提携はアフラックにも大きなメリットをもたらすだろう」と書いて「アフラック」の経営環境などを長々と説明した後で、「生保大手は警戒感を隠さない」と生保業界への影響に触れて記事を締めている。「日本郵政」から見た「アフラック出資の成算」はどこに行ったのか。書いているうちに忘れてしまったのか。

今回の記事では、まず基本的な情報が欠けている。「アフラック」への出資比率はどの程度になるのかは必須だと思えるが、入っていない。日本経済新聞は13日の段階で「日本郵政は米保険大手のアフラック・インコーポレーテッドに約3000億円を出資する方針を固めた。発行済み株式の7~8%を取得し、4年後をメドに持ち分法適用会社とする」と報じている。東洋経済もその気になれば出資比率は入れられたはずだ。

出資の成算」を考えるならば、取得価格が適正かどうかも触れるべきだろう。市場価格に対してプレミアムは付くのか。「アフラック」の収益力から見て取得価格は割高ではないのか。この辺りに言及する気がないのならば「アフラック出資の成算」を柱に記事を作るのは諦めるべきだ。

この資本提携はアフラックにも大きなメリットをもたらすだろう」との書き方には「日本郵政」にはもちろん「メリット」があるとの前提を感じる。しかし、それが何かも筆者ら(堀川美行記者と高見和也記者)は教えてくれない。

強いて言えば「郵便局がもっと売りやすいようながん保険を共同で開発」するかもしれないのが「メリット」か。しかし「13年に両社が業務提携」したのであれば、その程度のことは「出資」なしでもできそうだし、「巨額出資」に見合う価値があるとも思えない。

今回の記事を読んでも、結局は疑問が膨らむばかりだ。この内容ならば、わざわざ読者に届ける価値はない。


※今回取り上げた記事「ニュース深掘り~豪トール以来の大型案件 日本郵政、アフラック出資の成算
https://dcl.toyokeizai.net/ap/textView/init/toyo/2018122900/DCL0101000201812290020181229TKW143/20181229TKW143/backContentsTop


※記事の評価はD(問題あり)。堀川美行記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。高見和也記者への評価はDを据え置く。高見記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

看板倒れの東洋経済「どこまで走る、いすゞの株価」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_88.html

2018年12月23日日曜日

FACTA「デサント牛耳る番頭4人組」でも問題目立つ大西康之氏

FACTA1月号の「デサント牛耳る『番頭4人組』」という記事では「番頭4人組」を悪玉として描いているが、根拠は乏しい。また「デサント牛耳る」と言えるかどうかもも怪しい。稼ぎ頭の「韓国でのビジネス」を「一手に担っている」別の役員に「『おんぶに抱っこ』の状態」なのに、「番頭4人組」で「デサント」を牛耳れるだろうか。
QFRONT(東京都渋谷区)※写真と本文は無関係

筆者であるジャーナリストの大西康之氏が今回も雑な分析を披露したと見るべきだろう。FACTAには以下の内容で問い合わせを送った。

【FACTAへの問い合わせ】

大西康之様 FACTA編集部 担当者様

2019年1月号の「デサント牛耳る『番頭4人組』」という記事についてお尋ねします。記事では「デサント」に関して「4人組は結託してデサントの実権を握り、創業家の血を引く石本を錦の御旗に掲げ、他の役員・社員を退けてきた。彼らにとって、唯一目障りだったのが筆頭株主の伊藤忠だ」と記しています。しかし、読み進めると話が違ってきます。問題としたいは以下のくだりです。

<記事の引用>

創業一族への「大政奉還」が実現した後のデサントの経営は冴えない。何より問題なのは韓国ビジネスへの依存である。デサントの17年度の最終損益は57億円の黒字。売上高1411億円に対する営業利益は96億円だが、その内訳を見ると、最終利益57億円のうち52億円を韓国法人が稼いでいる。

韓国でのビジネスは恵一の時代から、取締役常務執行役員の金勳道(キムフンド)が一手に担っている。デサント・コリアの社長も兼ねる金は、韓国内に900店舗の直営店を展開し、「ルコック」などを若者の人気ブランドに定着させた。日本など「その他地域」の利益は6億円に過ぎず、まさに金に「おんぶに抱っこ」の状態だ。

--引用は以上です。

韓国でのビジネスは恵一の時代から、取締役常務執行役員の金勳道(キムフンド)が一手に担っている」のであれば「4人組(取締役常務執行役員の三井久氏、取締役専務執行役員の田中嘉一氏、取締役常務執行役員・最高戦略責任者(CSO)の羽田仁氏、最高財務責任者(CFO)の辻本謙一氏)」は「デサントの実権」を握り切れていません。

稼ぎ頭の「韓国でのビジネス」を他の役員が掌握していて、その役員に「『おんぶに抱っこ』の状態」で「4人組」は「他の役員・社員を退けてきた」と言えますか。

4人組は結託してデサントの実権を握り、創業家の血を引く石本を錦の御旗に掲げ、他の役員・社員を退けてきた」との説明は誤りではありませんか。「韓国でのビジネスは恵一の時代から、取締役常務執行役員の金勳道(キムフンド)が一手に担っている」との記述が間違っているのかもしれません。どちらにも問題なしとの判断であれば、その根拠を教えてください。

付け加えると「大政奉還」という例えにも問題があります。記事では「同年(2013年)2月の取締役会で4人組は『伊藤忠との取引を強要した』などの理由で伊藤忠出身の社長、中西悦朗を解任。後釜に恵一の息子である雅敏を据えた。事実上のクーデターである」と説明しています。

事実上のクーデター」を「大政奉還」に見立てるのは無理があります。「伊藤忠」側が自発的に「創業一族」へ社長職を譲る展開でないと「大政奉還」とは呼べません。

さらに言うと「売上高1411億円に対する営業利益は96億円だが、その内訳を見ると、最終利益57億円のうち52億円を韓国法人が稼いでいる」との記述も不自然です。

その内訳を見ると」に関しては「営業利益」の「内訳を見る」と解釈するのが自然です。しかし、なぜか「最終利益57億円のうち52億円を韓国法人が稼いでいる」と「最終利益」の「内訳」になっています。この辺りには、書き手としての基礎力不足を感じました。

次に「週刊文春10月25日号に掲載された〈伊藤忠のドン岡藤会長の「恫喝テープ」〉の記事」に関する「もちろんデサント側のリークだが、首謀者は『気が弱い』と言われる石本本人ではなく、ジュニアを担ぐ『番頭4人組』のようだ」との見方に疑問を呈しておきます。

まず「もちろんデサント側のリーク」と断定しているのが引っかかります。「伊藤忠側にリークの動機はない」から「デサント側のリーク」だと大西様は考えているようですが、同意できません。

岡藤会長」には「リークの動機はない」でしょう。しかし、「岡藤会長」を良く思わない「伊藤忠」関係者には「動機」があり得ます。「件のテープが録音されたのは2018年6月25日。場所は東京・青山にある伊藤忠本社21階の会長応接室である」と記事では書いています。ならば「伊藤忠」関係者が「岡藤会長」に無断で録音機器を「会長応接室」に設置した可能性はあります。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
     ※写真と本文は無関係です

首謀者は『気が弱い』と言われる石本本人ではなく」との説明も納得できませんでした。「関係者によると『石本は文春に記事が出るまでテープの存在を知らなかった』」から「石本」氏ではないと大西様は判断しています。

仮に「石本」氏が「首謀者」だった場合、周囲に「テープの存在を知っていた」と言うでしょうか。本人が「テープの存在を知らなかった」と言っているとしても、それで「首謀者」ではないと判断するのは早計です。

録音したのは三井と思われる」と大西様は書いています。仮に「三井」氏が「文春に記事が出るまでテープの存在を知らなかった」と証言した場合、大西様は「そうか。三井氏はリークしていなかったのか」と素直に受け取りますか。「石本」氏に関しても同じことです。

もう1つ気になるのが「首謀者」を「ジュニアを担ぐ『番頭4人組』のようだ」と書いている点です。「三井が文春へのリークに関わっているのは間違いなさそう」だとしても、他の3人が「リーク」に関わったと取れる記述は見当たりません。

三井」氏が「首謀者」で他の3人の関与は不明と見ているのであれば、「首謀者は『番頭4人組』のようだ」と書くのは感心しません。

記事の終盤に関しても問題を指摘しておきます。

<記事の引用>

「韓国一本足」の現状は「アディダス一本足」だった98年によく似ており、伊藤忠は再三「韓国以外の収益源を育てるべきだ」と提案したが、4人組はまともに取り合わない。

18年8月、デサントは女性下着大手のワコールホールディングスと包括的な業務提携を発表したが、事前に伊藤忠への説明はなかった模様。「ワコールに(伊藤忠による買収から身を守るための)ホワイトナイトを頼んだのではないか」との臆測を呼んだ。 双方の亀裂は深く、「恫喝テープ」に録音されていた「持ち株数増やして子会社にするか、(デサント株を全部)売るかな」という岡藤の発言は、半ば本気とも考えられる。

編集部の取材に対しデサント広報部は「三井を含め当社役員及び従業員からリークが行われた事実は一切ない」と回答したが、伊藤忠側にリークの動機はない。とはいえ、トップ同士の会談を秘密裏に録音し、それを週刊誌に流したなら岡藤が怒るのも当然だ。伊藤忠が強硬策に出れば、石本と4人組の「モラトリアム」はあっけなく消滅するだろう。

--引用は以上です。疑問点は主に2つあります。

(1)「まともに取り合わない」?

伊藤忠は再三『韓国以外の収益源を育てるべきだ』と提案したが、4人組はまともに取り合わない」と書いた直後に「ワコールホールディングス」との「包括的な業務提携」の話が出てきます。これは「韓国以外の収益源を育てる」ための「提携」とも取れます。

事前に伊藤忠への説明はなかった」かもしれませんが、「韓国以外の収益源を育てるべきだ」との考えは「4人組」を含むデサント経営陣にもありそうです。「ワコールとの提携は韓国以外の収益源の育成には寄与しない」と大西様が判断しているのならば、その根拠が記事中に欲しいところです。


(2)「あっけなく消滅する」?

伊藤忠が強硬策に出れば、石本と4人組の『モラトリアム』はあっけなく消滅するだろう」との説明は理解に苦しみました。まず「モラトリアム」が何を指すのか謎です。とりあえず「モラトリアムが消滅すると、石本氏と4人組は経営陣から外れる」と考えて話を進めましょう。

伊藤忠」の「強硬策」は「持ち株数増やして子会社にするか、(デサント株を全部)売るか」です。「デサント株を全部」売る場合、「筆頭株主の伊藤忠」の介入から逃れられます。「石本と4人組」が追放となる可能性は低くなりそうです。

持ち株数増やして子会社にする」場合、そうはいきません。ただ「ワコールに(伊藤忠による買収から身を守るための)ホワイトナイトを頼んだのではないか」との「臆測」があったはずです。

ワコール」を含む第三者が「ホワイトナイト」として名乗りを上げる可能性はないのですか。あるのならば「モラトリアム」が「あっけなく消滅する」とは限りません。なのに結論は「伊藤忠が強硬策に出れば、石本と4人組の『モラトリアム』はあっけなく消滅するだろう」となっています。分析が浅すぎませんか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして、責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「デサント牛耳る『番頭4人組』
https://facta.co.jp/article/201901009.html


※記事の評価はD(問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html

「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html

大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/facta.html

2018年12月22日土曜日

FACTA「JIC騒動 嶋田・糟谷は切腹せよ」で朝日 大鹿靖明記者が無理筋

FACTA1月号の「『JIC騒動』嶋田・糟谷は切腹せよ」という記事は無理のある内容だった。筆者は朝日新聞の大鹿靖明記者。「嶋田・糟谷は切腹せよ」と強く経産省を批判しているが「嶋田次官が『ちゃぶ台返し』」との説明には矛盾を感じた。
伐株山園地(大分県玖珠町)
      ※写真と本文は無関係です

この件でFACTAに送った問い合わせの内容は以下の通り。

【FACTAへの問い合わせ】

FACTA編集部 担当者様 朝日新聞社 大鹿靖明様

2019年1月号の「『JIC騒動』嶋田・糟谷は切腹せよ」という記事についてお尋ねします。記事では「報酬問題に端を発した経済産業省とその傘下の官製ファンド産業革新投資機構(JIC)との対立劇」に関して「(経産省の)嶋田次官が『ちゃぶ台返し』」と説明していますが、辻褄が合いません。

記事によると「(JIC社長の)田中氏はこの(11月)12日の会談で、嶋田氏の要請を受け入れ、『役員報酬を下げるのは構わない』と了承」しているはずです。しかし、この後に大鹿様は以下のように説明します。

嶋田氏は(11月)24日、それまで糟谷氏との間で進められた報酬の議論をすべてひっくり返し、3150万円という糟谷案の四分の一という金額を提示した。これでは田中氏が怒るのも無理はない。いったいなぜ嶋田氏ともあろうものが、こんなちゃぶ台返しをしたのか

12日の会談」で「役員報酬を下げる」ことに関する合意はできています。「24日」に「嶋田氏」が「3150万円という糟谷案の四分の一という金額を提示した」としても「ちゃぶ台返し」には当たりません。事実関係に関する記事の説明が正しいとの前提で言えば「ちゃぶ台返し」との説明は誤りではありませんか。「ちゃぶ台返し」に問題がないのならば、事実関係の説明が間違っているのではありませんか。いずれにも問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、記事で他に気になった点を列挙しておきます。

(1)「辛勝」してますか?

経産省が、言うことを聞かない田中正明社長を辞任に追い込もうと『人身攻撃』のようなネガティブキャンペーンを繰り広げてきたのに対し、田中氏はJICの取締役9人の総退陣という『自爆テロ』で経産省を奇襲攻撃。この騒動、その辣腕ぶりから『ケンカ正』と呼ばれてきた田中氏が、追い詰められた土俵際からうっちゃりを仕掛けて辛勝したと言えよう」との記述が引っかかりました。

経産省」にとって「田中正明社長を辞任に追い込」むのが目的ならば、それは実現しています。傷を負いながらも「辞任」を勝ち取った「経産省」の「辛勝」ならば分かりますが、なぜか「田中氏」の「辛勝」で、決まり手は「うっちゃり」です。この例えがハマるとしたら、「田中氏」は最低でも社長職にとどまる必要があります。

JICの取締役9人の総退陣」を「自爆テロ」に例えているのも違う気がします。「テロ」であれば「反社会的な行為」でないと苦しいでしょう。「総退陣」はそういう行為ではありません。「自爆作戦」などならば違和感はありません。


(2)「切腹」は何を指しますか?

上記のくだりに続いて大鹿様は「思わず土がついた嶋田隆事務次官と糟谷(かすたに)敏秀官房長には数々の反則疑惑が浮かび上がっている。サムライなら切腹ものである」と訴えています。「嶋田・糟谷は切腹せよ」と見出しでも打ち出しています。しかし、現代の官僚としての「切腹」が何を指すのか記事を最後まで読んでも分かりません。ここは明確にすべきでしょう。

取りあえず「嶋田・糟谷は退職せよ」との趣旨だと仮定して話を進めます。記事からは「退職」しなければならないほどの「反則疑惑」が「浮かび上がって」きません。特に「嶋田氏」はそう思えます。


(3)「嶋田氏」に「反則疑惑」はないような…

ちゃぶ台返し」が「反則」かどうか微妙ですが、仮に「反則」だとしても「24日」の「嶋田氏」に「ちゃぶ台返し」が成り立たないのは既に見てきた通りです。

記事には「こうした田中氏の『穏当』な言動は経産省の記者会見では捨象され、傲慢で非礼な人物とされた。佐々木課長のこの印象操作は嶋田氏も了承してのことだろう」との記述もあります。「傲慢で非礼な人物」だと記者会見で訴えるのは「反則」だとは思えません。百歩譲って「反則」であり「嶋田氏も了承」していたとしても「退職せよ」と求めるほどの話ではないでしょう。

大鹿様は今回の記事で基本的に「経産省=悪玉」「田中氏=善玉」として描いています。ダメだとは言いませんが、ストーリーに説得力を持たせる事実はしっかり提示すべきです。今回はそれができていないと感じました。

推測ですが、「田中氏」が取材に非常に協力的だったために、同氏の言い分に引っ張られ過ぎたのではありませんか。今回の記事と同様の問題は週刊ダイヤモンドにも感じました。自分の味方をしてくれるように「田中氏」が上手く記者らを誘導している--。そう考えると腑に落ちます。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。FACTAでは読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとしては「切腹」に値する行為です。責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)朝日新聞を通じても問い合わせを送ったが、結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「『JIC騒動』嶋田・糟谷は切腹せよ
https://facta.co.jp/article/201901042.html


※記事の評価はD(問題あり)。大鹿靖明記者への評価も暫定でDとする。

2018年12月21日金曜日

「一蘭 西新宿店」は別ブランド? 日経 鳥越ゆかり記者に問う

日本経済新聞の鳥越ゆかり記者によると「豚骨ラーメン店の一蘭(福岡市)」が「東京・西新宿」に出す「一蘭 100%とんこつ不使用ラーメン」の店は「既存店とは異なるブランド」で展開するらしい。しかし、記事を読む限りでは既存の「一蘭」ブランドを前面に押し出していると取れる。
くにみ海浜公園(大分県国東市)※写真と本文は無関係

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 鳥越ゆかり様

20日の朝刊九州経済面に載った「一蘭、豚使わず『豚骨ラーメン』 ムスリム向け 国内外で出店 濃厚スープ 鶏で再現」という記事についてお尋ねします。記事では「東京・西新宿に『一蘭 100%とんこつ不使用ラーメン』の1号店を開く」と記した上で「新店は既存店とは異なるブランドで店舗展開する。一蘭のロゴマークに『No Pork』などと大きく記し、通常店とは異なることを強調する」と説明しています。

店名に「一蘭」を使い、「一蘭のロゴマーク」を表に掲げるのであれば、同じ「一蘭」という「ブランド」での「店舗展開」になるのではありませんか。「一蘭」のホームページでも新店を「一蘭 西新宿店」と表記しています。これを「異なるブランド」と見なすのは無理があります。

新店は既存店とは異なるブランドで店舗展開する」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、記事の書き方についても注文を付けておきます。今回の記事では、最初の段落で「東京都新宿区で2019年春に1号店を開き、国内外で多店舗展開する」と書き、次の段落でも「東京・西新宿に『一蘭 100%とんこつ不使用ラーメン』の1号店を開く。開業時期は19年2月を予定している」と記しています。内容がダブり過ぎです。

1号店」を繰り返したり「東京都新宿区」を「東京・西新宿」と言い換えたりするのは無駄です。重複を避けて簡潔に記事を書いてください。

出店時期も1回書けば十分です。しかも「2019年春」と書いた後に「開業時期は19年2月を予定している」と説明しています。記事で「」と表記するのならば「3~5月」から外れるのは避けたいところです。立春の時期などを言い出せば話はややこしくなりますが、一般的に「2月」は冬です。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「一蘭、豚使わず『豚骨ラーメン』 ムスリム向け 国内外で出店 濃厚スープ 鶏で再現
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39153840Z11C18A2LX0000/


※記事の評価はD(問題あり)。鳥越ゆかり記者への評価はDで確定とする。鳥越記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「コスモス薬品は生鮮やらない」と誤解与える日経のインタビュー記事
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_87.html

2018年12月20日木曜日

「製造業の労働生産性」が「過去最低になった」と日経は言うが…

日本経済新聞によると、日本はドルベースで2016年の「製造業の労働生産性」が「過去最低になった」らしい。この報道は正しいのだろうか。日本生産性本部が公表した「労働生産性の国際比較2018」を基にして記事を書いているが、この資料は「過去最低」を否定しているように見える。
活水女子大学(長崎市)※写真と本文は無関係

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

20日の日本経済新聞朝刊経済面に載った「日本の労働生産性は米の7割 1時間47.5ドル、先進国で最低続く」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

同調査(注:「労働生産性の国際比較2018」を指す)では製造業の労働生産性が過去最低になったことも分かった。16年のデータをもとに製造業の就業者1人あたりがどれだけ効率的に働いたかを算出した数値で、日本は9万9215ドルとなり10年比で6.0%減った

日本生産性本部が発表した「労働生産性の国際比較2018」を見ると、確かに「製造業の
名目労働生産性」で「日本は9万9215ドルとなり10年比で6.0%減」となっています。しかし「過去最低」とは思えません。09年は8万6083ドル、08年は8万9259ドルなど「9万9215ドル」を下回る年がいくつも「労働生産性の国際比較2018」のデータで確認できます。

「OECD内での順位が過去最低」と伝えたかったのかもしれませんが、そう解釈できる書き方になっていませんし、記事中にOECDの文字も見当たりません。「製造業の労働生産性が過去最低になった」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると「先進7カ国(G7)のなかでは1970年以降、最下位の状況が続いた」との記述から「先進国で最低続く」と見出しに取るのは感心しません。「先進国」はG7以外にも数多く存在します。「1時間47.5ドル」という数値に関しても、日本はニュージーランドなどの「先進国」を上回っています。読者に誤解を与える表現は避けてください。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「日本の労働生産性は米の7割 1時間47.5ドル、先進国で最低続く
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181220&ng=DGKKZO39142430Z11C18A2EE8000


※記事の評価はD(問題あり)。

「首相官邸の意向」週刊ダイヤモンドが同じ号で矛盾する説明

産業革新投資機構」の報酬問題で「首相官邸」はどういう意向を持っていたのか。「報酬が『(最大で)1億円を超えるのか……』という首相官邸の何げない感想」を経産省が「過剰に忖度」しただけなのか。それとも「首相官邸」は明確な「怒り」を持ち「敏感に反応した」のか。
小石川後楽園(東京都文京区)
      ※写真と本文は無関係です

週刊ダイヤモンド12月22日号では、この件の事実関係に関して2つの記事で全く異なる説明をしている。編集部には以下の内容で問い合わせを送った。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド 中村正毅様 藤田章夫様 村井令二様

12月22日号の「DIAMOND REPORT 取締役9人が一斉辞任~巨大官民ファンド機能不全の全内幕」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

それはさておき、JICの報酬委員会がキャリーなどの議論を始めたのは、書面を受け取った翌営業日の9月25日。コーポレートガバナンスの専門家で、JICの社外取締役を務める冨山和彦委員長の主導の下、約1カ月かけて報酬基準を策定したという。その後、坂根氏に報告し、正式に機関決定したのが11月6日のことだ。ところが、この直後に経産省が豹変する。報酬が『(最大で)1億円を超えるのか……』という首相官邸の何げない感想を過剰に忖度し、減額指示だと受け止めた経産省は突如、取締役の報酬案について白紙撤回したのだ

上記の説明は同じ12月22日号の「後藤謙次 永田町ライヴ!Number 418 産業革新投資機構が空中分解~政権内の意思疎通の欠如を露呈」という記事の内容と整合しません。「永田町ライヴ!」では以下のように記しています。

なぜ経産省は報酬案を撤回したのか。きっかけは11月3日付の『朝日新聞』が報じた記事にあったようだ。『官民ファンド 高額報酬』この報道に敏感に反応したのが首相官邸だった。『ファンドで一番難しいのは資金集めだ。その資金集めをやらずに原資は国が税金から出す。1億円もの高額報酬は国民に説明がつかない』『官房長官は庶民感覚を極めて重視する政治家だ。そこが怒りの震源地だ』官房長官の菅義偉に近い自民党幹部はこう語る

こちらを信じれば「首相官邸」は「1億円もの高額報酬」に対して明確な「怒り」を持っていたことになります。どちらかの記事の説明が間違っているはずです。どう理解すべきなのか教えてください。

永田町ライヴ!」の筆者は「後藤謙次」氏ですが、週刊ダイヤモンドの同じ号に載せるのならば事実関係は整合させるべきです。他社の報道を見ると「永田町ライヴ!」の説明の方が多数派のようです。御誌の2本の記事を比べても「永田町ライヴ!」の方がしっかり取材している印象はあります。なので「DIAMOND REPORT」の説明に誤りがあるのではと推測しています。

せっかくの機会なので「DIAMOND REPORT」に関する他の疑問点も挙げておきます。

(1)「重大な問題」はどこへ?

記事には「この日、JICのオフィスを訪れた経産省の糟谷敏秀官房長は、田中社長をはじめとする代表取締役を1人ずつ呼び出し、仰々しく書面を手渡した。代表取締役たちは深々と礼をしながら受け取ったが、その書面には政府のお墨付きを得たことを示す経産相の印鑑が押されていなかった。それが後に重大な問題を引き起こすことになる」との記述があります。
道の駅くにみ(大分県国東市)※写真と本文は無関係です

しかし、記事を最後まで読んでも「経産相の印鑑が押されていなかった」ためにどんな「重大な問題」が起きたのか不明です。これは困ります。


(2)「いったん受け入れ」たのなら…

記事では「事態は混迷を深め、11月9日には嶋田次官がJICを訪れて田中社長に撤回について陳謝。だが、『信義にもとる行為だ』などと田中社長が激しく面罵することとなった」と記しています。これだと「田中社長」が「撤回」を受け入れた感じはありません。

しかし、記事に付けた表を見ると、「撤回」について「11月9日」に「田中社長はいったん受け入れ」と出てきます。記事では基本的に「経産省」を悪玉、「田中社長」を善玉として描いています。しかし、「いったん受け入れ」たのに、「田中社長」が態度を変えたのであれば、話は変わってきます。それだと困るので「面罵」だけで話を展開させたのではありませんか。


(3)どこが「話が違う」?

荒井ペーパー」に関する説明も理解に苦しみました。当該部分は以下のようになっています。

<記事の引用>

東京都内の帝国ホテル。会合に参加したのは、経産省からは嶋田次官、荒井勝喜大臣官房総務課長、佐々木啓介産業創造課長と同課の担当課長補佐の4人。一方のJIC側は、田中社長と社長室長、経産省出身の三浦章豪氏と財務省出身の齋藤通雄氏の両常務取締役の同じく4人だった。

先手を打ったのは経産省側だ。A4判12枚に及ぶペーパーを参加者に配り、なぜかこれまでJICとの議論に一度も参加したことのない、経産省で国会担当を務める荒井課長が説明を始めた。

ペーパーのタイトルは「基本的考え方」。書類をめくると、取締役の報酬を最大3150万円に大幅に減額することや、孫ファンドにも事実上認可を必要とすることなど、これまでの議論と全く異なる内容がふんだんに記されていた。とりわけ田中社長らの神経を最も逆なでしたのは、表紙にある「総論」部分の記述だった。

「事業遂行の基本哲学」として、(1)政策目的の達成と投資利益の最大化、(2)政府としてのガバナンス(ファンドの認可など)と現場の自由度(迅速かつ柔軟な意思決定の確保)の両立、(3)報酬に対する国民の納得感、透明性と優秀なグローバル人材の確保(民間ファンドに比肩する処遇)の両立という三つの論点が書かれていたのだ。

さらに官民ファンドの手法として、投資ファンドが日常的に行っているデリバティブ取引を禁じただけでなく、インデックス投資、不動産投資はリスクヘッジ目的でない限り認めないといった、当たり前過ぎることもご丁寧に記されていたのだ。

JIC側とすれば、そうした哲学について十分に理解した上で、幾度も議論を重ねてきた。にもかかわらず、これまでの議論を半ば無視するかのように国会担当者があらためて論点を提示し、まるで「おまえたちは政治に従っていればいい」と言わんばかりの態度だったという。

会合は2時間に及んだものの、そうした状態で不信と嫌悪という感情だけが交錯し、まともな議論には到底ならなかった。

「話が違う! このままではJICを育てることはできない!」。田中社長がそう怒りをあらわにし、最後は席を蹴ったことで両者の対立はついに決定的なものになった。

--引用はここまでです。

田中社長らの神経を最も逆なでしたのは、表紙にある『総論』部分の記述だった」と書いてあるので、「田中社長」が「怒りをあらわ」にした主な原因も「総論」にあるはずです。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
   ※写真と本文は無関係です

しかし「総論」で触れた「事業遂行の基本哲学」に関しては「そうした哲学について十分に理解した上で、幾度も議論を重ねてきた」と説明しています。だとすれば「話が違う! このままではJICを育てることはできない!」との発言とは整合しません。

総論」に関しては「当たり前過ぎることもご丁寧に記されていた」かもしれませんが、これも「話が違う」には結び付きません。強いて挙げれば「デリバティブ取引を禁じた」ことでしょうか。しかし、それだけで「話が違う! このままではJICを育てることはできない!」となるでしょうか。

さらに言えば「取締役の報酬を最大3150万円に大幅に減額することや、孫ファンドにも事実上認可を必要とすることなど、これまでの議論と全く異なる内容がふんだんに記されていた」との説明も解せません。

荒井ペーパー」が出てきたのは「11月24日の会合」です。「11月9日には嶋田次官がJICを訪れて田中社長に撤回について陳謝」し、「田中社長はいったん受け入れ」たのであれば、「取締役の報酬を最大3150万円に大幅に減額すること」は「これまでの議論と全く異なる内容」とは言えません。むしろ、これまでの話し合いに沿った「内容」です。

全体として「強引に経産省を悪者にしている」との印象を受けました。「JIC」側が取材に協力的だったので、それに引っ張られたのではと推測しています。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「DIAMOND REPORT 取締役9人が一斉辞任~巨大官民ファンド機能不全の全内幕
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/25327


※記事の評価はD(問題あり)。担当者らの評価は以下の通りとする(敬称略)。

中村正毅(暫定C→暫定D)
藤田章夫(Dで確定)
村井令二(Dを維持)

2018年12月19日水曜日

週刊エコノミスト「商社の深層」に見える種市房子記者の問題点

週刊エコノミスト12月25日号の「商社の深層128~住商の北米鋼管事業 流通網改革で収益改善」という記事は完成度が低かった。筆者は種市房子記者。間違いと思える説明も出てきたので、以下の内容で問い合わせを送った。
由布岳登山口(大分県) ※写真と本文は無関係

【エコノミストへの問い合わせ】

週刊エコノミスト編集部 種市房子様

12月25日号の「商社の深層128~住商の北米鋼管事業 流通網改革で収益改善」という記事についてお尋ねします。まず問題としたいのは最初の段落です。種市様は以下のように記しています。

最近3年ほど、住友商事の懸案だった鋼管事業の業績が回復している。売り上げや取り込み損益、配当収入などを合計した『基礎収益』は、2018年度中間期(4~9月期)決算で98億円。期初の通期予想(100億円)を上回るペースで推移している

住商の決算関連資料では「基礎収益=(売上総利益+販売費及び⼀般管理費(除く貸倒引当⾦繰⼊額)+利息収⽀+受取配当⾦)×(1-税率)+持分法による投資損益」となっています。だとすると「基礎収益」は「売り上げや取り込み損益、配当収入などを合計した」のではなく「売上総利益や取り込み損益、配当収入などを合計した」のではありませんか。

基礎収益」では販管費も考慮しているので、「営業利益に取り込み損益や配当収入も加味した『基礎収益』」と書いても大筋では合っています。しかし「売り上げ~などを合計」は苦しいでしょう。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

上記の段落には他にも問題があります。

(1)「最近3年ほど業績が回復」と読めます

最近3年ほど懸案だった」と種市様は伝えたいのでしょう。しかし、読点の関係もあり「最近3年ほど業績が回復している」と理解する方が自然な書き方になっています。例えば「2015年から住友商事の懸案となっていた鋼管事業の業績がここに来て回復している」とすれば問題は解消します。


(2)前年同期との比較がありません

中間期」の実績を「期初の通期予想」と比べても「回復している」かどうか分かりません。例えば、前の「中間期」の「基礎収益」が200億円だった場合、「2018年度中間期」が「98億円」となっても「回復」とは言えません。どの数字と比べるべきかは慎重に検討すべきです。

最初の段落以外の問題点にも触れておきます。


(3)「悪循環」になってますか?

記事には「15年に入ると原油価格が急落→資源開発がストップ→鋼管需要減という悪循環に見舞われた」との説明が出てきます。これでは「悪循環」とは言えません。「悪循環」とは「ある事柄が他の悪い状態を引き起こし、それがまた前の事柄に悪影響を及ぼす関係が繰り返されて、事態がますます悪くなること」です。

鋼管需要減」→「原油価格が急落」という流れがあるのならば「悪循環」で問題ありません。しかし、そうは書いていません。「鋼管需要減」が「原油価格」を押し下げる力は、仮にあってもかなり小さいでしょう。



(4)資源価格に左右されるのでは?

鋼管事業は資源価格、ひいては資源開発数の上下動によって収益が変動する。住商は15年からの原油価格低迷時に、資源価格の変動に左右されないよう構造改革を断行した」と種市様は述べていますが、その内容を見る限り「資源価格の変動に左右されない」とは思えません。

記事では「柱は問屋網の立て直しだ。北米にはエジェン▽パイプコ▽プレミア・パイプ▽ピラミッドの四つの問屋運営子会社・関連会社があった。まず、エジェンの油井管部門である『B&L』を外に出してパイプコと統合し、重複部分を統廃合した。残るプレミア・パイプ、ピラミッドについても在庫や人員を絞り込んだ」と説明しています。「重複部分を統廃合した」としても「油井管部門」を残すのであれば「収益」は「資源価格の変動に左右され」るはずです。

記事では「そのうえで、今年に入り、三井物産から『チャンピオン・シンコ・パイプ・アンド・サプライ』を買収した。一見、統廃合した問屋網をまた増やすようにも見える。しかし、チャンピオン社は、有力鋼管メーカー『バローレック・スター』(仏バローレックと住友商事の合弁)の指定問屋でもあり、独自の高機能製品を供給できる。また、チャンピオン買収による北米での住商全体のシェア拡大→顧客・仕入れ先との価格交渉力アップという狙いも垣間見える」とも書いています。ここからも「資源価格の変動に左右されないよう構造改革を断行した」様子は見えてきません。

住商としては「資源価格の変動に左右されないよう構造改革を断行した」のではなく「資源価格の変動に耐えられるように構造改革を断行した」のではありませんか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。「基礎収益」の説明は誤りであれば、次号で訂正を掲載してください。間違い指摘に対してどう対応すべきか種市様は既に分かっているはずです。問題は実行できるかどうかです。読者に対して誠実な書き手であろうとすれば、苦しくても正しい道を選ぶしかありません。

「種市様ならば、きっと期待に応えてくれる」。一読者として、そう信じています。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「商社の深層128~住商の北米鋼管事業 流通網改革で収益改善
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20181225/se1/00m/020/045000c


※記事の評価はD(問題あり)。種市房子への評価もDを据え置く。種市記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

事前報道に懐疑的な週刊エコノミスト種市房子記者に期待
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/04/blog-post_12.html

不足のない特集 週刊エコノミスト「固定資産税を取り戻せ」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/05/blog-post_6.html

英国EU離脱特集 経済4誌では週刊エコノミストに軍配
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/07/blog-post_7.html

一読の価値あり 週刊エコノミスト「ヤバイ投信 保険 外債」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/07/blog-post_20.html

これで「バブル」? 週刊エコノミスト「電池バブルがキター」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/02/blog-post_7.html

「独占」への理解が不十分な週刊エコノミスト種市房子記者
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_17.html

「自社株買い=株式希薄化」? 週刊エコノミスト種市房子記者の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_19.html

「人格攻撃やめて」と訴える週刊エコノミスト種市房子記者に贈る言葉
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_21.html

2018年12月18日火曜日

「根拠なき『民』への不信」に根拠欠く日経 西條都夫編集委員

日本経済新聞の西條都夫編集委員が書く記事の内容が相変わらず苦しい。18日の朝刊投資情報面に載った「一目均衡~根拠なき『民』への不信」という記事では「民への根拠なき不信は政策選択の幅を狭めるだけでなく、日本経済の活力をそぎかねないだろう」と訴えているが「根拠なき不信」と言える「根拠」がない。
豊後森機関庫駅(大分県玖珠町)
      ※写真と本文は無関係です

記事の一部を見てみよう。


【日経の記事】

川井浄水場について詳しく紹介したのはほかでもない。先の国会で成立した、水道の民間委託をしやすくする改正水道法について、「営利目的の企業に水道を任せると、安全の低下や料金値上げにつながる」という反対論がにわかに盛り上がったからだ。

だが、本当に民は信頼性に劣るのか。メタウォーターによると、同社は川井をはじめ日本各地で約30カ所の水道関連設備を運営しているが、大きなトラブルは1件もないという。海外の民営化の失敗例に学ぶのは重要だが、「だから官民連携をやめる」ではなく、そんな失敗を繰り返さないための仕組みを考えるのが、本来の方向性だろう。




◎「海外の民営化の失敗例」があるのなら…

改正水道法」は「海外の民営化の失敗例」に絡めて批判されている印象がある。今回の記事でも「海外の民営化の失敗例に学ぶのは重要」と書いている。だとしたら「『民』への不信」には「根拠」があると考えるのが妥当だ。

西條編集委員が取り上げたもう1つの事例も見ておこう。

【日経の記事】

もう一つ最近のニュースで「民への不信」を色濃く反映したのが、官民ファンドの産業革新投資機構の迷走だ。機構幹部の報酬をめぐり、監督官庁の経済産業省と機構が一度は合意したが、首相官邸側から「こんな高額報酬では国会審議がもたない」という天の声があってひっくり返った、というのが真相だ。

しかし、機構が有能な人材を集め、リスクマネーの提供を通じて、日本の産業高度化に寄与するなら、機構の提示した報酬は高すぎるとは言えまい。「官民ファンド」は霞が関でちょっとした流行になったが、今回の一件で尻すぼみになるのだろうか。いずれにせよ、民への根拠なき不信は政策選択の幅を狭めるだけでなく、日本経済の活力をそぎかねないだろう。



◎「民への不信」ではないような…

産業革新投資機構」の件は「民への不信」を「色濃く反映」している感じがない。「首相官邸側」が「高額報酬に値する結果を民間出身者に出せるはずがない」などと言い出したのならば「民への不信」でいいだろう。

だが「こんな高額報酬では国会審議がもたない」との判断であれば、「」が資金を出すファンドの報酬に関して国民の目を気にしただけの話だ。

機構が有能な人材を集め、リスクマネーの提供を通じて、日本の産業高度化に寄与するなら、機構の提示した報酬は高すぎるとは言えまい」とも西條編集委員は言う。だが、そうなるとは限らない。なのにベース部分だけで年間5000万円以上とされる報酬は適切なのか。そこを考えてほしかった。

個人的には「官民ファンド」は要らないと思う。「民への不信」に警鐘を鳴らす西條編集委員も同じ考えになりそうな気がする。「有能な人材を集め」て「リスクマネー」を提供するのは本来ならば「」の役割だ。

百歩譲って「首相官邸側」に「民への根拠なき不信」があったとして、それが「官民ファンド」の「尻すぼみ」につながるのならば、「」の力を信じる西條編集委員にとっても願ったり叶ったりのはずだが…。


※今回取り上げた記事「一目均衡~根拠なき『民』への不信
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181218&ng=DGKKZO39043820X11C18A2DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西條編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html

7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html

日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html

何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html

日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html

タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html

日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html

さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_29.html

終末期患者の「飲食拒否」に関する日経の記事に感じた疑問

17日日本経済新聞朝刊医療・健康面に載った「『死ぬ権利』はある? 戸惑う現場~終末期患者、飲食拒否のケース 意思の尊重 国内議論進まず」という記事は、筆者ら(石原潤記者と松浦奈美記者)の問題意識が伝わってくる内容だった。その点は評価できる。ただ、引っかかる記述もいくつかあった。
上人ヶ浜公園(大分県別府市)
      ※写真と本文は無関係です

医療・健康面の記事やコラムに関するご意見、情報を募集しています。ファクス(03・6256・2770)か電子メール(iryou@nex.nikkei.co.jp)でお寄せください」との要望に応えて、以下の内容で意見を送ってみた。

【日経に送ったメール】

日本経済新聞社 石原潤様 松浦奈美様

17日朝刊医療・健康面の「『死ぬ権利』はある? 戸惑う現場~終末期患者、飲食拒否のケース 意思の尊重 国内議論進まず」 という記事を興味深く読みました。「ご意見、情報を募集しています」と末尾に出ていたので、私見を述べてみます。

まず「末期の膵臓(すいぞう)がんを患い、日々苦痛に見舞われていた神戸市の70代男性」が「患者が自らの意思で飲食を拒み、死を早めようとする行為」である「VSED」を「実行」したのか疑問が残りました。記事では以下のように説明しています。

<記事の引用>

男性は自力で飲み食いができる状態だったが、長くとも2カ月程度で亡くなるとみられていた。「先生が死なせてくれないなら、飲み食いをやめる。薬で眠らせてほしい」。反対する妻や新城医師の思いとは裏腹に、男性の意思は強く、一切の治療も拒否した。

そのため新城医師は看護師などと相談を重ね、最終的に睡眠薬を微調整して本人が望むように少しずつ眠らせることを決断。男性は1週間ほどで亡くなった。

「医師としてどう対応すればよかったのか」。悩み続けた新城医師は男性が実行したものが「VSED(Voluntarily Stopping Eating and Drinking)」であると知ったのはそれから数年後のことだった。

--引用はここまでです。

飲み食いをやめる」との宣言してから死亡まで「1週間ほど」です。しかも「新城医師は看護師などと相談を重ね、最終的に睡眠薬を微調整して本人が望むように少しずつ眠らせることを決断」しています。「薬で眠らせてほしい」という患者の希望は通ったのですから、「VSED」には至らなかったのではと感じました。記事でも「飲み食い」を断った様子を描いていません。しかし結局は「男性が実行したもの=VSED」となっています。ここは解釈に迷いました。

もう1つの疑問は、記事の最後に出てくる「新城医師」のコメントに関してです。

<記事の引用>

新城医師は「終末期の患者は『死にたい』と『生きたい』という相反する感情を同時に持ち合わせている。だが実際に死にたいと考えている人は少ないのでは」とみる。そのうえで「まずVSEDを認める国の人権感覚を学び、こうした意見にどう向き合い、応えていけるかということを考えなくてはいけない」と強調している。

--引用は以上です。

まずVSEDを認める国の人権感覚を学び、こうした意見にどう向き合い、応えていけるかということを考えなくてはいけない」とのコメントには「日本はVSEDを認めていない」との前提を感じます。しかし、日本は「VSEDを認める国」と言える気がします。

認められていないのならば、飲食拒否の患者に栄養摂取を強制できるはずです。しかし、日本の医療現場では患者の自己決定権を重視し、望まない治療を拒否できるとする考え方が主流です。判例も同じ流れです。だとすれば日本は「VSEDを認める国」ではありませんか。

記事では「『死ぬ権利』はあるのか」と問いかけていますが、答えは「ある」と言うほかありません。「VSED」を強制的にやめさせる法的根拠はないはずです。飲食拒否による自殺を企図しても処罰の対象にはなりません。なのに「死ぬ権利」がないと考えるのは無理があります。

問いかけるならば「人の手を借りて死ぬ権利はあるのか」が適切でしょうか。しかし、これは「VSED」と直接には関係しません。

今回の記事では「VSEDを認める」かどうかと、「VSED」を企図する患者に「安楽死」を認めるかどうかを区別せずに論じている感じがあります。

意見は以上です。今後の記事執筆の参考にしていただければ幸いです。

◇   ◇   ◇

上記のメールに対して「日経新聞社会部 医療班」から「ご意見とご感想ありがとうございました。今後の記事の参考にさせていただきます」との返信があった。


※今回取り上げた記事「『死ぬ権利』はある? 戸惑う現場~終末期患者、飲食拒否のケース 意思の尊重 国内議論進まず
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181217&ng=DGKKZO38943630U8A211C1TCC000


※記事の評価はC(平均的)。石原潤記者と松浦奈美記者への評価も暫定でCとする。

2018年12月17日月曜日

詰め込み過ぎが惜しい日経ビジネス東昌樹編集長の「傍白」

日経ビジネス12月17日号の「編集長インタビュー~松竹梅の『竹』で生き残る 市江正彦氏[スカイマーク社長]」という記事は興味深く読めたが、最後の「傍白」が引っかかった。一言で言えば詰め込み過ぎだ。
成田空港で待機するジェットスターの機体
          ※写真と本文は無関係です

東昌樹編集長による「傍白」の全文は以下の通り。

【日経ビジネスの記事】

「お願いだから、待ってください!」。隣に座った後輩の携帯からスカイマーク幹部の叫びが漏れてきました。その悲痛な声に「スカイマーク、法的整理」という特ダネを作る手を止めました。破綻を決めた日の昼。次の日ならオーナーだった西久保さんの心身が壊れると思ったと関係者が言うほど追い詰められていました。よく復活を果たせました。

ANAの協力が大きかったのは間違いありません。注目は再上場後の両社の関係。破綻直後から支援した佐山さんはお嫌でしょうが、ANAもスカイマーク支援がただのボランティアで終わるというわけにはいかないでしょう。どのような関係が可能なのか……。ANA、JALと第三極の並存を許容するぐらい余裕のある業界であってほしいと思います。


◎色々と疑問点が…

疑問点を列挙してみる。

(1)東編集長の立場は?

スカイマーク幹部の叫びが漏れて」来た時の東編集長の立場がよく分からない。「後輩」と一緒に「スカイマーク」の取材をしていたのか。それともデスクだったのか。その辺りの説明は欲しい。


(2)「特ダネ」は結局どうなった?

記事の書き方だと「特ダネ」をボツにしたとも、一時的に「作る手を止め」ただけとも取れる。ここも明確に書いてほしい。


(3)なぜ「待ってください!」?

破綻を決めた日の昼。次の日ならオーナーだった西久保さんの心身が壊れると思ったと関係者が言うほど追い詰められていました」との説明からは「スカイマークの関係者は法的整理の申請を急いでいた」とも取れる。しかし、なぜか「お願いだから、待ってください!」という「スカイマーク幹部の叫びが漏れて」きたらしい。

この「叫び」からは「破綻を決めた日の昼」になっても「法的整理」を避けようと動いていた印象を受ける。この辺りもよく分からない。


(4)「第三極」を望むのなら…

ANA、JALと第三極の並存を許容するぐらい余裕のある業界であってほしいと思います」と最後に書いているので「スカイマークには第三極でいてほしい」と東編集長は望んでいるはずだ。一方で「佐山さんはお嫌でしょうが、ANAもスカイマーク支援がただのボランティアで終わるというわけにはいかないでしょう」とも書いている。

ANAもスカイマーク支援がただのボランティアで終わるというわけにはいかない」と東編集長は思っているのに、それでも「ボランティア」として終わってくれることを望むとの趣旨なのか。ここも解釈に迷った。

色々と分かりにくくなっているのは、短い原稿に多くの要素を詰め込み過ぎているからだ。思い出話をメインにするか、「第三極」を柱に据えるか絞った方がいい。今回はあれもこれもと欲張り過ぎだ。

ついでに言うと、スカイマークに「第三極」の役割を期待するならば「どのような関係が可能なのか……」と悩む必要はない。「現在16.5%を出資するANAHD」にスカイマーク株を売却してもらうよう訴えるべきだ。そこそこの売却益が出れば「スカイマーク支援がただのボランティアで終わる」こともない。

さらに言うと「ANA、JALと第三極の並存を許容するぐらい余裕のある業界」には既になっていると思える。例えばフジドリームエアラインズには鈴与が全額を出資している。資本関係で見れば「ANA、JAL」のどちらの陣営にも属していないはずだ。


※今回取り上げた記事「編集長インタビュー~松竹梅の『竹』で生き残る 市江正彦氏[スカイマーク社長]
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/257971/121100172/?ST=pc


※記事全体の評価はC(平均的)。東昌樹編集長への評価はB(優れている)を据え置く。東編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

コメントの主は誰? 日経ビジネス 東昌樹編集長に注文
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_16.html

「中間価格帯は捨てる」で日経ビジネス東昌樹編集長に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_87.html

「怪物ゴーン生んだ」メディアの責任に触れた日経ビジネス東昌樹編集長に期待
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_3.html

2018年12月16日日曜日

「最後まで昔話」が辛い日経 佐藤理次長「風見鶏~首相と税調会長のはざま」

日本経済新聞の政治コラム「風見鶏」は最近やたらと昔話が目立つ。今の政治を語るために昔話を持ち出すのは否定しない。しかし、基本的には今(あるいは将来)を論じてほしい。16日の朝刊総合面に佐藤理 政治部次長が書いた「首相と税調会長のはざま」という記事は最後まで昔話で通している。これは辛い。
カトリック浦上教会(長崎市)
    ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

1997年、橋本龍太郎首相が行財政改革を進めているときのことだ。橋本政権で進める改革にアドバイスをもらうため、官僚が竹下登元首相を訪ねると「中曽根財政、竹下税制という言葉があったんだ」とにこやかに語ったという。

竹下氏は大平正芳政権、その後の中曽根康弘政権で蔵相を務めている。この時、話を聞いた元官僚は「中曽根政権の蔵相時代を含め『あの頃の税財政はすべて自分が仕切った』という自負を感じた」と振り返る。

「竹下税制」と誇ったのは89年に首相として消費税を導入したからだ。竹下氏はよく「79年に財政再建の国会決議をして10年かけて89年の消費税に持っていった」と口にした。

79年には大平首相が導入を目指した一般消費税が頓挫。すると与野党で「財政再建は一般消費税(仮称)によらず、まず行政改革、歳出合理化などを推進」と決議した。当時蔵相だった竹下氏が幅広い与野党人脈を生かし、決議に持ち込んだ。

決議は当初「消費税を導入させないため」とみられたが、その後の中曽根政権は行革と歳出改革を実施した。竹下氏が「中曽根財政」も高く評価したのは79年決議で設定したハードルを、竹下氏が蔵相を務めた中曽根政権でクリアして消費税を導入したからだ。

10年計画で「竹下税制」を完成させた竹下氏だが自民党で「税の権威」とされる税制調査会長には就いていない。歴代首相にも税調会長経験者はいない。

税調会長OBの柳沢伯夫氏はある税調会長が首相に呼ばれた際に「ゴマスリみたいに首相官邸に行くのは税調の伝統に反しますよ」と苦言を呈したという。その時は調整の末、首相が党本部に来て総裁室で会う体裁をとった。小泉純一郎首相も「税調のドン」と呼ばれた山中貞則氏に会うため党本部に足を運んだ。

首相と税調会長が距離をとったのはなぜか。柳沢氏に尋ねると「選挙に近いところが税をやると、ゆがむことがおびただしい」と説く。「税で票を買うことはできない。人気のある増税なんてない」とも話す。

選挙に最も近いのは首相だ。有権者の意向には敏感で政権維持のために増税は避けたくなる。一方、税のプロを自任する税調は望ましい税体系を追求する。税調会長なら選挙を意識する官邸と距離を置き、超然と不人気政策を追い求めるべきだ、という文化もある。

首相を選ぶ与党議員にとって重要なのは足元の選挙だ。かたくなに不人気政策を主張する役回りを求められる税調会長を「選挙の顔」である首相に推したくはない――。税調会長出身の首相がいない背景はこういうところだろうか。

税調は毎年の税制改正で細かな制度まで体系的に定め、絶大な決定権を握ってきた。緻密な税理論と豊富な知識をもとに、各業界と、その意向を代弁する族議員の間で利害調整をしてきたのは確かだ。ただ力が及ぶのは党内までだ。

政権の命運を左右する国民全体を相手にするようなテーマは税調だけでは扱えない。大平氏の一般消費税も中曽根氏の売上税も、実現しなかったとはいえ、政治課題になったのは首相が掲げたからだ。国会で多数を握る与党が選んだ首相という基盤があるからこそ、国民全体の利害に関わる増税を問うことができる

竹下氏は79年の国会決議について「与野党を問わず大枠をかける意味で必要だった」と語っていた。決議は全会一致。国民全体の支持を得る形をつくり、増税につなげた。同じ増税という目標でも首相と税調会長の目指し方には違いがある。


◎訴えたいことがないのなら…

記事に出てくるのは最も新しい話でも「小泉純一郎首相」の時だ。「今の政治に関して特に言いたいこともない。でも紙面は埋めなきゃいけないんで、自分の知っている昔話をあれこれ書いてみました」といったところか。昔話から入るのはいいとしても、どんなに長くても前半までだろう。後半は今か将来を語ってほしい。

政治部内で調整して「今の政治に関して訴えたいことがある人」に「風見鶏」を任せるべきだ。そういう人がいないのならば「風見鶏」は打ち切るしかない。

ついでに、今回の記事に関して他に気になった点も挙げておきたい。

(1)「あの頃の税財政はすべて自分が仕切った」はずでは?

竹下氏」は「あの頃の税財政はすべて自分が仕切った」という「自負」を持っていたようだ。その「竹下氏」は「『税の権威』とされる税制調査会長には就いていない」。なのに「税調は毎年の税制改正で細かな制度まで体系的に定め、絶大な決定権を握ってきた」とも書いている。

都電荒川線 早稲田駅(東京都新宿区)
          ※写真と本文は無関係です
辻褄が合っていない。「(竹下氏が)すべて自分が仕切った」との前提で言えば「税調」には「絶大な決定権」はなかったはずだ。「蔵相」である「竹下氏」に「絶大な決定権」があったと考えるしかない。

税調」に「絶大な決定権」があったのならば、「あの頃の税財政はすべて自分が仕切った」という「竹下氏」の「自負」が勘違いなのだろう。どちらなのか読者に分かるように書くべきだ。


(2)「柳沢氏」のコメントに無理が…

税調会長OBの柳沢伯夫氏」のコメントにも無理がある。「柳沢氏」が自分たちをよく見せようと無理のあるコメントをするのは当然で、批判するつもりもない。それをそのまま記事に使う佐藤次長の問題だ。

まず「首相と税調会長が距離をとったのはなぜか。柳沢氏に尋ねると『選挙に近いところが税をやると、ゆがむことがおびただしい』と説く」が苦しい。「税調会長」も国会議員ならば「選挙」とは十分に近い。「首相」なら歪むが「税調会長」ならば大丈夫とは思えない。

税で票を買うことはできない。人気のある増税なんてない」とも「柳沢氏」はコメントしている。「人気のある増税なんてない」にも同意しない(例えば、超富裕層への増税が国民全体で見れば「人気」を得る可能性はある)が、仮にそうだとしても「税調」はひたすら「増税」を求めたわけでもないだろう。税制面での優遇や減税で“票を買うこと”はできるはずだ。


(3)「党内」に力が及ぶならば…

税調」について「力が及ぶのは党内までだ」と佐藤次長は言う。しかし、「税制」に関する「絶大な決定権」を政権与党の「党内」で持っているのならば「政権の命運を左右する国民全体を相手にするようなテーマ」も「税調だけで」決められる気がする。

「消費税を導入する」と「税調」が打ち出せば「党内」では誰も逆らえないはずなので、「国会で多数を握る与党が選んだ首相」も「税調」の方針に従うしかない。そこまでの力が「税調」にないのならば「絶大な決定権」に疑問符が付く。


※今回取り上げた記事「風見鶏首相と税調会長のはざま
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181216&ng=DGKKZO38992160V11C18A2EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。佐藤理政治部次長への評価も暫定でDとする。

2018年12月15日土曜日

読者を欺いて「高コスト投信」へ誘導する北沢千秋QUICK資産運用研究所長

北沢千秋QUICK資産運用研究所長は以前から色々と問題のある記事を書いてきた。その中でも、15日の日本経済新聞朝刊マネー&インベストメント面に載った「投信選びは『消去法』で 5つの条件でふるい分け」という記事は悪質だ。「販売手数料が高い投信は避けよう」と投資家側に立っているような書き方をしながら、結果的には高コストな投信を「長期保有の有力候補」として紹介している。
日本橋高島屋S.C.(東京都中央区)
       ※写真と本文は無関係です

この記事を「投信選び」の参考にする読者もいるはずだ。そう考えると北沢所長の罪は重い。北沢所長には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

QUICK資産運用研究所長 北沢千秋様

15日の日本経済新聞朝刊マネー&インベストメント面に載った「投信選びは『消去法』で 5つの条件でふるい分け」という記事についてお尋ねします。記事では「長期運用には向かない投信の条件」の1つとして「販売手数料が高い」ことを挙げ、「購入時に大きなコストがかかるのは、ハンディを負って運用を始めるようなもの。販売手数料(上限)が全投信の平均(約2.8%)を上回る投信は、とりあえず候補から外したい」と解説しています。

しかし記事に付けた「A 長期保有に向く国内大型株を検索する手順(日経電子版、投資信託サーチの『詳細版』を利用」という表を見ると「購入時手数料」の条件が「3.24%以下」となっています。これでは北沢様が「候補から外したい」と説明した「販売手数料(上限)が全投信の平均(約2.8%)を上回る投信」が入ってきます。

投資信託サーチ」では「購入時手数料」に関して「すべて」「3.24%より大」「3.24%以下」「1.62%以下」「0.54%以下」「ノーロード」で検索できます。「販売手数料(上限)が全投信の平均(約2.8%)を上回る投信は、とりあえず候補から外したい」と考えるのならば、検索条件は「1.62%以下」「0.54%以下」「ノーロード」のどれかになるはずです。

3.24%以下」に「チェックを入れる」とした「長期保有に向く国内大型株を検索する手順」の説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

さらに問題が大きいのが「B 検索で残った国内大型株ファンド」という表です。ここでは7つの投信を挙げています。電子版で検索すると「新成長株ファンド」「東京海上・ジャパン・オーナーズ株式オープン」など5つ投信の「購入時手数料」が「3.24%」となっています。つまり「候補から外したい」はずの「販売手数料(上限)が全投信の平均(約2.8%)を上回る投信」がしっかり生き残っており、しかも過半を占めます。

表B」について北沢様は「上位には実績のあるファンドが並んだ。どれも長期保有の有力候補」と言い切っています。「販売手数料(上限)が全投信の平均(約2.8%)を上回る投信は、とりあえず候補から外したい」との説明と矛盾していませんか。

今回の記事には他にも問題があります。これらは上記の矛盾とも関連がありそうです。まず最初は「なぜ信託報酬を無視するのか」です。

販売手数料が高い」投信を避けるべきだとの主張には賛成です。しかし、投信のコストは他にもあります。中でも信託報酬は重要です。電子版の「投資信託サーチ」でも「実質信託報酬」で検索できます。「長期運用」に向く投信を探したいのならば、6つの選択肢の中で最も数値が低い「0.54%以下」を条件とすべきでしょう。

表B」で取り上げた7つの投信はいずれも信託報酬が1.5%を超える高コスト投信で、個人的には論外だと思えます。信託報酬の高さを気にせず「販売手数料が高い」投信だけを避けることに合理性はあるでしょうか。

次に問題としたいのが「長期保有に向く国内大型株を検索」する時に「ETF」を除外している点です。ETFは信託報酬が低いものが多く、売買手数料なしで購入できる場合もあるので、コストに着目して投信を選ぶ上では有力な選択肢です。

九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
       ※写真と本文は無関係です
しかし、北沢様は理由を説明せずに「ETF」を除外して「検索」を進め、結果として「購入時手数料」も信託報酬も高い投信(「マネックス・日本成長株ファンド」はノーロードのようですが…)を「長期保有の有力候補」としています。

ここからは推測です。以前から北沢様は高コストのアクティブ投信に好意的です。そこで、そうした投信が残るように条件を考えたのではありませんか。信託報酬を考慮せず、ETFを除外したのは、そのためでしょう。

投信選び」でコストに触れない訳にもいかないので「販売手数料」だけを条件として、当初は「販売手数料(上限)が全投信の平均(約2.8%)を上回る投信は、とりあえず候補から外したい」と考えたのかもしれません。

しかし、これだと条件が厳し過ぎて、北沢様好みのアクティブ投信がほとんど選外になってしまいます。そこで「検索」では条件を「3.24%以下」に緩めた--。そんなところではありませんか。だとしたら、読者を欺く背信行為です。

「信託報酬のことは忘れていた。ETFを除外したのも特に理由はない」といった話ならば、投資関連の記事の書き手として能力に疑問符が付きます。いずれにせよ問題ありです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「投信選びは『消去法』で 5つの条件でふるい分け

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181215&ng=DGKKZO38939060U8A211C1PPE000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。北沢千秋QUICK資産運用研究所長への評価はD(問題あり)からEへ引き下げる。北沢所長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 北沢千秋編集委員への助言(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_30.html

日経 北沢千秋編集委員への助言(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_11.html

日経 北沢千秋編集委員への助言(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_38.html

説明下手が過ぎる 日経 北沢千秋編集委員の記事(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_62.html

説明下手が過ぎる 日経 北沢千秋編集委員の記事(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_15.html

説明下手が過ぎる 日経 北沢千秋編集委員の記事(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_1.html

日経 北沢千秋編集委員「一目均衡」での奇妙な解説(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_81.html

日経 北沢千秋編集委員「一目均衡」での奇妙な解説(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_17.html

日経 北沢千秋編集委員「一目均衡」での奇妙な解説(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_18.html

生存者バイアス無視の日経「定説覆す?アクティブ投信」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_23.html

参考にするな! 北沢千秋QUICK資産運用研究所長の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_46.html

北沢千秋QUICK資産運用研究所長を疑え(1)積み立て投資
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/03/quick.html

北沢千秋QUICK資産運用研究所長を疑え(2)資産の分散
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/quick_10.html

バランス型投信を薦める北沢千秋QUICK資産運用研究所長の罪
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/quick.html

2018年12月14日金曜日

法政大の前身は「航空工業専門学校」と誤解した週刊ダイヤモンド

法政大学が誕生した後に「法政大学航空工業専門学校」が設立され、これが後に工学部になったとしたら、「法政大」の「前身の学校名」は「航空工業専門学校」と言えるだろうか。週刊ダイヤモンドの西田浩史記者はそう信じているようなので、以下の内容で問い合わせを送ってみた。
伐株山園地(大分県玖珠町)
    ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 西田浩史様

12月15日号の特集2「偏差値では語れない名門~華麗なる『御曹司大学』のヒミツ」についてお尋ねします。「大学・看板学部序列マップ 御曹司大学編」という図の中で、「法政大」の「前身の学校名」が「航空工業専門学校」となっています。吹き出しが指しているのは「法政大」全体(あるいは社会学部)です。

法政大学のホームページに載っている「法政大学略年表」によると「大学令により初めて私立大学の設置が許可され、財団法人法政大学となる。法学部、経済学部を設置」が1920年です。「航空工業専門学校」に関しては「工学部の前身、法政大学航空工業専門学校設立」が1944年となっています。

航空工業専門学校」ができた時には既に「法政大学」となっていたのであれば、「航空工業専門学校」は「法政大(あるいは社会学部)」の「前身の学校名」とは言えません。「工学部の前身」ではあるでしょうが、「マップ」には「工学部」が見当たりません。

法政大」の「前身の学校名」を「航空工業専門学校」としたのは誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

結局、回答はなかった。

※今回取り上げた特集「偏差値では語れない名門~華麗なる『御曹司大学』のヒミツ
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/25274


※特集の評価はD(問題あり)。西田浩史記者への評価もDを据え置く。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「社長の息子が多い」に根拠欠く週刊ダイヤモンド「御曹司大学」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_10.html

「武蔵大」の分類に矛盾あり 週刊ダイヤモンド「御曹司大学」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_12.html

明治学院大の前身は「協会専門学校」と週刊ダイヤモンドは言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_13.html


※西田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

関西知らずが目立つ週刊ダイヤモンド「関関同立」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_19.html

間違いだらけ週刊ダイヤモンド「最強の高校」の高校マップ
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_18.html

「京都人」の説明に矛盾 週刊ダイヤモンド「関西流企業の逆襲」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/05/blog-post_81.html

「関西は高学力」? 週刊ダイヤモンド「関西流企業の逆襲」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/05/blog-post_20.html

「日東駒専』「産近甲龍」志願者急増? ダイヤモンドOnlineの誤り
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/07/online.html

「日東駒専」「産近甲龍」問題でダイヤモンド社から久々の回答
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_6.html

「大学序列崩し」が見えない週刊ダイヤモンド西田浩史記者の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_7.html

偏差値トップは東大理3? 週刊ダイヤモンド「大学序列」の矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_68.html

九州知らずが目立つ週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_17.html

「中高一貫校」主要178校の選び方がおかしい週刊ダイヤモンド
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/178.html

「医学部は三大都市圏の高校出身が大多数」? 週刊ダイヤモンドの誤り
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/178.html

色々と問題目立つ日経 小竹洋之論説委員の「中外時評」

13日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「中外時評~トランプ的なものへの渇望」という記事はツッコミどころが多かった。筆者は小竹洋之論説委員。記事を見ながら問題点を指摘していく。
白池地獄(大分県別府市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

「隠れた部族」とは、国際的な非営利団体モア・イン・コモンのリポートである。外からは見えにくい個人の価値観や世界観を世論調査であぶり出し、米国が7つの部族に分断されていると論じた。

(1)献身的な保守派(6%)(2)伝統的な保守派(19%)(3)穏健派(15%)(4)政治的な中立派(26%)(5)消極的なリベラル派(15%)(6)伝統的なリベラル派(11%)(7)積極的な進歩派(8%)――という具合だ。(1)と(2)が右派の極、(7)が左派の極で、(3)~(6)を「疲弊した多数派」と呼ぶ。

両極の反目で政治が機能不全に陥り、穏当な多数派が不満をため込む。右派と左派の政争を「イスラム教のスンニ派とシーア派のようだ」と評したのは米ジャーナリストのファリード・ザカリア氏だが、「隠れた部族」もいまの惨状をうまく表現している



◎色々と問題が…

上記のくだりで気になった点を挙げてみる。

(1)舌足らずな表現

『隠れた部族』とは、国際的な非営利団体モア・イン・コモンのリポートである」という文がまず舌足らずだ。「『隠れた部族』とは~リポートのタイトルである」「『隠れた部族』とは~リポートに出てくるキーワードである」などと言いたかったのだと思うが…。

(2)「伝統的な保守派」も「極」?

左派の極」は「(7)」だけなのに、「右派の極」は「(1)と(2)」となっており整合しない。「」であれば、常識的には「(1)」だけのはずだ。「リポート」自体が整合しない分類をしているのならば、その理由が欲しい。


(3)「分断されている」?

7つの部族に分断されている」はずなのに「(1)と(2)」は一緒に「右派の極」を形成し、「左派の極」と「反目」しているらしい。だとすれば「(1)と(2)」が「分断されている」とは考えにくい。「(3)~(6)」が「疲弊した多数派」を形成しているのならば、こちらも「分断」はなさそうだ。

7つの部族」は基本的に右派と左派の分類で、そんなに目新しいものではない。しかも「分断されている」ようにも見えない。なのになぜ「『隠れた部族』もいまの惨状をうまく表現している」と思ってしまったのか。

リポート」を読めば納得できるのかもしれない。だが、記事で紹介するのであれば「いまの惨状をうまく表現している」と納得できる材料を提示してほしい。

次に「2020年の米大統領選」に関する分析の問題点を指摘したい。小竹論説委員はまず「カギを握るのは『疲弊した多数派』の動向だろう」と予測する。しかし、その後で話が変わってくる。そのくだりを見ていこう。

【日経の記事】

大統領選や連邦議会選を左右するのは、全人口の0.01%足らずのエリート層だ。大口の献金で影響力を行使し、既得権益の確保に動く。こうした政治の寡占化に憤るのが非エリート層である。



◎どっちが「カギを握る」?

大統領選や連邦議会選を左右するのは、全人口の0.01%足らずのエリート層」であれば、「疲弊した多数派」の「動向」が「カギを握る」とは思えない。「疲弊した多数派」のほとんどは「非エリート層」だ。言いたいことは分からないではないが、説明が上手くない。

また「政治の寡占化」という表現も引っかかる。「全人口の0.01%」でも数万人にはなるはずだ。その人数だと「寡占」とは言い難い。

記事の終盤も見ておこう。

【日経の記事】

責任ある財源を示さぬまま、国民皆保険や公立大無償化の旗を振る左派のポピュリズムには、若年層らが共鳴する。米ギャラップの9月時点の世論調査によると、民主党左派のサンダース上院議員の支持率は53%で、トランプ氏の41%を上回った。

米国だけの問題ではない。米有力ヘッジファンドのブリッジウォーター・アソシエイツによると、先進国のポピュリズム指数は17年時点で1930年代の水準まで上昇していた。もちろん、欧州もその力には抗しきれずにいる。

11月にパリで開いた第1次世界大戦終結100年の式典で「古い悪魔がよみがえりつつある」と述べたマクロン仏大統領。これに続くパリ平和フォーラムで「ナショナリズムの偏狭な見方が再び勢いを増している」と語ったメルケル独首相。最後のとりでともいえる両国の岩盤さえ浸食されようとしている。



◎「ポピュリズム」は「ナショナリズム」?

上記のくだりでは「ポピュリズム」と「ナショナリズム」を一緒にして論じている。「責任ある財源を示さぬまま、国民皆保険や公立大無償化の旗を振る」動きがあったとしても「ナショナリズム」とは関係ないと思える。

フランスとドイツがなぜ「最後のとりで」なのか分からないが、仮にそうだとすると日本はもちろん「岩盤」が「浸食」されているのだろう。日本に広がっているのが「ポピュリズム」か「ナショナリズム」か分からないが、その辺りを小竹論説委員には今後の記事でぜひ論じてほしい。



※今回取り上げた記事「中外時評~トランプ的なものへの渇望
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181213&ng=DGKKZO38844920S8A211C1TCR001


※記事の評価はD(問題あり)。小竹洋之論説委員の評価も暫定でDとする。

2018年12月13日木曜日

明治学院大の前身は「協会専門学校」と週刊ダイヤモンドは言うが…

週刊ダイヤモンド12月15日号の特集「偏差値では語れない名門~華麗なる『御曹司大学』のヒミツ」の中で、「明治学院大」の「前身の学校名」は「協会専門学校」だと西田浩史記者が教えてくれる。しかし、どうも怪しい。
勘定場の坂(大分県杵築市)※写真と本文は無関係

ダイヤモンドには以下の内容で問い合わせを送った。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 西田浩史様

12月15日号の特集2「偏差値では語れない名門~華麗なる『御曹司大学』のヒミツ」についてお尋ねします。「大学・看板学部序列マップ 御曹司大学編」という図の中で、「明治学院大」の「前身の学校名」が「協会専門学校」となっています。

明治学院大学のホームページの「沿革」で「前身の学校名」に相当するものを探してみると「ヘボン塾」「私立明治学院」「明治学院専門学校」などは出てきますが「協会専門学校」の文字は見当たりません。

ブリタニカ国際大百科事典では明治学院大学について以下のように解説しています。

文久3(1863)年アメリカ人宣教師ジェームズ・C.ヘボンが横浜に開いたヘボン塾を起源とし、1880年東京築地に移り築地大学校となった。1883年東京一致英和学校となり、1886年東京一致神学校と英和予備校を合併、明治学院となった。1887年白金に移転。1903年専門学校となり神学部と高等学部を置いた。1930年日本神学校の設立とともに神学部を分離。1949年新制大学に移行し、現校名となった

ここにも「協会専門学校」は登場しません。「明治学院大」の「前身の学校名」が「協会専門学校」というのは誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

ちなみに「マップ」では「拓殖大」の「前身の学校名」も「協会専門学校」となっています。ホームページの「沿革」によると、こちらは「私立台湾協会専門学校」だった時期があるようです。ただ「協会専門学校」ではありません。

これも問題ありだと思いませんか。「拓殖協会専門学校」の「拓殖」を省いて「協会専門学校」と表記したのならば、まだ分かります。しかし、「前身の学校名」が「私立台湾協会専門学校」だとすれば「協会専門学校」で済ますのは無理があります。

問い合わせは以上です。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた特集「偏差値では語れない名門~華麗なる『御曹司大学』のヒミツ
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/25274


※特集の評価はD(問題あり)。西田浩史記者への評価もDを据え置く。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「社長の息子が多い」に根拠欠く週刊ダイヤモンド「御曹司大学」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_10.html

「武蔵大」の分類に矛盾あり 週刊ダイヤモンド「御曹司大学」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_12.html

法政大の前身は「航空工業専門学校」と誤解した週刊ダイヤモンド
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_41.html


※西田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

関西知らずが目立つ週刊ダイヤモンド「関関同立」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_19.html

間違いだらけ週刊ダイヤモンド「最強の高校」の高校マップ
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_18.html

「京都人」の説明に矛盾 週刊ダイヤモンド「関西流企業の逆襲」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/05/blog-post_81.html

「関西は高学力」? 週刊ダイヤモンド「関西流企業の逆襲」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/05/blog-post_20.html

「日東駒専』「産近甲龍」志願者急増? ダイヤモンドOnlineの誤り
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/07/online.html

「日東駒専」「産近甲龍」問題でダイヤモンド社から久々の回答
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_6.html

「大学序列崩し」が見えない週刊ダイヤモンド西田浩史記者の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_7.html

偏差値トップは東大理3? 週刊ダイヤモンド「大学序列」の矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_68.html

九州知らずが目立つ週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_17.html

「中高一貫校」主要178校の選び方がおかしい週刊ダイヤモンド
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/178.html

「医学部は三大都市圏の高校出身が大多数」? 週刊ダイヤモンドの誤り
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/178.html

2018年12月12日水曜日

「武蔵大」の分類に矛盾あり 週刊ダイヤモンド「御曹司大学」特集

週刊ダイヤモンドの大学関連特集では、大学の序列などを示す「マップ」がよく出てくる。そして、いつも問題が多い。12月15日号に載った「偏差値では語れない名門~華麗なる『御曹司大学』のヒミツ」という特集もそうだ。今回は西田浩史記者が1人で特集を担当している。大学関連特集で担当者として頻繁に名を連ねる西田記者に問題があるから、いつもおかしな「マップ」になるのだろう。
オランダ坂(長崎市)※写真と本文は無関係です

今回の「マップ」では、まず以下の件で問い合わせを送った。


【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 西田浩史様

12月15日号の特集2「偏差値では語れない名門~華麗なる『御曹司大学』のヒミツ」についてお尋ねします。記事中で西田様は「成城、成蹊、学習院、武蔵、甲南の5大学」を「“ザ・御曹司大学”」と言い切っています。これは特集内の「マップ」と矛盾しませんか。

まず95ページの「全国32大学 世襲・上場社長割合分類マップ」を見ていきます。ここでは「武蔵大」が「ザ・一般大学」に入り「ザ・御曹司大学」から外れています。どう理解すればよいのですか。

一方で「ザ・御曹司大学」には「5大学」以外の「南山大」「立教大」「東京農大」が入っています(「日本大」も引っかかっているように見えます)。マップには「御曹司大学の条件とは?」という解説が付いていて「(4)戦前は旧制高等学校で、お金持ちが集まる学校だった」との条件が出てきます。

戦前は旧制高等学校」という条件は「南山大」「立教大」「東京農大」には当てはまらないのではありませんか。「5大学」でもなく「御曹司大学の条件」からも外れる大学を「ザ・御曹司大学」に入れるのは矛盾していませんか。

戦前は旧制高等学校」という条件を外して良いのであれば、日本の代表的な「御曹司大学」は「慶應義塾大」だと思えますが、「ザ・御曹司大学」からは外れています。

次に103ページの「大学・看板学部序列マップ 御曹司大学編」の問題点を指摘していきます。

(1)「ザ・御曹司養成大学エリア」から「武蔵大」が外れている。
(2)「5大学」以外の「立教大」が「ザ・御曹司養成大学エリア」に入っている。
(3)「立教大」が「ザ・御曹司養成大学エリア」に入っているのに「慶應義塾大」は外れている。

この3つは95ページの「マップ」と共通する問題です。また、「ザ・御曹司大学」だった「東京農大」が103ページの「マップ」では「ザ・御曹司養成大学エリア」に入っていません。代わりに「玉川大」が入っています。これらは、どう理解すればよいのですか。

問い合わせは以上です。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた特集「偏差値では語れない名門~華麗なる『御曹司大学』のヒミツ
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/25274


※特集の評価はD(問題あり)。西田浩史記者への評価もDを据え置く。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「社長の息子が多い」に根拠欠く週刊ダイヤモンド「御曹司大学」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_10.html

明治学院大の前身は「協会専門学校」と週刊ダイヤモンドは言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_13.html

法政大の前身は「航空工業専門学校」と誤解した週刊ダイヤモンド
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_41.html


※西田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

関西知らずが目立つ週刊ダイヤモンド「関関同立」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_19.html

間違いだらけ週刊ダイヤモンド「最強の高校」の高校マップ
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_18.html

「京都人」の説明に矛盾 週刊ダイヤモンド「関西流企業の逆襲」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/05/blog-post_81.html

「関西は高学力」? 週刊ダイヤモンド「関西流企業の逆襲」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/05/blog-post_20.html

「日東駒専』「産近甲龍」志願者急増? ダイヤモンドOnlineの誤り
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/07/online.html

「日東駒専」「産近甲龍」問題でダイヤモンド社から久々の回答
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_6.html

「大学序列崩し」が見えない週刊ダイヤモンド西田浩史記者の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_7.html

偏差値トップは東大理3? 週刊ダイヤモンド「大学序列」の矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_68.html

九州知らずが目立つ週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_17.html

「中高一貫校」主要178校の選び方がおかしい週刊ダイヤモンド
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/178.html

「医学部は三大都市圏の高校出身が大多数」? 週刊ダイヤモンドの誤り
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/178.html