2019年7月31日水曜日

「初の有人飛行」はライト兄弟? 日経 深尾幸生・山田遼太郎記者に問う

日本経済新聞の深尾幸生記者と山田遼太郎記者によると「(1903年に)ライト兄弟が史上初の有人飛行に成功してから1世紀あまり」らしい。一方で「ドイツの発明家オットー・リリエンタール」は「有人飛行に挑み続け、1891年に成功させた」とも書いている。この矛盾をどう理解すればよいのか、以下の内容で問い合わせを送ってみた。
ソラシドエアの機体(国東市の大分空港)
          ※写真と本文は無関係です


【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 深尾幸生様 山田遼太郎様

31日の朝刊ディスラプション面に載った「Disrupution 断絶の先に 第4部 疾走モビリティー(5)2025年、タクシーは空を飛ぶ」という記事についてお尋ねします。質問は以下の4つです。

(1)「史上初の有人飛行」を成功させたのはライト兄弟ですか?

記事中に「ライト兄弟が史上初の有人飛行に成功してから1世紀あまり」との記述があります。その前に「リリウムという会社名は、空気より重い物体が安定的に飛ぶのは不可能とされた時代にグライダーのような機体で有人飛行に挑み続け、1891年に成功させたドイツの発明家オットー・リリエンタールから名づけた」とも説明しています。

記事に付けた表によれば「ライト兄弟が史上初の有人飛行に成功」したのは1903年です。しかし「オットー・リリエンタール」が「有人飛行に挑み続け、1891年に成功させ」ています。明らかに矛盾しています。

ライト兄弟」は「リリエンタールの飛行実験に影響されてグライダーの製作を開始。1903年に複葉機を完成させ、人類初の動力飛行に成功」(デジタル大辞泉)したのではありませんか。だとすると「ライト兄弟が史上初の有人飛行に成功してから1世紀あまり」のくだりは「史上初の動力飛行」としないと成立しません。

ライト兄弟」に関する説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると19世紀には「空気より重い物体が安定的に飛ぶのは不可能とされ」ていたのでしょうか。当時の人々は鳥を「空気より軽い」と認識していたのでしょうか。あるいは「鳥は安定的に飛べない」と見ていたのでしょうか。どちらもあり得ない気がします。「人類が安定的に飛ばせるのは気球などに限ると思われていた」との趣旨なのでしょうが…。

せっかくの機会なので、他に気になった点を記しておきます。


(2)「ジェット」は「空飛ぶクルマ」ですか?

記事では独リリウムが開発した「ジェット」を「空飛ぶクルマ」と表現しています。「空飛ぶタクシー」ならばまだ分かりますが、「空飛ぶクルマ」とは思えません。「大きなシャチを思わせるつるんとした白い機体に、細かいギザギザがついた前後2対の翼」の「ジェット」は、写真を見ても明らかに飛行機です。翼を折りたたんで車輪が出てきて地上では自動車になるのならば「空飛ぶクルマ」でしょうが、そうした説明は見当たりません。

今も大富豪が使うプライベートジェットと何が違うのか。空飛ぶタクシーの特徴は『電動、垂直離着陸、自動運転』だ」との説明はありますが、ここにも「ジェット」を「空飛ぶクルマ」と呼ぶ理由は見当たりません。道路も走行できて空も飛べるのが「空飛ぶクルマ」ではありませんか。「垂直離着陸」ならばヘリコプターでもできます。


(3)「成田空港まで10分」は可能ですか?

ジェット」の「最高時速は300キロメートルが目標」です。そして「東京都心から成田空港までなら10分、2万円程度にしたい」ようです。東京駅から成田空港まで直線距離で57キロメートルと言われています。「最高時速」の「300キロメートル」で常に飛行したとしても「10分」では50キロしか進めません。実際には離陸直後と着陸直前には大きく速度を落とす必要があるので「最高時速」が「300キロメートル」では「10分」で50キロの移動も不可能でしょう。「東京都心から成田空港までなら10分」は目標通りの性能を実現しても無理なのではありませんか。


(4)「空飛ぶクルマが命を救う」は画期的ですか?

都市も変わる 地方も変わる」という関連記事にも疑問を感じました。記事の最後の段落は以下のようになっています。

経済産業省製造産業局の伊藤貴紀は『日本でまず活用が進むのは地方だ。医師が乗った空飛ぶクルマが救急車のように飛び回れるようになれば、65歳以上の高齢者が過半数を占めるような限界集落にも医療サービスが行き届く』と期待する。空飛ぶクルマが命を救う。10年後、そんな日が日常になるかもしれない

救急ヘリ病院ネットワークによると、2018年9月時点で「全国43道府県に53機のドクターヘリが配備」されているようです。既に「ドクターヘリが命を救う。そんな日が日常になっている」はずです。なのに「空飛ぶクルマが命を救う。10年後、そんな日が日常になるかもしれない」と訴える意味はありますか。実現したとしても、それほど画期的な話だとは思えません。

連載のテーマは「Disrupution 断絶の先に」です。しかし、ヘリコプターや小型飛行機が空を飛んでいる状況で「空飛ぶタクシー」が実用化されても「Disrupution 断絶」と呼べるほどの変化は起きないでしょう。道路を走っている車が空に舞い上がったり、空を飛んでいる車が道路上に降りてそのまま走行したりする光景が当たり前になれば画期的ですが、「ジェット」はそんな類の乗り物ではないようです。

Disrupution 断絶」が起きないのですから、その「」が見えないのは当然です。なので「空飛ぶクルマが命を救う。10年後、そんな日が日常になるかもしれない」と強引に結んだのでしょう。

そこを責めるのは酷な気もします。「Disrupution 断絶の先に」というテーマ設定自体に無理があると考えるべきでしょう。第4部は今回で終わりです。第5部の連載はお薦めしません。失敗が約束されたようなものです。

問い合わせは以上です。少なくとも(1)の質問には回答してください。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「Disrupution 断絶の先に 第4部 疾走モビリティー(5)2025年、タクシーは空を飛ぶ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190731&ng=DGKKZO47757950V20C19A7TL1000


※記事の評価はD(問題あり)。 深尾幸生記者と山田遼太郎記者への評価も暫定でDとする。

2019年7月30日火曜日

「MMTは呪文の類」が根拠欠く日経 上杉素直氏「Deep Insight」

日本経済新聞の上杉素直氏に言わせれば「現代貨幣理論(MMT)」は「目先の人気取りに使われる財政ポピュリズム(大衆迎合)の『呪文』の類い」らしい。しかし、その根拠はかなり弱い。
旧内外クラブ記念館(長崎市)※写真と本文は無関係です

30日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~財政に『呪文』は通用しない」という記事で上杉氏は以下のように解説している。

【日経の記事】

蛇口をひねれば水が流れ出し、シンクの中にたまっていく。やがてシンクが満たされると水は外部へあふれ出す。ときには排水口から水が抜け、シンク内の水位が下がることもある――。

主要な通貨を発行する国は、過度なインフレにならない限り財政赤字が増えても問題ないとする学説「現代貨幣理論(MMT)」。今月、提唱者であるニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授が来日し、おカネを水にたとえながら説いてみせた。

ケルトン氏の比喩では、水がたまるシンクが経済だ。政府を示す蛇口から出てくる水が財政出動で、排水口から出て行ってしまう水は税金を指す。経済を活気づけるには、財政をふかして減税するほど良いことになる。シンクから水があふれ出す現象をインフレになぞらえ、財政出動の限界を表しているのだという。

米国では税金を上げずに社会保障を充実させるアイデアとして、左派の政治家がMMTを持ち出して話題を呼んだ。日本でも消費増税に反対する人たちがMMTを支持している。負担がなくてリターンを得られるというおいしい話なのだから、有権者の耳には心地よく響くに違いない。

しかし、多くの専門家が口をそろえるように、政府の借金が膨らむのに無頓着なMMTは問題があると思う。湯水のごとく財政出動を膨らませるために、国債を無限に発行できるわけはない。インフレが起きた時点で財政出動をやめるなんて、本当にできるとは信じがたい。目先の人気取りに使われる財政ポピュリズム(大衆迎合)の「呪文」の類いがまた登場したということだろう

では、MMTは政策論として現実的でないとして、日本がMMTの先例めいて引き合いに出されることを私たちはどう受け止めたらよいのだろう。麻生太郎財務相は「日本を実験場にする考えはない」とMMTの発想を否定しているが、アベノミクスとMMTは全く違うと言い切れるのか。


◎「財政出動をやめ」られるなら有効?

まず「主要な通貨を発行する国は、過度なインフレにならない限り財政赤字が増えても問題ない」という「現代貨幣理論(MMT)」の説明が違う気がする。4月13日付の用語解説で日経自身が「通貨発行権を持つ国家は債務返済に充てる貨幣を自在に創出できるため、『財政赤字で国は破綻しない』と説く」としている。「通貨発行権」を持っていれば「主要な通貨」でなくてもいいはずだ。

本題に入ろう。

財政ポピュリズム(大衆迎合)の『呪文』の類い」と上杉氏が斬って捨てた根拠は「インフレが起きた時点で財政出動をやめるなんて、本当にできるとは信じがたい」という1点に尽きる。

これでは「現代貨幣理論(MMT)」は理論として成立していると認めているようなものだ。だとすれば「『呪文』の類い」ではない。

理論としては成立していても「政策論として現実的でない」とは言えるだろうか。「インフレが起きた時点で財政出動をやめるなんて、本当にできるとは信じがたい」と考えるのは「財政出動をやめる」(ここでは財政緊縮策として捉える)ことが、そもそも難しいからなのか。

だとしたら「現代貨幣理論(MMT)」を否定してもしなくても、いずれにせよ「財政赤字」は放置するしかない。

個人的には「インフレが起きた時点で財政出動をやめる」のは十分に可能だと思える。「何%以上のインフレ率になったら自動的に増税になる」という仕組みをあらかじめ決めておけばいい。それが現実に実行できるかどうかという問題はあるが「できるわけがない」と切り捨てるほど難しい話でもない。



※今回取り上げた記事「Deep Insight~財政に『呪文』は通用しない
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190730&ng=DGKKZO47918350Z20C19A7TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。上杉素直氏への評価はDを維持する。上杉氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「麻生氏ヨイショ」が苦しい日経 上杉素直編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_25.html

「医療の担い手不足」を強引に導く日経 上杉素直氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_22.html

麻生太郎財務相への思いが強すぎる日経 上杉素直氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_66.html

地銀に外債という「逃げ場」なし? 日経 上杉素直氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_8.html

日経 上杉素直氏 やはり麻生太郎財務相への愛が強すぎる?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_27.html

ツッコミどころが多い中村奈都子 日経女性面編集長の記事

29日の日本経済新聞朝刊女性面に載った「折れないキャリア~企業と弁護士、転身で得た自信 三菱自動車執行役員 高沢靖子さん」という記事はツッコミどころが多かった。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
       ※写真と本文は無関係です

まず、日本語の使い方が引っかかった。

【日経の記事】

大企業から弁護士への転身と言えば華やかなキャリアアップをイメージするが、「ずっと自分に自信がなかった」と振り返る。



◎「大企業から弁護士への転身」?

大企業から弁護士への転身」という説明には違和感がある。「プロ野球選手からタレントへの転身」とは言うが「プロ野球チームからタレントへの転身」という使い方はしない気がする。今回の記事では「大企業の社員から弁護士への転身」などとしないと苦しい。

 続きを見ていこう。

【日経の記事】

入社した新日本製鉄(現日本製鉄)は"超"優秀な人ばかり。女性社員はほとんどおらず「みんな扱いに困っているようだった」。結婚・出産してからは会社でも保育園でも、どこに行っても「すみません」と頭を下げる毎日。母は子育てを手伝ってくれたが、父が倒れたことで介護に忙しくなった。「何の憂いもなく仕事に没頭できる男性と同じようには働けない」と感じた



◎男性は「何の憂いもなく仕事に没頭できる」?

高沢靖子さん」は「ずっと自分に自信がなかった」らしい。嘘だとは言わないが、話に説得力はない。「入社した新日本製鉄(現日本製鉄)は"超"優秀な人ばかり」で自分もその一員になれたのに、そんなに「自信がなかった」のか。

それは良しとしても「何の憂いもなく仕事に没頭できる男性と同じようには働けない」というくだりは見過ごせない。「男性何の憂いもなく仕事に没頭できる」と「高沢靖子さん」が思い込んでいるのならば明らかな偏見だ。「何の憂いもなく仕事に没頭できる男性」はかなり少ないだろう。

何の憂いもなく仕事に没頭できる(一部の)男性」との趣旨かもしれないが、だとしたら「男性」に限定する必要はない。女性の中にも「何の憂いもなく仕事に没頭できる」人はいるはずだ。

さらに記事を見ていく。

【日経の記事】

代わって子どもの頃に憧れた弁護士への夢が膨らんだ。日本でロースクールが導入された時期でもあり、「人生で一度くらい死ぬほど勉強してみたい」と受験。転職には躊躇(ちゅうちょ)もあったが東大に合格した際、夫の「行ってみたら」という一言に背中を押された。40歳の時だ。



◎勉強には「没頭できる」?

『何の憂いもなく仕事に没頭できる男性と同じようには働けない』と感じた」のに、「『人生で一度くらい死ぬほど勉強してみたい』と受験」したのも解せない。「死ぬほど勉強」できる状態ならば「何の憂いもなく仕事に没頭できる男性と同じように」働けそうだ。

さらにツッコミを入れてみる。

【日経の記事】

勉強は面白かった。「法学部の学生だった頃は概念でしか分からなかったが、『こういう判例の積み重ねでできている仕組みなんだ』と、これまでの仕事が整理されて分かった」。経験に基づいて勉強すると理解の度合いが違う。成績もぐんぐん伸びた。

ところが司法試験を終え、60以上の事務所に履歴書を送ったものの全く相手にされない。若い同級生は大手から内定をもらっているのに。自分を全否定されたようで「人生で最も落ち込んだ」という。

立ち直るには一生懸命働くしかない。なんとか入った事務所で働き始めると、これまでのキャリアが生きてきた。新日鉄で法務担当だったとき、契約書は何度も書いたことがある。訴訟の方向性も決めてきたので、クライアントの望む提案ができる。徐々に認められるようになった。



◎「全く相手にされない」はずが…

60以上の事務所に履歴書を送ったものの全く相手にされない」ので「人生で最も落ち込んだ」らしい。

しかし、なぜか「なんとか入った事務所で働き始め」ている。「全く相手に」してくれない「事務所」が採用してくれたのか。話の辻褄が合っていない。一部の「事務所」は関心を持ってくれたのではないか。

記事の最後には「聞き手は中村奈都子」と出ている。女性面編集長の中村氏は相手の言ったことにツッコミを入れずにそのまま受け入れて記事にしたのだろうか。

"超"優秀な人ばかり」の会社に入れたのになぜ「自分に自信がなかった」のか。「60以上の事務所に履歴書を送ったものの全く相手にされない」のに、なぜ「なんとか入った事務所で働き始め」られたのか。疑問に感じてほしかった。 


※今回取り上げた記事「折れないキャリア~企業と弁護士、転身で得た自信 三菱自動車執行役員 高沢靖子さん
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190729&ng=DGKKZO47821810W9A720C1TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。女性面編集長の中村奈都子氏への評価は暫定でDとする。

2019年7月28日日曜日

「市況の上昇」が引っかかる日経1面「海運3社の業績回復」

28日の日本経済新聞朝刊1面に「海運3社の業績回復 コスト削減、市況も上昇」という記事が載っている。まず見出しの「市況も上昇」が引っかかった。使用例はそこそこあるとは思うが、個人的には誤用に分類したい。
長崎港(長崎市)※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】 

海運大手の業績が回復している。日本郵船の2019年4~6月期の連結経常損益は60億円程度、川崎汽船も20億~40億円程度の黒字だったもよう。2社とも第1四半期として2年ぶりの黒字転換となる。商船三井も大幅増益だったようだ。世界貿易は減速が鮮明だが、不採算船の減便などコスト削減に加えて、環境規制強化などを背景にした海運市況の上昇で業績が好転した。

20年から船舶の環境規制が厳しくなり、規制に対応できない船は運航できなくなる。規制対応のため19年度後半にかけて改修ラッシュが起きることで一時的に需給が引き締まるとの思惑があり、海運市況は上昇している。ばら積み船市況の総合的な値動きを示すバルチック海運指数は7月下旬に約5年7カ月ぶりの水準に上昇した。

商船三井の経常利益は100億円程度と、前年同期(2億5100万円)から大幅増益となったようだ。第1四半期としては15年4~6月期(108億円)以来の高い水準となる。日本郵船と川崎汽船は欧州路線の自動車船減便なども影響し、利益率が改善した。

3社はコンテナ船事業が復調する。共同出資するコンテナ船の積載率は4~6月で9割弱と、前年同期から約2割上昇した。コンテナ船運航会社の4~6月期の最終損益は1億2000万ドルの赤字だった前年同期から黒字に転換したようだ。

3社は31日に4~6月期の決算発表を予定している。国際通貨基金(IMF)によると、19年の世界貿易額は前年比2.5%増と18年(3.7%増)から減速する見通し。懸念材料も多く、通期の業績予想は据え置く公算が大きい。


◎「状況」は「上昇」するか?

市況」とは「株式市場や商品市場での取引の状況」(大辞林)を指す。「市場の状況は上昇している」と聞いて違和感があるならば「市況が上昇」は使わない方がいい。

海運市況の上昇」「海運市況は上昇している」に関しては、自分ならば「海運市況の回復」「海運市況は持ち直している」などと書くだろう。

他にも気になった点があるので列挙してみる。

(1)赤字額になぜ触れない?

日本郵船の2019年4~6月期の連結経常損益は60億円程度、川崎汽船も20億~40億円程度の黒字だったもよう。2社とも第1四半期として2年ぶりの黒字転換となる」と書いているものの、両者の前年同期の赤字額が分からない。どの程度の「回復」なのかを見せるためにも必ず入れたい。


(2)「世界貿易は減速が鮮明」?

世界貿易は減速が鮮明」と言い切った後で「19年の世界貿易額は前年比2.5%増と18年(3.7%増)から減速する見通し」とも書いている。「減速」とは言えそうだが、「3.7%増」が「2.5%増」になるだけで「減速が鮮明」と表現するのは苦しい気がする。


(3)「4~6月」の市況は?

今回の記事は「4~6月期」の業績の話だ。「海運市況の上昇で業績が好転した」と書いているのに「ばら積み船市況の総合的な値動きを示すバルチック海運指数は7月下旬に約5年7カ月ぶりの水準に上昇した」と「7月下旬」の「バルチック海運指数」を出している。

4~6月期」の業績を解説するのならば、当該期の「市況」がどうだったのかを見せるべきだ。


(4)「コスト削減」があっさりしすぎ

業績改善の要因を記事では「海運市況の上昇」と「不採算船の減便などコスト削減」に求めている。しかし「コスト削減」については「日本郵船と川崎汽船は欧州路線の自動車船減便なども影響し、利益率が改善した」と述べているだけだ。業績改善の主な要因の1つならば、どの程度の「減便」だったのかなど、もう少し詳しい情報が欲しい。


※今回取り上げた記事「海運3社の業績回復 コスト削減、市況も上昇
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190728&ng=DGKKZO47882920X20C19A7MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。今回の記事はいわゆる業績先取り記事だ。これに関しては歴史的役割を終えたとみている。一読者として業績先取り記事の1日も早い廃止を改めて求めたい。

2019年7月26日金曜日

日産の営業利益「誤報」で改めて思う日経 業績先取りの無駄

業績の先取り記事はやはり必要ない。26日の日本経済新聞朝刊1面トップ記事「日産、1万2500人削減 生産能力1割減 4~6月営業益99%減 海外工場閉鎖も」を読んで改めてそう感じた。
タマホーム スタジアム筑後(福岡県筑後市)
         ※写真と本文は無関係です

前日25日の朝刊1面トップとなった「日産、4~6月営業益9割減 人員削減積み増しへ~主力の米国で不振」という記事では「日産自動車の業績悪化に歯止めがかからない。2019年4~6月期の連結営業利益は前年同期(1091億円)比で約9割落ち込み、数十億円規模にとどまったようだ」と報じている。日産の発表を受けて26日に「2019年4~6月の連結営業利益は前年同期比99%減の16億円と大幅に落ち込んだ」と書いている。

方向は合っているものの「16億円」は「数十億円規模」ではないので、厳しく言えば誤報だ。正確性の低い業績の先取りをしてまで2日続けて朝刊1面トップに日産を持ってくる意味はあるのか。ほとんどの読者にとっては、発表を受けた26日の記事だけで十分だ。

待っていれば発表されるものは原則として発表を待て--。日経には改めてそう求めたい。


※今回取り上げた記事「日産、1万2500人削減 生産能力1割減 4~6月営業益99%減 海外工場閉鎖も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190726&ng=DGKKZO47806980W9A720C1MM8000


※記事の評価はC(平均的)。

2019年7月25日木曜日

電子版で報道済みなら…日経1面「日産、4~6月営業益9割減」への注文

日本経済新聞が「電子版ファースト」を推進するのに文句を付ける気はない。ただ、結果として記事の内容が分かりにくくなるのは困る。25日の朝刊1面トップを飾った「日産、4~6月営業益9割減 人員削減積み増しへ~主力の米国で不振」という記事は、事情の説明が不十分だ。
宮城県石巻市月浦にある支倉常長の像
        ※写真と本文は無関係です

記事の最初の方は以下のようになっている。

【日経の記事】 

日産自動車の業績悪化に歯止めがかからない。2019年4~6月期の連結営業利益は前年同期(1091億円)比で約9割落ち込み、数十億円規模にとどまったようだ。主力市場である米国での販売が振るわなかったうえ、自動運転や電動化といった次世代技術に向けた開発費もかさんだ。業績悪化を受け、人員と生産能力の削減に踏み切る。人員削減の規模は5月に示した4800人から大幅に増やし、1万人を超える可能性がある。(関連記事企業2面に)

日産は24日、日本経済新聞の報道を受けて、「営業利益はおおむね近い数値を想定している」とのコメントを出した。25日に19年4~6月期連結決算と人員削減など構造改革策を発表する。



◎25日の朝刊を読んでいるのに…

25日の朝刊を読んでいる人は1面トップの記事を見て「この日産のニュースを日経が報じたのは25日になってから」と理解するのが自然だ。

しかし次の段落で「日産は24日、日本経済新聞の報道を受けて、『営業利益はおおむね近い数値を想定している』とのコメントを出した」と書いている。これだと「ニュースは24日に報道されたもので、それに対する日産の反応も出ている」と理解するしかない。

日産のホームページを見ると「本日(※24日)の日経新聞電子版で、当社の2019年度第1四半期業績に関する報道がなされております」とある。25日の朝刊でニュースの形を取って報じているが、既に旧聞に属するものだった訳だ。それはそれでいい。ただ、24日に電子版で伝えた内容を朝刊1面トップで再利用していることは明示すべきだ。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

QUICK・ファクトセットによると、日産の営業利益が四半期ベースで100億円を下回るのは19年1~3月期に続いて2四半期連続。それ以前だと2000億円超の営業赤字となった09年1~3月期までさかのぼり、日産は約10年ぶりの業績不振にあえいでいる。



◎「QUICK・ファクトセット」に頼る必要ある?

日産の営業利益が四半期ベースで100億円を下回るのは19年1~3月期に続いて2四半期連続」といった情報は「QUICK・ファクトセット」に頼らなくても日産の発表資料で簡単に確認できるのではないか。なぜ「QUICK・ファクトセット」頼みなのか気になる。

さらに続きを見ていこう。

【日経の記事】

4~6月期の売上高は前年同期(2兆7165億円)を大きく下回ったようだ。収益環境の悪化が一因で、米国で自動車販売が総じて減速し、欧州でも環境規制の強化が痛手となった。自動運転など自動車の新潮流を示す「CASE(総合2面きょうのことば)」の影響で開発費がかさみ、米中貿易摩擦の余波による原材料高や円高も響いた。

逆風のなか、独自の弱さもあらわになった。日産はモデルチェンジから年数がたった「高齢」の車種が多い。米国で「値引き依存」から脱却しようと、販売奨励金を減らしたところ、客足が予想外に落ち込んだ。米調査会社オートデータによると、日産の米国販売台数は約35万台と4%減り、市場全体の減少率(2%)を上回った。

元会長であるカルロス・ゴーン被告の指揮で、米金融危機後に業績回復を急ごうと新興国での生産能力を大幅に拡大した。この反動で新車開発にかける資金は細り、自動車に求められる環境・安全性能が高まるなかで、日産車の商品力の相対的な低下が進んだ。ゴーン元会長の不正問題でブランド力も悪化した。

中国事業は営業損益には影響しない。日産は中国事業を現地メーカーとの合弁会社で運営し、持ち分法投資損益として扱うためだ。中国は景気減速で新車需要が低迷しているが、日系自動車メーカーは相対的に健闘している。日産の中国での新車販売も4、5月は前年同月を下回ったものの、6月はプラスに転じた。

20年3月期通期の業績の予想は据え置く。営業利益は28%減の2300億円、純利益は47%減の1700億円を見込む。早期退職も含めて人員削減の規模を拡大し、当初は年300億円とみていたコスト圧縮を加速させる。生産能力は新興国を中心に約1割減らす


◎「生産能力の削減」関連はこれだけ?

業績悪化を受け、人員と生産能力の削減に踏み切る」と書いていたので、詳しい説明が第2段落以降であると思っていたが、「生産能力の削減」については「新興国を中心に約1割減らす」と述べているだけだ。これは辛い。せめて時期は欲しい。どこの国でどの程度減らすのかも入れたいところだ。

紙面をこれ以上割けないと言うのならば、中国の話を削ってでも「生産能力の削減」を詳しく報じるべきだ。


※今回取り上げた記事「日産、4~6月営業益9割減 人員削減積み増しへ~主力の米国で不振
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190725&ng=DGKKZO47717990U9A720C1MM8000


※記事の評価はC(平均的)。

2019年7月24日水曜日

ヤフーとアスクルの件で「親子上場の問題点浮き彫り」という日経に異議

日本経済新聞は「親子上場に問題あり」と訴えるのが好きだ。しかし常に説得力がない。24日の朝刊企業2面に載った「アスクル社外役員が会見『上場会社の統治無視』 社長再任、ヤフーが反対 親子上場の問題点浮き彫り」という記事も「親子上場の問題点浮き彫り」とは言い難い内容だ。
サン・ファン・バウティスタ復元船(宮城県石巻市)
            ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

アスクルの戸田一雄社外取締役など独立社外役員が23日、筆頭株主のヤフーが岩田彰一郎社長の再任に反対している件で会見を開いた。独立役員中心の委員会やヤフー出身の取締役も出席した取締役会で決めた人事を、ヤフーが資本の論理で覆そうとしていることに「支配株主として無責任だ」と批判した。日本特有の親子上場の問題が浮き彫りになっている

アスクルの取締役は10人。社外は半数の5人だが、ヤフーの取締役と2位株主のプラス(東京・港)の社長が含まれ、独立役員は松下電器産業(現・パナソニック)元副社長の戸田氏を含め3人だ。

任意の機関として岩田社長と独立取締役3人、顧問弁護士など計6人がメンバーの指名・報酬委員会を設置し、取締役の選解任などを議論している。5月8日に個人向けネット通販事業の再構築計画を実行するため現経営陣が継続すべきだと、8月2日に開く株主総会の取締役候補を委員会で決議した。

6月5日の取締役会では委員会が取締役候補について説明し、ヤフー出身の2人の取締役を含め、異論は出なかったという。ただその後、6月末にヤフーの川辺健太郎社長が岩田社長の退陣を求めたとしている。

両社の対立には欧米ではほとんどみられない日本企業独特の「親子上場」の問題がある

子会社に親会社以外の一般株主がいる親子上場は、親会社がほぼ決められる経営方針について、他の株主と利益が相反する懸念がある

指名・報酬委員会は独立役員が中心。委員長を務める戸田氏は、委員会が岩田氏を取締役候補にすることを決めたのに、実質的な決定権を持つ1、2位株主が岩田社長の再任に反対することは「上場会社のガバナンス(企業統治)を無視している」と強調した。

ヤフーとアスクルについて慶応義塾大学の齋藤卓爾准教授は「資本関係だけでつながっているような形では、もめた時に解決しきれないということが鮮明になった」と指摘する。早稲田大学の宮島英昭教授は「資金調達の透明性が高くなるほか、活発なM&A(合併・買収)につながる」と親子上場のメリットを示しつつ「独立取締役を機能させなければならず、第三者の委員を置くなどの形も必要になる」と体制整備の重要性を説く。

ヤフーは岩田社長の再任に反対する理由として、業績悪化の責任をあげている。ヤフーとプラスが再任に反対すれば、総会で否決されることは確実だ。後任の社長についてはヤフーから派遣はせず、アスクルの独立性を保つとしている。

戸田氏は業績低迷の責任を指摘する株主の声は重く受け止めるべきだと理解を示しながらも、ヤフーに対し総会では岩田社長を含めた取締役候補者を選任すべきで「(社長交代などが)必要であれば来年に向けて、指名・報酬委員会でヤフーの意見も踏まえて議論するのが日本の正しい企業のやり方だ」と訴えた。

◇   ◇   ◇

上記の内容を基に「親子上場」の問題を考えてみたい。

戸田氏」は「(指名・報酬)委員会が岩田氏を取締役候補にすることを決めたのに、実質的な決定権を持つ1、2位株主が岩田社長の再任に反対することは『上場会社のガバナンス(企業統治)を無視している』」と主張しているらしい。

指名・報酬委員会」の決定には「実質的な決定権を持つ1、2位株主」も黙って従うべきなのか。だとしたら何のために「実質的な決定権」を持っているのか。「指名・報酬委員会」を株主総会よりも上に置くのが「上場会社のガバナンス」として正しいのか。改めて論じるまでもない。

資本関係だけでつながっているような形では、もめた時に解決しきれないということが鮮明になった」という「慶応義塾大学の齋藤卓爾准教授」のコメントも謎だ。「ヤフーとプラスが再任に反対すれば、総会で否決されることは確実」ならば、株主総会でこの問題は「解決」できる。

子会社に親会社以外の一般株主がいる親子上場は、親会社がほぼ決められる経営方針について、他の株主と利益が相反する懸念がある」との説明に異論はない。だが「ヤフーとアスクル」のケースで具体的にどう「他の株主と利益が相反する懸念がある」かどうか本文では触れていない。

記事に付けた表には「ロハコ事業の譲渡」について「利益相反取引になり、少数株主保護のためにも透明性の高いプロセスで交渉する必要がある」という「アスクル独立役員会の会見内容」が出ているだけだ。

ロハコ事業」に関して明らかに「アスクル」が不利(「ヤフー」が有利)となる価格での「譲渡」の可能性が高いのならば「他の株主と利益が相反する懸念がある」と書くのも分かる。だが、そうした説明は見当たらない。

今回は「2位株主のプラス」が「ヤフー」側に付いている。「利益が相反する懸念」が乏しいと判断したから「プラス」も「ヤフー」に同調していると理解するのが自然だ。

一般的に「親子上場」では「親会社以外の一般株主」の利益が毀損されるリスクは高い。それは認める。だが「親子上場」だと公表されているのであれば、リスクの高さは株価に織り込まれる。そのディスカウントされた株価に魅力を感じた「一般株主」がリスクを承知で投資するのに何の問題があるのか。

「一般株主の多くは愚かでリスクを正しく理解できない。だから規制が必要だ」といった主張にでもしない限り「親子上場」を問題視するのは難しそうな気がする。

ヤフーとアスクル」のケースは「親子上場」であっても子会社が親会社に異を唱えた好ましいケースではないのか。「おかしい」と思っても親会社の命令にただ従うだけの上場子会社に見習ってほしいぐらいだ。ただ、経営方針に関して対立すれば最終的には親会社の意向が通る。それも当たり前の話だ。

ヤフーとアスクル」の件を「親子上場の問題点浮き彫り」と捉えるのは、やはり無理がある。


※今回取り上げた記事「アスクル社外役員が会見『上場会社の統治無視』 社長再任、ヤフーが反対 親子上場の問題点浮き彫り
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190724&ng=DGKKZO47685930T20C19A7TJ2000


※記事の評価はC(平均的)。

2019年7月23日火曜日

FACTA「アップルがJDIにお香典」で大西康之氏の説明に矛盾

ジャーナリストの大西康之氏に言わせれば「アップル」は「設備投資のリスクは全て部品メーカーと鴻海(ホンハイ)精密工業などのEMS(電子機器の受託製造サービス)に押し付け」ているらしい。一方で、「JDIが経営破綻するとJDIが白山工場を建設する時に出した前受金が焦げ付く」リスクがあるともFACTA8月号に書いている。この矛盾について以下の内容で問い合わせを送ってみた。
感仙殿(仙台市)※写真と本文は無関係です


【FACTAへの問い合わせ】

大西康之様  FACTA 主筆 阿部重夫様  発行人 宮嶋巌様  編集長 宮﨑知己様

8月号の「アップルがJDIに『お香典』」という記事についてお尋ねします。質問は以下の3件です。

<質問1>

まず問題としたいのは「自らは工場を持たず、設備投資のリスクは全て部品メーカーと鴻海(ホンハイ)精密工業などのEMS(電子機器の受託製造サービス)に押し付ける、あのアップルが、JDIだけを特別扱いするとは思えない」との記述です。

ここからは「アップル」が「設備投資のリスクは全て部品メーカーと鴻海(ホンハイ)精密工業などのEMS(電子機器の受託製造サービス)に押し付け」ていると取れます。しかし記事には「アップルが『死に体』のJDIに出資するのは、現時点でJDIが経営破綻するとJDIが白山工場を建設する時に出した前受金が焦げ付くからだろう。16年に稼働した白山工場は1700億円に及ぶ建設資金の大半をアップルからの前受金で賄った」との説明が出てきます。

JDIが経営破綻するとJDIが白山工場を建設する時に出した前受金が焦げ付く」リスクがあるのならば「設備投資のリスクは全て部品メーカーと鴻海(ホンハイ)精密工業などのEMS(電子機器の受託製造サービス)に押し付け」ているとは言えません。

MONOistの「『アップル=ファブレス』はもう古い、モノづくりの王道へ回帰」という2018年3月8日付の記事には以下の記述があります。

「(アップルの)設備施設については『ファブレスモデルから、自らも設備施設負担を背負う設備集約型モデルへと切り替えた』(百嶋氏)と指摘する。投資を進めているのは、1つは切削加工機やレーザー加工機などの工作機械で、それらは大量に購入し製造委託先にレシピを添えて貸与している。もう1つはキーデバイスの製造装置で、中小型液晶パネル、NAND型フラッシュメモリなどの有力デバイスメーカーの投資資金を同社が負担し専用工場化するというものだ。その方式は2つあるという。1つ目は設備そのものをアップルが所有するやり方で、有形固定資産としてバランスシートにも記載している。2つ目のやり方は前払い金の支払いをして、設備投資をしてもらい長期供給契約を結ぶやり方だ

JDI」のケースは「前払い金の支払いをして、設備投資をしてもらい長期供給契約を結ぶやり方」だと思えます。だとすると「自らは工場を持たず、設備投資のリスクは全て部品メーカーと鴻海(ホンハイ)精密工業などのEMS(電子機器の受託製造サービス)に押し付ける、あのアップル」との記述は間違っているのではありませんか。記事に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。


<質問2>

次に問題としたいのが「本誌は『アップルが2020年からスマホ新機種は全モデルをOLED(有機EL)にする』という衝撃的な情報を得た。ということは、売上高の過半をアップル向け液晶パネルで稼ぐJDIの余命は1年を切っている」というくだりです。

この「情報」が正しければ「アップル」は「2020年からスマホ新機種は全モデルをOLED(有機EL)にする」はずです。なのに同じ記事で「20年の春に発売される小型モデル『SE』の後継機には液晶パネルが採用されるため、アップル向けの液晶はゼロにはならない」とも書いています。矛盾していませんか。「『SE』の後継機」は「スマホ新機種」ではないのですか。

付け加えると「2020年からスマホ新機種は全モデルをOLED(有機EL)にする→JDIの余命は1年を切っている」という見立ては単純すぎます。仮に売り上げが急減するとしても、すぐに破綻するとは限りません。「JDIの余命は1年を切っている」と断言して大丈夫ですか。

大西様は2017年7月号に載った「時間切れ『東芝倒産』」という記事の最後で「もはや行き着く先は決まっている。東芝の経営破綻だ」と言い切りました。しかし2年経っても「経営破綻」に至っていません。予測が外れるのは仕方ないのですが、大西様は東芝の件で「なぜ判断を誤ったのか」の総括ができていません。そして今回の「JDIの余命は1年を切っている」です。まともに受け取る気にはなれません。


<質問3>

次は以下のくだりについてです。

及び腰の嘉実基金、オアシスだったが、アップルが出資の意向を示すと、『条件付き』ながら出資する方向で合意した。嘉実基金が出す522億円のうち、107億円はアップルが拠出する方向だ。オアシスと合わせ、JDIが調達する資金は総額683億円となり、目標の800億円には届かないものの、ひとまず破綻は免れた

目標の800億円には届かない」と書いていますが、違うのではありませんか。「経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)は12日、同社を支援する予定の中国の投資会社から、約800億円の金融支援を実施するメドがついたという通知を受けたと発表した」と日本経済新聞も書いています。7月12日時点で「約800億円の金融支援を実施するメドがついた」との情報は、JDIの発表ですから大西様も得られたはずです。なのに記事では「目標の800億円には届かない」と断定しています。

記事の締め切りがいつか分かりませんが「約800億円の金融支援を実施するメドがついた」という情報は入れられたのではありませんか。時間的余裕があった場合、記事に手を加えなかったのはなぜですか。

問い合わせは以上です。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「アップルがJDIに『お香典』
https://facta.co.jp/article/201908006.html


※記事の評価はE(大いに問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html

「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html

大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/facta.html

FACTA「デサント牛耳る番頭4人組」でも問題目立つ大西康之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/facta4.html

大西康之氏に「JIC騒動の真相」を書かせるFACTAの無謀
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/jicfacta.html

FACTAと大西康之氏に問う「 JIC問題、過去の記事と辻褄合う?」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/facta-jic.html

「JDIに注がれた血税が消える」?FACTAで大西康之氏が奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/jdifacta.html

2019年7月22日月曜日

「ダイバーシティー推進で企業はもうかる」と断定する上野千鶴子氏の誤解

日経ビジネス7月22日号の「有訓無訓~日本型雇用は岩盤規制だ 『男性稼ぎ主モデル』では 日本企業は沈没する」という記事では、NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長の上野千鶴子氏による雑な主張が目に付いた。特に引っかかったのが「ダイバーシティーを推進すると企業はもうかるということも結論が出ています」との記述だ。本当にそんな「結論」が出ているのか。
グラバー園の旧リンガー住宅(長崎市)
      ※写真と本文は無関係です

まずは2015年9月18日付でダイヤモンドオンラインに載った「ダイバーシティは会社の業績を悪化させる?」という記事の一部を見ていこう。この記事は「グレートカンパニー――優れた経営者が数字よりも大切にしている5つの条件」という本の内容を紹介したものらしい。

【ダイヤモンドオンラインの記事】

しかし研究調査では、人種・民族や性別の多様性がチームの業績にプラスの効果を確実にもたらすことが明らかにされていないのだ。実際、MITスローン経営大学院(通称MITスローンスクール)のトーマス・コーチャン教授の受賞した論文では、ダイバーシティに関する問題はいまだに予算が充てられるのが難しい状況だ、と結論が下されている。

五年にわたる研究調査に基づき、コーチャンとそのチームは次のように言いきった。「多様性が組織のなかで果たす役割を人々があまり意識していない場合、人種や性別が多様であっても、取り組んでいる仕事の業績に好影響はとくにないことがわかった

実は、ダイバーシティはチームのコミュニケーションによくない影響をもたらす場合があることが、多くの研究によって明らかにされているのだ。多様であるせいで、業績が低下したりチームメンバーの満足度が下がってしまったりする可能性もある。別の言い方をすれば、チームメンバーが仕事にもたらすさまざまな見方や行動、態度、価値観が、共有することに悪影響を及ぼす可能性がある、ということだ。

◇   ◇   ◇

この記事だけではない。「原因と結果の経済学」(著者は中室牧子氏と津川友介氏)という本では以下のように書いている。

【「原因と結果の経済学」から】

ノルウェーでは、女性取締役比率が2008年までに40%に満たない企業を解散させるという衝撃的な法律が議会を通過した。南カリフォルニア大学のケネス・アハーンらは、この状況を利用して、女性取締役比率と企業価値のあいだに因果関係があるかを検証しようとした。

(中略)アハーンらが示した結果は驚くべきものだ。女性取締役比率の上昇は企業価値を低下させることが示唆されたのだ。具体的には、女性取締役を10%増加させた場合、企業価値は12.4%低下することが明らかになった



◎何を根拠に断定?

上野氏は何を根拠に「ダイバーシティーを推進すると企業はもうかるということも結論が出ています」と断定したのだろうか。「ダイバーシティーを推進すると企業はもうかる」という見方を支持する調査もあるかもしれない。だが、そうではないものもある。その場合に根拠も示さず「結論が出ています」と言い切ってよいのか。上野千鶴子氏の主張は疑ってかかる必要がありそうだ。

上野氏の主張には他にも色々と疑問を感じた。記事の一部を見てみよう。

【日経ビジネスの記事】

はっきりと書いてください。「日本型雇用は岩盤規制だ」って。何で女性が企業の中で活躍できないのかというと、基本的に日本型雇用には組織的、構造的に女性を排除する効果があるからです。これを「間接差別」と言います。「女性を排除する」とは直接的にはどこにも書かれていないので。



◎「女性が企業の中で活躍できない」?

まず「女性が企業の中で活躍できない」という前提に同意できない。日本企業では多くの女性が働いていて、その「活躍」に支えられている面が大きいと感じる。「女性が企業の中で活躍できない」と上野氏が言うのならば、「活躍」の定義を示した上で、「活躍」できていないと断定できる根拠を示してほしい。

さらに記事を見ていく。

【日経ビジネスの記事】

あるシステムが、男性もしくは女性のいずれかの集団に著しく有利、もしくは不利に働くとき、それを「性差別」と言います。日本型雇用は「男性稼ぎ主モデル」。夫が一家の大黒柱となり、妻が家事と育児を一手に引き受けることが前提で、今日に至るまで結局、何も変わりませんでした

そんな企業社会に男性と同じ条件で女性に「入って来い」と言ってもムリです。男女雇用機会均等法や女性活躍推進法ができましたが、実効性のある罰則規定がありません。冗談みたいな法律ですよ。


◎そんな「前提」ある?

日本型雇用は『男性稼ぎ主モデル』。夫が一家の大黒柱となり、妻が家事と育児を一手に引き受けることが前提で、今日に至るまで結局、何も変わりませんでした」と上野氏は言う。本当にそんな「前提」があるのか。「今日に至るまで結局、何も変わりませんでした」という説明が正しいのならば、今でも日本企業で働く男性は「家事と育児」に一切関与していないのだろう。しかし、少なくとも今はそうした男性は稀だと思える。

そんな企業社会に男性と同じ条件で女性に『入って来い』と言ってもムリです」という説明にも同意できない。簡単な話だ。「女性」が「大黒柱」になって「」に「家事と育児」をやらせればいい。専業主夫になってもいいという男性はそこそこいる。「ムリ」と言うより、女性が「大黒柱」になりたがらない傾向が強いだけではないか。

そもそも「そんな企業社会に男性と同じ条件」で入ってくる女性はたくさんいるし、長く勤めて出世する人も珍しくない。「ムリ」なのになぜ大勢入ってくるのかを上野氏には考えてほしい。

さらに言えば、「日本型雇用は『男性稼ぎ主モデル』」で「夫が一家の大黒柱となり、妻が家事と育児を一手に引き受けることが前提」だとしても「男性もしくは女性のいずれかの集団に著しく有利、もしくは不利に働く」とは限らない。

上野氏は「男性稼ぎ主モデル」が「男性」に「有利」で「女性」に不利だと見ているのだろう。個人的には逆だと感じる。

日本企業はまるで、軍隊組織です」とも上野氏は述べている。「軍隊組織」のような「日本企業」で働くか、それとも「家事と育児を一手に引き受ける」か選べるのならば、迷わず後者だ。「家事と育児」に関われず、「軍隊組織」のような「日本企業」で60代半ばまで“兵役”を科されるのは、そんなに「有利」なことなのか。

上野氏に関しては、とりあえず「雑で強引な主張を展開する人物」と見ておくべきだろう。


※今回取り上げた記事「有訓無訓~日本型雇用は岩盤規制だ 『男性稼ぎ主モデル』では 日本企業は沈没する」
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00113/00027/


※記事の評価はC(平均的)。ただ、人選には問題がある。

2019年7月21日日曜日

ニュース価値ある? 日経「ローソン、外国籍バイト接客向上」

「ニュース記事の書き方が全く分かっていないのかな」と思える記事が21日の日本経済新聞朝刊総合5面に載っていた。「ローソン、外国籍バイト接客向上~都内で研修」という記事の全文を見た上で問題点を指摘したい。
長崎港(長崎市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

ローソンは20日、都内で外国籍アルバイト従業員の受け答えといった接客する力を高める研修をした。従業員と店舗オーナーらが対象。コンビニエンスストアでは人手不足が深刻になるなか外国人従業員の存在感が増しており、教育体制の強化が課題になっている。

ローソンでは外国籍のアルバイト従業員が約1万3千人と全体のおよそ6.8%を占める。東京23区内に限れば約40%に上るという。

同社はオーナーらにはわかりやすい日本語での指示の仕方のほか、法定の時間を超えて勤務させないといった法律上の注意点を伝えた。参加したインドからの留学生、バラドワジュ・スワンシュさんは「敬語の発音の仕方が勉強になった」と話した。

ローソン10店を経営する元川寛都さんは「日本人のアルバイトは集まりにくく、外国籍の人を戦力に育てないといけない」と真剣な面持ちだった。


◎何が「ニュース」?

ニュース記事を書く時には「何がニュースなのか」をしっかり考える必要がある。上記の記事は見出し3段の写真付き。扱いはそこそこ大きい。しかし、どこに目新しさがあるのか分からない。

例えば「外国籍アルバイト従業員」向けの「研修」を「コンビニエンスストア」として初めてやったという話ならば、ニュースとしての価値を感じる。「ローソン」として初めてでも3段見出しならば問題ない。しかし、記事にはそうした情報が全くない。

従業員と店舗オーナーらが対象」とは書いているが、対象地域は「都内」かどうかも判然としない。研修に参加した人数も不明だ。

そうしたことをしっかり書き込んだ上で、余裕があれば「ローソン10店を経営する元川寛都さんは『日本人のアルバイトは集まりにくく、外国籍の人を戦力に育てないといけない』と真剣な面持ちだった」といった話を盛り込んでもいい。肝心な情報が抜けたままで、この手のコメントを差し込むのはダメだ。

この記事は「ローソン」にとってありがたい内容かもしれない。しかし日経にカネを払っている普通の読者にとっては、紙面の無駄使いと言える中身だ。

記事を書いた記者が若手であれば、ニュース記事を書く上での基礎的な技術が身に付いていないくてもまだ許せる。問題は企業報道部の担当デスクだ。この記事をそのまま載せてよいと思えたのならば、デスクとしては絶望的だ。そういう人物が指導的立場にいて記事のチェックをしていると考えると恐ろしい。


※今回取り上げた記事「ローソン、外国籍バイト接客向上~都内で研修
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190721&ng=DGKKZO47589320Q9A720C1EA5000


※記事の評価はD(問題あり)。

2019年7月20日土曜日

「学閥序列マップ」の間違い指摘に週刊ダイヤモンドが回答

週刊ダイヤモンド7月13日号の特集「新OBネットワーク~早慶 東大 一橋 名門高校」に出てくる「エリア別 大学・高校学閥序列マップ」関して問い合わせを4件送り、最後の問い合わせを送ってから9日後に回答が届いた。時間はかかったが、逃げずに向き合ったことは評価したい。内容は以下の通り。
石巻商工信用組合 本店営業部(宮城県石巻市)
        ※写真と本文は無関係です


【ダイヤモンドの回答】

●関東エリア

質問1~「3番手国立大学」と言えますか?

マップでは東京外語大、お茶の水女子大、筑波大、横浜国立大、首都大学東京、千葉大の6校を「一橋、東工大に次ぐ3番手国公立大学」としています。しかし「一橋、東工大」の上に東大があるので「3番手」とはなり得ません。「4番手国公立大学」の誤りではありませんか。

(回答)

この「エリア別大学・高校学閥序列マップ」においては、1番手、2番手、3番手など、いずれもグループとして括っております。よって一橋大学閥、東京工業大学閥を2番手グループとし、東京外国語大学閥など6国公立大学は4番手でなく、「3番手グループ」と位置付け、表現しております。このような捉え方は、取材した学校・学習塾関係者の共通認識となっており、弊誌もそれに沿っております。


質問2~「トップ2」と言えますか?

マップでは一橋大と東工大に関して「東大に次ぐトップ2」と説明していますが、東大が「トップ」ならば一橋大と東工大は「トップ2」とはなり得ません。「東大に次ぐ2番手2校」などとしないと成立しないのではありませんか。

(回答)

通常であればご指摘のように「2番手2校」と記載するところですが、取材した学校・学習塾関係者は、一橋大学閥、東京工業大学閥の2つを、早慶を含めた2番手グループの中の「トップ2」と称する場合が多いため、そのように記載いたしました。


質問3~「No.3」と言えますか?

「東京都別格」ではNo.1開成、No.2麻布、No.2筑波大付駒場、No.3武蔵となっています。麻布と筑波大付駒場が同格でNo.2ならば武蔵はNo.4ではありませんか。

「東京都別格(女子)」も同様です。豊島岡女子学園がNo.3となっていますが、上に3校あるのでNo.4となるはずです。

「東京都別格」の下の高校にも問題は及びます。No.4に駒場東邦、筑波大付、東京学芸大付、海城、渋谷教育学園渋谷が入りNo.5が桐朋となっています。しかし「東京都別格」として8校が上にあります。なので駒場東邦、筑波大付、東京学芸大付、海城、渋谷教育学園渋谷はNo.9、桐朋はNo.14という「序列」になるのではありませんか。

(回答)

ご質問1への回答と同様、「No.〇」は「No.〇グループ」とし、取材した学校・学習塾関係者の認識に沿って表記しております。取材を基に、武蔵や豊島岡女子学園をNo.4でなく、「No.3グループ」としております。


質問4~3校で「断トツ」と言えますか?

「断トツ」とは「2位以下とは大きな差をつけて首位にある状態」(デジタル大辞泉)のことです。「神奈川県別格(男子女子)」では栄光学園、聖光学園、フェリス女学院の3校について「別格3校が断トツだが横浜翠嵐が追う」と説明しています。「別格3校」が同格ならば「断トツ」とはなり得ません。

例えばプロ野球のセ・リーグで「巨人、阪神、広島の3チームが同率で並び断トツ。それらを横浜が追う」と言われたら変な感じがしませんか。「別格3校」が同じ系列の高校ならばまだ分かりますが、そうではないでしょう。

(回答)

ご質問1、3への回答と同様、男子の栄光学園、聖光学院の2校、女子のフェリス女学院が、それぞれ2位以下とは大きな差をつけた首位グループに位置付けられるという、学校・学習塾関係者の認識に沿って、そのように表現しております。


質問5~「別格」と「断トツ」はどちらが上ですか?

千葉県に関しては渋谷教育学園幕張を1校だけ「千葉県別格」とし「ここ20年で最難関校に」と説明を入れています。しかし、その上に「県立・千葉が断トツの存在感」と出ています。だったら「千葉県別格」は「県立・千葉」でしょう。「断トツの存在感」の高校が別にあるのに、渋谷教育学園幕張のみを「千葉県別格」とするのは無理があります。整合性の問題が生じていませんか。

(回答)

「別格」とは、文字通り格が違う、例外的な存在だと認識されている学校です。「断トツ」は前出のように、同じような集団の中において他を大きく引き離している学校ということになります。別格と断トツを比較すると、この場合、別格のほうが上となります。図にあるとおり、県立・千葉は、渋谷教育学園幕張と同列の別格とまではいえない、ただし、県内の数ある公立高校で断トツの存在感がある、という学校・学習塾関係者の見方を、そのように表現したものです。


質問6~「北関東エリア」になぜ大学がないのですか?

マップでは「東北大志向強めの北関東エリア」を右端に置き、破線を引いて他の「関東」と分けています。この中に群馬大、茨城大、宇都宮大、筑波大などの北関東の大学は入っていません。「北関東エリア」を別枠にするならば大学も当然に入るはずですが、なぜそうなっていないのですか。

群馬大、茨城大、宇都宮大については「県庁など、地元では天下」との説明を付けています。だとすると当然に「北関東エリア」で学閥を形成しているはずです。

(回答)

北関東ではトップ高校の学閥の影響が強く、大学段階では少なからぬ学生が東北の方に流れている実情があり、ご指摘の群馬大学、茨城大学、宇都宮大学については、県庁閥は存在するものの、その他と比べて強い学閥を形成しているとはいえない、という学校・学習塾関係者に基づいて、北関東の部分に大学を記載しておりません。なお、筑波大学は北関東に位置するものの、学校・学習塾関係者からは、関東主要大学グループの一部と認識されていることから、北関東ではないエリアに掲載しております。


質問7~「教員閥」に東京学芸大、筑波大はなぜ入らないのですか?

マップで緑色のエリアは「教員閥」を表していると思われます。しかし、東京学芸大と筑波大は緑色になっていません。なのに、それぞれに「東日本最強の小中教員閥」「教員閥の聖地!!」という説明が付いています。なぜ両校を緑色にしなかったのですか。

(回答)

マップにおいては、緑色で示した教員閥のグループ、白色で示した一般的な序列グループの2つが併存しています。それには下の3パターンがあり、それぞれに以下の通りとなっています。

1.白いグループの上に緑色のグループが覆いかぶさっている大学(文教大学閥など)
→白いグループの学閥の影響力よりも、教員閥としての影響力が強い大学です。

2.緑色のグループの上に白いグループが覆いかぶさっている大学(東京学芸大学閥)
→教員閥の影響力も強いが、序列グループの影響力がそれをやや上回っている大学です。

3.教員閥とコメントがあるが、教員閥のグループに入っていない大学(筑波大学閥)
→教員閥もあるが、大学全体としては一般的な序列がそれを凌駕しているため、あえて緑色のエリアに載せておりません。ただし、教員閥としても非常に強い影響力は保持しているためコメントにて追記した次第です。

疑問点のご指摘をありがとうございました。他の読者からお問い合わせがあった場合、同様のご説明をいたします。


質問8~慶応系高校から早大閥に「流入」しますか?

マップでは「慶応義塾大学系高校閥」から大きな矢印が出て「早稲田大学閥」に向かっており、そこには「小学校から私立という超お金持ちが流入」という説明が付いています。素直に解釈すれば「慶応義塾大学系高校」出身者が「早稲田大学閥」を作る傾向が強まっているのでしょう。しかし常識的には考えられません。どう理解すればよいのですか。

(回答)

青い矢印は、「エリアに流入している」という状況を示したものです。慶應義塾系、早稲田系高校閥の両方から出ている矢印が、慶應義塾大学閥と早稲田大学閥の両方がある薄いオレンジのエリアに向かっていることを表現しております。なお、矢印の先が主に早稲田大学閥へ向いているのは、入学者数・流入数の多さ、学校・学習塾関係者への取材で指摘を受けた全国的な影響力の大きさなどを反映させております。

疑問点のご指摘をありがとうございました。他の読者からお問い合わせがあった場合、同様のご説明をいたします。



●中部エリア

質問1~「慶応大学閥」がなぜないのですか?

マップの隣に「トヨタを慶應に取られた名古屋大の切歯扼腕」という記事があり、そこでは「ところが、そこに割って入ってきた新たな学閥が、章男氏の母校である慶應義塾大学の同窓会、『名古屋三田会』だ。『トヨタを含め中部経済界での慶應の存在感は高まるばかり』と別の名大OBは歯ぎしりする」と解説しています。

しかしマップでは「名古屋大学閥」に続くのは「新潟大学閥」「金沢大学閥」などで「慶應」の文字は見当たりません。他地域の大学は除外してマップを作っているかと言うと、そうでもなく「MARCH学閥」「関関同立学閥」などはしっかり出てきます。

マップに「慶應義塾大学閥」を入れ忘れたのではありませんか。そうではない場合、どう理解すればよいのでしょうか。

(回答)

中部地方の学閥序列マップは、関西地方などと比べ盛り沢山になっており、いくつかの要素を省いております。タイトルにある慶應義塾大学閥についての記述はその一つです。より卒業生数の多いMARCHや関関同立についての記述を優先させております。


質問2~「別格」なのに同格ですか?

マップの「愛知公立トップ6」ではNo.1が旭丘と岡崎です。となれば両校は同格のはずですが、旭丘を「別格」として一段上の場所に置いています。矛盾していませんか。両校がともに「愛知公立トップ6」のNo.1ならば、旭丘だけが「別格」とはなり得ません。旭丘だけが「別格」のNo.1ならば岡崎はNo.2となるはずです。

「愛知公立トップ6」の残り4校をNo.2とするのも誤りではありませんか。旭丘、岡崎が上にいるのならば、No.3より下にしかなれません。

「愛知私立トップ2」でも同じ問題が生じています。東海と南山(女子部)がNo.1ですが、東海を「別格」にしています。また、2校の下に置いた滝をNo.2、その下の海陽中教をNo.3としていますが、それぞれNo.3とNo.4のはずです。

(回答)

「旭丘は別格」であることと「旭丘と岡崎はNo.1グループを形成している」ことは、確かに矛盾するといえます。しかし、これらは取材した学校・学習塾関係者の認識、序列意識をあえて忠実に表現した結果です。一般的な物差しと違って「岡崎は2番手グループ」とは見られておりません。私立高校についても同様です。


質問3~「北信越地区2番手」と言えますか?

マップでは信州大、山梨大、富山大、福井大を「北信越2番手国立大」に分類しています。しかし、この4校より上位に新潟大学と金沢大学があります。となると4校は「北信越3番手国立大」ではありませんか。

また、「北信越」とは北陸3県(富山県、石川県、福井県)と信越地方(長野県、新潟県)を指すのではありませんか。しかしマップでは山梨県にある「山梨大」が「北信越2番手国立大」に入っています。
                         
(回答)

学校・学習塾関係者は、1番手校、2番手校、3番手校などを個別の学校でなく、グループとして捉えているのが一般的です。本誌もそのような関係者の認識に沿っています。一方で山梨大学は、関係者の間では北信越地域の大学と共に括られることが多いため、そういたしました。



●関西エリア

質問1~神戸高はNo.1と言えますか?

マップの「兵庫公立トップ4」では長田と神戸がNo.1になっているものの「近年逆転」との説明が入り長田を上に置いています。ならば神戸はNo.2ではありませんか。

姫路西と加古川東がNo.2となっているのも問題ありです。長田と神戸が上にいるのですから、両校はNo.3かNo.4のはずです。

(回答)

この「エリア別大学・高校学閥序列マップ」においては、1番手、2番手、3番手など、いずれもグループとして括っております。神戸高閥、長田高閥の序列は、近年逆転はしているものの、いずれも県内トップ高校である事実は変わりないということが、学校・学習塾関係者の共通認識となっており、どちらも「No.1グループ」とし、弊誌もそれに沿って表現しております。また同様に、姫路西高閥と加古川東高閥はNo.3ないしNo.4ではなく「No.2グループ」としております。


質問2~洛北はNo.3と言えますか?

「京都府公立トップ4」はNo.1が堀川、No.2が西京と嵯峨野です。その下の洛北はNo.4のはずですが、No.3になっています。誤りではありませんか。

(回答)

ご質問1への回答と同様、「No.〇」は「No.〇グループ」とし、多くの学校・学習塾関係者の認識に沿って表記しております。洛北高閥はNo.4でなく、「No.3グループ」と位置付けられております。


質問3~矛盾していませんか?

「京都産業大学閥」には「なんとなく警察・消防閥あり」、「龍谷大学閥」には「なんとなく福祉・警察閥あり」との説明が付いています。しかし両校の下に「われわれは学閥をつくりません!」との文言もあります。

「学閥をつくりません!」が事実を反映したものならば「なんとなく警察・消防閥あり」といった状況にはならないはずです。ここはどう理解すればよいのでしょうか。

(回答)

取材の中で京都産業大学、龍谷大学の関係者からは「学閥を作らない」という声が聞かれる一方で、「若干の学閥は存在する」という警察や消防関係者などの認識もあり、これらのいずれも表記いたしました。



●中国・四国エリア

質問1~なぜ「名古屋大」なのですか?

「広島・岡山大学閥より厚い鉄壁の高校閥」という大きめの文字の下に「名古屋大であることより重視~各トップ校のクラス会や部活動のまとまり」との説明があります。マップの隣に載せた「『中国・四国は“植民地”』──帝大不在が招いた関西閥」という記事を信じれば「中国・四国」は「関西閥」が強いはずです。

なのに「広島・岡山大学学閥」でも「関西閥」でもなく「名古屋大」が出てくるのは奇妙です。ちなみに「中部」のマップにも「名古屋大であることより重視~各トップ校のクラス会や部活動のまとまり」という全く同じ説明があります。マップ作成時にこれをコピーして「中国・四国」に持ってきた時に、「名古屋大」という表記を他大学名と置き換えるのを忘れたのではありませんか。問題なしとの判断であれば、なぜ「名古屋大であることより重視」としたのか教えてください。

(回答)

誤りをご指摘いただき、ありがとうございます。2019年7月20日号の118㌻「訂正とお詫び」において、71㌻図中「鉄壁の高校閥」の下の「名古屋大であることより重視」を削除します、と訂正いたしました。


質問2~大学閥の順番が大きく違ってませんか?

マップでは「広島大学閥」と「岡山大学閥」を同格とし、少し下に「山口大学閥」を置いています。さらに下の「愛媛大学、香川大学などの中国・四国の大学閥」を「2番手国立大」としてまとめています。

この序列に従えば「山口大学閥」が3番手で「愛媛大学、香川大学などの中国・四国の大学閥」は「4番手国立大」となるはずです。

(回答)

この「エリア別大学・高校学閥序列マップ」においては、1番手、2番手、3番手など、いずれもグループとして括っております。よって、「愛媛大学、香川大学などの中国・四国の大学閥」は、1番手グループの広島・岡山大学閥に次ぐ2番手グループと位置付け、表現しております。なお、山口大学閥は、1番手と2番手グループの間に位置すると関係者の取材に基づき、ここでは2番手グループには入れず、あえて他のグループとは独立した位置づけの大学であることを示しました。このような捉え方は、取材した学校・学習塾関係者の共通認識となっており、弊誌もそれに沿っております。


質問3~松山東高は「断トツ県内1強」ですか?

マップでは「愛媛県」を「ライバル不在!! 1強の高校閥エリア」とした上で、松山東を「断トツ県内1強」と説明しています。しかし、その上を見ると「1960年代から四国トップ」の愛光が「別格」で君臨していて、しかも松山東から愛光には「意識」と書かれた矢印が向かっています。

同じ県に格上の高校が「別格」で存在していて、そこを意識している高校が「断トツ県内1強」と言えるでしょうか。「愛媛県」を「ライバル不在!! 1強の高校閥エリア」とするならば、その「1強」は愛光のはずです。松山東を「断トツ県内1強」とするのは誤りではありませんか。

(回答)

「別格」とは文字通り格が違う存在だと認識されている学校、「断トツ」は同じような集団の中において他を大きく引き離している学校ということになります。別格と断トツを比較すると、この場合、別格のほうが上となります。図にあるとおり、学校・学習塾関係者の認識では松山東高閥が「断トツ」の存在と長らく認識されています。さらに、その松山東高閥を筆頭としたグループには属さない別格として、愛光高閥が存在しています。このような関係者の見方を忠実に表現しています。


質問4~「広島県」の順番が違っていませんか?

マップでは「広島県トップ2」の広島学院と広島大付福山をNo.1、「広島トップ2に続く方々」の修道と広島大付をNo.2、基町、広島、舟入、ノートルダム清心をNO.3としています。しかし、修道と広島大付をNo.3、さらに基町、広島、舟入、ノートルダム清心をNO.5にしないと辻褄が合いません。

(回答)

ご質問2への回答と同様、「No.〇」は「No.〇グループ」としておりますので、修道高閥と広島大付高閥をNo.3ではなく、「No.2グループ」、基町高閥、広島高閥、舟入高閥、ノートルダム清心高閥は「No.3グループ」となります。


質問5~徳山高と宇部高はNo.2ですか?

「山口県トップ4」にも同様の問題があります。下関西と山口が同格でNo.1ならば、徳山と宇部はNo.3以下になるはずですが、No.2と表記しています。誤りではありませんか。

(回答)

同様に、徳山高閥と宇部高閥はNo.3以下ではなく、「No.2グループ」と位置付けられます。

◇   ◇   ◇

ダイヤモンドからの回答は以上。

No.1、No.2、No.3の順番が合わない問題については「グループ」として位置付けているとするしかないとは思う。問い合わせの際もそうした注記があるのか調べたが、見当たらなかった。

No.1、No.2、No.3と学校ごとに順番を付けた場合、普通はそれぞれをグループとは見なさない。例えば今回の特集では「福岡御三家」で修猷館高がNo.1、福岡高がNo.2、筑紫丘高がNo.3だ。これを見て「それぞれが1校でグループを形成している」と思うだろうか。

この件に限らず、回答の内容には苦しいものが目立つ。一方で全ての問い合わせにきちんと答えているとも言える。田中博氏や深澤献氏が編集長を務めた暗黒時代には考えられなかったことだ。

ライバルの週刊東洋経済は、高橋由里氏から西村豪太氏を経て今の山田俊浩氏まで3代続けて間違い指摘の無視を続けている。その点ではダイヤモンドがライバルに差を付けている。

最後に、今回の特集に関してダイヤモンドが出した「訂正とお詫び」の内容を参考までに載せておきたい。

【訂正とお詫び】

●本誌7月13日号33ページ図中、神奈川県医学部、経済界閥のNo.1を聖光学院高閥へ、54ページ本文と55、56ページ図中、武藤敏郎氏の肩書を大和総研名誉理事へ、58ページ本文中、Yahoo!アカデミア学長名を伊藤羊一氏へと訂正します。また63ページ図中、福島県のNo.1を「県北に学閥 福島・県立高閥」、No.2を「県央に学閥、県内最古、安積高閥」へと訂正し、71ページ図中「鉄壁の高校閥」の下の「名古屋大であることより重視」を削除します。


※今回取り上げた特集「新OBネットワーク~早慶 東大 一橋 名門高校
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/26987


※特集への評価はD(問題あり)。担当者らへの評価は以下の通りとする(敬称略)。

小栗正嗣(暫定B→暫定C)
重石岳史(C→D)
鈴木洋子(C→D)
西田浩史(D据え置き)
藤田章夫(D据え置き)
宮原啓彰(B→C)


※週刊ダイヤモンドの過去の大学関連特集については以下の投稿を参照してほしい。

「学閥」に疑問残る 週刊ダイヤモンド特集「医学部&医者」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_15.html

説明が雑な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_19.html

「医学部への道」が奇妙な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_54.html

3番手でも「2番手グループ」?  週刊ダイヤモンド医学部特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_73.html

近大は「医科大学」? 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_18.html

昔の津田塾は「女の東大」? 週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_11.html

偏差値トップは東大理3? 週刊ダイヤモンド「大学序列」の矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_68.html

九州知らずが目立つ週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_17.html

北海道は「第二の総合大学」空白地帯? 週刊ダイヤモンドの矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_15.html

東北福祉大も「地元では天下」?  週刊ダイヤモンド「大学 学部序列」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_16.html

「理系は名城大がトップ」が苦しい週刊ダイヤモンド「大学 学部序列」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_17.html

「社長の息子が多い」に根拠欠く週刊ダイヤモンド「御曹司大学」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_10.html

「武蔵大」の分類に矛盾あり 週刊ダイヤモンド「御曹司大学」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_12.html

法政大の前身は「航空工業専門学校」と誤解した週刊ダイヤモンド
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_41.html

明治学院大の前身は「協会専門学校」と週刊ダイヤモンドは言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_13.html

2019年7月19日金曜日

日経夕刊1面「ネットフリックス急減速」が触れていない肝心なこと

18日の日本経済新聞夕刊1面に佐藤浩実記者が「ネットフリックス急減速 4~6月、有料会員伸び鈍化」という記事を書いている。この見出しで1面に記事を持っていくならば「急減速」 を数字で見せる必要がある。しかし、それができていない。
金華山黄金山神社(宮城県石巻市)
      ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

動画配信最大手の米ネットフリックスが17日発表した2019年4~6月期の売上高は、前年同期比26%増の49億2311万ドル(約5310億円)だった。増収は確保したが、世界の有料会員数は1億5156万人と3月末比で270万人の増加にとどまり、会社予想の「500万人の増加」を下回った。1月に値上げした米国は12万6千人の減少に転じており、成長を維持できるかどうか不透明感も出てきた。

リード・ヘイスティングス最高経営責任者(CEO)は投資家への書簡で、有料会員数が予想に達しなかったことについて、「環境は変わっておらず競争が要因だとは考えていない」と説明した。伸びが鈍化した要因は「コンテンツ」としており、7~9月期は世界で700万人の増加を見込んでいる。

しかし、動画配信の競争は今後激しくなる。今秋にはアップルとウォルト・ディズニーが独自の動画配信サービスを始め、AT&T系のワーナーメディアやコムキャスト傘下のNBCユニバーサルも20年に参入する。


◎過去の「伸び」はどうだった?

見出しから判断すれば「ネットフリックス」の「有料会員」増加ペースは急速に落ちているはずだ。しかし、それを裏付けるデータが見当たらない。「世界の有料会員数は1億5156万人と3月末比で270万人の増加にとどまり、会社予想の『500万人の増加』を下回った」からと言って「急減速」しているとは限らない。「270万人の増加」が四半期の増加数では過去最高かもしれない。

実際には「伸びが鈍化」しているのだろう。それを読者に納得してもらうためには「1~3月期」の増加数は欲しい。「急減速」を柱に据えるならば、もう少し長い期間で見た増加数の推移も入れたくなる。また「270万人の増加」がいつ以来の低水準なのかもあった方がいい。

書き出しも変えた方がいいだろう。佐藤記者は「動画配信最大手の米ネットフリックスが17日発表した2019年4~6月期の売上高は、前年同期比26%増の49億2311万ドル(約5310億円)だった」と最初に述べている。これは見出しと合っていない。

ネットフリックス急減速」という情報のニュース価値が高いと判断したから1面に持ってきたはずだ。ならば書き出しは「動画配信最大手の米ネットフリックスは有料会員の伸びが急速に鈍ってきた。世界の有料会員数は1億5156万人と3月末比で270万人の増加にとどまり~」などとした方が好ましい。

4~6月期の売上高は、前年同期比26%増の49億2311万ドル」といった情報はかなり後ろの段落に入れれば十分だ。それより「有料会員数」の伸びに関する情報をしっかり伝えたい。

1面に記事を持っていくとはどういうことなのか。そのために記事はどう構成すべきなのか。佐藤記者や国際部の担当デスクはもう一度考えてほしい。


※今回取り上げた記事「ネットフリックス急減速 4~6月、有料会員伸び鈍化
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190718&ng=DGKKZO47465530Y9A710C1MM0000


※記事の評価はD(問題あり)。佐藤浩実記者への評価も暫定でDとする。

2019年7月17日水曜日

「TPP11とEUの大連携」を日経 滝田洋一編集委員は「秘策」と言うが…

15日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「核心~自由貿易 巻き返しへ秘策」という記事はツッコミどころが多かった。冒頭で筆者の滝田洋一編集委員は以下のように記している。
石巻駅(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

米中の通商摩擦や保護主義の台頭が、世界経済に暗雲となって垂れ込めている。米国や中国に直接働きかけても埒(らち)が開かない。それなら環太平洋経済連携協定(TPP11)と欧州連合(EU)が手を結び、巨大自由貿易圏をつくってはどうだろう

活発に政策提言をするフランスのザキ・ライディ・パリ政治学院教授、経済財政諮問会議メンバーである竹森俊平慶大教授らが提唱した。単に保護主義反対と言ったところで、話は前に進まない。日欧による米国への対抗軸と受け取られない配慮は必要だが、ここはひとつ大風呂敷を広げてみるときではあるまいか



◎「直接働きかけても埒が開かない」相手なら…

環太平洋経済連携協定(TPP11)と欧州連合(EU)が手を結び、巨大自由貿易圏」を作るのが「秘策」らしい。しかし「日欧による米国への対抗軸と受け取られない配慮は必要」だと言う。

なぜ必要なのかは不明だが、取りあえず受け入れてみよう。しかし「直接働きかけても埒が開かない」米国にどうやって「配慮」するのか。記事では最後の方でも「日欧間で米国を無視するかのような貿易圏構想が浮上しているといった誤解を招くのは禁物だ。そこを十分に配慮するとしても~」と書いている。

そもそも「米国や中国に直接働きかけても埒が開かない」からTPP11とEUで手を結ぼうという発想のはずだ。だとしたら「米国を無視するかのような貿易圏構想」との認識は「誤解」とは言えない。

誤解」されたらマイナスの方が大きい「構想」ならば、実現には動かない方が良いだろう。とても「秘策」とは言えない。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

2017年に発足したトランプ政権の初仕事がTPPからの離脱だった。多国間の貿易協定では米国の声が通らず利益を損なう。2国間の交渉でこそ米国の主張を貫ける――。大統領がそんな姿勢を鮮明にするなか、自由貿易協定(FTA)は大きな逆風にさらされている

日本貿易振興機構(ジェトロ)によれば、18年末時点で発効済みのFTAの数は全世界で309件にのぼる。とはいえ18年に発効したFTAは合わせて5件にとどまり、17年の10件に比べて半減した。05~09年の5年間に79件、10~14年には67件のFTAが発効したのと比べて、明らかにペースは落ちている

ならば、自由貿易に向けた巻き返し策はないか。TPP11とEUの大連携の構想は、そんな発想から生まれた。



◎根拠になる?

FTAが発効」する「ペース」が「落ちている」ことを根拠に「自由貿易協定(FTA)は大きな逆風にさらされている」と滝田編集委員は解説している。これは奇妙だ。

各国が必要とする「FTA」を実現させてしまえば、最終的には「FTA」の新規発効はゼロになるはずだ。だからと言って、その時点で「FTA」が「大きな逆風にさらされ」る訳ではない。

例えば国連で新規加盟がどんどん減り、全ての国が加盟したために最終的に新規加盟ゼロが常態化したとしよう。この場合、国連は「大きな逆風にさらされている」と考えるべきだろうか。

さらに記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

日本は18年12月、アジア・太平洋の国々とTPP11を発効させた。米国が抜けた痛手にめげず努力を続けた成果が実った。19年2月には日本とEUの間で経済連携協定(EPA)が発効。その延長線上でアジア・太平洋と欧州に架橋しようというのである



◎既に「架橋」できているのでは?

上記の説明だと「TPP11」の中で「EU」と「経済連携協定(EPA)」を結んでいるのは「日本」だけとの印象を受ける。しかし、報道によると、ベトナムやシンガポールは締結済みで、メキシコやオーストラリアも交渉を進めているようだ。

TPP11とEUの大連携」によって日本以外でも「アジア・太平洋と欧州に架橋」が実現すると捉えるのはやや無理がある。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

このTPP11とEUの大連携の特徴は、何といっても経済規模の大きさにある。世界の域内総生産(GDP)に占めるウエートは、TPP11が13%でEUは22%。合わせて35%にのぼる。米国の24%や中国の15%を大幅にしのぐ。

狙いは経済面にとどまらない。自由貿易や多国間の貿易体制を守り続けるという政治的メッセージにこそある。この大連携は、貿易やハイテク分野での米中対立の嵐から、参加国の身を守る保険の役割を果たす、というのだ



◎「政治的メッセージ」が効く?

大前提として「米国や中国に直接働きかけても埒が開かない」はずだ。なのに「TPP11とEUの大連携」によって「自由貿易や多国間の貿易体制を守り続けるという政治的メッセージ」を送ると「米国や中国」の考えが変わるのか。「変わる」と滝田編集委員が確信しているのならば、その理由を明示すべきだ。
支倉常長像(仙台市)※写真と本文は無関係です

この大連携は、貿易やハイテク分野での米中対立の嵐から、参加国の身を守る保険の役割を果たす」との説明も納得できなかった。「米中対立の嵐」が起きても悪影響を受けずに済む「保険」などあるだろうか。

この後もよく分からない説明が続く。

【日経の記事】

米中の通商摩擦は、ケンカ両成敗では終わらせない。TPP11もEUも、関税をなくし、知的財産権などを保護するといった点では、質の高い仕組みを求めている。

▼政府の産業補助金、国営企業の役割、知的財産権の保護。これらのルールを、明確化し近代化すること。

▼外国からの直接投資や市場アクセスを安全にすること。政府調達へのアクセスを透明にし互恵的にすること。

これらの提言は中国に対して一層の門戸開放と構造改革を促すものでもある。米中の通商協議で米国側が中国に求めている項目とも重なり合う。その意味で、TPP11とEUの大連携は、米国と手を携える余地が大きかろう



◎一緒に中国と戦う?

TPP11とEUの大連携は、米国と手を携える余地が大きかろう」と滝田編集委員は言う。「米国」は「直接働きかけても埒が開かない」相手だから、「手を携える」場合は米国のいいなりになるしかない。だったら何のための「TPP11とEUの大連携」なのか。

記事の最後で「企業に活を入れるためにも、TPP11とEUの大連携は悪くない話のように思えるのだが」と滝田編集委員は締めているが、記事を読む限りでは筋の悪そうな話としか思えなかった。本当に「秘策」なのか。


※今回取り上げた記事「核心~自由貿易 巻き返しへ秘策
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190715&ng=DGKKZO47299840S9A710C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。滝田洋一編集委員への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。滝田編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_4.html

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_24.html

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_5.html

引退考えるべき時期? 日経 滝田洋一編集委員 「核心」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_32.html

引退考えるべき時期? 日経 滝田洋一編集委員 「核心」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_40.html

市場をまともに見てない? 日経 滝田洋一編集委員「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_69.html

日経 滝田洋一編集委員「リーマンの教訓 今こそ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_16.html

市場への理解が乏しい日経 滝田洋一編集委員「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_9.html

株式も「空前の低利回り」? 日経 滝田洋一編集委員の怪しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_19.html

今回も市場への理解不足が見える日経 滝田洋一編集委員「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_25.html

2019年7月16日火曜日

浜田昭八氏の理解力に問題あり 日経「選球眼~選手と首脳陣つなぐ本音」

スポーツライターの浜田昭八氏はそろそろ書き手としての引退を考えるべきだ。15日の日本経済新聞朝刊スポーツ2面に載った「選球眼~選手と首脳陣つなぐ本音」という記事を読むと、プロ野球界の動向を浜田氏がきちんと理解できていないのが分かる。
善応殿(仙台市)※写真と本文は無関係です

まず以下のくだりだ。

【日経の記事】

監督工藤は7日のオリックス戦での継投失敗を悔やんだ。八回2死まで好投の若手松本を「勝ち投手にしてやりたい」とした温情があだとなり、交代が遅れ逆転負け。遠慮のない現役時代の姿勢を貫けばどうなったか。



◎「勝ち投手にしてやりたい」のなら…

この試合では4回までに2-0とリードしており、5回終了時点で「松本」選手は「勝ち投手」の権利を手にしている。「勝ち投手にしてやりたい」場合、6回以降であれば疲れが出る前に「交代」させようとするはずだ。

それを「八回2死まで」引っ張ったのだから「『勝ち投手にしてやりたい』とした温情があだとなり、交代が遅れ逆転負け」という説明はあり得ない。「勝ち投手にしてやりたい」ではなく「完投(あるいは完封させてあげたい」なら分かるが…。

最後の段落も引っかかった。

【日経の記事】

わが球界では選手が表立って采配に不満を述べるのはタブーになっている。近年は囲み取材にも広報が立ち会い、選手、報道陣をけん制する。本音はなかなか出ない。「最低でーす」という類いの暴言は論外だが、真面目な自己主張は首脳陣・選手間の緊張感を保ち、お互いのためになると思うが……


◎「真面目な自己主張」あるような…

タブー」と聞くと「(比喩的に) 社会や特定の集団の中で、法的に禁止されているわけではないが、それに言及したり、それを行なったりするのは良くない、そうすると悪い結果になると見なされていることがら」(日本国語大辞典)だと理解したくなる。

しかし「采配に不満を述べる」のはチーム内の明確な禁止事項ではないのか。これまでも「采配に不満を述べ」た選手が処罰を受けているのだから「タブー」とはちょっと違う気がする。

今のプロ野球界には「真面目な自己主張」がほとんどないと浜田氏が捉えているのも引っかかった。

2018年12月4日付でデイリースポーツは以下のように報じている。

【デイリースポーツの記事】

巨人の田原誠次投手が4日、東京・大手町の球団事務所で2度目の契約更改交渉に臨み、前回提示と変わらず、現状維持の3600万円で更改した。

今季は貴重な右のサイドスローの中継ぎとして29試合に登板。金額は1回目の交渉でも納得していたという右腕はブルペン陣の調整法の環境改善を訴えた

「そろそろ(登板が)自分かなと思ってたら、お前まだ肩をつくらなくていいよ。『つくらなくていいんですね。待機しときます』といったら、やっぱりここからいくよってなったりとか、そういう場面が多々あった」と振り返る。

◎ニュースはチェックしてる?

上記の「訴え」は当時そこそこ話題になった。プロ野球に関する記事を書く浜田氏ならば知っていて当然だ。知っていたのならば、選手からの「真面目な自己主張」もしっかりあると読者に伝えるべきだ。この件を知らずに(あるいは忘れて)「真面目な自己主張は首脳陣・選手間の緊張感を保ち、お互いのためになると思うが……」などと書いたのならば、やはり書き手としての引退を検討してほしい。


※今回取り上げた記事「選球眼~選手と首脳陣つなぐ本音
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190715&ng=DGKKZO47357870U9A710C1UU2000


※記事の評価はD(問題あり)。浜田昭八氏への評価はDで確定させる。浜田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経のコラムで「リクエスト制度に大過なし」と浜田昭八氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_43.html

2019年7月15日月曜日

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員

セブン&アイ・ホールディングスを持ち上げるばかりだった日本経済新聞の中村直文編集委員が変わり始めたのかもしれない。15日の朝刊企業面に載った「経営の視点~セブン カリスマ後の憂鬱 進取の気性どこへ」という記事を読んでそう感じた。今回はいつものヨイショ記事とは少し趣が違う。ただ、「カリスマ」を持ち上げる癖は残っているようだ。中身を見ながら記事の問題点を指摘してみたい。
金華山黄金山神社の鹿(宮城県石巻市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

24時間営業へのオーナーの反乱、スマートフォン決済「セブンペイ」の不正利用など失態が相次ぐセブン&アイ・ホールディングス。現経営陣が一番言われたくない批判は「セブン―イレブン・ジャパンを立ち上げたカリスマ経営者の鈴木敏文氏が3年前に引退し、求心力が落ちた」との一言だろう。

実際に一連の失態は回避できた組織的な問題だ。セブンペイについて「緻密な開発力を誇るセブンがあんなミスをするなんて」と同業の幹部は驚く。24時間問題もしっかりとオーナーの声に耳を傾けていれば、事態は違っていたはずだ

もちろん失態と鈴木氏不在の因果関係は証明できない。鈴木氏も今や86歳。いずれ引退することは避けられなかったし、鈴木氏に意見しにくい組織風土になっていた面は否めない。



◎鈴木氏の時代は「耳を傾けて」いた?

失態と鈴木氏不在の因果関係は証明できない」とは述べているものの、上記のくだりでは「鈴木敏文氏が3年前に引退」したことが「失態」につながったのではないかと示唆している。

引っかかるのは「24時間問題もしっかりとオーナーの声に耳を傾けていれば、事態は違っていたはずだ」と書いている点だ。「鈴木氏」の時代には「しっかりとオーナーの声に耳を傾けて」いたのならば、「引退」と「失態」の関連を探るのも理解できる。しかし「しっかりとオーナーの声に耳を傾け」ない体質は以前からあるのではないか。

日経は2011年9月15日付で「値下げ制限は独禁法違反 セブンイレブンに賠償命令」という記事を載せている(共同通信の記事を使用)。それによると「大手コンビニのセブン―イレブン・ジャパン(東京)加盟店の元経営者の男性(57)が、値下げ販売を不当に制限されたなどとして、同社に約2600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、福岡地裁は15日、制限を独禁法違反と認め、同社に220万円の支払いを命じた」という。

記事には「セブン―イレブンによると、値下げ制限をめぐって公正取引委員会から09年に排除措置命令を出されたことを受け、現在は加盟店の値下げを一部容認、廃棄分原価の15%を同社が負担している」との記述もある。

値下げ制限」自体が「排除措置命令を出され」るものだったにもかかわらず、「オーナーの声に耳を傾け」ないで訴訟になり敗訴している。もちろん「鈴木氏」が経営トップに君臨していた時代の話だ。

鈴木敏文氏が3年前に引退」したから「24時間問題」が起きたと考えるよりは、「鈴木氏」の時代から続く「オーナーの声に耳を傾け」ない体質が「24時間問題」を引き起こしたと推測する方が自然だ。

長年かわいがってもらった「鈴木氏」に問題の原因を求めるようなことは中村編集委員もできないのだろう。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

数字上の影響が出ているのか。まずコンビニの業績を他社と比較してみる。ローソンは既存店売上高が2016年度と18年度が微減で、17年度は微増。1店舗・1日当たりの売上高(日販)は平均54万円、53万6千円、53万1千円と落としている。ファミリーマートの既存店売上高は17年度が微減で、16年度と18年度は微増。日販は52万2千円、52万8千円、53万円と伸ばしている。

一方のセブンイレブン。既存店売上高はプラスを続け、日販は65万7千円、65万3千円、65万6千円で推移。グループ全体の連結業績は19年2月期の営業利益が計画値を下回ったが、増収増益は続けている。

コンビニを柱に「遺産」を引き継ぎ、カリスマ不在でもしっかりと優位性を保っている。セブンイレブンは7月に沖縄進出を果たしたが、先行するファミマの沢田貴司社長は「できれば進出を控えてほしい」と不安を口にするぐらいだ。



◎説明が下手

ダラダラと「微減」「微増」「平均54万円、53万6千円、53万1千円」などと行数を費やした割に、この数字を使った分析らしきものは見当たらない。これならば「既存店売上高増減率や1店舗・1日当たり売上高(日販)で見てもローソンやファミリーマートに対する優位性は保てている」とだけ書いて数字の紹介は省いた方がいい。
筑後船小屋駅(福岡県筑後市)※写真と本文は無関係

平均54万円、53万6千円、53万1千円」といった数字の列挙については、いつの数字かはっきりしない。2016~18年度だとは思うが、直前に「2016年度と18年度が微減で、17年度」と書いているだけで「2016~18年度の数字を並べてみる」とは読者に伝えていない。

この辺りに中村編集委員の説明下手を感じる。

さらに記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

ただ先行きには懸念がある。他社に先駆けて世の中にない商品サービスを提案する力が低下していることだ。スマホ決済もセブン流ならば先手を打つか、あるいは他社をしのぐレベルで参入すべきだった。「わざわざ二番煎じの決済ならば導入する必要もない」(セブン関係者)との厳しい声も聞こえてくる。

セブンカフェ、金の食パン、銀行などかつては進取の気性でヒットを連発したが、最近は見当たらない。デフレ期でも「多少高くてもおいしいものが売れる」「欲しいものがなければ作ればいい」といった過去の成功体験を否定するカリスマ的な指導力が市場を創造した。


◎「鈴木氏」時代はそんなに凄かった?

スマホ決済もセブン流ならば先手を打つか、あるいは他社をしのぐレベルで参入すべきだった」との説明も引っかかる。「鈴木氏」の時代は「先手を打つか、あるいは他社をしのぐレベルで参入」するのが「セブン流」だったと中村編集委員は見ているのだろう。

では「スマホ決済」と同じIT関連のオムニチャネル戦略はどうだったのか。「鈴木氏」の肝入りで進めていた印象があるが、成功したのか。「先手を打つか、あるいは他社をしのぐレベルで参入」できたのか。

付け加えると、「多少高くてもおいしいものが売れる」「欲しいものがなければ作ればいい」という考え方は「過去の成功体験を否定する」ものなのか。となると「過去」には「いくらおいしくても少しでも高いと売れない」「欲しいものがないからといって作ると失敗する」といった経験則があったのだろうか。

個人的には、「多少高くてもおいしいものが売れる」「欲しいものがなければ作ればいい」という考え方は昔から普通にあった気がする。

ここから最後まで一気に見ていこう。

【日経の記事】

セブンの鈴木名誉顧問に聞くと最近の経営については口を閉ざす。ただ「同質化競争をしているから飽和状態になる。流通業は蓄積じゃない。新しいことに挑むこと」と歯がゆさを見せる。セブンの現場は優秀だが、まじめさだけでは横並びの発想しか浮かばない。ヒット商品は見たことがないからヒットする。だから周囲の反対意見を恐れては何も生まれない。

鈴木氏は「宇宙を相手にしているわけではない。人間が相手なのだから小売業は一番やりやすい仕事なんだよ」と話す。顧客とオーナーの立場に立ち、潜在需要を開拓することが先駆者セブンの使命のはずだ。


◎あえて離れた方が…

セブンの鈴木名誉顧問に聞くと最近の経営については口を閉ざす」と言う割に「同質化競争をしているから飽和状態になる。流通業は蓄積じゃない」などと「最近の経営について」そこそこ語っている。

記事を書く上で取材は大切だ。なるべく色んな人に会った方がいい。しかし、中村編集委員にはあえて「鈴木氏とはもう会うな」と助言したい。

長年かわいがってもらった「鈴木氏」に会えば、どうしても「鈴木氏」ヨイショの記事を書きたくなるはずだ。中村編集委員はただでさえヨイショ記事を書きたがる傾向が強い。そんな中でやっと変化の芽が出てきた。

鈴木氏」とも今の「セブン&アイ」経営陣とも距離を置いて、中立的な立場から言うべきことを言うのがベストだ。それを実現する上では「鈴木氏」との距離が近すぎると感じる。


※今回取り上げた記事「経営の視点~セブン カリスマ後の憂鬱 進取の気性どこへ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190715&ng=DGKKZO47352830U9A710C1TJC000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村直文編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

2019年7月14日日曜日

日経社説「日銀の買いに頼らない株式市場にしよう」の問題点

14日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「日銀の買いに頼らない株式市場にしよう」という社説は説得力に欠ける内容だった。本気で「日銀の買いに頼らない株式市場にしよう」とは思っていないのだろう。社説では以下のように書いている。
金華山黄金山神社(宮城県石巻市)
      ※写真と本文は無関係です

【日経の社説】

日本の株式保有のゆがみが著しくなってきた。日銀による株価指数に連動した上場投資信託(ETF)の購入額が増え続けているからだ。株を長期に保有する投資家を増やし、日銀に頼らない市場づくりを急がなければならない

6月末の日銀のETFの保有時価は29兆円に達したとみられる。東証1部の4.9%を占め、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に次ぐ規模の日本株を間接的に保有する。年間6兆円の今のペースで買い続ければ来年中にもGPIFを抜き、世界最大の日本株の保有者になる見通しだ。

日銀は2%の物価上昇率をめざす金融緩和の一環としてETFを買っている。この政策は株価安定や企業・投資家の心理好転に役だった面はある。

だが株価形成をゆがめる副作用も無視できない。日銀はETFを通じ個別企業の業績の好不調に関係なく指数構成銘柄を全て購入する。その結果、適正な株価をつける市場の価格発見機能が弱まる。株価が実態より高止まりすれば企業経営の規律も緩んでしまう。

日銀は間接的に東証1部企業の約半数で上位10位内の大株主になっており、企業統治に与える影響も気がかりだ。日銀保有分の議決権はETFの運用会社が行使している。日銀はETFの運用会社名やその購入額を公表し、議決権の具体的な行使結果を外部から点検できるようにすべきだ。

購入が長期化するほど副作用も膨らんでいく。日銀は昨年7月にETF購入目標を年間6兆円から「上下に変動しうる」と変更した。無理に6兆円の目標を目指さず買い方にメリハリをつけて購入を減らしていくのが現実的だ


◎「ゆがみが著しくなってきた」と言うならば…

日本の株式保有のゆがみが著しくなってきた」「株価形成をゆがめる副作用も無視できない」「購入が長期化するほど副作用も膨らんでいく」などと書いているのに、対策としては「無理に6兆円の目標を目指さず買い方にメリハリをつけて購入を減らしていくのが現実的」らしい。

つまり「まだまだ日銀はETFの保有を増やしていい」と日経の論説委員は考えているようだ。「購入が長期化するほど副作用も膨らんでいく」のに、なぜさらに保有を膨らませるのが「現実的」なのか。

ゆがみが著しくなってきた」と判断できるのならば、株式相場の下げも覚悟して「購入」の中止に踏み切るべきだ。「株価が下がるのは困る」と言うならば「日銀の買いに頼らない株式市場にしよう」などと訴えない方がいい。

社説では「出口の進め方」にも触れている。これも「本気で言っているのか」と思える内容だった。

【日経の社説】

ETFには国債と違って償還がないため、日銀はいずれ外部に売却しなければならない。今のうちから効果的な出口の進め方について議論を深めておきたい。

アジア通貨危機後の1998年に香港市場の6%分の株を購入し、相場の底割れを防いだ香港政府の処分法が参考になる。香港政府はETFをつくって個人を中心に保有株を割引価格で譲渡し、香港市場の個人投資家の裾野を大きく広げることに成功している

GPIFと日銀という公的機関が二大株主という市場の姿は健全とはいえず民間の担い手づくりは急務だ。企業も投資家に積極的に株を買ってもらえるよう稼ぐ力や企業統治を磨いてほしい。



◎一部の個人に利益供与?

日銀は2%の物価上昇率をめざす金融緩和の一環としてETFを買っている」のだから、「保有株を割引価格で譲渡し、香港市場の個人投資家の裾野を大きく広げることに成功」した「香港政府」のやり方を参考にするのならば「ETF」を時価よりも安く「個人投資家」に「譲渡」することになる。

これは絶対にやめた方がいい。理由は2つある。

まず、一部の個人への利益供与になる。時価より3割安く「譲渡」するとしよう。自分ならば迷わず購入する。当たり前の話だ。こんなおいしい儲け話に乗らない手はない。買い手が殺到するだろう。だが、どうやって選ぶのか。抽選で選ぶにしても、日銀が国民に対してプレゼントの抽選をやるようなものだ。

当たればほぼ確実に儲かるような抽選を日銀がやってよいのかという問題が出てくる。

この手法を「参考になる」と考えたのは、株式相場への影響を抑えられると期待したからだろう。しかし、自分だったら3割安く「譲渡」してもらったら、すぐに売却して利益を確定させる。同じ考えの人はかなりいるはずなので、株式相場の需給にはマイナスだ。

長期保有してもらいたいならば、時価で「譲渡」すべきだ。

そう考えると「香港政府」は本当に「保有株を割引価格で譲渡」したのかとの疑問が湧く。この点に関しては知識がないので何とも言えない。ただ、日経の別の記事で東短リサーチ社長の加藤出氏が以下のように解説している。

【日経の記事】

1998年8月に香港の中央銀行にあたる香港金融管理局(HKMA)は、アジア通貨危機時の海外のヘッジファンドからの激しい攻撃に対する防御として、緊急避難的に株式相場を2週間だけ買い支えたことがある。同年秋に香港政府は受け皿のファンド、EFIL(Exchange Fund Investment Limited)をつくり、そこにHKMAが買った株式を移した。EFILは株式をETFに組成して、99年11月から数年の間に個人投資家や機関投資家に売却した

HKMAが市場に介入してそれらの株式を購入したとき、株価は大幅なアンダーバリュー(割安)になっていた(リスクプレミアムが異常に高まっていた)。相場が落ち着いて、リスクプレミアムが低下し、株価が上昇してからEFILは売却したため、結果的に利益を計上することに成功した。



◎本当に「割引価格で譲渡」?

これを読む限り「香港政府はETFをつくって個人を中心に保有株を割引価格で譲渡」したとは言えない。「ETFに組成して、99年11月から数年の間に個人投資家や機関投資家に売却した」と書いているだけだ。「株価が上昇してからEFILは売却したため、結果的に利益を計上することに成功した」との記述からは、時価で「売却」したと理解する方が自然だ。

断定はできないが「香港政府はETFをつくって個人を中心に保有株を割引価格で譲渡し、香港市場の個人投資家の裾野を大きく広げることに成功している」という社説の解説を鵜呑みにしない方がいいだろう。


※今回取り上げた社説「日銀の買いに頼らない株式市場にしよう
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190714&ng=DGKKZO47343780T10C19A7EA1000


※社説の評価はD(問題あり)。

2019年7月13日土曜日

「東と南ががら空きという国はほとんどない」と堀江貴文氏は言うが…

週刊東洋経済7月20日号の特集「人生100年時代の稼ぐ力」の「PART1 副業編」に「特別対談 HONZ代表 成毛眞×実業家 堀江貴文 金脈はいくらだってある あとは動き出すだけだ」という記事が載っている。この中で堀江氏の以下の発言が引っかかった。
瑞鳳殿(仙台市)※写真と本文は無関係です

【東洋経済の記事】

堀江 ロケットの打ち上げ場所は地球の自転の影響も考えなくちゃならない。打ち上げが失敗したときのことを考えると東、南のいずれかの方角に無人地帯があることが条件です。なんと日本は東と南が太平洋。東と南ががら空きという国はほとんどない。イスラエルは東が空いていないから、世界で唯一無理やり西に打ち上げています。むちゃくちゃ効率が悪いんですよ。



◎「東と南ががら空き」かなりあるような…

東と南ががら空きという国はほとんどない」と堀江氏は言うが、かなりある気がする。そこそこの国力があって確実に「がら空き」と言えるのはオーストラリア、ニュージーランド、インド、南アフリカ、ブラジルあたりか。国力を無視していいのならば、スリランカ、オマーン、ソマリア、マダガスカル、アイスランドも入りそうだ。

どの程度の海域があれば「がら空き」なのかが明確ではないが、それほど広くなくてよいとの前提に立てばメキシコ、キューバ、アルゼンチン、韓国、パプアニューギニアなども候補に入ってくる。

記事の中には以下のコメントもある。

【東洋経済の記事】

堀江 ヨーロッパは東が空いていないから、フランス領ギアナで打ち上げています。ロシアや中国も辺境に基地を造らざるをえない。東にも南にも打ち上げることができて、国内のサプライチェーンとロジスティクスが整っている国は日本しかない。アメリカは打ち上げ基地が分散してしまっている。東打ちはフロリダで、南打ちはカリフォルニアだから、拠点が分散するのでロジスティクスの問題を抱えている。


◎そんなに日本は有利?

中国」や「アメリカ」も「東と南ががら空きという国」に含めていいかもしれない。そう考えると、やはりかなりの数になる。

東にも南にも打ち上げることができて、国内のサプライチェーンとロジスティクスが整っている国は日本しかない」との主張に反論できる材料は持っていないが、インド、韓国、オーストラリア、ブラジルなどは「東にも南にも打ち上げることができて、国内のサプライチェーンとロジスティクスが整っている国」の有力候補だとは感じる。


※今回取り上げた記事「特別対談 HONZ代表 成毛 眞×実業家 堀江貴文 金脈はいくらだってある あとは動き出すだけだ
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/21017


※記事の評価は見送る。

2019年7月12日金曜日

事例の説明に問題あり 日経 佐藤初姫記者「少子化対策 盲点を探る」

12日の日本経済新聞朝刊経済面に載った「少子化対策 盲点を探る(下)減りゆく産婦人科 安心の出産・育児 遠く」という記事は、いくつか引っかかる点があった。まずは事例の使い方だ。
鮎川港(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係です

冒頭の事例を見てみよう。

【日経の記事】

「えっ、あの産婦人科もうなくなっちゃったんだ」。里帰り出産を希望していた都内の30代女性は、茨城県の実家近くの産婦人科がすべて閉院したと聞いて驚いた。茨城県は産科医の数が全都道府県で9番目に少ない。仕方なく都内の病院で産むことを決めた。「親が近くにいたほうが安心できたけど仕方がない」



◎「近く」とは?

筆者の佐藤初姫記者は「茨城県では里帰り出産も難しいほど産婦人科が少ない」と訴えたいのだろう。だが、この事例では何とも言えない。

まず「実家近く」の範囲が不明だ。最寄りの「産婦人科」まで50キロメートル以上あるのならば「里帰り出産」をためらうのも分かる。しかし「茨城県」ではちょっと考えにくい。

実家近く」が徒歩圏内であれば「産婦人科がすべて閉院」している場合もあるだろう。しかし、それで「里帰り出産」を諦めたのならば同情する気にはなれない。

実家」の市町村名などを明らかにしていない点などから推測すると、大したことのない話を大げさに書いたのではないか。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

妊娠から出産後の乳幼児健診まで数年間にわたり妊婦と並走する産婦人科医は、いわば母子の「かかりつけ医」だ。だが厚生労働省によると、全国の産婦人科や産科の病院数は2017年10月時点で1313施設と、統計を取り始めた1972年以降で最少となった。減少は27年連続だ。

少子化が進んだ地方で産科の集約が進んだことなどが影響しているという。近隣の産科が減り、残った産科医の労働環境が過酷になる状況も生じた。

特に分娩を扱う産科医は24時間体制で出産に備え、他の診療科と比べても長時間労働の傾向がある。筑波大学の石川雅俊氏らの調査では、産科医の66%で時間外労働が過労死水準の年960時間を超え、27%は年1920時間以上にのぼった。出産年齢の上昇で死産率が上がり、合併症などを引き起こす「ハイリスク妊娠」も増えた。医師の負担は増している。


◎産婦人科は増やすべき?

記事のテーマは「少子化対策 盲点を探る」だ。佐藤記者は「減りゆく産婦人科」を問題視しているので「産婦人科」を増やせば「少子化対策」になるとみているのだろう。

しかし、その根拠は示していない。「少子化が進んだ地方で産科の集約が進んだことなどが影響している」と言うが、だったら「産科」が多い東京は出生率が高いのか。

出産する上で「産婦人科」が近くにあった方が便利だとは思う。しかし「産婦人科」が近くにあるかどうかで子供を持つかどうかを決める人は極めて稀ではないか。もちろんこれは推測だ。佐藤記者が「違う」と確信できるのならば、「産婦人科」を増やすと出生率が上向くという根拠を示してほしかった。

もう1つ事例の問題を見ておく。

【日経の記事】

厚労省もこうした状況を踏まえ、産婦人科医を取り巻く環境を改善することを検討している。長時間労働を減らす働き方改革の推進に加え、妊婦の診療料を上乗せする「妊婦加算」制度を18年に導入した。だがコンタクトレンズの処方などでも上乗せできる仕組みだったために「少子化対策に逆行する」との批判が噴出。凍結を余儀なくされるなど対策は迷走気味だ。

「リスクがゼロと言い切れない以上、うちでは薬を処方できません」。東京・世田谷に住む20代の妊娠中の女性は、風邪で高熱を出して受診した内科で医師にこう拒まれた。「どうしても体調が優れない場合には産婦人科を受診してください」と言われ、結局、診察料だけを支払って帰った。

妊婦加算は本来、妊婦への投薬や治療で丁寧な診察を促す狙いがあった。凍結後に開かれた厚労省の検討会も「質の高い診療やこれまで十分に行われてこなかった取り組みを評価・推進することは必要」との結論で一致した。手法を変えて報酬を上乗せする仕組みづくりを検討している。

ただ報酬面で手当てしても産婦人科医に負担が集中する状況が変わらなければ、問題の解決にはつながらない。検討会では、妊産婦を診療した経験が少なかったり、投薬について正確に判断する自信がなかったりするなど、「妊産婦の診療に積極的でない医師や医療機関が一定数存在する」との課題が指摘された。

子どもが減り、産科も減る。負の循環に歯止めをかけるには、病院や地域が連携して安心して子どもを産み育てられる環境をつくることも欠かせない


◎「世田谷」の事例は何が問題?

東京・世田谷に住む20代の妊娠中の女性」の事例は何が問題なのかよく分からない。
御番所公園展望台(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係

妊婦加算」の問題と絡めていると取れるが、「東京・世田谷に住む20代の妊娠中の女性」の話が「凍結」前なのか後なのか説明がない。

凍結」前の話だとしても「薬を処方できません」という医師の判断に問題があったと言える材料は見当たらない。

佐藤記者は「処方されるべきなのに、そうならなかった」と見ているのだろう。しかし「風邪」は薬では治らないとも言われる。百歩譲って薬を処方すべき症状だとしても、それは「東京・世田谷に住む20代の妊娠中の女性」がどんな状況にあって、何の薬を求めたのかによる。

例えば解熱剤を求めたとしても「この症状ならば解熱剤は必要ない。副作用のリスクの方が大きい」と医師が判断したのならば「薬を処方できません」との判断に至るのは当然だ。

「医療の常識からすれば処方するのが当然」と佐藤記者が見ているのならば、その根拠を示すべきだ。

子どもが減り、産科も減る。負の循環に歯止めをかけるには、病院や地域が連携して安心して子どもを産み育てられる環境をつくることも欠かせない」という結びも感心しない。こんな漠然とした結論しか導けないのならば、記事を書く意味は乏しい。


※今回取り上げた記事「少子化対策 盲点を探る(下)減りゆく産婦人科 安心の出産・育児 遠く
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190712&ng=DGKKZO47257250R10C19A7EE8000


※記事の評価はD(問題あり)。佐藤初姫記者への評価はDを据え置く。佐藤記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

保険料抜きで就業不能保険の実力探る日経 佐藤初姫記者
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_17.html

2019年7月11日木曜日

松山東高は「断トツ県内1強」? 週刊ダイヤモンド「学閥序列マップ」

週刊ダイヤモンド7月13日号の特集「新OBネットワーク~早慶 東大 一橋 名門高校」の問題点を色々と取り上げてきた。今回は「エリア別 大学・高校学閥序列マップ(中国・四国)」に関する問い合わせの内容を紹介したい。「中国・四国」のマップに「名古屋大であることより重視」と入れたのは制作上のミスだと思えるが…。
筑後船小屋駅(福岡県筑後市)※写真と本文は無関係


【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 小栗正嗣様 重石岳史様 鈴木洋子様 西田浩史様 藤田章夫様 宮原啓彰様

7月13日号の特集「新OBネットワーク~早慶 東大 一橋 名門高校」の中の「エリア別 大学・高校学閥序列マップ(中国・四国)」についてお尋ねします。質問は以下の5つです。

質問1~なぜ「名古屋大」なのですか?

広島・岡山大学閥より厚い鉄壁の高校閥」という大きめの文字の下に「名古屋大であることより重視~各トップ校のクラス会や部活動のまとまり」との説明があります。マップの隣に載せた「『中国・四国は“植民地”』──帝大不在が招いた関西閥」という記事を信じれば「中国・四国」は「関西閥」が強いはずです。

なのに「広島・岡山大学閥」でも「関西閥」でもなく「名古屋大」が出てくるのは奇妙です。ちなみに「中部」のマップにも「名古屋大であることより重視~各トップ校のクラス会や部活動のまとまり」という全く同じ説明があります。マップ作成時にこれをコピーして「中国・四国」に持ってきた時に、「名古屋大」という表記を他大学名と置き換えるのを忘れたのではありませんか。問題なしとの判断であれば、なぜ「名古屋大であることより重視」としたのか教えてください。


質問2~大学閥の順番が大きく違ってませんか?

マップでは「広島大学閥」と「岡山大学閥」を同格とし、少し下に「山口大学閥」を置いています。さらに下の「愛媛大学、香川大学などの中国・四国の大学閥」を「2番手国立大」としてまとめています。

この序列に従えば「山口大学閥」が3番手で「愛媛大学、香川大学などの中国・四国の大学閥」は「4番手国立大」となるはずです。


質問3~松山東高は「断トツ県内1強」ですか?

マップでは「愛媛県」を「ライバル不在!! 1強の高校閥エリア」とした上で、松山東を「断トツ県内1強」と説明しています。しかし、その上を見ると「1960年代から四国トップ」の愛光が「別格」で君臨していて、しかも松山東から愛光には「意識」と書かれた矢印が向かっています。

同じ県に格上の高校が「別格」で存在していて、そこを意識している高校が「断トツ県内1強」と言えるでしょうか。「愛媛県」を「ライバル不在!! 1強の高校閥エリア」とするならば、その「1強」は愛光のはずです。松山東を「断トツ県内1強」とするのは誤りではありませんか。


質問4~「広島県」の順番が違っていませんか?

マップでは「広島県トップ2」の広島学院と広島大付福山をNo.1、「広島トップ2に続く方々」の修道と広島大付をNo.2、基町、広島、舟入、ノートルダム清心をNO.3としています。しかし、修道と広島大付をNo.3、さらに基町、広島、舟入、ノートルダム清心をNO.5にしないと辻褄が合いません。


質問5~徳山高と宇部高はNo.2ですか?

山口県トップ4」にも同様の問題があります。下関西と山口が同格でNo.1ならば、徳山と宇部はNo.3以下になるはずですが、No.2と表記しています。誤りではありませんか。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが回答をお願いします。


◇   ◇   ◇

回答が届けば内容を紹介したい。


※今回取り上げた特集「新OBネットワーク~早慶 東大 一橋 名門高校
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/26987


※特集への評価はD(問題あり)。担当者らへの評価は以下の通りとする(敬称略)。

小栗正嗣(暫定B→暫定C)
重石岳史(C→D)
鈴木洋子(C→D)
西田浩史(D据え置き)
藤田章夫(D据え置き)
宮原啓彰(B→C)


※週刊ダイヤモンドの過去の大学関連特集については以下の投稿を参照してほしい。

「学閥」に疑問残る 週刊ダイヤモンド特集「医学部&医者」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_15.html

説明が雑な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_19.html

「医学部への道」が奇妙な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_54.html

3番手でも「2番手グループ」?  週刊ダイヤモンド医学部特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_73.html

近大は「医科大学」? 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_18.html

昔の津田塾は「女の東大」? 週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_11.html

偏差値トップは東大理3? 週刊ダイヤモンド「大学序列」の矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_68.html

九州知らずが目立つ週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_17.html

北海道は「第二の総合大学」空白地帯? 週刊ダイヤモンドの矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_15.html

東北福祉大も「地元では天下」?  週刊ダイヤモンド「大学 学部序列」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_16.html

「理系は名城大がトップ」が苦しい週刊ダイヤモンド「大学 学部序列」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_17.html

「社長の息子が多い」に根拠欠く週刊ダイヤモンド「御曹司大学」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_10.html

「武蔵大」の分類に矛盾あり 週刊ダイヤモンド「御曹司大学」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_12.html

法政大の前身は「航空工業専門学校」と誤解した週刊ダイヤモンド
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_41.html

明治学院大の前身は「協会専門学校」と週刊ダイヤモンドは言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_13.html


<追記>

※今回の特集に関して週刊ダイヤモンドが出した訂正の内容は以下の通り。

【訂正とお詫び】

●本誌7月13日号33ページ図中、神奈川県医学部、経済界閥のNo.1を聖光学院高閥へ、54ページ本文と55、56ページ図中、武藤敏郎氏の肩書を大和総研名誉理事へ、58ページ本文中、Yahoo!アカデミア学長名を伊藤羊一氏へと訂正します。また63ページ図中、福島県のNo.1を「県北に学閥 福島・県立高閥」、No.2を「県央に学閥、県内最古、安積高閥」へと訂正し、71ページ図中「鉄壁の高校閥」の下の「名古屋大であることより重視」を削除します。


※今回の特集への問い合わせに関する回答の内容は以下の投稿に掲載している。

「学閥序列マップ」の間違い指摘に週刊ダイヤモンドが回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_87.html


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

問題多すぎ…週刊ダイヤモンド「新OBネットワーク~早慶 東大 一橋 名門高校」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_8.html

「慶大閥」入れ忘れた? 週刊ダイヤモンドの「学閥序列マップ(中部)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_9.html

「逆転」されても神戸高校はNo.1? 週刊ダイヤモンド「学閥序列マップ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/no1.html

2019年7月10日水曜日

「逆転」されても神戸高校はNo.1? 週刊ダイヤモンド「学閥序列マップ」

週刊ダイヤモンド7月13日号の特集「新OBネットワーク~早慶 東大 一橋 名門高校」の問題点を今回も指摘していく。ここでは「エリア別 大学・高校学閥序列マップ(関西)」に関する問い合わせの内容を紹介したい。
伊達政宗騎馬像(仙台市)※写真と本文は無関係


【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 小栗正嗣様 重石岳史様 鈴木洋子様 西田浩史様 藤田章夫様 宮原啓彰様

7月13日号の特集「新OBネットワーク~早慶 東大 一橋 名門高校」の中の「エリア別 大学・高校学閥序列マップ(関西)」についてお尋ねします。質問は以下の3つです。

質問1~神戸高はNo.1と言えますか?

マップの「兵庫公立トップ4」では長田と神戸がNo.1になっているものの「近年逆転」との説明が入り長田を上に置いています。ならば神戸はNo.2ではありませんか。

姫路西と加古川東がNo.2となっているのも問題ありです。長田と神戸が上にいるのですから、両校はNo.3かNo.4のはずです。


質問2~洛北はNo.3と言えますか?

京都府公立トップ4」はNo.1が堀川、No.2が西京と嵯峨野です。その下の洛北はNo.4のはずですが、No.3になっています。誤りではありませんか。


質問3~矛盾していませんか?

京都産業大学閥」には「なんとなく警察・消防閥あり」、「龍谷大学閥」には「なんとなく福祉・警察閥あり」との説明が付いています。しかし両校の下に「われわれは学閥をつくりません!」との文言もあります。

学閥をつくりません!」が事実を反映したものならば「なんとなく警察・消防閥あり」といった状況にはならないはずです。ここはどう理解すればよいのでしょうか。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが回答をお願いします。


◇   ◇   ◇

回答が届けば内容を紹介したい。


※今回取り上げた特集「新OBネットワーク~早慶 東大 一橋 名門高校
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/26987


※特集への評価はD(問題あり)。担当者らへの評価は以下の通りとする(敬称略)。

小栗正嗣(暫定B→暫定C)
重石岳史(C→D)
鈴木洋子(C→D)
西田浩史(D据え置き)
藤田章夫(D据え置き)
宮原啓彰(B→C)


※週刊ダイヤモンドの過去の大学関連特集については以下の投稿を参照してほしい。

「学閥」に疑問残る 週刊ダイヤモンド特集「医学部&医者」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_15.html

説明が雑な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_19.html

「医学部への道」が奇妙な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_54.html

3番手でも「2番手グループ」?  週刊ダイヤモンド医学部特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_73.html

近大は「医科大学」? 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_18.html

昔の津田塾は「女の東大」? 週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_11.html

偏差値トップは東大理3? 週刊ダイヤモンド「大学序列」の矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_68.html

九州知らずが目立つ週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_17.html

北海道は「第二の総合大学」空白地帯? 週刊ダイヤモンドの矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_15.html

東北福祉大も「地元では天下」?  週刊ダイヤモンド「大学 学部序列」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_16.html

「理系は名城大がトップ」が苦しい週刊ダイヤモンド「大学 学部序列」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_17.html

「社長の息子が多い」に根拠欠く週刊ダイヤモンド「御曹司大学」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_10.html

「武蔵大」の分類に矛盾あり 週刊ダイヤモンド「御曹司大学」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_12.html

法政大の前身は「航空工業専門学校」と誤解した週刊ダイヤモンド
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_41.html

明治学院大の前身は「協会専門学校」と週刊ダイヤモンドは言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_13.html


<追記>

※今回の特集に関して週刊ダイヤモンドが出した訂正の内容は以下の通り。

【訂正とお詫び】

●本誌7月13日号33ページ図中、神奈川県医学部、経済界閥のNo.1を聖光学院高閥へ、54ページ本文と55、56ページ図中、武藤敏郎氏の肩書を大和総研名誉理事へ、58ページ本文中、Yahoo!アカデミア学長名を伊藤羊一氏へと訂正します。また63ページ図中、福島県のNo.1を「県北に学閥 福島・県立高閥」、No.2を「県央に学閥、県内最古、安積高閥」へと訂正し、71ページ図中「鉄壁の高校閥」の下の「名古屋大であることより重視」を削除します。


※今回の特集への問い合わせに関する回答の内容は以下の投稿に掲載している。

「学閥序列マップ」の間違い指摘に週刊ダイヤモンドが回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_87.html


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

問題多すぎ…週刊ダイヤモンド「新OBネットワーク~早慶 東大 一橋 名門高校」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_8.html

「慶大閥」入れ忘れた? 週刊ダイヤモンドの「学閥序列マップ(中部)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_9.html

松山東高は「断トツ県内1強」? 週刊ダイヤモンド「学閥序列マップ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/1.html

2019年7月9日火曜日

「慶大閥」入れ忘れた? 週刊ダイヤモンドの「学閥序列マップ(中部)」

週刊ダイヤモンド7月13日号の特集「新OBネットワーク~早慶 東大 一橋 名門高校」の問題点をさらに指摘したい。今回は「エリア別 大学・高校学閥序列マップ(中部)」を取り上げる。
九州芸文館(福岡県筑後市)※写真と本文は無関係です

特集の担当者らに送った問い合わせは以下の通り。


【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 小栗正嗣様 重石岳史様 鈴木洋子様 西田浩史様 藤田章夫様 宮原啓彰様

7月13日号の特集「新OBネットワーク~早慶 東大 一橋 名門高校」の中の「エリア別 大学・高校学閥序列マップ(中部)」についてお尋ねします。質問は以下の3つです。

質問1~「慶応大学閥」がなぜないのですか?

マップの隣に「トヨタを慶應に取られた名古屋大の切歯扼腕」という記事があり、そこでは「ところが、そこに割って入ってきた新たな学閥が、章男氏の母校である慶應義塾大学の同窓会、『名古屋三田会』だ。『トヨタを含め中部経済界での慶應の存在感は高まるばかり』と別の名大OBは歯ぎしりする」と解説しています。

しかしマップでは「名古屋大学閥」に続くのは「新潟大学閥」「金沢大学閥」などで「慶應」の文字は見当たりません。他地域の大学は除外してマップを作っているかと言うと、そうでもなく「MARCH学閥」「関関同立学閥」などはしっかり出てきます。

マップに「慶應義塾大学閥」を入れ忘れたのではありませんか。そうではない場合、どう理解すればよいのでしょうか。


質問2~「別格」なのに同格ですか?

マップの「愛知公立トップ6」ではNo.1が旭丘と岡崎です。となれば両校は同格のはずですが、旭丘を「別格」として一段上の場所に置いています。矛盾していませんか。両校がともに「愛知公立トップ6」のNo.1ならば、旭丘だけが「別格」とはなり得ません。旭丘だけが「別格」のNo.1ならば岡崎はNo.2となるはずです。

愛知公立トップ6」の残り4校をNo.2とするのも誤りではありませんか。旭丘、岡崎が上にいるのならば、No.3より下にしかなれません。

愛知私立トップ2」でも同じ問題が生じています。東海と南山(女子部)がNo.1ですが、東海を「別格」にしています。また、2校の下に置いた滝をNo.2、その下の海陽中教をNo.3としていますが、それぞれNo.3とNo.4のはずです。


質問3~「北信越地区2番手」と言えますか?

マップでは信州大、山梨大、富山大、福井大を「北信越2番手国立大」に分類しています。しかし、この4校より上位に新潟大学と金沢大学があります。となると4校は「北信越3番手国立大」ではありませんか。

また、「北信越」とは北陸3県(富山県、石川県、福井県)と信越地方(長野県、新潟県)を指すのではありませんか。しかしマップでは山梨県にある「山梨大」が「北信越2番手国立大」に入っています。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが回答をお願いします。


◇   ◇   ◇

回答が届けば内容を紹介したい。


※今回取り上げた特集「新OBネットワーク~早慶 東大 一橋 名門高校
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/26987


※特集への評価はD(問題あり)。担当者らへの評価は以下の通りとする(敬称略)。

小栗正嗣(暫定B→暫定C)
重石岳史(C→D)
鈴木洋子(C→D)
西田浩史(D据え置き)
藤田章夫(D据え置き)
宮原啓彰(B→C)


※週刊ダイヤモンドの過去の大学関連特集については以下の投稿を参照してほしい。

「学閥」に疑問残る 週刊ダイヤモンド特集「医学部&医者」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_15.html

説明が雑な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_19.html

「医学部への道」が奇妙な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_54.html

3番手でも「2番手グループ」?  週刊ダイヤモンド医学部特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_73.html

近大は「医科大学」? 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_18.html

昔の津田塾は「女の東大」? 週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_11.html

偏差値トップは東大理3? 週刊ダイヤモンド「大学序列」の矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_68.html

九州知らずが目立つ週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_17.html

北海道は「第二の総合大学」空白地帯? 週刊ダイヤモンドの矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_15.html

東北福祉大も「地元では天下」?  週刊ダイヤモンド「大学 学部序列」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_16.html

「理系は名城大がトップ」が苦しい週刊ダイヤモンド「大学 学部序列」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_17.html

「社長の息子が多い」に根拠欠く週刊ダイヤモンド「御曹司大学」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_10.html

「武蔵大」の分類に矛盾あり 週刊ダイヤモンド「御曹司大学」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_12.html

法政大の前身は「航空工業専門学校」と誤解した週刊ダイヤモンド
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_41.html

明治学院大の前身は「協会専門学校」と週刊ダイヤモンドは言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_13.html


<追記>

※今回の特集に関して週刊ダイヤモンドが出した訂正の内容は以下の通り。

【訂正とお詫び】

●本誌7月13日号33ページ図中、神奈川県医学部、経済界閥のNo.1を聖光学院高閥へ、54ページ本文と55、56ページ図中、武藤敏郎氏の肩書を大和総研名誉理事へ、58ページ本文中、Yahoo!アカデミア学長名を伊藤羊一氏へと訂正します。また63ページ図中、福島県のNo.1を「県北に学閥 福島・県立高閥」、No.2を「県央に学閥、県内最古、安積高閥」へと訂正し、71ページ図中「鉄壁の高校閥」の下の「名古屋大であることより重視」を削除します。


※今回の特集への問い合わせに関する回答の内容は以下の投稿に掲載している。

「学閥序列マップ」の間違い指摘に週刊ダイヤモンドが回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_87.html


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

問題多すぎ…週刊ダイヤモンド「新OBネットワーク~早慶 東大 一橋 名門高校」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_8.html

「逆転」されても神戸高校はNo.1? 週刊ダイヤモンド「学閥序列マップ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/no1.html

松山東高は「断トツ県内1強」? 週刊ダイヤモンド「学閥序列マップ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/1.html