2018年4月30日月曜日

「インドの日本人増やすべき」に根拠乏しい日経 小柳建彦編集委員

30日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「経営の視点~インド進出、層薄い日本企業 『オールスター戦』の圏外」という記事は苦しい内容だった。「日本企業 『オールスター戦』の圏外」にも根拠が乏しい。記事の最後には「何だこの事例は?」と言いたくなるような話も出てくる。筆者は小柳建彦編集委員。全文を見た上で問題点を指摘したい。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

インドが世界最大の人口大国になる日が近づいている。国連の推計では今年半ばの人口が約13億5400万人。14億1500万人強の中国をまだ下回るが、6年後の2024年半ばには14億3000万人台で中国を逆転する見込みだ。

17年の国内総生産(GDP)はフランスを上回る世界6位。近年定着した7%台の成長が続けば6年後には英国を抜きドイツと4位を競っている。米アップルのティム・クック最高経営責任者は「何年か前の中国に(消費市場の)傾向がよく似てきた」と表現する。

それだけに有力グローバル企業の勢力争いは激しい。特に欧米ウェブサイトへのアクセス制限がない民主主義国だけあって米ネット企業の存在が目立つ。米有力ネット企業が不在の中国とは対照的に、インドは米中の巨大企業と地元勢が入り乱れ、さながらオールスター戦の様相だ。

たとえば主要空港では配車世界最大手の米ウーバーテクノロジーズと配車国内企業最大手のオラが共通の乗り場で競う。動画配信ではネットフリックスとアマゾン・ドット・コムの米2社の直営サービスを21世紀フォックス傘下の地元企業ホットスターが迎え撃つ。

インド最大の電子商取引(EC)企業であるフリップカートの支配権獲得に世界最大の実店舗型小売企業のウォルマートとECの巨人アマゾンが競っている。フリップカートとオラの株主には中国のネットの巨人、騰訊控股(テンセント)が陣取る。モバイル決済最大手の地元スタートアップPaytmの運営会社には中国のもう一つの巨人アリババ集団が出資する。

日本企業はどうだろう。

同国自動車首位はマルチ・スズキ、エアコン首位はダイキン工業。液晶テレビではソニーが首位を争う。インド消費者の日本ブランドへの信頼も厚い。フリップカートの最大外部株主はソフトバンクグループ。同社がウォルマートとアマゾンに買収条件を競わせている。ソフトバンクはオラやPaytmの運営会社、国内EC企業2位のスナップディールにも出資する。

外務省によると日本企業のインド拠点数は16年秋、10年前の10倍、米国の半分強の4590カ所で世界3位の進出先になった。企業単位でみると日本からの進出は急拡大中だ。

しかしヒトに着目すると話は別だ

インドの商都ムンバイは中央銀行のインド準備銀行が本店を置き、米国でいえばニューヨーク、中国なら上海の位置づけだ。ところが永住者を除く在留邦人数は近年、500人超千人未満で推移している。

在留邦人の多い都市ランキングでは、小国カンボジアの首都プノンペンが2271人で50位にランクインしたのに遠く及ばない。国・地域別でもインド全体では8899人で17位。企業に比べ人間の進出が遅れている

つい最近でも大型スーツケースに飲料水を詰め込んできた日本からの出張者がいたと現地日本人社会で話題になった。こんな誤認識がまだはびこる背景には、日本企業によるインド進出の層の薄さがある。放置する企業は世界オールスター戦の圏外にとどまる

◇   ◇   ◇

疑問点を列挙してみる。

(1)なぜムンバイにこだわる?

インドに関して「企業単位でみると日本からの進出は急拡大中だ。しかしヒトに着目すると話は別だ」と小柳編集委員は述べている。ならば、「ヒト」をインド全体で見ればいい。なのに「ムンバイ」についてあれこれ書いている。
田主丸駅(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

ムンバイに人が少なくてニューデリーに集中していても、別にいいのではないか。ダメだと言うなら、その理由を説明してほしい。中央銀行の本店がどこにあるかは、ほとんどの企業には重要ではないはずだ。

さらに言えば、「国・地域別でもインド全体では8899人で17位」とは書いているが、増減には触れていない。この人数がしっかり増えているならば「企業単位」で見ても「ヒトに着目」しても「日本からの進出は急拡大中」となる。


(2)もっと「ヒト」を送るべき?

日本からはあまり人を送らず、現地の人を積極的に生かして経営するのも1つのやり方だ。小柳編集委員は「日本人をたくさん送り込んでいる方が好ましい」との前提で記事を書いているが、その根拠は示していない。


(3)「誤認識」と断定できる?

記事の最後の段落では「大型スーツケースに飲料水を詰め込んできた日本からの出張者がいたと現地日本人社会で話題になった。こんな誤認識がまだはびこる背景には、日本企業によるインド進出の層の薄さがある」と書いている。どうでもいい話だと思えるが、真面目に考えてみよう。

まず「誤認識」の具体的な内容が謎だ。「インドではミネラルウォーターが売られていない」「インドで売っているミネラルウォーターを飲むと腹を壊す」といった認識なのか。

例えばこの「出張者」が「海外でミネラルウォーターを買って飲むとよく体調を崩す」という経験則を持っている場合、「大型スーツケースに飲料水を詰め込んできた」としても「誤認識」とは言えない。

こんな誤認識がまだはびこる背景には、日本企業によるインド進出の層の薄さがある」との説明も苦しい。日本人がインドに関する情報のほとんどを現地の在留邦人から得ているのなら、この説明でいいかもしれない。だが、ネットで検索するだけでもかなりの情報が得られる時代だ。旅行者が伝える情報もあるだろう。あまり意味のない事例から、強引に結論を導き出している感は否めない。


(4)「オールスター戦の圏内」の基準は?

放置する企業は世界オールスター戦の圏外にとどまる」と小柳編集委員は言うが、どの程度の人を送り込めば「オールスター戦の圏内」なのかは教えてくれない。海外の「オールスター」との比較もない。既に述べたように、現地の人を積極的に活用して日本人はあまり送り込まない手法がなぜダメなのかも不明だ。

さらに言えば「マルチ・スズキ」「ダイキン工業」「ソニー」といった企業が「世界オールスター戦の圏外」なのかもよく分からない(記事の趣旨から言えば「圏外」だと思える)。今回のような雑な作りで「企業に比べ人間の進出が遅れている」と訴えても説得力はない。

こんな凡庸で空疎な記事を書くために記者としての経験を重ねてきたのか。小柳編集委員には、しっかりと自分を見つめ直してほしい。


※今回取り上げた記事「経営の視点~インド進出、層薄い日本企業 『オールスター戦』の圏外
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180430&ng=DGKKZO29939880X20C18A4TJC000


※記事の評価はD(問題あり)。小柳建彦編集委員への評価もDとする。

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