2018年5月1日火曜日

日経 脇祐三特任編集委員「核心~イスラエル 急成長の70年」の問題点

4月30日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「核心~イスラエル 急成長の70年 安全保障や格差、課題も」という記事には色々と問題を感じた。筆者は脇祐三特任編集委員(本社コラムニストから肩書が変わったようだ)。何を書いても「これは直した方が…」と言われなくなっているのだろう。以下の内容で日経に問い合わせを送ってみた。
南蔵院(福岡県篠栗町)※写真と本文は無関係です


【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 特任編集委員 脇祐三様

30日朝刊オピニオン面の「核心~イスラエル 急成長の70年 安全保障や格差、課題も」という記事についてお尋ねします。

<質問その1>

記事には「出生率が高いイスラム教徒に対抗し、住民の大多数をユダヤ教徒が占め続ける狙いもある」との記述があります。「大多数」とは「あるまとまった数のうちの、ほとんど全部」(デジタル大辞泉)という意味です。脇様の説明が正しければ、イスラエルでは住民の「ほとんど全部」がユダヤ教徒のはずです。

ところが外務省のホームページでイスラエルに関する基礎データを見ると、宗教は2014年時点でユダヤ教が75%となっています。記事中にも「人口の2割強を占めるようになったアラブ系の住民」という説明が出てきます。75%では「ほとんど全部」とは言えません。

住民の大多数をユダヤ教徒が占め続ける狙いもある」との記述は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

<質問その2>

以下の記述についてお尋ねします。

その一方で、イランとの軍事紛争への懸念が広がっている。4月9日には、隣国のシリア国内でイラン革命防衛隊が拠点とする基地をイスラエルがミサイル攻撃したとみられている。イラン側は自国の軍人7人が死亡したと非難した。2月には、飛来してきたイランの無人機(ドローン)をイスラエル軍が撃墜した。イスラエル側は爆薬を積んだドローンだったとイランを非難している。『イスラエルとイランが、言葉のやりとりだけでなく直接衝突するリスクも高まっている』(中島氏)

軍事紛争への懸念が広がっている」「直接衝突するリスクも高まっている」と書いてあると「まだ軍事紛争も直接衝突も起きていない」と理解したくなります。しかし、「飛来してきたイランの無人機(ドローン)をイスラエル軍が撃墜した」とすれば、軍事紛争も直接衝突も起きているのではありませんか。「イラン革命防衛隊が拠点とする基地をイスラエルがミサイル攻撃したとみられている」といった事情もあるのならば、なおさらです。

<質問その3>

記事には「1990年代から高度な技術を生み出す国として存在感を高め、イスラエル経済は急成長した」との記述が出てきます。記事に付けたグラフにも「1990年代から急速に発展した」との説明があります。

しかし、グラフで「1人あたりGDP」を見ると、1982年~97年は順調に増え、97~2002年にやや落ち込み、2002~17年は再び大きく伸びています。グラフからは「80年代から成長軌道に乗った」「21世紀に入って急速に発展した」とは読み取れます。しかし「1990年代から急速に発展した」感じはありません。

記事でもグラフでも「1人あたりGDP」を基に「急成長」「急速に発展」と判断しているようですが、解釈に無理がありませんか。本当に「1990年代から急速に発展した」のであれば、「1人あたりGDP」を指標に用いたのが不適切だったのかもしれません。

また、見出しでは「急成長の70年」と打ち出しているものの、「70年」という期間で「急成長」を示すデータは紹介していません。これは、いわゆるカラ見出しではありませんか。

問い合わせは以上です。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社の一員として、掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。


◎知ってることを並べただけ?

記事では最初にイスラエルの経済成長の経緯を紹介している。その後に格差問題などの課題に触れ、さらに「パレスチナを力で抑え込んでいくという意識がイスラエルで強まった。その一方で、イランとの軍事紛争への懸念が広がっている」といった話に移っていく。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

イスラエルは米国やサウジアラビアと連携してイランへの圧力をさらに強めようと動く。衝突の危険は、どうやって避けるのか。イスラエルの建国70周年は、安全保障でも重要な節目だ」と記事を締めているが、この結論に導く上で前半の経済成長の話は必要ない。

イスラエルが建国70周年を迎えた」ので、それを題材に記事を書こうと考えたのだろう。それは問題ない。ただ、焦点が絞り切れていない。知っていることや調べたことを並べて書いただけという印象だ。

イスラエルの建国70周年は、安全保障でも重要な節目だ」と訴えたいのならば、その結論に説得力を持たせるために材料を並べるべきだ。イランと仲が悪いのは今に始まった話ではない。「70周年」を迎えて「重要な節目」と断定できる変化が起きているのならば、それを読者に伝えるべきなのに材料が弱い。

記事を読む限りでは「安全保障でも」これまでの延長線上で事が進んでいるように見える。今回のような焦点の定まらない内容では、イスラエルに関して「核心」を描いたとは言い難い。


※今回取り上げた記事「核心~イスラエル 急成長の70年 安全保障や格差、課題も
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29940010X20C18A4TCR000/


※記事の評価はD(問題あり)。脇祐三特任編集委員への評価はC(平均的)からDに引き下げる。

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