2018年4月23日月曜日

「生産性向上」どこに? 日経 水野裕司編集委員「経営の視点」

23日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「経営の視点~生産性向上 竹内製作所の流儀 正社員転換で現場に活力」という記事は肝心の情報が欠けている。「竹内製作所」の「生産性向上」を裏付けるデータが最後まで出てこない。これでは「正社員転換」が「生産性向上」につながっているのか判断できない。
筑紫神社(福岡県筑紫野市)※写真と本文は無関係です

水野裕司編集委員が書いた記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

1989年のベルリンの壁崩壊を側面支援した日本企業がある。長野県内に本社と工場を置く東証1部上場の建機メーカー、竹内製作所だ。壁の撤去に同社のミニショベルが活躍した。小回りが利いて狭い場所でも使えるミニショベルは71年、竹内製作所が世界に先駆けて開発した製品だ。

欧米向けの輸出を中心とした連結売上高は2018年2月期に943億円。堅調な米景気やインフラ投資の拡大を背景に、この5年で2.3倍になった。

事業規模の拡大とともにより重要になっているのが生産性の向上だ。米トランプ政権の「米国第一主義」が世界の景気に悪影響を及ぼす懸念もある。環境変化に対応するには、絶えず工程を改善するなど強い現場づくりが求められる。

15年から始めた非正規従業員の正社員登用制度は、人の技能向上への意欲を高め、ものづくりの力を底上げするための仕組みだ。

全社で約450人の正社員に対し、非正規従業員はざっと半分の200~250人。だが工場では正規、非正規がほぼ同数だ。非正規の人のモチベーションを上げることは欠かせない

書類選考を経て一般常識などの筆記試験や小論文、面接の結果を踏まえ、正社員登用の可否を決める。一定水準以上の部品加工や組み立ての技能は必須だ。「(職場のメンバーと良好な関係を築く)ヒューマンスキルや挑戦心があるか、将来の夢を具体的に描いているかなどもみる」と、登用制度を発案した山本覚・人事課長は話す。

選考基準が厳格なため合格は簡単ではない。これまでに実施した5回の登用試験では延べ142人が受験し、合格は2割の29人だ。

だが正社員になれば年収が100万円は増え、雇用も安定する。4回続けて不合格だったが自己研さんを積み、5回目で合格した人もいる。今年2月の第5回試験では33人が受験して13人が通り、合格率は4割。非正規の人の力は確実に高まっている。

離職率も下がった。非正規従業員が働き始めて1~3カ月以内に辞める割合は23%から6%に、3~12カ月以内に離職する割合は39%から21%に減った。技能を習得し始めた人が辞めるのは損失だ。離職率低下も生産性向上を後押しする

労働契約法改正で有期雇用契約を5年を超えて更新された人は、希望すれば期間の定めのない無期雇用に移れることになった。施行から5年になる今月から無期転換が始まっている。

ただ企業の競争力向上を考えれば、処遇改善のやり方を工夫する必要がある。竹内製作所は参考例だ。

創業者である竹内明雄社長は中学卒業後に長野県の自動車部品メーカーに就職し、63年、29歳で竹内製作所を設立した。

84歳の今も、県北部の坂城町にある本社工場の現場を午前・午後と回る。気になった点はその場で助言。15年には私財を投じ、県内の理工系学生らに返済不要の奨学金を給付する育英奨学会を発足させた。

「人材育成に熱心なトップなら、理解してくれるはず」。そう思って山本氏が提案したのが正社員登用制度だ。経営者の姿勢は人づくりでもカギになる。


◎色々と問題が…

生産性向上 竹内製作所の流儀 正社員転換で現場に活力」という見出しを付けるならば竹内製作所について(1)生産性はどの程度向上したのか(2)生産性向上と正社員転換に因果関係はあるのか--に触れる必要がある。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

まず(1)について考えよう。「連結売上高は2018年2月期に943億円。堅調な米景気やインフラ投資の拡大を背景に、この5年で2.3倍になった」という話は出てくる。しかし、生産性が向上しているとは限らない。

ここでは生産性を従業員1人当たりの売上高で見るとする。売上高が2倍になっても従業員が3倍に増えれば生産性は落ちる。記事では従業員数の変化には触れていない。これでは竹内製作所の生産性を判断する術がない。

付け加えると、連結で見るか単独で見るかという問題もある。調べてみると「全社で約450人の正社員」というのは単独ベースのようだ。だったら「連結売上高」ではなく、単独の売上高を見せるべきだ。

連結売上高」を5年前と比べているのも引っかかる。「非正規従業員の正社員登用制度」を始めたのが「15年」ならば、その直前に当たる決算期と比較して生産性を見るべきだ。売上高の伸びが大きく見える時期を選んで「この5年で2.3倍」と書いているのならば、ご都合主義的だ。

次に(2)だ。「正社員転換で現場に活力」→「生産性向上」という因果関係を水野編集委員は想定しているのだろう。ここに因果関係が成り立たなければ、記事は根幹が揺らぐ。

生産性向上のために「非正規の人のモチベーションを上げることは欠かせない」かもしれない。「離職率低下」が「生産性向上を後押しする」効果も期待できる。ただ、何のデータも示していない。因果関係が無理でも、相関関係を示す数値ぐらいは欲しい。

竹内製作所は参考例だ」と水野編集委員は言うが、生産性が向上しているのかも、正社員登用制度が生産性向上に寄与しているのかも不明なままでは「参考」にならない。


※今回取り上げた記事「経営の視点~生産性向上 竹内製作所の流儀 正社員転換で現場に活力
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180423&ng=DGKKZO29680950Q8A420C1TJC000

※記事の評価はD(問題あり)。水野裕司編集委員への評価もDを据え置く。水野編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

通年採用で疲弊回避? 日経 水野裕司編集委員に問う(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_28.html

通年採用で疲弊回避? 日経 水野裕司編集委員に問う(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_22.html

宣伝臭さ丸出し 日経 水野裕司編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_26.html

「脱時間給」擁護の主張が苦しい日経 水野裕司編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_29.html

「コマツはセブンに変身」に無理あり 日経 水野裕司編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post.html

「裁量労働制で生産性向上」に根拠乏しい日経  水野裕司編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/03/blog-post_2.html

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