2018年4月27日金曜日

「覆る常識」というテーマを放棄? 日経「パンゲアの扉」

26日の日本経済新聞朝刊1面に載った「パンゲアの扉~つながる世界 覆る常識(4)民族・宗教を超えて 門戸を開き 最先端走る」という記事について、さらに問題点を指摘していく。第3回までは「覆る常識」を強引に描いてきたが、ネタが尽きたのか第4回では「覆る常識」を論じることを放棄したように見える。
佐世保港(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

まず冒頭の事例を見ていこう。

【日経の記事】

20年前に米シリコンバレーにベンチャーキャピタルを置いた住友商事。「コネがないとなかなか食い込めない」としてイスラエルにも活動の場を広げることを決めた。

人種のるつぼで進取の精神に富むシリコンバレー。しかし、スタンフォードなど地元の大学出身者からなる独自のコミュニティーの壁に阻まれ、成果を出せない企業も増えている。そこで脚光を浴びているのが“スタートアップ・ネーション”イスラエルだ。

同国では最大200万ドルの政府支援もあり、年間1千もの企業が生まれる。その象徴が自動運転のカギを握る画像認識システムのモービルアイだ。国内にこもりがちだった従来のユダヤ系企業とは一線を画し、世界の自動車大手と相次いで提携。その勢いに目をつけた米半導体大手のインテルの傘下に入り、さらなる成長を目指す。

アラブ諸国と対立してきたイスラエル。「異なる民族や文化との交流で国を開くことが安全保障にもつながる」(山田仁一郎・大阪市立大教授)。昨年は先端技術を持つ外国人の長期滞在を緩和する「イノベーション・ビザ」も打ち出し、新たなユダヤネットワーク作りを加速する。



◎「住友商事」の話は要る?

まず住友商事とシリコンバレーの話が無駄だ。「(住友商事が)イスラエルにも活動の場を広げることを決めた」と書いているので、ここから同社のイスラエルでの活動を紹介していくのかと思ったら何もない。だったら取り上げる意味がない。行数に余裕があるならともかく、大して長くない記事だ。「“スタートアップ・ネーション”イスラエル」を最初から論じた方がいい。

ただ、イスラエルの話には新味も驚きもない。「“スタートアップ・ネーション”イスラエル」というイメージはかなり古くからある。ここ数年の話ではない。「年間1千もの企業が生まれる」のも大した数字ではない。日本では合同会社も含めると会社設立数が10万社を超えるはずだ。イスラエルの「1千」はいわゆるスタートアップに限定した数字かもしれない。しかし、そうは書いていないし、比較がないと「1千」が多いか少ないかも判断できない。

さらに言えば、わざわざ取り上げたのは、よく知られた「自動運転のカギを握る画像認識システムのモービルアイ」。しかも「世界の自動車大手と相次いで提携。その勢いに目をつけた米半導体大手のインテルの傘下に入り、さらなる成長を目指す」という何の目新しさもない話だ。「モービルアイ」を取材した形跡も窺えない。

国内にこもりがちだった従来のユダヤ系企業とは一線を画し」との説明も怪しい。例えば2016月1月27日付で日経は「ソニー、イスラエル半導体メーカーを買収 250億円」と報じている。他にもイスラエル企業が海外企業に買収された話はある。従来のユダヤ系企業とは一線を画し」ていることが「覆る常識」のつもりかもしれないが、無理がある。

また「ユダヤ系企業」と言う場合「米国のユダヤ系企業」もあるはずだ。これも含めると「国内にこもりがち」との説明はさらに苦しくなる。

今回の記事では「地縁や同じ民族で頼る共同体を開放し、新たなネットワークを築けば、多様な価値観を包含する世界に一歩近づく」と結んでいる。外国企業の出資を受け入れたりすることを「共同体の開放」と捉えるのならば、それは多くの国で当たり前になっている。「覆る常識」というテーマは忘れてしまったのだろうか。


※今回取り上げた記事「パンゲアの扉~つながる世界 覆る常識(4)民族・宗教を超えて 門戸を開き 最先端走る
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180426&ng=DGKKZO29831310V20C18A4MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「小が大を制す」が見当たらない日経1面「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/1_24.html

今度は「少数言語の逆襲」が苦しい日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/1_24.html

「覆る常識」を強引に描き出す日経1面「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post_95.html

華僑の始まりは19世紀? 日経1面「パンゲアの扉」の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/19.html


※「パンゲアの扉~つながる世界」の以前の連載については以下の投稿も参照してほしい。

冒頭から不安を感じた日経 正月1面企画「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_2.html

アルガンオイルも1次産品では? 日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_4.html

スリランカは東南アジア? 日経「パンゲアの扉」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_28.html

根拠なしに結論を導く日経「パンゲアの扉」のキーワード解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_8.html

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