2018年4月27日金曜日

「崩れ始めた中央集権」に無理がある日経「パンゲアの扉」

日本経済新聞朝刊1面の「パンゲアの扉~つながる世界 覆る常識」という連載がようやく終わった。27日の「(5)情報の鎖がお墨付き 崩れ始めた中央集権」も苦しい内容だった。「崩れ始めた中央集権」という見出しが付いているものの、そうした変化が起きているようには見えない。
甘木公園の桜(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

まずは最初の事例を見ていこう。

【日経の記事】

「このワインはブロックチェーンで本物と証明されます」。イタリアの高級メーカー、キャンティーナ・ボルポネ。ラベルに刷られたQRコードをスマートフォン(スマホ)で読むと、こんなメッセージが表れる。

ブドウの栽培地や醸造履歴、温度管理……。製造から小売りまでの過程でボトル一本一本に関し真正品や品質の証しとなる情報を改ざんが困難な基盤の上でつなぎ合わせ、消費者に透明に示す。

世界に流通するワインは高級品から廉価品まで2割が偽造品といわれる。本物なのか、味は良いのか悪いのか。目利きを担ってきたのは有名販売店やソムリエといった知識と経験で信用を得た一握りのプロだけだったが、信頼に足る情報の鎖が「お墨付き」を与える。



◎むしろ「中央集権」への移行では?

これまでは「有名販売店やソムリエ」が「本物なのか、味は良いのか悪いのか」を判別していたのに、「QRコードをスマートフォン(スマホ)で読む」だけで判別が可能になるとしよう。そして「QRコード」を提供するのはワインの「メーカー」だ。

この場合、様々な人や企業が担っていた「お墨付き」の機能を「メーカー」が一手に引き受けることになる。それは「崩れ始めた中央集権」の事例として適切なのか。むしろ、逆ではないか。

次の事例に移ろう。

【日経の記事】

海外にいる出稼ぎ労働者から年280億ドル(約3兆円)が流れ込むフィリピン。平均6%だった国際送金コストが1~2%になる新サービスが広がる。ブロックチェーンを基盤とする仮想通貨を活用し、世界中とお金を瞬時にやりとりして手数料を抑える。規制や銀行を経由するといった法定通貨の権威を守る仕組みに支配されない自由なマネーの流通が、巨大市場に効率をもたらす



◎仮想通貨は規制なし?

仮想通貨」に関しては中央集権的ではないとは言える。ただ、「規制や銀行を経由するといった法定通貨の権威を守る仕組みに支配されない自由なマネーの流通が、巨大市場に効率をもたらす」という部分には問題を感じた。まず、文が拙い。
佐世保港(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

規制や銀行を経由するといった法定通貨の権威を守る仕組み」と書くと「『規制や銀行』を経由する」と読めてしまう。簡単に直すならば「規制や、銀行を経由する」と読点を入れればいい。

本題に戻る。

仮想通貨」に関して「規制」に「支配されない自由なマネー」と言い切っているのも引っかかった。日経でも2016年5月26日に「仮想通貨に規制の網、登録制で利用者保護 改正資金決済法成立 」という記事を載せている。国際的にも規制強化の方向だ。フィリピンは別かもしれないが、「崩れ始めた中央集権」の例としてと単純に捉えるのは感心しない。

規制強化があっても、仮想通貨はやはり「(規制に)支配されない自由なマネー」なのだと取材班が考えるのならば、その理由を述べてほしかった。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

ネットワーク参加者の間で、取引などの内容を暗号データで記録する「台帳」を分散して共有するブロックチェーン。活用対象を広げながら、価値に「太鼓判」を押すのは特定の誰かや権力者だけという20世紀までの当たり前を崩してゆく



◎そんな「20世紀までの当たり前」あった?

価値に『太鼓判』を押すのは特定の誰かや権力者だけという20世紀までの当たり前を崩してゆく」と言うが、そんな「当たり前」があったのか。例えばラーメン店が開業したとしよう。その店の「価値」に不特定多数の人が「太鼓判」を押すことは20世紀にもあった。いわゆる口コミだ。「新しくできた店、絶対旨いから一度食ってみろよ。俺が太鼓判を押すから」などと言って友人にラーメン屋を薦めることは20世紀にはなかったとでも取材班は考えているのか。

それに「20世紀までの当たり前」を崩しているだけならば、話が古すぎる。「覆る常識」と打ち出すからには、「2017年までの当たり前」が崩れる動きを伝えてほしい。最低でも「2010年代前半までの当たり前」は崩れていないと苦しい。

さらに見ていこう。

【日経の記事】

21世紀に押し寄せるのは、値打ちを担保する力の源が無数の個に分散する非・中央集権の奔流だ。お金を保証する中央銀行の意義を仮想通貨が問うように、世界を行き交うヒト・モノ・カネを統治してきた国家の機能も揺さぶっている。

アフリカ各地では昨年から、国連の後押しで身分証のない人に「電子ID」を発行するプロジェクトが始まった。指紋や虹彩の生体認証を用い、二重登録を防げるブロックチェーン上で一人ひとりの「戸籍」を作成。銀行口座開設や医療機関などで使えるようにする。

世界では11億もの人が法的な身分証を持たない。国家に属さないと存在の裏付けさえなく、生活に必要なサービスを受けられないが、行き届かぬ行政を肩代わりする。



◎これは「非・中央集権」?

記事の書き方に曖昧な部分があるが、「電子ID」を発行する主体が「国連」か、「国連の後押し」を受けた国家ならば、基本的には「中央集権」的だ。
眼鏡橋(長崎県諫早市)※写真と本文は無関係です

登録した情報は「ブロックチェーン上で」分散的に管理するとしても、「指紋や虹彩」と名前などを結び付けて登録する際には、個人が勝手にとはいかないはずだ。それを許せば「戸籍」としての信用は生まれない。

指紋や虹彩」を登録する際に、「これはAさんのものだ」と認定する主体が問題だ。記事で言う「電子ID」に関しては国連か国家だと思える。違うのならば、それが分かるように書くべきだ。

次は最後の事例を見ていく。

【日経の記事】

欧州ではもっと先の動きがある。デジタル空間での仮想国家「ビットネーション」の樹立だ。ブロックチェーンをもとに同性愛者の婚姻届を認めたり、難民に身分証明書を発行したりする。実社会での法的効力はまだないが、既存国家が受け付けないアイデンティティーを持つ人々の受け皿を目指す。中央政府は置かず、統治に国民が自主参加する分権を提唱する。

ビットネーションに共鳴し「市民権」を得た人は1万5000超。出生地や居住地といった制約に縛られず、自分の国は理想に合う国を自由に選ぶ。デジタル技術の進歩に伴い新たな価値観が広く浸透していくと、そんな時代が当たり前になっても不思議ではない


◎「仮想国家」取り上げる意味ある?

デジタル空間での仮想国家」に関しては取り上げる意味があるとは思えない。「実社会での法的効力はまだない」と言うが、いずれ効力を持つ見通しなのか。

デジタル空間での仮想国家」を「自由に選ぶ」のは簡単にできるだろう。しかし、そうした動きがいくら広がっても、本物の「」に関して「出生地や居住地といった制約に縛られず、自分の国は理想に合う国を自由に選ぶ」ことが簡単になる訳ではない。

そんな時代が当たり前になっても不思議ではない」と記事を結んでいるが、話が飛び過ぎだ。「自由に選ぶ」のが本物の「」ならば、「そんな時代が当たり前」になるのは遠い先の話だろう。どういうプロセスを経て国を「自由に」選べるようになるのか、記事には何の説明もない。これでは説得力に欠ける。

今回の記事の最後には「竹内康雄、植松正史、柴田奈々、遠藤淳、堤正治、黄田和宏が担当しました」と出ていた。今回の連載は明らかな失敗作だ。なぜそうなったのかを取材班の6人はしっかりと考えてほしい。


※今回取り上げた記事「パンゲアの扉~つながる世界 覆る常識(5)情報の鎖がお墨付き 崩れ始めた中央集権
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180427&ng=DGKKZO29914320X20C18A4MM8000

※記事の評価はD(問題あり)。連載の責任者を竹内康雄氏と推定し、同氏への評価を暫定でDとする。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「小が大を制す」が見当たらない日経1面「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/1_24.html

今度は「少数言語の逆襲」が苦しい日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/1_24.html

「覆る常識」を強引に描き出す日経1面「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post_95.html

華僑の始まりは19世紀? 日経1面「パンゲアの扉」の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/19.html

「覆る常識」というテーマを放棄? 日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post_27.html


※「パンゲアの扉~つながる世界」の以前の連載については以下の投稿も参照してほしい。

冒頭から不安を感じた日経 正月1面企画「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_2.html

アルガンオイルも1次産品では? 日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_4.html

スリランカは東南アジア? 日経「パンゲアの扉」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_28.html

根拠なしに結論を導く日経「パンゲアの扉」のキーワード解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_8.html

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