2018年2月10日土曜日

日経ビジネス「見えてきたクルマの未来」で見えなかったこと

人間がハンドルを握ってクルマを運転する光景は、遠からず消え去る」という大胆な予測から日経ビジネス2月12日号の特集「見えてきたクルマの未来」は始まる。衝撃的な予測ではある。これを実現するには、自動運転の技術進歩だけでは足りない。まず、新車販売は全てレベル4以上の自動運転車になる必要がある。つまり、運転を楽しむためにスポーツカーを買う人がいなくなることを意味する。
福岡空港(福岡市博多区)※写真と本文は無関係です

さらには、世に出回っている自動運転レベル3以下のクルマに乗る人もゼロにしなければならない。常識的に考えると、かなり時間がかかりそうだ。取材班(山崎良兵副編集長、佐伯真也記者、庄司容子記者、小笠原啓副編集長)は特集の中で「遠からず消え去る」と言える根拠を提示しているだろうか。

この問題に触れていると思われる「PART 3~走る5000万台 笑う業界、泣く業界 2030年、クルマと社会はこう変わる」という記事の一部を見てみよう。

【日経ビジネスの記事】

2030年には新車販売の半分が「レベル4」以上の自動運転車になる──。こんな予測を示すのは、米コンサルティング会社のPwC Strategy&だ。米国、欧州、中国といった世界の主要市場で、大半の場面でドライバーが不要になる完全自動運転のクルマが販売の主流になるという。



◎2030年でもレベル4以上は半分止まり…

2030年には新車販売の半分が『レベル4』以上の自動運転車になる」としても、半分は「人間がハンドルを握ってクルマを運転する」場合もあるレベル3以下だ。しかも、2029年までに販売されたクルマが色々なところを走り回っている。12年後でも「人間がハンドルを握ってクルマを運転する光景」が「消え去る」可能性はゼロに近い。

だとすると「消え去る」のはいつなのか。結局、取材班は答えを示してくれない。「見えてきたクルマの未来」とのタイトルを付けて「人間がハンドルを握ってクルマを運転する光景は、遠からず消え去る」と冒頭で言い切ったのは何だったのか。騙しだと言われても仕方がない。

ついでに、記事の中の「渋滞時間~全て自動運転なら解消 一部だけなら悪化も」という解説にも注文を付けたい。記事では以下のように説明している。

【日経ビジネスの記事】

自動運転車は交通規則を順守する。これが常識だ。全てのクルマが自動運転車になれば、車間距離を一定に保ち、ブレーキのタイミングなども完璧で、渋滞が起こらないとされている。



◎「全て自動運転なら渋滞解消」はあり得ない

全てのクルマが自動運転車になれば、車間距離を一定に保ち、ブレーキのタイミングなども完璧で、渋滞が起こらない」という考え方に取材班のメンバーは疑問を持たなかったのだろうか。少し考えれば、あり得ないと分かるはずだ。

100台しか収容できない駐車場に1000台の自動運転車が入ろうとしている状況を考えてみよう。「車間距離を一定に保ち、ブレーキのタイミングなども完璧」だとしても、駐車場の入口から車の列ができてしまう。この渋滞は自動運転では解決できない。

事故が起きた場合も同じだ。自動運転でも事故をゼロにはできない。路上で事故が起きたてクルマの流れが止まれば、必然的に渋滞が発生する。記事を書く上で、そうした可能性は考慮しなかったのだろうか。


※今回取り上げた特集「見えてきたクルマの未来
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/020600910/?ST=pc


※特集全体への評価はC(平均的)。山崎良兵副編集長への評価はCで確定とする。佐伯真也記者、庄司容子記者、小笠原啓副編集長への評価は暫定でCとする。

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