2018年2月9日金曜日

「肌着からデータ送信」が怪しい日経「ポスト平成の未来学」

タブレット端末に心拍数のデータを送ってくれるポリエステル繊維製の肌着」と聞いたら、どういうイメージが湧くだろうか。個人的には、何らかの機器を装着した「肌着」では「肌着がデータを送ってくれる」とは感じられない。
片の瀬公園(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

12日の日本経済新聞朝刊未来学面「ポスト平成の未来学 第4部 暮らし新潮流 体の信号感じる服~体調管理 感情もまとう」という記事では「データを送ってくるのは僕の上半身に密着した肌着」と言い切っていた。しかし、調べてみると「ポリエステル繊維製の肌着」そのものがデータ送信するわけではなさそうだ。

記事の最後には「ご意見や情報をmiraigaku@nex.nikkei.co.jpにお寄せください」と出ているので、意見を送ってみた。内容は以下の通り。


【日経に送ったメール】

日本経済新聞社 上阪欣史様 奥津茜様

12日の「ポスト平成の未来学 第4部 暮らし新潮流 体の信号感じる服~体調管理 感情もまとう」という記事について意見を述べさせていただきます。まず気になったのが最初の段落です。

 「1月下旬、僕(41)のタブレット端末に毎日、自分の心拍数がリアルタイムで表示されるようになった。データを送ってくるのは僕の上半身に密着した肌着。電気を通す直径700ナノ(ナノは10億分の1)メートルのポリエステル繊維製で、軽さは普通の肌着と変わらない。東レとNTTが開発したウエアラブル・センサー付き衣料『hitoe』だ

これには驚きました。「ポリエステル繊維製」の「肌着」が「タブレット端末」に心拍数の「データを送ってくる」と書いてあります。繊維がタブレット端末にデータを送信するなんて画期的な話です。「繊維の中に微細な機械を埋め込むのかな? でも、それじゃ洗濯できないのでは?」などと考えてしまいました。そこで調べてみると、謎が解けました。

データを送ってくるのは僕の上半身に密着した肌着」ではなくて「hitoeトランスミッター」という機器なのですね。記事を読んだ時は「肌着が心拍数を計測してデータを送信する」と思い込んでしまいました。

ひょっとしたら「ウエアラブル・センサー」が「hitoeトランスミッター」を指すのかもしれません。しかし、記事には肌着は「ポリエステル繊維製」と書いてあったので、「電気を通す直径700ナノメートルのポリエステル繊維」が「センサー」の役割を果たすと理解しました。

hitoeトランスミッター」という機器がデータを送ってくるのならば「データを送ってくるのは僕の上半身に密着した肌着」との説明は不正確であり、誤解を招きます。

ついでに言うと、41歳男性の「」には違和感を覚えました。記事中で使うとしても20代までではないでしょうか。

次に移りましょう。今回の記事では「hitoe」の話から以下のように展開していきます。

衣服を介した生体情報は企業にとっても大きな価値がある。例えばライブ会場や観光地などで、来場者がどれだけ楽しんでいるのかを把握できれば、サービスの改善や新企画の提案に生かせる。こうした未来を予見させるのが、日本IBMによる人工知能(AI)『ワトソン』を使った服づくりだ。昨年9月のファッションイベントに電装のドレスを出品。『カワイイ!』といった来場者のツイッターのやりとりをワトソンが解析し、感情の動きに合わせてドレスの色を変えた。吉崎敏文ワトソン事業部長(55)は『何十万通りの服と感情のデータをマッチさせれば“私だけの一着”が出てくるかもしれない』と話す

ワトソン」の話は「衣服を介した生体情報」に関する「未来」とはズレています。流れとしては「着ている服が生体情報を読み取り、その情報を企業が生かしていく」という事例を持ってくる必要があります。しかしワトソンは「来場者のツイッターのやりとり」から情報を得て、それを「電装のドレス」の「」に反映させているだけです。「衣服を介した生体情報」を読み取ってはいません。事例としては辛いと感じました。

ファストから『とがった』価値追求へ」という関連記事についても少し触れておきます。問題としたいのは「伸び悩み」の使い方です。記事では「国内の衣料品販売は伸び悩んでいる。直近の衣料品の国内市場は91年の3分の2の10兆円程度に落ち込んでいる」と記しています。

伸び悩む」とは「能力や勢いが盛んになろうとしているのにある段階で停滞してそれ以上になれずにいる」(大辞林)という意味です。基調としては伸びているが、その勢いが弱い時に用いる言葉です。「直近の衣料品の国内市場は91年の3分の2の10兆円程度に落ち込んでいる」のであれば、低迷が長く続いています。記事に付けたグラフでも、そうした傾向が読み取れます。だとすれば「国内の衣料品販売は伸び悩んでいる」との説明は不適切です。

グラフにも「衣料品の国内市場は伸び悩んでいる」とのタイトルが付いています。グラフと併せて見ると記事の作り手が「伸び悩み」の意味を理解していないのが容易に分かります。気を付けてください。

記事に関する意見は以上です。今後の参考にしていただければ幸いです。

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※今回取り上げた記事「ポスト平成の未来学 第4部 暮らし新潮流 体の信号感じる服~体調管理 感情もまとう
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180208&ng=DGKKZO26645530X00C18A2TCP000


※記事の評価はD(問題あり)。上阪欣史記者への評価はDで確定させる。奥津茜記者は暫定でDとする。

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