2018年2月22日木曜日

働き方改革「政争している場合か」と日経 山口聡記者は言うが…

22日の日本経済新聞朝刊総合2面のトップ記事「働き方改革 足踏み~厚労省、裁量労働延期を検討 不適切データ 新たに117件」には「政争している場合か」という関連記事(筆者は山口聡記者)が付いている。この記事には色々と問題を感じた。中身を見ながら、具体的に指摘してみたい。
横浜ランドマークタワー(横浜市)
        ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

なぜこうも時間ばかりが費やされるのだろうか。政府は野党の反発を踏まえて働き方改革関連法案を修正し、裁量労働制の拡大など大半の制度の施行を1年遅らせる検討に入った。日本は人口減で働き手が減る。人工知能(AI)の登場で従来通りの働き方は通用しなくなる。一人ひとりの能力を最大限に生かし、生産性を高める多様な働き方ができる土俵づくりを急がなければならない。働き方改革を政争の具にしている場合ではない



◎「政争の具にしている場合」では?

見出しで「政争している場合か」と打ち出し、本文でも「働き方改革を政争の具にしている場合ではない」と訴えている。これは謎だ。重要法案に関して「政争」せずに、何で「政争」するのか。

例えば、五輪に選手団を送るかどうかで揉めている時に「五輪を政争の具にするな」と言うのは分かる。「五輪はスポーツの祭典であって政争の具にすべきものではない」との認識が広く共有されているからだ。

しかし「働き方改革」はそうではない。国会で活発に議論すべき「法案」になっているはずだ。大災害などが起きて「働き方改革」どころではないという状況でもない。しかも「裁量労働制の拡大も脱時間給制度導入も3年前の国会で提案されながら、審議もされずにずるずると今に至っている」と山口記者自身が書いている。つまり、国会での審議は全くできていない。なのに「政争の具」にせず、さっさと法案を成立させるべきなのか。

「国会審議なんて意味がない」と山口記者が考えているのならば分かる。そうではないとすれば、関連データが不適切だったとの問題も出ているのだから「今こそ、働き方改革を政争の具にすべき時だ」とでも訴えるべきだ。

記事の続きを見てみよう。

【日経の記事】

日本生産性本部によると、日本の1人当たり労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国の中で21番目と欧米諸国に劣後したままだ。そんな状況にもかかわらず、裁量労働制の拡大も脱時間給制度導入も3年前の国会で提案されながら、審議もされずにずるずると今に至っている。



◎「欧米諸国に劣後したまま」?

日本の1人当たり労働生産性」について「欧米諸国に劣後したまま」だと山口記者は言い切っている。しかし、この説明は不正確だ。チェコ、ポーランド、ハンガリーなど日本よりも下位の「欧米諸国」はいくつもある。
吉井駅周辺の菜の花(福岡県うきは市)
      ※写真と本文は無関係です

経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国の中で21番目」というのが、強い危機感を持つべき順位だと考える根拠も謎だ。例えば「10位以内なら問題なし」と考える場合、11位ではダメな理由は何なのだろう。

裁量労働制の拡大」や「脱時間給制度導入」が生産性向上に寄与するとの前提で記事を書いているのも気になる。こうした“改革”によって1人当たりの労働時間が増えるのならば「1人当たり労働生産性」は伸びるだろうが…(そうなる可能性はもちろんある)。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

野党などの「かえって長時間労働を助長する」といった批判が強かったためだ。そのような声には長時間労働を防ぎ、労働者の健康を守る仕組みづくりで対応するのが筋。「反対があるから延期する」では、あまりに稚拙ではないだろうか



◎「反対があるから延期する」?

大半の制度の施行を1年遅らせる検討に入った」ことを、山口記者は「反対があるから延期する」と理解したようだ。しかし、これは日経の報道内容とも食い違う。この日の朝刊1面の記事では「同省(=厚生労働省)の裁量労働制調査に不備が発覚し、先送りを余儀なくされた」と書いている。だとすると、「反対があるから延期する」ではなく「調査に不備が発覚したから延期する」だろう。

記事の終盤に移ろう。

【日経の記事】

仕事の進め方や労働時間を自分で工夫し、モチベーションを上げ、生産性を上げられる人は少なくないはずだ。そういう人たちには制度面で後押しし、日本の成長につなげる必要がある。マイナス面を是正し、プラス面を生かす議論こそが求められている

働き方改革の法案には長時間労働の是正や同一労働同一賃金なども盛り込まれている。「多くを詰め込んだ一つの法案にまとめるのは乱暴」との批判もあるが、世界的に進む大きな環境変化に、大きな対応の素地をつくっておくのは間違いではない。すべての世代が性別に関係なく、生き生き働ける環境は欠かせない。改革に「待った」をかけ続けるだけでは何も進まない。


◎「議論が求められている」ならば…

上記の説明には整合性の問題を感じる。「働き方」に関して「マイナス面を是正し、プラス面を生かす議論こそが求められている」と山口記者は言う。だったら「裁量労働制の拡大はマイナス面が大きい。法案から削除すべきだ」と野党が議論を求めてもいいのか。「マイナス面を是正し、プラス面を生かす議論」を国会の場できちんとやる場合は、結果的に「働き方改革」が「政争の具」になってしまう。

しかし、山口記者は「働き方改革を政争の具にしている場合ではない」とも訴えていた。これは「国会での議論なんてもういい。さっさと法案を成立させよう」という趣旨の主張だと思える。

裁量労働制の拡大も脱時間給制度導入も」何としても実現させたいから、早期に法案を成立させろと願う気持ちは分からなくもない。だが、今回のような雑な主張では、記事に説得力は生まれない。そのことを山口記者にはよく考えてほしい。


※今回取り上げた記事「政争している場合か
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180222&ng=DGKKZO27219470R20C18A2EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。山口聡記者への評価もDを据え置く。山口記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

山口聡編集委員の個性どこに? 日経「けいざい解読」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_76.html

問題目立つ日経 山口聡編集委員の「けいざい解読」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_29.html

「脱時間給」必要性の説明に無理あり 日経 山口聡記者
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_25.html

「年功序列」と関係ある? 日経「脱時間給で綱引き」への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_26.html

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