2018年2月20日火曜日

「東大生がスタートアップを選ぶ」に無理がある日経の記事

19日の日本経済新聞朝刊新興・中小企業面に載った「スタートアップ#東京大学(上) 勃興本郷バレー 省庁・大企業から人材シフト」という記事は強引さが目立った。冒頭で「省庁や大企業に優秀な人材を送ってきた東京大学。東大生の進路に変化が生じている。東大ブランドが通用しないスタートアップを選ぶ卒業生が増えている」と書いてあったので、東大生が就職先として 「スタートアップを選ぶ」ようになってきたのだと感じた。しかし、読み進めると話が違ってくる。
基山町役場(佐賀県基山町)※写真と本文は無関係です

記事に出てくるのは、財務省などから飛び出して起業したケースが多く「東大生の進路」とは話がズレている。「東大生の進路」というテーマと合っているのは、在学中に起業した「ネット旅行会社エボラブルアジアの吉村英毅社長(35)」の話ぐらいだ。

東大生の進路に変化が生じている」「スタートアップを選ぶ卒業生が増えている」と決め付けて記事を作ってしまったのだろう。「公務員就職率6%どまり」という関連記事に、その苦しさがよく表れている。記事を見ながら、問題点を挙げてみたい。

【日経の記事】

東大から大蔵省へ――。このキャリアがエリートの代名詞だった時代は過去のものになったかもしれない。東大生が就職先として公務員を選ぶ比率はこの20年間で低下傾向にある。大学資料から算出した学部卒業生の公務員就職率は2017年春に6%と20年前(9%)と比べ下がっている。法学部でも29%から23%に低下した。



◎なぜ「20年前」と比較?

記事に付けた「新興企業を就職先に選ぶ東大生が増えている」というタイトルのグラフを見ると、公務員就職率は09年に約4%まで落ち込んだものの、その後は回復傾向にある。「公務員就職率は2017年春に6%と20年前(9%)と比べ下がっている」かもしれない。ただ、期間を10年にすると話が変わってくる。東大生の公務員志向が弱まっていると伝えたいのだろうが、近年の傾向がそれに反しているのが苦しい。

さらに厳しいのがこの後だ。

【日経の記事】

東京大学新聞社がまとめた17年春卒の学部生の就職先一覧によると、就職者数でソフト開発のワークスアプリケーションズが11位、楽天が15位となっている。ワークスアプリは学部卒と院卒を合わせると2年連続で20人以上が選んだ。

メガバンク3行が17年学部卒ランキングの1~3位を占めるなど大手の人気も根強いが、全体ではスタートアップに就職先の幅が広がっている新興IT(情報技術)企業は00年代半ばから上位に顔を出している

マネックス証券の松本大社長は「官僚よりスタートアップ志向の学生も増えてきた」と話す。成功する先輩や友人が増え、「東大生の認識する成功パターンが変わってきている」と感じている。



◎「スタートアップ」への就職はどこに?

上記のくだりはかなり強引だ。「就職者数でソフト開発のワークスアプリケーションズが11位、楽天が15位となっている」と言うが、この2社は「スタートアップ」ではない。「新興IT(情報技術)企業は00年代半ばから上位に顔を出している」としても「新興IT(情報技術)企業=スタートアップ」ではない。

しかもグラフを見ると「新興IT企業への就職人数」は最も多い年でも50人程度。15年はゼロだ。「新興IT企業」の中で「スタートアップ」に限定すると、どの年もゼロに近いのではないか。それだと話が成立しなくなるので「スタートアップ」への就職者数にはしなかったのだと思うが、だとしたらやはり「騙し」だ。

記事の最後も苦しい。

【日経の記事】

経団連会長を輩出した名門企業、東芝の屋台骨が揺らぐ一方、人工知能(AI)スタートアップのパークシャテクノロジーにトヨタ自動車が出資した。東大スタートアップが増えるのは経済の主役が交代するパラダイムシフトが起きている反映ともいえる。



◎「パラダイムシフトが起きている」?

東芝の屋台骨が揺らぐ一方、人工知能(AI)スタートアップのパークシャテクノロジーにトヨタ自動車が出資した」ことを受けて「経済の主役が交代するパラダイムシフトが起きている」と筆者は感じているようだ。

これは無理がある。名門企業の没落も、大企業からの新興企業への出資も、10年前にも20年前にもあったことだ。強引に話をまとめようとしたのは分かるが、強引が過ぎる。


※今回取り上げた記事「公務員就職率6%どまり
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180219&ng=DGKKZO27045710W8A210C1TJE000

※記事の評価はD(問題あり)。

0 件のコメント:

コメントを投稿