2018年2月12日月曜日

小田嶋隆氏の「大手商業メディア」批判に感じる矛盾

日経ビジネスではいつも「小田嶋隆の『pie in the sky』~ 絵に描いた餅べーション」というコラムを最初に読んでいる。書き手としての小田嶋隆氏を高く評価しているからだが、2月12日号の「8100億円くらいじゃ驚かない」という記事のメディア批判は説得力がなかった。自己矛盾があると言ってもいい。
隅田川(東京都中央区・江東区)※写真と本文は無関係です

記事では「1月26日、東京都が2020年東京オリンピック・パラリンピックの大会関連経費として、新たに約8100億円を計上すると発表した」ことに関する報道の少なさを問題視。さらに「この先、東京五輪に関して、大手商業メディア経由では批判的な報道は期待できない、ということになってしまうのだろうか」と懸念を示している。だが、その懸念に無理がある。

記事の一部を見てみよう。

【日経ビジネスの記事】

で、このたび、その確定しているかに見えた大会経費とは別に、「大会関連経費」という予算が浮上して、その8100億円にのぼる金額が新たに都の負担に加算される旨が発表されたのが現在の状況だ。

しかも、誰も驚いていない。

というのも、メディアの扱いがずいぶんと小さいのだ。毎日新聞が比較的大きな行数を割いて伝えたことを別にすると、他の扱いはいずれも控えめだ。産経新聞は、8100億円のうち、30年度分の予算で計上される3200億円の部分をわざわざ切り出して引用し《東京都、五輪関連費3200億円計上 30年度予算案 小池知事「東京大会の成功とその先の未来に」》という見出しの記事を掲載している。テレビ各局は、私の観測範囲では、ほとんど時間を割いていない。

よそでも何度か書いたことだが、東京五輪については、新聞4社(読売新聞東京本社、朝日新聞社、日本経済新聞社、毎日新聞社)が、オフィシャルパートナー契約を締結している。本来、スポンサーシップは「1業種1社」が原則なのだが、国際オリンピック委員会(IOC)との協議の結果、特例として4社の契約が認められたカタチだ。言うまでもないことだが、テレビは、五輪の放送に関しては、完全なステークホルダー(利害関係者)だ。これはメディアにおける事実上の国家総動員体制、といっても差し支えないのではないか

となるとつまり、この先、東京五輪に関して、大手商業メディア経由では批判的な報道は期待できない、ということになってしまうのだろうか

繰り返して申し上げると、予算の膨張に驚いてはいない。その先までがあまりにも予想通りの展開すぎることに、ただただ驚いている。


◇   ◇   ◇

上記の説明に関する疑問点は3つある。

◎疑問その1~毎日にも「期待できない」?

毎日新聞は東京五輪について「オフィシャルパートナー契約を締結している」のに、今回の問題で「比較的大きな行数を割いて伝えた」と記している。だとしたら、少なくとも毎日には期待していいのではないか。「比較的大きな行数を割いて伝えた」毎日まで「メディアにおける事実上の国家総動員体制」の一員にしてよいのか。
平塚川添遺跡(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です


◎疑問その2~雑誌にも「期待できない」?

テレビと新聞がダメならば「大手商業メディア経由では批判的な報道は期待できない」のだろうか。「大手」の定義次第ではあるが、雑誌に期待してもいいのではないか。そして、次に触れるが日経ビジネスもその1つだ。


◎疑問その3~日経にも「期待できない」?

日経ビジネスを発行している日経BP社は日本経済新聞社のグループ会社だ。なので、日経ビジネスに「期待できる」とすればグループとしての日経には期待していい。

そして今回、小田嶋氏は自らのコラムを通じて「大手商業メディア経由」で五輪予算に関する「批判的な報道」を展開しているとも言える。日経ビジネスの編集部が「メディアにおける事実上の国家総動員体制」に組み込まれているのならば、今回のような内容のコラムは掲載が許されなかったはずだ。しかし、実際には堂々と載っている。

自らが「大手商業メディア経由」で五輪関連の「予算の膨張」を批判しているのに「大手商業メディア経由では批判的な報道は期待できない、ということになってしまうのだろうか」と心配する方がおかしい。


※今回取り上げた記事「小田嶋隆の『pie in the sky』~ 絵に描いた餅べーション
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/257045/020500142/?ST=pc


※記事の評価はC(平均的)。これまでの記事のレベルの高さを考慮して、小田嶋隆氏への評価はA(非常に優れている)を据え置く。

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