2018年2月1日木曜日

伊藤忠の岡藤社長「CEO続投」と誤った日経 押野真也記者

社長」から「会長CEO」に肩書が変わる伊藤忠の岡藤正広氏について、日本経済新聞の押野真也記者が電子版の記事で「CEO続投」と書いていた。誤りだと思えるので、日経に問い合わせを送ってみた。内容は以下の通り。
横浜赤レンガ倉庫(横浜市)※写真と本文は無関係です


【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 証券部 押野真也様

1月31日付の日経電子版に載った「記者の目~伊藤忠、新経営体制ににじむ危機感」という記事についてお尋ねします。 記事には「岡藤氏は『中国の方は肩書を重視する傾向が強い』と述べ、自らのCEO続投はCITICとの関係を維持・強化するのが目的のひとつという」との記述があります。これが正しければ、岡藤氏は1月18日の人事発表の前からCEOであり、新たな人事でもそこに変化はないはずです。

しかし、伊藤忠のニュースリリースによると、岡藤氏の肩書は4月1日付で社長から会長CEOに変わります。御紙でも、18日付の記事で「伊藤忠として初となるCEO職新設」と記しています。つまり岡藤氏は「CEO続投」ではなく「新設のCEOに就任」のはずです。

CEO続投」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題ないとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じない行動を心掛けてください。

さらに、もう1つ注文を付けさせていただきます。

今回の記事では「伊藤忠、新経営体制ににじむ危機感」と見出しで打ち出し、最初の段落でも「新たな経営幹部の布陣を見ると、岡藤氏の強い危機感が垣間見える」と記しています。しかし、記事を最後まで読んでも「強い危機感」がどういうものか見えてきません。

強いて言えば「CITICはこれまで目立った成果を挙げられていない」という点でしょうか。ただ、これに関しても「岡藤氏は『中国の方は肩書を重視する傾向が強い』と述べ、自らのCEO続投はCITICとの関係を維持・強化するのが目的のひとつという」と書いてあるだけで「強い危機感が垣間見える」とは言えません。

これでは「看板に偽りあり」と言われても仕方がないでしょう。


◎言いたいことは分かるが…

「社長から会長になるが、新設のCEOという肩書も付くので経営トップとしては続投」と押野記者は言いたかったのだろう。気持ちは分かるが、舌足らずが過ぎる。ここまで来ると間違いだ。
東京体育館(東京都渋谷区)※写真と本文は無関係です

岡藤氏の強い危機感」については、記事の全文を見た上で考えてみたい。

【日経の記事】

伊藤忠商事が岡藤正広社長の会長CEO(最高経営責任者)就任を発表してから10日あまりが経過した。発表当初は岡藤氏が引き続き経営を主導することに注目が集まったが、時間がたつにつれて市場の関心は今後の事業展開に移っている。新たな経営幹部の布陣を見ると、岡藤氏の強い危機感が垣間見える

岡藤氏の後任となる次期社長COO(最高執行責任者)には鈴木善久専務執行役員が就任する。CSO(最高戦略責任者)は野田俊介執行役員が就く。鈴木、野田両氏ともに情報・金融カンパニーの出身。野田氏はポータル(玄関)サイト運営のエキサイトで社長を務めた経験もある。SMBC日興証券の森本晃氏は「ビジネスモデルの進化を促す布陣だ」と話す。

伊藤忠は岡藤氏主導で非資源事業の強化を進めて業績を拡大。2018年3月期は連結純利益が過去最高となる前期比14%増の4000億円を見込み、株価も過去1年で約4割上昇した。時価総額は3.7兆円規模にまで膨らみ、三菱商事、三井物産と三強体制を形成するまでになった。野田氏がCSOに就くことで人工知能(AI)や、あらゆるモノがインターネットにつながる「IoT」など新たなモデルへの転換を進める姿勢を明確にしている

では、新たな経営体制はどのようなモデルを構築するのか。鈴木氏が18日の会見で「重要なのはグローバルベースのパートナーシップとリテールだ」と述べたように、資本提携した中国中信集団(CITIC)と、伊藤忠傘下のユニー・ファミリーマートホールディングスが中核となる。

狙いを定める分野のひとつが中国での電子商取引(EC)だ。すでに越境ECサイトを運営する新興企業のインアゴーラ(東京・港)に伊藤忠とKDDI、SBIホールディングスの3社で合計約76億円出資することを決めた。伊藤忠はグループで取り扱う商品の供給などを通じて中国の消費者のニーズや物流のノウハウを蓄積しCITICとの協業にいかす。

しかし、CITICはこれまで目立った成果を挙げられていない。15年に6000億円を投じて資本提携したものの、国有企業特有の意思決定の遅さなどがネックとなって金融サービス、EC分野を中心に戦略の具体化は遅れている。伊藤忠がこうしたリスクを読み切れなかった面は否定できない。

岡藤氏は「中国の方は肩書を重視する傾向が強い」と述べ、自らのCEO続投はCITICとの関係を維持・強化するのが目的のひとつという。CSOは実務面の重責を担う。

株価は新体制が伝わる前日の17日から直近まで2%下げた。他の商社株も総じて軟調で、同じ期間に日経平均の下落率が2.4%だったのに照らすと投資家は現段階で新体制で伊藤忠の収益が上にも下にも大きく変わるとは見ていないと言える。配当利回りが31日時点で3.2%と比較的高いことも株価を支えているのだろう。

伊藤忠では今春の発表に向け、次期中期経営計画の策定が大詰めを迎えている。CITICとの協業を通じてECや金融サービスをどう強化するか。確かな成長シナリオを市場に示すことが新たな経営陣に課せられた大きな課題となる



◎やはり見えない「危機感」

2018年3月期は連結純利益が過去最高となる前期比14%増の4000億円を見込み、株価も過去1年で約4割上昇した」のならば、かなり順調だ。そこにどんな「危機感」があるのか説明がない。「人工知能(AI)や、あらゆるモノがインターネットにつながる『IoT』など新たなモデルへの転換を進める姿勢を明確にしている」のであれば、次に向けての手も打っている。

目立った成果を挙げられていない」という「CITIC」に関しても、「岡藤氏」はそれほど強い危機感を記事中では示していない。やはり、何度読んでも「岡藤氏の強い危機感」は垣間見えない。

伊藤忠の最近の状況をあれこれ書いて「確かな成長シナリオを市場に示すことが新たな経営陣に課せられた大きな課題となる」と何となく記事を締めてしまった印象だ。「岡藤氏の強い危機感が垣間見える」という話は、書いている途中に忘れてしまったようだ。


※今回取り上げた記事「記者の目~伊藤忠、新経営体制ににじむ危機感
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26317350Q8A130C1000000/


※記事の評価はD(問題あり)。押野真也記者への評価も暫定でDとする。

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