2018年2月23日金曜日

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏

23日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)が「Deep Insight~誰も切望せぬ北朝鮮消滅」という記事を書いている。見出しの通り「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」 が記事のテーマだが、読んでみると「誰も切望せぬ」とは思えなかった。中国、米国、ロシアが「切望」しないのは分かる。ただ、日本と韓国に関して秋田氏の解説はどうも怪しい。「国家としての北朝鮮がいま崩壊し、地上から消滅してしまうことを、実はどの国も切望していないという『不都合な現実』」を日韓に関しても描けているかどうか検証してみたい。
鎮西身延山本佛寺(福岡県うきは市)
        ※写真と本文は無関係です

まずは日本。

【日経の記事】
 
米中だけでなく、日本にとっても、北朝鮮の消滅は必ずしも理想のシナリオとは言いがたい。半島が大動乱になれば、日本にも火の粉が降り注ぐ。仮に韓国主導の統一が実現したとしても、復興のために莫大な資金支援を日本は期待されるだろう。

さらに日本は地政学上、難しい環境に向き合うことになるかもしれない。新たに出現する「統一国家」は、より反日色が濃くなる可能性があるからだ。日本政府の安全保障ブレーンは予測する。

「南北が統一されれば、反日イデオロギーの教育を受けてきた旧北朝鮮の人々もやがて有権者となり、投票するだろう。そうして生まれる新国家が、今より親日的になるとは考えづらい」




◎話が変わってない?

どの国も切望していない」状況を描こうとしているはずだが、日本に関しては「理想のシナリオとは言いがたい」と書いており、話がややズレている。「理想のシナリオ」でなくても、悪い状況から良い状況に移れるのであれば、その変化を「切望」することは十分にあり得る。

秋田氏は政府関係者への取材も日常的にしているはずだ。だったら、「切望していない」という趣旨の政府関係者コメントでも使えば良さそうなものだが、なぜか、そうした証言は出てこない。「日本政府の安全保障ブレーン」の話を持ち出すのに、政府そのものの「切望していない」という意向を示せないのは、「切望していない」との前提に無理があるからではないか。

ついでに言うと、「半島が大動乱になれば、日本にも火の粉が降り注ぐ」と秋田氏は断言するが、それは状況によるはずだ。朝鮮戦争の時は「半島が大動乱」になったものの「日本にも火の粉が降り注ぐ」事態になったとは言い難い(「火の粉」の捉え方次第ではあるが…)。

さらに言えば、「新たに出現する『統一国家』は、より反日色が濃くなる可能性がある」といった程度では、北朝鮮消滅を「切望」しない理由としては苦しい。「統一国家」が今の韓国より反日的になるとしても、北朝鮮の核ミサイルの脅威がなくなるのならば全体で見てプラスが上回ると考える方が自然だ。

結局、日本政府の話なのに「切望していない」という直接的な根拠が欠けている。秋田氏の挙げる様々な材料も「切望していない」と判断する根拠としては、かなり弱い。

次に韓国について考えたい。

【日経の記事】 

では、最後に残った韓国はどうだろうか。文在寅政権は北朝鮮との融和に熱心だが、皆がいますぐ南北統一を実現したいと願っているわけではないようだ。昨年春に韓国政府の研究機関が実施した世論調査によると、統一は「必要」と答えたのは57.8%にとどまった。20代では「必要ない」との回答が6割を占めた。

こうした構図が正しいとすれば、日米韓中は北朝鮮に制裁を浴びせ、核を放棄させたいものの、少なくとも現時点では、国家が消えるまで追い込むつもりはないということになる。

北朝鮮は各国のそんな本音に気づいているのかもしれない。北朝鮮が抱える巨大な地政学リスクが彼らの一助になっているとすれば、極めて皮肉というほかない。


◎根拠は「世論調査」?

どの国も切望していない」とは「どの国(の政府)も切望していない」という意味だと思って読み進めてきた。韓国に関しても「文在寅政権は北朝鮮との融和に熱心だが、皆がいますぐ南北統一を実現したいと願っているわけではないようだ」とのくだりまでは、そう感じた。

しかし、その後に出てくるのは「世論調査」の数字だ。「世論調査」の数字では「文在寅政権」が北朝鮮消滅を「切望」しているかどうか判断できない。世論調査で原発反対が多いからと言って、政府が原発廃止に動くとは限らないのと同じだ。

しかも世論が「切望していない」と解釈するのも苦しい。「統一は『必要』と答えたのは57.8%にとどまった」と言うが、過半数は「統一が必要」と回答していることになる。ここから「(韓国国民も)切望していない」と読み取るのは強引すぎる。「20代」の数字を出しても、苦しさは変わらない。重要なのは、やはり国民全体の動向だ。

しかも、記事に付けた表では韓国について「悲願の統一は実現しても、莫大なリスクと経済負担」と説明している。「統一」が国としての「悲願」ならば、余計に「切望していない」とは受け取れない。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~誰も切望せぬ北朝鮮消滅
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180223&ng=DGKKZO27256380S8A220C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。

秋田浩之氏への評価もDを据え置く。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

0 件のコメント:

コメントを投稿