2017年3月10日金曜日

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」

辻褄が合っていない記事と言えばいいのだろうか。10日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に秋田浩之氏(肩書は「本社コメンテーター」)が書いた「Deep Insight~『国粋の枢軸』危うい共鳴」 という記事では、「国粋の枢軸」に関して理解に苦しむ説明が目立つ。
筑後川昇開橋(佐賀市・福岡県大川市)
         ※写真と本文は無関係です

秋田氏はまず米トランプ政権の「バノン首席戦略官・上級顧問」に注目する。そして以下のように記している。

【日経の記事】

 戦後の世界は、西洋文明の盟主である米国と西欧諸国が仕切ってきた。ところが、グローバル化で国際資本に市場が食い荒らされ、米欧の社会が荒廃した。イスラム文化圏などからの移民の流入でテロの脅威がふくらみ、伝統的な価値観も薄まっている。この流れを止め、米・西欧主導の世界を再建しなければならない……。

つまり、グローバル化の流れをせき止め、薄まった米国と西欧諸国のアイデンティティーを取り戻そうというわけだ。そのためには国連や国際機関の弱体化も辞さない。革命にも近い発想だ。

トランプ氏もおおむね、バノン氏のこうした思想を共有している。

◇   ◇   ◇

つまり、目指すところは「米・西欧主導の世界」だ。しかし、記事の終盤になると話が変わってくる。

【日経の記事】

トランプ政権はいま、世界にも同じ「革命」を輸出しようとしている。当面の目標は欧州連合(EU)の統合を壊すことだ。西欧国家群の土台が統合で食いつぶされているという危機感がある。

「英国のEU離脱はとても良かった。あとは(フランスの極右政党・国民戦線の)ルペン党首が今春の大統領選に勝ち、ドイツのメルケル首相が9月の総選挙に負ければ、すばらしい」。英国のEU離脱を主導したジョンソン外相が1月に訪米した際、バノン氏はひそかにこう励ましたという。

ひるがえって、EUを敵視する欧州の極右政党からみれば、トランプ政権は願ってもない助っ人だ。米政権に近づき、静かに連携を探ろうとしている。
アントワープ(ベルギー)の「ブラボーの噴水」
      ※写真と本文は無関係です

2月下旬の米保守系政治団体のイベントには、欧州から極右や右派政党も顔をそろえた。報道によれば、フランスの国民戦線やイタリアの北部同盟、オーストリアの自由党の幹部らがトランプ政権側と熱心に接触を重ねた。

反移民・イスラム、自国優先といった思想で米政権と共鳴し、欧州の極右勢力がさらに勢いづく筋書きが、現実味をおびている。

フランスの国民戦線のルペン党首は4~5月の大統領選に向け、世論調査で首位を走る。彼女は米国のTPP離脱を称賛する。

3月15日の下院選を控えるオランダでは、「オランダのトランプ」と呼ばれるウィルダース自由党党首が第1党の座をうかがう。オーストリアやイタリアの右派政党の主張も、米政権に重なる。

反EUのルペン氏が当選すれば、「EU統合は本当に死ぬ」(欧州外交筋)。欧州を分断したいロシアも、ルペン氏陣営に資金援助しているとの情報が流れる。

米英仏中ロは、国連で拒否権をにぎる安保理常任理事国でもある。この大国クラブが「国粋の枢軸」に占められたら、グローバル化の秩序は後ずさりしてしまう

戦前には、米英仏が主導する秩序に反発した日本とドイツ、イタリアが枢軸を組み、戦争に走った。皮肉なことに、こんどは日本とドイツが現行体制の砦(とりで)にならなければならない

◇   ◇   ◇

国粋」とは「その国の国民性または国土の特徴となる長所や美点」(デジタル大辞泉)という意味なので、「国粋の枢軸」には意味不明な部分もあるが、ここでは「自国第一主義国の枢軸」を指すと推測して話を進める。

◎「米・西欧主導の世界」はどうなった?

まず気になるのが「米英仏中ロは、国連で拒否権をにぎる安保理常任理事国でもある。この大国クラブが『国粋の枢軸』に占められたら、グローバル化の秩序は後ずさりしてしまう」というくだりだ。

ここでは「米英仏中ロ」が「自国第一主義国」の「枢軸」になると言っているのだろう。だとすると、中国とロシアが加わってしまう。この2国とも手を組んで「枢軸」を形成すれば「米・西欧主導の世界」は実現しない。トランプ政権の狙いが「米・西欧主導の世界」の実現ならば、中ロを含む「枢軸」を選ぶはずがない。前半部分で書いたことを秋田氏は忘れてしまったのか。

◎英国は「国粋」の一角?

英国はEU離脱を決めたものの、政府自体は離脱に反対だった。その後に極右政党が政権を奪ったわけでもない。「国粋」の一角に入れるのは、かなり違和感がある。「中ロ」も自国第一主義的な面はあるだろうが、「国粋の枢軸」と言われると微妙に違う気がする。

◎「日本とドイツが砦」?

この大国クラブが『国粋の枢軸』に占められたら、グローバル化の秩序は後ずさりしてしまう」と書いた後に、「こんどは日本とドイツが現行体制の砦(とりで)にならなければならない」と記事を締めている。安保理常任理事国の5カ国を問題にするのならば、日本とドイツが頑張っても意味がない。「大国クラブが『国粋の枢軸』に占められ」る事態を止められるわけではない。日独が他国の選挙に働きかけるのならば話は別だが…。

あるいは、秋田氏は日独が現代の「連合国」として、「米英仏中ロ」で構成する「枢軸国」と対峙せよと言いたいのだろうか。しかし、この図式になれば勝負は決したも同然だ。日本が米国に逆らうとも思えない。

大国クラブが『国粋の枢軸』に占められ」るのを防ぎたいのならば、まずはフランスに頑張ってもらうべきだ。「4~5月の大統領選」で非「国粋」勢力が勝てば済む。秋田氏はなぜフランスに「」の役割を期待しないのだろうか。「国民戦線のルペン党首」が勝つと確信しているのか。だったら、そう書いてほしい。

結局、何を訴えたいのか、よく分からない記事だった。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『国粋の枢軸』危うい共鳴
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170310&ng=DGKKZO13896950Z00C17A3TCR000

※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価もDを維持する。

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