2017年3月30日木曜日

英EU離脱は「孤立の選択」? 日経 菅野幹雄氏に問う

30日の日本経済新聞朝刊1面に載った「英、EU離脱通知」というトップ記事の関連として、菅野幹雄氏(肩書は本社コメンテーター)が解説記事を書いている。その見出しは「孤立の選択 惑う世界」。だが、30日の日経の紙面全体を見ると「孤立の選択」とは思えない。
筑後川(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

記事の一部を見てみよう。

【日経の記事(1面)】

19世紀に世界唯一の超大国だった英国が、21世紀の世界を揺るがす「勝算なき賭け」に足を踏み入れた。欧州連合(EU)からの離脱通告は、いわば「民意に沿った孤立の選択」といえる。国際秩序の新たな混迷に、欧州、そして世界は長期戦の構えで向き合うことになる。

中略)メイ首相はEUの束縛を解くと強調する。離脱交渉を2年内に仕上げ、自由貿易協定でEUとの関係を仕切り直す考えだ。だが交渉には相手がいる。ローマ条約締結から60年、結束を死守したいEUは甘い顔をしない。離婚料として約7兆円の請求書をちらつかせる。英国は一文も出せないと反発し、激突の様相だ。

◇   ◇   ◇

菅野氏は何を以って「孤立」と言っているのだろうか。「自由貿易協定でEUとの関係を仕切り直す考え」があっても「孤立の選択」なのか。同じ朝刊の国際1面に載った「英離脱 なお世論分断 2国間FTAに活路」という記事で、ロンドンの小滝麻理子記者は以下のように書いている。

【日経の記事(国際1面)】

英政府は離脱後も単一市場を最大限活用できるようEUと新たなFTA協定を結びたい考え。同時に、新興国などと2国間のFTAを拡大することで、EUへの依存を引き下げ、離脱の悪影響を和らげる狙いだ。すでに米国やインド、トルコ、オーストラリアなどとFTA交渉の準備協議を進めることで合意。中国や日本とも貿易関係の強化を目指す

◇   ◇   ◇

英国は「EUと新たなFTA協定を結びたい考え」があるだけでなく、「米国やインド、トルコ、オーストラリアなどとFTA交渉の準備協議を進めることで合意。中国や日本とも貿易関係の強化を目指す」という。これでは「孤立の選択」をした国に見えない。
ベルギーのアントワープ市街 ※写真と本文は無関係です

菅野氏が英国のEU離脱を「孤立の選択」と見るのは自由だ。しかし、「2国間FTAに活路」という記事まで載せている中で「孤立の選択」と解説するのならば、なぜそう言えるのか説得力のある根拠を提示してほしかった。

英国はEU加盟国と国交を断絶するわけでも、貿易を禁じるわけでもない。NATOからも脱退しない。EUから離脱するだけだ。「欧州でEU非加盟=孤立」と言うのならば、スイスやノルウェーも「孤立の選択」をしているが、こうした国に「孤立国家」のイメージはあまりない。

大した影響が出ていないのに「大変なことが起きている」と解説しようとするから、話に無理が生じるのではないか。それは以下のくだりにも表れている。

【日経の記事(1面)】

変調の兆しが表れている。ロンドンの再開発事業の現場では、昨年末に帰省したポーランド人建設労働者の3割が自国にとどまり戻らなかった例がある。金融機関も人員を大陸欧州に移し始めた。対英投資の停滞やインフレも懸念材料だ。

◇   ◇   ◇

昨年末に帰省したポーランド人建設労働者の3割が自国にとどまり戻らなかった」という話がまず苦しい。わざわざ取り上げる意味があるのか。まずEU離脱との関連が謎だ。基本的には関係なさそうに思える。関係あると菅野氏が考えるのならば、その理由は入れてほしい。
平尾台(北九州市)※写真と本文は無関係です

EU離脱に関して昨年末に大きな変化があったわけではない。ポーランドで良い仕事を見つけやすくなっているから戻らなかったのかもしれない。そもそも「3割が自国にとどまり戻らなかった」というのが異例の事態かどうかも不明だ。

国際1面の記事では「今のところ、ポンド安による輸出増などで英経済は想定よりも堅調に推移している。17年は2%と高い成長率を見込む」と小滝記者が書いている。EU離脱で大変だと騒ぐより、「なぜ意外と大したことがないのか」を分析した方が読み応えがあったと個人的には思えるのだが…。


※今回取り上げた記事「孤立の選択 惑う世界

http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170330&ng=DGKKASGM29H30_Z20C17A3MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。 菅野幹雄氏への評価もDを据え置く。同氏については以下の投稿も参照してほしい。

「追加緩和ためらうな」?日経 菅野幹雄編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_20.html

「消費増税の再延期」日経 菅野幹雄編集委員の賛否は?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_2.html

日経 菅野幹雄編集委員に欠けていて加藤出氏にあるもの
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_8.html

日経「トランプショック」 菅野幹雄編集委員の分析に異議
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_11.html

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