2017年3月31日金曜日

熱意は買うが分析に難あり日経ビジネス「アイドル産業」特集

日経ビジネス4月3日号の特集「アイドル産業に学ぶ日本企業再生術」は挑戦的な内容ではある。担当した齊藤美保記者の熱い思いも伝わってはくる。だが、挑戦が成功したとは言い難い。「アイドル産業」に関する分析に無理がある。まずは「Prologue 超高付加価値で超高効率! よく考えたら… こんな産業、他にはない!」という記事にツッコミを入れてみたい。
皇居周辺の桜(東京都千代田区)※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスの記事】

グッズ数点でなぜ1万円以上するのか。答えは単純で、1品1品の単価が高いからだ。例えばアイドルグッズの定番、うちわは1つ700~1000円が相場。ペンライトは2000~4000円する。

これは他の産業ではほぼありえない高付加価値品だ。うちわの製作販売を手がける会社によると、「うちわの原価は10~20円で、印刷代を含めたとしても1本28円(1000本製作の場合)」。アイドルの顔写真が載ることによって、価値が原価の25倍以上に跳ね上がる計算だ。

東京都江東区でアイドルグッズを専門に企画・販売している会社によると「ペンライトは棒状のものなら数十円」というから、付加価値の厚さはうちわどころではない。複雑な形状のものでも、原価は定価の3割程度と言う。



◎「他の産業ではありえない」?

アイドルの関連グッズを例に取り「他の産業ではほぼありえない高付加価値品だ」と言い切っている。そうだろうか。ありふれた話だと思える。

まず音楽業界に限っても、関連グッズの価格が高いのはアイドルだけではない。多くのアーティストは関連グッズを高めの価格で販売している。野球やサッカーなどのプロスポーツも似たようなものだ。ディズニーランドなどで売っているキャラクター商品もやはり高めの価格設定だ。関連グッズの利益率が高いからと言って「他の産業ではほぼありえない高付加価値」を生み出していると考えるのは早計だ。
ブリュッセルのグラン・プラス ※写真と本文は無関係です

そもそも付加価値がそんなに高いのかとの疑問も残る。記事によるとペンライトの原価は「定価の3割」らしい。これはありがちな原価率だ。Tシャツは「原価300円」で「製造場所や生地にもよるが定価の10分の1」となっている。この原価率も驚くほどではない。

例えば、高級ホテルのラウンジで出されるコーヒーは1杯1000円を軽く超えるものも多い。原価を高めの100円と仮定しても原価率は10%未満だ。「他の産業ではほぼありえない高付加価値」と言うならば、原価率は1%割れぐらいでないと納得できない。

効率性に関する分析にも疑問が残る。

【日経ビジネスの記事】

例えば、アイドルビジネスは極めて効率の高い商売でもある。例えば、集客効率。時には演者2人で東京ドームを満員にしてしまう。過去最多動員数は2007年7月22日、2人組アイドルグループ、KinKi Kids(キンキ キッズ)の6万7000人。1人当たり3万3500人を集客した計算だ。プロ野球の場合、1チーム出場選手登録が25人とすると“演者”は両チームで50人。約4万6000人を集めても1人当たりの集客力は約920人にとどまる。



◎効率性が高い?

まず、コンサートの集客効率が高いのはアイドルだけなのかとの疑問が残る。バンドならば演者は10人以下で、集客効率はやはり高いのではないか。特集ではアイドルの「大人数化」にも触れている。大人数アイドルの場合、集客効率ではバンドなどに劣ってしまう可能性が高い。記事で例示しているプロ野球との比較でも優位性がなくなりそうだ。
秋月の桜(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

プロ野球との比較はそもそも無理がありそうな気がする。プロ野球は年間140以上の試合をこなす。しかし、数万人を集められる会場で年間100回以上のコンサートを開くアイドルがいるとは考えにくい。年間で見れば、プロ野球選手の方がアイドルよりも1人当たりの集客数で上回るのではないか。

さらに言えば、同じ東京ドームを使うにしても、コンサートの場合は会場の設営や演出などで手間やコストがかかる。この点ではプロ野球の方が圧倒的に効率性が高い。

この特集は「アイドル産業は特筆すべき存在だから他の業界でも参考にすべき」との立場で構成している。だが「こんな産業、他にはない!」という認識そのものが間違っていると思える。

ついでに言うと、「例えば、アイドルビジネスは極めて効率の高い商売でもある。例えば、集客効率。時には演者2人で東京ドームを満員にしてしまう」というくだりで「例えば」を繰り返しているのは上手くない。


※記事の評価はD(問題あり)。齊藤美保記者への評価もDを据え置く。この特集については以下の投稿も参照してほしい。

歌番組は消滅? 日経ビジネス「アイドル産業」特集の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_6.html

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