筑後川沿いの菜の花(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
まずは記事の冒頭を見ていこう。
【日経の記事】
兵庫県の明石海峡を望む神戸製鋼所の神戸製鉄所。10月、ここから鉄鉱石と石炭を燃やして鉄を作る「高炉」の火が消える。神鋼で残る高炉は加古川製鉄所(兵庫県加古川市)の2基だけになる。
「100年後に高炉で作る鉄が使われているかは、分からない」。川崎博也会長兼社長(62)は言うが、10年後には衝突しない自動運転車が実現して軽くて柔らかい素材で事足りるかもしれない。アルミやチタン合金など非鉄分野がいつでも「主力」になれるよう種まきを怠らない川崎会長の表情には緊張感が漂う。
これまでの成長を導いてきた「資産」が突如、「遺産(レガシー)」になる。そんな絶え間ない技術革新が製造業に「断絶」を迫る。次の成長の種をどう見つけ、育むか。
◎どこが「断絶」?
神戸製鋼所ではこれまでも高炉を減らしてきたのだろう。それが10月にはまた火が消えて「2基だけになる」。「100年後に高炉で作る鉄が使われているかは、分からない」かもしれないが、長い時間をかけて高炉がなくなるのならば「断絶」とは言い難い。
そこは取材班も考えたのかもしれない。「10年後には衝突しない自動運転車が実現して軽くて柔らかい素材で事足りるかもしれない」と付け加えている。だからと言って「断絶」が起きそうには見えない。
まず期間が長い。「10年」以上かけて需要が減っていくのであれば、「断絶」とは言い難い。10年後に一瞬で「自動運転車」に切り替わるわけでもないだろう。しかも「事足りるかもしれない」という不確かな話だ。
百歩譲って「10年後には衝突しない自動運転車が実現して軽くて柔らかい素材で事足りる」ようになり、自動車向けの鉄鋼需要はゼロになるとしよう。だからと言って高炉の火が全て消えるとは限らない。鉄鋼製品は自動車だけに使われるわけではない。自動車向けがなくなっても、高炉が生き残っていく可能性は十分にある。
さらに言えば「衝突しない自動運転車が実現」しても「軽くて柔らかい素材で事足りる」ようにはならないはずだ。「衝突しない自動運転車」とは「自らは運転ミスをしない自動運転車」という意味だろう。逃げ場のない場所で強引に突っ込んでくる自動車から逃れるのは不可能だ。
公道を走っている車が全て自動運転車になれば、「衝突」の可能性を限りなくゼロに近付けられるかもしれない。しかし、危険な運転者の操作する自動車が街を走っている中では「柔らかい素材で事足りる」ようにはならない。衝突に備える必要性は変わらず残る。10年後の公道で非自動運転車がゼロになる可能性はほぼない。
記事にはもう1つ気になる点があった。続きを見てみよう。
【日経の記事】
4月1日に3万人のグループ従業員のトップに立つ日立金属の平木明敏取締役(56)が奮い立つ。「未来永劫(えいごう)、今の材料が使われると思うな」。社内で檄(げき)を飛ばす。
平尾台(北九州市) ※写真と本文は無関係です |
きっかけは1年ほど前にエンジニアから上がってきた報告だった。「主要取引先の航空機エンジンメーカーが相次ぎ採用を決めている」。その新材料は「CMC」。航空機エンジンで使うニッケル合金と比べて軽くて耐熱性に優れる。驚くのはそれが繊維由来ということ。ニッケル合金を成長の大黒柱に位置づける日立金属にとっては息の根を止められかねない。
◎「繊維由来」になぜ驚く?
なぜ「日立金属の平木明敏取締役」(あるいは取材班)は「CMC」が「繊維由来ということ」に驚いたのだろう。「航空機の部品に繊維由来の素材を使えるはずがない」と思っていたのか。日経の記事(1月11日付)でも「航空機では主翼や胴体といった機体でアルミ合金から炭素繊維強化プラスチック(CFRP)への置き換えが進む」と書いている。
航空機に炭素繊維が使われているのは広く知られている。当然に「繊維由来」の素材だ。なのに「CMC=繊維由来」という事実に驚く理由が分からない。「エンジンだけは繊維由来の素材では無理だと思われていた」といった専門家にしか分からない事情があるのならば、そこは記事で説明すべきだ。
1月の連載に続いて、3月の連載も失敗作と結論付けたい。1月の連載の時も述べたが、誰が連載を担当しても「断絶」に説得力を持たせるのは難しい。「断絶を超えて」という企画自体が失敗だったと言うほかない。
※今回取り上げた記事「断絶を超えて(4)資産が遺産になる日 異色のエース 常に育成」
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170316&ng=DGKKZO13764610X00C17A3MM8000
※連載の評価はD(問題あり)。3月に連載された「断絶を超えて」については以下の投稿も参照してほしい。
再開後もやはり苦しい日経1面連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_13.html
日経1面「断絶を超えて」民泊解禁に関する奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_72.html
※1月に連載された「断絶を超えて」については、以下の投稿を参照してほしい。
失敗覚悟? 「断絶」見えぬ日経1面連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post.html
第2回も予想通りの苦しさ 日経1面連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_3.html
肝心の「どう戦う」が見当たらない日経連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_5.html
「メガヨット」の事例が無駄な日経1面連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_25.html
そもそもファストリは「渡り鳥生産」? 日経「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_7.html
最後まで「断絶」に無理がある日経連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_8.html
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