筑後川温泉(福岡県うきは市) ※写真と本文は無関係です |
まず見出しからは「認知症の治療に明るい材料が出ているのかな」と思ってしまう。しかし、冒頭で以下のように出てくる。
【日経ビジネスの記事】
現在、認知症に関わる研究開発には大きく2つある。発症を遅らせるための「薬」と、薬の効果をなるべく早い段階で享受するための「早期診断」だ。
◇ ◇ ◇
これだと、既に発症している認知症患者の「薬」については「研究開発」段階でほぼ諦められているのかと思える。
ところがすぐに話が変わってくる。
【日経ビジネスの記事】
(エーザイが開発した)アリセプトの登場で、医師が薬を処方できるようになった。だが、アリセプトは、原因に働きかける「根本療法」ではなく、認知機能が低下した神経細胞をより働きやすくする「対症療法」でしかない。その後、いくつも「新薬」が登場したが、いずれも対症療法薬だった。
そんなエーザイが今、2020年度以降の販売に向けて着々と準備を進めている新薬が、バイオベンチャーの米バイオジェンと共同で開発した「E2609」と「BAN2401」である。
◇ ◇ ◇
今度は一転して「根本療法」が可能になる薬が登場しそうな感じだ。「発症を遅らせるための『薬』」以外はまともに開発していないと思わせる冒頭の記述は何だったのか。
記事の続きを読むと、さらに分からなくなる。
【日経ビジネスの記事】
両方とも、認知症患者の中で最も多いとされるアルツハイマー型の原因に直接、働きかける。前者は治験の最終段階であるフェーズ3、後者はその前のフェーズ2の状況だ。認可が下りれば、認知症治療は根本治療に向けて1歩、前進することになる。
◇ ◇ ◇
「根本療法」のための薬が認可されるのだから、少なくとも一部の患者については完治が見込めそうなものだが、記事には「認知症治療は根本治療に向けて1歩、前進することになる」と書いてある。「大きく前進」ではなく「1歩、前進する」だけだ。
どういうことなのか。続きを見ていこう。
【日経ビジネスの記事】
根本原因として有力視されているのが、「アミロイドβ」と呼ばれるたんぱく質が凝縮してできる「アミロイドβフィブリル」という物質だ。これが蓄積すると脳に黒い斑点(老人斑)ができる。このアミロイドβフィブリルと老人斑が、神経細胞を殺している可能性が高いと考えられている。
アントワープ(ベルギー)市内 ※写真と本文は無関係です |
アミロイドβは、細長いミミズのような形をした「アミロイド前駆体たんぱく質(APP)」の一部だ。APPの末端部分がβセクレターゼ(BACE)などと呼ばれる酵素で切断されると、生成される。なぜ切断されるのかは解明されていないが、アミロイドβの生成を防ぐことが、認知症進行の抑制につながると考えられている。
E2609は、ハサミのような機能を持つBACEに自らピタッとはまって切断機能を失わせる。同様の働きを持つ薬は、MSDやイーライリリーなどの競合他社も開発に取り組んでいる。
BAN2401は、アミロイドβフィブリルと結合する抗体だ。結合後は脳のお掃除機能を持つ細胞であるミクログリアにのみ込まれる。
またアミロイドβとは別に、神経細胞の中に「タウ」と呼ばれるたんぱく質も蓄積する。その結果、神経細胞の突起が縮み、細胞は死んでしまう。このタウと結合する抗体を、バイオジェンが開発している。
富士フイルムグループの富山化学工業が開発中の「T-817MA」は、神経細胞死の原因となる損傷から細胞を保護するほか、神経細胞の突起が伸びるのを助ける効果が期待できる。現在日米でフェーズ2の治験が行われている。
◇ ◇ ◇
薬が働く仕組みを延々と説明しているだけで、「根本療法」につながるものかどうか判然としない。なぜ「大きく前進」ではなく、「1歩、前進する」だけなのかも読み取れない。
そして、次に以下のような驚くべきコメントが出てくる。
【日経ビジネスの記事】
エーザイニューロロジービジネスグループの木村禎治進行役(53)は、「新薬が登場すれば患者の人生に画期的な変化をもたらす」と期待する。
◇ ◇ ◇
「根本治療に向けて1歩、前進する」だけなのに「新薬が登場すれば患者の人生に画期的な変化をもたらす」らしい。ますます分からなくなる。一歩前進ではなく、やはり「大きく前進」なのか。「根本治療」が新薬の力で可能になるのか。しかし、記事はこれ以上の手掛かりを与えてくれない。
エーザイの新薬が画期的なものならば、「治験では、認知機能が発症前の水準を回復する患者の例がいくつも報告されている」といった説明があっても良さそうなものだ。あくまで推測だが、新薬は大したものではないのだろう。そして、エーザイへの配慮なのか、大げさなコメントだけが浮いてしまったのではないか。
「認知症の画期的な治療法はないか」と探している人がこの記事を読んだら、かなりイライラしそうだ。画期的な新薬が現状では期待できないのならば、それはそれで仕方がない。そう書けばいいだけだ。今回のように、どう理解すればいいのか迷わせるような書き方はやめてほしい。
※特集全体の評価はC(平均的)。
※特集担当者への評価は以下の通りとする。
河野紀子記者(Fを維持)
広岡延隆記者(Cを維持)
池松由香記者(暫定C)
庄子育子編集委員(Dを維持)
坂田亮太郎記者(暫定C)
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