2018年7月3日火曜日

NY金で「売り越し幅」拡大? 日経 松沢巌記者に問う

NY金に関する記事で「ファンド勢(投機筋)も金の売り越し幅を増やした」と書いてあれば「投機筋のネットポジションは売り越しになっていて、その売り越し幅が拡大している」と理解するのが自然だ。しかし、直近では「買い越し」になっているようだ。記事の説明に問題はないのか、記事を載せた日本経済新聞社に問い合わせしてみた。
旧門司税関と「レトロハイマート」(北九州市)
          ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 商品部 松沢巌様

3日の朝刊マーケット商品面に載った「多面鏡~金の下値支える2要因 ETF増加、採掘は先細り」という記事についてお尋ねします。記事では「ニューヨーク商品取引所の金先物価格は現在、1トロイオンス1250ドル台。17年12月中旬以来6カ月半ぶりの安値で、節目の1300ドルを割り込んだ」と記した上で「ファンド勢(投機筋)も金の売り越し幅を増やした」と説明しています。

しかし、CFTC建玉明細によるとNY金での投機筋のネットポジションは6月29日時点で買い越しとなっています。6月後半に買い越し幅を減らしてはいますが、売り越しに転じてはいません。「ファンド勢(投機筋)も金の売り越し幅を増やした」との説明は「ファンド勢(投機筋)も金の買い越し幅を減らした」の誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

売り越し幅」はネットポジションの話ではないとの可能性も考慮しましたが、金先物相場に関する記事で「ファンド勢(投機筋)」の「売り越し幅(あるいは買い越し幅)」に言及する場合、ネットポジションと理解するのが当然だと思えます。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

せっかくの機会なので、他にもいくつか記事に注文を付けておきます。

アナリストや専門家の一部」が「年内にニューヨーク市場の金先物は再び1トロイオンス1300ドル台に回復すると予想する」根拠として松沢様は「ETF残高の増加」と「金採掘のピークアウト論」を挙げています。しかし、どちらも納得できません。

まずETFです。「ETF残高」が「トランプ米大統領が当選した16年下半期から積み上がり、15年12月末(1618トン)からの2年半で5割強増加した」としても、それは今の相場に織り込み済みです。年末に向けてETF残高の増加が見込まれるのならば分かりますが、記事中でそうした見通しは示していません。過去に残高を増やして相場を下支えしてきたとしても、ここから減少していけば逆に下げを促す材料にもなり得ます。

金採掘のピークアウト論」も同じです。松沢様は以下のように記しています。

WGCが発行したリポート『GOLD2048』は『金の資源は5万5000トン。その9割が採掘された場合、17年の金生産量(3246トン)の15年分しかない』と指摘。そのうえで『価格が1500ドル以上にならなければどの鉱山も新たな生産ができない』とした

こうした見通しも織り込んで今の相場が形成されています。「採掘ピークアウト論は金相場の中長期な下支え要因との見方が強い」と松沢様は訴えますが、これを年内に1300ドルを回復する根拠とするのは苦しいでしょう。百歩譲って「中長期な下支え要因」になるとしても、年内の相場押し上げ要因ではないはずです(生産量の見通しなどが年内に大きく変われば話は別です)。

最後に、記事の終盤に触れておきます。ここでは展開が一気に変わっています。

亀井氏は金相場が再び1300ドル台に反発するシナリオとして『トランプ政権の政策が米中貿易摩擦の激化や欧州との深刻なあつれきに発展し、投資家が世界景気の明確なリスクと捉えた場面だ』と読む。相場の方向性を決めるのは、米中間選挙を控えた18年下半期も先が読めないトランプ大統領の経済・貿易政策の行方次第だ

相場の方向性を決めるのは、米中間選挙を控えた18年下半期も先が読めないトランプ大統領の経済・貿易政策の行方」ならば、ETFやピークアウト論に触れる意味はあまりありません。「トランプ大統領の経済・貿易政策」がどうなるのかを最優先で論じるべきです。しかし、そういう構成にはなっていません。

囲み記事を書く上では、結論に説得力を持たせるような構成になるよう意識してみてください。そうすれば、記事の完成度が今よりも高まるはずです。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

日経からの回答はないだろう。あるとすれば「『相場の下落過程で投機筋は買いよりも売りを先行させる傾向が強まった』という意味で『売り越し幅を増やした』と表現しました」といった内容になりそうな気がする。弁明として成立しないわけではないが、一般的にそうは受け取らないはずだ。

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「多面鏡~金の下値支える2要因 ETF増加、採掘は先細り
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180703&ng=DGKKZO32512020S8A700C1QM8000


※記事の評価はD(問題あり)。松沢巌記者への評価はDで確定とする。松沢記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経「金投資 広がる選択肢」松沢巌記者が与える誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/05/blog-post.html

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