2018年7月20日金曜日

日経「住宅高騰、歯止めへ規制 香港・シンガポール」の問題点

20日の日本経済新聞朝刊 国際・アジアBiz面に載った「住宅高騰、歯止めへ規制 香港・シンガポール 印紙税上げなど」という記事は、ツッコミどころが多過ぎる。筆者はシンガポール支局の中野貴司記者と香港支局の木原雄士記者。「こんなレベルの低い記事を読者に届けてしまって申し訳ない」と反省した上で改善に努めてほしい。
だんごあん(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

具体的に問題点を指摘していく。まずは最初の段落を見ていこう。

【日経の記事】

アジア各国で住宅価格高騰への警戒が強まっている。不動産投資が過熱すれば将来、価格が下落に転じる際の悪影響が大きくなるためだ。シンガポールや香港の政府は新たな規制を打ち出した。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ継続でカネ余りだった世界の市場は転機を迎えた。アジアの不動産市場も今後、調整局面に入る可能性がある。



◎「アジア各国」と言うなら…

アジア各国で住宅価格高騰への警戒が強まっている」と言うものの、記事に出てくるのは「シンガポール」と「香港」のみ。つまり1国1地域。「アジア各国」と言うなら、最低でも3カ国は欲しい。記事では「富裕層のマネーは価格の透明性が高く、投資しやすいシンガポールや香港の市場に集中する傾向がある」とも書いている。だとしたら「アジア各国」に共通する問題と捉える必要はなさそうに思える。

米連邦準備理事会(FRB)の利上げ継続でカネ余りだった世界の市場は転機を迎えた」との説明も苦しい。FRBが利上げに転じたのは2015年12月だ。「転機」と言うならば、この頃だろう。

今回の記事で最も気になったのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

 不動産開発が盛んなシンガポールと香港では不動産価格の上昇率が経済成長のペースを上回る。シンガポール政府によると同国では民間住宅の価格が過去1年で9.1%上昇。香港でも民間住宅価格は26カ月連続で上がった。7月には高級住宅が7億3千万香港ドル(約105億円)で売買され、過熱感が収まらない。



◎シンガポールの住宅価格に疑問が…

シンガポール政府によると同国では民間住宅の価格が過去1年で9.1%上昇」と書いているが、記事に付けたグラフではシンガポールのマンション価格上昇率(4月までの半年間)は1%に過ぎない。グラフは日本不動産研究所の調査を基にしており、「シンガポール政府」によるものと合致しないのは分かる。

だが、それにしても違いすぎる。「民間住宅の価格が過去1年で9.1%上昇」しているのならば、マンション価格も半年で4~5%程度は上がっているのが自然だ。「戸建ての価格上昇がきつく、マンションはそうでもない」「直近半年の価格上昇は緩やかだが、その前の半年に大きく値上がりした」といった事情があれば辻褄は合うが、そうした説明は見当たらない。

これだけ差が大きいデータを同じ記事の中で出すのならば、その差がなぜ生じるのか説明が欲しい。

記事に付けたグラフには「住宅価格はアジアで上昇が目立つ」との説明文が付いている。これも引っかかった。日本不動産研究所の調査はアジアの12都市とロンドン、ニューヨークを対象にしたものだ。そしてロンドン、ニューヨーク、クアラルンプール、台北が下落で、それ以外が上昇となっている。ここから「住宅価格はアジアで上昇が目立つ」と断定してよいだろうか。調査対象が少なすぎるし、「アジアは上昇、それ以外は下落」となっている訳でもない。

さらに記事を見ていこう。

【日経の記事】

一方、印紙税の引き上げなどは購入者の負担増に直結するため、不動産の取得意欲を冷やしかねない。こうした規制で住宅価格を抑制できるのか懐疑的な見方もある。

◎「冷やしかねない」のなら…

上記のくだりは流れが悪い。「印紙税の引き上げなどは購入者の負担増に直結するため、不動産の取得意欲を冷やしかねない」と書いてあると、「住宅価格を抑制できる」措置だと思えるが、記事は「こうした規制で住宅価格を抑制できるのか懐疑的な見方もある」と続く。例えば「ただ、こうした規制で~」と「ただ」を入れれば不自然さはほぼ解消できる。

最後に以下のくだりに注文を付けたい。

【日経の記事】

富裕層のマネーは価格の透明性が高く、投資しやすいシンガポールや香港の市場に集中する傾向がある。日本不動産研究所の調査では、香港のオフィス、マンション価格は18年4月までの半年間でそれぞれ9%、7.1%上昇。上昇率はアジアの主要都市の中で最も高かった



◎「シンガポールや香港の市場に集中」?

富裕層のマネーは価格の透明性が高く、投資しやすいシンガポールや香港の市場に集中する傾向がある」と書いて、その根拠として「香港のオフィス、マンション価格」の「上昇率はアジアの主要都市の中で最も高かった」ことを挙げている。
オクムラテイ(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

香港は分かった。問題はシンガポールだ。「日本不動産研究所の調査」によると、シンガポールは「オフィス」で1.5%の5位。「マンション」で1.0%の6位だ。「日本不動産研究所の調査」は「投資しやすいシンガポールや香港の市場に集中する傾向」を裏付けているとは言い難い。

ちなみに日経は3月28日付で「大阪、ミナミがキタを逆転 世界の投資マネーが流入 
公示地価の商業地 京都府は上昇率全国トップ」という記事を出している。この記事の説明が正しければ、「富裕層のマネー」は大阪の不動産市場にも「流入」しており、「シンガポールや香港の市場に集中」という説明と矛盾する。

日本不動産研究所の調査」では、オフィス、マンションとも価格上昇率で大阪がシンガポールを上回っている。「富裕層のマネー」が「シンガポールや香港の市場に集中する傾向がある」という説明は信じない方がいいだろう。

 
※今回取り上げた記事「住宅高騰、歯止めへ規制 香港・シンガポール 印紙税上げなど
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180720&ng=DGKKZO33191780Q8A720C1FFJ000

※記事の評価はD(問題あり)。中野貴司記者と木原雄士記者への評価も暫定でDとする。

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