2018年7月15日日曜日

「早めに新興国押さえたFIFA」が苦しい日経ビジネス山川龍雄編集委員

国際サッカー連盟(FIFA)」は「国際オリンピック委員会(IOC)」に比べて「早めに新興国を押さえた」と言えるだろうか。日経ビジネス2018年7月16日号に載った「PROLOGUE ニュースを突く~FIFAに学ぶ新興国攻略」という記事で山川龍雄編集委員はそう言い切っているが、説得力に欠ける。話の進め方があまりにご都合主義的だ。
門司港駅(北九州市)※写真と本文は無関係です

記事の一部を見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

W杯は10年が南アフリカ、14年がブラジル、そして今回はロシアで開催された。22年は夏の猛暑を避けて11~12月にカタールで開催される。いずれも近年、豊富な資源などを背景に国際社会で台頭してきた国だ。

新興国での開催は、インフラ整備の遅れや政情不安など苦難を伴う。FIFAはリスクを承知の上で未開の地を選んできた。その結果、途上国にもファン層が拡大、世界中の企業から巨額マネーを呼び込む好循環を生んだ。

FIFAの収入を支えるのが、放映権料と企業からのスポンサー料。前回のブラジル大会の放映権料収入は、1998年のフランス大会と比べて約15倍に、スポンサー料収入は10倍に膨らんだ。

スポーツジャーナリストの二宮清純氏は「FIFAと国際オリンピック委員会(IOC)の開催地選びは対照的。IOCはいまだにアフリカやイスラム諸国では開いていない。一方のFIFAはオセロゲームの角(隅)を押さえる戦略をとってきた」と指摘する。

オセロゲームでは、終盤になると角を押さえたプレーヤーの方が優位になる。早めに新興国を押さえたFIFAは、IOCに比べ、収入の伸びに勢いがある

将来の成長を見据えた施策は続く。6月には、2026年の開催国を米国、カナダ、メキシコの3カ国共催に決めた。しかも出場チーム数を現行の32から48に拡大する。「多くの国にチャンスを与えるため」と説明するが、目的は放映権料などの収入拡大とみられる。

さらに30年の開催国は早くも中国が有力視されている。新興国での開催が一巡したFIFAは、米国と中国という経済規模1位と2位の国に狙いを定めた。米中の覇権争いをてんびんにかけるかのような動きだ。


◎「五輪と対照的な開催地選び」?

スポーツジャーナリストの二宮清純氏」に「FIFAと国際オリンピック委員会(IOC)の開催地選びは対照的」と語らせ「早めに新興国を押さえたFIFA」という印象を読者に与えようとしているが、主張に無理がある。
大雨で増水した巨瀬川(福岡県久留米市)
          ※写真と本文は無関係です

IOCはいまだにアフリカやイスラム諸国では開いていない」とは言える。ただ、「新興国」での開催は珍しくない。古くは1968年のメキシコシティー(メキシコ)に遡る。サッカーW杯のロシア開催は今年が初めてだが、五輪は1980年のモスクワ(当時はソ連)、2014年のソチと2度の実績がある。

アジアの新興国に関しては完全に五輪が先行している。ソウル五輪は1988年、北京五輪は2008年だ。W杯のアジア開催は2002年の日韓大会が初で、中国では将来の開催さえ決まっていない。どちらが「早めに新興国を押さえた」かは微妙な感じだ。少なくとも「対照的」ではない。

オセロゲームの角(隅)を押さえる戦略」という例えも分かりにくい。この場合、「」は南アフリカ、ブラジル、ロシア、カタールなのか。「オセロゲームでは、終盤になると角を押さえたプレーヤーの方が優位になる」ので、これらの4カ国で早めに開催すると、世界中の国で「FIFA」の優位が強まると言いたいのだろう。

しかし、この4カ国での開催を済ませると、他の国でも「優位になる」とは考えにくい。北米や東アジアでの「優位」には、ほとんど影響なさそうな気がする。

」は他の国を指すのかもしれないが、米国や中国を「」と解釈するのは難しい。結局、「オセロゲームの角(隅)を押さえる戦略」は具体的にどこを押させて、それがどう作用するのかよく分からない。記事の最後で「新興国の成長や地政学の変化を先取りし、『オセロの角』を押さえる戦略は、ビジネスの視点でも、参考になるのではないか」と山川編集委員は述べているが、今回の内容では参考にしたくてもできない。

ついでに言うと「新興国での開催が一巡したFIFAは、米国と中国という経済規模1位と2位の国に狙いを定めた」との説明も引っかかる。「中国」も「新興国」だ。「30年の開催国は早くも中国が有力視されている」のならば「新興国での開催」はまだ「一巡」してないはずだ。

最後にもう1点だけ記事の書き方に注文を付けたい。

【日経ビジネスの記事】

4年に1度のサッカーの祭典は、注目度でオリンピックを上回ると言っても過言ではない。前回のブラジル大会では、決勝戦を約10億人が視聴した。全米が熱狂するプロアメリカンフットボールの優勝決定戦ですら1億人あまりと足元にも及ばない


◎五輪と比べるなら…

注目度でオリンピックを上回ると言っても過言ではない」と自分で五輪を持ち出しているのに「全米が熱狂するプロアメリカンフットボールの優勝決定戦ですら1億人あまりと足元にも及ばない」となぜかNFLと比較している。この辺りにも山川編集委員の雑さを感じる。


※今回取り上げた記事「PROLOGUE ニュースを突く~FIFAに学ぶ新興国攻略
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/092900002/071000163/?ST=pc


※記事の評価はD(問題あり)。山川龍雄編集委員への評価もDを維持する。山川編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス「資産運用」は山川龍雄編集委員で大丈夫?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/04/blog-post_20.html

尖閣問題の解説も苦しい日経ビジネス山川龍雄編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_16.html

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