2018年7月18日水曜日

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解

地域独占」を実現している日本の銀行はあるだろうか。候補となるのは地方銀行だが、都道府県単位では考えにくい。しかし、日本経済新聞社の梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)によると、「メガバンク3行や地銀」の中には「地域独占に安住して構造改革が遅れたりした」ところもあるらしい。梶原氏は「独占」の意味を誤解しているのだろう。日経には、以下の内容で問い合わせを送っている。
宇佐神宮宝物館(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 本社コメンテーター 梶原誠様

18日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~日本株、浮かぶ3つの異質」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下の記述です。

日経平均の構成銘柄中、(PBRが)0.6倍以下だった24社を見ると、メガバンク3行や地銀などの金融機関が10社を占めた。それでも株式に買いは入らず、放置されている状態だ。マイナス金利の逆風もあるが、外国のライバルに比べて収益性の強化が遅れたり、地域独占に安住して構造改革が遅れたりした面は見逃せない

記事の説明を信じれば「メガバンク3行や地銀などの金融機関」の中に「地域独占に安住して」いるケースがあるはずです。しかし、考えにくい気がします。「地域独占」とは「ある特定の地理的範囲において、1つの企業が市場を独占すること」(デジタル大辞泉)です。

まず、日本では「地域独占」が認められていません。「長崎県の親和銀行を傘下に持つふくおかフィナンシャルグループ(FG)と、同県最大の十八銀行が経営統合で基本合意したのは2016年2月。公取委は『統合すれば県内シェアが約7割に高まり、企業の借り先が制限される』と主張し続けてきた」と日経でも5月8日の記事で解説しています。シェア7割で注文が付くのに「地域独占」が可能でしょうか。

4月に公表となった「地域金融の課題と競争のあり方」という金融庁の資料には「地域銀行の本店所在都道府県における貸出額シェアと貸出利回り」と題したグラフが載っています。このグラフでは、最も「貸出額シェア」が高い銀行でも60%を超えていません。

メガバンク3行や地銀などの金融機関」の中に「地域独占に安住して」いるケースがあるとの梶原様の説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、記事の問題点を追加で指摘させていただきます。まず「具体的なデータをなぜ示さないのか」という点についてです。

<例1>

その傍証が、外国市場とは異なるPERの分布だ。QUICK・ファクトセットによると、日本市場のPERは中央値(全銘柄を高い順に並べた際の真ん中)こそ米国や欧州主要国より低いが、平均値でみると欧米との差は縮まり、割安感は薄まる

記事に付けた表から「中央値」は米国17.8倍、英国14.8倍、日本13.2倍と分かります。しかし「平均値」で「欧米との差」がどのくらい縮小するのかは教えてくれません。肝心なところで具体的なデータを示さないのは頂けません。


<例2>

証券会社のアナリストが企業の調査・分析をしなくなったのも、投資家に薦めたい企業が減ったからだろう。3社以上が調査対象とする企業数は東証1部の3割と、10年前から減っている

ここでも「10年前から減っている」と書いているのに、どの程度の減少なのかは不明です。「9割→3割」と「4割→3割」では受ける印象も大きく変わってきます。変化について触れる場合は「どの程度の変化なのか」を具体的に見せるように心掛けてください。

最後に、以下の記述の問題点を述べておきます。

『経営者の市場』も小さい。PwCが16年、世界の主要企業のトップ交代を分析したところ、他社での勤務経験があるトップは日本企業で33%にとどまった。北米で82%、世界でも74%に達しており、企業を渡り歩く経営者の市場があることを裏付ける

他社での勤務経験があるトップ」の比率を比べても「企業を渡り歩く経営者の市場がある」かどうかは判断できません。それを知るためには「他社でも経営者としての経験があるかどうか」を調べる必要があります。

PwC」の資料を見ると「新任CEOの他企業でのCEO経験」というデータがあり、日本は9%で世界平均(21%)を大きく下回っています。「経営者の市場」を論じるのならば、こちらのデータを用いた方が良いでしょう。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「Deep Insight~日本株、浮かぶ3つの異質
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180718&ng=DGKKZO33064550X10C18A7TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はDを維持する。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

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