2018年7月16日月曜日

週刊ダイヤモンド「不妊治療最前線」野村聖子記者に異議あり

週刊ダイヤモンド7月21日号の特集2「全国136医療機関リスト付き 不妊治療最前線」は問題が多かった。筆者の野村聖子記者は「不妊治療」に関する思い込みが激しいようで、根拠の乏しい記述が目立つ。また、男性に一方的な負担を求める姿勢も気になった。
周囲が冠水した久留米アミューズメントビル
   (福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

ダイヤモンド編集部には以下の内容で問い合わせを送った。


【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 野村聖子様

7月21日号の特集2「全国136医療機関リスト付き 不妊治療最前線」の中の「35歳過ぎると男女共に妊娠率低下 素直に医療の力を借りよう」という記事についてお尋ねします。

<質問1>

35歳過ぎると男女共に妊娠率低下」と見出しで打ち出していますが、男性に関しては「35歳」を機に「妊娠率低下」と取れる記述が見当たりません。強いて言えば「年齢階層別の精液所見の平均値」というグラフが根拠となるのでしょうか。しかし、ここでの「年齢階層」は「40歳未満」「40~49歳」「50歳以上」の3つで、「35歳」では区切っていません。また「精子運動率」「精子数(1ml当たり)」「総運動精子数」を示しているだけで「妊娠率」との関係は不明です。

35歳過ぎると男女共に妊娠率低下」という見出しは、男性に関する根拠がないのではありませんか。少なくとも記事では、その根拠を示していません。ちなみに日本生殖医学会のホームページには「最近の報告の中には女性と同様、男性でも35歳を過ぎると生殖補助医療による出産率が低下するとするものもみられています」との記述はあります。ただ、「妊娠率」ではなく「生殖補助医療による出産率」に関するものですし、「低下する」と断定はしていません。


<質問2>

35歳過ぎると男女共に妊娠率低下」については、女性に関しても正確さに欠けると思えます。記事に付けた「女性の年齢による妊娠しやすさの推移」というグラフを見ると「20~24歳=100」「25~29歳=95」「30~34歳=85」「35~39歳=70」「40~44歳=35」「45~49歳=5」となっています(妊娠しやすさの数字はグラフから読み取った概数です)。このデータからは「(女性は)35歳過ぎると妊娠率低下」ではなく「20代後半から妊娠率低下」と言うべきでしょう。

グラフには「35歳から急に妊娠しづらくなる」と説明文を付けていますが、これもデータと合いません。このグラフで最も落ち込み幅が大きいのは「40~44歳」です。常識的に考えても、34歳と35歳で妊娠しやすさに大きな差があるとは思えません。

女性に関して「35歳過ぎると妊娠率低下」「35歳から急に妊娠しづらくなる」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。


<質問3>

次は以下の記述についてです。

右ページ左中図は、辻村医師の調査における、不妊症(1年以上避妊せずに通常の性生活を送っているにもかかわらず妊娠しない状態)ではない男性722人の精子濃度(1ミリリットル当たりの精子数)の内訳だ。

WHOが定める基準値以下で、自然妊娠が難しい患者が約1割もいたことに加え、「射出精液の中にまったく精子がない『無精子症』の人も2%いて、中にはこの検査をきっかけに婚約を解消したという男性もいます」(辻村医師)

不妊を意識したことがない男性の中にも、自然妊娠が難しい層がこれだけいる。

--ここからが質問です。

メンズヘルスクリニック東京で男性妊活外来を担当し、順天堂大学浦安病院泌尿器科教授でもある辻村晃医師」による調査を基に、「不妊を意識したことがない男性の中にも、自然妊娠が難しい層がこれだけいる」と野村様は解説しています。しかし、この「右ページ左中図」に付けた説明文には「これから妊活を開始する722人の精液検査結果」と書いてあります。だとすると「不妊を意識したことがある男性」を含めて調査をしているはずです。

不妊を意識したことがない男性の中にも、自然妊娠が難しい層がこれだけいる」との説明は誤りではありませんか。それとも「これから妊活を開始する722人の精液検査結果」という記述が間違いなのでしょうか。いずれも問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。


<質問4>

次は以下の記述についてです。

ちなみに、「うちの嫁は若いから大丈夫」と安心するのは早計だ。男性も女性ほどではないが、近年不妊に対する加齢の影響が指摘され始めている。

それを示したのが112ページ左下図だ。高齢になるほど、精子の数や運動率が下がっている。

「男は女と違って幾つになっても子づくりできる」と豪語するやからがいたら、このデータを見せるとよいだろう。

--ここからが質問です。

男は女と違って幾つになっても子づくりできる」とは思いませんが「112ページ左下図」のデータは「男は女と違って幾つになっても子づくりできる」との主張を否定するものではありません。

年齢階層別の精液所見の平均値」で「精子数(1ml当たり)」を見ると、最も高齢の「50歳以上」でも5000万を超えています。記事によると正常値は「1500万以上」なので問題ありません。「精子運動率」の正常値である「40%以上」もクリアしています。「112ページ左下図」のデータは「50歳以上」の平均的な男性でも「子づくりできる」根拠にはなるでしょう。しかし、男性の「子づくりできる」年齢に限界があるとは示していません。

「『男は女と違って幾つになっても子づくりできる』と豪語するやからがいたら、このデータを見せるとよいだろう」との説明は成立しないのではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。


<質問5>

間違い指摘ではありませんが、最後に「大規模な調査による客観的な統計がWHOから出ている以上、『不妊の原因の半分は男性』ということは重ねて強調しておきたい」という記述に絡む疑問点を述べておきます。「重ねて強調しておきたい」と言うぐらいですから「不妊は女性だけの問題ではない」と野村様は訴えたいのでしょう。それは分かります。なのに、特集の中にはおかしな説明が目立ちます。

例えば「不妊治療施設の選び方」では「妻の通いやすさが最優先」となっています。「不妊の原因の半分は男性」と述べて、男性不妊の治療にも触れているのに、なぜ「妻の通いやすさが最優先」となるのですか。夫が主に治療を受ける場合は「夫の通いやすさが最優先」でもおかしくないはずです。

夫婦仲炎上を防ぐ3カ条」の「その1、妻の愚痴は黙って聞く~アドバイスは求めていない、まずはいたわる一言を」も同様です。夫も不妊治療を受けることが珍しくないのに、なぜ一方的に夫が「妻の愚痴は黙って聞く」のですか。治療を受けている夫の愚痴を妻は聞かなくていいのですか。

男性不妊の治療も女性と同様に辛さはあるはずです。なのに「不妊治療施設の選び方」は「妻の通いやすさが最優先」となる上に、夫はひたすら「妻の愚痴を黙って聞く」立場だとすれば、あまりに哀れです。なぜ野村様は「夫婦が対等な立場で助け合って不妊の辛さを乗り越えていくべきだ」とは考えないのでしょうか。男女平等主義者である私から見ると、野村様の主張には納得できない部分がかなりありました。

問い合わせは以上です。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「35歳過ぎると男女共に妊娠率低下 素直に医療の力を借りよう
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/24001


※特集の評価はD(問題あり)。野村聖子記者への評価はDを維持する。

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