2018年7月19日木曜日

疑問だらけの日経「本田圭佑選手、VBファンド設立」

18日の日本経済新聞朝刊1面に載った「本田圭佑選手、VBファンド設立  米俳優ウィル・スミス氏と 110億円規模」という記事は、疑問だらけの内容だった。全文を見た上で具体的に指摘したい。
筑紫神社(福岡県筑紫野市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

サッカーの本田圭佑選手が米俳優ウィル・スミス氏と組み、月内にベンチャーファンドを設立する。日本で約1億ドル(約110億円)を集め米国を中心に創業したての有力スタートアップ企業に投資する。両氏の人脈を活用して、これまで日本からはアプローチが困難だったスター企業の卵を発掘する。

名称は「ドリーマーズ・ファンド」。野村ホールディングスも参画し、日本の機関投資家や大口の個人投資家から資金を募る。企業価値10億ドル以上の「ユニコーン」と呼ばれる企業は近年上場前の価値高騰が著しく、上場後の投資リターンが限定的になりつつある。いち早く投資するにはインナーサークルの情報が重要だが、日本からは接点が少ないのが実情だ

スミス氏の資産管理会社の投資責任者は米ウーバーテクノロジーズなどへの投資実績がある。本田氏もエンジェル投資家の顔を持ち、プログラミング教育やドローン事業などに資金を投じてきた。スミス氏の協力を得て「日本の投資家と海外企業の橋渡しをしたい」と語る。

投資先はスポーツや映画関連に限定せず、幅広く消費者向け製品・サービスに関わる事業を検討する。両氏が直接、投資先の面接を行うこともあるという。(本田圭佑氏のインタビューを電子版に▼ビジネス→スタートアップ)


◎疑問その1~本田選手の役割は?

記事を素直に読めば「ベンチャーファンドを設立する」のは「サッカーの本田圭佑選手」だ。しかし、役割がよく分からない。本田選手自身も資金を出すのか不明だ。「両氏が直接、投資先の面接を行うこともあるという」と書いてあるので、投資先の選定に多少は関わるのだろう。ただ、プロサッカー選手を続けながら投資先の発掘・選定で主導的な役割を果たせるとは考えにくい。

久留米高校前駅(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です
推測だが、「ファンドの主導権は『野村ホールディングス』が握り、本田選手は広告塔の役割を果たすのではないか。インタビュー記事の中には「野村ホールディングスが主力投資家として参画」との記述がある。仮に本田選手の出資がゼロかわずかで、「主力投資家」が「野村ホールディングス」であれば、「ベンチャーファンドを設立する」主体は本当に本田選手なのかとの疑問も浮かぶ。

ちなみに、インタビューで「今回のファンドの中で本田選手の役割はサッカーでいうとどんなポジションでしょうか」と聞かれて、本田選手は「全員が選手で、僕が悪ガキ大将。信頼できるチームで、今後しっかりと価値を見せられたらと思う」と述べている。これだけでは何とも言えないが、少なくとも自らが主導的な役割を果たすとは述べていない。


◎疑問その2~「インナーサークルの情報が重要」?

「(米国の)創業したての有力スタートアップ企業」に「いち早く投資するにはインナーサークルの情報が重要」と記事では書いている。これは怪しい。「インナーサークル」とは「権力中枢部の側近。組織内で実権を握る少数の人々」(デジタル大辞泉)という意味だ。記事では具体的にどういう人を想定しているのか分からないが、「スタートアップ企業」とは、そんなにこっそり事業展開するものなのか。

投資先はスポーツや映画関連に限定せず、幅広く消費者向け製品・サービスに関わる事業を検討する」と記事では書いている。そうした企業が「インナーサークル」の外に存在を知られず事業展開するのは難しいだろう。

「この会社面白そうだな」と思ったら、出向いて出資の交渉をすれば済む話だ。カネを出してもらうのは大変だが、ファンドは資金を与える側だ。「接点」を持つのに「インナーサークル」の協力が欠かせないとは考えにくい。

しかも、記事から判断すると「インナーサークル」の一員としては「米俳優ウィル・スミス氏」を想定しているはずだ。「スミス氏の資産管理会社の投資責任者は米ウーバーテクノロジーズなどへの投資実績がある」とは書いてある。だが「スミス氏」や「投資責任者」が米国のスタートアップの世界で「権力中枢部の側近。組織内で実権を握る少数の人々」に当たると言える根拠は示していない。


◎疑問その3~投資対象は絞ってる?

投資先はスポーツや映画関連に限定せず、幅広く消費者向け製品・サービスに関わる事業を検討する」と1面の記事では書いている。一方インタビューでは「消費者向け事業を展開するスタートアップ企業に対して強みを発揮できると思う。ただ投資業種は絞っていない」と本田選手が語っている。

全く「投資業種は絞っていない」のか、「消費者向け製品・サービスに関わる事業」に絞り込んでいるのか分かりにくい。「消費者向け製品・サービスに関わる事業」の中でどの「業種」にするかは「絞っていない」という話ならば矛盾はないが、2つの記事からは何とも判断できない。


◎疑問その4~「金融の慣習にとらわれない」とは?

インタビューで本田選手は以下のように述べている。

エンジェル投資は自己資金だったが、今度立ち上げるドリーマーズ・ファンドは結果に責任を持たなければならない。キャッチフレーズは、『take back freedom(自由を取り戻せ)』。旧来の金融業界の慣習にとらわれない新たなベンチャーファンドとして挑戦したい

しかし、具体的にどう「旧来の金融業界の慣習にとらわれない」のは不明だ。「ドリーマーズ・ファンドは結果に責任を持たなければならない」と述べているので、最低利回り保証を付けるといった方式になるのかもしれないが、推測の域を出ない。1面の記事では「旧来の金融業界の慣習にとらわれない」かどうかに関する記述自体がない。

本当に「旧来の金融業界の慣習にとらわれない新たなベンチャーファンド」になるのならば、そこは1面の記事で詳しく報じるべきだ。


※今回取り上げた記事

本田圭佑選手、VBファンド設立  米俳優ウィル・スミス氏と 110億円規模
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180718&ng=DGKKZO33064700X10C18A7MM8000

本田圭佑氏『金融の慣習にとらわれないファンドに』
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33067560X10C18A7000000/


※記事の評価はD(問題あり)。須賀恭平記者への評価は暫定でDとする。関口慶太記者への評価はDを維持する。

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