2018年7月28日土曜日

「リスク」と「債券」の説明に難あり 日経 田村正之編集委員

28日の日本経済新聞朝刊マネー&インベストメント面に田村正之編集委員が書いた「長期投資 GPIFに学ぶ 分散・リバランスが鉄則」という記事はいくつか説明に難があった。 具体的に指摘してみたい。
新渡大橋(佐賀県白石町)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

参考までに他の資産配分の例を図Bに示した。株式の比率を高めるほど期待リターンは高まる半面、リスクが増すことに注意が必要だ。全額を株式(国内40%、外国60%)とする右上の例でリターンは年6%でリスクは24%。このリスクの数値は、金融危機時のような歴史的な株安局面で1年間にその2倍(48%)くらいの値下がりが十分ありうることを表している



◎リターンは考慮しない?

上記の説明は間違いとは言えないが問題ありだ。まずは田村編集委員が2011年6月21日付で書いた記事の一部を見てみよう。この記事の説明は問題ない。

【日経の記事(2011年)】

1標準偏差は、統計学上、平均(期待リターン)の上下に68%の確率でちらばる値だ。積極型ポートフォリオの期待リターン6%、リスク13%というのは、要するに6%を中心にプラスマイナス13%(マイナス7%からプラス19%)の間に収まる確率が68%ということだ。

逆に言うと、マイナス7%を下回る確率も、残り32%の下半分、つまり16%あることになる。

イボットソンの小松原さんは「成績のブレは、慎重を期して『2標準偏差』まで想定していた方がいい」と話す。

グラフDで分かるように2標準偏差は95%の確率でそこに収まるという値。ポートフォリオAなら、2標準偏差はリスク13%×2の26%なので、期待リターン6%を中心にプラスマイナス26%(つまりマイナス20%からプラス32%)だ。

◇   ◇   ◇

28日の記事の「金融危機時のような歴史的な株安局面で1年間にその2倍(48%)くらいの値下がりが十分ありうる」というのは「2標準偏差」について述べているのだろう。だが、リターンを考慮していない。

2011年の記事では「期待リターン6%を中心にプラスマイナス26%(つまりマイナス20%からプラス32%)」とリターン込みで下落率を出している。「リターンは年6%でリスクは24%」という前提ならば「2標準偏差」を考える場合、「95%の確率でそこに収まる」下落率は「48%」ではなく「42%(リターン6%からマイナス48%)」となる。

2011年の記事ではきちんと説明できていたのに、忘れてしまったのだろうか。

問題はまだある。「金融危機時のような歴史的な株安局面で1年間にその2倍(48%)くらいの値下がりが十分ありうることを表している」と言われると「金融危機時のような歴史的な株安局面」でも「48%」を超えるような下落は想定しなくていいような印象を受ける。

2標準偏差」まで想定していても「95%の確率でそこに収まる」だけの話だ。裏返せば5%の確率でそこから外れる。「金融危機時のような歴史的な株安局面」であれば95%に収まらないと考えるのが自然だ。その時の下落率については何とも言えない。

次は「債券」に関するくだりを見ていく。

【日経の記事】

ちなみに国内債券の金利は現在ほぼゼロだ。今後もしも金利が上がって債券の価格が下がれば損失になる。当面は、価格変動リスクのない預貯金で代替するのが無難かもしれない。



◎「個人向け国債」でいいのでは?

今回の記事では個人投資家を想定しているはずだ。なのに上記のような説明をするのは解せない。
長崎県立諫早高校(諫早市)※写真と本文は無関係です

個人向け国債(変動10年)を選べば「今後もしも金利が上がって」も「損失になる」恐れはない(ここではデフォルトリスクを考慮しない)。変動金利なので金利上昇に伴って利回りも高まる。現在の金利は0.05%と高くないが、大方の定期預金は上回る。「預貯金で代替する」意義は感じられない。この辺りは田村編集委員も理解しているはずだが…。


※今回取り上げた記事「長期投資 GPIFに学ぶ 分散・リバランスが鉄則
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180728&ng=DGKKZO33476970X20C18A7PPE000


※記事の評価はC(平均的)。「金融業界の回し者」的な要素は今回の記事にも見当たらなかった。その点は評価したい。ただ、田村正之編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。田村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「購買力平価」に関する日経 田村正之編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_20.html

リバランスは年1回? 日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_1.html

無意味な結論 日経 田村正之編集委員「マネー底流潮流」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_26.html

なぜETFは無視? 日経 田村正之編集委員の「真相深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_24.html

功罪相半ば 日経 田村正之編集委員「投信のコスト革命」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_84.html

投資初心者にも薦められる日経 田村正之編集委員の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_64.html

「実質実効レート」の記事で日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_10.html

ミスへの対応で問われる日経 田村正之編集委員の真価(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_58.html)

日経 田村正之編集委員が勧める「積み立て投資」に異議
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_2.html

「投信おまかせ革命」を煽る日経 田村正之編集委員の罪(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_3.html)

運用の「腕」は判別可能?日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_21.html

「お金のデザイン」を持ち上げる日経 田村正之編集委員の罪
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_61.html

「積み立て優位」に無理がある日経 田村正之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_6.html

「金融業界の回し者」から変われるか 日経 田村正之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_26.html

「金融業界の回し者」日経 田村正之編集委員に好ましい変化
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_14.html

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