2018年5月23日水曜日

大げさ過ぎる? 日経ビジネス特集「中国発 EVバブル崩壊」

日経ビジネス5月21日号の特集「中国発 EVバブル崩壊」は期待の持てるタイトルではある。だが、読んでみると「バブル崩壊」はまだ起きていないようだし、筆者ら(池松由香記者と小平和良上海支局長)の考える「バブル崩壊」とは「ブームの沈静化」とでも呼ぶべきものらしい。全体として大げさ感は否めなかった。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

記事中に出てくる細かい問題点も含めて、編集部に問い合わせを送ってみた。筆者らへの質問と、それに対する回答は以下の通り。

【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 池松由香様 小平和良様

5月21日号の特集「中国発 EVバブル崩壊」の中の「PART 2 恥も外聞も捨てた欧米の戦略~『多軸化』で自動車ラインアップは無限大に」という記事についてお尋ねします。質問は以下の3つです。

<質問その1>

記事には独BMWのハラルト・クリューガーCEOの「エンジン、ディーゼル、PHV(プラグインハイブリッド車)……。これらのパワートレインの市場はこれからも残るし、我々にはこれらを提供し続ける責任もある」というコメントが出てきます。

気になったのは「エンジン、ディーゼル、PHV」と並べていることです。ここは「ガソリン、ディーゼル、PHV」あるいは「ガソリン車、ディーゼル車、PHV」とすべきではありませんか。「ディーゼル」は当然ながらディーゼルエンジンを積んでいます。なのになぜ「エンジン、ディーゼル」と並べたのでしょうか。

ちなみに記事中の図では「パワートレイン」の例示に「ガソリンエンジン」「ディーゼルエンジン」「PHV」が入っています。

付け加えると、訳語なしに「パワートレイン」を使うのには賛成できません。日経ビジネスの読者に限っても、広く知られた言葉とは言えないでしょう。

記事中の「これからは『生産のフレキシビリティー』がより重要になる」というクリューガーCEOのコメントにも似た問題を感じました。日本語に訳してコメントを使っているはずなので「生産の柔軟性」とでも訳せばいいのではありませんか。不必要な横文字を使わずに記事を書いてもらえると助かります。

<質問その2>

記事には「クルマの開発に影響を及ぼすこうした『多様化の軸』は、これまでは『車種』のみだった。ところが今後は、『パワートレイン』や『使われ方』といった新たな軸が加わり、メーカーが開発しなければならないクルマのラインアップ(種類)は掛け算で無限大に増えていく」との記述があります。

しかし「パワートレイン」は以前から多様化していたのではありませんか(「使われ方」も多様化してきたとは思いますが、話が長くなるので省略します)。トヨタ自動車がハイブリッド車「プリウス」を発売したのは20年以上も前です。歴史を遡れば、ディーゼルエンジンの登場もパワートレインが多様化した一例と言えそうです。「『多様化の軸』は、これまでは『車種』のみ」との説明は誤りではありませんか。


<質問その3>

BMWに関して記事では「EV事業の利益率は改善する見通しで、18年には全社で売上高に占めるEBIT(利払い・税引き前利益)の比率が8~10%になる見込み。この利益率向上のカギを握るのが~」と記しています。

8~10%」とは「BMW全体でのEV事業の売上高EBIT比率」だと思われます(EV事業ではなくBMWの全事業という解釈も可能です)。ただ、この数字だけでは「改善」が読み取れません。なのに「この利益率向上のカギを握るのが~」と受けて話が進んでいきます。

記事では、18年より前の年との比較が抜けているのではありませんか。それとも過去の利益率との比較は必要ないとの判断でしょうか。

さらに言うと「売上高に占めるEBIT(利払い・税引き前利益)の比率」ではなく「売上高に対するEBIT(利払い・税引き前利益)の比率」とした方が自然ではありませんか。「EBIT」は売上高の構成要素ではありません。例えば「売上高に占めるガソリン車の比率」であれば「占める」を使っても違和感はありません。今回の書き方だと「税収に占める防衛費の比率」と同じような不自然さがあります。

<PART 1に関する指摘>

PART 1 政府に踊らされるEVメーカー~中国で見えてきたバブル崩壊の予兆」という記事についても気になった点を述べておきます。記事に付けたグラフでは「中国の自動車業界は過去にも『バブル崩壊を経験』」と説明しています。「中国の新車販売の前年比伸び率が2.5%と前年の32%から急減速した11年」を指しているようです。

しかし、11年も低水準とはいえ販売は2.5%伸びています。これで「バブル崩壊」と言うのは苦しいでしょう。例えば、日経平均株価が一気に5万円に達する「バブル」が2019年に発生するとします。しかし、翌20年の上昇率は2%と急速に伸び悩みました。これを「バブル崩壊」と呼びますか。

中国の自動車業界は過去にも『バブル崩壊を経験』」と言うためには、市場の急激な膨張と収縮がセットで必要となるはずです。しかし「中国新車販売台数推移」からは「バブル崩壊」が感じられません。

特集ではEVに関して「『バブル崩壊』の予兆が見えてきた」と解説していますが、これもマイナス成長にはならない程度の「バブル崩壊」なのでしょうか。だとしたら、かなり大げさな感じは否めません。


【日経BP社からの回答】

日経ビジネスをご愛読頂き、ありがとうございます。ご質問に回答させて頂きます。

Part2に対するご質問について

<その1>

頂いた箇所のご指摘を真摯に受け止め、今後の記事の参考にさせて頂きたく存じます。


<その2>

多様化の軸がこれまでは車種のみだった、としたのは、自動車メーカーが今ほど、多種多様なパワートレインを開発段階から考慮しなければならない時代はなかった、と認識しているためです。ただ、より的確に表現する余地はあったかと考えております。

<その3>

ご指摘の通り、過去の利益率と比較した方が、説得力を増すことができたと考えます。以後、より分りやすく伝えられるよう努めていきたいと思います。


Part1に対するご質問について

中国の新車市場における年2%成長はバブル状態ではない、と考えております。

以上です。引き続き、日経ビジネスをご愛読頂きますよう、お願い申し上げます。

◇   ◇   ◇

結局、筆者らは「中国の新車市場」が32%増であれば「バブル」で、2%増であれば「バブル崩壊」と考えたようだ。「バブル崩壊」に明確な定義はないので「自分たちはそう思った」と言われれば、それまでではある。ただ、それを読者も納得してくれるかどうかは、しっかり検討する必要がある。

「これでバブル崩壊は苦しいだろ」と感じる自分のような読者が少数派であれば良いのだが…。

※今回取り上げた特集「中国発 EVバブル崩壊
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/051500983/?ST=pc


※特集の評価はD(問題あり)。池松由香記者と小平和良上海支局長への評価もDを据え置く。池松記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

 日経ビジネス池松由香記者の理解不能な「トヨタ人事」解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_9.html

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