2018年5月30日水曜日

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安

日本経済新聞の中村直文編集委員に解説記事を書かせるのは避けた方が良いのではないか--。30日の朝刊企業3面に載った「RIZAP社長『七顧の礼』 松本氏、会長職よりCOO選ぶ」という記事を読んで、そう思わずにはいられなかった。「三顧の礼どころではなく、七顧の礼だ」といった説明をするなとは言わない。しかし、使うのならば「三顧の礼」の故事がどんなものかきちんと調べた上で、RIZAPの件が「七顧の礼」に当たるかどうか検討してほしかった。
島原城(島原市)※写真と本文は無関係です

日経への問い合わせは以下の通り。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 編集委員 中村直文様

30日朝刊企業3面の「RIZAP社長『七顧の礼』 松本氏、会長職よりCOO選ぶ」という記事についてお尋ねします。記事では「RIZAPグループがカルビーの松本晃会長兼最高経営責任者(CEO)を、代表取締役最高執行責任者(COO)に迎え入れる。自らの自由を縛りかねない実力経営者をなぜ招いたのか」と問題提起した上で、以下のように説明しています。

瀬戸健社長にとって松本会長は憧れの経営者だった。最近になって松本会長を紹介された瀬戸社長は直近で7回も面会している。三顧の礼どころではなく、七顧の礼だ

三顧の礼」とは、中国の三国時代に蜀の劉備が諸葛亮を軍事として迎えるために3回訪問したという故事に基づく言葉です。1回目と2回目は諸葛亮が不在で、3回目にようやく会えたとされています。

7回目の訪問でようやく「面会」が実現したのであれば「三顧の礼どころではなく、七顧の礼だ」と表現するのも分かります。しかし「直近で7回も面会している」と中村様は説明しています。だとすると「七顧の礼」に当たらないのではありませんか。見出しでも「七顧の礼」を使っていますが、こういう使い方は誤用だと思えます。控えめに言っても、不適切な表現でしょう。

この後の記述にも疑問が残ります。

瀬戸社長は松本会長と会っても『RIZAPはここが足りないんです』『組織の規律が緩くて』など問題点をさらして、ほぼ聞き役に徹した。3月27日。瀬戸社長は橋渡し役であるグループの役員に松本会長の招請を指示する。これは偶然だが、松本氏がカルビー会長の退任を発表する日と重なっていた

記事の書き方から判断すると、7回の面会は「3月27日」より前のことであり、そこでは「経営陣に迎えたい」との意思を示していなかったはずです。だとすると、さらに「七顧の礼」とは言えなくなります。劉備が諸葛亮を訪問したのは、軍事として迎えるためです。「RIZAP」に関する話をあれこれ聞いてもらう目的ならば、7回の面会は「三顧の礼」にも「七顧の礼」にも当てはまらないはずです。

中村様の素直さにも問題を感じました。「直近で7回も面会している」のに、そこでは引き抜きの話を全くしなかったと言われても、個人的には信じる気にはなれません。「橋渡し役であるグループの役員に松本会長の招請を指示する」のも奇妙な話です。「瀬戸社長」は7回も「松本会長」に会っているのに、なぜか肝心なところは「橋渡し役であるグループの役員」に任せてしまいます。

これは偶然だが、松本氏がカルビー会長の退任を発表する日と重なっていた」と本当に信じたのですか。引き抜きがあったと見られないために、「3月27日」に初めて人事の話をしたとRIZAP側が説明するのは理解できます。それを額面通りに受け取りますか。疑うばかりが良い記者とは言えませんが、この不自然さを何ら疑わないでRIZAP側の説明をそのまま読者に伝えてしまうようでは、読む側としては不安が募ります。

付け加えると「ほぼ聞き役に徹した」はずなのに「瀬戸社長は松本会長と会っても『RIZAPはここが足りないんです』『組織の規律が緩くて』など問題点をさらして」います。これだと、瀬戸社長がかなり積極的に話しているように見えます。「ほぼ聞き役に徹した」と伝えたいのであれば、松本会長が一方的に話した様子を描写すべきでしょう。

問い合わせは以上です。「七顧の礼」に関しては回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社の一員として、掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「RIZAP社長『七顧の礼』 松本氏、会長職よりCOO選ぶ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180530&ng=DGKKZO31127110Z20C18A5TJ3000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを据え置く。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

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