原田駅(福岡県筑紫野市)※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
米A・T・カーニーが世界128都市のイノベーションの起こしやすさなど成長性を評価した調査によると、17年の1位はサンフランシスコ、2位がニューヨーク。米国の都市に次いで、前年から10も順位を上げ3位に入ったのがパリだ。
中略)翻って高齢化が進む日本。スタートアップ支援の機運はあるがライバルに比べ存在感を示せていない。A・T・カーニーの調査では、パリとは対照的に東京は23位と4つも後退した。これ以上遅れるわけにはいかない。
◎ご都合主義が過ぎるような…
記事では「A・T・カーニー」の調査について「イノベーションの起こしやすさなど成長性を評価した調査」と説明している。これがまず苦しい。
同社の資料を見ると、東京が23位となったのは「グローバル都市展望」で、これは「個人の幸福」「経済」「イノベーション」「ガバナンス」の4分野を評価して都市としての「将来の潜在的能力を予測する」ものだ。「成長性を評価した」と言えるか微妙だ。
「スタートアップ支援」について論じるために使うならば「イノベーション」を抜き出した方が適切だと思える。ちなみに資料に出てくる上位25都市のうち「イノベーション」だけをグラフで見ると、東京は10位前後に見える。128都市中で10位前後ならば、かなり優秀だ。
しかも、この調査は「グローバル都市展望」と「グローバル都市指標」で順位を出しており、「グローバル都市指標」で東京は4位。両方で25位以内の都市を「A・T・カーニー」は「グローバルエリート」と呼んでおり、アジアで入っているのは東京とシンガポール(展望11位、指標4位)だけだ。
「パリとは対照的に東京は23位と4つも後退した」のはウソではないだろうが、「これ以上遅れるわけにはいかない」と危機感を持つべき調査結果だとは思えない。
さらにご都合主義的だと感じたのが、ドバイに関してランキングに触れていない点だ。記事では冒頭から以下のようにドバイを取り上げている。
【日経の記事】
電気自動車(EV)やロケットで新境地を切り開いた米国の起業家、イーロン・マスク氏が注目する都市が中東にある。
「脱石油改革」にまい進するアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ。マスク氏は時速千キロメートル超の超高速輸送システム「ハイパーループ」の実証の地の一つに選んだ。
呼び水が2016年にムハンマド首長の肝煎りで生まれた「ドバイ・フューチャー・アクセラレーター」(DFA)だ。新技術に必要な規制緩和や金融支援などを通じ、将来の経済のけん引役になるスタートアップの誘致、育成を狙う。
「イノベーションは競争に勝つカギ。アイデアを持つ者が最大限の力を発揮できる環境を提供する」。DFAを運営するアブドルアジズ・ジャジリ副最高経営責任者(CEO)は語る。
DFA参加企業は112社で4分の3が政府関連組織と事業開始の覚書を交わした。アジア勢も集い、中国のアレスカ・ライフ・テクノロジーズは水や電力の消費量が少ない農業システムを開発中。ドバイは自国発産業の育成、輸出に本気だ。
◇ ◇ ◇
「ドバイは自国発産業の育成、輸出に本気だ」と書いているが、「A・T・カーニー」の調査でドバイがどうなっているのかには触れずにパリの話に移っている。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です |
調べてみると、ドバイは「グローバル都市展望」でも「グローバル都市指標」でも25位以内に入っていない。記事では東京に関して「スタートアップ支援の機運はあるがライバルに比べ存在感を示せていない」と言っている。これが当てはまるのはドバイの方ではないか。「自国発産業の育成、輸出に本気」になっているのに、ランキングでは圏外なのだから。
その辺りは都合が悪いので触れなかったのか。だとすれば、まさにご都合主義だ。「海外は頑張っているし、先進的だ。それに比べて日本は遅れている」という前提で記事を作り過ぎていないか、もう一度よく考えてみてほしい。
※今回取り上げた記事「スタートアップ大競争 都市は競う(上) パリからの逆襲 『起業力』は国家なり」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180514&ng=DGKKZO30439920T10C18A5MM8000
※記事の評価はC(平均的)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。
ダブリンは首都でも「辺境」? 日経「スタートアップ大競争」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_15.html
登場人物の「瞬間移動」が気になる日経「スタートアップ大競争」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_16.html
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