2018年5月27日日曜日

日経 原欣宏記者「衣料、起死回生の大型店」の問題点

27日の日本経済新聞朝刊総合5面に載った「衣料、起死回生の大型店~通販に対抗、雑貨も販売 マックハウス、広さ倍以上の90店」という記事には色々と問題を感じた。まず見出しの「起死回生」が大げさだ。「起死回生」とは「滅びかけているものや絶望的な状態のものを、立ち直らせること」(デジタル大辞泉)という意味だ。衣料品市場が「滅びかけて」いたり、取り上げた企業が経営破綻の瀬戸際にいたりするのならば「起死回生」でいい。今回の記事では「マックハウスは18年2月期決算で最終赤字に転落するなど、苦境が目立つ」などと書いている程度で「絶望的な状態」と言うほどではない。
甘木公園の噴水と桜(福岡県朝倉市)
           ※写真と本文は無関係です

次は、記事の柱に据えた「マックハウス」の話を見てみよう。

【日経の記事】

カジュアル衣料品大手が店舗の大型化を進める。マックハウスは従来の2~5倍の広さを持つ店舗を3年間で約90店開くほか、しまむらは年間出店数の約1割を大型店に充てる。かつて低価格を武器に成長した各社は、ネット通販の台頭などを背景に苦戦が続く。生活雑貨など洋服以外の商品も販売できる大型店を拡大し、収益のてこ入れやブランドの立て直しを急ぐ。

マックハウスは4月末、新しい商業施設「コロワ甲子園」(兵庫県西宮市)に大型店を開設した。面積は約1500平方メートルと通常の5倍以上。従来は店舗内に低価格な衣料品が所狭しと並んだが、新店舗はゆとりのある空間が広がる。

主力の衣料品に加え、女性向け化粧品や生活雑貨、靴などの商品を充実させた。290円からと低価格のアクセサリー売り場も用意。10代女性でも手の届く価格設定で、若い顧客層の取り込みや子供連れの来店客の「ついで買い」を誘う。

中略)各社が店舗の大型化で狙うのは、新たな需要開拓や収益のてこ入れだ。マックハウスは岩手県にある従来型の2店を閉め17年6月に隣接地で大型店を開業。足元の販売は好調で、閉店した2店の合算額の約7割の増収を見込む


◎新しい話ではない?

マックハウスは4月末、新しい商業施設『コロワ甲子園』(兵庫県西宮市)に大型店を開設した」との説明を読んで、最初はこの店がマックハウスにとっての初の大型店かと思ってしまった。しかし、読み進めると「マックハウスは岩手県にある従来型の2店を閉め17年6月に隣接地で大型店を開業」と出てくる。だとすると「店舗の大型化」は以前から進めてきた策になる。

だったら、今は大型店がどのくらいあって、これまでにどの程度のペースで出店してきたのかを説明すべきだ。「従来の2~5倍の広さを持つ店舗を3年間で約90店開く」というだけでは、これまでの「店舗の大型化」との比較ができない。

足元の販売は好調で、閉店した2店の合算額の約7割の増収を見込む」との説明も引っかかる。売り場面積の変化が分からないと「好調」かどうかは判断できない。例えば「閉店した2店」の売り場面積合計の2倍の広さを持つ店を出したのに「7割の増収」となった場合、「好調」と評価するのは無理がある。

ついでに言うと、「約7割の増収を見込む」のがどの期間なのか明示していないのも好ましくない。

しまむらとアダストリアの事例にも注文を付けたい。

【日経の記事】

しまむらは2017年12月、JR京都駅前に1500平方メートルの面積を持つ「ファッションセンターしまむら」を出店。豊富な品ぞろえに加え、今後芽の出る可能性のある商品を置く実験の場と位置付ける。同社の北島常好社長は主力業態について、年30~40店の新規出店の「1割程度を大型化したい」と話す。

アダストリアは3月、主力ブランド「グローバルワーク」の旗艦店を東京・渋谷に出した。店舗面積は約630平方メートルと、通常の店舗に比べ大型化した


◎説明が雑過ぎる…

しまむらも「JR京都駅前」に出した店が初の大型店であるかのような書き方だ。しかし、2010年に開業した港北東急 S.C.店(横浜市)も売り場面積は1500平方メートルあるようだ。だとすると、これまでの大型店の出店に触れる必要がある。今後は「1割程度を大型化」するとしても、過去との比較がなければ変化を読み取れない。
米軍佐世保基地(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

しまむらに関しては大型店の基準が読み取れないのも問題だ。「マックハウス」では明示してはいないが600平方メートル以上が大型店なのかなと推測できる。しまむらに関しては、ほとんど手掛かりがない。

これは「アダストリア」にも言える。大型店の基準が読み取れないだけでなく「東京・渋谷に出した」店の「630平方メートル」が大型店と言えるのかも不明だ。「通常の店舗に比べ大型化した」という情報はあるが、どの程度の大型化なのかも教えてくれない。

店舗の大型化を進めていく一環なのかも判然としない。単に旗艦店だから広くしたとの可能性も残る書き方だ。「アダストリア」に関しては、事例が足りないので無理して突っ込んだとの疑いが捨て切れない。

アダストリア」だけ「店舗面積」になっているのも解せない。マックハウスとしまむらに関しては単に「面積」と記している。これは「売り場面積」だと推測できる。

記事で「店舗面積」と「売り場面積」の両方を用いるのならば、そこはきちんと明示して、2つの「面積」がどう違うのかも説明すべきだ。

結局、記事で取り上げた3社に関する説明に雑さが目立ち、説得力がなくなっている。市場環境の解説も大事だが、まとめ物の記事では事例の丁寧な紹介が第一だ。今回の記事はそれができていない。


※今回取り上げた記事「衣料、起死回生の大型店~通販に対抗、雑貨も販売 マックハウス、広さ倍以上の90店
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180527&ng=DGKKZO31017840W8A520C1EA5000


※記事の評価はD(問題あり)。原欣宏記者への評価も暫定でDとする。

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