南蔵院の釈迦涅槃像(福岡県篠栗町)※写真と本文は無関係 |
取材班には以下の内容で問い合わせを送った。
【日経への問い合わせ】
日本経済新聞社 阿部貴浩様 三木朋和様 寺井伸太郎様 岡田達也様 野口和弘様 長谷川雄大様 丸山大介様 田口翔一朗様
31日朝刊1面の「連続最高益 その先へ(下) 巨人の背中は遠く 大型M&Aで世界に挑む」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下の記述です。
「日本の成長投資は十分とは言い難い。現金を稼ぐ力を示す『営業キャッシュフロー』は前期で63兆円。10年前より3割増えたがM&Aなど投資に使う『投資キャッシュフロー』は49兆円で1割増にとどまる。利益を使い切れず総資産に占める自己資本の比率は40.8%と初めて4割を超えた」
ここで言う「キャッシュフロー」は何を指すのでしょうか。まず「キャッシュフローの黒字額」だとしましょう。「営業キャッシュフロー」には問題ありません。ただ、「投資キャッシュフロー」では辻褄が合いません。「1割増にとどまる」との説明からは「投資の増加に伴い投資キャッシュフローの黒字も低水準ながら増えている」と読み取れます。しかし、投資増加は「投資キャッシュフロー」の黒字額の減少要因です。投資キャッシュフローの黒字額を増やすには投資抑制や資産売却が必要になります。
次に、記事で言う「キャッシュフロー」とは「キャッシュフローの赤字額」だとしましょう。この場合は逆に「営業キャッシュフロー」の説明が成り立たなくなります。「キャッシュフローのうちのキャッシュインの部分だけをキャッシュフローとして抜き出している」といった可能性も考慮しましたが、やはり「営業キャッシュフロー」と「投資キャッシュフロー」のどちらかの説明が成立しません。
推測ですが「営業キャッシュフロー=営業キャッシュフローの黒字額」「投資キャッシュフロー=投資キャッシュフローの赤字額」との前提で記事を書いたのではありませんか(営業キャッシュフローのキャッシュインと投資キャッシュフローのキャッシュアウトだけを抜き出した可能性もあります)。だとすると、記事の説明は不十分かつ不正確です。どう理解すればよいのか教えてください。
付け加えると、「利益を使い切れず総資産に占める自己資本の比率は40.8%と初めて4割を超えた」との説明も理解に苦しみました。「利益」による資金を投資に使おうが、寝かせておこうが、自己資本比率には原則として中立なのではありませんか。投資の失敗が自己資本を減らし、投資の成功が自己資本を増やす役割を果たすので、結果として自己資本比率を変動させるかもしれません。ただ、成功する場合も失敗する場合もあります。現金で持っていれば成功も失敗もないと考えると、「中立」と見るのが妥当でしょう。
29日の(上)に関する問い合わせにも回答をお願いします。ROEに関して記事では「15%前後ある米欧企業」と説明していますが、欧州は約10%で既に日本が追い付いているのではないかとの内容です。
御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。
◇ ◇ ◇
「利益」から得られる資金を投資に回して失敗すれば、損失計上に伴って自己資本比率は低下するかもしれないが、望ましい姿ではない。投資が成功して利益を積み増してしまうと、自己資本比率が高まりやすくなる。
損失を出さずに自己資本比率を低下させたかったら、借入金などの他人資本を増やすか、配当などで自己資本を減らすかしかないと思えるのだが…。
◇ ◇ ◇
追記)結局、回答はなかった。
※今回取り上げた記事「連続最高益 その先へ(下) 巨人の背中は遠く 大型M&Aで世界に挑む」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180531&ng=DGKKZO31181590R30C18A5MM8000
※記事の評価はD(問題あり)。取材班の最初に名前が出てくる阿部貴浩氏を連載の責任者だと推定し、同氏への評価を暫定でDとする。
※今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。
米欧のROEは「15%前後」? 日経の2本の記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/roe15.html
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