常盤高校(北九州市)※写真と本文は無関係です |
まずは最初の事例を見ていく。
【日経の記事】
「米テスラを超えてみせますよ」。電気自動車(EV)を開発するGLM(京都市)の小間裕康社長の野心的な計画に128億円を投じたのは、香港の投資会社オーラックスホールディングスだった。今年8月のことだ。
想定価格4000万円の超高級スポーツEVを開発するGLMは、2010年設立の京都大学発のスタートアップ。海外の大手自動車メーカーも資本参加に意欲を示した気鋭の新興企業だが、日本勢の反応は鈍かった。「投資提案はせいぜい数十億円。投資判断も遅かった」(小間社長)
◎香港の投資会社の判断が正しい?
「電気自動車(EV)を開発するGLM(京都市)の小間裕康社長の野心的な計画に128億円を投じた」香港の投資会社の判断が正しくて、「投資提案はせいぜい数十億円。投資判断も遅かった」日本勢は的確に行動できなかったとの前提を感じる。そうかもしれないが、記事にはそれを裏付ける根拠が見当たらない。
EVは大手自動車メーカーも力を入れており、それほど画期的ではない。「4000万円の超高級スポーツEV」にも大した驚きはない。また、価格から考えて市場規模は非常に小さいはずだ。なのに買収金額は「数十億円」より「128億円」が適正だと取材班が考えているのならば、その根拠を示してほしかった。
次に移ろう。
【日経の記事】
いつの時代も、イノベーション(革新)は常識やしがらみにとらわれない新興勢力がけん引する。革新力の衰えを自覚する日本の産業界でも「オープンイノベーション」を掛け声にスタートアップとの連携が広がるが、どうもちぐはぐだ。大企業がスタートアップを買収せず、少額出資を繰り返すばかりなのだ。
米グーグルは01年以降に約200社、月1社のペースでスタートアップを含む企業を買収してきた。事業を売った起業家は新たなスタートアップの担い手となる。テスラを率いるイーロン・マスク氏は24歳の時に起業したソフト会社を大企業に売却した。得た資金で設立した次の会社を起点に「シリアルアントレプレナー(連続起業家)」の道を歩んでいる。
◎少額出資はなぜ「ちぐはぐ」?
「大企業がスタートアップを買収せず、少額出資を繰り返すばかり」だとして、それがなぜ「ちぐはぐ」なのか。例えば「スタートアップに資金を入れるならば経営権を握らなければ意味がない」と大企業が考えているのに「少額出資を繰り返す」としたら、「ちぐはぐ」だ。だが、そうした話は出てこない。「少額出資」だと「オープンイノベーション」が実現できないとも考えにくい。
筑後川と耳納連山(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
大企業は「事業を売った起業家」が「新たなスタートアップの担い手となる」ことを期待して、資金を出すわけではない。「少額出資を繰り返すばかり」かどうかも疑問だが、仮にそうだとしても記事からは「ちぐはぐ」さが感じられない。
今回の記事で最も引っかかったのが以下のくだりだ。
【日経の記事】
日本の常識では、スタートアップは新規株式公開(IPO)で資金を手に入れる。創業者の晴れ舞台で、支え手のベンチャーキャピタル(VC)も潤う。だが小粒で上場した結果、手堅く利益を確保することに追われ、大きく成長しない例が多い。VCの投資回収の8割以上が大企業による買収である米国と対照的だ。
◎そんな常識ある?
「日本の常識では、スタートアップは新規株式公開(IPO)で資金を手に入れる」と書いているのには驚いた。そんな常識が本当にあるのか。百歩譲ってあるとしても「スタートアップ」の段階で上場に辿り着ける会社はごくわずかだろう。
鳥栖プレミアム・アウトレット(佐賀県鳥栖市) ※写真と本文は無関係です |
「スタートアップ」の経営者が資金調達を考える時に「自分たちはスタートアップだから、まず上場して資金を得なくては」と言い出したら、経営者としてはかなり危険な感じがする。
それに記事ではIPOによって「支え手のベンチャーキャピタル(VC)も潤う」と書いている。だったら、その企業はIPOの前にVCから「資金を手に入れ」ているはずだ。「スタートアップはIPOで資金を手に入れる」のが常識ではなかったのか。
米国との比較にも疑問が残る。まず「VCの投資回収の8割以上が大企業による買収である米国と対照的だ」と言うが、日本に関する具体的な数値がない。これでは「米国と対照的」かどうか判断できない。
さらに言えば、IPOによる投資回収がダメで、大企業に買収してもらって投資を回収するのが好ましいとの考えにも賛同できない。IPOだと「大きく成長しない例が多い」のに、大企業に買収してもらうと大きく成長する例が多くなるのか。だとしたら記事中でデータを示すべきだ。
取材班の主張が正しいのならば、上場基準を厳しくして十分に成長した段階でしか上場できないようにすればいい。それが好ましい姿だと本気で考えているのか。
記事には「いびつな起業小国」という見出しが付いている。しかし、今回は牽強付会ばかりが目立ち、「いびつ」さは伝わってこなかった。
※今回取り上げた記事「ニッポンの革新力~活路はどこに(4)いびつな起業小国 マネー生かし新陳代謝」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171104&ng=DGKKZO23029360S7A101C1MM8000
※記事の評価はD(問題あり)
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