国道210号線沿いのコスモス(福岡県うきは市) ※写真と本文は無関係です |
まずは最初の事例を検証してみる。
【日経の記事】
神奈川県に無休から「定休3日」に切り替えながら、社員の平均年収を4割増やした老舗旅館がある。鶴巻温泉の「陣屋」だ。
「悪循環だった」。オーナーの宮崎富夫氏が経営を引き継いだ2009年、部屋は20室のみだが稼働率は40%台だった。団体客向けに宿泊料を9800円からに設定したが利益は出なかった。「平均単価を上げるしかない」。宮崎氏は14年2月から毎週火・水曜日を休館とし、16年1月からは月曜日も加えた。
一方で正社員を20人から25人に増やし、休館日の半日を研修や会議に充て、接客力向上に努めるとともに食事も改めた。その結果、平均客単価は4万5000円にまで上昇。稼働率も80%に高まり、社員の平均年収は288万円から398万円と4割増えた。
製造業に比べ非製造業の生産性は伸び悩む。日本生産性本部によると1995~2015年の実質労働生産性(就業者1時間当たり)は製造業で74%増えた一方、非製造業では運輸・郵便業が9%減、宿泊・飲食サービス業が5%減、建設業が2%減とそれぞれ落ち込んだ。
◎結局、労働生産性は向上?
「陣屋」の労働生産性がどうなったのか、上記の説明では何とも言えない。「社員の平均年収は288万円から398万円と4割増えた」との記述はあるが、労働生産性のデータは見当たらない。仮に1人当たり売上高で生産性を見るとすると、全体では増収になっていたとしても、「正社員を20人から25人に増やし」た影響で生産性が落ちている可能性も残る。「平均年収」を出す前に、「労働生産性」の数値を示すべきだ。
桜滝(大分県日田市) ※写真と本文は無関係です |
さらに言えば「平均客単価は4万5000円にまで上昇」という説明も感心しない。以前の「平均客単価」との比較がないからだ。記事の書き方だと「9800円」だった「平均客単価は4万5000円にまで上昇」したとの印象を受ける。しかし、「9800円」はあくまで「団体客向け」の最低価格のはずだ。
記事で取り上げた2つ目の事例でも「労働生産性」のデータは出てこない。
【日経の記事】
09年に発足したみちのりホールディングス(東京・千代田)はこれまでに経営環境が厳しい地方のバス会社6社を次々と傘下に収めながら、経営を立て直し、今では6社とも黒字だ。その中の一社である茨城交通(茨城県水戸市)ではICカードの導入や柔軟な価格戦略による増収効果で、10年度に在籍していた社員の平均年収は16年度までに24%増えた。
みちのりHDの親会社である経営共創基盤の冨山和彦最高経営責任者(CEO)は「労働集約的な産業こそ、生産性を劇的に向上できる」と断言する。
◎なぜ「平均年収」を前面に?
「みちのりHDの親会社である経営共創基盤の冨山和彦最高経営責任者(CEO)は『労働集約的な産業こそ、生産性を劇的に向上できる』と断言」しているらしい。ならば、「生産性を劇的に向上」させた実績を数字で見せてほしかった。
しかし、ここでも「社員の平均年収」に焦点を当てて、労働生産性に関する数値は出てこない。「みちのりHD」傘下の「茨城交通」が「増収」だとは記しているが、増収率は不明。社員数の推移も分からないので、1人当たりの売上高が増えているのかどうかさえ明確にはならない。
これだけ労働生産性の数字を出さないとなると、「陣屋」や「茨城交通」では実は労働生産性が向上していないのではと疑いたくなる。
※今回取り上げた記事「生産性考~危機を好機に(2)週3日休む旅館 非製造業こそチャンス」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171128&ng=DGKKZO23967340Y7A121C1MM8000
※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。
日本の労働生産性は「低下傾向」? 日経「生産性考」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_27.html
解雇規制緩和で生産性が向上? 日経「生産性考」の無理筋
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_83.html
「鍵は経営者」だとデータが物語らない日経「生産性考」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_36.html
「日本の高齢化は世界最速」? 日経「生産性考」取材班に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post.html
最後まで問題だらけの日経「生産性考~危機を好機に」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_2.html
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