2017年11月17日金曜日

日経 未来学面「2050年 オフィスが消える」に足りないもの

16日の日本経済新聞朝刊未来学面に載った「ポスト平成の未来学 第1部 若者たちの新地平 AI時代の働き方~好きな職 好きな所で」という記事の関連記事「2050年 オフィスが消える」に関しても、筆者らにメールで意見を送ったので、その内容を紹介したい。
耳納連山とコスモス(福岡県うきは市)
          ※写真と本文は無関係です

【日経に送った意見】

日本経済新聞社 若山友佳様 相馬真依様

16日の朝刊未来学面に載った「第1部 若者たちの新地平 AI時代の働き方~2050年 オフィスが消える」という記事に関して、意見を述べさせていただきます。まず、以下の記述に疑問を感じました。

ただ、2027年に予定されるJR東海のリニア中央新幹線の出現で、働く場と住む場の考え方が変わるかもしれない。延伸後の37年ごろには品川―大阪間は最短67分。普段は大阪に住んでリモートワークをし、必要なときだけ東京に出社する『リニア都民』誕生の可能性も

リニア中央新幹線の出現」で「働く場と住む場の考え方が変わるかもしれない」と本当に思いますか。「普段は大阪に住んでリモートワークをし、必要なときだけ東京に出社する」働き方は今でも可能です。「必要なとき」が週1日程度ならば、大した負担ではないでしょう。

また、「最短67分」は新幹線の静岡・品川間と同じぐらいです。東京と静岡の間でできることが東京・大阪間でもできるようになるだけで「働く場と住む場の考え方が変わる」とは思えません。

次に引っかかったのが以下の記述です。

場所が自由になると『働くことと、余暇や社会貢献活動などをする時間との境目もなくなる。会社に働かされている感覚が薄れ、仕事を含め自分の時間をどう有意義に使うかをもっと考えるようになる。人生の中でいつ働くかという選択も自由になる』と柳川氏は強調する。10代から働き、30代は子育てや学びに専念、40代からまた働くことも可能だ

まず、現状でも「10代から働き、30代は子育てや学びに専念、40代からまた働くこと」はできます。そうした選択をしている女性も珍しくありません。「東京大学大学院経済学研究科の柳川範之教授」は「(働く場所が自由になると)人生の中でいつ働くかという選択も自由になる」と主張しているようですが、なぜそう言えるのかよく分かりません。
天ケ瀬駅(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

既に述べたように、働く場所が自由であろうとなかろうと、経済的に余裕がある場合などは「人生の中でいつ働くかという選択」を自由にできます。一方、経済的に困窮している場合は、働く場所が自由になっても「いつ働くかという選択」が自由になるとは思えません。例えば、貯蓄はほぼゼロで3000万円の住宅ローンを抱えて子供3人と専業主婦の妻を養う必要のある年収500万円の30歳男性に、勤務先の上司が「働く場所は自由に決めていいよ」と告げたら「人生の中でいつ働くかという選択も自由になる」でしょうか。

記事で取り上げた「三菱総合研究所の亀井信一研究理事」の主張も理解に苦しみました。亀井氏は「場所と時間に縛られない働き方は、いっときに一人が複数の組織やプロジェクトに所属する『ピクセルキャリア』を加速する」と述べた上で「企業と個人の新しい関係を『プロ野球選手』に例え」ています。しかし、「プロ野球選手」は「場所と時間に縛られない働き方」とはかけ離れています。練習にしても試合にしても「場所と時間に縛られ」ます。

記事では「企業の雇用は、正社員で構成された年功序列・トップダウン型ではなく、個人が企業と契約、上司もいないフラット型に」とも書いていますが、プロ野球のチームは「上司もいないフラット型」ではなく「トップダウン型」の組織です。その意味でも「企業と個人の新しい関係を『プロ野球選手』に例える」のは無理があります。

「新たな働き方が広がり、それが社会を劇的に変える」と仮説を立てるのは悪くありません。しかし「これは本当にそんなに新しい動きなのか。似たような働き方はあったのではないか。新しい働き方だとしても、それが社会を大きく変えるほどのインパクトを持つのか」などと批判的・懐疑的に見る視点も欠かせません。今回の記事には、そうした視点が乏しい印象を受けました。

今後の記事に期待しています。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「2050年 オフィスが消える
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171116&ng=DGKKZO23514380V11C17A1TCP000

※記事の評価はC(平均的)。若山友佳記者と相馬真依記者への評価も暫定でCとする。「ポスト平成の未来学 第1部 若者たちの新地平」については以下の投稿も参照してほしい。

「シェア経済」に食傷を感じる日経「ポスト平成の未来学」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_9.html

「ピクセルワーカー」が魅力的に映らぬ日経未来学面の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_16.html

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