2017年11月24日金曜日

「若者たちの新地平」を描けていない日経「ポスト平成の未来学」

23日の日本経済新聞朝刊未来学面に載った「ポスト平成の未来学~第1部 若者たちの新地平 言葉の壁が消える 通訳・翻訳 AIにお任せ」という記事は苦しかった。「若者たちの新地平」を描くべきなのに、「AIが変える未来」とでもタイトルを付けたくなる内容だ。「若者たちの新地平」というテーマの設定自体に無理があって、ネタ切れになってきているのかもしれない。
だんごあん(福岡県朝倉市)
    ※写真と本文は無関係です

今回も筆者らにメールで意見を送ってみた。その内容は以下の通り。

【日経に送った意見】

日本経済新聞社 矢野摂士様 伴正春様

ポスト平成の未来学~第1部 若者たちの新地平 言葉の壁が消える 通訳・翻訳 AIにお任せ」という記事について意見を述べさせていただきます。

まず、今回の記事は「若者たちの新地平」 を描けていません。近い将来に「通訳・翻訳」で「AIにお任せ」が可能になり「言葉の壁が消える」としても、その影響は「若者」だけに及ぶ訳ではありません。中高年にも同じようなインパクトを与えます。「若者たちの新地平」とのタイトルを付けたのですから、中高年ではない「若者たちの新地平」を描写すべきです。

次に「テレパシージャパン(東京・中央)の『テレパシーウォーカー』」についてです。記事では「テレパシーウォーカー」を「通訳いらずになる可能性を秘めたデバイス」と紹介しています。本当にそうでしょうか。

L字型のデバイスがついたメガネ」をかけて「定食屋のお品書き」の「『刺盛り御膳』を眺めていると、突然『Raw Fish Bowl Set』と表示された」と筆者は記しています。将来は「AIで文字認識して翻訳を表示できるように」なるとしても、それだけでは「通訳いらず」は実現しません。音声に対応していないからです。なのに「通訳いらずになる可能性を秘めたデバイス」と言えますか。

3つ目の問題に移りましょう。今回の記事では、AIなどの発達によって「英語を含め、母国語以外の言語に悩まなくなる未来は、すぐそこにある」と言い切っています。これは「小学校の英語教育、20年から本格化」という関連記事の内容と矛盾します。

関連記事では「2020年は英語教育の節目になる。小3から英語学習が始まり、小5では正式教科になるからだ。世界で活躍できる人材を育てようと、議論の末に国が早期教育を決めた」と解説しています。「小3から英語学習が始まり、小5では正式教科になる」のに、「英語を含め、母国語以外の言語に悩まなくなる未来は、すぐそこにある」と言えますか。近未来の若者は受験のために英語を学ぶ必要もなくなるのなら「母国語以外の言語に悩まなくなる未来」が訪れそうな気はしますが、そうはなりそうもありません。
筑後川(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です

関連記事では、以下の記述の理解に苦しみました。

そしてAIによる自動翻訳の存在感が急速に高まっており、江利川教授は『英語学習は大きく変わるだろう』と話す。即時通訳ができれば、細かい単語を覚えたり逐次訳を考えたりする必要はなくなり、多言語の習得も容易になる

即時通訳ができれば、細かい単語を覚えたり逐次訳を考えたりする必要はなくな」るのは分かります。問題は「多言語の習得も容易になる」という説明です。「習得」の水準を英語で言うとTOEIC800点程度としましょう。AIを使って「即時通訳ができれば」本当に「多言語の習得も容易になる」と思いますか。TOEIC800点を達成した上で、フランス語やドイツ語でも同レベルの「習得」を目指す場合、その難しさはAIで「即時通訳」ができるようになるかどうかと基本的に関係ありません。

足りないところはAIに助けてもらえるのでTOEIC600点程度でも「習得」と見なせば、「多言語の習得」は800点レベルを複数言語で目指すより簡単にはなります。しかし、それは今も昔も変わりません。AIによる「即時通訳」ができるようになるかどうかとは、やはり無関係です。「習得」の基準をどこに置くかの問題です。

第1部 若者たちの新地平」の中では、今回の記事が最も問題が多いと感じました。設定したテーマに忠実に記事を仕上げられるようになってください。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事

ポスト平成の未来学~第1部 若者たちの新地平 言葉の壁が消える 通訳・翻訳 AIにお任せ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171123&ng=DGKKZO23832510S7A121C1TCP000


小学校の英語教育、20年から本格化
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171123&ng=DGKKZO23832610S7A121C1TCP000


※記事の評価はいずれもD(問題あり)。矢野摂士記者と伴正春記者への評価も暫定でDとする。

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