2017年11月12日日曜日

日経 太田泰彦編集委員のTPP解説記事に見える矛盾

日本経済新聞の太田泰彦編集委員が朝刊1面に書いたTPPに関する解説記事「保護主義の防波堤に」は苦しい内容だった。説明に矛盾も感じる。記事の中身を見ながら、具体的に指摘していく。
平塚川添遺跡公園(福岡県朝倉市)
       ※写真と本文は無関係です

まずは最初の段落に注文を付けたい。

【日経の記事】

世界経済の中心となった東アジアを舞台に、目に見えない陣取り競争が進んでいる。モノの貿易や投資だけでなく、経済価値の源泉となったデジタル情報を自国内に囲い込もうとする新たな保護主義との戦いだ。


◎東アジアが「世界経済の中心」?

世界経済の中心となった東アジア」と言い切っているのが、まず引っかかる。個人的には、米国が「世界経済の中心」だと思える。地域で言えば北米ではないか。GDPで見てもそうだが、太田編集委員自身も今回の記事で「モバイル決済などでグローバルなプレーヤーはアジアでアリババ集団と騰訊控股(テンセント)くらい」と書いている。それで「世界経済の中心」と言えるのか。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

11カ国の環太平洋経済連携協定(TPP)の本質がここにある。焦点は自動車や農産物などの市場開放でなく、21世紀型の通商ルールだ。情報の流れは国境を越えて自由であるべきではないか。その原則を多国間協定で定めた意義は重い。

米トランプ政権は2国間のモノの貿易赤字額をあげて、相手国に関税撤廃を迫る。20世紀型の通商政策に回帰する米国と対照的に、日本と東南アジア各国は、情報が主役のあすの通商を見据えていた。その気づきをもたらしたのは中国だ。

モバイル決済などでグローバルなプレーヤーはアジアでアリババ集団と騰訊控股(テンセント)くらい。いずれも自由な情報流通を遮断された「万里の長城」の内側にある中国企業である。

その中国は6月、「インターネット安全法」を施行。ネット企業に情報提供を求める権限を政府が握る。技術革新を生むビッグデータは中国内に蓄積し、政府の管理下に置かれる。ベトナムやタイなど、デジタル保護主義のドミノ現象がアジアに広がり始めている


◎矛盾しているような…

記事では「デジタル情報を自国内に囲い込もうとする新たな保護主義」と戦うのがTPPの「本質」だと解説している。だとすれば、参加11カ国に入っているベトナムは「デジタル保護主義」とは距離を置いているはずだ。しかし、なぜか「ベトナムやタイなど、デジタル保護主義のドミノ現象がアジアに広がり始めている」と矛盾した説明が出てくる。
つづら棚田(福岡県うきは市)
      ※写真と本文は無関係です

タイに関しても、問題なしとしない。「日本と東南アジア各国は、情報が主役のあすの通商を見据えていた」と書いてあると、タイを含めて「東南アジア各国」は「デジタル保護主義」に反対の立場だと思える。だが、太田編集委員によるとタイはベトナムとともに「デジタル保護主義」に傾いているという。これでは、どう理解すればいいのか分からない。

記事の終盤に移ろう。

【日経の記事】

中国の「一帯一路」構想は表看板こそインフラ整備だが、TPPに対抗する経済圏づくりの通商政策でもある。電子商取引などで独自ルールを築くのも狙いの一つだ。

ルールのひな型となるTPPは、どこまで世界に共有されるか。11カ国の経済圏は元の構想の3分の1にすぎない。空席をつくり米国の復帰を待つ期待感こそが、大筋合意の原動力だった。一帯一路に引き寄せられながらも、透明な競争による市場秩序を築きたい。浮かび上がったのは、アジア各国の本音である


◎TPPは「アジア各国」のもの?

TPPの参加国がアジアに限られるような印象を受ける書き方も気になった。「世界経済の中心となった東アジアを舞台に、目に見えない陣取り競争が進んでいる」「日本と東南アジア各国は、情報が主役のあすの通商を見据えていた」「浮かび上がったのは、アジア各国の本音である」などとアジアに焦点を当てているが、TPP参加国の中でアジアに属するのは日本、マレーシア、ベトナム、ブルネイ、シンガポールと半分に満たない。参加国の経済規模で言えば、日本以外で大きいのはカナダ、オーストラリア、メキシコなどアジア以外だ。もう少し、TPP参加国全体を見据えた解説記事を書いてほしかった。


※今回取り上げた記事「保護主義の防波堤に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171112&ng=DGKKZO23386590R11C17A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。太田泰彦編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。太田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

問題多い日経 太田泰彦編集委員の記事「けいざい解読~ASEAN、TPPに冷めた目」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/05/blog-post_21.html

日経 太田泰彦編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_94.html

説明不十分な 日経 太田泰彦編集委員のTPP解説記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_6.html

日経 太田泰彦編集委員の力不足が目立つ「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_18.html

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